大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

らいと古典・わたしの徒然草47『くさめくさめ』

2021-03-15 06:09:19 | 自己紹介

わたしの然草・47
『くさめくさめ』     

 



徒然草 第四十七段

 或人、清水(きよみず)へ参りけるに、老いたる尼の行き連れたりけるが、道すがら、「くさめくさめ」と言ひもて行きければ、「尼御前、何事をかくはのたまふぞ」と問ひけれども、応へもせず、なほ言ひ止まざりけるを、度々問はれて、うち腹立てて「やや。鼻ひたる時、かくまじなはねば死ぬるなりと申せば、養君の、比叡山に児にておはしますが、ただ今もや鼻ひ給はんと思えば、かく申すぞかし」と言ひけり。
 有り難き志なりけんかし。

 まずは解説から。

 ある人(兼好自身かも)が、知り合いの尼さんを連れて、京都の清水さんにお参りにいく途中、この尼さんが、しきりに、こう呟く。
「くさめ……くさめ……くさめ……」
 で、その人は、尼さんに聞いた。
「オバチャン、なんで、そんなに『くさめ…くさめ……』て言うのん?」
 それでも、尼のオバチャンは「くさめ……」をやめない。
 で、その人は、何度も、その尼のオバチャンに聞いた。そして、ようやく答えが返ってきた。
「わたいが、むかし世話してたボンボンが、比叡山(延暦寺、日本の仏教の卸元みたいなところ)に稚児、分かりまっか。坊主の見習いの見習い。相撲でいうたら序の口。野球でいうたら、新人の二軍選手。落語でいうたら前座。物書きでいうたら大橋むつお。そのお稚児はんにならはりましたよって、風邪でもひいて病気にならはったら、あかんさかいに言うてますのや」
 なかなか、見上げた心がけ。ありがたい話やなあ。

 と、こんな内容でありますが、さらに解説がいります。
 比叡山延暦寺は、シキタリにうるさいところで、修行中に余計な言葉は、独り言であっても言ってはいけない。
 当時は、クシャミをすると寿命が縮むといわれ、クシャミをしたら「くさめ」というお呪いをいうことが普通でありました。
「くさめ」というのは「糞はめ」が転訛したもので、今の言葉では「糞くらえ」になります。
 今は、あまり使いませんが、縁起でもないことを誰かがいうと「つるかめ、つるかめ」と言うことがあります。怖い話をきくと「くわばら、くわばら」になる。これと同じですね。
 で、この「くさめ」は、クシャミをした本人でなくとも、側にいっしょに居る人が言ってもいいことになっていました。まあ、小さな親切といったところでしょう。
 それを、この尼のオバチャンは、遠く比叡のお山にいる稚児のボンボンのために代わりに言ってあげていたのであります。比叡山は、湿気と寒さがひどく、風邪をひいたり、それがもとで肺炎なんかになる者もいたらしいです。しかし、修行中の身。たとえ風邪の前兆であるクシャミをしても、「くさめ」のお呪いが言えないのですねえ。
 で、この人は思った。
 なかなか、見上げた心がけ。ありがたいことやなあ……と。

 今の時代、こういうことはあまり見聞きしなくなりました。「くさめ」にしろ「つるかめ」にしろ「くわばら」にしろ。これが通じる前提には、仲間というかコミュニティーの存在が前提になると思うのですが、どうでしょう。
 関西では、あまり知られていませんが、関東では「えんがちょ」という言葉があります。
『千と千尋の神隠し』の中で、千尋が、ハクの体内から出てきた呪いを踏みつぶし、カマ爺と千尋の会話にこんなのがあります。

カマ爺  エンガチョしろエンガチョ!
千尋  (両の手で輪っかをつくる)
カマ爺  切った!(手で、千尋の手の輪を切ってやる)

 これは、関東の子どもの間で、たとえば犬のウンコを踏んだり、毛虫を踏み潰したときなどに友だち同士でやったんだそうです。友だちの中で、なにかのイサカイがあり、特定の子を仲間はずれにするときも、この「えんがちょ」をやることもあったとか。大阪人であるわたしには、この「えんがちょ」が、まだ現役の言葉なのか、悪い意味で使われているのかは分かりません。でも、コミュニティーの存在があって生きている言葉であると思うのですが、どうでしょう。 

 で、現代社会では、この種の言葉が減ってきた、または変質してきたように思います。
 現代社会で残っているのは、千羽鶴を折ってあげることや、女の子が、好きな男の子にミサンガを編んであげることに変形している。または、募金をつのったり。
 それらのことは、けして悪いことではないでしょう。しかし、なにか心理的な構えが、そこにはあるような気がします。
 ミサンガを編んであげるのは、そこにいくまでの関係の発展……つまり、お互いが相手を異性として認め合うという手間のかかるプロセスが必要で、また、個人の間の、ひどく狭い関係の間に成り立つことでもあります。
 千羽鶴や募金は、それを実行するために仲間同士でアラタマッタ話をした上で行われることで、「くさめ」や「えんがちょ」のように、反射的に出てくるものではありません。
 そういうところに、なにか寂しいものを感じるのですが、考えすぎでしょうか。
 
 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

真凡プレジデント・22《武士の情け》

2021-03-15 05:48:41 | 小説3

レジデント・22

《武士の情け》   

 

 

 アハハハ……アハ……ハ。

 

 この愛想笑いは、なつきが誤魔化そうとしている証拠だ。

 誤魔化しきれずに空気が漏れるようになっているのはかなりヤバイ。

「数学、何点だった?」

 それでも教室の前でははばかられるので、階段を下り始めて、密やかに、でも、きっぱりと聞いてやる。

「えと……三十五点」

「ハーーー」

 ため息はつくが、感想とかは言わなで、そのまま食堂に向かう。

 そして、いつものようにランチを食べてから、何事もなかったかのように雛壇に向かう。

 雛壇と言うのは、校舎とグラウンドの境目で、五段ほどの雛壇になっている。中庭ほどじゃないけど、数少ない校内憩いの場所だ。横に長いので、人に聞かれない話をするにはうってつけ。

「で、欠点はいくつだったのよ?」

「あ、えと……えと……」

「指で数えなきゃならないほどとったの!?」

「あ、あわわわ……た、たしか、五つ……でも、ニ十点台は一個だけで、あとは三十点台だから」

 指折った手をワイパーにして弁解する。

 

 さっきの数学で中間テストは全部返って来たので、なつきには報告の義務がある。

 

 答案が返却される度に聞いてやっては気づまりだろうし、一喜一憂しても全体の成績が分からないでは意味がないので、点数やら結果は、最後の答案が返ってくるまでは聞かないことが不文律になっている。ま、武士の情けよ。

「で、でもさ。三十点台ばっかだから、期末で挽回できるよ、うん、きっと!」

「そう言って、三教科落として仮進級になったのは、ついこないだだったんじゃなかったしら~」

「そ、そのジト目怖いからあ(;゚Д゚)」

「落第させたら、オバサンに合わせる顔ないからさあ、善処してよねえ!」

「う、うん、分かった! 生徒会役員にもなったしね、生徒会加算なんてあったりするんでしょ? 三十九点でアウトになりそうなときは切り上げて四十点にしてもらえるって、風の便りに聞いたよ(^#^)」

「んなもん、あるかああああ!」

「えーーー無いのおおおお!?」

 

 わたしが思っているようなことは、担任も思っているので、放課後なつきは呼び出され、待ってやる……なんてことはしないで、サッサと下校。

 

 公園に差し掛かると、柳沢が慣れない手つきでペスを散歩させているのを見かける。

 武士の情け、見えなかったことにして駅に向かう。

 電車の中では、懸案になっている体育祭の事が浮かんでくる。

 まだ先の事だけども、体育祭のプログラムは一昨年からの懸案になってる。棒倒し、騎馬戦とかが危険で廃止の方向、先生をオモチャにしての着せ替えリレーもグロハラで廃止の声だし、リレーは人気がない。

