大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 125『鬼かしま決戦・1』

2023-06-06 09:20:15 | ノベル2

ら 信長転生記

125『鬼かしま決戦・1信長 

 

 

 鬼ヶ島とは鬼貸間。

 漢字表記なら一目瞭然だが、ネオンサインは片仮名で『オニカシマ』、実に紛らわしい。

 

 確かに、廊下の他は無数の貸間が続いているだけだ。

 浦島太郎たちが夢中になった『漁師さま用貸間』、アッチャンとオモイカネが危うく取り込まれそうになった『単身神さま用貸し神社』、その他にも『お姫さま用』『王子さま用』『お百姓さま用』『職人さま用』『町人さま用』『冒険者さま用』『魔導士さま用』『錬金術師さま用』『司祭さま用』『NPCさま用』などの貸間が続き、中には『  さま用』と、まだ入居者の属性を絞り込めていない貸間も続いている。

 その貸間群は平面上だけではなく、階段や武者走(戦闘用キャッツウォーク)によって、別の曲輪に繋がり。巨大な三次元ラビリンスを構成している。

 大半の貸間は空き部屋のようで、人の気配がなく。まだ、出来て間がない感じの城内は建材や塗装のにおいが初々しい。

 それでも、曲輪を進むにつれて気配が増してくる。

 しかし、それは部屋では無くて、曲輪の結節点。城門の枡形や櫓、武者溜に蟠っている。

 なるほど。

 城内のラビリンスで迷わせ、憔悴させたあとで一気に返り討ちにしようという腹なのだ。

 

 こういう城攻めは得意ではない。

 

 やるとしたら時間をかけた兵糧攻めを主とした攻城戦だ。

 ただし時間がかかる。

 稲葉山城や小谷城はともかく、石山本願寺は十年もかかった。やっと手に落ちたところで本能寺だ。俺は本願寺の跡に大坂城を建てるつもりだったが、縄張りの絵図面も出来ぬうちに死んでしまい、サルめが、俺のアイデアと遺産を引き継いで天下を取ってしまいおった。

 今度の戦いは、あくまでも御山のアマテラスから素戔嗚(すさのお)が化身した桃太郎をどうにかしろという依頼だ。

 この依頼をこなすことで、茶姫の処遇、いや、茶姫が幸せになる道を聞き出すことだ。

 茶姫は、転生学院で心身の傷を癒している。

 早晩、その傷も癒える。

 傷が癒えれば茶姫の心は三国志に戻るだろう。グズグズしてはおれん。

 茶姫の救済は、我が妹、市の宿願でもあるのだからな。

『敵の数は、およそ二千じゃ』

 勾玉の思金(おもいかね)が胸元で囁く。

「なにか策はあるか?」

 天照大神のブレーンだ、ただ敵の数を言うだけではないだろ。草薙剣のあっちゃんも耳を傾ける。

『草薙剣があるじゃろ』

『え、わたし!?』

『断じて行えば鬼神もこれを避ける』

 なんだか神風特攻隊みたいなことを言う。

『二千と言っても、全速で駆けて行けば相手をするのは二十と言ったところじゃ、遮二無二駆ければ、それにも隙ができる。桶狭間を思い出せ、熱田大神も正念場と心得て力を発揮してくれ』

『仕方が無いわねえ……』

 え?

 腰の草薙剣から光が伸びて、目の前でボディースーツに拳銃を構えた女性コマンドになった。

 瞳とお揃いのパープルの髪は、ウルフヘアで、いかにも精かんだ!

『あ、ただ名前の語呂で作ったアバターだからね、本体は剣、頑張るのは信長! いくぞ!』

 思わず「少佐!」と呼びそうになる。

『このアバターは熱子(あつこ)と呼び捨てにしてくれ』

「承知!」

 石垣や櫓の死角を拾い、あるいは敵の注意をそらして本丸を仰ぐ石垣の陰に至る。

『敵の気配は大半が浦島太郎じゃ』

「思金もそう見たか、熱子は?」

『あの引きこもり、取り込まれてしまっている』

『気に入った様子じゃったからの』

「本丸を固めている兵は1000を超えるぞ、浦島太郎は600しか居ないだろう」

『なかなか、奴の引きこもりも根が深いようじゃ』

 増殖したか、あるいは、600の浦島太郎の陰に隠れて、より業の深い奴がいたか……だとしたら、奴の引きこもりは600年どころではない。

『熱子、おまえは、このまま搦手から侵入してかき回してくれ』

「熱子一人でだいじょうぶか?」

『勢いで作ったアバター、実体は無いのよ。ほら……』

 熱子が伸ばした手は俺の胸を突き抜けてしまった。

『草薙剣そのものが天照大神のアバターみたいなものだけど、これには力が籠められている。励みなさい』

「お、おう」

 次の瞬間、熱子は空を飛んで搦手の門をすり抜けた。

 浦島太郎たちの狼狽える声が上がって、俺と思金は隙を探るべく本丸の正面方向に向かって走った。

 

☆彡 主な登場人物

  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
  • 天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚  部下に思金神(オモイカネノカミ)

  

 

 

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RE・かの世界この世界:119『四号戦車試乗会・2』

2023-06-05 05:57:27 | 時かける少女

RE・

119『四号戦車試乗会・2』タングリス 

   
 

