大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

真凡プレジデント・17《最初の決断》

2021-03-10 06:29:10 | 小説3

プレジデント・17

《最初の決断》  

 

 

 

 女子と言うのは気持ちが傾斜してしまうものなんだ。

 

 嫌いと思うと、相手の全てが許せない。そいつの言動ばかりじゃなくて、歩き方から息の仕方まで気に入らなくなる。

 逆に、好きになってしまうと、そいつがやることなすこと全てが素敵で肯定的なことのように思える。

 

「わたしで良ければやるわよ」

 

 この世の終わりみたいな気持ちで教室に戻ると、北白川さんが「なんかあった?」と聞いてくれ、ドーナツ型座布団(カバーがかかってるから普通の座布団に見える)に注意深く座りながら書記と会計の話をすると、ポンと胸を叩いて引き受けてくれた。

「なになに?」

 その時教室に戻って来たなつきも「橘さんもやってよ!」と、北白川さんに言われ、詳しく聞く前に引き受けてくれた。

「そんな、いっしょにお昼食べるみたいなノリで」

「お昼なら買ってきたよ、中谷先生に呼び出されてたみたいだったから」

 購買のレジ袋をデンと置いてくれるなつき。

「あ、ありがとう!」

 もう遠慮なんかいらない! スキーのジャンプ台みたいに傾斜した善意のスロープを滑り降りる。

 しかし、着地点を間違えた。

 うっかり隣の席に腰かけたものだから、断末魔のニワトリみたいな悲鳴が出てしまった。

 ギョエーーーー!!

 

 決まってしまってから悩んだ。

 

 書記の加藤さんと会計の吉田さんは居なくなったが、副会長の福島みずきさんが居る。

 わが一組とは正反対の校舎の端っこ、六組の人だ。

 同じ校舎でも生活圏は階段に寄って分かれる。二つ階段を隔てた六組とは、ほとんど行き来が無い。

 立候補を決めてから二度ほど顔を合わせたけど、あいさつ程度のやりとりしかない。わたしも彼女も自分のことで精いっぱいということもあるんだろうけど……、中谷先生が「会長が職務権限で欠員補充の者を指名」と言ったし、ありがたいことに北白川さんとなつきが前のめりに引き受けてくれたので飛んでしまっていた。

 福島さんにも相談すべきだった。最低でも声はかけるべきだったろう……。

 グズグズしているうちに放課後になってしまった。

 終礼もそこそこに六組にいこうと思ったが、認証式の時間が迫っている。二人もやる気満々なので、気後れしているうちに階段を下りて校長室に向かった。

「あ、田中さん」

 なんと、福島さんの方から声をかけてきてくれた。

「あ、あの……」

「そちらが書記さんと会計さんね」

「はい、わたしが書記の北白川。こちらが会計の橘さんです」

「どうぞよろしく。先生から聞いた時はビックリして、そいで、急きょ書記と会計を決めなきゃならない田中さんを気の毒に思って……正直、わたしが会長だったら、こんな急には対応できなかった。さすがプレジデントに相応しい人だと思った」

 福島さんの視線は、手に盛った座布団のPRESIDENTの刺繍を向いている。

「そうだ、わたし、こういうの好きだから、みんなの座布団作っていいかな?」

 

 新執行部の最初の決定事項は、おそろいの座布団を作ることになったのだ。

 

 ☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  田中 美樹    真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •  柳沢 琢磨    対立候補だった ちょっとサイコパス
  •  北白川 綾乃   モテカワ美少女の同級生 書記
  •  橘 なつき    入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き 会計
  •  橘 健二      なつきの弟
  •  福島 みずき   生徒会副会長
  •  藤田先生     定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生     若い生徒会顧問

 

 

 

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魔法少女マヂカ・201『憲兵大尉』

2021-03-09 09:48:52 | 小説

魔法少女マヂカ・201

『憲兵大尉』語り手:マヂカ    

 

 

 礼法室の階上から凌雲閣の地下に下りた。

 凌雲閣は震災で大破して、陸軍の工兵隊の手によって爆破処理されて、震災の明くる年である大正13年には影も形も残っていない。しかし、爆破のショックで時空にずれが出来たせいか、地下部分が女子学習院礼法室と繋がってしまったのだ。

 むろん、誰でもが行けるわけではなく、魔法少女の他は普通の人間では高坂霧子だけだ。

「どうやら、このドアだな」

 エレベーターを取り巻くようにして並んでいるドアから、ブリンダは四番のドアを選んだ。

 エレベーターを含む地下部分は米国式なので、ブリンダの勘が冴えるのだ。

「ん……ちょっと重いな」

「鍵がかかっているんじゃないのか?」

「いや、そんな気配は無い」

 ブリンダと二人で押したり引いたりしてみるが、ドアはビクともしない。

「あ、なにか挟まってるわ」

 ノンコが蝶番のあたりを指さす。

「どこどこ?」

 霧子が覗き込むが、ちょっと分からないようだ。

「呪(しゅ)がかかってる、人には見えへんねやわ」

「だったら、ノンコが取ってやれば」

「うーーーーーん……見習いの力では取れへんみたい」

「どいてみろ……紙切れが挟まってる……たしかに呪がかかってるな。マヂカ、手伝え」

「うん、わたしは下からやるよ」

 ブリンダと二人蝶番の上下から解呪の魔法をかける。

「……よし、取れた」

「本のページだな」

「英語?」

 「Das Kapital」  

「ダス カピタル」

「マヂカの英語訛ってるで」

「英語じゃない、ドイツ語だよ」

「あ……」

「心当たりがあるのか、霧子?」

「ううん」

「ま、開いたんだ。行くぞ」

 ブリンダに続いて、四人で向かったドアの向こうは震災後の9月15日のようだった。

「どこらへんやろか?」

 ノンコがキョロキョロする。

 あたり一面瓦礫の山で、火災こそ収まっているけど、煙の臭いが濃く、死臭や腐臭が混じっている。

「二人とも、ハンカチで口を押えて」

「う、うん……」

 わたしとブリンダは平気だろうが、霧子とノンコはたまらないだろう。

「神田か日本橋のあたりだと思うわ」

 霧子が、焼け残っている建物や市電の軌道から見当をつけた。

 人の行き来はまばらで、たまに見かける人影は、大荷物を背負っていたり、大八車を曳いていたりしている。

「みんな、あちこちに避難してるんだわ。やっと戒厳令が解かれたころ……上野公園あたりは人で一杯のはずよ」

「上野に行ってみる?」

「とりあえず」

 瓦礫の角を曲がると緩い坂道の向こうに日本橋の狛犬が見えてきた。

「高速道路が走ってない日本橋って新鮮やなあ」

「高速道路?」

「何十年かすると、橋の上を自動車専用の道路が走って橋の上は薄暗なってしまうんよ」

「へえ、そうなんだ」

 狛犬の歯並びまで分かるようになったころ、後ろから声をかけられた。

「君たち、どこへ行くんだね?」

 え?

 振り返ると、漆黒の襟章を付けた将校が立っている。

 漆黒の襟章は憲兵、階級章は大尉だ。目深にかぶった軍帽のツバのせいで表情が読めない。

 戦前の憲兵は怖い、さすがの霧子も顔が強張っている。

「わたしたち、女子学習院の生徒なんです。被災者救護補助の為に上野公園に向かうところです」

 我ながら、スラスラと嘘が出てくる。

「そうか、それは感心なことだ。しかし、もうじき摂政殿下が御視察の為にここを通られる。規制が入るから、早く立ち退きなさい」

「はい、承知いたしました」

「お役目、ご苦労様です」

 四人揃ってお辞儀をすると、憲兵大尉は綺麗に敬礼を決めて、わたしたちを追い越していく。

「……あなたは!?」

 霧子が声を漏らすと、橋に差し掛かった憲兵大尉がゆっくりと振り返った。

「見破られてしまったかな……」

 軍帽を気障に脱いで見せた顔には見覚えがある。

「新畑さん!」

 あ、あの団子坂! インバネスの男だ!