 生徒会ができることは、そんなにはないけど考えてみる。わたしはバカじゃないけど、放置しておいて名案が浮かぶほどでもない。

 考えながら改札を出ると、見てはいけないものを見てしまう。

 姉貴がまたジャージ姿でほっつき歩いているのだった……こいつに武士の情けは要らない。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡(生徒会長)   ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  福島 みずき(副会長)   真凡たちの一組とは反対の位置にある六組
  •  橘 なつき(会計)     入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き 
  •  北白川 綾乃(書記)    モテカワ美少女の同級生 
  •  田中 美樹         真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •  柳沢 琢磨         対立候補だった ちょっとサイコパス 
  •  橘 健二           なつきの弟
  •  藤田先生          定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生          若い生徒会顧問

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

滅鬼の刃・18『我が街のことから』

2021-03-14 09:32:26 | エッセー

 エッセーノベル    

18・『我が街のことから』   

 

 

 阪神大震災の前の年に所帯を持って今の家に越してきました。

 

 行政区分で言うと、大阪府八尾市の高安あたりになります。

 俗な言い方をしますと河内のど真ん中です。ちょっと距離のある近所に中河内最大の前方後円墳である心合寺山古墳がありますから、古代から河内のマンナカなのでしょう。

 全国的な評判で言いますと、荒っぽいと言うか元気がいいと言いましょうか、平たく言いますと、日本でも有数のガラの悪い地域と認識されていましたし、今でもそういうイメージをお持ちの方が居られるでしょう。

 じっさい、心合寺山古墳よりはるかに近い近所に近東光が和尚をやっていたお寺がありますし、街ぐるみ今東光の『悪名』の舞台であったりします。

 軍鶏と書く勇ましい鶏がいます。肉にもしますが、河内では格闘用に飼育される鶏で、まさに軍隊の兵隊のように闘います。網で囲った輪の中に二羽の軍鶏を放って闘わせます。むろん、ただ闘わせるのではなくてお金を賭けます。闘鶏といいます。娯楽と博打を兼ねた河内の文化でもありました。『悪名』も、この闘鶏の描写から始まっていたように思います。河内のあちこちで行われていましたが、今はもう伝説になっていると思います。映画の『悪名』の他はNHKの『新日本紀行』の映像で見たきりです。

 大学生のころ、所用で、その近所のS女子高の先生を訪ねに行ったことがあります。その女子高は東光和尚に「嫁さんにするんやったら、S高校の卒業生やろなあ」と言わしめた学校です。

 訪ねた時間帯は、放課後をちょっと過ぎた時間帯で、下校する生徒の流れに逆らって歩きます。道は玉櫛川の沿道で、道幅は三メートルもありません。部活の用事で他校を訪れることはしばしばだったのですが、他校とは違う圧を感じたことを憶えています。制服も頭髪もきちんとしていて普通なのですが、吸って吐く空気の量が多い感じで、マンガ的大げさで言うと、彼女らに空気をとられて狭い道は摂津の優男には息苦しいという感じなのです。

 学校に着くと、先生の居られる化学準備室を訪ねます。

 ちょうど掃除当番が終わったところで、数人の生徒が掃除完了の報告に来ました。

「お、男!?」

「こら」と先生。

「せん、掃除終わったし」

「ごみほりやったか?」

「え、まだええんちゃうん?」

「半分でも溜まってたらほりに行く」

「はーい(横の相棒に)、ちょ、おまえ付き合え」

「え、あしも?」

「ったりまえじゃ、当番やろがあ」

「せん、また、なんか奢ってなあ(^▽^)/」

「駅前にケーキ屋できたしい」

「期末でオール5取れたらなあ」

「いやあ、死んでも無理!」

「いっぺん死んでこい」

「きっつー!」

「もう、さっさと行け」

「「「「失礼しました」」」」

 バタン(ドアが閉まる)。

 ドアの向こうでワイワイ賑やか「で、あの男なんやろなあ」「おまえ、趣味かあ」「おお?」的なお喋りがフェードアウトしていく。

 文字に起こすと乱暴なのですが、圧はあっても威圧感はありません。先生に喋る時も「あ、男!?」と感心を持つときも、しっかり対象物に目線が向いています。

 ちなみに「せん」と言うのは「先生」のことです。言っている本人は「先生」と言っているつもりなのですが、知らない人には「せん」と聞こえます。落ち着いている時は「せんせ」、甘える時は「せんせえ」と言います。

「あし」は「あたし」の意味で、時に「わし」になります。本人は「あたし」「わたし」と言っているつもりで、地元の人間が聞くとちゃんと「あたし」「わたし」と聞こえています。

 司馬遼太郎さんがエッセーで書いておられました。

 司馬さんは八尾の北方の八戸ノ里にお住まいでした。高安からは二つほど北隣の街になります。

 散歩の途中、近所の若奥さんに「こんにちは」とご挨拶された時の事です。

「河内に落ちてまいりましたが、近頃は……」

 と、最近は慣れてきたという話をされました。この若奥さんは東京あたりから来られた人で、河内の風土は、ちょっと堪えた風がありました。思わず「落ちた」という表現をなさいましたが、この人が感じたカルチャーショックを現すもので、司馬さんはそのショックのおかしさを愛でておられたように思います。

 まあ、他の地方から見れば荒々しい気風であると思われて敬遠される風がありましたし、イメージとしては、まだそのままなのかもしれません。

 わたしは、河内に隣接する摂津の出身ですので、先述の若奥さんのようなショックを受けることはありませんでした。

 駅前には『美人館』という散髪屋さんがあります。ちょっと意表を突く屋号ですが、これは東光和尚が、店の女主人に頼まれて半世紀以上前につけたままです。

 悪名の主人公朝吉のモデルのおっさんは、この街が地元です。友人が地元の府立高校に通っていたのですが、ある日学校行事の講演会にやってきた爺さんが、このモデル氏だと分かって、生徒は男子も女子も大感激であったそうです。

 我が街の昔の空気から、現在(いま)を書いてみたいのですが、書き出すと、いろいろ出てきます。

 次回に続きます。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

らいと古典・わたしの徒然草46『強盗法印』

2021-03-14 06:15:48 | 自己紹介

わたしの然草・46
『強盗法印』     



徒然草 第四十六段

 柳原の辺に、強盗法印と号する僧ありけり。度々強盗にあひたるゆゑに、この名をつけにけるとぞ。

 上京区の柳原のあたりに、強盗法印と、あだ名を付けられた坊主がいる。度々強盗に遭うため、こんなあだ名が付いたそうだ。

 口語訳するとこれだけであります。

 いろんな人が意訳しておれれます。この坊さんは優しい人で、貧しい人を見れば、放っておけず、身ぐるみ脱いで与えてしまう。寺にかえって「どうなさったんですか!?」と、聞かれると、「いや、そこで強盗に遭っちゃってさ……」と、はにかみながら誤魔化していた、という人情話めいたものから、しょっちゅう強盗に遭っている不用心な間抜けな坊主である。というものまで。

 この段は、前の四十五段と対になっており、あだ名のおもしろさを言っているのだと思います。四十五段の「榎木の僧正」が、気短で了見の狭い坊主のことを言っているので、この「強盗の法印」は逆のイメージの坊主のことを言っていると受け止めるとバランスがとれるのですが、たった二行では、まったくの想像にしかなりません。

 あだ名については、前号で書いたので、ここでは話を広げて名前について、タワムレに考えてみたいと思います。

 中宮定子は、学校では「ていし」と習いました。もう五十年前の話です。そのころNHKの歴史教養番組で、「さだこ」と読んだ説が有力であると聞いて、教育実習で「さだこ」という説もあると言って、担当の先生に叱られました。
 今は「~子」と書いて「~し」ではなく「~こ」と読むのが主流になりつつあるようで、その後制作されたNHKの大河ドラマ『平清盛』では、女性の名前を「~こ」と呼んでいました。
 NHKの大河ドラマは、第一作『花の生涯』から観ています。実に六十年間……日本史の教師になろうと思ったのが、この番組ですので、わたしには意義深い番組であります。
 歴代の大河ドラマの中で、固有名詞の言い方が変わってきました。パッと思いつくもので、秀吉のカミサンの名前が「ねね」から「おね」に変わりました。浅井長政が「あさい」から「あざい」になりましたし。記憶は定かではないのですが「定子」のたぐいは再び「ていし」と呼んでいたような気がします。