 ベンチだけでは心もとないので手すりを付けることになった。

 言い出したのはユーリアだ。

 戦車と言うのは意外にグニャグニャなのだ。四号の場合、シーソー式のサスペンションが転輪二個に一つの割合で付いている。発進するときには後ろが沈み込み、停車の時には前が沈み込む。不整地を走る時にもトラック並みにグニャグニャ揺れる。サスのストロークは自動車の倍ほどもあるので、ベンチに座っただけでは振り落とされかねない。

 ユーリアは、思いつくと近所の鍛冶屋に言づけて一時間余りで作ってもらえることになった。

 我々乗員にも仕事はある。

 ベンチを付けるために、砲塔の後ろのゲペックカステン(物入れ)を外すのだ。他の乗員は待ちきれずに集まってきた子どもたちの相手をしてくれている。   

 子どもの相手が苦手なわたしはヤコブとコンビを組んでゲペックカステンの取り外しとベンチの据え付けだ。

「なかなか良い妹じゃないか、ユーリアは……」

 二個目のボルトを外しながら声を掛ける。

「ええ、自分も驚いています。あんな積極的に振る舞える子じゃありませんでした。遊びに行っても、いつも自分の後ろに隠れていて……港のクィーンが務まったり、陽気に酒の席で喋れるようなやつじゃありませんでした」

「それに、今度の件でもくったくがない……まるでクラス委員を引き受けるような軽さじゃないか」

「妹が動揺すれば、ヘルムのみんなが後ろめたくなりますから」

「そうだな……夕べはあれだけのどんちゃん騒ぎだったが、心底から喜んでいる者なんかいなかったぞ」

 夕べ、寝返った勢いでわたしの胸に手を落としたオヤジの顔が浮かんだ。朝になって目が合うと少年のように顔を赤くしていた。

「ユーリアがい……いくときは、反対されても付いていきます……」

「乗り掛かった舟だ、わたしたちも四号で追いかけるからな」

「いいえ、ここまでご一緒してくださっただけでも感激です」

「そう言うな」

「脱走同然の自分を庇ってくださって……その上甘えるわけには……」

「ちょっと硬いなあ」

「は、すみません」

「いや、ボルトのことだ」

「あ、荷重を均等にかけなければ、持ち上げます」

「すまん……よし、もうちょい」

「これで、どうですか」

「……よし、全部外したぞ」

「は、はい。では、ゲペックカステンを外します」

「呼吸を合わせてやらないと、こんなものでも怪我をするぞ。いくぞ……いち、に、さん!」

 
 ゴトンと音がしてゲペックカステンが外れた。

 

☆ ステータス

 HP:12000 MP:150 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・80 マップ:8 金の針:0 所持金:5500ギル(リポ払い残高29000ギル)
 装備:剣士の装備レベル30(トールソード) 弓兵の装備レベル29(トールボウ)
 憶えたオーバードライブ:シルバーヒール(ケイト) シルバースプラッシュ(テル)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  小早川照姫の幼なじみ ペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目で1/12サイズの人形に擬態
 ペギー         異世界の万屋
 ユーリア        ヘルム島の少女

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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せやさかい・413『真鈴先輩のメールと散策部の探訪』

2023-06-04 16:26:15 | ノベル

・413

『真鈴先輩のメールと散策部の探訪』さくら   

 

 

 珍しく、急ぎの話やなかった。

 

 ほら、堺東のホームで電車待ってたら、電車よりも早く入ってきた真鈴先輩のメール。

 電車の中で確認したら――三日、お寺に伺ってもいいかなあ?――という、穏やかな内容。

 三日は二日先の土曜(つまり、昨日)なんで――大歓迎です!――と三秒で返事を打った。

 すると二秒で返事の返事が返ってきた――じゃあ、宗武監督といっしょに行きます!――

 ゲ、宗武監督!?

 宗武監督いうのいは江戸川アニメのえらいさん。ほら、『犬が西向きゃ尾は東』の声優にド素人のうちを起用したオッサン。

 つごう三回東京に行ってなんとか終了、最初は準レギュラーとか言われてたけど、三回で済んだいうのは、やっぱり思てたほど使い物にならんいうことで削られたんやと納得してる。

 せやさかい、もうパチモン声優にかり出されることは無いと安心してた。

 ところが、東京バナナを自分で、人形焼きを真鈴先輩に持たせてやってきた監督は、すごい事を言うた!

「この役に決めたんだけど」

「「え!?」」

 うちも真鈴先輩もビックリした。

「監督、今日は相談だけだって(#`Д´#)!」

「え、もう話通してあるって?」

「それは、今日伺うことについてだけだって(-o-;)!」

 先輩が嵌められたのか、先輩もグルなんか、けっきょくは、今までと同じパターンで新しい仕事を引き受けることになってしもた(;'∀')。

 仕事は秋アニメ『宇宙戦艦三笠』というスペースアドベンチャー。

「宇宙戦艦といえば、ヤマトだけど、ヤマトの元は戦艦大和。あれは沈んじゃったからね。そこへいくと三笠はバルチック艦隊をやっつけた世界的な殊勲艦! なんたって、現物が横須賀に残ってるでしょ! インバウンドでは東京や横浜に後れを取ってるけど、これで、世界の目は横須賀に日本のスピリットを発見、刮目することになる!」

『宇宙戦艦三笠』は、横須賀の高校生たちが地球を救うために三笠に乗ってマゼラン星雲のピレウスいう星を目指すという、パチモンぽいストーリー。

 きっと、江戸川アニメらしいイワクがあるんやろけど、あえて聞きません。

 なんちゅうても、真鈴先輩の目の底が真剣やったし。

 素人同然のうちが考えても、秋アニメの声優を今ごろオーディションもせんと選ぶいうのはありえへんし(^_^;)。

 

 で、それはいったん置いといて、4日の今日は、一足飛びに秋が来たんちゃうかというような青空が広がる日曜日!

