鳴かぬなら 信長転生記
毘! 沙! 門! 天!
四つの合言葉が揃って、それでも十を数える。
長城の破れ三か所から五騎ずつ、わたしが率いる五騎は遥か嘉峪関、長城の尽きるところまで疾駆させ、この砦跡に揃った。
信長が妹の市と共に曹茶姫を三国志に送った。
茶姫をかくまったままでは、茶姫の兄・曹操に難癖をつけられ、いずれ扶桑は三国志を相手に大戦をしなければならない。
それを避けるために信長は先手を打った。はるか玉門関から三国志に潜り込み、三蔵法師の旅と偽って中原を目指している。途中で評判をとっておけば、魏・呉・蜀のいずれに入るにしても障害が少ない。
狙いは悪くはない。多少の障害や困難なら、あの信長なら問題は無いだろう。
しかし、三国志は広い。
予期せぬ障害や抵抗に遭うことは十分に考えられる。二宮忠八に協力させ、信玄と密かに三人の動向を追っていた。
案の定、西安近郊で怪しの叢雲が湧き上がった。
その規模は、玉門関の妖や羅刹女の比では無い。嘉峪関への途中で知った敦煌の仏教妖怪とも種を異にする。
わたしの予想が当たっていれば、それは、秦の始皇帝陵に副葬されていた兵馬俑の軍勢だ。
天下大乱の兆しを感じると、兵馬俑の軍勢は中原を駆けまわり、呪をかけ、あるいはリアルに顕現して兆しのうちに殲滅するという。
敵認定の基準は分からないが、扶桑からの侵入者、それも信長。正体が分かれば容赦はないだろう。
「お屋形様、二十騎全員そろっております」
十を数えると、愛ちゃんこと天組組頭の直江兼続が報告する。
「うむ、宇佐美、あれを」
「お使いになりますか?」
自慢のウサ耳を外すと掛け値なしの新潟美白美人の宇佐美定光が、袱紗に包んだシフォンケーキの型を取り出した。
「ああ、ここからはアマテラスの力を借りなければ詳細は掴めないからね」
「じゃあ、三人とも集まって」
「「「はい」」」
いい返事をして、直江、甘糟、柿崎、三人の組頭が集まり、宇佐美と四人でシフォンケーキの型に手を添える。
このシフォンケーキの型は学院の数名しか持っていない。
いろんな経緯があったけど、みんな御山のアマテラスから預けられている。一種の呪具なんだけれど、仮にもアマテラスから預かったものなので神具ということになる。
最近、信長も預けられたらしいけど、他人の型を見たり使ったりするのは禁止されている。
わたしの型は、まだ力が弱く、愛ちゃんたち上杉四天王の力を借りなければ、十分な能力を発揮しない。
四人の新潟美少女の手に温められ、シフォンケーキの型は信長たち三人の姿と三蔵法師、そして、勢いを増してきた兵馬俑の軍勢を浮かび上がらせた。
「敵も味方も元気なようね。愛ちゃん、あれやって」
「あ、アレですか(^_^;)」
「うん、姿だけじゃなくて、周囲の様子も探っておかなければね」
「はい、じゃあ、みんなも意識を集中させて」
「「「はい」」」
四人だけではなく、他の十六騎の者たちも真剣に意識を集中した。
「くわしくなーれ、くわしくなーれ、ラブ注入!」
ホワーーン
半径10キロあまりの3D映像が浮かび上がり、敵と味方の詳しい状況も映し出された。
さあ、ここから実際の作戦をたてるのは、毘沙門天の化身たる、この上杉謙信だわよ!
☆彡 主な登場人物
- 織田 信長 本能寺の変で討ち取られて転生 ニイ(三国志での偽名)
- 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
- 織田 市 信長の妹 シイ(三国志での偽名)
- 平手 美姫 信長のクラス担任
- 武田 信玄 同級生
- 上杉 謙信 同級生 配下に上杉四天王(直江兼続・柿崎景家・宇佐美定満・甘粕景持 )
- 古田 織部 茶華道部の眼鏡っ子 越後屋(三国志での偽名)
- 宮本 武蔵 孤高の剣聖
- 二宮 忠八 市の友だち 紙飛行機の神さま
- 雑賀 孫一 クラスメート
- 松平 元康 クラスメート 後の徳川家康
- リュドミラ 旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ 劉度(三国志での偽名)
- 今川 義元 学院生徒会長
- 坂本 乙女 学園生徒会長
- 曹茶姫 魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
- 諸葛茶孔明 漢の軍師兼丞相
- 大橋紅茶妃 呉の孫策妃 コウちゃん
- 孫権 呉王孫策の弟 大橋の義弟
- 天照大神 御山の御祭神 弟に素戔嗚 部下に思金神(オモイカネノカミ) 一言主