 平安時代からは千年ほどもたってしまったので、当時の日本語でドラマをやるわけにはいきません。ちなみに、平安時代は濁音の前には「ん」が入ります。ゆうべは「ゆんべ」 そうだは「そうんだ」になり、前半分の「そう」が弱くなり「んだ」になる。勘のいい人はお分かりになるでしょうが、東北弁にこの音則が残っています。東北弁こそが、原日本語の姿を多く残していると言われるのです。そのせいか、東北弁を聞くと、なぜか心がゆったりとくつろいできます。『スゥイングガールズ』は、この東北弁でなければ、あれだけの人気は出なかったでしょう。また『三丁目の夕日』のロクちゃんの堀北真希は、東北弁であったればこその存在感でした。実際彼女がこの役に抜擢されたのは東北弁に堪能であったからだそうです。

 話がそれています。要は「定子」を「ていし」と読む感覚です。この読み方は、古くは本居宣長あたりに由来すると思うのですが、それをそのまま二百年以上、そのままに受け継いできた学者先生の感覚は、普通の日本人の感覚からはズレているように思います。古典に関しては素人のわたしなので、いわゆる有職読みの規則は分かりません。しかし分からないことは強いことでもあります。飛躍するようですが、分からなかったこそ、学校で唯物史観を刷り込まれることもありませんでした。だから、日の丸、君が代には、優等生的な偏見がありません。

 名前でいうと、西郷隆盛の名前は隆盛ではありません。「隆永」というのが本当の諱です。明治になって戸籍が新しく作られるとき、西郷さんは忙しいので友人に役所に行ってもらいました。で、江戸生まれの戸籍係は、こう聞きました。
「西郷さんの諱(いみな=普段使わない本名)はなんですか?」
「セゴどんの 諱なあ……隆盛じゃっどん」
 と、うろ覚えで答えました。 諱などは、めったに使いません。西郷どんは通称吉之介で、日ごろは『吉之介さー』と呼ばれています。
「おいの 諱は隆永じゃっど。隆盛は祖父様の諱じゃ。アハハ」
 で、すんでしまいました。弟の従道にいたっては、もっと傑作です。
「では、西郷さんの弟君の諱は、なんと申されますか?」
「あれは、隆道(たかみち)じゃっどん」
 これが江戸っ子の役人には聞き取れません。で、役人は聞き返しました。
「音読みするれば、リュウドウじゃ」
 役人は、これをジュウドウと聞き間違え「従道」と、なりました。
 以上は、司馬遼太郎さんの文章を読んで覚えたことですが、日本人の名前に対する感覚が象徴的に現れていると思うので紹介しました。

 話が、飛んで申し訳ありませんが、いまの子たちのムツカイ名前はなんとかならないでしょうか。

 寿里亜(じゅりあ)はまだしも、穣(じょ-) 星菜(せれな) 稀星(きらら)などはお手上げ。昔も読みにくい名前はありましたが、ファッション性ではなく、親の子どもへの思いがこもっていました。
 西条八十(さいじょうやそ)などは、生まれた子に苦(九)がないようにとつけられたそうです。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

真凡プレジデント・21《柳沢に10%、綾乃に90%》

2021-03-14 05:44:49 | 小説3

レジデント・21

《柳沢に10%、綾乃に90%》   

 

 

 

 ゴンはひどいんだ!

 

 小さな声だが、吐き捨てるように言った。

 見かけは大人しそうな小学生が「あ、ぺス!」と叫ぶと、上目遣いでわたしに訴える。

 柳沢に押し付けられた子犬を抱いて、三丁目の畑中さんちに来ている。

 ドアホンに用件を伝えると、おずおずと出て来たのがこの小学生。畑中さんちの子なんだろうけど、子供らしからぬ憎しみが籠っている。

「ペスっていうんだね、この子。えと、うちの学校の生徒についてきちゃってね……」

 付いてきたとはいえ、よそ様の飼い犬だ、事情は話さなきゃいけないと切り出した。

 

「事情は分かってるよ、あのニイチャン、ゴンを投げ落として、事故を防いだんだよね」

 

 基本分かっているようなので、話は早いと思った。さっさと子犬を渡して帰ろう。

「ちょ、来てよ、こっちこっち……」

 男の子は隣の家を警戒しながら、隣の家からは陰になる庭に、わたしたちを誘った。

「大きな声じゃ言えないんだけどね、ゴンはペスをイジメるんだ。ほら、あちこちに傷跡があるでしょ、みんなゴンにやられたんだ」

「え、そうなの!?」

 四人とも驚いたんだけど、男の子はみずきとなつきの顔を交互に見ている。

「ペスも分かってるんだ、あのニイチャンがゴンをやっつけてくれたこと。だから、うちの前を通りかかった時、嬉しくって道路に飛び出していったんだ」

「え、ほんと!?」

 なつきは、こういう話には弱い。そういう同調的なリアクションのせいか、男の子は、ますますなつきとみずきにすり寄って、肝心のペスを抱いたわたしをシカトする。

「ゴンが入院してる間に、ペスを知り合いに預けようって出たところだったから」

「そっか、じゃあ、これから、その知り合いに預けに行くんだ」

 はっきり声を掛けたのに、ガキは聞こえないフリをする。

 いいんだけどね、他の女子と一緒にいると九分九厘、わたしは注目されない。いいんだよ、それは、慣れっこだから。でもね、わたしはプレジデントで、当のペスを抱っこしてるんだよ!

 

 あ、居たあ!

 

 道路の方で声がした。振り返ると生け垣の向こうに綾乃と柳沢。

「あ、ニイチャ……と……美、美少女だあ( ゚#Д#゚)!」

 ガキは完全に柳沢に10%、綾乃に90%の関心を奪われ、瞳孔と口を開きっぱなしにしやがった!

 それからは、なつきもみずきもシカトされ、柳沢と綾乃を相手に話が進む。

「そうか、偶然とは言え、俺はペスの敵を討ったというわけか……」

 腕組みしながら感心する柳沢は綾乃と共に、その場の主役になってしまう。なつきとみずきも脇役で、わたしは舞台の書き割り以下に成り下がる。

 その後帰って来たガキの母親が加わり「そんなに懐いているんだったらぜひ預かってもらえないでしょうか?」という話に発展、犬嫌いの柳沢は目の前に壁を塗るようにして拒絶したが、綾乃の親切だか意地悪だか分からないトークによって引き受けざるを得なくなった。

「柳沢君、気持ちの表現がメチャクチャ苦手なんですけど、ペスの事はすっごく嬉しいはずです、責任もってお預かりします(*^▽^*)」

 ドラマの締めくくりみたく笑顔でお辞儀する綾乃。エキストラのわたしたちは、ただただ調子を合わせるのみ。

 ああ、こういう時に前に出なきゃプレジデントの意義はない。

 ま、なったばかりのプレジデント。

 次回、いずれの機会には挽回しよう!

 とりあえず、このニュース、お姉ちゃんには『伝えない自由』を行使することにする。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  田中 美樹    真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •  柳沢 琢磨    対立候補だった ちょっとサイコパス
  •  北白川 綾乃   モテカワ美少女の同級生 書記
  •  橘 なつき    入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き 会計
  •  橘 健二      なつきの弟
  •  福島 みずき   生徒会副会長
  •  藤田先生     定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生     若い生徒会顧問
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

やくもあやかし物語・68『春一番お化け』

2021-03-13 09:30:35 | ライトノベルセレクト

物語・68

春一番お化け』    

 

 

 春はライオンのようにやってきて羊のように去っていく。

 イギリスの格言なんだけど、これって、春の風のことなんだよね。

 日本では『春一番』というんだよ。

 今週、その何番目かの『春一番』が吹き荒れている。

 日本海の低気圧が影響しているって天気予報で言ってた。去年は、この日本海低気圧だかが発達し損ねたのか春一番は無かったらしい。

 それを挽回しているのか、今週に入ってからの『春一番』は元気と言うか質が悪い。

 ボッ ボオオオオオオオオ!