 

 大人たちは市長選挙の投票に! 

 うちら高校生は、久々に散策部の探訪に出かけた!

 

「今日の探訪は、ここだ!」

 今度のガイドを自ら引き受けたソニーが自信満々に指さしたのは…………はいからほり?

「バカ者! 下に漢字で書いてあるだろうが!」

 あ!

 アーケードの上に大きな赤字で『はいからほり』と書いたあるのんで気ぃつけへんかった。その下に白い看板がぶら下がってて『空堀商店街』と黒字で書いてある。

「そらほり商店街!」

 アハハハ(≧∇≦)

 ソニーには呆れかえられ、ソニー以外の三人に笑われてしまう。

「いやあ……どっちが日本人だかぁ……」

 中二からの担任で(今年は外れたけど)月島神社の巫女でもある散策部顧問のペコちゃん先生が呆れかえる。

 留美ちゃんとメグリンは、まだ笑いが収まれへん。

 クハハ クフフ

「ちょ、そこまで笑わんでもええんちゃう(`_´)」

「い、いや、ごめんごめん(^_^;)」

「わるいわるい(^_^;)」

「い、いや、せやかてね、ちょっと見てみいや」

 うちは、改めて『空堀商店街』のアーケードの中を指さした。

 ( ,,`・ω・´)ンンン?

 マジマジと指先を見るみんな。

「この商店街て、下り坂になってるやん。買い物終わって戻ると、坂の上にこの出入り口が見えて、スッコーンと抜けたみたいに空が見えるやんか。昔は、アーケードとかも無かったやろから、買い物してても、見上げて歩いてたら、空がきれいに見えたと思うんよ! それでそらほり商店街…………あ、もうええわ、ちゃっちゃと行こか」

 期せずして、先頭を歩くことになって、商店街に突撃。

 

 今日は、ソニーのリクエストで地下鉄谷町六丁目で降りて、大阪市は中央区の空堀商店街に来てる。

 名前の通り商店街なんで、アーケードがあるわけで、梅雨時のいま、雨に降られても大丈夫というソニーのチョイス。

 せやけど、天気はいい意味で裏切ってくれて、初秋を思わせるぐらいの爽やかさ。

 予定よりもあちこち周れて楽しかった。

 で、どんな風に楽しかったか。明日あらためて報告しますよってこうご期待!

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校二年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学三年生 ヤマセンブルグに留学中 妖精のバン(バンシー)ナンシー(リャナンシー)が友だち
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       中二~高一までさくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 花園あやめ(声優)  
  • さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん)
  •   

 

 

 

 

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RE・かの世界この世界:118『四号戦車試乗会・1』

2023-06-04 06:26:16 | 時かける少女

RE・

118『四号戦車試乗会・1』ブリュンヒルデ 

 

 

 朝食のあと、子どもたちを四号に乗せてやることになった。

 
 ヘルムには軍隊が無い。だから戦車なんか見たことも無いのだ。

 キャタピラで動くものといったら、ブルドーザーとかユンボくらいしか知らない。

 四号の最高速度は時速三十八キロでしかないが、ブルドーザーに比べればスポーツカーだ。実弾を撃つわけにはいかないが、よく見えるところで砲塔をグルンと回して空砲の一発も撃てば喜んでくれるだろう。

 
 しかし、困った。

 
 希望者が三十六人も居るのだ。

 最初に乗っていた二号に比べれば大きい戦車だが、それでも定員は五人だ。定員以外に乗せるとなると、子どもと言っても二人がやっとだろう。ユーリアの兄であり、子どもたちの先輩でもあるヤコブは真剣に考えるが、いい考えが浮かばないようだ。その悩んでいる姿も兄妹らしくて、われわれ乗員は顔だけ真剣にして微笑ましく見ている。

「いい考えがあるわ」

 手際よく朝食の片づけを終えたユーリアが指を立てた。

「考え? ジャンケンでもさせるか、停めたまま乗せるので勘弁してもらうとか?」

「だめよ、お兄ちゃん。夕べは大人たちのお楽しみで、子どもたちは我慢してたんだから、ちゃんとやってあげなきゃ」

「と、言っても、二人ずつじゃ今日一杯かかっても終わらないかもしれないぞ」

 ヤコブがヘタレ眉になってため息をつくと、ユーリアはピンと庭のベンチを指さした。

「ベンチを戦車の上に固定するのよ。あれだけ広けりゃ三人掛けが二列置ける。砲塔のハッチが三か所あるから、そこにも一人ずつ。合計九人。でもって、裏の丘の上まで駆け上がるの。そうしたら四往復でいける!」

 

 なるほど……。

 
 ユーリアの提案に、裏の丘を見上げた……なかなかのアイデアだ。

 丘の上なら、四号が登っていくのも降りていくのも見られる。いいや、ユーリアの家からでも見られる。

 四往復で済むだけじゃなくて、丘の上に居てもユーリアの家で待たされても退屈することはない。

 ユーリア偉い! このブリュンヒルデが誉めてとらすぞ!

