大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

くノ一その一今のうち・60『空堀商店街』

2023-06-22 13:40:50 | 小説3

くノ一その一今のうち

60『空堀商店街』そのいち 

 

 

 大手門を出て南に走る。

 少し走ると地下鉄の駅が見える……谷町……四丁目?

 

『空堀商店街はもう一つ南です、谷町六丁目!』

 えいちゃんが注意してくれる。

「阿吽の呼吸だね」

『カバンの中にスマホがありましたから』

「しかし、外堀と惣掘の間が駅一つ分、巨大な城だったんだな」

 先日の甲府城も小さくはなかったが、目算でも甲府城が四つぐらいは入りそうな広さだ。

『北の端は天満橋ですから、南北で二キロ近くあります』

 二キロ四方……ちょっと手こずるかもしれないが、やるしかない。

 

 空堀商店街の入り口は、谷六駅のさらに南100メートルのところだった。

 

 アーケード入り口、向かって右がたこ焼き屋、左がパン屋。

 いかにも日常の生活に根差した商店街。アーケードの看板も『はいからほり』とダジャレめいていて好ましい。

『ちょっと身構えてしまいます(;'∀')』

 えいちゃんの気持ちは分かる。

 商店街は西に向かっての下り坂になっている。

 むろん、アーケードの中には十分な照明があるんだけど、途中で縦にも横にも微妙に曲がっていて西側の出口が窺えない。これから木下家の、おそらくは本拠地に足を踏み込むのかと思うと、えいちゃんでなくても身構えてしまう。

「行くよ」

 身構えていては怪しまれる。

 時間はほど良く三時半、高校の授業が終わって、平均的な高校なら全生徒の半分は所属している帰宅部がそぞろ下校する時間帯。

 フッと拳一つくらいの息を吐いてアーケードに入る。

 地元民以外にも、軽観光という感じの者もチラホラ。沿道の店々も戦前からあったような古寂びたものから、占いやらカフェやら原宿めいたものも見えて、シャッターが閉まったままという店は一軒も無い。商店会の努力や情報発信が実を結んでいる感じで好ましい。

「高校生も歩いている、溶け込みやすい」

『近くに空堀高校があります。駅に行くには少し遠回りですけど』

「少し遠回りでも、下校途中に寄ってみようって気にさせるんでしょ。上出来の商店街」

 ふと、この程よい賑わいは木下家が関わっているせいかと思ったが、気の回し過ぎだろう。これまでの木下の動きを見てもリアルの世界には一歩身を引いているはずだ。

 しかし……商店街の端が見え始めたというのに、怪しい気配が無い。

 ここが本拠地の入り口であって、木下の手の者の出入りがあるのなら、どこかに気配や残滓があるはずだ。

 それを見逃さない程度には猿飛たちと渡り合ってきている。

『少し戻ったところに惣堀の遺構があります』

「よし、行ってみよう」

 ゆっくり振り返って、チラホラ歩いている空堀高校生の空気に紛れる。

 呼吸と歩速を合わせれば、少々の制服の違いなどは気づかれない。

 

『ここです』

 

 途中、下り坂の路地が見えて、えいちゃんが知らせてくれる。

 あたかも、この先に自分の家があるという感じで路地に入る。下り坂は石段になっていて、降りた先の左側に高さ5メートルほどの石垣の遺構がある。隙間をコンクリートで埋めているが様式的には野面積と打込接の混在で戦国の名残を感じさせる。

 それに、微かに木下のにおいを感じる。甲府城稲荷曲輪の井戸、甲斐善光寺の戒壇巡りで感じたのと同種のにおいだ。

「なにかある……」

 視線を石垣から下ろすと手押しポンプが目に入った。

『これですか?』

「ああ、そうなんだが……」

 手押しのクランクは囲いがされて動かすどころか触れることもできないようにしてある。

『触れませんねえ……』

「いや、そうでもない」

『え?』

 ポンプの蛇口を捻ってみる。

 

 カク

 

 小さく手ごたえがある。角度にして1度ほど動いた。

 しかし、それは鍵のあそびのようで、実際にはもっとはっきりと手ごたえがありそうに思えた。

 おそらくここだ。

 しかし、鍵を開くにはもう一つ別の鍵があるような気がした。

「もう一度、商店街に戻る」

『はい』

 石段を一段飛ばしに商店街に戻った。

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
  • 多田さん         照明技師で猿飛佐助の手下
  • 杵間さん         帝国キネマ撮影所所長
  • えいちゃん        長瀬映子 帝国キネマでの付き人兼助手
  • 豊臣秀長         豊国神社に祀られている秀吉の弟

 

 

 

 

 

 

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RE・かの世界この世界:135『ヘルム島のイメージ』

2023-06-22 06:23:57 | 時かける少女

RE・

135『ヘルム島のイメージ』タングリス  

 

 例えばこれなのです。

 
 ヘルム神の頭上に郵便ポストほどの大きさの懐中電灯が現れた。

「懐中電灯というのは、機能別に表現すると、こうなります」

 懐中電灯は、三つに分かれた。

 
 ボディー  電球   電池

 
「ほかにスイッチや配線やレンズ等もありますが、それをボディーに含めると、この三つです」

 ボディーと電球と電池は、いったん元の懐中電灯に戻ってから、また三つに分離した。小学生に説明するように分かりやすく、こういう授業めいたことが苦手な姫もしっかりと頷いておられる。

「ボディーにあたるものがヘルムの島です」

 ボディーの下にヘルム島のイメージCGが現れた。

「電球がわたくしです」

 分かりやすく神という文字が現れた。

「そして、電池が少女です」

 電池が少女の姿になった。

 

 ボディー=ヘルム島  電池=少女  電球=ヘルム神

 

 そして、もう一度三つのものが合体し、懐中電灯が点灯し、やがて、電球の輝きが弱くなって消えてしまった。

「電池が切れました……切れた電池は廃棄されて、新しい電池が入れられます」

 少女の姿が消えて、新たに少女2が現れた。

 懐中電灯のお尻の蓋が開いて、少女2の電池に入れ替えられる。

 
 そういうことか……。

 
「そう、生贄の少女たちは、この電池なのです。だが、誤解しないでください。神は電池を少女の姿でお遣わしになるのです。電池は十七年かかって島の人たちに愛しまれることによってフル充電されます。そして、いま入れ替えられようとしている電池が……」

 またも電池が入れ替わって、少女2はユーリアの姿になった。

 

 しかし……電球は一度灯ったきりで消えてしまった。

 

「……お分かりになったでしょうか」

 姫が、感に打たれたように立ち上がると、かすれた声でおっしゃった。

「それ、電球に寿命がきたということだろうか?」

「はい、灯りが灯らない懐中電灯に存在理由はありません」

「それって……懐中電灯全体が意味をなさなくなったと言うことなんだろうか?」

「はい、ですので、電池はお返ししますね」

 

 説明のためのオブジェが消えると、エメラルドの上のヘルム神の姿がダブった。

 その片方がハッキリとユーリアの姿になって我々の前に降り立った……。

 

☆ ステータス

 HP:13500 MP:180 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・900 マップ:12 金の針:1000 その他:∞ 所持金:8000万ギル(リボ払い残高無し)
 装備:剣士の装備レベル38(勇者の剣) 弓兵の装備レベル32(勇者の弓)
 憶えたオーバードライブ:シルバーヒール(ケイト) シルバースプラッシュ(テル)
 スプラッシュテール(ブリュンヒルデ) 空蝉(ポチ)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル (寺井光子)   二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  小早川照姫の幼馴染 ペギーにケイトに変えられた
 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 小さいが人化している
 ペギー         荒れ地の万屋

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

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せやさかい・417『リッチとコットン』

2023-06-21 11:37:17 | ノベル

・417

『リッチとコットン』詩(ことは)   

 

 

 クール! こんなアニメを待っていた!

 すごいよ、三笠ってイギリスで建造されたんだぜ!

 日英同盟は今も生きている!

 乗組員が高校生というのがいい、それも学校じゃ目立たないモブ、失礼、普通の高校生!

 普通じゃないさ、みんな傷を持っていて、その傷にまつわる思い出が三笠のエネルギーってところがいい!

 思い出エナジー!

 テキサスとか他の国の戦艦が出てくるのもいい!

 四人? 四匹? ネコメイド可愛い!

 大和は三年ちょっとで沈んだけど、三笠は今でも保存されてる、縁起がいい!

 横須賀が舞台になるアニメって初めて、期待してる!

 横須賀、行ってみたい!

『つよ〇す』は横須賀舞台だ

『つよ〇す』はエロゲだ!

 エロゲ差別すんな!

 船に神さまが付いてるってかっこいい!

 付いてるじゃなくて憑いてるだ。

 憑いてるって化け物か!?

 地球温暖化否定してるけど?

 CO2が400ppmって多いみたいだけど、それって0.04%のことなんだぜ、ペットボトルにお箸突っ込んで、ポタリ落ちる雫一つ。そんなんで温暖化、オレは信じてねえ!