 まるで、オートバイの急発進みたいな音をさせて、突然襲ってくる。

 キャアアアア キャ ウワアアアアア

 通学路のあちこちで、女の子の悲鳴が上がる。

 吹きっぱなしの風なら対応の仕様もあるんだけど、突然、暴走族の急発進みたく襲われるのは対処の仕様が無い。

「昔は、スリップとか下に着てたからねえ」

 お婆ちゃんが昔を懐かしむ。

「そうそう、あれはタイトだったから、スカートみたいに翻らないのよ」

 お母さんが同意する。

「あれはあれで色っぽかったぞ(n*´ω`*n)」

 お爺ちゃんがまぜっかえす。

「そうそう、清水みえこって言い回しがありましたよ」

「なに、それ?」

 わたしの知らない世界だ。

「むかしのむかしは、スリップをシミーズって、言ってね……」

「ああ、スカートの裾から出ちゃう子がいたんですよね」

「そうそう、そういうのを後ろから注意してあげるのに『清水みえこさん』なんて言ったげたものよ」

「ああ、あれはあれで、色っぽかったなあ(#ω#)」

「昭介さん、孫娘の前ですよ!」

「ああ、すまんすまん」

 思い当たった。

 アニメとかで、スカートの下にフリフリの付いた白のアンダースカートみたいなのがあるんだけど、きっと、それの反映なんだ。

 

 そういう一家だんらんの会話があったから、あくる日は注意して学校に向かった。

 途中、何度か突風が吹いてきて、何人かの女の子は犠牲になったけど、わたしは大丈夫だった。

 安心したところを、ボッっとガスが点いたみたいに突風。

「キャ」

 かろうじて、手で庇う。

「あ、おは……」

 すぐ横を杉野君が足早に追い越していく。怒ったように赤い顔して返事もしないで行ってしまう。

 見られたかなあ……

 

 角を曲がったら校門が見えてくる、あとちょっとというところで、何度目かの突風。

 五人くらいの女の子が風にやられる。

「あれ?」

 ひとりの女の子にビックリした。

 翻ったスカートの中は、膝から上が無い。

 よく見ると、少しめくれたセーラーの上とスカートの間にも体が無くって、向こうの景色がスリットで覗いたみたいに見えている。CGの人間に、こういうのあるよね。見えるところは作られてるけど、見えないところはポリゴン節約するために作られてないの。でも、わたしが見ているのはCGなんかじゃない。

 妖だ。

 女生徒に化けて学校に入ろうとしているんだ。

 リボンを直すふりをして、セーラーの上から勾玉を掴む。

 ボッ ボオオオオオオオオ!

 ひときわ強いのが吹いてきた!

 そいつは、首、両手、腰、両足に分解して、それが紙風船かなんかだったみたいに軽々と飛ばされて行ってしまった。

 飛ばされる寸前、そいつの顔がこっち向いて、とっても恨めしい目で睨んできた。

 口もパクパクしていて、なにか呪をかけられたのかもしれないけど、勾玉のお蔭で声にはならなかった。

 ああ、よかった。

 昇降口で再び杉野君を見かける。

 今度は、お早うと言ってくれる。恥ずかしそうだったけどね。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

らいと古典『わたしの徒然草・45榎木僧正』

2021-03-13 07:52:06 | 自己紹介

わたしの然草・45
『榎木僧正』     



 徒然草 第四十五段

 公世の二位のせうと(兄弟)に、良覚僧正と聞えしは、極めて腹あしき(気短な)人なりけり。
 坊の傍に、大きなる榎の木のありければ、人、「榎木僧正」とぞ言ひける。この名然るべからずとて、かの木を伐られにけり。その根のありければ、「きりくひの僧正」と言ひけり。いよいよ腹立ちて、きりくひを掘り捨てたりければ、その跡大きなる堀にてありければ、「堀池僧正」とぞ言ひける。

 これはあだ名の話です。公世(きんよ)の二位という人の兄弟で、良覚僧正という気短な坊主がいたのですが、この坊主の住まいの近くに大きな榎の木があって、世間のみなさんは「榎木僧正」と呼んでいました。
 ところが、御本人は気に入らず、この木を切ってしまいました。で、根っこだけ残ったので「きりくひの僧正」と呼び変えました。
 で、この坊さんは、その根っこも掘り返して、そこには大きな穴が開いてしまいました。世間の人たちは坊さんを「堀池僧正」と呼ぶようになりました。

 ここには、三つのあだ名が出てきます。その変わり具合と、良覚僧正の気短な反応が面白くて、兼好さんは書いたのであります。特に感想は書かれていません。

 しかし、よく読むと、最初のあだ名と、あとの二つではニュアンスが違います。
「榎木僧正」は、ただ榎木の近くに住んでいる坊さんというだけで、坊さん自体への皮肉や批判めいたニュアンスはありません。
 しかし「きりくひの僧正」「堀池僧正」には、坊さんがやったことへの皮肉がこもっているように思います。
 要は、つまらないことに腹を立てて、皮肉めいたあだ名になったことの面白さを書いたのだろうと思います。兼好の人の可笑しさを見る目と温もりを感じさせる段ですね。

 現場を離れて十年以上になりますので、今の高校生を始め、若い人たちが身の回りの人たちにどんなあだ名を付けているかは、よくは分かりません。わたしの経験では、たいてい氏名の上か下か、またはそのモジリで済ませてしまうことが多かったように思います。カヤナ、カリン、ユノキなどで、おおむね生徒同士だと名前。先生には苗字の呼び捨て、ただし、下に「ちゃん」「センセイ」がつくと親近感と敬意がこめられています。
 AKB48でも、トモチン、アッチャン、タカミナ、マリコ様など、名前を転訛させたものが多いですね。しかしよく調べるとガチャピン(見た感じから) アイドルサイボーグ(あまりのラシサから)などというものもありやや工夫が感じられます。

 わたしが高校生だったころに、あだ名付けの名人が何人かいました。
 トンボコーロギ……見た目の印象。しかし、曰く言い難い印象はトンボコーロギはぴったりでした。
 国防婦人会……押し出しと、声のはり方、決めつけ、思いこみの強さから。
 チョ-ビゲンタム……原田武という名前の先生だったがチョビ髭を生やしていたので、チョビ髭と名前を音読みしてくっつけ、メンソレータムの音にあやかった。
 八重桜……雅やかなあだ名ですが、これは凝っています。八重桜はハナより先にメが出る。で、お分かりいただけるでしょうか。ただし、後年、このあだ名はさる文学作品からの盗用であることが分かりましたが、その作品を読んでいただけでも名付け名人を尊敬しました。

 わたしは、子どものころは睦夫のモジリでムッチャンでした。ムッチャンというのは、睦子とか睦美とか、女の子の名前のニックネームである場合がほとんどで、男の子がムッチャンとよばれることは希で、正直、気恥ずかしかった。

 明治天皇の諱が睦仁です。大人になってから気づきました。明治大帝をムッチャンとは畏れ多いのですが(^_^;)。生前の父に聞いたところ明治天皇の諱に関係があるらしいのですが、長くなるので、別の機会に書きたいと思います。

 長じて、大橋さんと、ごく当たり前によばれるようになったが、大阪弁では、これが縮まってオハッサン。さらに縮まるとオッサンになります。
 しかし、大橋さんが縮まったオッサンと、ただのオッサンでは微妙に響きが違うのは、言われた本人にしか分かりません(^_^;)。

 先日、新聞で『あだ名禁止』の中学校が現れたという記事がありました。

 差別的なあだ名が人を傷つけるからというのが理由です。

 間違っていますね。問題は差別的な意識なのです。たとえ『大橋さん』とか『大橋君』とか呼んでも、侮蔑的な意識があればあだ名で呼ぶよりも差別です。さっき書いた『オッサン』などがそれですね。

 教員採用試験の面接で聞かれたのが、履歴に「非常勤講師」とあったせいでしょうか「生徒からあだ名をつけられていますか?」でした。面接の先生は、そのへんの機微をご承知だったのかもしれません。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

真凡プレジデント・20《走り終えたアンカーのように》

2021-03-13 06:29:42 | 小説3

プレジデント・20

《走り終えたアンカーのように》   

 

 

  柳沢が犬に追いかけられている。

 

 一瞬困っているんだろうかと思ったんだけど、どうも様子が変だ。

 犬に詳しくないんで犬種までは分からない、尻尾が巻いているから日本犬の一種なんだろうけど、千切れんばかりに尻尾を振っているところを見ると、柳沢に敵意があるんじゃなくて、どちらかと言うと懐いている?