「それにさ、希望する大人たちもトラックとか車で付いていくの。丘の上で、ちょっとしたお弁当とか開いてピクニック気分とかもいいんじゃない?」

「あーー、それいい!」

 ロキが子どもらしく、その気になって手を挙げる。

「おまえに聞いてない」

「イテ!」

 タングリスにポコンとやられる。

「それでさ、せっかく丘の上なんだから花火とか上げようよ。大砲撃つだけじゃ能がないからさ」

「そうよ、それいいわ。たしか町長さんとこの倉庫に打ち上げ花火の道具があるはずよ。お母さん借りてくるわ」

「それなら、いっそ四号の主砲で撃てるように細工するよ!」

 ヤコブがメカニックらしい提案をして話が決まった。

 
 たちまち、町をあげてのイベントになってしまった!

 

☆ ステータス

 HP:13000 MP:150 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・80 マップ:8 金の針:0 所持金:5500ギル(リポ払い残高29000ギル)
 装備:剣士の装備レベル30(トールソード) 弓兵の装備レベル29(トールボウ)
 憶えたオーバードライブ:シルバーヒール(ケイト) シルバースプラッシュ(テル)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・031『衣替え』

2023-06-03 15:56:49 | 小説

(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

031『衣替え』   

 

 

 六月に入ったので衣替え。

 

 一日の夕刊なんて『今日から衣替え!』の見出しで、有名女子高の登校風景の写真をデカデカと載せている。

 女子高ってのは私学だから、制服も凝っていて新聞にはうってつけ。

 令和の時代は、有名デザイナーの制服がいっぱいあって、SNSなんか見てると外国の人からは羨ましがられてる。「まるで、アニメの世界!」「あんなの着て学校に行きたい!」「日本に留学したい!」てなコメントやら『いいね!』がいっぱいついていたりする。

 1970年は、そこまでじゃないけど、やっぱり私学はカッコいい。

 昼休みの窓際で机を寄せ、ロコのスクラップ帳を見ながら自分たちの制服を論じている。

「しかし、すごいね……」

「よく集めたねぇ……」

「一つ一つ寸評まで……」

「なになにぃ……」

 カトリック系のS女学院は建学の精神にパリの有名デザイナーが賛同してデザインした。大正の開校時からだっていうジャンパースカートにボレロ。ボレロは襟元をフックで留めるだけ。

「サウンドオブミュージックのマリアが着ていた修道女見習いの制服って、同じコンセプトなんですよ!」

「そうなんだ」

「やっぱミッションスクールだねえ……」

「ウィンプルっていうの、あの三角巾みたいなのしたら」

「まんま修道女見習いだねぇ」

「T女学館もなかなかですよ!」

「どれどれ?」

「「「「おお!」」」」

「三線のセーラー服なんだけど襟は小ぶりで胸当がないんです」

「え、ほんと。胸元がつぼまってキリリとしてる」

「襟のつぼまりなんてと思うかもしれませんけど、全然違うんです。特に、合服のセーラーがすごくいいんです。あ、これこれ、襟と袖口以外は淡いクリーム色で、襟元のつぼまりがいっそう際立ってグッドなんです!」

「でも、わたしは似合わないなあ」

「どうしてですか、真知子さん?」

「だって、この襟だと顔が大きいと……」

 なるほど、つぼまった襟元だと顔が大きく見える?

「そんなことないです!」

 そう言って、ページをめくるとT女学館のクラス写真。

「ほら、いろんな顔の人がいるけど、似合ってます!」

「むむむ……」

 ふだんクールな真知子がまじまじと見ているのもおかしい(^_^;)。

「それでそれで、これが……ジャーーン!」

 次のページは、デザイン画。タッチは見慣れたロコのなので、ロコが写したものだろう。

「「「「「ええ、なになに!?」」」」

「MM女学院が、来年から改定する制服のデザイン画です!」

「なんか、万博のコンパニオンの人みたい!」

 上着の下はジャンパースカートなんだけど、なんとミニスカ! 

「ベルトの位置ですよ!」

「「「「おお……」」」」

 太めのベルトは、普通よりも5センチは低い位置で、丸いバックルは制服と同じグレーなんだけど腕輪かっちゅうくらいに大きい。

「色さえ変えれば、そのままパビリオンでコンパニオンできちゃうね」

「思い切ったモデルチェンジよねえ」

 

 で、眼下の中庭、お昼のひと時を過ごしている同輩たちに視線を向ける。

 

 我が宮之森はS女学院に似た、一見ジャンパースカート。

 胸から上のベストになってるところは取り外し式で、外せば、そのまま夏服になる。襟は丸襟でささやかなボータイが付く。

 完全な夏服だと、半袖ブラウスにスカート、ブラウスは毎日着替えるから、丸襟でない市販の白のでもOKなのさ。

 けして有名デザイナーさんのじゃないんだけど、こういう使いまわしの良さを考えた人はエライ!

