大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・033『アルバイトすることになる』

2023-06-14 10:03:09 | 小説

(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

033『アルバイトすることになる』   

 

 

 また点けっぱなし。

 

 寝っ転がってスマホを見ようと思ったら、ソファーの左側にインタフェイスが浮いている。

 魔法少女用の端末で――出てこい――と思ったらどこにでも現れる。

 VRやMRで似た機能がある。

 ゴーグル被って、出てきたメニューにタッチしたら仮想空間上にインタフェイスが出てくる。あの機能がゴーグルを被らなくってもできるのが魔法少女用インタフェイス。

 普通の人間には見えないけど、魔法少女なら持ち主でなくても見えてしまう。

 五歳の頃に初めて見えて、画面にオデコにコブを作った自分が映ってビックリ。後で分かったんだけど、それはアラーム機能が作動して、わたしが何かにぶつかってタンコブをつくるアラームで、その通り、あくる日には友だちとぶつかってタンコブができてしまった。

 むろん、持ち主はお祖母ちゃん。

 とっくに現役は引退してるんだけど、時どきは首を突っ込んでいるみたい。「便利だよ、メグリも使えばいいのに」って言う。まあ、普通の人間にはスマホにあたるものだからね。

 それに、これを使ったら、プロ魔法少女一直線だからね。その手にはのりません。

 片づけてやろうとしたら、ダーーーーーーって感じで、1970年に起こる事件が流れる。

 ダメだダメだ!

 こいつはプロ魔法少女用なんだ、ウィキペディアどころではない情報まで出てくる。1970年の高校に通っている身としては知らない方がいい情報が教科書に蛍光ペンしたところみたいに出てくる。

 エイ!

 勢いをつけて消す。

 消える寸前に見えてしまった――長期アルバイト募集 須之内写真館――の張り紙。

 

 で、学校の帰り道、リアルの募集ポスターを見ている。

 

 撮影助手(不定期) 時給:200円  業務により食費交通費支給  高校生以上 

 

 ムムム……令和の感覚だと時給200円は話にならないんだけど、100円で学食のランチが食べられる時代なんだ。

 学校と家の往復だけの生活だし……部活はやってないし、やるつもりもないし……お馴染みの須之内写真館だし。

 バイトやったら世界が広がる!

 カバン抱えて募集ポスターと睨めっこ。

 フッと目の焦点距離が変わったかと思うと、ポスター張ったガラスの向こう、笑顔のオネエサンと目が合ってしまう。

 ペコリと頭を下げるとニッコリ笑顔が帰ってきて、アルバイトが決まってしまった(^_^;)

 

「ええ、すごい勇気ですねぇ!」

 

 ロコが目を丸くする。

「須之内写真館のオネエサンて、あちこちの写真雑誌に載ってたりして、けっこう有名な人なんですよ!」

 そう言うと、お箸で挟んだコロッケをお皿に戻して五時間目の地理のセットの中からスクラップブックを取り出した。

「あ、また授業中に内職する気だ」

「地理の退屈さは犯罪的ですからねえ、欠点取ってないですしぃ……これこれ!」

 開いたページには商店街の真上を飛ぶジャンボジェットの写真が貼ってあった。

「あ、ジャンボの初飛行の時の!」

「オネエサンが撮ったんです。堂々の月刊賞ですよ、家に帰ったら、別の写真もありますよ。Aカメラ賞とかで優勝もしてますし」

「すごい人なんだ」

――出張撮影と取材撮影の両方、月の始めにはスケジュール出すから、月五六回やってもらえると助かる――という話だった。

 出張撮影は、短いものだと3時間ぐらいだけど、取材の時は泊りというのもあって、行って帰ってくるまで拘束時間なんで、二日だと1万近くになる。

 ロコにフルーツ牛乳を奢って乾杯した。

 

☆彡 主な登場人物

  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         1年5組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            1年5組 副委員長
  • 高峰 秀夫             1年5組 委員長
  • 吉本 佳奈子            1年5組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              1年5組の担任
  • 先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。

 

  

    

 

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RE・かの世界この世界:127『ポチのデジカメ』

2023-06-14 06:20:09 | 時かける少女

RE・

127『ポチのデジカメ』テル  

 

 

 

 なるべく早く帰ってきてくださいよ(~o~)。

 
 お手上げというジェスチャーをして荒れ地の万屋はあきらめた。

「ペギーさん困らせるんじゃないぞ」

「「分かってる(๑`^´๑)!」」

 これ以上ないというふくれっ面でロキとケイトの声が揃った。

 転送販売に来て帰れなくなったペギーは、我々がヤマタの神をやっつけてユーリアを連れ戻すまで子守をしてもらうことになったのだ。

「あんな顔の二人は初めてだね」

 体と精神年齢では二人以上に子どもなのだが、空を飛べるポチは偵察と連絡役のために連れてきている。

「どうだ、上から見て、この道であってるかどうか分かるか?」

 タングリスが聞くと、上空五メートルくらいのところでキョロキョロするポチ。

「分かんないよ、葉が茂って見当がつかない」

「ち、使えないやつだ」

「あ、いま舌打ちしたね! たとえ王女様だって、舌打ちはゆるさないぞ!」

「だったら、役に立ってみろ!」

「姫、罵倒されて発奮するものではありませんよ。いちど下りてこい、ちょっと考えてから進もう」

「らじゃー('◇')ゞ」

「打ち合わせなら出発する前にしておくべきではないのか」

「すみません」

 タングリスは謝るが、わたしには分かる。ロキとケイトの前で相談すれば二人の疎外感を強くするばかりだ。

 ここらへんで態勢を整えるのが上策だろう。

「なにか使えそうなアイテムはないだろうか……」

「同じことを考えていたな」

 目の高さの空間をクリックしてウィンドを出す。アイテムをクリックするとペギーから買ったばかりの福袋のフォルダーが目についた。三人共用のフォルダーになっているので調べやすい。

「種類も量もハンパじゃないぞ」

 ヒルデがぼやく。ぼやくのも無理はない、スクロールしてもきりがないほど続いているのだ。

「十キロの純金と交換したんだ、これくらいには……」

「ジャンクじゃないのか……」

「とりあえず、系統別に分けましょう」

「そうだな、回復系、補助系、白魔法、黒魔法……」

 三人で忙しく指を動かす。

「分けても、それぞれ千以上あるし……」

「追尾アイテムはないだろうか……それをポチに持たせれば……」

「『しるべ虫の粉』がある」

「ああ、モンハンの必須アイテム!」

「でも、これってモンスターにしか効かないのでは?」

「ポチはもともとシリンダーの変異体だ。シリンダーならモンスターだろ」

 三人の目線がポチに向く。

「し、失礼な! いまのあたしは妖精だもん!」

「いや、悪かった(;^_^A」「すまんすまん(^_^;)」「もっと探そ」

 ゴソゴソ ガサゴソ

 やがて、本来の目的を忘れて整理することに夢中になってしまい、ヘンテコなアイテムを見つけてはヘーとかホーとか声をあげているだけになった。

 

 ポチの方が偉かった。

 

「見つけたよー! 正解のルート!」

 我々が整理に没頭している間に、ポチは地上スレスレに獣道を飛んで調べてきたのである。

「これ、見てよ!」

「おまえ、デジカメなんか持ってたのか!?」

「ヒルデのホルダーからこぼれたのを拾った」

「ああ、画素が百万しかない三世代前のジャンク」

 ヒルデはバカにするが、問題が解決すればノープロブレムだ!

「もー、カメラじゃなくって、写ってるのを見てよ!」

「「「……おお!?」」」

 ポチのデジカメには『ヤマタ神方面』と表示の付いた洞窟が映っていた……。

 

☆ ステータス

 HP:13000 MP:180 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・900 マップ:12 金の針:1000 その他:∞ 所持金:8000万ギル(リボ払い残高無し)
 装備:剣士の装備レベル38(勇者の剣) 弓兵の装備レベル32(勇者の弓)
 憶えたオーバードライブ:シルバーヒール(ケイト) シルバースプラッシュ(テル)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル (寺井光子)   二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  小早川照姫の幼馴染 ペギーにケイトに変えられた
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ラーテの搭乗員 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ラーテの搭乗員 辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 1/12サイズで人化している
 ペギー         異世界の万屋

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

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鳴かぬなら 信長転生記 126『鬼かしま決戦・2』

2023-06-13 16:39:46 | ノベル2

ら 信長転生記

126『鬼かしま決戦・2信長 

 

 

 城の大手門は南西にあったが、本丸の表門は北東にある。

 

 北東は丑寅の方角であり、古来不浄の方位と云われ、城であろうと館であろうと表門を構えることは禁忌とされる。

『丑寅に表門を構えるとは、鬼とは申せものを知らぬな』

 思金(おもいかね)が憐れむ。

「丑寅は鬼門と言うではないか。それに、大手からは正反対。間には迷路のように貸間が続いて妨げになっている。防御の構えとしても間違ってはおらん」

『さすがは信長、縁起や吉凶には無頓着じゃ』

「それに、アッチャン、いや草薙熱子も面目躍如のようだぞ」

 本丸方向からは、鬼の傀儡と化した浦島太郎たちの怖れの声と悲鳴がかまびすしい。

 3D映像のような熱子には何を仕掛けても無効だ。

 切ろうが突こうが蹴り倒そうが、手ごたえがあるはずもない。

 それどころか、なまじ大勢で仕掛けては味方の矢玉に倒れる者も出る。なんせ実体が無いのだ、熱子の体を突き抜けた槍や刀や矢が反対側の味方に当る。恐怖と混乱の中、同士討ち同然になっているのが本丸の堀端を走っていても分かる。

 おお!?

