せやさかい・194
今日は平日やけども休み。
なんでか言うと卒業式やさかい。
在校生のうちらは、コロナの事とかあって式には出ません。
三年生には知り合いもいてへんしね。
せやさかいに、留美ちゃんと二人で買い物に出てる。
留美ちゃんの新生活も、ようやく落ち着いて来て、ホームセンターに細々とした日用品を買いに出たというワケ。ホームセンターのある通りは食べ物屋さんやらスイーツのお店がひしめいてんねんけど、シカとする。目的を果たす前に立ち寄ったら、育ち盛りのわたしらとしては道を踏み外しそうになるよって、買い物が終わったら一軒だけ寄ろうということになってる。
「あ、ペコちゃん」
赤信号で自転車を止めたら留美ちゃんが呟いた。
「え、あ、ほんま……」
別に留美ちゃんが不二家の誘惑に負けたわけやない。
我が担任のペコちゃんこと月島さやか先生が黒の式服のまま自転車に乗って交差点を曲がっていく。
「お仕事なんだろうねえ」
留美ちゃんはええ子やさかい、式服を着替える間もなく仕事に出てるペコちゃんに同情的。
やっぱり、お母さんの働いてる姿を見て育ってきたさかい「キャー先生!」とか手を振ったりはせえへん。
ちなみに『ペコちゃん』いうあだ名は昔から。
うちに家庭訪問しに来た時に、子どものころから『ペコちゃん』て言われてきた言うてはった。
先生になってまで『ペコちゃん』はないやろと、人には言わんように言われて、うちは守ってきたけど。
なんせ、笑顔になったらペコちゃんソックリ。
いつのまにかみんな言うようになって、本人も諦めてはる。
買い物は、事前にメモをとってたし、売り場もネットで確認してたのですぐに終わったんやけど、レジが一杯。
けっきょく三十分ほどかかってホームセンターを出ると、待ち合わせてたみたいにペコちゃんが信号の向こうで手ぇ振ってる。
「やあ、奇遇ねえ!」
「「あ、ども」」
このやり取りだけで、ペコちゃんがハンバーガーを奢ってくれることになる。
ラッキー!
アクリル板で囲まれたシートに三人で収まる。
「家庭訪問やったんですか?」
ぶしつけやと思たけど、突っ込んでみる。
濁されたら、あっさり引き下がるつもり。
家庭訪問いうのは個人情報が絡んでるやろし、うちらが聞いたらあかん内容やったりするからね。
せやけど、そんなに秘密の必要が無かったら、ペコちゃんは言う。
程よい情報の共有というのは、人間関係を円滑にしてくれるもんです。
「うん、瀬田くんちに行ってた」
「「あ、ああ」」
それだけで納得。
瀬田いうのんは一年から同じクラスの男子。元サッカー部で、田中いうのんとペアで掃除をサボったりつるんどった。
最初は田中の方が頼りない感じで、瀬田が振り回してるように見えてたんやけど、コロナ休校のころになにかあったみたいで、瀬田は休みがちになっとおる。
「二人とも、瀬田君とは同級生だったんだよね……」
そうやねんけども、ペコちゃんはうちらに情報を求めてるわけやない。うちも留美ちゃんもちゃんとやってるのに、男子の瀬田が不登校になってるのんがもどかしいんや。
「榊原さん、新しい生活には慣れた?」
留美ちゃんの事を心配してるんや。いきなり聞いたらあからさまやから、瀬田のことを枕にしたんやろなあ。
「はい、もう、家族同然にしていただいて、こないだはみんなで家族写真まで撮ってもらったんです(^▽^)/」
「そう、それは良かった。二人ともいい子だから、なんか後回しっぽくなって、ごめんなさいね」
「いえいえ、いよいよの時は月島先生にも頼りますから、よろしくお願いします」
「うん、四月からも受け持てるといいわね」
「うちらも先生のクラスになりたいです。ねえ」
「ハハ、まあ、それは開けてビックリ玉手箱ってことね」
それから、学校のアレコレで盛り上がってお店を出て、ペコちゃんが切り出した。
「榊原さん、ちょっといい」
留美ちゃんに折り入ってという感じなんで、うちは先に帰ろかと思った。
「さくらちゃんもいっしょに、家族なんだから」
「う、うん」
「そう……じゃあ……」
じゃあと言いながら、ペコちゃんは確かめるように、うちと留美ちゃんの顔を見てから切り出した。
「実は、留美ちゃんのお父さんがいらして……」
「「え!?」」
息が停まるかと思た……。