 これが良くって、わざわざ令和からこの時代の宮之森に来たんだしね。

 宮之森は私学のように一斉の衣替えはやらない。

 五月の半ばから『合服期間』になって、制服なら、どんな組み合わせでもOKになる。

 さすがに上着を着てる人はいないんだけど、ボレロ付き、ボレロ無し、長袖、半袖、それに、ボータイ有、ボータイ無し、と色々。

「うん、うちも、まあまあね」

「ね、あんまりやかましいこと言われないしね」

 副委員長のたみ子が真知子と並んで締めくくる。

 

 そんな話に花の咲く昼休、十円男が隣の窓辺でボソリと呟く。

 

「囚人服のバリエーションを楽しんでもなあ……」

「なんか言ったぁ?」

 こういう場合、黙ってしまっては、かえって気まずい。相手は十円男だし。

「すまん、個人的感想だから」

 絡むこともなく、十円男は廊下に出て行った。

「一言多いです、加藤君は!」

 ロコが口を尖らせる。

「でも、加藤君の言うことにも一理あるかなあ……」

「え、そうなの?」

 真知子の感想にみんな驚く。

「ファッションとかは、個人の自由だと思うのよ。欧米じゃ学校の制服なんてないし、制服強制されるって軍隊とか、それこそ囚人よ」

「うん、でも、制服だったら着るものに気持ちもお金も使わなくっても済むから、いいんじゃないかなあ」

 たみ子の言うことも正論だ。

「うん、わたしが言うのは理想ね。そんなファッションのことばっかり考えていたら、高校時代なんてあっと言う間に過ぎちゃうからね。今は――ほんとは違うんじゃないか――て思ってるだけでいいと思う」

「真知子って、いつも、そんな風に考えてるの?」

「うん……かなあ……でも、じゃあ、どうすればいいかって具体的には無くってさ。対案の無い否定って、ただの文句言いでしょ」

「そうか、そういうとこが、加藤君たちと違うとこなんですね!」

 ロコが尊敬のまなざしを向ける。

「あ、そんな、なんとなくの姿勢だから(^_^;)」

「真知子って、どんなレベルから疑問持ってるの?」

「うん……宗教や政治信条とかは完ぺきに個人の自由でしょ?」

 うんうん(*・ω・)(*-ω-)(*・ω・)(*-ω-)、みんな頷く。

「ファッションとかも同じだと思うのよ、もっと言うと、結婚したら同じ苗字になるでしょ、ほとんどは男の苗字になっちゃうし……」

 

 キンコーンカーンコーン キンコーンカーンコーン

 

「あ、五時間目体育ですよ!」

「続きは、またこんど!」

 みんな体育の着替えを持って更衣室に走る。

 6月最初の体育、そう、今日から体操服も衣替え。

 で、半袖の体操シャツに、下はブルマ!

 ほんとは、これが一番嫌で、本日最大の関心事なんだけど、だれも口にすることは無かった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子             1年5組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            1年5組 副委員長
  • 高峰 秀夫             1年5組 委員長
  • 吉本 佳奈子            1年5組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              1年5組の担任
  • 先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長
  • 須之内写真館            証明写真を撮ってもらった、優しいおねえさんのいる写真館

 

 

 

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RE・かの世界この世界:117『落花狼藉の夜が明けて……』

2023-06-03 06:08:40 | 時かける少女

RE・

117『落花狼藉の夜が明けて……』タングリス 

 

 

 テルが呟いた言葉通りだった。

 ―― 明るさは滅びの徴であろうか 人も家も暗いうちは滅びはせぬ ――

 夕べは、その明るさに身をゆだねるしかなかった。

 ポルカだサルサだヨサコイだのと高揚していくうちに裸にされて、あっという間にヘルムの民族衣装に着替えさせられた。南欧風の衣装は半袖の提灯袖で胸ぐりが大きく開き、スカートは二重のパニエでフワフワだ。スカートなどは軍籍に入ってからは身につけたこともなく。久々に自分の性別が男ではないことを自覚した。

 酔いつぶれたふりをして雑魚寝の中に加わった。

 みんな幸せそうに鼾をかいたり歯ぎしりしたり言葉にならない寝言を言ったり花提灯を膨らませたり…………だが、ほとんどの大人たちは寝たふりだ。

 横のオッサンの手が寝返りうった勢いで、わたしの胸に落ちてきた。

 手の主はドキッとしたのがバレバレなのだが、手をどければ眠っていないことが分かってしまう。また寝返りのタイミングをつかむまで、そのままにしておいてやった。

 夜半、ヤコブ親子が話し合っているのに気付いた。

 母親のアグネスも十七歳で生贄に選ばれていた話には驚いた。平和な楽園に見えているが、その内実は他のオーディンの地と同様に悩みを抱えているようだ。

 ヘルムに立ち寄ったのはグラズヘイムへの便船であるシュネービットヘンの修理のためで、ヤコブの問題は余力があればくらいのつもりでいた……だが、この深刻さ、わたしがダメと言っても姫は助けてやる気持ちになっておられるだろう……姫のご性格と姫ご自身の境遇を考えると捨て置かれるとは思えない。