 そういうところに目ぇ向けないで、アニメを楽しもう(^_^;)

 声優がお気に入りばかり!

 百武真鈴! 

 吉永百合子って、ちょーベテランなんだけど、他の声優に比べたらお母さんて感じ!

 声優の歳言うの禁止!

 いやいや、三笠の船霊だから、お母さん的な?

 ヤマトの亜流にならないことを祈る。

 花園あやめイチオシ! イノチ!

 リンちゃん、小早川凜太郎!

 東郷って艦長の役だろ?

 東郷って司令長官! 連合艦隊!

 三笠一隻だから艦隊にはならない、ヤマトもそうだったし。

 天音のCV酒井さくらって新人?

 あ、聞いたことないかも?

 知らないの? あんたたちににわか?

 に、にわか呼ばわりすんな!

 制作発表会で、いちばん右端、上手(かみて)って言うの? そこに居た。

『犬が西向きゃ尾は東』で香里菜の裏の声やってる。

 よし、チェック!

 アニメフェスティバルのメインモニターでPV流れてるよ、今日から!

 

 

「いやあ、すごい! すごいねぇ! すごい!」

 

 

 すごいを連発してヨリコ王女はベッドに倒れ込んだ。

 脚を悪くしてからモニターはベッドの足元の位置にある。特等席はベッドの上なので、ヨリコさんは遠慮なくわたしと並んでモニターを見ていたんだ。投稿されたコメント全部読んで満腹。

 アニメフェスティバルの二日目から日本の秋アニメ『宇宙戦艦三笠』のプロモーションが始まった。

 200インチの大型プロジェクターに『宇宙戦艦三笠』のPVや、横須賀や、声優さんたちの映像が流されている。

 プロジェクターの前には、海軍博物館から借りてきたっていう三笠の1/100模型なんかも置かれていて、急場に間に合わせた感がしない展示になっている。

 早くもファンたちが動画を流して「いいね」やスレが立ちまくっている。

「百武真鈴の行動力もすごいわね、さくらを引っ張って行ったのは真鈴よ」

「去年の文化祭、いっしょにパレードしたんでしょ? あの企画も彼女だったって」

「うん、そう。いっしょに学校のプロモーションビデオ撮ったり、卒業証書持ってきてくれたり……」

「『恋するマネキン』じゃ、ヨリコさん、声優もやったよね」

「そのどれもこれも百武真鈴、あいつは声優よりもプロデューサーに向いてるかもね」

 

 ヨリコさんは99%、友人と後輩の活躍を喜んでいる。

 でも、横顔を見ると、1%の寂しさが見える。

 ヨリコさんも、多彩な人だ。ヤマセンブルグの王女を引き受けてしまって諦めてしまった未来があるんだ。

 まだやっと19歳、思うところもあるよね。

「ふふ、諦めてしまったと思ってる?」

「え、あ……」

「まだまだこれからなのよ、わたしも詩(ことは)さんも。きっと、何年か何十年か先にはゴールがあってさ、そのゴールって、どのルートを通ったかで見え方は違うけど、同じものだと思う」

「なんか、極楽浄土的」

「アハ、極楽はまだご勘弁。卒業証書をみんなで持ってきてくれたじゃない。あれ、とっても嬉しくて。でも、思ったの。こっち来るの遅らせて日本で卒業式出てても、同じように嬉しかった。きっと如来寺で、婦人部のお婆ちゃんたちも来てくれて祝勝会とかになったと思う」

「祝勝会?」

「え、あ……うん、やっぱり何かに打ち勝ったって感じ? フフ、言い間違えただけなんだけど、潜在意識かも……」

「そうね、うん、そのニュアンス分かる」

「あ……でも、やっぱり違うのかなあ、エベレスト登るのっていくつかルートがあるでしょ、アイガー北壁とか」

「あ、うん、あるよね。ああいう登山ルートって、遭難者の遺体がそのまま残ってるって。坊さんの登山家が言ってた」

「え、そうなんだ」

「プ、ダジャレ?」

「え、そうなん……遭難? アハハ、ほんとダジャレだ(^_^;)」

「あ、ごめん、話の腰折っちゃった」

「いいわよ、やっぱ、まだまだアヤフヤ……詩さんもでしょ?」

「うん、もちろんよ」

「女の人生は長いからねえ……」

「プ」

「え、おかしい?」

「あ、ごめん、ヨリコさんと女王陛下が重なっちゃった」

「え、わたし、あんな婆さんになるの!?」

「ええ、いいじゃない、とっても素敵なお婆さまよ」

「外面はいいからねえ…………ねえ、これからはコットンって呼んでいい?」

「コットン?」

「コトハだからコットン。わたしのこともリッチーがいいかな」

「リッチ?」

「あ、うん、それもあり。その時のノリで伸ばしても縮めても。学校の中では、そう呼ばれてたし。もう、お互い友だち言葉だし」

「そうね……うん、二人きりの時はそれでいこう」

 

 パチパチパチ!

 

「「え?」」

 

 振り返ると、バンとナンシーが小さな体で大きく拍手してくれていた。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校二年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学三年生 ヤマセンブルグに留学中 妖精のバンシー、リャナンシーが友だち 愛称コットン
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 愛称リッチ
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       中二~高一までさくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 
  • 声優の人たち      花園あやめ 吉永百合子 小早川凜太郎  
  • さくらの周辺の人たち  ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん)
  •   

 

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RE・かの世界この世界:134『ヤマタ或いはヘルムの神』

2023-06-21 06:46:30 | 時かける少女

RE・

134『ヤマタ或いはヘルムの神』ブリュンヒルデ  

 

 
 クレーターの中心へポチを含めた四人で飛び込む!

 少し前なら、準備も偵察もなしに飛び込むような真似はしなかっただろう。ストマックとその変異体をやっつけて確信めいたものが湧いてきた。テルにもタングリスにも迷いはない。わたし(ブリュンヒルデ)もいつもの意地っ張りではない。ポチも小さな体に自信をみなぎらせている。

 穴には無数の横穴があって四人を惑わせる。惑わせるばかりではない、ほとんどの穴からは見たこともないクリーチャーが攻撃を仕掛けてくる。

 しかし四人は、戦い慣れたダンジョンのように、あらかじめクリーチャーの出現が分かっているかのように切り抜けていく! クリーチャーたちも仕掛けてくるというのではなく、触手や触角、あるいは嗅覚、あるいは皮膚感覚、霊感的な感覚で、我々の正体を探っているようだ。ついさっきまで、我々も擬態した大蜘蛛やストマックに嵌められ、周囲のあらゆるものを警戒したことに似ている。

 やがて納得したのか、情報が並列化されたのか、手出しすることを止め、大人しく見守るようになってきた。

 

 ……この先に空がある!

 

 地下に向かって落ちているはずなのに空を予感した。落下しつつバク転すると、予感通り重力が反転し、急速にブレーキがかかった。

 スポ スポポポ スポポポポ ポーン!

 小気味よくビール瓶の栓を開けたような音をさせて、旋回しつつ空中に躍り出た。

 

 そこは、本来のヘルムの奥つ城であった。

 

 ヘルムは分断されておらず、灌木林の向こうにはヘルムの自然や街が地続きで広がっている。

 四人が旋回する中心には穏やかな野球場ほどの草原があり、草原の真ん中には象ほどの大きさのエメラルドが鎮座している。エメラルドはキラキラ光り、あたかもヘルムの自然にエネルギーを供給するかのように外に向かってエネルギーを発している。

 キラキラキラ……

 眩しくて目をつぶりそうになるが、こいつから目を離すと遠心力で振りとばされて何もかもがお仕舞になるか振り出しに戻されそうな気がする。

「みんな、あれから目を離してはいけないぞ! 指の隙間からでも目を細めてもいい、あれをしっかり見ておくんだ!」

「わ、分かった」

「ラジャー!」

「承知!」

 四人が旋回するにつれ、エネルギーの中心がエメラルドの頂点に凝縮して人の形をとった。

 

 それは、ユーリアの形を結んだ!