 むろん柳沢は嫌がっていて、グラウンドを逃げ回っているんだけど、犬は巧妙に柳沢の進路を塞いでいるように思える。

「お、おい、君たち、こいつを何とかしてくれええええ!」

 もうヘゲヘゲという感じで助けを求める。

「これは見ものだわあ(・∀・)」

 綾乃は意地悪くニヤニヤ、まあ、微笑ましいとも思える状況なので、すぐには動かない。

「やれやれ……」

 やがて、なつきが揉み手しながら柳沢と犬の間に入って、グラウンドを半周するうちに捕まえてしまった。

 家が食べ物屋なので飼うことはできないけど、かなりの動物好きなのだ。

 

「いやあ、助かったあ、ありがとう…………」

 

 両手を膝の上に置いてゼーゼー言ってる柳沢。

 もう全身汗みずくで、喘いでいるんだけど、この男は、こういう時でもカッコいい。箱根駅伝をトップで走り終えたアンカーのように、滴り落ちる汗までが健康美のエフェクトになっている。

「しかし、どうしたんですか?」

 とりあえず事情を聴く、なんというか、こういう状況では事情を聴くのが常識だと思うからね。会長になったからには、そいう心配りも必要だと思うのよ。

「犬の飼い主にお詫びに行こうと思ってさ、ずっと拘留されてたから、まずは、そこからと思って」

 柳沢が投げ落とした犬は、後足と肋骨を骨折して動物病院に入院しているのがSNSに投稿されていて、痛ましくも可愛い姿に、世の犬ファンや愛好家から数千の〔いいね〕を獲得している。

「ところが、その飼い主の家の近くまでいくと、隣の家から、そいつが飛び出して来てさ」

「追いかけられて、ここまで?」

「あ、ああ。俺、基本的には犬が苦手でさあ」

「ああ、この子、あちこちに噛まれた跡があるよ!」

 犬を抱っこしていたなつきが犬を捧げるようにしてみんなに見せた。確かに治りかけてはいるが痛々しい傷跡がうかがえる。

「とにかく、それじゃ不審尋問されかねないでしょ、体育科に行ってシャワー借りれるようにしますから、サッパリしてはいかがですか?」

 ようやく笑いが収まったみずきが提案する。

「あ、そうだな。ロッカーから着替えを取ってくるよ」

「じゃ、それまで犬は預かっています」

「甘えるようで悪いんだけど、三丁目の畑中さんて家なんだ、返しに行ってくれるとありがたい」

「え……あ、分かりました」

 ちょっと怯んだなつきだが、わたしが目配せすると、コクンと頷いた。

「じゃ、さっそくみんなで……あれ、みずき?」

  いつのまにかみずきの姿が消えていた……。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  田中 美樹    真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •  柳沢 琢磨    対立候補だった ちょっとサイコパス
  •  北白川 綾乃   モテカワ美少女の同級生 書記
  •  橘 なつき    入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き 会計
  •  橘 健二      なつきの弟
  •  福島 みずき   生徒会副会長
  •  藤田先生     定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生     若い生徒会顧問

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

かの世界この世界:175『オノコロジマ』

2021-03-12 09:28:16 | 小説5

かの世界この世界:175

『オノコロジマ』語り手:テル(光子)    

 

 

 取り返した時は二間に満たないアメノヌホコだったけど……

 

「待ってくれ、ニケンというのはなんだ?」

 ヒルデがのっけから聞いてくる。

 そうか、ヒルデは北欧神だから、日本の尺貫法で言っては理解できない。

「一間は1・8メートルのことよ。あ、まだまだ伸てる!」

「おお!」

 イザナギ・イザナミが二人で手に取ったアメノヌホコは、みるみるうちに伸びて、はるか下方のカオスに下りていく。

「見えなくなったぞ」

「目を凝らせば見えてくると思う、このカオスにも上下の区別が出てきたし、上の方から空気が澄んできている」

 ズボ

「なにかに突き刺さったな……ヌホコが、あんなにしなってるぞ」

 突き刺さった先は、まだ見えてこないけど、ヌホコのしなり方で粘度の高い液体のように感じられる。

「似ているぞ」

「え、なにに?」

「ブァルキリアの祭りで、ドラゴンの玉子で巨大なオムレツを作ったことがあるんだ。トール元帥が張り切ってな、ミョルニュルのハンマーを巨大なオタマに変えてかき混ぜたんだ、あの時の感じに似ている」

「あ、そう言えば『中二病でも恋がしたい』の六花のお姉ちゃんの小鳥遊十花の武器はオタマだよ!」

「それは、きっとトール元帥の反映だな。そうか、あの姉はカミングアウトしたトール元帥だったのか!?」

「でも、凸守早苗(でこもりさなえ)のツインテールはミョルニルハンマーとか言って振り回していなかった?」

「あれは、中二病の幻想だろ、姉を相手にして勝ったことは無いはずだぞ」

「そうだった?」

「そうだ、だいいち、六花は牛乳が大の苦手だろ。十花に負けて瓶牛乳を無理やり飲まされて死にかけていたぞ」

「ああ、あったあった。丹生谷森夏にも飲まされて、盛大に吐き出していたなあ」

「ヴァルキリアの人間で牛乳が飲めないやつなんていないからな」

「ちょっとそこ、静かにしてもらえませんか、気が散って集中できない」

 イザナミに怒られる。

 ちょっと盛り上がり過ぎた(^_^;)

 ピチョ

 やがて、ヌホコの先から雫が落ちる音がした。

 すると、下界の霞はヌホコを中心にみるみるうちに晴れ渡っていき、広大な海の真ん中に雫が落ちて島になったのが分かった。

「なんの島だろう?」

 スマホで調べると『オノコロジマ』と出てきた。

「実在の島か?」

「……いろいろ説があるみたいね……淡路島の横っちょの沼島とか播磨灘の家島とか……博多湾の能古島という説もある」

「近畿エリアと九州エリアか……そう言えば、日本の天皇家の始まりは近畿と九州に分かれていると聞いたぞ」

「あ、それは邪馬台国」

「え、邪馬台国が大和朝廷になったのじゃないのか?」

「ちょっと、静かに!!」

 また、イザナミに叱られる。

「おい、あの二人、素っ裸になって島に下りていくぞ!」

「あ、お邪魔しちゃ悪いかなあ(#'∀'#)」

「イヒヒ、この先、どんなフラグが立ってんのかなあ(^#▽#^)」

「なんか、いやらしいよ」

「イザナギ・イザナミって、おなじとこから生まれてるから、ひょっとして兄妹!? え、妹系のエロゲだったりするのか!? これは、たしかめなくっちゃ!」

「ちょ、ヒルデ、じゃましちゃ……」

 金髪のスケベ女は涎を垂らしながらオノコロジマに下りていく、なんだか、妹系ラブコメのヒロインのようになってダイブしていく。

「待ってくだされ、ブリリン氏!」

 あ、わたしもキモオタ女っぽくなって追いかけてしまう……

 

☆ 主な登場人物

―― この世界 ――

  •  寺井光子  二年生   この長い物語の主人公
  •  二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば逆に光子の命が無い
  •   中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
  •   志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

―― かの世界 ――

  •   テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
  •  ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
  •  ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
  •  タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
  •  タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
  •  ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
  •  ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態
  •  ペギー         荒れ地の万屋
  •  イザナギ        始まりの男神
  •  イザナミ        始まりの女神 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

らいと古典『わたしの徒然草44 あやしき竹の編戸』

2021-03-12 06:52:34 | 自己紹介

わたしの然草・44
『第四十四段 あやしき竹の編戸』   

 



徒然草 第四十四段

 あやしの竹の編戸の内より、いと若き男の、月影に色あひさだかならねど、つややかなる狩衣に濃き指貫、いとゆゑづきたるさまにて、ささやかなる童ひとりを具して、遥かなる田の中の細道を、稲葉の露にそぼちつつ分け行くほど、笛をえならず吹きすさびたる、あはれと聞き知るべき人もあらじと思ふに、行かん方しらまほしくて、見送りつつ行けば、笛を吹き止みて、山のきはに惣門のある内に入りぬ。榻に立てたる車の見ゆるも、都よりは目止まる心地して、下人に問へば、「しかしかの宮のおはします比にて、御仏事など候ふにや」と言ふ。
 御堂の方に法師ども参りたり。夜寒の風に誘はれくるそらだきものの匂ひも、身に沁む心地す。寝殿より御堂の廊に通ふ女房の追風用意など、人目もなき山里ともいはず、心遣ひしたり。
 心のままに茂れる秋の野らは、置き余る露に埋もれて、虫の音かごとがましく、遣水の音のどやかなり。都の空よりは雲の往来も速き心地して、月の晴れ曇る事定め難し。