 鬼門にたどり着くと、事態は予想を超えていた。

 鬼門はすでに開き、隙間から浦島太郎たちがまろび出て丑寅の方角に遁走し始めている。

『おお、熱子の数が増えておる!』

「……違うな」

『なぜじゃ、ざっと見ても五六人の熱子が見えるぞ』

「左上を見ろ」

『左上?』

 視界の左上に二桁の数字が映りこんでいて、30~36の値でチラチラと上下している。

『なんじゃ?』

「鬼貸間のfpsだ」

『エフピーエス?』

「"frames per second"」

『ますます分からん』

「動きが早い。120fpsほどでなければアッチャンの動きは連続しては映せないんだ。俺たちもスピードを上げるぞ!」

『お、おお!』

 速度を上げると、あっという間に鬼門の前に出てしまった。

 ウワアアアアアア! アワワワワ!

 文字通り浦島太郎どもは浮足立って、大方が逃げ散って、それを掻きまわすように熱子が追いかける。

 鬼門を潜って踏み込むと、本丸はもぬけの殻。

 あちこちに夜戦を覚悟して据えられたかがり火がパチパチと音をさせて燃えているだけだ。

 

 今度は俺が戸惑う番だ。

 

 天守や櫓、逆茂木や盾の後ろに気を飛ばすが、まるで気配が無い。

 二の丸から見上げた本丸には慌てふためく浦島太郎たちに紛れて、確かに鬼の気配があった。

 さすがに頭目だけあって、その気配は根性なしの家康ならウンコを漏らしただろうぐらいに強烈だった。

 万一漏れたら「これは味噌じゃ(;'∀')」……いや「これはカレーじゃ(^_^;)」……さすがに、これは無し!

 こめかみを汗が伝い落ちる。

『……その大かがり火の傍に寄れ』

 思金が鳩尾の骨を伝って囁く。

『背後の地面に映る影に、跳躍して、この儂を投げつけよ』

 それまでの頼りないスケベジジイではなく、凛とした男神の声だ。

 天照大神でさえ、危急の時には耳を傾けたと言われる高天原の御意見番の声だ。

 

 セイ!

 

 振り向きざま、跳躍しつつ後ろを向き胸の勾玉を投げつけた。

 

 グエ!

 

 すると、影は忽ちのうちに立ち上がって鬼の姿を現した。

 勾玉が左目に当ったのか、鬼は左手で目を庇いながらも憤怒の右目で睨み据え、腰の太刀に手をかけた……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
  • 天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚  部下に思金神(オモイカネノカミ)

  

 

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RE・かの世界この世界:126『荒地の万屋』

2023-06-13 06:26:44 | 時かける少女

RE・

126『荒地の万屋』テル  

 

 

 

 それは荒地の万屋だった!

 
「「「「「ペギー!」」」」」

 みんなの声が揃った。

「いやあ~、あんたたちだったのか!?」

「ペギーさんて、魔法が使えるの!?」

「いやはやいやはや……」

 ペギーは目をまん丸くして慌てたペンギンのように両手をパタパタさせて下りてきた。

「あんたたちは大得意さんのカテゴリーに入ったみたいだねえ(^▽^)」

「大得意?」

「ああ、大得意さんになるとね、ピンチの時は転送されるんだよ。さあてっと……ここはヘルムの島……神域の入り口に差しかかったところだね……それも、かなり深刻だ。神域が俗域と分断されてしまっているよ」

「分かるんだ」

「伊達に荒地の万屋やってないからね……おやおや、これから大変な戦いになろうってのに戦車を金ぴかに塗っちゃダメでしょ」

「金ぴかに塗ったんじゃなくて、金ぴかのピカ抜きにされたんだ」

「ピカ抜きの……って、この戦車、ゴールド!?」

「ああ、主神オーディンの娘にして堕天使の宿命を背負いし漆黒の姫騎士であるわたしでも使えぬ錬金魔法だ」

「……純度99.6!」

 さすがは荒野の万屋、一瞥しただけで純度を見抜いた。

「でも、純金の戦車ってダメなんだぞ、重くて柔らかすぎて使い物ならないんだぞ」

 ロキが仕入れたばかりの知識をひけらかす。

「ああ、そうだよ。そういう相手だから、子ども二人は連れて行ってもらえないというところかねえ」

「ああ、我々の武器も純金に変えられてしまって、使い物にならない」

「それで、この荒れ地の万屋が転送されたというわけなんだなあ」

「そうか、ちょっと品物を見せてもらおうか」

 やっと、我々も思い至ってペギーの品ぞろえを見せてもらうことになった。

 わたしは勇者の剣、タングリスは魔弾のワルサー、ヒルデは賢者のシュシュ、そして、それぞれのレベルに見合った魔法の福袋。

「支払いはカードでいいか?」

 タングリスがカードを取り出すと、ペギーは困った顔になった。

「悪い、転送販売はカード使えないんだよね……」

 三人とも手持ちのギルはそんなにはない。ギルや経験値を稼げるバトルはシュネーヴィットヘンに乗船している時にパラノキアの巡洋艦と戦って以来やっていないのだ。

「そうだ、戦車の装具を一ついただけないかね、小さなのでけっこう。なんたって純金なんだから」

「そうだ、それがいい!」

 グルッと見渡して、予備キャタピラ一枚で手を打つことになった。

 しかし、一枚で十キロを超える重量の純金キャタピラだ。リボ払いまで完済したがおつりが大変だ。

「じゃ、いろいろアイテム付けとくから、残りは、次会ったときということで……」

 回復系やプロテク系のアイテムをしこたまもらった。

「それじゃ、みなさんなのご武運を祈ってるわ。怪我しないようにがんばってね!」

 やっぱり商売人、取引が成立すると嬉しそうに立ち上がった。

「ペギーさん、どうやって帰るの?」

 ケイトが根源的な質問を投げかけた。

「そりゃ、もと来た道を……あ、そうだった」

 そう、ここはヘルム本島から突如切り離された神域の島。

 ペギーが現れた空間のシミのようなものも消え失せて、帰れなくなってしまったのだ。

 

☆ ステータス

 HP:13000 MP:180 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・900 マップ:12 金の針:1000 その他アイテム多数 所持金:8000万ギル(リポ払い残高0)
 装備:剣士の装備レベル38(勇者の剣) 弓兵の装備レベル32(勇者の弓) 魔弾のワルサー 賢者のシュシュ
 憶えたオーバードライブ:シルバーヒール(ケイト) シルバースプラッシュ(テル)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル (寺井光子)   二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  小早川照姫の幼馴染 ペギーにケイトに変えられた
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ラーテの搭乗員 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ラーテの搭乗員 辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 1/12サイズで人化している
 ペギー         異世界の万屋

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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せやさかい・415『宇宙戦艦三笠制作発表会』

2023-06-12 11:48:26 | ノベル

・415

『宇宙戦艦三笠制作発表会』さくら   

 

 

 うち以外は、みんなオーディションで選ばれた声優さん。

 

 今日は『宇宙戦艦三笠』の制作発表会。

 会場の飛空船劇場のステージには主役四人の声優とエライさんが並んで、例によって、ガチガチにあがってるのはうち一人(^_^;)。

「おまたせいたしました、それでは、ただいまより『宇宙戦艦三笠』の制作発表会を開かせていただきます」

 MCのベテラン声優さんが麗しくも押しのある声で開会を宣言しはります。

 このベテラン声優さん、宮崎駿がまだ東映動画にいたころから声優をやってはった吉永百合子さん。

 実年齢よりは20歳は若く見えると言う人で、江戸川アニメにとっても大事な方らしい。

 