 朝、皆が起きだすのに合わせて、大きく伸びをする。ロキとケイトは地元の子どもたちに交じって熟睡中、夕べむしり取られた軍服をかき集めて素早く着替える。起きるタイミングを掴めないでいるテルと姫を起こすと、開け放たれたキッチンの窓からいい匂いがしてくる。

「みんな、酔い覚ましの朝ごはん! さっさと食べて片づけ手伝ってね!」

 ユーリアの元気な声が庭いっぱいにこだました。

 

☆ ステータス

 HP:13000 MP:150 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・80 マップ:8 金の針:0 所持金:5500ギル(リポ払い残高29000ギル)
 装備:剣士の装備レベル30(トールソード) 弓兵の装備レベル29(トールボウ)
 憶えたオーバードライブ:シルバーヒール(ケイト) シルバースプラッシュ(テル)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

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銀河太平記・163『劉宏大統領VS呉麗花』

2023-06-02 13:51:23 | 小説4

・163

『劉宏大統領VS呉麗花』越萌マイ(児玉元帥) 

 

 

 伝説の大帝、昭和天皇は相撲を好まれた。

 

 小よく大を制す。たとえ非力な小男であっても、技と工夫、または機を見ることによって相手を下せるところを好まれた。

 その姿勢とお心の強さを兼ね揃えておられたからこそ、終戦の御決心をいたされ、戦後復興の先頭にお立ちになれた。

 

 劉宏大統領は、その就任にあたって、昭和天皇の相撲好きに触れ、これを見習おうと挨拶した。

 

 満州戦争が終わって数年、中国の大半を漢明がまとめ上げ、ようやく大中華復興の光が見え始めていた。

 しかし、漢明は分裂時代の軍閥や財閥の寄り合い所帯。共和国成立の慶祝な空気に包まれていたが、心底では動乱再来の気を孕んで、数億の民も軍閥や財閥の首魁たちも、その地盤の上で姿勢を制御することで心も頭もいっぱいだった。誰も、進んで大中華の舵取りをしようとは思わなかった。

 だからこそ、あの大戦、困難な戦争の中にあって、大勝利こそ得られずとも漢明を最大の勝利者に止めることができた劉宏将軍を担ぎ上げた。

 もし、最初から漢明全軍の指揮権を劉宏に与えていたら、圧倒的勝利を漢明にもたらしたであろう。

 その劉宏が就任のスピーチで昭和天皇に触れたのだ。その祝典会場に居た者たちも、その様子を中継で観ていた者たちも鼻白んだ。漢明中興の期待を寄せられた新大統領が、二百年以上も前の島国の王の事績を称揚したのである。

「諸君、この姿勢を最初に持ったのが、この大中華の最初の統一を成し遂げた秦の始皇帝であったことを思い出してほしい!」

 歴史に詳しい年寄りたちは「おお……!」とどよめきながら身を震わせ、疎い若者たちは訝しがりながらも、年寄りたちの興奮に刮目した。

「始皇帝、いや、秦王政は、幼少のころから艱難辛苦の中にあり、非力な秦国が天下に覇を唱える機をうかがっておりました。幼くは趙の人質になり秦に帰る機を窺った時、丞相呂不韋との確執の時、合従軍を迎え撃った函谷関の戦いの時、弟成蟜との対立の時、山の女王楊端和との協和の時。彼は、待つ時は石の如く、攻める時は雷の如く、緩む時は海月の如くに身を持しました。それが、その姿勢こそが、中華統一の偉業を為さしめたのです。それは、あたかも土俵に上がった力士の如くであります。その、秦王政にならい、この劉宏は、大中華、その精神の結実点であり、秦王偉業の徴である万里の長城、八達嶺の城頭において大統領就任の宣言をするものであります!」

 敵将ではあるが、あのスピーチには感心した。

 守勢をもって当面の方針とし、いずれは、その充実発展の意欲を示すのには文句なしだ。

 その上、日本の相撲を持ち出すことで、当面、日本との融和と協調を示すことにもなった。

 やつは、その演説だけではなく、戦後傾きかけた日本の相撲にも肩入れしてくれ、じっさい彼の援助が無ければ相撲の復興は十年は遅れただろう。

 そのくせ、相撲復興の表舞台に出ることはしなかった。ようやく優勝者に『劉宏盃』を出すことになった時も、その授与式に出ることは最後まで辞して、その奥ゆかしさは日本国内でも好意をもって受け止められた。

 

 その劉宏が、漢明海軍大学の大プールで、我が日本士官学校謝恩祭の名物である尻相撲『大ドンケツ』に臨もうとしている。

 それも、相手は身長差50、年齢差60の呉麗花という12歳の少女だ。それも、潜在的な政敵と噂の高い統合参謀本部議長の孫娘ときている。

 二人が50メートルプールに浮かべられたフロートの上で『尻合い』のファイティングポーズをとると、会場も、我が士官食堂もワールドカップのキックオフ直前のような興奮に包まれた。

 

 ピーーーーー!