 兼好の、あくなき人間への興味の現れた段であります。

 粗末な家から、月夜に少年のお付きの者を一人連れただけのイケメン、ハイソサエティーなアンちゃんが現れた。「笛をえならず吹きすさびたる」なんて、二重否定でヨイショしたくなるほど上手い笛を吹く。
 田んぼの中の一本道をユルユル行くのを思わず付いていってしまった。
 すると、山際のお屋敷に入っていった。下働きのオッチャンに聞いてみると、なんだか偉い人の法事で、皇族の方もおいでだそうだ。あのイケメンアンちゃんは、何者だろう? アンちゃんが出てきた粗末な家の住人も気になる。書いてはいないが、兼好は、女性だろうとふんでいる。と、わたしはにらんだ。
 月夜の田舎道、女の家から、法事へ直行。なかなかのアンちゃんだとにらんだのでしょう。

「それって、ストーカーやで!」

 兼好のオッチャンの人間好きには、読んでいて、時にそんな思いがします。
 生没年ははっきりしませんが、どうやら七十歳ぐらいまでご存命であったようです。晩年のことは、よく分かりませんが、おそらく足腰のしっかりしている間はこうだったのではないでしょうか。

 わたしも、いつシルバーシートからお誘いがあるか楽しみにしている。

 わたしに、シルバーシートを勧めてくれるのは、昼下がりの、乗車率八十パーセントほどの電車。程よく空いていたのでシルバーシートに座ってしまった女学生(この表現は幅が広い、中学生から大学生まで含む)に、こう声をかけられる。
「気がつかなくって……どうぞ」
 少し含羞のある、笑顔で声をかけてもらいたい。趣味的にはAKB48のタカミナみたいな子がいい。何事にも一生懸命、ソツはないが、大きなところでドスンと抜けて、人に無茶ブリなんかしてしまう。
「いや、こう見えても、還暦までには半年あるんですよ」
 きっと七十過ぎのわたしは、そう見栄を張ると思います。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

真凡プレジデント・19《なんの仕事するの?》

2021-03-12 06:38:57 | 小説3

プレジデント・19

《なんの仕事するの?》 

 

 

 うちの生徒会執行部には各種委員長のポストが無い。

 体育委員長とか風紀委員長とかのね。

 学級委員会はあるんだけど、昔のように生徒会と結びついた活動では無くなっていて、各委員会で役員を互選で選び独立した活動をしている。

 組織的には各種委員会というのは生徒会の手足みたいなものだから、うちの生徒会は頭だけしかないタコのようなものと言える。

 

 理由はいろいろあるんだけど、その方が、先生たちは仕事がやり易いし、生徒会の選挙のたびに九人も候補者を集めるのも大変。でしょ? 今度の選挙でも藤田先生苦労してもんね。

 でも、頭だけの生徒会って、意欲のある生徒には魅力がないので、逆に候補者が集まりにくいって悩ましさもあったりする。

 今回に限って言えば、急に書記と会計の子が辞退して、代わりになつきと綾乃が入ってくれたのは、その身軽さがあったからとも言える。

 身軽って言うと、お互いを下の名前で呼ぶことにした。

 なつき(橘 なつき)は元からそう呼んでるし、なつきは性格的にも下の名前で呼びやすいネコ的な感じなので、すぐに馴染む。

 あやの(北白川 綾乃)は、ちょっと苦労。なんたって、学校一番の美人で才女、どうしても「北白川さん」になってしまう。それで、彼女は「北白川さん」と呼ばれたら返事をしない作戦に出て、福島さん……おっと、みずきのアイデアと相まって二日で定着させた。

 みずき(福島 みずき)は、全員分の『下の名前バッジ』を作って、生徒会室に居る間は四人とも胸に付けることにした。

 このバッジ、単に下の名前が書いてあるだけじゃなくて、それぞれの似顔絵と役職名が英語で書いてある。日本語の役職名だと硬いイメージなんだけど、英語にすると、ちょっとオシャレ(^▽^)/。

 そのうち、生徒会室を出ても外すのを忘れて、付けたまま廊下を歩いたり職員室に行ったりして、ちょっと好評だったりする。

 あ、そうそう、肝心の生徒会の仕事だよ。

 

「で、生徒会って、なんの仕事するの?」

 

 なつきがアッケラカーンと質問したのは、つまり、そういう背景があったから。

「今でも制度上は各種委員会は生徒会の一部なんだよ。だから時々は各種委員会にも出るし、予算とかは生徒会費から出てるのもあるから季節的には忙しい」

「まずは予算委員会を開かなくちゃ」

「あー、森かけとか桜で総理大臣イジメる委員会!?」

 こういう発想の飛び方は、いかにもなつきで、綾乃もみずきもコロコロと笑っている。

「クラブ予算よ。総額八十万の予算をいかに振り分けるか、なつきの仕事だよ」

「ゲホゲホ、わたしの仕事( ゚Д゚)!?」

「大丈夫よ、みんなも居るし、先生たちがリードしてくれるし」

 綾乃がやさしくなつきの手をとる。ネコ系のなつきは、これだけで穏やかになる。

「ゴロニャ~ン(n*´ω`*n)」

「体育祭が迫ってるから、そっちの方にも出なきゃならないわ」

 みずきが生徒手帳の予定表を繰りながら呟く。

「まあ、例年通りだと、開会の挨拶と各種賞状の作成というところね」

 昔、体育祭は秋に行われていたので文化祭と並んで、前期執行部の締めくくりの仕事になっていて、けっこう忙しかったらしい。六月に行われるようになって、実質生徒会が間に合わなくなって、開会の挨拶と賞状の作成と言う名誉的な仕事が残った。

「これって、なんだか立憲君主国の王様みたいね」

「って、真凡は女王様!?」

「じゃ、なつきはプリンセス!」

「コスプレとかしちゃおっかな~(*^▽^*)」

「いまさら行事の主導権を取るのは無理だけど、もう少し生徒会が前に出るようなことができないかなあ」

 なつきが混ぜっ返すのを、みずきと綾乃が静めてくれる。

「そうだね、少しでも盛り上がれるようななにかをね」

「そりゃ、やっぱコスプレっしょ!」

「まあ、なつきの意見も考慮して、今月中には結論ね」

「会長からは、なにかない?」

 真凡と言わずに役職で振ってくるみずき、やっぱ、心得てる。

「わたしはね、週に一遍くらいのペースでよその学校を調べに行きたいの、研究しなきゃ提言もできないしね」

「調べるとは、どういう風によ?」

「あらかじめポイントを絞って見学を申し入れるの、漫然と出向いてもなにも見えてこないだろうし」

「座布団持参だね、ドーナツ型置いてる学校なんて、そうそうないと思うよ」

「そ、そうね(^_^;)」

 その時、グラウンドの方からキャンキャンと犬の鳴く声が聞こえてきた……。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  田中 美樹    真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •  柳沢 琢磨    対立候補だった ちょっとサイコパス
  •  北白川 綾乃   モテカワ美少女の同級生 書記
  •  橘 なつき    入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き 会計
  •  橘 健二      なつきの弟
  •  福島 みずき   生徒会副会長
  •  藤田先生     定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生     若い生徒会顧問

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

せやさかい・195『留美ちゃんのお父さん』

2021-03-11 09:22:41 | ノベル

・195

『留美ちゃんのお父さん』さくら     

 

 

 あの人とちゃうか?