 よう知らんけど(^_^;)。

 

 東京には昨日の午後から来てる。

 昨日はスタッフとキャストの顔合わせをやって、すぐ二回分の収録。

 早く終わったら渋谷ぐらい行けるかと思たけど、録音は夜の8時までかかってしもて、そのまま江戸川アニメが用意してくれたホテルに入って寝るだけやった。

 

「ごめんね、また忙しい思いさせちゃって」

 お風呂から上がると、先に上がった真鈴先輩はベッドで胡座をかいて酒盛りの最中。

「いいえ、新しい声優さんとも会えて楽しかったです」

「うん、わたしも吉永さんとは初めてでさ、めっちゃ緊張した!」

「ええ、あれで、緊張してはったんですか!?」

「してたわよ、『で、あなたのことは、なんて呼んだらいいのかしら?』ってミカさんにかける台詞、二回もNG出しちゃった」

「ああ、あれ、なんでNGなのか分からへんかったです」

「劇中のチュートリアルクリアして、みんなで『勝った!』って万歳して『で、あなたのことは、なんて呼んだらいいのかしら?』まで12個も人の台詞があるのよ。吉永さんのこと意識しちゃって気持ちが切れてしまってさ」

「え、そうやったんですか!?」

「さくらの方がすごいよ。三笠に召喚された時、天音ひとりが素っ裸でさ「ギャーーー!!」って悲鳴あげるじゃん。一発できまったもんな」

「アハハ、あれって、その前にひとの台詞あれへんし(^_^;)」

「うん、でも、さくらって才能あるかもよ」

「ないですないです(^o^;)、先輩のお引き立てで面白がらせてもろてるだけですよ」

「それは何よりだ『楽しくなくっちゃ仕事じゃない』というのが吉永さんのモットーなんだよ」

「え、そうなんですか? って言うか、どんな人なんですか? なんか名前からすごいですけど」

「吉永百合子っていうのは本名でね、元々はアングラ劇の役者さんだったんだ」

「アングラ劇?」

「ああ、テントとか小さな劇場でやってる芝居。大女優に似た名前を逆手にとって劇中で物真似とかやってたんだけど、バイトで始めた声優が面白くって本業になったって人。なにをやっても余裕でさ、圧倒されるわけですよ」

「休憩の時『神さまの役って初めてなのよぉ』って喜んではりました」

「ああ、うん、オネエサンとか姉御って感じの役が多かったからね。いっしょにやらせてもらって、わたしも勉強になる」

「ですねえ、なにごとも勉強です!」

 

 その吉永さんが、いっしょに舞台に立ってMCをやってはる。

 ふつう、制作発表会のMCというのは進行台本持ってやるらしいねんけど、吉永さんはマイクだけでやってはる。

 これも、元役者さんの矜持やねんやろか。

 わたしの右は花園あやめさん。

 今回はトシ(秋山昭利)いう男子生徒の役。いつもはかいらしい女の子の役が多いねんけど、今度は引きこもりのヘタレの男の子。『犬が西向きゃ尾は東』では井上香里奈の声の裏と表を花園さんとやらせてもろた。

「今度もいっしょだね、どうぞ、よろしくぅ(^▽^)/」

 スタジオ入りした時、握手かと思たらハグしてくれはって、メチャ嬉しかった♪

 

 ほんで、花園さんの右が真鈴先輩、その右が修一(東郷修一)役の小早川凜太郎さん。

 小早川さんは……頭の中で反芻(はんすう)しよと思たら、監督(今回も宗武真監督)の話が始まった。

 そして、今日は6月12日で、月曜日。

 本業である学校は営業日なわけで、わたしは、初めて声優の仕事で学校を休んでしもた!

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校二年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学三年生 ヤマセンブルグに留学中 妖精のバン(バンシー)ナンシー(リャナンシー)が友だち
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       中二~高一までさくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 
  • 声優の人たち      花園あやめ 吉永百合子 小早川凜太郎  
  • さくらの周辺の人たち  ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん)
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RE・かの世界この世界:125『純金の四号では戦えないぞ』

2023-06-12 06:09:09 | 時かける少女

RE・

125『純金の四号では戦えないぞ』テル  

 

 

 

 鋼鉄でできているはずの四号は眩いばかりの純金になっていた!

 
 半信半疑で砲塔の端っこを削って分析すると純度99.6%の金という結果が出た!

「プレパラートの仕業なのかなあ(;'∀')?」

「下級クリーチャーのくせに生意気なことをする(`_´)!」

 ロキとケイトはイッチョマエに腕組みしているが事の深刻さは分かっていない。

「すべて純金になってしまったのなら動かせないぞ……」

 タングリスは参った様子で四号のあちこちをチェックする。わたしもヒルデも加わって二分もしないうちに完了した。

 転輪と誘導輪の被覆ゴムとペリスコープの防弾ガラス、照準器のレンズ以外は全て金に変わっていた。

「金だとだめなの?」

 ケイトが素朴な質問をする。

「金は重くて柔らかい、動かしたら荷重のかかるところが折れるか曲がるかしてしまう。装備もチェックしておこう」

 調べてみると剣や拳銃、ナイフにベルトのバックルからボタンに至るまで金に変わっている。

「これでは、まともに戦えない」

「そう? なんだかきれいだけど」

 ケイトが試しに弓を持ち上げるが、子どもの体重ほどになった弓は両手で持ち上げるのがやっとで、とても矢を射られるものではない。わたしの剣も言わずもがなだ。

「これだけの金を売ったら、ヴァイゼンハオスも楽になるだろうなあ……」

 ロキが古巣を思い出してため息をつく。普段は口にしなくなったが孤児院の仲間や先生の事は忘れられないのだろう。ヘルムのことが片付いたら考えてやらねばならないだろう、ブリュンヒルデのブァルハラ行きを優先するか、ロキのユグドラシル行きを先にするかを……。

「ここから先は、各自の戦闘術と魔法を頼りに進むしかないだろう」

「姫、わたしも同意見です。しかし、そのためにはロキとケイトは連れてはいけません」

 ロキとケイトが心外だという(*`へ´*)顔をしする。

「俺たちも連れてってよ、仲間なんだから」

「おまえたちは、まだ未熟だ」

「いままでいっしょに戦ってきたじゃないか!」

「ああ、しかし、我々も二人を護りながら戦って倒せる相手とは思えない、あのヤマタの神はな」

「そんなの、やってみなきゃ!」

「分かるんだ。このタングリス、伊達にトール元帥の副官をやっているわけではないぞ」

「ロキ、おまえはユグドラシルに戻ってお母さんに会わなきゃならないだろう」

「そ、それは……」

 可愛そうだが、痛いところを突いてやるしかない。

「だったら、あたしは!」

 ケイトが口を尖らせる。

「弓が使えなければ、駆け出しのヒーラーでしかないだろう」

「それでもヒーラーだもん!」

「ヤマタは強敵だ、ケアルしか使えないのでは自分一人の回復もままならないぞ。それに、おまえは……」

 あ…………(;゜Д゜)

 思わず顔を見合わせた。

 わたしとケイトには大事な任務があったはずなのだが、思い出すことができない。

「……なにか来るぞ!」

 ヒルデの声にわたしとタングリスが前に出てロキとケイトを護る形になる。この反射的な行動は百の説得よりも有効だ。ここではロキとケイトは庇護される対象なのだ。

 四号の後ろ十メートルのところにシミのように浮き出した影は人の形をとりはじめた……。

 

☆ ステータス

 HP:13000 MP:180 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・90 マップ:9 金の針:0 所持金:6500ギル(リポ払い残高27000ギル)
 装備:剣士の装備レベル35(トールソード) 弓兵の装備レベル30(ソードボウ)
 憶えたオーバードライブ:シルバーヒール(ケイト) シルバースプラッシュ(テル)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル (寺井光子)   二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼馴染 ペギーにケイトに変えられた
 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ラーテの搭乗員 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ラーテの搭乗員 辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 小さいが人化している
 ペギー         異世界の万屋

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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RE・かの世界この世界:124『プレパラートの攻撃!』

2023-06-11 06:56:45 | 時かける少女

RE・

124『プレパラートの攻撃!』テル  

 

 

 

 ヘルムの島を二つに割ってヤマタは勝負に出た!