 

 キックオフ同様に審判のホイッスルが鳴り響き、観衆の太いのや黄色い歓声が屋内プールに響き渡る。

「えい!」「それ!」「なにを!」「これでも!」「くらえ!」「わはは!」「あはは!」「どうだ!」「よいしょ!」

 骨ばったのと、小さく丸まっちいのと、二つの尻が、当ったり躱されたり……そのつどフロートはチャプチャプ揺れて、本人たちが必死になるほど、姿勢や動きはコミカルになる。

 笑いと声援が等量に沸き起こる。

 試合は、二回連続で勝てば勝者が決定し、一勝一敗の場合は、三回目を行って勝者を決定する。

 一回戦は劉宏の尻がまともに麗花の尻をとらえ、麗花は意外に野太い悲鳴をあげて5メートルほども吹き飛んだ。

 麗花は、すぐにフロートに上がり、まなじりとお尻を上げて二回戦の構え。

 二回戦では麗花は容易には仕掛けず、前後左右上下と機敏に尻を振っていなしていく。

 二分もすると、劉宏は、大統領のそれではなく、戦場で敵の動きを見定める将軍の目になる。

 満州戦争でも、将軍はこんな目をしていたのか!?

 我知らず、飲み干した紙コップを握りつぶしてしまう。

 士官食堂のボランティア兵たちも、腰を浮かして尻を振る。

 いや、大ドンケツは時を超え国を超えて人を熱中させる。

 平和な時が訪れたら、日漢大ドンケツ大会を開こう!

 すると、ここ一番狙い定めた一ケツが空振りになって、刹那に戻した勢いで劉宏は、難しい顔をしたまま前方に水しぶきを上げて落ちてしまった。

 しまった! それから「ワハハ」と笑って腕を組んだまま落ちていく劉宏は見ものだった。

 瞬間だが、こいつに任せたら世界に平和が訪れるような気になった。

 二秒で水面に顔を出すと、ブルンと首を振って「再一次(^▢^)!」と指を立ててフロートに飛び乗る。

 麗花も、ファイティングポーズをとりながらも笑みをたたえ「请再一次(^〇^)!」、MCの士官候補生も「大家一起,再好好的享受一次吧!」も目をへの字にする。

 気をきかせたAIが即座に「もう一回だ!」「もう一回お願いします!」「みんな、もう一回楽しもうぜ!」と音声付きで翻訳してくれる。

 画面の隅で、少佐の軍服が立ったり座ったり……見ると、こないだ南の橋頭保で渡り合った王春華だ――ちょっと元気になったからと思って、うちのお爺ちゃんたら!――そんな感じでハラハラ見ているが、横の軍医が――まあまあ――となだめている。

 シュ シュシュ ドン シュ プイ シュシュ

 調子に乗ったAIが、今度は動きに合わせて効果音を付けてきた。

 ワハハ アハハ いいぞ! そこだそこだ! あ、惜しい! もう一発!

 オーディエンスの声まで入り出して、横須賀の謝恩祭よりも面白くなってきた。

 

 ポン

 

 狸が腹鼓をうつようなエフェクト、劉宏が引っ込めた尻を麗花のお尻が軽く当たったのだ。

 ウオオオオオオオオ…………オ!?

 辛くもバランスを保つ劉宏だったが、麗花がトドメとばかりにジャンプすると、大統領とは思えぬアホな姿勢のまま、ゆっくりと水に落ちて行った。

 

 ドッポーーーン

 

 ウワアアアアアア!!…………大歓声が、画面の中でも士官食堂でも湧き上がった。

 

 その歓声が一分近く起こって……でも、劉宏大統領は浮き上がっては来ない。

 

 王春華が血相を変え、軍服のままプールに飛び込んだ……。

 

 ☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  •  

 

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RE・かの世界この世界:116『やっぱり間違ってる……』

2023-06-02 07:05:11 | 時かける少女

RE・

116『やっぱり間違ってる……』ブリュンヒルデ 

 

 

 

 ゲフ ゲップ

 
 あやうく気づかれそうになったが、オッサン二人が寝ながらゲップをしたので、三人は会話を続けた。

『むかし、エッケハルトのお祖父さんが市長をやっていて、ヤコブと同じことを言ったんだよ。予定された犠牲は受け入れがたい、ヤマタのご加護はありがたいが、島の平和は島のみんなで勝ち取って守っていくって。すると、島の他の市長や町長からも賛同者が出て、お母さんは生贄を免れたんだよ。エッケハルトのお祖父さんは島の若者を募って討伐隊を組織してね、半年の間は蘇ったクリーチャーと懸命に戦った』

『負けたの?』

『十三人の犠牲者が出てね……ヤマタの神はこうおっしゃった。みなよく戦った、今年は十三人の命をもって了としよう』

『それで?』

『申し出たの「やっぱり、わたしを生贄にしてください、その代わり十三人の若者は返してください」って……』

『じゃ、じゃあ……』

『ヤマタの神は拒絶されたわ「おまえは、もう歳を取っている」って。実は、その半年の間にヘルムの暦がオーディン暦に変わったの。ヘルムの指導者たちはオーディンの国との交易を盛んにするために、暦をオーディンに合わせたのよ。ヤマタに言われて気づいた、わたしは、もう十八歳になっていた』

『じゃ、どうしたの?』

『今年は十三人の血をもって了とした。これからは一人の乙女でも、十三人の若者であってもかまわぬことにしてやろう』

『十三人かよ……』

『むろん、受け入れられるはずもなく、再び十七歳の女の子が選ばれるようになった』

『でも、お母さん、その話は初めて聞いたよ』

『記録から抹殺されたもの……十年もたてば社会は忘れるし』

『そうなんだ……だから、お兄ちゃん。やっぱ、わたし行くよ』

『分かっておくれ、ね、ヤコブ……』

 