 

 一言言うと、テイ兄ちゃんはアクセルを踏み込もうとした。

「待ってください」

 小さく言うと留美ちゃんはダッシュボードに両手をついた。

 ダッシュボード押さえても車は停まらへんねんけど――ちょっと待って!――いう気持ちは十分に伝わる。

「あかんか?」

「あ、いえ……じゃ、あの交差点まで……追い越さないようにしてください」

「ええんか、それで?」

「はい」

 テイ兄ちゃんは二呼吸ほどおいて、ゆっくりとアクセルを踏んだ。

 

 バス停のある大通りに出たとこで「もういいです」と留美ちゃんが俯いてしもたんで、追跡は、そこでお仕舞になった。

 ペコちゃん(月島先生)が、今日もう一回、留美ちゃんのお父さんが学校に来る言うてたから。

「これで、ええんか?」

 エロ坊主でも、やっぱり大人や、ダッシュボードに両手を置いて俯きながら必死に耐えてる留美ちゃんに、声かける勇気は、うちには湧いてこーへん。

「はい」

 バス停の前を通る時にチラ見した。

 スーツ姿のお父さんは中堅会社の課長さんという感じ。

 立ち姿に力みも油断もない、ちょうどええ感じでバスの案内板見てはって、ちょっと遅い昼食をとって会社に帰るとこいう感じ。

 うちは、観察力なんてあれへんねんけど、お父さんの足元を見る。

 お母さんが、人を見るのは足元がええと言うてた。

 人は着るものに気ぃつけるけど、足もとにまで気ぃまわる人は少ないから、そこに個性が出てくる言うてた。

 靴は、スーツによう合ってる黒に近いダークブラウン、ズボンの丈はくるぶしの下で程よい長さ。踵は程よく五ミリくらい減ってる感じかな……営業とかの歩く仕事やないような気がするけど、この日の為に慣れへんスーツを着たいう感じでもない。

 えーーと……

 思てるうちに通り過ぎてしまう。

 前がつかえてたいうこともあるねんけど、それでも時間にして一秒ちょっと、よう観察したほうやと思う。

 で、ようはサラリーマン風やいうこと以外なんにも分からへんねんけどね(^_^;)。

 ペコちゃんの話によると、いっしょに住むわけにはいかへんけども、経済的な面倒はみるので学校の方もよろしくということらしい。連絡先とかは、早手回しに、うちの如来寺になってたそうでビックリ。

 留美ちゃんの話しによると、留美ちゃんが小さいころに離婚しはったそうで、離婚後、留美ちゃんは一回も会ったことが無いらしい。

 このまんま気晴らしにドライブでもできたらええねんけど、テイ兄ちゃんにも檀家周りがあるし、まん悪いいことに、家は詩(ことは)ちゃん一人だけ。詩ちゃんも夕方からはバイトやさかい、早よ帰らなあかん。

「また、今度気晴らしにでもいこな」

 同じ思いのテイ兄ちゃんは、ゆっくりとハンドルを切った。

 

「さっき、留美ちゃんのお父さんが来てた」

 お寺に帰ると、詩ちゃんがビックリすることを言う。

「「え?」」

 あたしらが中学校に向かって五分くらいで来るまで来はったそうで、詩ちゃん一人しか居てへんことを聞くと、恐縮しはって、車は山門の前に停めて、境内の立ち話だけで済ませはったらしい。

「書類と通帳預かったの、必要な費用は毎月入れるって、もう先月分と今月分が入ってるの。お母さんのことについては、近々連絡するから心配しないようにって、用件だけ済ますと、恐縮されて、お構いする間もなかったわ」

「せやかて、さっきまで……」

 テイ兄ちゃんが説明すると、詩ちゃんもビックリしたけど、うちもビックリ。

 ついさっきまで、お父さんの後付けてたんやさかい。

 どんな風やったと聞くと、うちらが見てた姿と同じやった……。

 なんとも不思議な話やねんけど、憔悴した留美ちゃんを見ると、その話はあとにしよという感じ。

 だいいち、留美ちゃんは憔悴した顔はしてたけど、うちらと違って、不思議に思ってる感じはせえへんかったしね……。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

らいと古典『わたしの徒然草・43 いかなる人なりけん』

2021-03-11 06:13:41 | 自己紹介

わたしの然草・43
『第四十三段 いかなる人なりけん』   

 



 徒然草 第四十三段

 春の暮つかた、のどやかに艶なる空に、賤しからぬ家の、奥深く、木立もの古りて、庭に散り萎れたる花見過しがたきを、さし入りて見れば、南面の格子皆おろしてさびしげなるに、東に向きて妻戸のよきほどにあきたる、御簾の破れより見れば、かたち清げなる男の、年廿(二十)ばかりにて、うちとけたれど、心にくく、のどやかなるさまして、机の上に文をくりひろげて見ゐたり。
 いかなる人なりけん、尋ね聞かまほし。

 兼好は、時々覗き見をするようです。第三十二段にも似たようなことが書かれていました。前回は女性でしたが今回は若い男です。
 今の価値観、道徳観では、この覗き趣味は軽犯罪になるでしょう。現に著名な劇作家兼詩人が、このデンで逮捕されています。なんとかというユニットのメンバーで、その後バラエティーの司会などをやったオッサンも、逮捕されました。
 しかし、当時は平安の匂いがまだ残る鎌倉時代末期です。都のお屋敷など、広いばかりで、塀も破れて垣根も隙間だらけ。そういうところに分け入って覗いても今ほどには、とがめ立てされることはなかったようですね。そうでないと源氏物語の光源氏などは捕まってばかり。だいたい恋愛そのものが成り立たなくなります。

 しかし、この四十三段は若い男……なのです。

 賤しからぬ家、庭なんか、花が散り敷かれ、格子や妻戸も程よく開けてあったり閉めてあったり。御簾(スダレみたいなの)の破れ目から、なかなかイケメンの二十歳ぐらいのニイチャンがリラックスして、読むともなく本を広げちゃってる。ヤバイよ、カッコヨスギだよ! ということになるようです。
 悪くとれば、兼好にはオネエ趣味があったのか……などと思い、三十二段の女性への思い入れと矛盾……いや、両道の達人であったのか!?

 I wish I were……という表現が、英語にあります。
 I wish I were a bird(わたしは鳥になりたい)つまり、なれもしないものになりたい気持ちを表現する時の言い回しです。
 兼好は、これを表現したのではないでしょうか。            
「 いかなる人なりけん、尋ね聞かまほし」
 どんな素性のニイチャンか聞いてみたい。だれか知らないかい? と結んで、実は、ふと、街中で見つけたお屋敷を見て、兼好は妄想しました。
――こんな、お屋敷なら、こんなニイチャン(自分の憧れ)が住んでいたらいいなあ。

 兼好のオッサンにも、当然青春時代があったわけでして、二十代のころは、後二条天皇の母基子を出した堀川家の家司(執事)になり従五位の下になりますが、殿上人としては最下位。まして、平安時代ではなく、傾き始めたとはいえ鎌倉時代。今で言えば、伝統会社ではあるが、時代に乗り遅れた会社の庶務課長のようなものです。ウツウツとするものはあったでしょう。
「おれは、格式ばかり高くて、しみったれた会社の庶務課長で終わる男なのか……」
 有職故実(朝廷のしきたり)に明るく、和歌を始め文学的才能にも恵まれていた兼好。人付き合いもいいほうで、いろいろ才能のある何でも屋でありました。
 表面的には、出家遁世するまでは機嫌よく仕事にも励んでいたでしょうね。
「え、吉田兼好(かねよし)さんが、辞めた!?」
 当時、近親の人たちからは、そう思われ、驚かれたことと思います。
「や、なんとなくね、そんな気になっちゃって。やだなあ、皆さん、そんな大騒ぎしちゃって。アハ、アハハハ」
なんて具合に煙に巻きながら、内心はドロドロであったのではないでしょうか。
――なんで、おれは、こんなに調子いいんだろう。もっとさ、正直にサ、タソガレちゃってもいいんじゃねえのか……この偽善者のヨシダカネヨシ!