 

「いったん戻った方がいいような気がするよ……(; ゜゜)」

「四号も飛べるようになったみたいだし、出直した方がいいような……(゜ロ゜;)」

 ロキとケイトが気弱になる。

「四号が飛んだのは火事場の馬鹿力だ、いつも出せるとは限らん」

 ヒルデは自分のウィンドを開いて見せた、黒魔法のフライはレベル5に過ぎない。なによりMPの残量が8しかなく、ファイアとかの初級魔法を二度ほどやったら枯渇するレベルだ。

「あ、ポチが居ない!」

「ロキといっしょじゃなかったのか?」

「みんなが外で戦い始めてアンテナに掴まって……」

「あ、アンテナにポチの上着が!」

 ケイトが指差したアンテナの先に小さな上着が絡んでいる。

「あ、あいつ!?」

「落ち着け、地震に驚いて飛んで行ったんだろ、犬や猫にはよくあることだ」

「ポチは犬猫とはちがわい!」

 怒りながらも不安そうなロキ。

 切り離された島の半分に戻ってしまったら探しようもないが、落ち着いたら付近を探してやらなければならない。

 ブーーーーン

 すると、小さな扇風機のような音をさせてポチが下りてきた。

「ポ、ポチ!」

「や、やだなあロキ(^o^;)、ちょっと偵察に行ってたんじゃないかあ(^_^;)」

 かわいい嘘だ、手足がプルプル震えている。ビックリして飛び出した言い訳に、あたりを見てきたんだ。

「ユーリアの残像が山の方に続いていたよ。それと、なんだか分からないけど禍々の気配が目の前の林からするよ」

 しかし、怪我の功名、ヒントは掴んできたようだ。

「機会があったらライブラの能力を付けてやるといい。報告の内容が、もっと具体的になる」

「うん、そうするよ。ポチ、中に入って休んでろ」

「分かったあ、ポチ休むの~」

 みんな無事であることに安心したんだろう、通信機のベッドからは直ぐに可愛い寝息が聞こえた。

 

 サワサワサワサワサワ……

 

 林の木々が一斉に葉っぱを揺する音がし始めた。

「これは……」

「車内に戻った方がいい、ハッチを閉めて、あの窪地に向かいます」

「分かった」

 タングリスの勘に従ってわたしもブリュンヒルデも首をすくめて車内に戻って息を潜める。

「亀が手足をひっこめるみたいだ」

「ほんとだ」

 こども二人が失礼なことを言う。

「だれが亀なんだぁ?」

「呼吸が合っているから亀が首や手足を引っ込めるのに似ている」

「みんな四号の手足みたいにキビキビ動けてる」

 そうか、いつの間にかクルーとしてのチームワークがとれるようになってきたんだ。それを口にすることで安心したいんだ。

 
 ブーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン

 
 ポチの時とは違う羽音が響いた。数が多い……なんてものじゃなかった!

 ペリスコープから見える景色がブレて見える、いや、見渡す限りの木々が全て振動しているのだ。

「来るぞ!」

 ブウウウーーーーーーーーーーーン!

 羽音が大きくクレッシェンドしながら向かってくる!

「プレパラートだ!」

 カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ!

 無数のプレパラートが四号の車体を叩いていく!

 四号の装甲が削り取られることはないのだろうが、まさに身を削られるような不気味さ。例えて言うなら、数百人の歯医者に取りつかれて歯を削られているような気持ちの悪さだ。

 そんな想像をしてしまったからか、プレパラートの衝突音はシュウィーーーーーーーーンという高速音に変わった。

 プレパラートの衝突音が収まった時には、みんなレモンを丸カブリしたように酸っぱい顔になっていた。

 歯医者のドリルを想像したのは、わたし一人ではなかったようだ。

「わ、スゴイことになってる!」

 開けたハッチから真っ先に飛び出したポチが驚きの声をあげた。


「「「「「オオーーーーーー!!」」」」」

 
 四号の塗装は全て削り取られて金属の地肌が露出していた。

 そして……

 露出した地肌は鈍色の鉄ではなく、眩いまでの金色であったのだ!

 

☆ ステータス

 HP:13000 MP:180 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・90 マップ:9 金の針:0 所持金:6500ギル(リポ払い残高27000ギル)
 装備:剣士の装備レベル35(トールソード) 弓兵の装備レベル30(ソードボウ)
 憶えたオーバードライブ:シルバーヒール(ケイト) シルバースプラッシュ(テル)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル (寺井光子)   二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼馴染 ペギーにケイトに変えられた
 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ラーテの搭乗員 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ラーテの搭乗員 辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 小さいが人化している
 ペギー         異世界の万屋

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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銀河太平記・164『恐るべし劉宏』

2023-06-10 17:12:49 | 小説4

・164

『恐るべし劉宏』越萌マイ(児玉元帥) 

 

 

 心肺停止!?

 

 長年、幾百幾千と人の死に立ち会ってきたので一瞬で分かる。

 熊が小鹿に担がれるようにしてプールサイドに引き上げられる。熊を下ろすと、直ぐに小鹿は熊に馬乗りになって蘇生措置を施す。

 熊は劉宏大統領、小鹿は大統領秘書官の王春華。

 春華の蘇生措置が冷静なので、森の小鹿が寝坊の熊親父を優しく起こしているように見える。

 有能なレスキューは、沈着だが、けして周囲をパニックに陥らせない。

 士官と学生と救急係りの看護師が同時にAEDを持ってきたが、士官と学生には待機を指示し救急係りのを使用する。

 救急係りのAEDが最新でメンテナンスも行き届いているせいなのか、後々、救急係りが要らぬ責任追及をさせられないためか、あるいはその両方か。

 そして、人工呼吸の間に女性下士官に呉麗花を保護するように目配せする。

 まだ小学六年生の呉麗花は、まるで自分が心肺停止にしてしまったように怯えて口に手を当てたまま動けないでいる。

 会場の全員が瀕死の大統領から目を離せない状況の中、よく気づくものだ。

 女性下士官が抱きしめて、その場から出そうとするが、責任感からなのだろう、麗花は震えながらも大統領の蘇生を祈っている。

 AEDが三回試され、蘇生措置は10分を超えた。

 心臓マッサージを続けながらも、王春華は会場の救護担当の医師と、来賓で来ていた軍医総監を呼んで、二言三言言葉を交わす。

 医師は軍医総監の表情を窺ってから、首を縦に振り、軍医総監は王春華の肩をたたくことで同意の意思を示した。

 

 春華は両手で大統領のこめかみを挟んだ。

 

 PI(パーフェクトインストール)をやるんだ!

 

 小文字のpiも大文字のPIも、その施術姿勢は変わらないが緊張感が違う。

 劉宏と王春華は度々PIをやっている。北大街大酒店での日漢秘密会談で確信した。

 漢明の技術が進んでいるのか、劉宏が並外れた耐性を持っているのか、これまでも幾度か繰り返されていると、わたしは読んだ。しかし、それは、何時間かの後に再び劉宏のソウルを劉宏の身体に戻すことが前提だった。いわば、鍵穴一つ残したPIで、危険とは言え復帰前提のPIだったはずだ。

 二十余年前、マンチュリアの丘でJQにやらせたことを思い出す。

 いま、王春華がやろうとしているのは、その鍵穴さえもサルベージしてしまう、史上二番目、究極のPIだ。

 瞬間、劉宏の身体が、ほんの皮一枚分縮んだように見えて、同時に王春華が劉宏の胸に崩折れた。

 失敗か!?

 会場に居る全員が息をするのを忘れて固唾をのんだ。成功例は二十余年前のわたしとJQの例しかないのだ!

 

 数秒後、数回瞬きをして王春華がゆっくりと立ち上がった。

 

「会場の諸君、中継を見ている全国、全世界のみなさん。たった今、劉宏は史上二番目のパーフェクトインストールを成し遂げました!」

 オオオオオオオオオオオ!

 どよめきを制止て、王春華、いや劉宏は続ける。

「医師団の尽力によりほぼ体力と健康を取り戻したと思い、少し無茶をし過ぎたようです。古い体を失ったのは、あくまでわたし劉宏の勇み足によるもの、ほかの誰の責任でもありません。むろん、そこで涙を浮かべて見守ってくれている麗花のせいでもありません」

 そう言うと、劉宏は笑顔で麗花を差し招いた。

「だ、大統領閣下!」

 飛び込んできた麗花の髪をくしゃくしゃにして劉宏は言葉を続けた。

「アハハ、いつもの劉爺ちゃんでいいさ」

「え、あ、でも……」

 あの姿かたちで「爺ちゃん」は言いにくいだろう。

「公務以外では春華姉ちゃんでもいいか」

「はい」

「じゃあ、古い体を見送らなくちゃ。いっしょに付いて来てくれるかい?」

「はい!」

 学生たちが持ってきたストレッチャーにさっきまで劉宏だった体を載せると、春華の体の劉宏と麗花は手を繋いで会場を出ようとした。

 

「おっと、ドンケツ大会は始まったばかり、大いに励んでくれたまえ!」

 

 ウオオオオオオオオ!