「摂政殿下がお通りになるのは本当だよ、気を付けなさいということもね」

 そう言うと、再び憲兵大尉に戻って、足早に橋を渡っていった。

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 

 

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らいと古典『わたしの徒然草・42 気の上る病ありて』

2021-03-09 06:10:14 | 自己紹介

わたしの徒然草・42
『第四十二段 気の上る病ありて』   



 唐橋中将といふ人の子に、行雅僧都とて、教相の人の師する僧ありけり。気の上る病ありて、年のやうやう闌くる程に、鼻の中ふたがりて、息も出で難かりければ、さまざまにつくろひけれど、わづらはしくなりて、目・眉・額なども腫れまどひて、うちおほひければ、物も見えず、二の舞の面のやうに見えけるが、ただ恐ろしく、鬼の顔になりて、目は頂の方につき、額のほど鼻になりなどして、後は、坊の内の人にも見えず籠りゐて、年久しくありて、なほわづらはしくなりて、死ににけり。
 かかる病もある事にこそありけれ。

 これは一見、週刊誌の都市伝説記事のようであります。
 それもトップ記事ではなく。余った紙面の埋め草のような記事ですねえ。

 唐橋中将という、ちょっと偉い貴族の息子で行雅僧都(僧都とは、偉い坊さんのこと)という気の短い人がいて、歳をとるにつれて顔面が腫れ崩れる病気を患った。
 しまいには鬼のような顔になり、人目を避けて暮らしていたが、間もなく亡くなってしまった。
 世の中にはケッタイな病気もあるもんだね。

 あっさり読むと、これだけのことであります。しかし還暦を来年にひかえたわたしには違った意味にとれる。
 わたしは子どものころから自分の容貌(スガタカタチ)には自信がありませんでした。ヒョロリと背だけが(子どもとしては)高く、筋肉がほとんど無く、同年配の男の子に比べ、あきらかに貧弱でありました。
 おまけに顔が良くない。目は、よく言えば「彫りが深い」 有り体にいえば落ちくぼんで、目の下にはいつもクマが出ていて、徹夜明けのようなご面相。
 小学校の高学年のころ母が、三面鏡を買いました。そして、生まれて初めて自分の横顔を見た、見てしまいました(;゚Д゚)!
 人類の顔だとは思えませんでした。額の下はフランケンシュタインのように落ちくぼみ……そう言えば、思い出しました。五年生のころクラスのアクタレに「フランケン」というあだ名で呼ばれていたことを。
――このことだったのか……!?
 鼻から下は、野坂昭如に似ている。野坂氏には申し訳ないが、人前に出るのが嫌になりました。
そのせいで、このころのわたしの写真は、クラスの集合写真ぐらいしか残っていません。極端な写真ギライでありました。
 目の落ちくぼみと同時に発見したのが、チョー絶壁の後頭部。つむじのあたりから、切り落としたように頭が無いのです。
 今、そのころの数少ない写真を見ると、気にするほどじゃないと思います。
 だれでも、思春期のころは変わりゆく自分のスガタカタチの欠点ばかり目につこものです。で、ここまでは笑って済まされることです。

 大人になって、芝居をするようになると、自分の顔がどうやったらマシに見えるか気が付きました。少し斜めに構えた笑顔がいいことに気づき、舞台での顔の向け方、表情の作り方を工夫するようになりました。
 三十代になってからは、このアングル、表情を利用して見合用の写真を何十枚も撮った。「え、大橋さんですか?」
 見合いの冒頭に相手の女性に言われることもありました(^_^;)。しかし、教師と役者の二足のワラジであったので、喋ることや、相手から話を聞き出すことはたくみで、その縁で今のカミサンといっしょになりました。

 さて、笑って済まされない本題であります。
 わたしは五十を過ぎてから鬱病を患いました。五年のあいだ通院とカウンセリングと休職をくり返しました。人と接触することもひどく苦手になり、とうとう鏡で自分の顔を見ることもできなくなりました。
 退職前の三年間が特に重篤で、家人がいない時は電話線も抜いていておりました。
 そして退職を決意し、その書類を整え、退職が決まると、快方に向かいました。名実共に退職が決定した年の三月末日に床屋に行きました。実に五年ぶりの床屋です。

 ……そこで五年ぶりに自分の顔を見た、見てしまいました。 行雅僧都ほどではありませんが、自分の変貌ぶりに唖然としました。そこには知っている自分より十歳は歳を食った顔がありました。顔の肉が垂れ下がり、頬齢線(ほうれいせん)は深く、あちこちに老化によるシミの兆しさえあります。何よりも目に光がありません。
 
 その後、縁あってT高校の演劇部のコーチをやりました。もう、表情は使い分けられるようになっていました。
 ある日、稽古中に役者の生徒が一人いなくなりました。トイレかな……と、思っていたら、あとで顧問の先生に言われましたた。
「大橋先生の目が怖くて、稽古場におられません……やて」
 

 いやはや…………

 

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真凡プレジデント・16《ドーナツ型の座布団》

2021-03-09 05:37:14 | 小説3

プレジデント・16

《ドーナツ型の座布団》  

 

 

 朝の食卓、わたしの定位置に座布団が置いてある、それもドーナツ型。

 

「え、なんで?」

 両親は揃って出張なので、置いたのは、起き抜けのスッピンでもわたしよりの美人の美姫お姉ちゃんだ。

「そのまま座ったらオケツ痛いから」

「そ、そう、ありがと……おお」

 なるほど尾てい骨が穴に収まって、とても具合がいい。

「ちょこっとだけ政治部にいた時、先輩にもらったの。いやあ、仕舞い込んでたから探しちゃった。ほら、もう一個紙袋にも入ってるから、学校で使いな」

「学校で使うの?」

「学校の生徒机って、尾てい骨骨折すること前提に作られてないから」

「でも、なんかなあ……」

「真凡、今朝座ったのはトイレの便座だけだろ、試しに、そこ座ってみな」

 お姉ちゃんが指差した、いつもならお父さんが座ってるところに腰を下ろす。

「ヒエーーーー!!」

 お尻を抑えて跳び上がってしまった。

「ね、お姉ちゃんの言ったとおりだろう(^▽^)/」

 嬉しそうに言わないでほしい。

 

 学校で使う方は座布団カバーが掛けてあった。

 一見しただけでは普通の座布団で、ドーナツの穴の部分が見えないようになっている。

 

「へーー、会長になると座布団が付くんだあ!」

 なつきが、あどけなく感心してくれる。北白川さんは、知ってか知らでかニッコリ笑うだけ。

 椅子にセットして気づいた、座布団カバーにはPRESIDENTと刺繍がされている。失業中とはいえお姉ちゃんも暇なやつだ。

 今日は放課後に生徒会新役員の認証式がある。

 認証式は二回あって、最初のが、今日行われる校長先生からの。二度目は、後日全校生徒の前で行われる。ま、二度目は一般生徒に生徒会の存在を自覚させるためのセレモニーだ。

 むろん新執行部による生徒会活動は、今日の認証式から始まる。

 

―― 二年一組の田中真凡さん、職員室中谷のところまで来てください、繰り返します…… ――

 

 なつきと食堂に行こうと思った昼休み、中谷先生に呼び出された。

「実は、書記の加藤さんと会計の吉田さんが事情で辞退なの」

「え、選挙やったばかりで?」

 二人は立会演説でも、わたしよりも強い意気込みで立派な演説をしていた。それが、どうして? 

「二人とも急な家庭事情で引っ越すらしいの、今朝早くに電話があって、むろん電話で『はいそうですか』というわけにはいかないから、担任と藤田先生が家まで行ってるんだけどね、もう、引っ越した後で行方も分からないって」

「二人そろってですか?」

「うん、ここだけの話だけど、二人は苗字は違うけど姉妹なの、深い事情は私にも分からない。藤田先生は、もう少し調べてからとおっしゃるんだけど、生徒会を開店休業にしておくわけにもいかないからね」

「それで、わたしに?」

「生徒会規約48条に、任期中に執行部に欠員が生じた場合は、会長が職務権限で欠員補充の者を指名できるとあるの」

「それって……?」

「そこでお願い、放課後までに、あなたの知り合いでやってもらえそうな人、連れてきてくれないかな」

「え、ええ!?」

「声大きい、詰めて話したい……この椅子に座って」

 先生は、ガラガラと空いている椅子を据えた。わたしはチョー真面目にまなじりを上げ一文字に口を結んで椅子に掛けた。

  ウグ……!

 さすがに声を上げることは無かったが、痛さのあまり、みるみる目に涙がうかんできた。

「ごめん、田中あー、負担かけるけど、よろしく頼むわ~」

 痛みに耐えきれず、少しでも早くお尻を浮かせたい一心でコクコク頷くしかないわたしだった……。

 

 ☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  田中 美樹    真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •  柳沢 琢磨    急に現れた対立候補
  •  北白川 綾乃   モテカワ美少女の同級生
  •  橘 なつき    入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
  •  橘 健二      なつきの弟
  •  藤田先生     定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生     若い生徒会顧問

 

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銀河太平記・034『アルルカンがやってきた』

2021-03-08 09:36:06 | 小説4

・034

『アルルカンがやってきた』ダッシュ   

 

 

 くそ、みんな集まって来やがった。

 

 ブリッジに集まると、船長が意外なことを言う。

「え、船長が非常呼集を……」

「後ろを見てみろ」

 え?