 母のアグネスは優しくヤコブの手に自分の手を重ねた。 

 そして、ヤコブの溜息がして、それが合図であったかのように、再び眠りに落ちてしまった。

 眠りに墜ちながらも思った、自分の事のように思った……やっぱり間違ってる……。

 

☆ ステータス

 HP:13000 MP:150 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・80 マップ:8 金の針:0 所持金:5500ギル(リポ払い残高29000ギル)
 装備:剣士の装備レベル30(トールソード) 弓兵の装備レベル29(トールボウ)
 憶えたオーバードライブ:シルバーヒール(ケイト) シルバースプラッシュ(テル)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

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RE・かの世界この世界:115『ヤコブとユーリアの母』

2023-06-01 06:42:33 | 時かける少女

RE・

115『ヤコブとユーリアの母』ブリュンヒルデ 

 

 

 

 ……ヘルムの平和のため……必要……でも……待って……だって……聞いて……

 

 みんなが寝静まっているので、囁くような声でも聞こえてしまう。

 ユーリアを真ん中にして親子三人がヒソヒソ語り合っているのだ。

 内容もさることながら、その密やかさは立ち入ってはいけない雰囲気だ。呼吸を乱さないように気を付けて目を閉じた。

『それは分かってる、でもユーリアの兄として納得できない。親子兄妹は骨肉だ、その骨肉を引き剥がされようという時に他人やヘルムがどうのこうのって関係ないよ』

『でも、お兄ちゃん。ヘルムが平和でなきゃ、我が家の平和も無いのよ。でしょ、ヤマタの力が衰えれば島の外ばかりじゃない、大昔にヤマタが封印したクリーチャーたちも蘇って災いをもたらすのよ』

『それでもいやだ、間違ってるよこんなこと!』

『聞いて。ヘルムにもオーディンの国にも車が走って飛行機が空を飛んでるわ。車や飛行機を使うことによって昔では考えられない便利な生活を送っている。でも、車や飛行機の事故で、毎年数百人の人が命を落としている。その人たちは、みんなが便利さや快適さを享受するための生贄と同じだよ。島の外じゃ戦争ばかりやって大勢の人たち死んでいる。ヘルムには、その戦争も無いんだよ。ヤマタのお蔭だよ。ヤマタは四年に一回しか生贄を要求してこない。四年に一人犠牲になるだけで四年間の平和が約束されるのよ。生贄に捧げられる日まで、ヘルムの人たちは女王のように扱ってくれる。わたしが居なくなった後のお母さんの生活も保障してくれる。そのことでわたしが命を長らえることは無いけど、それがヘルムの人たちの優しさだと思うのよ。お兄ちゃん、間違えないでね、わたしは、ユーリアは喜んで生贄になるんだからね』

『それでも、間違ってるよ。予定される犠牲と言うのは間違ってる! そんなの人の生き方として間違ってる! 間違った犠牲の上に築かれる平和とか繁栄は偽物だ!』

『お兄ちゃん……』

『ユーリ……』

『ヤコブ、聞いておくれ』

 ほとんど口を挟まなかったお母さんが語り始めた。

 たぶん、ヤコブの手や肩に自分の手を重ねている。いや、同時にユーリアの肩も抱いているかもしれない。大事な話は相手を抱いたり触れたり、包み込むように話さなければ通じない。話によっては息子のヤコブも傷つけてしまう、ヤコブもユーリアの事を思っているからこそ、軍を脱走してまで戻ってきた。そのヤコブの気持ちも大事にしてやりたい。そこから自然に出てくるスキンシップなんだ。

 父のオーディンも、不器用ながら、こういうスキンシップを心がけていた。ただ力が有り余っているから、撫でる=はり倒す、抱きしめる=ベアハッグだったけどな(-_-;)

 自然な寝息をたてるのに苦労する。傍らの四号の乗員たちは気持ちよさそうに眠っている、こんな大事な話をされて、よく寝ていられるもんだ。やはり、わたしは主神オーディンの娘にして堕天使の宿命を背負いし漆黒の姫騎士、その名はブリュンヒルデ……この親子の相克を見過ごしにはできない!

『わたしもね、十七の歳でヤマタの生贄に選ばれたんだよ』

『『お母さんが!?』』

『不思議だろ、こうして生き延びて、あんたたちを産んで育てたんだからね』

『生贄になって生きているなんてあり得ない……』

『どういうことなんだ、母さん?』

 わたしの耳も研ぎ澄まされた。しっかり聞こうと寝返りを打ったら、同時にロキが寝返って、わたしの口と鼻を塞いでしまう。

 ウ……ウグググ

 息が出来ない。

 一分近く辛抱したが、限界だ。

 プハーーー!!

 !?

 しまった、親子三人がこっちを見ている!

 

☆ ステータス

 HP:13000 MP:150 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・80 マップ:8 金の針:0 所持金:5500ギル(リポ払い残高29000ギル)
 装備:剣士の装備レベル30(トールソード) 弓兵の装備レベル29(トールボウ)
 憶えたオーバードライブ:シルバーヒール(ケイト) シルバースプラッシュ(テル)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

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