 

 割れんばかりの歓声が上がって、劉宏は公明正大に、そして、今まで以上の信頼を勝ち得た。

 士官食堂で中継を観ていた、こちらの兵たちも、ほとんどが胸を熱くしている。

 

 恐るべし劉宏。

 

 ☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  •  

 

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RE・かの世界この世界:123『対シリンダー戦』

2023-06-10 06:50:00 | 時かける少女

RE・

123対シリンダー戦』テル  

 

 

 空を埋め尽くすほどのシリンダーの群れだ!

 
 全てを相手にすることは出来ない、群れの薄いところを集中的に攻めて穴が開いたところから突破するしかない。

 時間をかけていると融合体になってしまって手が付けられなくなる。

―― 三式弾だ、三時の方向が薄くなっている、撃ったら突撃する! ――

「三式弾ヨーイ!」

「ラジャー!!」

 ヒルデが命じ、ロキが弾を込める。

 三式弾とは一種のクラスター弾で、目標に最接近したところで炸裂し、打ち上げ花火のように幾百の子弾をまき散らす。

 シリンダーの群れに穴が開いたところを一気に突き抜けようと言う作戦なのだが簡単ではない。一撃で致命傷を与えられるのは炸裂の中心から半径十メートルほどがせいぜいだ。
 傷ついたシリンダーは直ぐに融合して、その名も融合体となって難儀なクリーチャーに変異する。 
 これまではなんとかしのいできたが、ヘルムのシリンダーは初めてだ。いや、ヘルムにはこれまでクリーチャーが出現したという記録すら無いのだ。見かけは同じシリンダーでも油断はできない。

 三発試したが、穴は四号がたどり着くまでに閉じてしまう。

 三発目の結果を見てヒルデが命じる。

「先に加速してから撃つぞ!」

「大丈夫か?」

「これしかない。ギリギリまで上昇して加速と同時に落下させる。呼吸を合わせろ!」

 四号は螺旋を描いて上昇、真地旋回して車体が45度下を向いたところで加速!

 ギュィーン!

 落下と加速で重力が消失、一瞬身体が浮く。

「テーーー!!」

 ズガーーン!!

 やった!

 突入と同時に穴が閉じ始める。

 ビチャ ビチャ ビチャビチャビチャビチャビチャビチャビチャビチャ!

 破片になっても生きているシリンダーが粘液をまき散らしながら四号の車体に貼り付いてくる!

「くそ、粘っこいやつらだ!」

 貼り付いたシリンダーが四号の行き脚を鈍らせる、タングリスは負けじとアクセルを踏み込むがエンジンは息絶え絶えになり、速度計の針は急速にゼロに近くなる。

 えい! えい! えいえいえい!

 可愛い気合いが聞こえる。

「ポチががんばってるぞ!」

 ペリスコープから覗くと密集したシリンダーの砕けの中でポチが戦っている。

「ケイト、行くぞ!」

「おお!」

 ハッチの隙間から剣と弓を出し、邪魔になるシリンダーをぶちのめしつつ外に出る。

 出た途端に貼り付くシリンダーの砕け、左手で顔に貼り付かれるのを防ぎながら剣を振り回す。ケイトも同じように弓を振り回している。ケイトの弓も進化していてライトセーバーのように光って、振り回す旅にブンブンと頼もしい音がしている。

「げ、限界だ……高度が保てん!」

 ヒルデが唸る、ハッチの縁を掴む手がブルブルと震えはじめた。

 グィーーーン ズザザザザザザザ! ザーーー!

 四号はほとんど墜落の勢いで着地していった。

 

 見上げる空にはシリンダーの群れがわだかまっているが、降りてくる気配は無く、大きく旋回すると北に向かって方向を変える、変えた先には胡麻粒ほどの大きさになってなお北進していくユーリアが視界没になっていく。

 視線を落とすと、身の丈ほどの灌木林。所々に獣道なのだろうか下草が疎らになっているところがあるきりで、日ごろ人の出入りが無いことが偲ばれる。鳥か獣か、はたまたクリーチャーか分からぬものの気配と鳴き声。砲塔の上に身を乗り出すと灌木林の木の間隠れに鬱蒼としたジャングル、さらに向こうには急峻な山岳が見えて、この先の進撃が困難なことが伺える。

 ん?

 分からぬものたちの鳴き声が止んだ。灌木林からは幾百の鳥たちが一斉に飛び立つ、いや何かを恐れて飛び立っていく。

 なにか来る……。

 
 ゴゴゴゴゴゴゴーーーーーーーー!!

 
 地響きがしたかと思うと、大地が鳴動して、目の前の灌木林がユサユサと揺れる。

 ギシ ギシ ギシ

 四号のサスペンションが軋んで車体が揺れる。

 ゴゴゴゴゴゴゴーードドドーーーーン!!!

 地震だ! 震度7ほどもある!

 25トンある四号の車体がオモチャのように揺れる!

 さすがに乗り慣れた乗員たちなので、車内のフックや取っ手に掴まって揺れをしのぐ、悲鳴を上げる者もいない。

 十数秒だったろうか、やっと揺れが収まって四方を見渡す。

「みんな、後ろを見ろ……」

 ヒルデの差す四号の後方を見ると、地面が陥没して海の水が流れ込んでくる。

 四号の背後数メートルのところから地面が無くなって、ヘルムの島は二つに分裂してしまっていた。

 
☆ ステータス

 HP:13000 MP:180 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・90 マップ:9 金の針:0 所持金:6500ギル(リボ払い残高27000ギル)
 装備:剣士の装備レベル35(トールソード) 弓兵の装備レベル30(ソードボウ)
 憶えたオーバードライブ:シルバーヒール(ケイト) シルバースプラッシュ(テル)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  小早川照姫の幼なじみ ペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目で1/12サイズの人形に擬態
 ペギー         異世界の万屋
 ユーリア        ヘルム島の少女

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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くノ一その一今のうち・58『大阪城の空堀と坂道』

2023-06-09 11:07:08 | 小説3

くノ一その一今のうち

58『大阪城の空堀と坂道』 

 

 

 …………ちょっと違う。

 

 勇んで大阪城に来てみたものの、本丸入り口の桜門の前で立ち止まってしまった。

『へんですね』

 えいちゃんも丸まった上半身をカバンから覗かせて不思議そう。

 桜門を前に見て、左側が空堀。右側の内堀もクニっと北に曲がるところまでは空堀なんだけど、それ以外は内堀も外堀も水の堀。坂道もあるんだけど、それは本丸の東側、ちょうど空堀が水の堀になってしまって――空堀の坂道――という条件からは外れている。

 念のため、入場料を払って西の丸にも入ってみる。空堀の半分は本丸と西の丸の間にあるから。

『アングル考えたら時代劇の撮影に向いてますねえ、ほら、天守が載った石垣を背景に、この御殿風の会議場のとこなんて。石垣が高いから、これをバックに太刀まわりとかもいいですねえ♪』

「あはは、でも、ロケハンに来てるわけじゃないからね」

『あ、すみません、そうでした!』

 それから、本丸東側の坂道。

 堀端の坂道としては東京の九段坂の方が大きくて長いけど、九段坂は自動車道だし北側はビルがいっぱいで、お城の坂道という感じじゃない。

 坂の上に立つ。

 見下ろした坂道は、内堀に沿った一車線ほどの幅で、六車線もある九段坂よりも、お城の中の坂道という風情。

 だけど――空堀の坂道――という条件からは外れている。

『もう、いったいどういうことなんでしょうね!』

 えいちゃんが、ちょっと癇癪気味にグチると、外人観光客の一団がちょっとビックリして、なにごとか喋りながら坂を上って行く。

 古城の坂道で女子高生が腕組みして坂の下を睨んでいる……って、なんか、アニメの名シーンのように感じたのかもしれない。

『ちょっと絵になったかもしれません』

「あんまり不用意に喋らないでね」

『あ、外人さんたちが……』

「え?」

 振り返ると、桜門の向かい側の茂みの中に入って行く。天守閣のある本丸とは逆方向だ。

 行ってみると、大きな石柱があって『豊国神社』と彫られている。

 豊臣秀吉を祀った神社だ。

『空堀の坂道』は空振りだったけど、わたしも鈴木系豊臣のまあや……その家来というわけじゃないけどガードだからね、ご挨拶ぐらいはしておこうか。

 石柱の先は短い参道になっていて、太閤秀吉の銅像に軽く一礼して鳥居を潜る。

 由緒書きを見ると、明治天皇が『大阪の基礎を築いたのは豊臣秀吉なのだから、神社を造って祀ってはどうか』とおっしゃって出来た神社であるらしい。最初は中之島のあたりにあったらしいけど、都市開発や戦災にあったりで、戦後、この大阪城内に移された。

 観光客の人たちに混じってお参り。

 ネットの情報なんだろうか、外人さんたちも、ちゃんと二礼二拍手一礼のお参りをしている。

 お賽銭投げて一礼で済まそうとしていたので、慌てて二礼二拍手一礼。

 頭を上げると、観光客の人たちの姿が無い。

 振り返ると、境内の外は花曇りのように霞んで、淡い結界が張られたようになっている。

 

『よく参ってくれた、どうもありがとう』

 

 直垂(ひたたれ)姿のおじさんがにこやかに立っている。

 これまでの経験が――尋常ならざる者――というアラームを発して反射的に警戒してしまう。えいちゃんも『キャ!』と声を上げてカバンの中に引っ込んでしまった。

『あ、これは、ちょっと驚かせてしまったかな。わたし、この神社に祀られている秀長です』

 秀長?

 なんだ、秀吉と信長の良いとこ取りをしたような名前は?

 パチモンのような名乗りに、さらに一歩引いてしまった!

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
  • 多田さん         照明技師で猿飛佐助の手下
  • 杵間さん         帝国キネマ撮影所所長
  • えいちゃん        長瀬映子 帝国キネマでの付き人兼助手

 

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RE・かの世界この世界:122『四号空を飛ぶ!』

2023-06-09 06:52:19 | 時かける少女

RE・

122『四号空を飛ぶ!』テル  

 

 

 

 四号が空を飛んだ!

 
「何かににつかまって振り落とされないようにしろ!」

 タングリスが叫んだ。

 砲手席には手すりが無いので、砲尾の薬莢バスケットの枠を右手で、左手でハッチのハンドルを掴んで耐えた。他の乗員も、それぞれ手近の突起物やレバーに掴まっている。

 ヒルデ一人がコマンダーシートに立ったままで、上半身をキューポラの外に晒している。

 

 その姿で察した。

 

 四号を飛ばしているのはヒルデだ!

「姫の中で何かが覚醒した! しかし不安定だ、どうなるか分からん! しっかり掴まっていろ!」

「「「「ウワーーーーー!!」」」」

 急に降下して一瞬無重力状態になり、すぐに降下した分を取り返すように急上昇。みんなあちこちぶつけたようで悲鳴が上がる。

「ポチ、外に出て様子を見ろ、ふつうに飛べるのは、お前ひとりだ」

「わ、わかった!」

 無線機の上の定位置から、器用に体をくねらせてコマンダーハッチから外へ飛び出していく。

「完全にいっちゃってるよヒルデ! 目が座ってトランス状態だよ!」

 砲手席からはコマンダーシートに立ち上がった脚しか見えないが、その力の入りようからも異常なのが分かる。

 普通、ハッチから上半身を晒していても、腰はハッチの縁に預けてリラックスしている。

 いまのヒルデはシートに接着された等身大のフィギュアのようだ。仁王立ちの姿勢のまま固着している。

 え! ええ( ゚Д゚)?

 よく見ると、シートとブーツの底の間に微弱な火花が散っている……ヒルデの体からエネルギーが出て四号の車体を飛ばしてるんだ!

「みんな無事か?」

 タングリスが、やっと落ち着いた声で聞く。アアとかハイとかの返事が返って来るが、オッサン一人分足りない。

「ヤコブがいない」

 ヤコブはフェンダーの上に居たはずだから、四号が飛び上がった拍子に墜ちてしまったんだろう。

「ポチ、姫の具合はどうだ?」

「こわいよお、目が白目だけになって、髪の毛が逆立ってるよお!」

「姫! 殿下! 聞こえますか!? ブリュンヒルデ姫!!」

 応えは無い、皆の視線がヒルデに集まる。

 

―― 気を付けろ、クリーチャーの群れが現れるぞ ――

 

 ヒルデの声が直接頭の中に響いた。

 ペリスコープで外を確認する。

 前方数百メートルの空間に滲みが現れ、みるみるシミのように大きくなっていく。ハングライダーのユーリアが通るところだけ漂白剤を落としたように開けている。

―― シリンダーの群れだ、みな外に出て戦え! ――

 ええ!?

 簡単に言うな、ここは足場一つないヘルムの空の上なんだぞぉ!

 

☆ ステータス

 HP:12000 MP:150 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・80 マップ:8 金の針:0 所持金:5500ギル(リポ払い残高29000ギル)
 装備:剣士の装備レベル30(トールソード) 弓兵の装備レベル29(トールボウ)
 憶えたオーバードライブ:シルバーヒール(ケイト) シルバースプラッシュ(テル)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  小早川照姫の幼なじみ ペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目で1/12サイズの人形に擬態
 ペギー         異世界の万屋
 ユーリア        ヘルム島の少女

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・032『紫陽花の季節』

2023-06-08 15:29:09 | 小説

(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

032『紫陽花の季節』   

 

 

 入学してから、今日で二か月。

 

 カレンダーが二回改まって、六月の第二週に入ろうとしている。

 商店街を抜けて学校までの家々の前や植え込みに紫陽花があるのに気付く。

 花をつける前の紫陽花は、ただの葉っぱの塊で、ツツジやさつき、バラに隠れてまるで存在感が無い。

 バラが古文の先生が余談で話してくれた卒塔婆小町(百歳の小野小町)のように茶色く萎びたころに、紫陽花の花は姿を現す。最初は地味で小振りな和菓子のようなのが、あっという間に豚まん、メロンパンくらいの大きさになって、梅雨本番。

 紫陽花だって名前の通り花なんだから、赤とか黄色とか青とかに染まればいいんだけど、ここらへんの紫陽花は、薄々緑か薄々紫。花言葉は『移り気』だから、そのうち変わらないかなあと、通学時のささやかな楽しみにしている。

「紫陽花の色って、土壌で決まるって言いますからね、ここいらは関東ローム層ですからね、リン酸系の肥料をたくさんやらなきゃまともに育ちませんよ」

 ロコは、情の無い説明でささやかな楽しみを萎ませてくれる。

 

 さて、二か月目の一年五組。

 

 最初は一時間目の予鈴が鳴るころには全員が教室に揃っていたんだけど、近ごろは本鈴が鳴っても空いている席がある。小中学校みたいに朝礼をやらないもんだから、だんだん横着になって来る。

 近ごろじゃ、先生たちも二三分遅れて授業にやってくる。「早く来ても、揃ってないだろ」という先生には、少々呆れた。生徒に規律を守らせるのは先生だ。守らせると言っても説教や嫌味を言うことじゃない。先生たちが時間を守ればいいだけの話だ。

「朝礼ぐらいやればいいのに」

 朝の無秩序に、ちょっとグチが出る。

「先生たちの朝礼が無いんだ、生徒に朝礼なんて無理だろうな」

 そう言いながら、委員長の高峰君は黒板の脇、日付と日直の名前を書く。いつもは、担任の藤田先生が前の日に書いておくんだけど、今日は忘れているんだ。

 で、今日の日直は時司……って、わたしのことじゃん!

 慌てて学級日誌をとりに行こうと廊下に出たら、ちょうど先生がやってくるところ。

 仕方ない、日誌は一時間目終わってから……て、一時間目は数学のはずなのに、やって来るのは古文の先生。

 古文は6時間目だぞ。

「ええと、話し通ってるよな、委員長?」

 わたしの疑問に気づいたのか、委員長に振るんだけど、先生が顔を向けているのは10円男の方だ。

 委員長の高峰君も不審に思って10円男に首を巡らす。

「あ、すみません、委員長に言ってる暇なかったんで、ちょっと代理でやりました」

 しゃーしゃーとぬかす10円男。

「しょうがないなあ、ま、そういういわけで、一時間目はわたしの古文だ」

 え、じゃ6時間目は? それって? ヒソヒソ声が上がる。

「先生休みで、カットカット」

 10円男が言うと、クラスの大半は紫陽花の花がいっぺんに色を変えたように喜んでいる。

 ボサボサの髪を搔きながらガハハと笑う10円男。

 高峰君はポーカーフェイスで古文の教科書とノートを出している。ポーカーフェイスだけど、あれは怒ってるよ。

 

 その日、五時間目で終わって帰り道、いつもの道に水たまり。一つ向こうの道から商店街に入ったら、須之内写真館の前。フラワーポットの紫陽花はきれいな赤色の花をつけていた。

「赤の紫陽花は『元気な女性』が花ことばです!」

 ロコが博識ぶりを発揮。わたしを元気づけてくれたのかもしれないけど、わたしは写真館のオネエサンの顔が浮かんだ。

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子             1年5組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            1年5組 副委員長
  • 高峰 秀夫             1年5組 委員長
  • 吉本 佳奈子            1年5組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              1年5組の担任
  • 先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長
  • 須之内写真館            証明写真を撮ってもらった、優しいおねえさんのいる写真館

 

  

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RE・かの世界この世界:121『四号戦車試乗会・4』

2023-06-08 06:16:26 | 時かける少女

RE・

121『四号戦車試乗会・4』ブリュンヒルデ  

 

 

 

 四号戦車試乗会はヘルム文化フェスティバルになってしまい、プログラムが進むうちにアイデアが出て、ますます賑やかになってきた。

 大道芸人友の会のパフォーマンスが終わると『大声コンテスト』になり、二十四人が手を挙げて声を競った。

 ウオーー! ガオーー! 猛獣のような叫び声をあげる者もいれば、バカヤローー!とうっ憤を晴らす者、愛してるーー!と叫んで、誰を愛してるんだーー!? と聴衆に迫られ、とうとうその場でプロポーズをさせられてしまう者まで現れた。

 子どもたちもなにかやりたい! ということで、ハングライダークラブが紙飛行機コンテストを始めた。丘の上には麓から上昇気流が噴き上がってきているので、どの紙飛行機も大空高く飛び上がり、優勝した紙飛行機は、とうとう姿が見えなくなるまで飛んでしまい「素晴らしい! 五年ぶりの視界没が出ました!」と盛り上がった。

 ……という段取りで。

 わたしがMCをやっている間に乗員たちと出し物グループとの話がついて、ハングライダーグループが子どもたちを連れて体験飛行をやり、それと並行して四号の主砲で花火を打ち上げることになった。

「わたしも参加する!」

 宣言したのはユーリアだ。

 いつの間にかハーネスを付けてヘルメットにゴーグルの姿。飛ぶ気満々の出で立ちになっている。

「ユーリアは先月までうちのクラブにいたんですよ(^▽^)」

 グループのリーダーが準備を手伝いながらニコニコしている。ユーリアはなかなかの腕のようだ。

「花火のタイミングは、わたしが出すからね」

 ユーリアと無線のチェックをする。

「自分も飛ぼうかなあ」

 見ていたヤコブもその気になるが「体重減らしてからに……」とリーダーに言われて諦めた。

 ブラバンが『ペガサスマーチ』を奏でる中、ハングライダーチームは次々と空に舞った。

 子どもたちを抱えている者はゆるゆると安全飛行を心がけたが、単独で飛んでいる者は華麗にターンや宙返りなどのパフォーマンスを繰り広げ、丘の上で見物している者たちから喝さいを浴びた。

 

 それは、リーダーとユーリアがコンビでパラレルターンを決めた直後だった。

 

 ―― 花火! ――

 ユーリアの無線。テルにキッカケを出して四号は最大仰角に上げた主砲から立て続けに花火が打ち上げられた!

 三発上げたところで、山々にユーリアの声が木霊した。無線がビッグバンドのスピーカーにリンクしていたのだ。

―― 今から向かいまーす! ――

 どこへ?

―― これから、ヤマタの神のもとに行きまーーす! だいじょーーぶ! ちゃんと役目は果たしまーす! さよならお兄ちゃん! ありがとう四号のみなさーん! 行ってきまーーす! ヘルムのみなさーーん! ――

 そこまで言い切ると、サッとターンして、ハングライダーとは思えぬスピードで東を目指して飛んでいく。

 やられた、この漆黒の姫騎士までも、まんまとたばかりおった!

「乗員は四号に乗れ!」

「どうすんの、戦車じゃ追えないよ!?」

 ケイトが当然の疑問をぶつける。

「見くびるな! ユーリアは漆黒の姫騎士の心に火をつけおったぞ!……いくぞ! 四号発進!」

 ゴーーーー!!

 我が意を受けた四号は、唸りを上げて浮揚し始めた……

 

☆ ステータス

 HP:12000 MP:150 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・80 マップ:8 金の針:0 所持金:5500ギル(リポ払い残高29000ギル)
 装備:剣士の装備レベル30(トールソード) 弓兵の装備レベル29(トールボウ)
 憶えたオーバードライブ:シルバーヒール(ケイト) シルバースプラッシュ(テル)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  小早川照姫の幼なじみ ペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目で1/12サイズの人形に擬態
 ペギー         異世界の万屋
 ユーリア        ヘルム島の少女

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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せやさかい・414『探訪 空堀商店街とこらへん』

2023-06-07 11:19:18 | ノベル

・414

『探訪 空堀商店街とこらへん』さくら   

 

 

「400年の昔、ここには大坂城の南端で、東西方向に空堀が掘られていたんだ。それが、これだ!」

 

 ソニーが指差したのは、商店街を西に下って曲がって、さらに下った路地の突き当り。

 高さ5メートルほどの石垣が聳えてる。

「そうなん……なんか、石の隙間をセメントで固めてて、電車の高架下的やし」

「ここは生活道路だからな、安全の為に塗り固められている。正式には大坂城南惣構堀跡というんだ」

「元々は野面積みだったみたいね」

「ああ、一部には打ち込み接ぎ(うちこみはぎ)が窺える。大坂の陣に備えて補強された部分かもしれん」

 ソニーとメグリンの話は難しくて、よう分からん(^_^;)。

 商店街に戻って、改めてキョロキョロ。

「きれいにしたあるけど、よう見ると、けっこう古い建物が多いなあ……」

「ここらへんは、奇跡的に戦災を免れているんだ。地元の人たちは古いだけの町と思っていたらしいが、外から来た人間が、その貴重さに気付いて、地元の人たちも加わって保存しつつ活用しているんだ」

「そうねえ……『プリンセストヨトミ』って映画ができたころから注目されたかなあ」

「あ、その映画は知りません!」

 ペコちゃんの感想にソニーがビビットに反応する。

「あ、豊臣の末裔が生き残ってて、そのお姫さまを護っていく……的だったかなぁ? お好み焼きのオヤジさんが陰の豊臣政府の総理大臣だった」

「ネトフリで探して見ます!」

 いやはや、ソニーの向学心はスゴイぜ。

「あ、手押しポンプがある!」

 今度は留美ちゃんが発見。

 石垣の横にレンガ造りの朝礼台みたいなのがあって、その横に手押しポンプ。

「ああ、これは井戸なんだ!」

 どうやら、まだ現役の井戸とポンプらしい。いやあ、戦災に遭わへんかったいうのはえらいことやねんわ。

「あ、スーパー玉ちゃん!」

 御用達のスーパーを見つけて喜ぶ留美ちゃん。ほんまは別の名前やねんけど、留美ちゃんは可愛く自分だけの愛称で呼ぶ。

「商店街に、こういうスーパーがあるのは郊外の商店街なんだけどね」

「へー、そうなんですか?」

「心斎橋とか天六商店街とかそうでしょ。まあ、ここはそれだけ地域に軸足が載っている証拠ね」

「先生、詳しいんや!」

「あはは、卒論が『商店街と地域性』だったからね。大阪の大学だったら、ぜったい空堀商店街取り上げてたわねえ」

「表は今風だが、隙間とかから伺える元々の建物は年季が入ってるぞ」

 確かに、看板で隠れてる庇は古い軒瓦。建具にもプリントではない木目が入ってたりする。

「登録有形文化財?」

 ソニーにも分からん表示があった。

「重要文化財ってほどじゃないけど、今の技術で建てるのは難しいのが指定を受けて保護されてるのよ」

「ええ、それは見当はつくんですが、現役の店舗だというのがすごいです」

「中はお屋敷になってるみたい……」

 そういう留美ちゃんのあとに付いて入る。

 中庭というか、複数の建物の真ん中が20坪ほどのセメント塗りの空間で、周囲のお店が取り囲んでる。

「胡同(ふうとん)に似てるかもね」

「胡同は、もう、本場の北京にもありませんよ」

「でしょうね、まあ、そういう共同の憩いの場って感じかな」

 

 で、左手が喫茶店なんで、ペコちゃんのオゴリで一休み。

 