 振り返って驚いた。

 中デッキから上がってきたタラップの後ろに変な奴が立っている。

 タラップはブリッジの中央にあるので、俺たちは前の船長と後ろの変な奴に挟まれた格好になった。

「すまんな、わたしが船長の声で非常呼集をかけたんだ」

 そいつは、一見して女海賊だった。

 黒の上下に黒皮のブーツ、その要所要所には赤のアクセントがあって、とってもオシャレなんだけど、キングサイズのベッド用のシーツくらいの大きさのマントは、このジャングルジムみたいなファルコンZの中では動きにくいだろうというのが第一印象。

「心配してくれてありがとうよ、火星の坊や。ホログラムなんでな、そういうことは気に掛けなくていいんだよ」

 そいつは、俺たち乗客の真ん中を通って船長と並ぶ。

 キャ!

 避け損ねた未来が悲鳴を上げる。ホログラムと分かっていても、自分の体をすり抜けられるのは気持ちが悪いだろ。

 たしかに、そいつの姿はポリゴン抜けするように人やデッパリに被っても平気で歩いているぜ。

「こいつなは……」

「太陽系一番の賞金首、宇宙海賊のアルルカンだ」

 アルルカン!?

 そう名乗ると、そいつの髪とマントがきれいに翻る。ホログラムなんで、どんなエフェクトでもかけられるんだろう、なんともカッコいいんだけど、風下に立った船長がマントで見えなくなる。

「カッコつけるのはいいが、俺の船だ、俺の姿は隠さないでほしいな」

「これは失礼、では、マントだけは取るとしよう」

 パチン

 あ……!?

 アルルカンが指を鳴らすと、アルルカンは黒の下着姿になってしまった。

「あ……(#^_^#)」

 再び指を鳴らすと、ゴスロリ衣装になる。

「これじゃない……」

 パチン

 もう一度指を鳴らすとメイド服、次にセーラー服、戦隊ヒーロー、姫騎士と替わって、十回を超えたところでマントを外した女海賊のコスになった。

「ホログラムを更新したばかりなんで失敗した。今のは見なかったことにしてくれ」

「コスプレはいいから、さっさと用件を言え」

「森ノ宮親王殿下には、わたしの船にお移り願う」

「え、あなたの船にですか?」

「そうだ、こんなボロ船で火星にお迎えしては申し訳ないからな」

「要は、殿下をかっさらって身代金を要求するんだろうが」

「そういう下衆の勘ぐりをするから、いつまでも、こんなボロ船の船長なんじゃないか」

「うるさい」

「殿下が、わがアジトのカサギを目指しておられるのはとうに承知している」

「お申し越しは嬉しいのですが、わたしは、この身をマーク船長にお預けしたのです。アルルカンさんには火星でお目にかかりたいと思います」

「マークごときにも義理をおたてになるのには敬服するが、この先、天狗党の船が待ち構えている。やつらは、殿下を船ごと抹殺するするつもりだ。学園艦の最後もご覧になっただろう」

「親王ではありますが、この船に乗っている限りは船長の指示に従いたいと思います」

「ならば、この船ごと拿捕する」

「できるものならやってみろ」

「わたしに勝てると思っているのか、マーク?」

「俺も、昔のマークじゃない。コスプレ海賊の言うがままにはならねえぞ」

「昔のよしみで筋は通してやろうと思ったんだが。仕方がない、あの船で牽引することにする」

 アルルカンが指差すと、十キロほど先に赤い海賊船が現れた。

「我が艦隊の旗艦ヒンメルだ。ヒンメル、このボロ船を牽引しろ!」

 ヒンメルの艦尾に光が見えた。牽引ビームを作動させたんだ。

 一瞬、ガクンと衝撃があって、すぐにプスンという感じで船の束縛が解ける。

「どうした、牽引ビームが不発だぞ!」

 再び牽引ビーム……今度は衝撃すらやってこない。

『船長、牽引ビームがキャンセルされます』

「そんなバカな!?」

「すまんな、ファルコンZは。なんせボロ船、お前が乗っていたころとはスペックが丸で違うんだ」

「そうか、いっそうバカのレベルがあがったわけか……ヒンメル、ホログラム回収!」

『ラジャー』

 アルルカンは瞬間ボケたかと思うと、再びコスが目まぐるしく変化、そして一瞬スッポンポンになったかと思うと、おびただしいコスを残して消えてしまい、そのコスも数秒の後にポリゴンに分解して消えてしまった。

「コスモス、なんかやったか?」

「ちょっとエンジンが不調なのでチェックしに行っただけです、ほんとうですよ、船長」

「ま、そういうことにしておこう」

「天狗党の待ち伏せは本当らしいです、警戒しましょう」

 バルスが進言して、ファルコンZはマックスの対空警戒を維持したまま進んで行った。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 児玉元帥
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首

 ※ 事項

  • 扶桑政府   火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ    扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ

 

 

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らいと古典『わたしの徒然草・41賀茂の競べ馬』

2021-03-08 06:18:22 | 自己紹介

わたしの徒然草・41

『第四十一段 賀茂の競べ馬』   

 

 五月五日、賀茂の競べ馬を身侍りしに、車の前に雑人立ち隔てて見えざりしかば、おのおの下りて、埒のきはに寄りたれど、殊に人多く立ち込めて、分け入りぬべきやうもなし。
 かかる折に、向ひなる楝(おうち)の木に、法師の、登りて、木の股についゐて、物見るあり。取りつきながら、いたう睡りて、落ちぬべき時に目を醒ます事、度々なり。これを見る人、あざけりあさみて、「世のしれ者かな。かく危き枝の上にて、安き心ありて睡るらんよ」と言ふに、我が心にふと思ひしままに、「我等が生死の到来、ただ今にもやあらん。それを忘れて、物見て日を暮す、愚かなる事はなほまさりたるものを」と言ひたれば、前なる人ども、「まことにさにこそ候ひけれ。尤も愚かに候ふ」と言ひて、皆、後を見返りて、「ここへ入らせ給え」とて、所を去りて、呼び入れ侍りにき。
 かほどの理、誰かは思ひよらざらんなれども、折からの、思ひかけぬ心地して、胸に当りけるにや。人、木石にあらねば、時にとりて、物に感ずる事なきにあらず。

 原文は長いので、読み飛ばしていただいてけっこうです。ただこの四十一段は、内容である出来事と、兼好法師の思いが三重になっているので、わたしの本文と引き比べていただくために、全文を載せました。

 賀茂の競べ馬とは、平安の昔から、上賀茂神社で行われる神事で、1994年には世界文化遺産にも登録されています。
 二百メートルのコースを二頭、二十組のレース(現在は二頭、十組)が行われる。
 コースの両側には、青柴で芝垣のフェンスが張ってあり、観客がコース内にせり出してこないようにしてあります。この芝垣を埒(らち)と言い、「埒外(らちがい)」の語源はここにあると言われます。

 で、兼好のオッサンは、ある年の五月五日に、この「競べ馬」を見に行きました。

 この一つをとっても、兼好という人間の好奇心旺盛なことが分かりますね。古来文人と呼ばれる人種は馬……競馬が好きな人が多く、わたしの記憶では遠藤周作、近くは浅田次郎、佐藤愛子がこの代表であります。兼好が今の世に生きていれば、競馬愛好小説家ベストテンに入っていたでしょうね。

 ところが、兼好のオッサンに勝る坊主が、向かい側の芝垣の内におりました。

 このボンサン、こともあろうに、木の上に乗って見物しておりました。それだけでも「坊主とも有ろう人が……」と、思われます。
 はてさて、このボンサン、木の上で、コックリコックリ居眠りをしはじめます。木から落ちそうになっては、ハッと我に返り、木の枝にしがみつき、みっともないったらありません。
「あさましい坊主やなあ」
「ほんま、みっともないなあ」
 などと、みなであざけっていました。
 そこで、兼好のオッサンは名言をのたもうた。
「死というモノは、今やってくるかもしれない。それはあのボンサンもわれわれも変わりはないんだぜ。そのことを忘れて祭り見物している我々もオンナジじゃないか……」兼好は、最前列で見られなかったので、少しすねて言ったのでしょう。しかし、体裁は立派なお坊様であります。前列にいた人が感心して、こう言いました。
「さすがは、エライ坊さん。その通りや。どうぞ前の方に来て身とくれやす」
 で、兼好のオッサンは、尊敬されつつ、堂々と最前列で競馬を楽しむことができました。

 兼好は、自分の都合で坊主のなりをしているだけであります。鎌倉仏教を興した、法然、親鸞、日蓮のように高尚な気持ちで説教をたれた訳ではありません。ただ、良い場所で競馬が見たいためにカマした一発であります。
 この話しは、兼好のオチャメともとれるし、当時、まだイキイキとしていた鎌倉仏教の余熱の現れともとれます。

 わたしの母と、カミサンのお母さんは、ともにお寺の長女であります。いきおい親類は坊主だらけであります。
 先年、父が突然無くなったとき、葬儀屋さんに、こう聞きました。
「ボンサンよんだら、どのくらいかかりますか?」
 葬儀屋のオバサンは、黙って指二本を立てました。正直「高い!」と、思いました。