 それが、ふと街中で見かけた趣味の良い、他人様の家を見ただけで、妄想が膨らんじゃったんじゃないでしょうか。

 わたし自身、ちょっといい若い人の本を読んだり。若い役者のお芝居を観たりすると、こう反応する。
「なかなかの出来やん。どんな人?」
 と、西田敏行のような気の良さで聞いてしまう。
 ただ、わたしは兼好のオッチャンほどには自己韜晦(才能などをひけらかさないで飄々としていること。しかし、わたしは、才能に乏しい、もしくは無きに等しいので、この言葉は、わたしには当たらないかも)できないので、後輩、同輩の皆さんにこう言われる。
「あんたは、顔は笑うてても、目えは笑うてへんもんなあ」

 で、小人閑居して不善を為す……の格言通りの駄文を書いております(^_^;)。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

真凡プレジデント・18《名札と座布団と下の名前と》

2021-03-11 05:55:33 | 小説3

プレジデント・18

《名札と座布団と下の名前と》 

 

 

 presidentの名札が輝かしい。

 

 福島さんが座布団を作ってきてくれて、それに触発された北白川さんが卓上の名札を作ってくれた。

 生徒会室は教室の半分の広さで、ゼミテーブルと四人掛けの応接セットがある。他にも、椅子やらロッカーがそれなりにあるんだけど、ことごとくがどこかのお下がりで統一感が無く、パッと見は物置と大差がない。

 そこに座布団と名札の統一感が際立って清々しい。

「やっぱ、英語っていいよねえ」

 なつきがしみじみと言う。

 

 president 田中真凡  vice president 福島みずき  secretary 北白川綾乃  accountant 橘なつき

 

 白地のプレートに黒字で書かれただけのシンプルなものだけど、中古のゼミテーブルでも特別に見えてくるから不思議だ。

「アハ、回転させたら日本語だ(⌒∇⌒)」

 

 会長 mahiro tanaka  副会長 mizuki fukushima  書記 ayano kitashirakawa  会計 natsuki tachibana

 

「日本語と英語が逆になっててカッコいい」

「真ん中で回転するようになってるから、英語・日本語いずれのオンリーにもなるの」

「北白川さんも福島さんも凄いね!」

 わたしは、素直に感動する。

「おザブも同じドーナツ型だ!」

 これには驚いた。尾てい骨の事は内緒にしてあるし、座布団はドーナツ型であることが分からないように普通のカバーが付けてある。

「共通理解があった方がいいと思って、二人には話しておいたの」

 ムム、なかなか鋭い北白川さんだ。

「びっくりした、てっきり真凡は痔になったのかと……はっきり聞けないしね」

「何年友だちやってんの、わたしが……になんかなるわけないじゃん!」

「あ、いや、だから北白川さんに言われて……」

「あの、苗字で呼ぶのはよさない?」

「「「え?」」」

「他人行儀だし、北白川っていうのは微妙に長いでしょ」

「あ、そうかも」

「じゃ?」

「公でないときは、下の名前……で、どうだろ」

「それいい! わたしがなつき、真凡はまひろ、福島さんはみずき、北白川さんがあやの、決定だね!」

 

「おお、きれいになったなあ!」

 

 入って来るなり感嘆の声を上げたのは藤田先生だ。

「名札と座布団を、北……綾乃とみずきが作ってくれたんです、ツボを押さえた統一感が成功していると思います」

「そうだな、目の付け所がいい。顧問としても考えなくっちゃなあ……あ、新執行部発足のささやかな差し入れだ、みんなで食べてくれ!」

 先生がドンと置いたのは六つは入っているだろうと思われるケーキの箱だ!

「すごい、銀座タチバナのショートケーキじゃないっすか!?」

 たちばなにはピンからキリまであって、ピンが銀座タチバナで、キリがお好み焼きたちばなだというのは、昔からのなつきのギャグだ。

「これは、わたしたちのこと以外でもいいことあったんですね?」

「するどいなあ、北白川は(^_^;)、実は、柳沢が無罪放免になってなあ!」

「「「「え、そうなんですか!」」」」

「鉄道のえらいさん達が、柳沢の行動が無ければ、死傷者が三桁は出る大事故になったって結論付けたんだ。選挙は残念だったが、これで学校も柳沢も名誉回復だ」

「よかったですね、先生!」

「先生も掛けてください、いま、お茶淹れますから」

 わたしが言い出す前に綾乃とみずきは動き出して、なつきが「え、え?」とオロオロ、とりあえずはチームワークのいい執行部ではあるようだ。

「お茶は要らないみたい」

 湯沸かしを下げた綾乃が帰って来た。

 

「やあ、諸君。安くてかさ高いだけの差し入れだけど、ま、乾杯しようぜ!」

 中谷先生がジュースやらお茶のペットボトルを持って現れた。 

「田中、ちょっと」

 田中先生がひそやかに廊下を指した。

「はい?」

 ソロリとドアを閉めると、こそっと紙袋を手渡し。

「辛いんだろ、これ、使ってくれ」

「なんでしょ?」

 

 紙袋を覗いてみると、テレビコマーシャルでも有名な痔の薬が入っておりました(^_^;)。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  田中 美樹    真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •  柳沢 琢磨    対立候補だった ちょっとサイコパス
  •  北白川 綾乃   モテカワ美少女の同級生 書記
  •  橘 なつき    入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き 会計
  •  橘 健二      なつきの弟
  •  福島 みずき   生徒会副会長
  •  藤田先生     定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生     若い生徒会顧問

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

誤訳怪訳日本の神話・29『この人と結婚する!』

2021-03-10 09:12:33 | 評論

訳日本の神話・29
『この人と結婚する!』    

 

 

 スサノオは気に入りません。

 なんせ、一人娘が、どこの馬の骨とも知れない男と結婚したいと言うのです!

 男は、スサノオから数えて五代目(六代目?)の子孫ではありますが、父親にとって娘が好きな男と言うのはカタキ同然ですなあ。

「お父さんはな、そんな下衆な気持ちで言ってるんじゃないぞ。このオオナムチという若造は主体性がないくせに、女には目の無いスケベエ野郎だからだ!」

「ひどいわ、お父さん! なんで、会ったばかりのオオナムチを悪く言うのよ!」

「お、おまえ、こいつは、たった今、うちの家の前に来たばかりの奴だぞ」

「そうよ、でも、わたしには分かるのよ、女の直感。お父さんこそ、会ったばかりのオオナムチをひどく言わないで!」

「俺は経験から言っとる、こいつはやめとけ」

「なんでよ!」

「こいつは外面いいだけの優男だ。言い寄って来る女ならなんでもありにくっついてしまうヒッツキ虫みたいなやつだ、苦労するのは目に見えている。やめとけやめとけ!」

「ひどい、なにを根拠に!?」

「おい、アシハラノシコオ」

「そんな名前で呼ばないで、この人の名前はオオナムチよ!」

「こいつがオオナムチならオマエハムチだ! よっく聞けよ、こいつには、すでにヤマガミヒメって嫁さんがいるんだ。ヤマガミヒメは兄のヤソガミどもを袖にして『わたしの夫は、この人です』って惚れ方だったんだぞ、その新婚間もないヤマガミヒメをほったらかしてくるような奴を信用できるか!」

「あ、お言葉ですけど……」

「なんだアシハラノシコオ!?」

「おれ、兄貴たちに殺されそうになって、てか、殺されたんすよ。お袋のサシクニワカヒメが一生懸命祈ってくれて、なんとか生き返って、そいで、これはヤバイってんで木の国に逃げたんすけど、しつこい兄貴たちは、すぐに追いついて来て、木の国のオホヤビコの神が、この堅州国(かたすくに)に逃げろって、そういう指示に従って、やってきたら、このスセリヒメさんが……ね、これって……」

「そ、運命よねえ(n*´ω`*n)」

「あのなあ、そのダラダラした喋り方も気に入らねえが、その主体性のない人任せってところが、父親としては、めっちゃ心配なんだよ」

「お、お父さんの主体性って、ただのやんちゃ坊主の我がままだったじゃない! 高天原メチャクチャにして、アマテラスの伯母さんこぼしてたわよ!」

「そんな、昔の事を引き合いに出すな」

「お父さんだって、無茶やってきて、人の事言えないってゆーのよ!」

「そうだろうけど、オレは、ヤマタノオロチとかやっつけて、試練を潜り抜けて帳尻は合わせてきたぞ」

「オオナムチだって、ヤソガミたちの試練を潜り抜けて……」

「そんなもん、ほんの序の口……そうだ、このスサノオが試練を与えてやる。それを乗り越えられたら……考えてやらんこともないぞ」

「お父さん、目が怖いよ……」

「どうだ、アシハラノシコオ……」

「あ、いいっすよ」

「ちょ、オオナムチ!?」

 オオナムチの試練が始まった……。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする