大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

妹が憎たらしいのには訳がある・27『新型ねねちゃん』

2021-01-11 05:29:22 | 小説3

たらしいのにはがある・27
『新型ねねちゃん』
          

 

    

 一瞬分からなかった。

 一人は髪をショートにして眉の形を変えた向こうの世界の幸子だ。

 もう一人、パーカーのフードを取ったのは……ねねちゃんだ。

「審議会の結論は『サッチャンの力に頼らないで極東戦争を戦うこと』になったけど、こちらのグノーシスみんなが賛成してるわけじゃないの。だからセキュリティーの面からも、こちらのサッチャンといっしょにするほうが安全だということ」
「こちらでは、千草子(ちさこ)という名前で、従姉妹ということになります。チサって呼んでください」
 向こうの幸子……いや、チサが緊張した顔で言った。
「こちらは……」
「ねねちゃんの新しい義体?」
「里中副長へのお詫び」
「本当は、現状を変化させないため。ねねちゃんが一人いなくなったことのツジツマ合わせは大変だからなの。それよりも交換義体のわたしが来た方が合理的でしょ」
 にっこり言ってのけるねねちゃんは、その言ってる内容があまりに実用的なので面食らう。
「面倒かけるわね。ねねちゃんの引き渡しをお願いしたいの。わたしたちじゃ上手くいかないと思うから」
「ねねちゃんが、自分で行ったら(^_^;)?」
「その時点で、里中副長に破壊されるわ。もうすでに一体破壊された」
「どうして……」
「ハンスの実態は、破壊される寸前に他の義体に転送されたわ。今は行方不明。それに義体だったら、いつ誰がハッキングされるか分からない。里中副長はシビアだから、義体のねねちゃんと分かった時点で破壊するわ。だから、あなたに仲介してもらいたいの」
「このねねちゃんは、大丈夫なの?」
「大丈夫。里中副長がスキャンすれば、すぐに分かる。そこに行くまでに破壊されないように、よろしく」

 その日の内に、里中さんに連絡をとって会うことにした。こちらから出向くつもりでいたら、里中さんの方が来てくれることになった。

 お母さんも幸子も、チサちゃんといっしょに暮らせるようになって目を「へ」の字にして喜んだ。むろん幸子はプログラムモードの反応だけれど、高機動車のハナちゃんまで喜ぶと、単純なオレは嬉しくなってきた。

 里中さんは瞬間鋭い殺気を放った。ねねちゃんの姿を見たからだ。

「とにかく、スキャニングしてみてください!」
 美シリのミーに言われたとおりに叫んだ。里中さんの目が緑色になった。
「交通信号じゃないからな。OKサインじゃない。スキャニング中なんだ」
 里中さんも、一部義体化しているようだ。
 一瞬の沈黙のあと、里中さんは爆笑した。
「アハハハ……こりゃ、傑作だ!」
「な、何が可笑しいんですか?」
「太一、ねねの目を十秒見つめてみろ」
「え、ええ?」
 可愛いねねちゃんにロックオン(見つめられたってことだけど、表現としては、まさにロックオン)され、ドギマギした。ちょうど十秒たって、ボクはねねちゃんといっしょに目をつぶった。そして目を開けるとたまげた。俺の視界は二つにダブってしまっていた。ゆっくり視界は左右二つに分かれる。

「「え!?」」

 驚きの声がステレオになった。オレとねねちゃんが同時に叫び、里中さん以外のみんなが面食らった。
 視界の半分にねねちゃんが、もう半分にはオレが写っていた。両方同じような顔で驚いている。
「ねねの視界に集中して」
 里中さんに、そう言われ、ねねちゃんに集中した……オ、オレはねねちゃんになっていた。
「こ、これ、どうして……?」
 声がねねちゃんになっていて、さらにびっくり。視界の端にボーっと突っ立っている自分の姿が目に入る。
「お母さん、俺どうなったの?」
「え、ええ!?」
 お母さんが一歩引いて驚いている。幸子はなにか理解したように、チサちゃんはお袋同様。ハルは面白くてたまらないようにガチャガチャと車体を振動させた。
「もういいだろう」
 里中さんの一言で、俺の視界はもとに戻った。ニコニコしたねねちゃんが俺を見ている。
「十秒ほど、お兄ちゃんは、ねねちゃんになったのよ」
「このねねにインストールできるのは、太一、お前一人だ」
「ええ!?」
「このねねは、アナライザー義体だから、情報に関しては双方向。いろんなブロックをかけても、ハッカーの腕がよければ、ねねの人格を支配できる。成り代われると言ってもいい。そういう危険性のあるものなら、必要はない。だが、今の実験で分かったが、人格をインストル-できるのは、太一に限られている。つまりねねのCPの鍵穴は、太一の形をしていて、他のものは受け付けない仕掛けになっている」
「それって……」
「グノーシスにも、ジョ-クとセキュリティーの両方が分かる奴がいるみたいだな」
「なるほど……」
「でも、太一。言っとくけど、この鍵穴は、オレでなきゃ開かん。勝手にねねになることは許さないからな」
「そ、そんな趣味ないっすよ!」
 幸子は憎たらしく方頬で、みんなは遠慮なく爆笑した。
 

 義体だけど、ねねちゃんは本当に可愛い。幸子だって、プログラムモードなら、これくらいの可愛さは発揮できるのだが、自分で押し殺している。早くニュートラルな自分を取り戻したい一心なんだろう。そう思うと、このニクソサも、なんだか痛々しい。

 そして、俺がねねちゃんにならなければならない事件が、このあとに待っていた……。

 

※ 主な登場人物

  • 佐伯 太一      真田山高校二年軽音楽部 幸子の兄
  • 佐伯 幸子      真田山高校一年演劇部 
  • 千草子(ちさこ)   パラレルワールドの幸子
  • 大村 佳子      筋向いの真田山高校一年生
  • 大村 優子      佳子の妹(6歳)
  • 桃畑中佐       桃畑律子の兄
  • 学校の人たち     倉持祐介(太一のクラスメート) 加藤先輩(軽音) 優奈(軽音)
  • グノーシスたち    ビシリ三姉妹(ミー ミル ミデット) ハンス
  • 甲殻機動隊      里中副長  ねね(里中副長の娘) 高機動車のハナちゃん

 

 


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