 そこで従兄弟の住職に電話しました。もう十何年も連絡もしていない従兄弟ではありますが、わたしも大阪のオッサン。費用対効果にはうるさいのです。
 よく言えば、父が残したわずかなお金でまかなってやろうという気持ちであります。生前仕送りなどで、両親には、かなりな経済的援助をしてきました。けして口には出しませんでしたが、父は、それを気にしていたフシがあります。だから、葬儀や法事は、本人の身銭でやってやろうと思いました。
 もう一面は、わたし自身、退職金の食いつぶしで年金の支給を待っている状態でありました。

 それで、相場の半額のお布施でやってもらいました。

 従兄弟は、真宗仏光寺派で、くわしい方ならお分かりでしょうが、仏光寺派は真宗の中で、もっとも規模が小さく、檀家が少ないのです。
 そこを、従弟は文句一つ言わず、相場の半額で請け負ってくれました。
 葬儀会館の、導師控え室で、お布施を渡すときには少し気が引けました。従弟とはいえ、その道のプロである。わたしたお布施袋の厚みで金額は知れています。
「ありがたく頂戴します」
 従弟は、顔色一つ変えずに、薄いお布施を押し頂いてくれました。
 葬儀も手抜かりなく、きちんと法話までしてくれました。
「亡くなった人は、生き残った縁者に絆の機会を与えてくださる」
 日頃、仲の悪いわたしの甥二人の距離が少し縮まりました。
「亡くなった人は、人の死というものを自身の死をもって教えてくださる」
 幼いひ孫たちは、恐る恐る、冷たくなったヒイジイチャンの頬に触れました。ひ孫たちにとっては、初めての死者との接触であります。

 わたしは、この年下の従兄弟住職のヤンチャクレ時代を知っています。
 しかし、目の前で法話をたれているのは、立派な導師の姿と言葉でありました。
 これは、長年にわたって培われてきた、日本の葬儀や宗教のあり方であり、ありがたさであると思います。
 父の死は突然であったので、わたしたち親子三人は葬儀場まで自転車で来ていました。葬儀が終わり参会者が居なくなると。葬儀会館に残ったのは、わたしたち親子三人だけであります。どうかとは思いましたが、父の骨箱は息子の自転車の前カゴに載せました。
 それが、葬儀会館の方々にも痛々しくみえたのでしょう。
「……こないしなはれ」
 わたしと、同年配の葬儀会館のオバチャンがペットボトルのお茶を四本、緩衝材として前カゴに入れてくれました。
 マニュアルには無い対応ですね。一見ぞんざいに見えますが、このオバチャンのそれには、心がこもっていました。それまで、不動の姿勢で前に手を組んでのマニュアル通りの見送りでありましたが、この機転を思いついたあとのオバチャンは、近所の気の良いオバチャンのそれでありました。

 少し本題から離れてしまいましたが、昔から伝えられた型というものには、日本人として心を開かせる何かを呼び覚ませるものがあると思います。兼好のオッサンは、ちょっと利用したのでしょうが、この段には、真っ正直にそれを言うことへの照れがあったと思います、深読みに過ぎるでしょうか。

 

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真凡プレジデント・15《なんで尾てい骨!?》

2021-03-08 05:46:43 | 小説3

プレジデント・15

《  なんで尾てい骨!?》   

 

 

 

 あ、ありがとうございました。

 

 受話器に最敬礼してしまった。

 天気予報の真っ最中で、まもなくNHKのニュースが始まろうという時間。藤田先生が電話してくださった。

――連絡が遅れてすまない。六時ごろには結果が出ていたんだけどね会議が長引いてね、圧倒的多数で真凡が信任されたよ。半年間よろしく頼むね、あした新役員の顔合わせと引継ぎがあるからよろしく。じゃ――

「スカイプなんかでなくてよかったね、ほら、もっかい横になって」

「う、うん。でも、なんで、お尻が痛むんだあ……イテ!」

「これは尾てい骨骨折だね」

「こ、骨折!?」

「しかし、仰向けに転んで、なんでオケツの骨折るんだあ?」

「ちょ、あんまし、しげしげ見ないでよ」

 

 お風呂を上がって、お尻がズキズキ痛み始めた。

 立会演説終わって演壇を踏み外してコケてしまったが、仰向きだ。お尻なんか打ってない。

「それから、どうしたのさ」

「候補者の席に戻ったよ、ウンコラショって」

「ほかに心当たりは?」

「骨折するほど打ったら覚えてるよ……あとは、帰りの電車で座れて……晩御飯で、そこに掛けて……」

「多分、候補者席に戻って、勢いよく座り過ぎたか妙な角度で座って椅子の角に尾てい骨引っかけたんだよ、演説の興奮で、その時は気づかなかっただけでさ」

「え、あの……もう仕舞っていいかな?」

「もちょっと……真凡のお尻って、いい形してたんだねえ」

「んなの感心しなくていいから!」

「これなら、お医者さん行って見られても恥ずかしくないよ(^▽^)/」

「それって、ルックスの方はイマイチってことに聞こえるんですけど(#'∀'#)」

「ヒガミすぎ、わたしの妹なんだからブスなわけないわよ」

「あ、それって、私ほどじゃないけどって、間接的な自慢入ってません?」

「ないない、じゃ、とりあえず……」

 

 ピト

 ヒエ~~~!

 

「ちょ、なにしたのよ!?」

「湿布、お医者さんに診てもらうまでのとりあえず」

「やっぱ、やっぱお医者さん?」

 尾てい骨の骨折って、お医者さんでも見られるのはヤダ!

「そうだよ、よく見えるようにお尻を突き出して~」

「ヤダヤダヤダ!」

 わたしは、逃げながら身づくろいした。

 お尻の痛みなんて、家族でも言えないんだけど、風呂上がりのへっぴり腰を見られては仕方がなかった。

「ハハハ、ウソウソ、尾てい骨とか肋骨はギブスの当てようもないからね、自然治癒を待つしかないよ。それに、触診だけど、ヒビが入ってるだけみたいだし。ま、しばらく気を付けることね」

「も、もう……」

 

 リビングのテレビはいつのまにか天気予報も終わって、ニュースもローカルニュースになっていた。

 

―― ……列車往来危険罪並びに動物愛護法違反の嫌疑で身柄を拘束されていた男子高校生の行動は、列車事故を防ぐには止むを得ない行動であったと弁護される一方、見ず知らずの人の飼い犬を線路上に投げ落とすなど、サイコパス的な行動であったという見方も根強く、動物愛護の見地からも許されることではないと…… ――

 柳沢の扱いは、学校の職員会議だけではなく、マスコミや警察でも困っている様子だ。

 寝床に入る時は気を付けたので、お尻が痛むことは無かった。

 しかし、選挙に当選した……してしまったという重みがジワジワと胸にせき上げ、夜明け近くまで眠れなかった。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  田中 美樹    真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •  柳沢 琢磨    急に現れた対立候補
  •  北白川 綾乃   モテカワ美少女の同級生
  •  橘 なつき    入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
  •  橘 健二      なつきの弟
  •  藤田先生     定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生     若い生徒会顧問
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RE滅鬼の刃・17『作ることが好きなお祖父ちゃん』

2021-03-07 08:57:56 | エッセー

RE滅 エッセーノベル    

17・『作ることが好きなお祖父ちゃん』    

 

 

 お祖父ちゃんは学校の先生をやっていましたが、わたしの勉強をうるさく言ったりはしませんでした。

 

 テストでいい点数がとれると「よかったね」とか「がんばったね」とか言ってくれましたが、悪い点をとっても「こんなこともあるさ」「また、がんばったらいい」と軽く優しく頭を撫でておしまいでした。

 テストの点数や学校の成績が人の将来に、それほど大きな影響がないことを良く知っていたんです。

 お祖父ちゃん自身、勉強が苦手で、高校を四年大学を五年かかって卒業しています。

 定期考査で爆睡してしまい、名前を書いただけでお終いになったことがあって、生まれて初めて0点をとってしまったことがありました。

 お祖父ちゃんの事ではなくてわたしの事です(^_^;)。

 この時も「これは記念に取っておこう!」と残してしまいました。

「俺の0点は捨ててしまったからなあ」とニコニコしていました。

 そんなお祖父ちゃんが、目の色を変えてわたしの宿題を取り上げ、自分でやってしまったものがあります。

 

 夏休みの工作の宿題です。

 

 なんでもいいから、自由な発想と工夫で作りましょう!

