大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語2・059『マイナカードから転移魔法へ』

2024-07-16 09:40:37 | カントリーロード
くもやかし物語 2
059『マイナカードから転移魔法へ』 




 フフフフフ(*`艸´)


 御息所が嫌味な含み笑いをしたかと思うと、みるみるうちに1/12サイズからリアルサイズに変わった!

「役人どもよ、わらわたちを勉強不足のJKやら1/12サイズのフィギュアと見くびるではないぞよ」

「あ、あなたさまは!?」

「源氏物語『夕顔の巻』に燦然とその名を輝かす六条の御息所とは妾の事じゃ。畏れ多くも先の東宮の妃であるぞよ」

 ヘヘーーー(-_-;)!!

 さすが御息所、居並ぶ役人たちは、みんな平伏したよ(^_^;)

「古事記ではカササギが彦星を渡すとある。舟が現れるという説もあれば、牽牛の牛が背中に乗せて渡ると言う中華の説、月が渡し船になったり、川の中に島ができるとか、様々な方法が有るはずじゃ。いずれの方法でも良い、疾く妾たちを向こう岸に渡すが良いぞ」

 おお、いつもと違う! 

 なんか自信たっぷりで、普段のアニメ風じゃない!

「お、お言葉ではありますが、それは七月七日の夜限定でありまして……」

「ならぬと申すか?」

「ハ、畏れながら……」

「わ、妾は先の東宮妃、六条の御息所なるぞ!」

「そう仰せられても……なあ」

 役人が部下たちに目配せをすると、若い役人がおずおずと手を上げる。

「なんじゃ、良い考えがあるなら申せ、直答を許すぞよ」

「はい、マイナンバーカードをお作りいただき、そのマイナカードでクレジットをお作りになってヘリコプターをチャーターなされば」

「おお、それは良い。疾くマイナカードを作るぞよ!」

 さっそく役人はデジカメで写真を撮って書類に貼って御息所に差し出したよ。

「では、必要事項をお書きくださいませ」

「容易き事よ……サラサラサラ……これでよいであろう」

 一分足らずで書き終え、鼻の穴を膨らませて役人に下げ渡す御息所。

「ハハア、お預かりいたし……あ……あの……」

「なんじゃ、なにか故障があるのか?」

「はい、御芳名をお書き頂きたいのですが」

「名なら書いておろうが」

「はい、六条の御息所とはございますが」

「そうじゃ、それでは不都合があると申すのかや?」

「ここは、戸籍名と申しますか、住民票などに書かれているお名を頂戴いたしたいのですが」

「ま、真名とな……(;'∀')」

 ちょっとまずいよ、御息所は『六条の御息所』とあるだけで、名前なんか無かったはずだよ。

 役人どもは恐れ入りながらも――勝った――って顔をしている。

「そこ、通名でもいけるはずですよぉ」

 旅人の一人が発言する。

 余計なことをという顔をする役人もいるが、年かさの役人が顔を上げる。

「ハイ、通名でもむろん構いませんが、住民票に届けられたものと同一である必要がございます」

 それは無理だよ。御息所に住民票なんて無いし。

「本の目次や登場人物相関図とかではダメなのかや?」

「はい、申しわけございませんが……」

「そ、そうか……」

 御息所は、たちまち1/12サイズになってポケットに戻ってきてしまった。


「転移魔法を使おう!」


 それまで黙っていたネルが手を挙げたよ。

「転移魔法って、最上級魔法だよ!」

「あたしもエルフだ、やってやれないことはないだろう!」

『そうか、なら、それで行こう!』

 御息所が元のアニメ声で賛成する。

「全知全能なるエルフの神よ。わが名はコーネリア・ナサニエル、わが身は芽ぐむまじき言の葉の種。 御身に比すれば鴻毛より芥子粒よりも軽ろき身なれば、我とその友、小泉やくもと六条の御息所を天の川の彼岸に渡らせ賜えぇぇぇ!」

 ネルが念を籠めると目の前がゆっくりと白くなっていったよ。



☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法) フローレンス(保健室)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの  ブラウニー(家事妖精) プロセス(プロセスティック=義手・義足の妖) 額田王
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)091・わたしの車いす生活

2024-07-16 06:58:05 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
091・わたしの車いす生活 





 地震になったらエレベーター停まるんですよ。


 揃って入ったエレベーターの中で、気楽に千歳が言う。

「ということは、閉じ込められるわけ!?」

「そうですよ」

 お尻のあたりがゾクゾクしてきた。高いビルのテッペンから下を覗いたような、あの感じ。
 ……………………。

「先輩、ボタン押さなきゃ動きません」

「あ、そか(^_^;)」

 後から乗ったもんだから、ドアの真ん前。狭いエレベーターなので車いすが二台入ると身動きが取れへん。

「二階やから押せるけど、上の階やったら手ぇ届かへんよ(^_^;)」

「左側に車いす用のボタンがありますよ(*^-^*)」

「あ、ほんまや!」

 車いすなんて初めてなんで、いろいろな発見がある。


 捻挫(両足)をこじらせて車いすに乗ってんのよ。


 松葉杖でも大丈夫なんやけど「知らないうちに負荷をかけるから」というドクターの二番目の勧め。第一の勧めは「治るまでは学校休みなさい」やねんけど、休んでなんかおられへん。

 世界が変わるよね、車いすに乗ってると。

 視線の高さが子ども並になるので、ちょっとワクワクする。さっきの車いす用のボタンとかね。

 教室の椅子は取っ払ってもらった。いちいち車いすから普通の椅子に座るのは冗談かと言うほど煩わしい。

 教室への出入りも考えて、廊下側の一番後ろになった。

 でも、車いすがドデンと来ると、後ろのドアの半分が被ってしまうので、すぐ前の関さんが座席ごと引っ越していった。

 なんか申し訳ない(^_^;)。

 身障者用のトイレは無駄に広いと思ってたけど、そうでもないことをことを実感。

 自販機が使いにくくなった。

 だって、一番下のボタンしか手ぇ届かへんし。好きなデカビタは上の段にしか並んでないし。

「はい、先輩」

 二階の新部室に着くと飲み物が欲しくなって、どうしようかと思っていると千歳が「任せてください!」と買いに行ってくれた。

 この際だから、なんでもいいやと思ってたら、千歳はきっちりデカビタを買ってきてくれた。

 自分用に買ってきたのも上の段にしかないペットボトルのお茶や。

「え、どうやって!?」

「伊達に三年も車いすに乗ってませんよ」

「千歳は魔法使いか……?」

「へっへー(^▽^)/」

 千歳とは、もう半年の付き合いやけど、こんなに嬉しそうな千歳は初めて。

 やっぱ、ハンディキャップを一時的とはいえ共有していることは大きいんやと思うし、千歳の一面しか見えていなかったとも感じる。

「部室棟がよう見えるわねぇ……」

 工事が中断したままの部室棟。わたしが演劇部に入ったのは、そもそも部室棟の解体修理を見たいからやった。

 解体中に新しい構造が見つかったり、建築基準法と保存とどう折り合いを付けて行くか。それに合わせて予算上の問題が出てきたりで、中断したままになっている。

 気持ちを切り替えて千歳に振る。

「二人も車いすになって、文化祭に演劇って出来るのかなあ?」

「車いすという点では大丈夫ですよ……ほら」

 スマホを出して動画を見せてくれる。

「お、根性ね!」

「でしょ、ノープロブレムです!」

 スマホには、骨折のため車いすになりながらも元気に舞台に出てる黒柳徹子さんが映ってた。

 新部室はとってもええねんけど、集まるのが遅くなった。

 前の部室は、生活指導のタコ部屋も兼ねていたので、須磨先輩の住み家でもあった。

 須磨先輩の魅力なのか、あの狭い部室になにかあるのか、面白いところやった。

 標準より十分遅れてみんなが揃った。

 気が付くと午前中残っていた雨が上がって、少しだけ晴れ間が見えてきた。 



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
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銀河太平記・233『丹東虎山長城のアイス』

2024-07-15 11:42:56 | 小説4
・233

『丹東虎山長城のアイス』孫大人 




 愛車筋斗雲をC仕様で南に向かってるアル。


 C仕様は四人乗りで、東鈴を乗せてちょうど。後部座席とトランクには多少の荷物。田舎のオッサンが似合わぬ愛人を連れての小旅行。適度に胡散臭くて目立たない。

 とりあえずは北京を目指しながら空気を読む。

 自慢じゃないがサバを読むのと空気を読むのは得意技アル。

 孫の家は、そうやって世の中を渡って来て、この孫悟兵の代に至っているアル。

「あれぇ、ちょっと東に寄ってない?」

 ナビに合わせてハンドルを握っていた東鈴が口を尖らせる。

 散歩に連れて行った犬が勝手に方向を変えたみたいな反応で可笑しい。

「筋斗雲の判断アル」

「筋斗雲はただの車でしょ、なんだか犬に引っ張られてるみたいで気分悪いんですけどぉ」

「この先は……丹東……ああ、虎山長城アルなあ」

「北京に行くんじゃないのぉ?」

「空気を読むアル」

「空気ねえ……」

 ちょっと不足そうだが、ナビもAIも無視することなく丹東に着いたアル。


「あら、立派な長城ねえ」

「いちおう万里の長城の東端ということになってるアル」

「え、わたしのデータベースじゃ万里の長城の東端は山海関だけど?」

「200年前に変えたんだ。目の前にあるのは、その時に作ったレプリカアル」

「そっか、ねえ、アイス売ってるよ。長城の上で食べようよ」

「いや、ちょっと街の様子を見てくる。食べたかったら東鈴一人で食べていてくれ」

「ええ、なにそれぇ」

「儂が戻るまで待ってるアルか?」

「それは別に食べる。お小遣いちょうだい」

「あ、すまん。チャージしてなかったアルな」

 ハンベを直結して、少し迷ってからチャージしてやる。

「え、こんなに?」

「ああ、この先どこで要るか分からんアルからな」

「……円とドルもあるわよ」

「ああ、状況によっては国を出るかもしれないアル」

「あ、いいわね(^▽^)!」

「それじゃあ、二時間ほどで戻って来るアル」

「うん、ごゆっくりねぇ」

 キッチンカーのアイス屋に走っていく東鈴を見届け、筋斗雲のトランクから折り畳みのパルスバイクを出す。さすがC仕様の筋斗雲でも、裏通りまでは入れないアルからな。

 市内の30カ所以上に志願兵募集のポスターが貼ってあり、西と東のリクルートセンターにはチラホラと若者の姿。

「志願するのかい?」

「え、ああ……どうしようかと思って」

 声をかけた青年は迷っている様子。

 しばらく見ていて8人の若者が足を止めたが、中に入っていったのは一人だけだった。

 そのあと、繁華街や公園、駅やらバス停などを周ってみたが、おおむね戦争なんて関係ないという空気が強い。

 他にも物流や景気の具合を見て周るが、漢族が半分に満たない街は漢明のことなどよそ事だという空気だったアル。

 長城に戻ると日が傾いてきたので、アイスはやめ、宿をとって少し早い晩飯にしたアルよ。

 

☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー       
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟

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REオフステージ(惣堀高校演劇部)090・この酔っぱらい!

2024-07-15 07:02:54 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
090・この酔っぱらい! 





 プハ~~そりゃあ二人ずついるからよっ(´Д`//) !


 ビールの泡を飛ばしながらお姉ちゃん。


 部室が二階の広い部屋に替わったことを報告すると、缶ビールかっくらいながら結論付けた。

「交換留学生が二人も入ったんじゃ、おろそかにもできないっしょ。松井さんも攻めどころ知ってるねえ」

 なるほど、ミッキーもミリー先輩も学校に二人しか居ない交換留学生だ。

「それに、二人ともアメリカでしょ。日本はアメリカに頭上がんないからね」

「そうなの?」

「そーよ、自民党がダントツなのはアメリカが付いてるからよ。知ってる? 自民党って大所帯のバラバラだけど親米って点だけでは一枚岩、だからぁ……あ、枝豆切れた」

 お姉ちゃんは真っ赤な顔して酒の肴を探しにいく。

「短パンのお尻掻きながら冷蔵庫覗くの止めてくれる」

「だって、痒いの……」

 普段のお姉ちゃんは品行方正なんだけど、アルコールが入ると人格が変わる……にしても、今夜はひどい。

 ま、この春まで異郷の大阪で一人暮らし。決まった男も居ないようだし、ハメを外せるお友だちも居ない。

「あーー冷蔵庫の中身ぶちまけるんじゃないわよ……」

「だって、肴がなきゃ飲み過ぎちゃうっしょ」

「わたしのお八つあげっから」

「どこ? お姉ちゃんとってく~」

「あ、わたしが取ってくる」

 酔っぱらいに部屋をかき回されちゃたまんないので、自分で行く。

「はい、ポップコーン」

「すまんねー、ポップコーンてば映画館といえばアメリカだよね……」

「なんでもアメリカなんだね」

「そだよ、戦前の映画館てオセンにキャラメルってのがスタンダードだったんだど……ね、なんで、アメリカの映画館てポップコーンなのか分かる?」

「知らなわよ。あー、こぼさないでくれる、車いすで掃除って大変なのよ」

「アメリカ人って、興奮すると投げるんだよね、国ごと興奮すると戦争になっちゃうしぃ……投げるとスクリーン破れるっしょ! 人に当たったらケンカになるしぃ、んでもってポップコーンだと大丈夫! モノも壊れないし怪我もしないし! でも、日本人てそういうことしないじゃん。それなのにポップコーンてのは、もう骨の髄からアメリカに毒されてるってわけよ……でも、美味いから、なんでもいいのよさ」

「ハイハイ」

「ハイは一回だけ! ね、さっき二人ずつって言ったよね」

「え、あ、そうだっけ?」

 酔っぱらいの言うことはいちいち覚えてなんかいられない。

「言った! アメリカ人の交換留学生が二人! だぁかぁら~日本はアメリカに弱いのよ!」

 酔ってるわりに記憶はいい。

「もう一個の二人!」

 え……急には思いつかない。

「車いすが二人よ!」

 あーーミリー先輩もにわか車いすだ。

「日本はね、障がい者には弱いのよ! 気にかけてます! 対策はしっかりやってます! で、大慌てで対面だけは整えて、でもって、ほんとのところは肝心のところは、な~んにもしてくれないのよね! お姉ちゃん知ってるよ、千歳が学校辞めたがってたの」

 え?

「……でも、お姉ちゃん、知らん顔してたよねぇ……千歳は大人しくしてるけど、芯のところは頑固だからねぇ、下手に意見したり同情したり……そんなの逆効果だもんねぇ……ごめんねぇ千歳ぇ! でも、お姉ちゃんは分かってるからねぇーー!」

「わーー酔っぱらって抱き付くな! ちょ、顔舐めないでよ!」

「いいじゃんいいじゃん、たった二人の姉妹なんだからーーーー!」

「ちょ、ほんとにお姉ちゃん! 留美ネエーーー!!」

「困ったことがあったら、なんでもお姉ちゃんに言うんだよーー! お姉ちゃん、千歳の為ならなんでもやっちゃうからねーーー!」

「こ、困ったことって、いまのお姉ちゃんだよ! む、胸揉むなーーー!」

「それはダメ、それ以外、言ってみそ、言うまで止めないかんね!」

 うーーーこの酔っぱらい! そうそう困ったことって……あった!


 今度の文化祭で、演劇部は演劇をしなくちゃならなくなったんだ(-_-;)!


☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)

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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・111『テスト休みの今日は水泳の補講』

2024-07-14 10:59:42 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
111『テスト休みの今日は水泳の補講』   




 テストが開けたと思ったら体育の補講が待っていた。

 
「え、グッチ補講なのぉ!?」

 ウォータークーラーで水飲んでたら、後ろを通り過ぎた佳奈子が声を上げる。

 佳奈子は、もうとっくに部活の真っ最中でユニホーム姿も凛々しくグラウンドに向かう途中。グラウンドでは女バレの一年生たちが部長の佳奈子を不動の姿勢で待っている。

「アハハ、風邪とかで二回抜けちゃったからねえ(^_^;)」

「イトハチ(伊藤先生)厳しいからね、ま、がんばれ」

「うん」

 ヘタレ笑顔で応えると、佳奈子はもう部長の顔になってグランドに駆けていく。

「こらあ、突っ立てないで足踏み! いきなり走ったら膝壊すぞぉ!」

 部長姿も板に付いてきた佳奈子を見送り、プールに向かう。

 とたんに汗が噴き出る。たった今、水を飲んだばかりなんだけど、それがもう汗。

 プールは本館を抜け、中庭を横目に殺して北館を突き抜けた先。

 
 ミーンミンミンミーン  ミーンミンミンミーン


 北館抜けたとたんに蝉の大合唱。

 もうすでに聞こえていたのかもしれないけど、たぶん意識の外だった。

 去年、初めて蝉の声に気付いたのは授業中。開け放した窓のすぐ外の木でいきなり蝉が鳴き始めて、座ったまま跳びあがってしまった。うるさくて授業どころじゃなかったんだけど、みんなは平気だった(039『蝉と葦船』)。

 慣れちゃったんだね。

 蝉の声にも噴き出る汗にも。

「準備運動やったら、手足から水に慣らして25メートル往復。往きは平泳ぎ、返りはクロール」

 ハ~~イ

「声が小さい!」

 ハイィ!

 みんなやけくそで返事してプールに入る。

 ピ!

 先生のホイッスルで平泳ぎ。

 補講に出てくるのは水泳苦手の女子が多い。わたしも好きじゃない。

 ちょっとだけ魔法を使った。

――この時間だけうまく泳げるように――

 魔法にも慣れて来たんで、難なく往復50メートルを泳ぎ終える。

「足の使い方がぜんぜんダメだ。〇〇、前に出ろ」

「は、はい……」

 4組の〇〇さんが呼び出され、プールサイドで腹ばいになって足の使い方のレッスンをさせられる。

「いいか、脚は股にひきつけた後、蹴るようにして伸ばすんだ」

 そう言うと伊藤先生は後ろから〇〇さんの足を持って見本をさせる。

 ヒエ~~

 〇〇さんは顔を真っ赤にして、フォームを覚えるどころじゃない感じ。

 みんなはいちおう真剣な顔で見てるけど、きっと恥ずかしい。

 わたしは自信があるよ。

 もし、魔法を使っていなかったら、この見本をやらされたのはわたしに違いない。

 補講が終わって髪を拭きながら外に出ると〇〇さんと目が合って、思わず「ごめん」と呟いてしまう。

 むろん〇〇さんは――え?――って顔になって、わたし一人アタフタしてしまったよ。

 帰りにグラウンドの横を通ったら、佳奈子がフリーレンが弟子のフェルンを鍛えるみたいに的確に指導している。

 ちょっと眩しい。

 校門を出ると、また蝉の合唱が蘇ってきたよ。

 

☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹        
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
 
 
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)089・新部室にお引越し

2024-07-14 07:44:01 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
089・新部室にお引越し 





 今さらだけど車いすはかさ張る。


 自分も車いすなのに――これは邪魔だ――と感じるのは申し訳ないんだけど、実際そうなのよ!

「ご、ごめん(^△^;)!」

 これで三回目。

 ミリー先輩の車いすのデッパリが、またわたしのスカートを引っかける。

 その都度十センチほど裾が持ち上がり、斜め前の啓介先輩にわたしの太ももが露わになってしまう。

「い、いや、見えてへんから(#>▭<#)……あ、あ、また……」

 啓介先輩は上を向いて、ティッシュを詰めた鼻を押える。

「これで見えてないって、説得力ないわよ、ほれ、わたしがやったげるから」

「いて! 先輩、やさしく!」

 須磨先輩が狭くなった部室をものともせずに啓介先輩の鼻血ティッシュを取り換える。

 ミリー先輩と新入部員が並んで小さくなる。

「じっとしてないと換えられないでしょ!」

「い、いや、せ、先輩の胸が……」

「も、もー! 啓介はエロゲのやり過ぎ(''◇'')!」

「「「「ハ、ハハハハ……」」」」

「も、もうやってらんないわ! ちょっと掛け合ってくる!」

 須磨先輩は机を乗り越えて部室を出ると二階に駆け上がっていった。

 二階には生徒会室と職員室がある。業を煮やして掛け合いに行ったんだ。


 今日から交換留学生のミッキーが演劇部に加わった。


 なんでも、休日の昨日、ホームステイ先の瀬戸内美晴先輩の家にまで行って決めてきたらしい。

 近所の公園で話をまとめたらしいけど、ミリー先輩は両足をくじくという不運に見舞われて車いすになってしまった。

 でもって、タコ部屋を兼ねている狭い部室は、かさ高い交換留学生とミリー先輩の車いすが加わって身動きもできない。

 暫定的に小さい方の机を廊下に出したんだけど、あんまし効果なし。

 交換留学生のミッキーは、なんとか身をよじって邪魔にならないようにしてくれるんだけど、車いす自体に人格が無いもんだから、ミリー先輩が動くたびに、わたしのとぶつかって、二回に一回は、こうして悲劇になる。


「みんなー、引っ越しするよ(^▽^)/!」


 五分ほどすると、意気揚々と須磨先輩が戻って来て引っ越しを宣言した。

「引っ越しって、どこへですか?」

「二階の角部屋、さ、あんたたちも手伝って!」

 廊下の方へ声を掛けると、生徒会執行部の人たちと副顧問の朝倉先生までがドヤドヤとやってきた。


 演劇部という看板を出しているけど、演劇なんてちっともやらない。


 放課後にウダウダしてる場所が欲しいだけが、我ら惣堀高校演劇部なのよ。

 ほんとは五人の部員が居ないと部活とは認めてもらえないんだけど、我らが須磨先輩ががんばって四人でも部活として認めてもらえるようになった。

 だけど、演劇をやってないという事実があるので「もっと広い部屋に替えて!」とはなかなか言い出せなかったし、生徒会も、わたしたちに広い部室をあてがう気持ちは全然無かった。

 それが、須磨先輩が掛け合ったとはいえ、ものの五分で引っ越しが決まったのは、ミッキーが入部したから。

 そして。

「「「「うわーーー(〇▽〇)!」」」」

 ミッキーのことだけでは説明がつかないほどに、今度の部室は豪華だったのよ!

 そして、いろんな意味ですごかった!
 

☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)


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やくもあやかし物語2・058『シュール天の川』

2024-07-13 16:08:55 | カントリーロード
くもやかし物語 2
058『シュール天の川』 




 天の川の川岸では二群れの人だかりがにらみ合っていた。


 川を渡ろうとする旅人や村人たち、それと、それを拒む役人の人たち。

「ああ、なんかヤバイ感じ……」

「そう見えるだろ」

 頭の上でネルが反対を言う。

「え、ちがうの?」

「ああ、額田王が言っていた。本気で川を渡りたい者は数えるほどしかいないって」

「え、そうなの!?」

「ああ、額田の姐さんに言われなきゃ、あたしでも気が付かないとこだけど。あらかじめ知っていたら、そうなんだって気がする」

「そうなの?」

「旅人たちのリュックやポーチ、大きさの割には重そうに見えないだろ」

「え……ああ」

「フフ、わたしは聞いていないけども、わかったわよ」

「え、御息所も?」

「地元の者には困惑が無いし、旅人たちの目には覚悟の光が無い」

「旅をするのに覚悟がいるの?」

「要るわよ、娘が斎宮になって伊勢に付いて行くとき、どれだけの覚悟が要ったことか」

 わたしは、ギュっと胸に抱えた花かごを抱きしめたよ。

 額田王は――花かごを見せれば渡れるから――と言っていたんだけど、この河原の雰囲気には、ちょっと腰が引けてしまうよ。

 河を渡す渡さないで揉めているんだったら、ま、それはそれで怖いけど、水戸黄門の印籠みたいに花かごを見せてサッサと渡る。

 みんなが渡れないでイジイジ焦れてるとこをサッサと渡っちゃうのは気が引けるけど、こっちにも奪われたキーストーンを取り返すと言う崇高で恥じることのない理由があるんだからね。渡ってしまえば、きっと平気になれる。

 それどころか、川の向こうにお役所があるなら「他の渡りたい人たちも通してあげるべきですよ!」くらいは苦情を言ってあげる。

「出先機関の我々に言われても困る!」とか言い訳言ったら「じゃあ、帰りにもう一度ここに寄って上の方に掛け合ってあげる!」くらいは言う。

 でもね、村人や旅人には――どうしても渡りたい!――って気迫を感じないし、お役人たちにも――どうしても渡さない!――って職業的な義務感を感じない。

 両方とも――あ、昔からこうやってるからやってますから――みたいな感じ。あるいは、この川岸では『渡りたい旅人たちと村人たちVS渡さない役人たち』っていうシーンを撮っている最中。ここにいるみんながエキストラだから、本当に渡っちゃう人間が出てきたら何もかもぶち壊しで、どこかでこのシーンを撮っている監督が「カットおおおお!」なんて怒るような気がしてる。

「グズグズしてたら、そのうち、やくもにも子供や孫ができて――なんで川を渡ろうとしてるんだ――って、ううん――なんで不思議がってるんだって佇むことになるかもしれないわよ」

 御息所がシュールなことを言う。

 ペシペシ

「さっさと渡ろう!」

 ネルがホッペを叩いて宣言する。

「すみません、この花を向こう岸の織姫さんに届けに行きますから渡してください」

「え、なんだって……?」

 役人の代表が間抜けな驚き方をする。旅人や村人もザワザワしだすし。

「額田王のお許しも得ておるぞ」

「これが、そのお花だ」

 御息所とネルが押してくれて、役人は後ずさった。

「分かってもらえたかしら?」

「いや、確かに分かった。渡ってもらってもいいが、どうやって渡るつもりだ?」

 え(゚д゚)?

 天の川に橋も渡し舟も無いことに初めて気づいた……。

 
☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法) フローレンス(保健室)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの  ブラウニー(家事妖精) プロセス(プロセスティック=義手・義足の妖) 額田王
 
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)088・ジャングルジムのてっぺん

2024-07-13 06:54:42 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
088・ジャングルジムのてっぺん 




 ペダルが軽い。


 パンクの修理だけやなくて、あちこち油をさしてくれたようや。

 やっぱり、基本的にミッキーはええやつなんや。

 あ、以下の会話はミッキー相手なんで英語で喋ってる、念のため。

「どうもありがとう、すごく快調になった!」

「いや、ついでだよ、ついで。ヨイショ」

 そう言うとミッキーはジャングルジムに上っていく。

 つけあがらせることなく寄り添いながら話そうと思ってたら、さっさと公園で一番高いところに上っていく。しゃあないから、あたしも着いて上っていく。

 女の子にもよるけど、ジャングルジムのテッペンなんてところで男の子と並んだら少しドキドキする。

 二階ほどの高さもないんやけど、お尻の下がスケルトンやさかいにムズムズドキドキ。

 この状況で恋を語られたら、自分の胸の高鳴りを誤解してしまいそう。

 もっとも、ミッキーはそんな『吊り橋効果』的なことを企んで上ったわけではないやろ。

 単にこういう場所が好きなだけなんやろ。サンフランシスコで美晴に迫ったんも金門橋を見下ろす丘の上やったて、美晴言うてたし。

 自転車の修理といいジャングルジムといい、ハックルベリーのようなところがあるみたい。

 ハックルベリーには直球がええ。

「ミッキー、美晴のこと誤解してんのよ」

「なにを(◎▭◎)!?」

 直球過ぎて目を剥いてきよる。

「I can cook pretty って言ったのよね」

「そうだよ。グループで自己紹介しあってるときに、美晴のことをみんながprettyだとかcuteだとか騒いでる時に、彼女言ったんだ」

「though I can only cook……pretty でしょ」

「うん『お料理が上手いだけ……けっこうね』だよ。日本人て変な謙遜ばっかりするけど、あの言い回しは上手いと思ったよ、控えめに自分の長所をアピールしてるしね」

「美晴はハンパに英語出来るから、とっさに言い間違えたのよ」

「言い間違い?」

「ほんとは、こう言いたかったのよ。though I can only cook……little. ユーアンダスタン?」

「……though I can only cook……little?」

「そ、prettyって単語が出たんで、うまいこと返そうと思って、とっさに間違えたのよね。でも、みんなが感心してくれるし、旅先だし『ま、いっか』にしちゃったわけ。まさか、あんたが日本に来て自分の家にホームステイするなんて思いもしないもんね」

「……そっか」

「だから、あの料理は、あたしのレクチャーと演劇部のアシストでやったってわけなのよ」

 ここまで言うと、ミッキーは黙り込んだ。

 やっぱ直球はまずかった……フォローしようと思ったら、いきなりジャングルジムを飛び降りた。

 スタ!