 

「クリーチャーではないな……」

 声に出したのはわたし一人だったが、他の三人も同じ気持ちなのだろう、穏やかに着地した。

「「さすがはオーディンの姫君とお仲間、正しく理解していただけているようで心強く思います」」

 不思議だった、喋っているのはユーリアなのだが、声には二人分の響きがある。

「あなたは?」

「「ユーリアであったものであり、ヤマタであったものです」」

「つまり……」

「「この身をなんと呼ぶか、それは、わたしが伝説となっていく間に定まっていくでしょう……とりあえずはヘルムとでもお呼びください」」

「ヘルム」

 一歩前に出たタングリスが続ける。

「戒めを解いて、ユーリアを家族の元に帰してはもらえないだろうか」

「「それについては、少し話を聞いてもらえますか」」

「はい、謹んで」

 きっぱり言うと、タングリスは一歩退いて、わたしの斜め後ろに収まる。

 ここでは神域の序列を守らなければならないと思ったようだ。

「わたしはオーディン以前の神によって遣わされました、神としての有りようが違うのです」

「違うと言われると?」

「長い話になりますが、聞いていただけるでしょうか……」

「はい、みんなもいいだろう?」

 三人は、草の上に腰を落ち着けることで賛意を示した。

 ヤマタの……ヘルムの神との対話が始まった……。

 

☆ ステータス

 HP:13500 MP:180 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・900 マップ:12 金の針:1000 その他:∞ 所持金:8000万ギル(リボ払い残高無し)
 装備:剣士の装備レベル38(勇者の剣) 弓兵の装備レベル32(勇者の弓)
 憶えたオーバードライブ:シルバーヒール(ケイト) シルバースプラッシュ(テル)
 スプラッシュテール(ブリュンヒルデ) 空蝉(ポチ)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル (寺井光子)   二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  小早川照姫の幼馴染 ペギーにケイトに変えられた
 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 小さいが人化している
 ペギー         荒れ地の万屋

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・034『水泳授業始まる』

2023-06-20 11:44:26 | 小説

(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

034『水泳授業始まる』   

 

 

 得しちゃった!

 

 ほら、須之内写真館のアルバイト。

 しばらく仕事は無いんだけど、土曜の放課後、写真館で機材の説明やら取材に行った時のあれこれをレクチャーしてもらった。

 レクチャーだったけど、ちゃんとギャラに反映されるらしい。

 現像室は、なんだか錬金術師のアトリエみたいだったり、夏には万博の取材があるとか、ウキウキ時めく話があるんだけど、それは、また今度。

 

 今日は、そのウキウキだとか時めくだとかを吹き飛ばしてしまうほど嫌なことがあった。

 

 今日から水泳の授業が始まる、始まってしまった! 

 ちなみに、水泳は大の苦手。

 

 制服に憧れて、53年前の宮之森高校に越境入学。

 ちょっと浅はかだったかもしれない。

 校舎は令和の校舎と変わらなかったから油断していた。いや、同じ校舎だからこそ、令和のころよりもピカピカでで、ラッキーとさえ思ったよ。

 でもね、トイレは和式だし、体育はブルマだし。

 今日から始まった水泳はスク水だよ、スク水!

 令和のスク水は、パレオが縫い付けてあったり、膝丈だったり、無駄に肌を露出しないようにできている。

 それが、昭和45年の宮之森は完全無欠の、元祖スク水ですよ!

 ハイレグでこそないけど、股ぐりはパンツ同然。

 せめて水に入るまではジャージを着ていたい、上じゃなくて、下よ、下の方!

「上の方なら始まるまで着ていていい」

 お許しが出たんだけど、上だけ着るとかえってヤラシイ。

「さすが、一年生。遅れてくる者はいなかったけど、万一遅刻したら水着でグラウンド走らせるからね!」

 のっけにカマシテくる宇賀先生。

 ちなみに、普段の体育はイトハチって男の先生。

 伊藤八郎って名前なんだけど、縮めてイトハチ。

 水泳がイトハチなら凹むなあと思っていたら、女の先生。

 体育大学を出たばっかりという新人さんなんだけど、ちょっと怖い。

「じゃ、準備運動から。水泳の準備運動は大切だからね、今日は先生が見本見せる。体育委員も前に出て、先生見ながらやりなさい。次からは体育委員にリードしてもらうからね。さ、みんな上脱いで!」

 率先垂範、宇賀先生は、チャチャッとジャージの上下をパージ!

 

 おお( ゚Д゚)!

 

 口にこそ出ないけど、先生のプロポーションに感嘆のため息が漏れる。

 なんというか、体を動かすたびにキュキュっと音がしそうなくらいに引き締まっていらっしゃる。

 

 さて、授業の本番。

 

「みんなの能力知っておきたいから、これから全員に25メートル泳いでもらいます。泳ぎ方は自由。出席番号順で五人ずつ!」

 飛び込みは禁止、先生のホイッスルでヨーイドン!

 ピ!

 バシャバシャバシャ……

 盛大な水しぶきを上げて出発! 泳法は得意……ではないけど、自分ではマシだと思ってるクロール。

 水しぶきの割には進まなくって、途中で平泳ぎに切り替える(^_^;)。

 

「時司、こっちこい」

 

 全員が泳ぎ終わって、わたし一人名指しで呼ばれる。

「途中で泳法変えたのはいいことだ」

 なんだ、良かったんだ(^_^;)

「でも、クロールも平泳ぎも39点」

 ウ、早くも欠点か。

「平泳ぎは泳ぎの基本、時司、そこに横になれ」

「は、はい」

「仰向けじゃない、うつ伏せだ」

「は、はひ!」

 ちょっと恥ずかしい。

「平泳ぎは泳ぎの基本で、そのまた基本は、脚の捌き方だ」

 そう言うと先生は、ムンズとわたしの足首を掴んだ。

「……こういう具合に、水を蹴る! いいか、この時の動きは……向きが悪いなあ」

 すると先生は、足首を引っ張ってみんなの方にお尻を向けさせた!

「いいか、こんな感じ、いち、にい……さん!」

 みんなの視線が下半身に集まる。特に「……さん!」てところで大股開きになって、なんとも恥ずかしい。

 こ、これなら、いっそカエルにでもなった方がマシだ(#'∀'#)。

「足先を外に向けて~~エイ! もう一回、足先を外に向けて~~、ここだよ! エイ!」

 

 オーーーー!

 

 みんなからどよめきが起こり、何人かからは「え!?」という声も漏れる。

 へ?

 見ると、一瞬、伸ばした手が緑色になって指の股に水かきが現れた。

「うん、一瞬だったけど、ほんとにカエルみたいに水を蹴られたね。いまの忘れずに、がんばってね!」

 次に二組の子が呼ばれてクロールの指導を受けて、もう一度泳ごうかという時に時間になる。

 

「うん……最後の……キックはよかった……」

 トントンと水抜きジャンプをしながら佳奈子。

「宇賀先生、イメージさせるのがうまいよね!」

 真知子は宇賀先生の信者になりかけてる。

「一瞬カエルになってました!」

 頭を拭きながらロコが目を輝かせる。

 

 五六人、わたしがカエルに見えたという人が居る。

 わたし自身、一瞬そう見えたし。

 

「いざという時に力は出せるようにはしてあるんだけどねえ……ひょっとしたら、メグリの魔法少女適性はかなり高いのかもしれないよぉ」

 晩ご飯、水泳の授業のことを話すと、お祖母ちゃんはお箸を持つ手を休めて、見つめてきた。

「あ、いえ、そんなのはいいから、水泳も一学期で終わりだし」

 二学期の水泳は男子の番だ。ちょっと辛抱したら終わりだし。

 

 お風呂に入って、平泳ぎのことが頭をよぎる。

 お風呂なら、いっしゅんカエルになってもだいじょうぶ。

 でも、家のお風呂で泳ぎの練習なんてできない。

 

 カエルになることは無かった。

 え!?

 でも、いっしゅんお風呂がプールの大きさになる。

 フルフルと頭を振ると、プールは、すぐに元のお風呂に戻った。

 

 

彡 主な登場人物

  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         1年5組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            1年5組 副委員長
  • 高峰 秀夫             1年5組 委員長
  • 吉本 佳奈子            1年5組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              1年5組の担任
  • 先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。

 

 

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RE・かの世界この世界:133『擬態の考察とスキルアップ』

2023-06-20 06:53:09 | 時かける少女

RE・

133『擬態の考察とスキルアップ』ブリュンヒルデ  

 

 

 

「「「「「わたしが本物だから!」」」」」

 
 そう主張するユーリアたちは、八メートルほどの間隔を開けて、それぞれにこんぐらがっていた。

「ハーネスを切って!」「下ろして!」の声も前後して五人分聞こえる。

「うかつに下ろせないぞ……」

 タングリスの言う通りだ、クリーチャーの中には擬態するものがある。

 ムヘン川の川辺やローゼンシュタットに出現したメデューサは美少女に擬態していた。さっきの美容院も擬態だったし。エスナルでは周りの風景を含め、泉そのものが擬態したものだった。

 五人のうち四人のユーリアは擬態したクリーチャーだ、下ろしたとたんに襲い掛かって来るだろう。

「早くして! 頭に血が上る~!」

 ほとんど逆さになったユーリアが顔を赤くしている。

「腕が千切れそう~!」

 右腕を絡み取られたユーリアの指先が痙攣している。

 他の三人ももがいているうちに増々苦しくなっていく。

「ウグッ!」

 一人が蔦を首に絡ませてしまった!

「じっとしてろ!」

「待て、テル!」

 タングリスの制止も間に合わずテルが飛び出した。わたしもタングリスも飛び出す! 万一の時はテルを助けるためだ。

「来るな!」

 叫びながらテルは地面を蹴る! 

 セイ!

 ユーリアのすぐ脇を通る瞬間に剣を抜き放って蔦を切断した!

 万一クリーチャーであっても絡めとられないように用心しているんだ。

 自由になったユーリアは地面に落ちる寸前に大きな蜘蛛に変身、いや、本来の姿になった。

 
 シャーーーーーーー!

 
 たった今までユーリアだったそれは、溶けた飴のように糸を引きながらテルを追いかけ回す!

「いま助けるぞ!」

 地面を蹴った! 瞬間でクリーチャーに追いつきツィンテールを振り回して、そいつの背中をたたっ切る! わずかに届かなかったが、引きずった糸を切断した。

 ベチャ!

 糸の切れたクリーチャーは、その瞬間のエネルギーの方向にすっ飛んで木の幹にぶつかって四散した。

「姫!」

 タングリスの叫びを最後までは聞かなかった。視界の端に迫りくる三体のクリーチャーを認めたからだ!

「セイ!」

 横っ飛びにジャンプ! 旋回しながらツインテールの一閃をくれてやる! クリーチャーの伸びきった糸を切断! さっきのと同じように地面に激突すると四散した!

 空中で一回転! 次に供えようとしたら、テルとタングリスも一体ずつ倒していた。

 

「……ということは、こちらが本物か」

 

「ありがとう、低空を飛んでいたら、急に触手のようなのが伸びてきて絡み取られてしまって(^_^;)」

 見えない敵に四の字固めをくらったような姿勢で礼を言うユーリア。

「いま、助けるから。テル、そっちを、姫は頭の方を」

 三人で囲むようにしてユーリアに絡まったハーネスやら蔦を切り取る。

「ありがとう、やっと助……」

 その瞬間、ユーリアは手足を広げたかと思うと八畳敷きのチューインガムのように広がって三人を包み込んだ!

 グシュッ グシュグシュ グシュッ

 数秒で捕らえた三人を圧縮すると、圧縮に反比例して地面が口を開ける!

 ズボッ!

 瞬間の吸引力で吸い込まれると、地面は閉じてしまって静寂が訪れた。

 

「もういいですよ……」

 

 ポチの声がかかって、我々は茂みから顔を出した。

 ちょっと信じられない光景だった。四体のクリーチャーをやっつけて、振り返ると、わたしを含めた三人がユーリアを助けようとしているところだった。「隠れて」という囁きで身を隠していたら、いまの顛末になったのだ。

「ポチ、いまのは空蝉の術だったな」

「なんか、とっさにやっちゃった……」

 どうやら、ポチの新しいスキルが覚醒したようだ。

「少し後退しよう」

「後退?」

「すれば分かります」

 タングリスの言うままに。密林の中を五十メートルほど後退した。

 ズズズズーーーーーン

 くぐもった地響きがしたかと思うと、次の瞬間、それまで居た密林が山のように膨らんでから爆発した!

 
 ズッボーーーーーーーーーン!!

 
「自分(ポチ)の空蝉に思念爆弾を仕掛けたの(^_^;)」

「わたしも、何かを仕掛けた気がする。もう少し下がろう」

 みんな知らないうちにスキルアップ! なんか面白くない!

 

 ドッガーーーーーーーーーーン!

 

 前の数倍の爆発が起こり、我々も吹き飛ばされたが、空中で二回転して着地した。

 密林の中、野球場ほどに木々がなぎ倒され、その中央はクレ-ターとなって口を開けていた。

 目的の場所、ヤマタの居場所は、このクレーターの向こうのようだ……。

 

☆ ステータス

 HP:13500 MP:180 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・900 マップ:12 金の針:1000 その他:∞ 所持金:8000万ギル(リボ払い残高無し)
 装備:剣士の装備レベル38(勇者の剣) 弓兵の装備レベル32(勇者の弓)
 憶えたオーバードライブ:シルバーヒール(ケイト) シルバースプラッシュ(テル)
 スプラッシュテール(ブリュンヒルデ) 空蝉(ポチ)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル (寺井光子)   二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  小早川照姫の幼馴染 ペギーにケイトに変えられた
 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 小さいが人化している
 ペギー         荒れ地の万屋

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

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鳴かぬなら 信長転生記 127『鬼かしま決戦・3』

2023-06-19 14:30:46 | ノベル2

ら 信長転生記

127『鬼かしま決戦・3信長 

 

 

 ブン!

 

 おお(@▲@;)!?

 戦艦大和の主砲弾が鼻先を掠めたら、こんな感じ!

 そんな衝撃と風圧が目の前を掠める!

 パラパラ

 風圧だけで、俺の前髪が十数本散った。

 俺は生前の男の姿ではない。扶桑と呼ばれる転生世界に飛ばされて、それ以来女の姿容をしている。鶴姫の甲冑を身にまとっているが、頭は鉢金(鉄板を縫い付けた鉢巻き)を締めているだけで、こぼれた髪がハラヒラなびいて宙に舞う。ブスならともかく、妹の市以上の美少女、ショートにしたり、ツンツンのひっ詰めにしていては絵にならん。

 戦術、戦略に関しては徹底した合理主義だが、その身と装いにかけては、少々不合理であろうとオシャレに徹する。

 

 ブン! ブブン! ブン! ブブン! ブン!

 

 立て続けに金棒が空を切って、その都度髪が散り、鎧の縅糸をささくれさせていく。

 カシン! カシン!

 本来の草薙の剣に戻ったアッチャンを縦横にふるってしのぎ、三度に一度は鬼の体を捉えるが、その肌は巌の如く、いかに日の本一の聖剣と言えども、渾身の力で正中を捉えなければ討ち取りがたい。

『儂を鬼の後ろに投げよ』

 再び思金(おもいかね)が呟く。

「よし!」

 勾玉に戻った思金を胸元から引きずり出す。

 グキ!

 勢い余って、思金を握った拳が自分のあごに当って目から火が出る。

 セイ!

 それでも勢いつけ、鬼の後ろを目がけて勾玉の思金を投げる!

 おお!?

 予想をはるかに超えた大魔神の姿になって、オイデオイデをする思金。

 ウオオオオオオオオ!

 吠えると同時に金棒を振り上げ突撃する鬼。

 ブン!

 え?

 鬼の金棒は、大魔神に到達するはるか前で振り下ろされ、エフェクトだけは派手に描いて空振りになる。

 ズン

 消えたかと思うと、今度は鬼の右横に現れる大魔神。

 しかし、その姿は、たった今までの1/10ほどでしかなく、それも、ポリゴンというか粒子が荒く、その縁は、ちょっとガビガビになっている。

 ウオオオオオオオオ!

 ブン!

 ええ!?

 鬼は、実際の距離の五倍向こうまで跳んで金棒を振り下ろした。

 当然、金棒は空を切り、その勢いに振り回されて、鬼は空中ででんぐり返ってしまった!

『思金、なかなかやるわね』

 剣のままで、アッチャンが褒める。

 

 ブン! ブブン! ブン! ブン!

 

 それからも、大魔神は大きくなったり小さくなったりして、鬼の周囲を飛び回る。

 しかし、どうして鬼は、ここまでスカタンなんだ?

『片目が見えないからよ』

 え……あ、そうか!

『分かったみたいね』

「遠くでは大きく、近くでは小さくなっているんで、鬼の奴遠近感が掴めないんだ!」

『それだけじゃないわ』

「なるほど、解像度も遠近逆にしている、間近で小さく現れた時に解像度が低いから、より遠くに感じるんだな」

『それ以外にも、アンチエイリアスもいじってるから、完全に混乱してる』

「ああ、あのガビガビはアンチエイリアスだったのか!?」

 アンチエイリアスは、オブジェクトやテクスチャの縁をきれいに処理する技術だ。これが荒く表現されると遠くにあるように感じてしまう。

『感心してる場合じゃないわ、いくわよ!』

「おお!」

 

 セイッ!!

 ズバ!!

 

 アッチャンの草薙の剣は、見事に鬼の背中を絶ち割った!

 

 ギヤアッ!!

 

 のけ反った鬼は、断末魔の声を上げ、本丸の地面をゴロゴロ転がる。

「トドメ!」

 胸を一突きすると、今度は大きな赤ん坊のように丸まって、立ち割った背中がパックリ口を開けた。

「何か出てくるぞ!」

 警戒して飛びのくと退くと同時に、鬼の背中からは人のようなものが這い出て、立ち上がることもできずに仰向けにひっくり返った。

 その顔、その姿を見て息を呑んだ( ゚Д゚)!

 

 そいつは、まごうかた無き桃太郎であった!

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
  • 天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚  部下に思金神(オモイカネノカミ)

  

 

 

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RE・かの世界この世界:132『発見』

2023-06-19 06:25:09 | 時かける少女

RE・

132『発見』タングリス  

 

 

 

 ヤマタの根城に近いのか、灌木林は鬱蒼としたジャングルのようになってきた。

 それまでの木々はせいぜい三階建ての高さほどだが、ジャングルのようになった今はほとんど五階分はあろうかと思われた。

 かなりの草木が自分で発光している。それも草木によって色も明滅の周期も異なり、風が梢を揺さぶる度に枝や葉っぱは蠢動し、それにつれて光が怪しげに重なり、あるいは交差したり。その上、猛獣ともクリーチャーともつかない咆哮や鳴き声が混じって、不気味さはこの上なく、ただでさえ崩壊しそうな意識が切れ切れの混濁の中に封じ込められそうになる。

「何か聞こえる!」

 ヒッ(;'∀';)

 テルの声でみんなが停まる。

 たいていは聞き間違いか幻聴なのだが、聞こえるたびに全員が立ち止まることにしている。聞こえた者が勝手に動き出しては密林の中でバラバラになる恐れがあるので、全員が納得というか落ち着くまでは動かないのだ。納得するには確認が必要で、ポチが、その役目をはたしている。

「ポチ、確認してくれ」

「ラジャー('◇')ゞ!」

 目印のために風船を上げる。

 音や気配の正体を確認したポチは密林の上まで出された風船を目当てに戻ってくるのだ。

 四五分もすると、正体がわからなくとも戻って来る。分からない時は、その方向を避けて進むのだ。時間はかかるが安全で確実だ。

「十分過ぎたぞ」

 姫が呟く。

 たしかに十分もかかるのは初めてだ。

 もう少し待ちましょうと目配せすると姫を挟んだテルと目が合う。テルも同じことを考えているようだ。

 さらに五分すぎてポチが戻ってきた。

「どうしたんだ、ポチ?」

「……見つけた、ユーリアが居たよ!」

「ほんとうか!?」

「うん、切れ切れの気配で迷ったけど、何度も確認したよ」

「どっちだ?」

「見に行く?」

「もちろんだ」

「じゃ、こっち!」

 ポチの後を付いて密林をかき分けること数分、少し開けたところにユーリアは居た。

 ハングライダーが枝に引っかかり、伸びたハーネスが絡み合って、複雑な姿勢でぶら下がっていた。

 姫が身を乗り出そうとすると、ポチが押しとどめる。

「待って」

「なぜ、止める?」

「これが一人目だから……次行くよ!」

「「「次?」」」

「こっち!」

 
「「「え? ええ!?」」」

 
 ポチに引き回されて、我々は五人のユーリアを発見してしまった……。

 

☆ ステータス

 HP:13000 MP:180 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・900 マップ:12 金の針:1000 その他:∞ 所持金:8000万ギル(リボ払い残高無し)
 装備:剣士の装備レベル38(勇者の剣) 弓兵の装備レベル32(勇者の弓)
 憶えたオーバードライブ:シルバーヒール(ケイト) シルバースプラッシュ(テル) スプラッシュテール(ヒルデ)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル (寺井光子)   二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  小早川照姫の幼馴染 ペギーにケイトに変えられた
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ラーテの搭乗員 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ラーテの搭乗員 辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 1/12サイズで人化している
 ペギー         異世界の万屋

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

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せやさかい・416『母を見送って』

2023-06-18 09:39:15 | ノベル

・416

『母を見送って』詩(ことは)   

 

 

 


 ほんとうは空港まで見送りに行きたかった。

 


 でも、宮殿の車寄せで手を振ることで済ませた。

 おとつい、ロンドンで開かれている日本アニメフェスティバルに行くヨリコ王女を見送ったのも、この車寄せだった。

 王女は全英アニメ協会の招きでアニメフェスティバルの主賓で出かけている。

 つまり、ほんの二三日宮殿を離れる人への見送り。

 いってらっしゃい  いってくるね  ただいま  おかえり

 そんなノリで済ませられるようにね。

 


 見送ったのはお母さん。

 


 四月に怪我をして腰から下が動かなくなった。その付き添いに日本からやって来て、もう三か月以上も帰っていない。

 うちはお寺だから、坊守(ぼうもり)のお母さんの仕事も多い。ボランティアもやってるし、いちど日本に帰る必要があった。というか、本心は気が気ではなかったはずだ。

 うちのお寺は、檀家の婦人部の活動が活発。その婦人部の人たちをまとめているのはお母さん。家には、さくらと留美ちゃんが居てくれているけど、学校があるし、さくらは声優の真似事も始めたみたいだし。やはり一度戻らなければならない。

 本当は、しばらく来なくていいと思ってる。

 車いすの操作にも慣れたし、少しだけだけど脚の感覚も戻ってきた。完全に元に戻ることはないんだろうけど、これからの人生、このハンデを抱えて生きなければならない。

 女王陛下も「これを機会に、宮殿内のバリアフリーを進めましょう」とおっしゃる。「いえ、いまの設備でも十分です」と申し上げると、「いえ、わたしのためよ」とお応えになる。

 お母さんが留守の間、ソフィーに介添えさせようかともおっしゃったけど、丁重にお断りした。ソフィーは情報部に籍を置きながら近衛への出向ということになっている。ヤマセンブルグは侍従武官に近衛士官を配置している。将来、ヨリコさんが女王になった時にブレーンにさせるため。陛下の気配りは射程距離が長い。

 

「あ、もうお立ちになった……」

 

 そのソフィーが車寄せまでやってきた。

「もうしわけない、段取りが悪くて遅れてしまった」

「ううん、いいわよ。本人は直ぐに戻って来るつもりだから」

「コトハさんは、その……自立するつもりなんでしょ?」

「うん、でも、母は――今まで構ってやれなかったのを取り戻したい――と思っていて、それはそれで尊重してあげたいし」

「以心伝心、惻隠の情……どっちだろ?」

「シンパシー、英語にもいい表現があるわ」

「そうね。部屋に戻ろうか?」

「ちょっとお庭を散歩するわ」

「あ、ちょうど紫陽花が良い具合だから、見に行こう」

「お仕事は?」

「三十分は大丈夫」

「じゃあ」

 ウィーン

「ああ、電動になったんだ」

「うん、宮殿は広いから、意地を張らずにね」

 健康のためにも、しばらくは普通の車いすにしようと思ったけど、外に出ることを考えたら、やっぱり電動だ。

 

 脚を悪くしてから、毎日ベッドを起こしてもらって広大な庭園を眺めていた。

 

 本を読んだりゲームをしたり、パソコンをやったり。

 でも、少しずつ庭園を眺めている時間が増えて、先月からはヨリコ王女から貸してもらった双眼鏡を使っている。

 双眼鏡で眺めているのも悪くは無いんだけど、やっぱり、一番は自分の足を運んで直接観ることだ。

 花には匂いがあるし、空気や風の流れも間近に寄らなければ分からない。

「わあ、大きい」

 うちの境内にも紫陽花はあるけど、一回り以上大きい。

「こっちではハイドランジアって言うんだけどね、元々は18世紀に日本から輸入したものを品種改良したものなんだ」

「そうなんだ、この子たちのご先祖は日本から来たんだ……」

「あっちには日本から来たばかりの紫陽花もあるよ。大阪の領事館で育てていたやつ」

「わあ、ほんとだ、こっちの子に目を取られて気付かなかった」

 見比べてみると、日本の紫陽花は、どこか慎ましやかで微笑ましい。

 紫陽花は、育て方や土壌によって花の色が変わる。一輪ずつ違うというのではなくて、ポットや花壇ぐるみで色が異なる。それが時間差で変わるので色々あるように見えるんだけど、ここの紫陽花は、株ごとに色が違うように見える。

「庭師の技らしいんだけど、聞いても教えてくれない」

「フフ、国家機密なのかな」

「ハハ、どうだろ」

「花言葉は……旺盛な好奇心」

「え、そうだった?」

「わたしが付けたの」

「そうか、旺盛な好奇心……いいね、普通は『移り気』だからな……なんだか……」

「「さくらを思い出す!」」

 アハハハハ

 同時に同じことを思ったので笑ってしまう。

「年内にウクライナに行く」

「え?」

「戦闘に参加するんじゃない。もう三人亡くなってるからね、陛下もお許しにはならない」

「じゃあ……」

「復興していくプロセスを見るんだ。早晩戦争は山を越えて復興のフェーズになる」

「復興のお手伝いね」

「むろんそうだけど、戦争と戦後の復興は、いわば極限状態の中での国家経営。日本も復興援助の先頭に立つだろうし、そういう一切合切含めての勉強」

「そうなんだ……」

「殿下のお帰りは一日遅れるそうだ」

「そうなの?」

「殿下も向こうのアニメファンも、紫陽花のように好奇心いっぱいだからね。あ、公式には向こうの要請ということになっている」

「フフ、そうなんだ」

「そろそろ時間か……お前たち、もう出てきていいぞ、バンシーとリャナンシー」

 

 ヒ(;゚Д゚)!?

 

 可愛い声がしたかと思うと、紫陽花の陰から1/12サイズの真理愛学院生が出てきた。

「わたしの本性は魔法使いだ、ずっと前から見えている」

『知ってる!?』

『ヒギンズの子孫!』

「そう身構えるな。ご先祖のように退治したりしないから」

『ほんと?』

『ほんとか?』

「ああ、それより、名前を付けてもらったんだろ。教えてくれ」

『バン!』

『ナンシー!』

「なんか略しただけみたいだが……うん、親しみが籠った良い名前だ。よろしく頼むぞ」

『お、おお!』

『まかしとけ!』

 アハハハ

 魔法使いと妖精と人間と、ケラケラ笑いながら宮殿に戻る。

 

 ソフィーは車寄せまで戻ると、きれいに敬礼を決めて衛士詰所に戻って行った。

 

 入れ違いにヨリコさんから――ごめんなさい、帰りは明日になります――のメールが届いた。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校二年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学三年生 ヤマセンブルグに留学中 妖精のバン(バンシー)ナンシー(リャナンシー)が友だち
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       中二~高一までさくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 
  • 声優の人たち      花園あやめ 吉永百合子 小早川凜太郎  
  • さくらの周辺の人たち  ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん)
  •   

 

 

 

 

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RE・かの世界この世界:131『ポチに救われる』

2023-06-18 05:53:45 | 時かける少女

RE・

131『ポチに救われる』タングリス  

 

 

 

 揚げる前の天ぷらのようにドロドロだ。

 
 ストマックから吐き出された三人は胃粘液やら溶けた自分たちの服やら訳の分からない粘着物でベトベトになり、それが灌木やら下草に絡まって、起き上がることもままならなかった。

「なんだ、おまえたちはあああああ(#>д<#)!」

 頭上で声がした。なんとか首をもたげると、灌木の梢でポチが吠えている。

 葉っぱの盾と小枝の剣を構えて威嚇している姿は、健気とも可愛いとも言えるが、我々三人に、そんな余裕は無い。まとわりついているネバネバが急速に固まりはじめて、このままでは身動きどころか呼吸さえできなくなってしまいそうなのだ。

「ポチ、わたしだ、タングリスだ。いまクリーチャーの胃の中から吐き出されてきたところだ」

 首を巡らせてテルと姫を確認。二人は口にまとわりついたネバネバのせいで喋ることもできないようだ。

「ウィンドを開くから、リペアアイテムの中から洗浄液を探してくれ」

「ほんとにタングリスなの?」

「タングリスだ、疑うんなら、とりあえず顔だけ洗浄して確かめればいいだろう」

「わ、分かった!」

 盾と剣を放り出すと、ホバリングして、なんとか開いたウィンドを操作するポチ。

 一抹の不安はあった。ポチ自身はウィンドを持っていないし、ウィンドを操作してファイルを開いたこともない。ただ、我々がやるのを傍で見ているのでやれるとふんだのだ。不安を口にすればポチは自信を失ってオタオタしてしまうだろう。じっさいポチは我々の危機的状況を感じ取ってワタワタと画面をスクロールしている。

「あった! でも、解凍してインストールしなきゃダメみたい」

「ああ、いつもわたしがやっているように……」

 口に周りの粘液が固まりはじめた。

「解凍して……展開して……Updater……管理者権限……で……実行……エイ!」

 シュワァァァ~~

 まとわりついていたネバネバが粘性を失ってサラサラと蒸発していく。思った以上にうまい操作だ。姫とテルもネバネバから解放されていく。

 解放されると、最後に残った下着も心もとないので、ファイルから着替えを選択して身づくろいする。

「でかしたぞ、ポチ!」

「ふぎゅーー(;゜Д゜)」

 感激した姫が抱きしめるので、ポチは危うく抱き殺されそうになる。

「ポチが窒息するぞ!」

 テルが引き離して、やっと三人も落ち着いた。

「しかし、ポチはなんで呑み込まれなかったのだ?」

「呑み込まれたよ。でも、ノドチンコみたいなのに引っかかってさ。そのあと鼻の方によじ登ったら草叢みたいな鼻毛にひっかっかって、そいでジタバタしてたら、クリーチャーのやつがクシャミをして吹き出されたんだ」

「そうか、お蔭で助かったぞ。なにかご褒美を考えてやらなきゃな」

「ご褒美だなんて、そんなあ……(n*´ω`*n)」

「ご褒美は事が片付いてからでしょう、先を急ぎましょう」

「そうだな、さっきのクリーチャーには気を付けなければな」

「あいつに名前はないのか?」

 テルが真っ当なことを聞く。

「ヘルムの固有種で未発見のものだからなあ」

「それなら、ストマックにしよう」

「即物的だなあ」

「しかし、注意喚起にはいいと思うよ」

「そうだ、たった今から、あいつはストマックだ!」

「それで……あいつは、どこに行ったんだ?」

「「「……」」」

 
 そのストマックは我々を吐き出した後、いつの間にか姿を消していた。

 

☆ ステータス

 HP:13000 MP:180 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・900 マップ:12 金の針:1000 その他:∞ 所持金:8000万ギル(リボ払い残高無し)
 装備:剣士の装備レベル38(勇者の剣) 弓兵の装備レベル32(勇者の弓)
 憶えたオーバードライブ:シルバーヒール(ケイト) シルバースプラッシュ(テル) スプラッシュテール(ヒルデ)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル (寺井光子)   二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  小早川照姫の幼馴染 ペギーにケイトに変えられた
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ラーテの搭乗員 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ラーテの搭乗員 辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 1/12サイズで人化している
 ペギー         異世界の万屋

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

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RE・かの世界この世界:130『イン ザ ストマック』

2023-06-17 07:06:38 | 時かける少女

RE・

130『イン ザ ストマック』テル  

 

 

 

 蠕動運動を起こした美容院は数秒で巨大な口になった!

 

 二十畳ほどのフロアーは舌に変わり、我々は転がされて口の奥、食道の方へ呑み込まれてしまった。

 ゴックン

 ダスターシュートのような食道を抜けると遊園地のバルーンハウスのような所に墜ちた。

 フワワ~~~ン

 フワフワしているところはバルーンハウスのようだが、粘液でネバネバしている。

「せっかくシャンプーしたところなのにい!」

「姫、ここはクリーチャーの胃の中と思われます」

「胃の中!?」

「きっと、灌木林の中で美容院に偽装して誘い込んだのでしょう、うかつでした」

「シャンプーは、シャンプーリペアーと言って、瞬間でシャンプーとトリートメントをするだけのようだぞ」

 ホルダーを確認すると効能書きのテキストが出てきた。我々の不注意か、そういう魔法が掛かっていたのか、さっきまでは認識できなかったのだ。

「このままでは胃酸に溶かされます……溶解防止のアイテムは……」

「あった、消化防止リングだ!」

 裁縫に使う指ぬきのようなものだ、各自ホルダーから出して指に装着する。

 サワワーー(*´∀`*)

 一番茶を口に含んだ時のような爽やかさが全身を包む。

 しかし……お茶のそれと違って護ってくれるのは生身の体だけのようだ(;'口')。

「服が溶けだしてきたぞ!」

「ということは、裸にされて化け物の体内を巡って…………出されるわけか(;゜Д゜)?」

「消化の早さから見て……おそらく四時間後ぐらいには出られるでしょう」

 我々が暴れたことで刺激されたのだろう、消化活動が激しくなってきた。

 グチュ グチュ グチュグチュ

 胃壁が収縮してもみくちゃにされる。そのたびに胃壁に擦られ、ぶつかって服がほぐれて溶けていく。

「こんなみっともないことが四時間も続くのか(*゚x゚​*)!」

 あまりの気持ち悪さにヒルデは自慢のツィンテールをお下げほどの長さに縮こまらせた。

「腸の方へ行ったら、こいつが先に食ったものと一緒になるんじゃない?」

 先の事を予想して、我ながら不吉な想像をしてしまった。

「先に食ったモノって……?」

「子どもが大好きな三文字でしょう……」

 タングリスが無表情に言う。

「それって、ウ〇コのことか!?」

「死ぬよりはましでしょう」

「死んだ方がましだあ(;゚Д゚)!」

「胃から十二指腸にいくには、まだ間があるだろう、グチってないで考えよう」

「なるべくなら、服が溶け切る前に考えが浮かぶといいがな」

 三人の衣服はあらかた溶かされて、胃液を含んで半透明になった下着を残すのみとなっている。

「ところで、ポチの姿が見えません」

「あいつ小さいから、もう溶かされてしまったのか?」

「痕跡さえありません」

「不憫なやつだ……」

「いや、痕跡もないということは、胃の中には居ないのではないか?」

「そうか……とすると?」

 その時、胃がギュっと収縮して、三人は満員電車がカーブに差し掛かった時のようになった。

 ムギュ~~

「タングリス、寄るなあ!」

「仕方ありません、こいつの生理現象でしょう……」

 次の瞬間、巨大なダムが決壊したような衝撃に襲われた!

 

「「「ウワーーー!!」」」

 

 闇と光と胃液がグルングルンと交錯し、我々は上下の感覚を失った……。

 

☆ ステータス

 HP:13000 MP:180 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・900 マップ:12 金の針:1000 その他:∞ 所持金:8000万ギル(リボ払い残高無し)
 装備:剣士の装備レベル38(勇者の剣) 弓兵の装備レベル32(勇者の弓)
 憶えたオーバードライブ:シルバーヒール(ケイト) シルバースプラッシュ(テル) スプラッシュテール(ヒルデ)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル (寺井光子)   二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  小早川照姫の幼馴染 ペギーにケイトに変えられた
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ラーテの搭乗員 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ラーテの搭乗員 辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 1/12サイズで人化している
 ペギー         異世界の万屋

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

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銀河太平記・165『再会』

2023-06-16 16:30:03 | 小説4

・165

『再会』緒方未来 

 

 

 骨折3名 銃創2名 ショック性発熱3名 おまけに突発性電脳障害2名 それと検死報告1

 

 合計10名のカルテと検死報告書を整理して、使用薬品とメディカルストックのチェックと発注。

 えと……メディカルストックの発注はミスがあってはいけないので、明日点検してからやる。

「あ、手ぇ抜いたなぁ」

「うるさい!」

 ボス…………ポトン

 投げたボールは器用に躱されて、背後の壁にめり込んで、人を馬鹿にしたようにポタリと床に落ちる。

 医務室は休憩室の一画にあって、床や壁は休憩室と同じ低反発の樹脂で被覆してある。

 少々暴れたりケンカが起きても怪我をしないようにという配慮で改装してある。

 にもかかわらず、10名の怪我人と運の悪い死者が出て、とうとうベースに帰ることもできずに医務室に泊まり込むことになった。

 診療所の女医を一人で残しておくこともまずいというので、所長の依頼を受けた署長の命令で護衛の三等軍曹が付いている。

 

「え、おま……」

「ゲ……」

 

 臨場してぶったまげた……お互いに。

 最初こそ分屯署の軍警が8人も臨場してくれていたんだけど、現場検証が終わると交代でやってきた三等軍曹を置いて引き上げていった。診療所の車検切れは、ちょうど鉱山の入り口でエンスト、帰るころには直ってるだろうと期待を見事に裏切って採掘所のゲートで『月社会のインフラの貧弱さ』を現すオブジェになり果てている。

「診療所の薮医者ってミクのことだったのか!?」

「なによ、この三等兵!」

「三等兵じゃねえ、三等軍曹だ!」

 お互い三年ぶりなんだから、もう少し言いようもあるんだろうけど、聞くと見るとは大違いの配属先。そして幼なじみだからこそ、素直に再会の喜びを現せない。いや、自分の方が不運だと思うポテンシャルのために――こいつは自分よりは楽してる――と思ってしまう心の貧しさ。

「おまえ、ロボットの電脳までいじったのか」

「仕方ないじゃん、この採掘所、ロクター(ロボット用ドクター)もいないんだから。知らんふりして暴走されたら困るでしょ」

 ほっとけよ、そんなの……とは言わない。

 ダッシュも、まだ真っ直ぐなものを失うところまではきていないようだ。

「噂じゃ、ピタゴラスの奉行所勤務になったって聞いてたぞ」

「一瞬、話はあったんだけどね、老中の孫娘だからって、そんなのイヤじゃん。ダッシュこそ、連合国の交換留学生でコペルニクスのムーンフォースに行ったって」

「コペルニクス的展開という奴なんだろ、西ノ島紛争からこっち、地球も月も、どこか緩んでる」

「……ああ、なんか計算合わない」

「人生の計算なんて、そうそう合うもんじゃねーだろ」

「違うのよ、メディカルストックの支出と残金が合わないのよ」

「ちょっと見ていいか?」

「あ、うん」

 本当は部外秘なんだけど、ダッシュの声の響きは昔通り、見せてもいいと思った。

「……これは、部外者が見ても首をひねるなぁ……桁が合わねえ」

「こんど、交代のドクターが来たら奉行所まで行ってくる」

「それがいい」

 賛成してくれてからメモをくれた。

 メモには――念のためスクショを撮っておけ――とあった。

 

 あくる日、シャトルバスで帰る前に確認したら、メディカルストックの会計の数字は――正しく――書き換えられていた。

 

 

☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地

 

 

  

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RE・かの世界この世界:129『灌木林の中に美容院!』

2023-06-16 06:25:40 | 時かける少女

RE・

129『灌木林の中に美容院!』テル  

 

 

 スプラッシュテール!

 ザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザク!

 

 数十回繰り返すと、ヒルデのスプラッシュテールは磨きがかかってきた。力を前方向に集中できるようになって啓開が効率的になってきたのだ。

 最初は灌木林の天井を残すのみで、横方向には4メートルあまりもあって、我々三人とポチが通るには広すぎた。タングリスとわたしは、ソードや鉈で刈り残された足元の草木を刈る。ポチに至ってはすることが無くなって、三人の肩や背中に停まって「フレーフレー!」とか「ガーンバレ!」と応援するだけ。

 啓開された道の断面は凸の字を逆さにした形で、横方向の出っ張りが無駄だった。

 それが、前方向に集中できるようになって、横方向には1.5メートルに収まり、その分前方向に深く進めるようになってきた。

 

 努力の甲斐あって開けたところに出てきた。

 

「もう、髪がビチョビチョのネチャネチャーーー!」

  ヒルデの髪は獰猛な植物たちの樹液に染まって薄っすらと緑色。その水分で重くなって、ぶん回すことを止めると大雨に降られたライオンのタテガミのようになった。

「よく頑張られました、すこし休憩しましょう。姫、シャンプーさせていただきます」

「こんなところでシャンプーできるのか?」

「回復アイテムの中にシャンプーがあります……」

 タングリスがホルダーにタッチすると、美容院のシャンプー台が出てきた。

「立派なのが出てきた!」

 それだけではなかった、シャンプー台の周囲がムクムクと変化して本格的な美容院になった。

「おお、すごい!」

「なんと! ここまでのものとは思いませんでした!」

「ドライシャンプーくらいのものかと思っていた」

「あはは、これはいい! 一瞬の魔法でやるよりもリラックスできるし!」

 グルグルグル(^▽^)/

 腰掛けたスタイリングチェアをグルグル回して喜ぶヒルデ。

 なんだか四五歳の幼児のようで、出会った頃のヒルデが懐かしい。

 オーディンの姫騎士として、時に頼もしくもクソ生意気に見えることもあるが、ヒルデの本性は遊びたい盛りの少女なのかもしれない。

「美容師までは付いていないようだな」

「セルフサービスだよ、この方が面白いかも!」

「テル、姫が済んだら、わたしたちもやろう、気分転換になるぞ」

「あたしもやりたい!」

 ポチも手をあげて交代でシャンプーすることにした。

「わたしは最後でいいぞ」

 ヒルデが似合わぬ遠慮をする。

「そうですか、それではポチからやってやろう」

 女と言うのは髪をいじるのが大好きだ。人をシャンプーしてやることも十分癒しになる。

 ヒルデが遠慮したのが意外だったが、最後にやってみて分かった。

「なんで、こんなに長いんだあ!」

 リラックスしたヒルデの髪は五メートルほどの長さになった。まるでラプンツェルだ。

「ふだんは短くしているのだ、フン!」

 気合いを入れると普段の長さに縮む。

「おもしろーい!」

 ポチが面白がって髪を体に巻き付ける。フンッ! ホー フンッ! ホー オッサンがメタボの腹をペコペコさせるように気合いに加減をくわえると、ヒルデの髪はピュルピュルと伸び縮みを繰り返す。夏祭りや縁日で売っている『ふきもどし』にそっくりだ……ん? なんで見たこともない『ふきもどし』を知っているんだ?

 時どきおこるデジャブに思考をとられていると、周囲の様子が変わってきた。

 美容院の床や壁がグニャグニャに波打ったかと思うと、美容院は袋状になって急速に縮みながら蠕動運動を始めた。

「しまった、罠だ!」

 タングリスが叫んだ時には、いっそう激しく蠕動、グニャグニャはグチュグチュになり、ポッカリ穴の開いた床に全員揃って飲み込まれてしまった……。

 

☆ ステータス

 HP:13000 MP:180 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・900 マップ:12 金の針:1000 その他:∞ 所持金:8000万ギル(リボ払い残高無し)
 装備:剣士の装備レベル38(勇者の剣) 弓兵の装備レベル32(勇者の弓)
 憶えたオーバードライブ:シルバーヒール(ケイト) シルバースプラッシュ(テル) スプラッシュテール(ヒルデ)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル (寺井光子)   二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  小早川照姫の幼馴染 ペギーにケイトに変えられた
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ラーテの搭乗員 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ラーテの搭乗員 辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 1/12サイズで人化している
 ペギー         異世界の万屋

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

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くノ一その一今のうち・59『大和大納言秀長』

2023-06-15 11:43:28 | 小説3

くノ一その一今のうち

59『大和大納言秀長』 

 

 

 地味ですが秀吉の弟です(^_^;)。

 

 直垂のおじさんが頭を掻く。

『あ、ああ!?』

 えいちゃんが思い当たったのか、声を上げたかと思うと、カバンから顔だけ出した。

『「木村長門守」って映画を撮ったんですけど、誰かの台詞にありました「ご舎弟大和大納言様御在世でありせば徳川如きの侮りを受けることもあるまいに」って。秀長さんてお名前では出てこなかったので、すみません、直ぐには気づきませんでした。あ、わたし帝国キネマで、こちらの風魔そのさんの付き人をやっております、長瀬映子と申します』

「いえいえ、わたしこそ、東京で鈴木まあやの付き人をやっています(^_^;)」

『鈴木とは……あの鈴木ですか?』

「え、あ、はい、秀頼公のあとに分かれた御双家の一つです」

『そうですか、それはお世話になっております』

『豊国神社は太閤秀吉さんが祀られているんだと思っていました』

 えいちゃんが太閤秀吉の銅像に目をやる。

『兄の他に、わたしと甥の秀頼が祀られています』

『太閤さんと……ちょっと雰囲気が違いますねえ』

 女優志望だけあって、えいちゃんは貪欲に観察している。

『兄とは父親が違うのです。わたしは兄が家出した後、母が再婚して生まれたものですから。あ、家康さんの後妻に入った旭はすぐ下の妹です』

 そうだったんだ。

「ひとつお伺いしたいんですが」

『はい、なんでしょう?』

「実は……」

 ここに至ったいきさつをかいつまんで説明する。木下家と鈴木家が争っていることには顔を曇らせる秀長さんだが、面倒がらずに口下手なわたしの話を聞いてくださる。「ご舎弟大納言様御在世であれば徳川如きの侮りを受けることもあるまいに」という台詞がむべなるかなと思われる。

『この大阪城は、兄の大坂城を埋めて作られた徳川の城。それに、豊国神社はここに遷されて日も浅く、神社以外のことはよく分からないのですが、大阪の地理のことなら少しは分かります。その空堀の坂というのは、この城の空堀ではなく、兄の大坂城の空堀を指しているのではないでしょうか?』

「秀吉さんの大坂城……」

『はい、規模は、この四倍以上もあって、城の南の備えとして南の方に大規模な総構を築造しました』

「そうがまえ?」

『外堀のさらに外の構えです、そう、様式は空堀……たしか、今でも商店街の名前で残っています』

『あ、空堀商店街!』

 えいちゃんが思いつく。

「え、そんなのがあるの!?」

『はい、地下鉄の谷町六丁目です!』

「そっちだ! ありがとうございます!」

『いや、役に立ったのなら幸いです。これを持って行ってください、ここのお守りです』

「ありがとうございます!」

『あ、谷六なら、大手門を出て南です!』

「おっと」

 来た時同様、玉造口から森ノ宮に出ようとしたら反対方向を示される。

『キャー』

 踵を返すと、その勢いでえいちゃんがカバンから出てしまう。

 危うく、風にさらわれそうになったえいちゃんをクルクル丸めると、リレーのバトンのように握って空堀商店街を目指した!

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
  • 多田さん         照明技師で猿飛佐助の手下
  • 杵間さん         帝国キネマ撮影所所長
  • えいちゃん        長瀬映子 帝国キネマでの付き人兼助手
  • 豊臣秀長         豊国神社に祀られている秀吉の弟

 

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RE・かの世界この世界:128『灌木林を進む!』

2023-06-15 06:30:37 | 時かける少女

RE・

128『灌木林を進む!』テル  

 

 

 

 灌木林の獣道を進む。

 
 灌木とは言っても人の背丈の何倍もあって、その灌木たちはノンノンと葉を茂らせて薄暗い。

 おまけに低木の枝とか蔓とかも手で避けられる量ではないのでホルダーから取り出した鉈を振り回して道を拓かなければならない。

 えい!……えい!……せい!……それ!……

 いちいち掛け声をかけて鉈を振りかぶるが、タングリスはほとんど無言で道を切り開いていく。

「力を入れていては直ぐにバテるぞ」

「ああ、分かるんだけど、声をあげないと力が入らない……せい!」

「そうか、なら、わたしがペースを合わせよう。ひとまず汗を拭け」

「あ、そうだな」

 言われて気が付いた、顎の先から汗がしたたり落ちている。ざっくり拭いてから首にタオルを巻く。ほんとうなら腕まくりをしたいところだが、蔦や小枝で手を傷つけるので我慢する。

「人間は図体が大きくてたいへんだねぇ(^^」

 ポチのやつが喜んでいる。

 ポチは1/12フィギュア程度の大きさしかない。枝や葉っぱの隙間をスイスイと飛んでいける。

「ポチの基準で道というのは、こういうのも入るんだ」

「獣道だから仕方ないよ」

 言うことはもっともだ。獣道でないところは下草がハンパでは無くて鉈を振り回しても進めるものではない。

 

 ブイーーーーーン!!

 

 突如、斜め後ろで派手な音がした。

「これだとラクチンであろう(^▽^)/」

 ヒルデがチェ-ンソーを使いだした。

「姫、それはいけません」

「どうしてだ?」

「音が大きすぎます、ヤマタに気取られてしまいます」

「気取られて、姿を現してくれたら勝負が早くなるのではないか?」

「こちらから仕掛けるのと、相手から奇襲をかけられるのでは勝率が全然違います」

「そんなものなのか?」

「はい、地味ですがコツコツとお願いします」

「ヒルデのツィンテールをぶん回せばいいじゃないか。いつだったかのプレパラート戦のときなんか大活躍だった」

「か、髪が汚れるだろ! 葉っぱとか湿ってるし、訳の分からん虫とかもいるし、そんなの付いたらあとの手入れが大変だ」

「口ではなく手を動かして!」

 タングリスのこめかみに青筋が浮く。ポチの力では鉈は振り回せないので、これはヒルデ一人に言ったのと同じである。

「ンモーーー」

 クリーチャーとの戦いでは大人びた口で冷静に戦闘指揮もできるヒルデだが、お姫様然とした我儘が出てくる。自分より年下のロキやケイトが居ないこととタングリスというおもり役がいるからこそのことなんだろう。

「ほら、しっかりやれー! フレーフレー! ヒ・ル・デ!」

「ポチも手を動かせ! タングリスも言っただろーがあ!」

「動かしてるもん、ヒルデ応援するのに手を振ってるよ(^▽^)/」

「叩き落すぞお!」

「おっかなーーーい(^△^;)」

「姫!」

「うい」

「ポチも、しっかり進路を警戒しろ」

「らじゃー('◇')ゞ……まだ百メートルも進んでないよ、まだ五キロはあるみたい」

「いつまでかかるか分からんなあ」

 みんなの手が止まってしまった。

「ブロンズフラッシュを使ってみる」

 わたしはスキルを使うことにした。スキルはHPとMPを馬鹿みたいに必要とするが、回復系アイテムもふんだんにある。

「試してもらおうか……」

 わたしは「ブロンズフラーーッシュ!」と詠唱しながら勇者の剣を振った。

 ブリュン!

 ザザっと頼もしい音がして、枝やら木の葉やらが盛大に舞い散った。

 半径三メートルほどの灌木がきれいに薙ぎ払われた。しかし、たったの三メートルでしかない。もう少しいけると思ったのだが。

「ダメだ、我々の進路を暴露するだけだ」

 そうだろう、百回使って六百メートルほどは進めるが、同時に幅三メートルの空白を灌木林に付けてしまい、我々の存在を暴露してしまう。

「わかった、わたしがやろう……」

 ヒルデが俄然大人びた口調になって、ツィンテールのリボンを解いた。

「いくぞ……スプラッシュテール!」

 ザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザク!

 解かれたテールが数百の枝切ばさみになり人一人が通れるほどのトンネルを灌木林の中に穿って行ったのだった。

 最初からやればいいのにと思ったが呑み込んだ。

 

☆ ステータス

 HP:13000 MP:180 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・900 マップ:12 金の針:1000 その他:∞ 所持金:8000万ギル(リボ払い残高無し)
 装備:剣士の装備レベル38(勇者の剣) 弓兵の装備レベル32(勇者の弓)
 憶えたオーバードライブ:シルバーヒール(ケイト) シルバースプラッシュ(テル) スプラッシュテール(ヒルデ)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル (寺井光子)   二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  小早川照姫の幼馴染 ペギーにケイトに変えられた
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ラーテの搭乗員 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ラーテの搭乗員 辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 1/12サイズで人化している
 ペギー         異世界の万屋

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

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