 そういう意味の事が宿題の一覧に書いてあって、工作の苦手なわたしは「あしたやろう」と言い訳して、とうとう来週から新学期という日になってため息をついていました。

「お、自由工作か!?」

 そう言うと、お祖父ちゃんはリビングのゴミ箱を漁って、薬の空き瓶やティッシュの空き箱を持ってきて作業を始めます。

「なにしてんの?」

「途中までやったげるから、仕上げは栞がやりな」

「おお、ラッキー(^▽^)/」

 甲斐甲斐しくお茶などを入れて、横で見ていると、あっという間にミッキーの貯金箱を作ってしまいました。

「……お祖父ちゃんの作品になっちゃったよ(^_^;)」

「あ……」

 けっきょく、塗装だけわたしがやって、辛うじてわたしの作品にして提出しました。

 

 とにかく、物を作ることが大好きなお祖父ちゃんです。

 プラモデルは完成品だけでも100ほどもあって、クローゼットの中には箱に入った未組み立てのが200ほどもあります。

 自分でも書いていましたが、還暦になって目覚めたペーパークラフト(紙模型とかカードモデルとかも言うらしいですが、わたしには区別がつきません(^_^;))

 近ごろ視力が落ちてきて、細かい作業がやりにくくなってきたとこぼしています。

 それでも紙模型やプラモデルの船の手すりや張線をやっているのを見ると、まだまだ大丈夫と孫娘としては嬉しく思います。手摺なんて、0.4ミリの真鍮線を3ミリの長さに切って1ミリを埋め込むなんて作業らしいです。

 いつまでも、元気でやってくださいね、お祖父ちゃん(o^―^o)。

 

http://wwc:sumire:shiori○○//do.com

 Sのドクロブログ☠!

 

 ちょっと……パラノイアですわ(-_-;)

 同じ血が流れているのかと思うと、落ち込むことがあるぜ。

 前号で出してた紙の軍艦、信じられないけど、部品点数15000だよ。

 図面通りに作ると8000くらいらしいんだけども、あれこれ自作のパーツやら補強をやってると、それくらいになるらしい。

 こないだ、開きっぱのクローゼット見たら、未組み立ての紙模型が50冊(たいてい本の体裁になってる)ほどもある。

 他にもプラモとかいろいろあって、ほんと、どーすんだよ!?って感じ。

 プラモとかペ-パークラフトとかやる奴はキモオタだからね。エンガチョものなんだからね。

 クソジジイは「栞、たまには友だち連れておいでよ」って言うけど、とても人は呼べないよ。

 キモイもんが家中にあるんだからね。

 プラモって、軍艦とか戦車とか飛行機だって思うっしょ?

 ちがうんだよ。

 人体模型なんてのもある。

 クソジジイの部屋には、1/1サイズって人の首のプラモがある。皮は透明プラスチックなんだけど、その下に筋肉やら血管やら骨やら目玉とかもあって、もう、アブないんだ。

「いやいや、脳みそだってあるんだ」

 いや、開けなくていいから……。

「栞も、やってみりゃいいのに」

 奥から出してきたのは、スケールこそ1/5だけども、全身の人体模型のプラモ。

 それも女の体!

「これは、なかなか手に入らなくてなあ、中華製じゃなくてアメリカのキットでな……」

 中華でもアメリカでもキショク悪いから!

「ほら、お腹のパーツは二種類あって、なんと妊娠バージョンにも作れるんだ」

 か、勘弁してくれええええええええ!!

 

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真凡プレジデント・14《ひっくりかえった!》

2021-03-07 06:25:03 | 小説3

プレジデント・14

《ひっくりかえった!》   

 

 朝から学校はひっくりかえっていた。

 なんたって生徒が逮捕されてしまったんだ。

 列車往来危険罪並びに動物愛護法違反という禍々しい罪状での緊急逮捕。

 それも、学校一番のイケメン・秀才・天才の誉れも高き柳沢琢磨!

 模擬とはいえ司法試験を高校生で合格、それも、現役弁護士であり元国務大臣であった○○氏に大差をつけて!

 そして、なによりも、今期生徒会選挙、当選間違いなしの会長候補!

 彼がいなければ大列車事故が起こっていた!

 居合わせたテッチャンたちは彼のとった行動を口々に弁護したが、その他大勢の目撃者は橋の上から犬を投げ落としたことを非難していた。犬の飼い主などは、まるで虐殺者を見るように非難した。

「い、犬殺し! 人殺し! 国民の敵! 人類の敵!」

「とにかく、署まで同行してもらおうか」

 間を取った警察官に諭すように、柳沢はつぶやいた。

「ここは緊急逮捕が相当です、とりあえずの任意同行ではテッチャン以外は納得しませんよ」

「そ、そうか(#'∀'#)!」

 容疑者の方から逮捕を促されるという事態に直面し、お巡りさんは頭のてっぺんから声を張り上げて逮捕した。

 

「ちょっと前例がない……(;゚Д゚)」

 

 廊下で出くわした藤田先生はオタオタしながら緊急職員会議が行われる視聴覚教室へ向かった。

 かつて、候補者が緊急入院して立会演説に出られなかったことがあった。その時は、本人の演説は割愛して投票だけが行われたらしい。しかし、今度は隠れも無き列車往来危険罪並びに動物愛護法違反違反なのだ。

 立候補は無効だ! いや、起訴されるまでは何とも言えない! いや、辞退させよう!

 臨時職員会議は授業開始時間になっても結論が出なかった。

「ちょっと電話してみる」

 こめかみに青筋を浮き出させた北白川さんが決然と席を立って廊下に出た。

「どこに電話するんだろう……?」

 なつきが首をひねる。

 柳沢は拘留中だから電話連絡なんかつかないはずなのに。

「連絡ついたわ」

 一言言うと、彼女は視聴覚教室に向かった。心配で階下の視聴覚教室に向かうと、防音扉を小さく開けて藤田先生が顔を出して北白川さんと話している。

 数秒経って、藤田先生の顔がホッとしたように見えた。北白川さんは、わたしたちに微笑むと廊下の突き当りから外に出てしまった。

 北白川さんが、どう連絡を付けたのか、柳沢は立候補を取り下げたということだった。

 

 そして選挙は、わたしへの信任投票になった。

 

「ええと……わたしは、生徒手帳の最初に書かれている徳目、自主・独立・敬愛……みなさんはご存知ですか? ご存じないですよね。わたしも演説の原稿を書くために生徒手帳を開くまでは知りませんでした。知らないことを、とくに恥ずかしいとも思いませんでした。それほど、本校の見学理念は現実から乖離しています。わたしたちの言葉で言えばイミフ! あ、意味不明って意味です、先生方。イミフの心を持って、知ったかぶりや慣例に流されず、わたしたちの学校生活を見つめ直すことから始めていきたいと思います……とにかくですね……」

 もっと具体的な内容もあったはずなんだけど、柳沢が立候補したために、わたしは演説原稿の掘り下げを怠ってしまった。

 だから、なんとも抽象的な語り掛けのように、持ち時間の三分が過ぎて行った。

 途中からは何を喋ったか、もう、シッチャカメッチャカ!

 

 一礼して演壇の舞台を下りる。

 一応の拍手、意識がどうにかなったわたしには、割れんばかりの拍手にも、おざなりの終わってよかった拍手なのかも分からない。

 手のひらが汗でびっちょり、何年かぶりで下着が肌に貼りつく不快感を感じる。

 わずか数分で一か月分くらいの汗をかいたわたしは、このまま溶けてしまうんじゃないかと思った。

  瞬間、天地がひっくり返った。

 ノワーー!

 ドッシン!

 ゲフッ!!

 わたしは、階段の最後の一段を踏み外してカエルのようにひっくり返ってしまった。

 瞬間、全生徒の笑い声。それだけが、立会演説会唯一の確かさだった。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  田中 美樹    真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •  柳沢 琢磨    急に現れた対立候補
  •  北白川 綾乃   モテカワ美少女の同級生
  •  橘 なつき    入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
  •  橘 健二      なつきの弟
  •  藤田先生     定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生     若い生徒会顧問
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やくもあやかし物語・67『名前は言えない』

2021-03-06 09:10:18 | ライトノベルセレクト

物語・67

名前は言えない』    

 

 

 あれから一週間。

 

 ほら、梅の木に誘われて、崖下の路地を抜けたら、その梅の木が「今日は、このつづら折れは登らない方がいいわよ」って教えてくれた。

 なにかが居るんだ!