 一息ついて、店を出て振り返ると、喫茶店は、さっき「登録有形文化財?」と感心した門の横にある土蔵やった。

 よう見たら気ぃつくねんけど「登録有形文化財?」の看板に目を奪われてたんで分からへんかった。

「こういうのが三つもあるらしいぞ」

 いつのまにかパンフレットをゲットしたソニーが感心する。

「一日じゃ周り切れないわねえ……」

「留美の言う通りだ、今日は的を絞るぞ」

 さすがは、女子高生にして現役陸軍伍長、瞬間で残り時間と目標を見定めて、うちらの先頭を行く。

 

「この橋を渡るぞ」

 

 商店街を東に出ると、今度は北に進んで橋を渡った。

「あ……え……?」

 橋を渡り切って留美ちゃんが振り返る。

「気づいたか」

「うん、歩道橋かと思ったけど、下の道路から上がって来る階段もないし……作りが、橋というよりは道路」

 そこまで言うと、橋のたもとに走る留美ちゃんとメグリン。

「ちゃんと橋だ」

「高津原橋(たかつはらばし)と書いてある」

 それがどないしたんと、うちは思う。広い大阪、まあ、こういう、ちょっとけったいなもんはあるやろ。

 うちの近所にも30号線のくせして、13号線と呼ばれてる府道があるし。

「さくら、考えて見ろ」

「え、うち?」

「お前意外にさくらはおらん」

「え、えと……」

 留美ちゃんとメグリンが興味津々、ペコちゃんとソニーがニヤニヤ。

「実は、ここは南北の地形を見ても分かるんだが高台だった。大正時代に市電を通すことになったんだが、当時の市電は力不足で、高台を超えることができなくてな。それで、市電が通る分だけ高台を削った。ところが、町の真ん中を削ったものだから町が分断されて不便になる。そのために道路を繋ぐ形で橋が掛けられたというわけだ」

「な、なるほど……(;'∀')」

 こいつ、ほんまに外人なんか?

「それだけ、大阪という街は、住民の生活を大事にしていた。これは誇っていいことだと思う」

 パチパチパチ!

 三人が拍手、うちも遅れんように、パチパチパチ!

 

「さ、次いくぞ」

 

 次に向かったのは、ちょっと北に歩いた南大江小学校の脇。

「ここだ」

 ソニーが示したのは、歩道の脇にある白いテントのような檻のようなオブジェ。

「なんやのん、これ?」

「まあ、覗いてみろ」

 オブジェの両横にはアクリルがハメてあって中が覗ける。

「あ、水が流れてる!」

 留美ちゃんが気づいてメグリンと肩を寄せ合う。

「太閤下水ね」

「そうです、学校では教えないんですか?」

「高校じゃやらないわね、やるとしたら小学校……かな」

 うちらは習わへんかった。

「これ、太閤さんが作ったやつ?」

「ああ、そうだ」

「ふうん……」

「興味薄いなあ」

「あ、いや、そんなことあれへんよ(^_^;)」

 いや、正直、空堀から一キロほど歩いて来たわりには……食べ物屋さんやらおしゃれな店期待してたから。

「パリやロンドンで下水が完備したのは19世紀だ。それを、秀吉の政権は16世紀に作っている。それも、特権階級者用ではなくて、町人たち一般庶民が住む地域にだ」

「そ、そうなんや」

 まあ、それを復元して見れるようにしてんのはすごいと思うねんけど、ちょっとお腹が減った。

「少し、誤解しているようだな」

「へ、なにが(^_^;)?」

 お腹の音聞こえたかなあ(^o^;)

「この下水は、いまでも現役だ」

「あ、ほんと!」

 留美ちゃんが、説明のプレートを見つける。

「日本というのは、こういうところが凄いんだ……」

「は、はひ」

「ごめん、ちょっとシリアスになってしまったな」

「よし、今日は先生が晩ご飯もおごっちゃおう!」

 ええ!?

 ここは一致して、全員目ぇがへの字になる。

「もうちょっと行くと、谷四で、府庁もあるからね」

 え、それて、府庁の公務員さんらの食堂……思ても顔には出さへん。

 タダ飯というだけで嬉しい。

 

 それに、実際に御馳走になると、これがけっこうなボリュームで美味しかった!

 今度の部活は、食レポを書いて文化祭のネタにしよう!

 飯代は、部費からということで! あきませんか? あかんやろなあ(^_^;)

 

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校二年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学三年生 ヤマセンブルグに留学中 妖精のバン(バンシー)ナンシー(リャナンシー)が友だち
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       中二~高一までさくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 花園あやめ(声優)  
  • さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん)
  •   

 

 

 

 

 

 

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RE・かの世界この世界:120『四号戦車試乗会・3』

2023-06-07 05:51:46 | 時かける少女

RE・

120『四号戦車試乗会・3』ブリュンヒルデ  

 

 

 丘の上はお祭り騒ぎになった。

 
 一回につき九人の子どもたちを乗せて丘に登る。

 その様子は町内どころか、ヘルム中は大げさだが三キロ離れた所からでも見えるのだ。

 ロートルの四号はエンジン音が大きく一キロ先からも聞こえ、五百メートルくらいだと試乗している子どもたちの歓声まで聞こえるらしい。

 その音やら歓声やら武骨な四号の姿を見た者たちが予想外に集まった。

 歩いてくる者やマウンテンバイクで登って来る若者、車でやってくる者。中にはブルドーザーやユンボに乗って、少しでも戦車に近い気分で登って来ようという者も居て、四回目の九人を運び終わった時には数百人のヘルムの者たちが集まってしまった。ローゼンシュタットの降誕祭も派手だったが、あれは、メデューサの災厄を除いては町が企画運営して、我々はゲストとして楽しむだけだった。

「……だれか仕切らないと収拾がつかんぞ」

 タングリスが呟いたのはもっともだが、これは―― 自分以外の誰かが ――という意味が隠れている。タングリスはタングニョーストと並んでトール元帥の副官が務まるほど有能な軍人だが、こういうことは苦手だ。と言って、他の者が得意というわけでもないが。

 じっさい、テルは視線を逸らすし、ヤコブは工具箱を弄りだす。ロキとケイトはMCが入るほどにおもしろいイベントになるのかとキョロキョロ。ポチまでも「探してくるう~!」と飛び立っていく。

「し、仕方がない。わたしがやってやろうじゃないか(^_^;)」

「それは良い考えです!」

 タングリスが白々しくガッツポーズをするのに送られて丘の上に雛壇状になった岩に駆け上がる。

 雛壇は二段になっていて、一段目に足を掛け、ジャンプして空中一回転。二段目に着地したときには漆黒の姫騎士の出で立ちになっていた。我ながら気合いが入ってしまった(^_^;)。

「よく来た皆の者! 我こそは主神オーディンの娘にして堕天使の宿命を背負いし漆黒の姫騎士にして四号戦車の車長、ブリュンヒルデなるぞ!」

 調子よく名乗りを上げると、ファンファーレが鳴り響いた。

 パッパカッパッパッパーーーーーーン(^▽^)/

 いつのまにか雛壇の下にブラスバンドが並んでいる。ポチが自慢げにその上を飛んでいる。

「麓で練習していたら、面白そうなので登ってきたんです。この妖精さんに声をかけていただいて!」

 よく見ると、シュネーヴィットヘンで入港した時のハイスクールのブラバンだ。

 さらに目を凝らすと①~⑧までの小さなプラカードが並んで、そのプラカードごとに出演者たちが屯している。

「いったい、どこから集めてきたんだ?」

 得意そうに飛んでるポチに聞いてみる。

「なんか、この丘はいろんなグループの練習場になってるみたい!」

「よし、というわけで、ヘルム市民文化フェスティバルをやっちゃうぞ!」

 なんか、スゴイことになってきた。

 ブラバンのほかに、ジャズのビッグバンド、マジック友の会、大道芸研究会、大学のグリークラブ、チアリーディング、詩吟の会、現視研、ハングライダークラブと色々だ。

「よし、一チーム十分づつの出し物をやってもらうぞ! なに? そんなに長くはできない。そっちは、もっと時間をくれ? よし、出たとこ勝負でいっくぞお!」

 オオーーーーーー!!

 突如始まった『ヘルム文化フェスティバル』はノッケからのハイテンションになってきたぞ! 

 

☆ ステータス

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 持ち物:ポーション・80 マップ:8 金の針:0 所持金:5500ギル(リポ払い残高29000ギル)
 装備:剣士の装備レベル30(トールソード) 弓兵の装備レベル29(トールボウ)
 憶えたオーバードライブ:シルバーヒール(ケイト) シルバースプラッシュ(テル)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  小早川照姫の幼なじみ ペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目で1/12サイズの人形に擬態
 ペギー         異世界の万屋
 ユーリア        ヘルム島の少女

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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