 それで、この一週間は、学校の行き帰りにも路地の向こうを見ないようにしてしていた。

 それで、この一週間は無事だったこともあって、路地の向こうが気にかかってしょうがない。

 それでね、今日は下校の途中で、ふっと目が行ってしまったのよ。

 瞬間、しまったと思った。

 あやかしはね、人に呪をかけるんだよ。呪(しゅ)というのは、まあ、呪いというか、暗示と言うか。

 たいていはナニナニをさせるって呪なんだけども、時にはナニナニしてはいけないと逆を言いながら、ナニナニに誘い込むという手の込んだ呪をかけてくることもある。

 ほら、『鶴の恩返し』でさ、女房になった鶴が言うでしょ「けして覗いてはいけません」とか。イザナギが死んだイザナミを黄泉の国に訪ねて、イザナミが言うよね「黄泉の神さまと相談するから、けして覗いてはいきません」ってさ。

 そうすると、たいてい覗いてしまう。

 人間の好奇心とこらえ性の無さをうまく逆手に取った呪なのよ。

 知ってたんだけど、お天気もいいし、一週間無事だったし、思わず覗いてしまった。

 チラ見のつもりだった。

 あの梅が元気に満開の花をつけていたら、それで納得して家に帰ったと思う。

「あれ?」

 路地の向こうに梅の姿が見えないのよ。

 花が散っていたのならまだしも、梅の木そのものが見えない。

 だから、確かめたくって、路地の向こう側に行ってしまった。

 

 え……無い?

 

 どこにも、あの見栄っ張りの梅の姿が無い。

 キョロキョロしていると、つづら折れの上の方から気配が下りてきた。

 タタタタ タタタタ

 振り返ると、五歳くらいの男の子と女の子が駆け下りてくる。

 男の子は坊ちゃん刈、女の子はおかっぱ頭で、昔の子どもって感じ。

「おねえちゃん、なに探してるの?」

 坊ちゃん刈が聞いてくる。

「あ、うん、ここに梅の木があったはずなんだけど」

「梅?」

「そんなのあったけ?」

「あ、えと……路地の向こう側から見えるとこだけ立派に花の付いてるやつなんだけど」

「ああ、あの見栄っ張り」

「ああ、それそれ、その梅」

 アハハハハ

 二人楽しそうに顔を見かわして笑う。笑われてしまう。

「見栄っ張りなら、そこだよ」

「ここ、ここ」

 おかっぱが、わざわざ、そこまで行って指し示してくれたのは、草叢の中に十センチほど覗いている古い切り株。

「これって……」

「何年も前に切り倒されたよ、見栄っ張りだから」

「見栄っ張りって、嘘ばっかり言うんだもんね」

「「そりゃ、切り倒される!」」

「ところで、あなたたちは?」

 わたしも、越してきてから一年。そうそう、こんな子供に笑われるのも癪なので、腰に手を当てて問いただす。

「おねえちゃん」

「なに?」

「今のぼくたちで良かったね」

「ちょっと前のあたしたちだったら……」

「「死んでるとこだよ」」

「あんたたち、妖だね!?」

 わたしは、胸の勾玉を取り出した。こういう時、セーラー服の胸って取り出しやすいよ。

「「あ、それは……(;゚Д゚)」」

 二人とも青ざめて固まってしまう。いい気味。

「「あ、あ、あ……」」

「あた、あた、あたしたち、フキノトウの妖精だよ」

「うん、ただの妖精」

「いいこと教えたげる(^_^;)」

「なに?」

「むこうに……」

 坊ちゃん刈が、さらに北の方の崖を指さす。そっちは、まだ未踏査の領域だ。

「なにがあるの?」

「名前は言えない」

「名前を言うと呪がかかって自由を奪われるよ」

「いまのお姉ちゃんなら、やっつけられる」

「ふだんは土に潜っていてやっつけられないけど」

「きょうは、啓蟄で、出てきてもボーっとしてるから……ね」

「やっつけられる!」

 ピューーーーーーー!

 それだけ言うと、あっという間に居なくなってしまった。

 恐るおそる、崖に沿って北に進む。

 モゴ モゴモゴ

 崖の下、そこらへんの茂みごと、なにかが動き出して、今にも、なにかが出てきそうな気配。

 大急ぎで勾玉を出して、モーゼが十戒の石板をそうしたように、頭上高く掲げた!

 ズ ズズズズズズズズ…………

 氷だけになったジュースをストローで吸うような音がして、それがしだいに小さくなって消えて行った。

 

 フウウウウウウウウ……どうやら間に合ったみたい。

 

 勾玉をしまって、元の道を戻る。

 路地を出てホッとする。

 もう、当分は、この路地の向こうには行かないでおこう。

 急いで家に帰って、まだ、ちょっと早いんだけども風呂掃除に励んだ。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅
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らいと古典・20『わたしの徒然草・40何の入道とかやいふ者の娘』

2021-03-06 05:56:41 | 自己紹介

わたしの徒然草・20

『第四十段 何の入道とかやいふ者の娘』 

 



 因幡国に、何の入道とかやいふ者の娘、かたちよしと聞きて、人あまた言ひわたりけれども、この娘、ただ、栗をのみ食ひて、更に、米の類を食はざりければ、「かかる異様の者、人に見ゆべきにあらず」とて、親許さざりけり。

 これは、今の感覚では「どこそこで、ツチノコが出た!」という地方版のニュースのようなものでしょう。

 ウソかマコトか、確かめられずもせずに、因幡(今の鳥取県)から、都に伝わった、その手の地方ニュースの一つなのでしょう。

 中味は、鳥取県のある入道(在家で坊主のなりをした、たいがいお金持ち)の娘が、チョーカワイイのですが、米のご飯をまるで食べずに栗ばっか食べている。
 で、父親の入道が、こう怒りました。
「こんな栗ばっか食べているような変な娘は、人さまの前にも出せない!」

 意訳すると、こうでしょう。

 親の言うことをな~んにも聞かないわがまま娘。それが「栗をのみ食いて」に象徴されています。そういう娘のわがままぶりを、可愛く思いながらニクソサ半分の親心をあらわしているように思います。
「人に見ゆべきにもあらず」
 これは、屈折した娘自慢。
「人さまの前にも出せない」
 これは、実は人さまに見てもらいたいという気持ちの表現。「誉め殺し」ならぬ「殺し誉め」なのかと思ったりします。
「いやあ、家の娘は、オテンバの気まぐれのブスで、嫁のもらい手があるか心配ですわ。アハハハ」
 そういう、今の娘を持つオヤジの心理と同じものを兼好さんも感じたのでしょう。

 では、単なる親バカかというと、それだけではない。
 娘から、阻害されている気配を感じます。

「お父さんのパンツ、いっしょに洗わないでよね!」
「ひとが(自分が)携帯で話してんの、新聞読むふりして聞かないでよね!」
「バレンタインチョコ?  義理チョコ余ったらあげる(さげすんだ眼差し)」
「明日、トモダチ来るから、お父さん、どこか行っててよね!」
「やだ、お父さん、また、このソファーで寝てたでしょ。加齢臭がすんだからやめてよね!」
 このように、オヤジというのは年頃の娘にはジャケンにされるものです。そのウップンと寂しさが、うかがえます。

 また、十七八の女性というのは、人生でもっとも(その子なりに)輝いている時期で怖いモノ知らずなところがあります。
「わたしたち、な~にをしても、許されるとしごろ♪」
 AKB48の『スカートひらり』の歌詞の中にもあるように、その女性の一生の中で一番残忍な、お年頃であります。
 太宰治の『カチカチ山』の中で、この年頃の娘ウサギに惚れた親父ダヌキを泥の船に乗せて沈めた。おぼれ死ぬタヌキが、断末魔にこう叫びます。
「惚れたが悪いか!」
 それを、ウサギは櫂(オール)でしたたかに打ち据え、トドメをさし、額の汗をぬぐって、ポンと一言。
「ホ、ひどい汗」

 このオヤジと娘のコントラストに面白さです。兼好のオッサンもそう理解したのではないでしょうか。

 娘に嫌われながらも可愛くて仕方がない不器用な父親に親近感を持ったのでしょう。

 

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真凡プレジデント・13《キャイン!》

2021-03-06 05:30:49 | 小説3

プレジデント・13

《キャイン!》   

 

 

 新学年最初の中間考査はユルユルと過ぎていく。

 わたしもなつきもユルユルの志し。

 間違っても学年十番以内とか評定平均を八以上にするんだ! というような高望みはしていない。

 平均六十点くらい、成績表に3が付けばいいと思っている。なつきは2でもヘーキヘーキと笑っている。

 テストが終わると、いよいよ立会演説会になる。

 例の似顔絵ポスターでとどめを刺されたわたしは100%あきらめの境地、六十点志望のわたしは、書き終えた答案を見直しもせず、まあ平均点がとれればいいやと教室の窓から見える青空のようにサバサバしている。

 北白川さんは怖いほどの引き締まった顔で時間いっぱいシャーペン持つ手を動かしている。

 

「ガンガンやらなくったって、北白川さんなら楽勝っしょ?」

 なつきがため息まじりに聞くと、彼女は、こう答えた。

「ケアレスミスということもあるし、記述問題などは最後まで文章を練りなおすの」

 北白川さんは正解かどうかである以前に美しい答案でなければならないようだ。

 こんな北白川さんとお近づきになれたのは、彼女が柳沢を毛嫌いしているからだ。

 毛嫌いの理由はよく分からないけど、柳沢が生徒会長に立候補したのが、とても許せない感じ。まるで、民主党員がトランプが大統領選挙に出ることが許せないみたいな。

 今までは、クラスのお姫様的な存在だったので、男子はともかく、女子も容易には近づきがたかった。

 でも、柳沢が共通の敵認定されてしまうと、距離が一気に縮まった。

 接してみると、どこか天然の所があるけど、意外とフランクだ。なつきも、どこか動物的感覚で仲間認定しているし、せっかく友だちになれたんだ、大事にしたい。たぶん、彼女も、そう思っているから。

 だから、この芽生えかけた友情のためにも、選挙を諦めていることは気取られてはいけないのだ。

 

 ところが、意外な出来事でわたしの当選の確率が跳ね上がってしまった。

 

 それは、明日が立会演説会というテストの最終日に起こった。

 ほら、なつきの部屋で試験勉強していたら、なつきの弟、健二が学校で怪我をしたってオバサンが言ってきたじゃない。

 なつきと二人で学校に行って、交代で健二を背負って一休みした橋、橋と言っても、川じゃなくてJRを跨いでいる、テッチャンたちには有名な撮影スポット。

 

 そこで、こんな事件があった……。

 

 緩くカーブした線路の先で自動車が立ち往生していた。

 ちょっと先の踏切から進入したようなのだけど、運転していたのは八十を超えるお爺ちゃん。

 パニックになったのか線路の上を五十メートルほど進んで停まってしまった。

 橋の上には数人のテッチャン。もとよりシャッターチャンスを狙っているので、ダイヤは頭の中に入っている。

「もうすぐ下りの急行が通るぞ!」

 橋の向こうは緩やかなカーブになっていて、列車の運転手からは立ち往生の車は見えない。

 テッチャンたちは、橋の上から声を限りにカーブの向こうまで迫って来た電車に向かって叫ぶが聞こえるはずもない。

「こんな時は、運行司令に連絡だ!」

 なまじ詳しいものだから、テッチャンたちはJRの運行司令に電話して停止させようとする。

 橋下では、すぐそこまで迫った列車の接近にレールがカタンコトンと音を響かせている。

 

 そこに柳沢は居合わせた。

 

 柳沢は二秒ほど見渡すと、ちょうど犬の散歩に居合わせた女の人からリードを奪って、犬を抱き上げたかと思うと、とんでもない行為に及んだ。

 なんと、犬を橋の下に投げ落としたのだ!

 キャーーー! 

 キャイン!

 犬と女の人の悲鳴が響いた!

 投げ落とされた犬は、足を痛めながらも走り去る、犬の身ではあるが橋上の暴漢から逃げたい一心でカーブの向こうへ!

 突然現れた犬に驚いた列車の運転手は警笛と急ブレーキを掛け、十数秒後に自動車の手前数十センチのところでやっと停止した。

 大惨事は避けられたが、駆けつけた警察によって柳沢は逮捕されてしまった。

 列車往来危険罪並びに動物愛護法違反の緊急逮捕であった。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  田中 美樹    真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •  柳沢 琢磨    急に現れた対立候補
  •  北白川 綾乃   モテカワ美少女の同級生
  •  橘 なつき    入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
  •  橘 健二      なつきの弟
  •  藤田先生     定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生     若い生徒会顧問

 

 

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かの世界この世界:174『目覚めた男女神』

2021-03-05 09:58:32 | 小説5

かの世界この世界:174

目覚めた男女神語り手:テル(光子)    

 

 

 あの二人はテルが起こせ。

 

 霞の向こうにイザナギ・イザナミの姿が見えてくると、急にホバリングしてヒルデが言う。

 勢いで追い越してしまい。大きくUターンして戻ってみると、ヴァルキリアの姫騎士は腕組みして考えている。

「どうした、ヒルデ?」

「いや、な、ここは日本神話の世界だ。なにかの因縁で出てきてしまったが、ここは日本人のテルが声をかけるべきだ。このアメノヌホコは、この神話を……どこまで続いているかは分からないが、偉大な出発点だろ。異民族のわたしがしゃしゃり出るべきではない」

「それは気にしなくてもいいよ」

「神話とは神聖なものだろう」

「そうなのか?」

「日本は、あまり、そういうことにはこだわらないと思う」

 そもそもの始まりは、冴子と神楽舞の巫女をやったことが始まり。

 神楽舞の巫女は十三歳の女の子が一生に一回だけやるものと定められているけど、わたしも冴子も十七歳になってもやっていた。

「そうか、それなら……」

 再び前に進もうとしたら、わたしらの騒ぎで目覚めたのだろう、イザナギ・イザナミが飛んできた。

「いやあ、あなたたちが取り返してくれたんですか!」

「はい、これが無ければ始まりませんから」

「どうも、生まれたばかりで、わたしもイザナミも血圧が低くて。イザナミ、おまえからもお礼を言いなさい」

「どうも、ありがとうございます。謹んでお礼申し上げます」

 丁寧に頭を下げる男女神。

「本来なら、わたしどもが澱の神どもを追って、自分の手で取り返さなければならないところでしたが……そちらは異国の神でいらっしゃいますか?」

「あ、ああ。北欧の主神オーディンの娘でブリュンヒルデと言う。ヴァルキリアの戦士の束ねをしている。ヒルデと呼んでくれればいい。よろしくな」

「それはそれは勇ましいことで、そのように戎装(武装)されていなければ、さぞや美しい姫様であられましょうに……」

「あ、ああ」

 ちょっと上から目線?

「イザナミ、まずは、国生みをしなければ、時間が無いぞ」

「では、わたしたちは、これで」

「お二人は雲の上でおくつろぎになってください。国生みが終わったら、お礼の宴をひらきたいと思います。ぜひ加わってください」

「え、国生みをお見せするんですか!?」

「ああ、目出度いことだ。目出度いことは、みんなで祝うのがいいだろ」

「え、ええ、あなたがおっしゃるなら」

 ちょっと、この夫婦には温度差があるような気がするけど、好奇心が――見ていけ――と言っているのに付き合うことにする。

 ヒルデはポーカーフェイスを決め込んでいるけども、イザナミの物言いに、ちょっとカチンときている。そのカチンから見届けてやろうという気になっているようだ。

 アメノヌホコは、ほとんど衝動で取り返しに行ったんだけど、この異世界に放り出されたのは意味があるはずだ。

 ヒルデといっしょに二人の国生みがよく見える、フワフワの雲の上に落ち着いた。

 

「それでは始めます」

 

 折り目正しくお辞儀をしたイザナギはイザナミを促して、二人で矛の柄を握った。

「お、結婚式のウェディングケーキに入刀するのに似ているなあ、『初めての共同作業』とか言うんだよな。そうか、これが起源だったのか!」

「ちょ、スマホで写真なんか撮っちゃダメよ」

「そうか、じゃ、キャンドルサービスの時にでも」

「いや、だから、結婚式じゃないから(^_^;)」

 バカを言っていると、二人が手にしたアメノヌホコはヌルヌルと伸びていき、はるか下方で割りたての玉子のようにドロドロしているところに下りて行った……。

 

☆ 主な登場人物

―― この世界 ――

  •  寺井光子  二年生   この長い物語の主人公
  •  二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば逆に光子の命が無い
  •   中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
  •   志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

―― かの世界 ――

  •   テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
  •  ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
  •  ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
  •  タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
  •  タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
  •  ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
  •  ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態
  •  ペギー         荒れ地の万屋
  •  イザナギ        始まりの男神
  •  イザナミ        始まりの女神 
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らいと古典『わたしの徒然草19第三十九段・睡にをかされて』

2021-03-05 06:34:22 | 自己紹介

わたしの徒然草・19

 『第三十九段 睡にをかされて』  

 

 

 或人、法然上人に、「念仏の時、睡にをかされて、行を怠り侍る事、いかがして、この障りを止め侍らん」と申しければ、「目の覚めたらんほど、念仏し給へ」と答へられたりける、いと尊かりけり。
 また「往生は、一定と思へば一定、不定と思えば不定なり」と言はれけり。これも尊し。
 また「疑ひながらも、念仏すれば、往生す」とも言はれけり。これもまた尊し。

 ちょっとコムツカシイが仏教の話であります。
 法然上人(ほうねんしょうにん)の話から入ります。

 ザックリ言って、日本の仏教の総元締めは、比叡山延暦寺であります。

 延暦寺の天台宗は、平安時代に最澄が空海と前後して遣唐使の船に乗り込み、唐と言われた中国から、輸入してきた、当時の新仏教であります。
 空海は天才でありました。わずか数年の間に仏教の神髄をきわめ、自分の頭の中に取り込んで日本に帰り、真言宗を始めました。本山は高野山にあります。
 真言宗では、空海一人が極めた(解脱した)ので、後輩たちは、一生懸命にそれに追いつくしかなかありませんでした。つまり目標は空海その人、そのものであります。

 最澄は、ちょっと違います。天才ではなくただの秀才なのです。

 天才は直感で、物事の本質をつかみ取ってしまいます。
 分かり易いところで、坂本龍馬が同じ人種であると言えます。龍馬は、あまり真面目に勉強した様子がありませんが、民主主義や株式会社の有りようを直感で理解していました。だから倒幕して国民国家を創らなければならないことも分かっていたし、海援隊という株式会社の運営にも成功しています。

 仏教=宗教というものは形而上の問題であり、龍馬が海援隊を創ったような「儲かる」というような目に見えるカタチでは分かりません。だから、空海の弟子達は今でも苦労されておられます。
 最澄は、自分では分からないけれど、中国にあった仏教のあれこれを持ち帰りました。空海のように正式な留学僧ではない最澄は、時間的にも経済的にも空海ほど恵まれてはおらず、必要と思った全てを持ち帰るわけにもいかず、帰朝後、空海に教本を借りにいったりしています。
 最澄は、それでも、持ち帰った教典の全てを極めることができず、後身に、それをゆだねました。
 法華経も、座禅も、阿弥陀経(念仏)も、その後の日本の仏教の大きなエッセンスがその中にありました。比叡山というのは、そういう点で総合大学に似ています。

 鎌倉時代に比叡山にいた法然は、その天台宗の中にある阿弥陀経をエモーションとして持ち出して浄土宗を始めました。
 エモーションということが大事なのだと思います。
 コムツカシイ教典の理解や、修行は全て捨てました。

「南無阿弥陀仏」が全てであります。

 南無は、サンスクリット語で呼びかけの「ナーム」であります。呼びかけるからには目的がある。目的は「タスケテホシイ」であります。「タスケ」とは極楽往生することであります。
「極楽」とは、どういうところかというと「わしは、行ったことがないから、ようわからん」と法然は答えます。
 そんなアホな……と、凡夫のわたしは今でも、そう思っているところがあります。見たことも、行ったこともないものを信じろというのは、現代の感覚では分かりにくいですね。

 南無阿弥陀仏の六字で書けば、もっともらしい感じですが訳せば「おーい、阿弥陀様、助けてちょうだい!」だけですからね。
「詐欺師やんけ」とも受け止められかねない。
 わたしの家は、長らく、この法然さんの浄土宗でありましたが、父の死をきっかけに浄土真宗に鞍替えしました。
 理由は簡単。母方の親類が、みな浄土真宗の坊主であるからであります。葬儀の導師は従兄弟に頼みました。安くあがるというだけではなく、親類の気安さと、浄土宗以上の簡明さがあったからです。ややこしいので、浄土宗も浄土真宗も念仏宗と括っておきます。
 法然さんは、こうもおっしゃっています。
「ほんまかいな……と、疑って念仏しても往生できる」
 すさまじい信念です。浅学非才なわたしには、正直、まだ完全には分かりません。

 今のところ、こう置き換えています。
「ゼロの概念」です。ゼロとは、何もないことで、質量も大きさも色も匂いもありません。
 でも、世間の人は、軽々とゼロの概念を信じていますね。1-1=0と言われて「0とはなんだ?」と聞く人はいません。0とは何もないことだ。何もないことが、どうして認識できるんだ? ゼロを見せろ。0? これは0を現す記号だ。記号ではなく、本物のゼロを見せろ。いや、だから……(^_^;)

 これに似ていると思います。ゼロも仏教もともにインドで発見(発明)されました。

 世の中には、憲法に平和だと書いておけば平和が保たれるものだと信じている人が、かなりいます。なんだか宗教じみているようにさえ思えます。
 それに比べれば、浄土はある(らしい) 仏の力(絶対他力)により、人はそこに行ける。このほうが、よっぽど信頼が持てるように感じます。

 そういうことに気づいていた兼好というのは、我々より、よほど近代人のように思えてきます。

 南無阿弥陀仏……。

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真凡プレジデント・12《似顔絵付きになった》

2021-03-05 06:00:31 | 小説3

プレジデント・12

  《似顔絵付きになった》     

 

 

 選挙ポスターに、とんでもないものを付け加えることになった。

 

 もし最初から決まっていたら立候補なんかしなかった!

 だって、ポスターに顔写真付けるんだよ!

 んなの嫌に決まってるじゃん!

 

「どうも、選挙が盛り上がらない。選挙ポスターの前を、みんな素通りしてる!」

 

 不満を漏らしたのは中谷先生だ。

 先生自身生徒会選挙なんて興味なかったんだけど、ポスターを描いたのは先生なんだ。

 デザインの学校を出ているらしく、ポップな書体や垢ぬけた構成は、先生自身気に入っていて、みんなに見られることにワクワクしていた。

 それが、ポスターの前を通る生徒は、ちっとも見ない。

 そりゃそうだよね、少々出来が良くてもお役所のポスターなんて見向きもされないよね。

 一般の生徒にとって、生徒会なんて役所と同じくらい縁が薄いんだ。候補者にとっては一世一代の大事業だけども、一般生徒には小学校から何度も経験した、たぶん年に二回はあるルーチンワーク。

 

「じゃ、似顔絵か写真付けよう!」

 

 中谷先生は漫研の顧問でもあるので、部員を総動員して(と言っても三人しかいない)似顔絵を描かせることにした。

 漫研の子たちは、わりにキチンとしていて、事前にアポを取って候補者の都合のいい時間・場所を確保してくれる。

 静かなところがいい。

 注文を付けると、応接室になった。なつきと北白川さんが付き添ってくれている。

「……こんなのでどうでしょ?」

 仕上げたラフスケッチを見せてくれる。

「こ、これは……」

「「どれどれ……」」二人の付き添いも首を突っ込んでくる。

「めっちゃかわいい~~~!」

 なつきが無邪気に反応する。

 確かに可愛い。なんちゅうか……『俺の妹がこんない可愛いわけがない』の新垣あやせみたいだ。

「はい、真面目な清楚系でまとめてみました!」

 漫研は自信たっぷりの笑顔だ……たしかによく描けてはいるんだけど、これは選挙ポスターと言うよりは、漫研さんの作品だ。わたしに似ているところと言えば制服とヘアスタイルだけ。これじゃ実物を見たら「詐欺!」と言われかねない。

「そっか、じゃ描きなおします」

 漫研は嫌な顔一つせずにペンタブをリセットした。

「はい、描けました」

「「「おおおおおお」」」

 わたしも付き添いも歓声を上げた、確かによく似ている。

 似てはいるんだけど、これって、モブというかNPCと言うかその他大勢と言うか……特徴が無い。

 目は黒ゴマかというくらいの、ただの楕円で、鼻も、ただの〇。口は鼻の〇を横倒しにして伸ばした感じで、あいまいにボンヤリと開いている。

「もうちょっと笑顔にしたら?」

 なつきが提案してくれる。

「笑顔ですか……こんな感じ?」

「「「ああ…………⤵」」」

 笑顔にしたとたん、らしくなくなる。

 わたしって、笑顔の似合わない女なんだ、お姉ちゃんとちがってね。

 漫研さんは、その後も懲りずに五枚も描いてくれた……ますます遠くなる。漫研さんも、これ以上は描きようがないという感じに眉毛がヘタレる。さっきのあやせにしとけばよかったけど、今さら言えない。

「じゃ、こうしない?」

 

 北白川さんが涼し気に提案する。

 

 実物の写真込みで六枚前部を載せるというアイデアだ。

 なつきも北白川さんも決まり!という顔をしている。

「でも……写真は……」

 漫研さんが異を唱える。

「こうしません? 当選なさったら写真付きで、改めて掲示させてください」

「終わってから?」

「はい、どれが一番現物のイメージに近いか投票してもらいます」

 気は進まないが、柳沢琢磨が対立候補なのだ、わたしの当選は、まずあり得ない。だから簡単に「はい、いいですよ」と返事をした。

 じっさい、あとで仕上がった候補者たちの似顔絵や写真を見ていると、みんなラノベの表紙を飾れるくらいにカッコいい。

 柳沢琢磨は似顔絵と写真の二本立て。

 なんでも「わたしの力では先輩の魅力は表現しきれません! どうか写真と二本立てで出させてください」ということになったかららしい。

 わたしのは、タッチの違う六枚の名刺大のイラスト。他の候補者のポスターと並ぶと、柳沢琢磨が主役で、他の候補者が主な登場人物。わたしのは、その他大勢のモブキャラ紹介(^_^;)

 どうも、わたしの負けは選挙本番を前に確定してしまいそうだ……

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  田中 美樹    真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •  柳沢 琢磨    急に現れた対立候補
  •  北白川 綾乃   モテカワ美少女の同級生
  •  橘 なつき    入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
  •  橘 健二      なつきの弟
  •  藤田先生     定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生     若い生徒会顧問

 

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