 体操選手みたいに着地すると、クルッと振り返った。

「かわいいじゃないか! なんだかアニメの萌えキャラだ! ちょっとツンデレだけど! ツンデレ好きだ!」

 いや、ツンはあるけど、デレは無いから……。

 こいつを野放しにしたらアカン! そう思って、わたしも飛び降りた!

 スタ!

「ミッキー、あんた演劇部に入んなさい!」

「演劇部?」

「そう、そして……」

「ミリー、ちょっと目が怖いよ……」

「い、いま、足を……く、くじいたの(>_<;)……家まで送ってちょーーー」


 ちょーー痛いいいいいいいいいいいいっ!!
 
 
☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)


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銀河太平記・232『老婆婆の忠告、そして東鈴と南へ』

2024-07-12 11:20:06 | 小説4
・232

『老婆婆の忠告、そして東鈴と南へ』孫大人 




 作業の邪魔をしてはいけないので、そうそうに車に戻るアル。


 張村長が恵比須顔で見送ってくれる。

 車に乗って走り出しても笑顔……米粒みたいに小さくなっても笑顔アル。

「なにか隠してるアルなぁ」

「バンの中に別の看板隠してたよ」

「え、そうなのか?」

「うん、悟兵のことは、もう少し前から気づいていて隠してたみたい」

「なんの看板アルか?」

「漢明の志願兵募集の看板、こんなの……」

 車のフロントガラスに看板の内容が映し出される。

「アイヤー、見ても居ないのに分かるアルかぁ」

「村長は見てるからね、ちょっと頭を覗いて見た」

「なるほどぉ……」

 東鈴の能力にも驚いたアルが、看板の内容にも驚いたアル。

―― 志願兵募集 一年任期 一時金5000両 月給700両   二年任期 一時金8000両 月給750両   三年任期 一時金10000両 月給800両   希望者に漢明国籍付与、ほかにも各種特典   任務内容:主に後方輸送任務 ――

「漢明軍のホームページにアクセスしたら、今日付けで同じのが出てる。うち以外にも、旧漢明構成国、外国にもネットで流し始めてるし」

「ほう……」

 昔の軍隊とは違うアル。

 うちの老婆婆(小鈴)のように100%天然ボディーでなければ、いくらでもハードやソフトを入れ替えて、昔なら半年はかかった新兵訓練は三日で済ませられるアル。

「まあ、たいていは周辺諸国への脅しでしょうけどね。マンチュリアは不景気だからけっこう応募者いるでしょーね」

「ああ、おそらくは……東鈴」

「なにぃ?」

「株式市況と政府投資、運輸状況、発電状況、軍の移動、周辺諸国の反応データ出して欲しいアル」

「もう、運転中なんですけどねえ」

 プータレながらもデータを出してくれる。

 心配したような状況ではないが、ちょっときな臭いと頭の奥で言う者があるアル。



「老婆婆、しばらく旅に出るアル」


 
 家に戻るって宣言すると、こめかみに膏薬を貼った顔を向けてくる老婆婆。

「もう、少しは落ち着いてくださいましよ。仕事の指図は外に出ていても出来るんでしょうけど、東鈴みたいなこともあります。気が付いてからでは遅いんでございますよ」

「ああ、分かってるアル」

「それに、もう小爺(シャオイェ)も若くないんですから跡継ぎのこともお考えにならないと」

「まだ、やっと六十アル」

「やれやれ、お供は……」

「儂、一人でいいアル」

「そうはいきません、そうだ鈴麗をお連れないさいまし」

「なんで鈴麗?」

「あの子なら、いい赤ちゃんを産みますよ」

「ムグ……(-_-;)」

「大丈夫、鈴麗は機械化率は10%未満ですから問題ありません」

「鈴麗はそういう対象ないアル」

「そうでございますかぁ、この老婆婆、五十も若ければねえ……なんでしたらお試しに(ㆆωㆆ) 」

「か、勘弁して欲しいアル(;'∀')」

「冗談でございますよ、とにかく鈴麗をおつれなさいませ」

「いや、それほど言うなら東鈴にしとくよ!」

「年寄りの言うことはお聞きなさいまし!」

「ああ、もう時間ないから、行くアルヨ!」

 
 なんとか振り切って駐車場に向かい、歩きながらハンベで東鈴に指示を飛ばす。


「ちょっと遅かったアルな」

「老婆婆に掴まってたのよ」

「小鈴なにか言ってたアルか?」

「真面目な顔してこう言ってた『東鈴、あんた世界最高水準のロボットだろ、〇〇能力はないのかい?』って」

「なに考えてんだろうねえ、あの老婆婆は……」

「真剣なのよ、あんたの代で孫家をつぶしたくないって」

「親父の代からいるからなあ……」

「じゃあ、出すよ」

「おお」

 飛行モードにした車は高度をとって南を目指したアル。

 

☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー       
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟

 

  
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)087・美晴のブレイクファースト

2024-07-12 07:02:59 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
087・美晴のブレイクファースト 





 美晴の家で朝ごはんを頂くことになった。


 電話をすると「これから朝ごはん、ミリーもおいでよ!」と誘ってきよったたから。

 どっちかていうと――よかった、ぜひ来てちょうだい!――という響きがあった。

 これは『まずは胃袋から、男を虜にするレシピ百選』でこさえた料理の数々が居候の誤解をいっそう進めてしまったんやなあと思う。

 せやからミッキーと二人きりの朝食は気ぃが重い、わたしの電話は渡りに船やったんや。

「いやー、ごめんごめん、近所まで走ってきたらパンクしてしもてさー(^▽^)/」

「あ、パンクなら任せてよ。幸いミハルんちにリペアキットがあるから直してあげるよ。自転車屋で直したら5ドルするって言うじゃないか」

「最寄りの自転車屋さん駅の向こうだしね」

「朝ごはんは先に食べててよ、待ってたら冷めてしまうからね」

 そう言うとリペアキットを持って外に出るミッキー。

 基本的には気のいいやつなんや、ミッキーは。


「なるほど、ベーコンエッグはイッチョマエや!」


 食卓に着くと直ぐにブレイクファースト二人前が出てきた。電話した時には、もう取り掛かってたみたい。

 お皿は湯せんしたあるし、載ってるベーコンエッグはちょうど頃合い。アメリカ人向けに黄身までしっかり火ぃ通してあるけど硬すぎるということは無いし、ベーコンはあらかじめ切ってあってフォーク一つで食べられるようになってる。わたしの分は、わたしが着いてから作るつもりやったんで、食べてるのはミッキーの分。ミッキーのは改めて作ってる。

「おお、これは( ゚Д゚)」

 一口食べるとフワっとしてる。水の量と蒸らしている時間がちょうどええ……だけとちゃう、ベーコンと玉子の間にチーズが挟んである。これがフワフワの種なんやろね。

 トーストは、食卓に着く直前にトースターに入れ、コーンスープを少し頂いたころに焼き上がる。

 バターはあらかじめ湯せんして溶かしバターになっていて、トーストに塗る時のストレスが無い。

 サラダも『レタスとクルトンのバルサミコ酢合え』になってて、シンプルでさっぱりしたしつらえ。

「わたし、朝食しかできないから……」

 ガラにもなく恥ずかしそうにしてる美春やけど、これは立派なもんや。料理慣れした人間が――いつものブレイクファーストを作りました!――という感じや。この調子でランチやディナーを作ったら結構ナイスなのを作るやろうと思わしめるものがある。

「もう正直に言っちゃえば?」

「これしか出来ないわよって?」

「うん、ずっとホームステイさせるんやったら、その方がええと思うわよ」

「二つの理由でダメ」

「二つ?」

「ここへきて料理ベタと思われるのはシャクよ。それに、料理ベタっていうのは……案外……逆効果にならないかなって……」

「逆効果?」

 どうも分かりにくい女や。

「えと……わたしって、いろいろできちゃうから。玉に瑕の料理ベタっていうのはギャップ萌えで……ラノベとかであるでしょ」

「ああ、なーる……(^_^;)」

 ラノベとかアニメは、いまや世界的なスタンダードになりつつあり、美晴の心配はうなずける。

「で、美晴がお料理名人やと思われてしもた原因ていうのはどんなん?」

「それはだね……」

 それは、美晴の見栄とちょっとした単語の間違いが原因みたい。

 せやけど、あたしが近所でパンクしたのは運命のように思われて、修理を終えて戻って来た居候にこう言ってやった。

「ちゃんと直ったか確認したいから、朝食食べたら試運転につきあってよ」



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・110『夏の大安吉日』

2024-07-11 11:09:19 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
110『夏の大安吉日』   




 令和の今日は木曜だけど、戻り橋を渡った昭和46年は日曜日で大安吉日。


 七夕は終わったけど、期末テストは来週の火曜日まである。

 ほんとうなら家で勉強しなくちゃならない。月曜には苦手な古文とグラマーの試験だしね。
 でも、大安吉日っていうのは例外なく結婚式のラッシュ。バイト先の須之内写真館の直美さんはメチャクチャ忙しいわけですよ。だから、テストの最中だろうがバイトは休めません!

 あ、グラマーっていうのは女子のボディーをかっこよくする科目じゃなくて、英語の文法の科目なんだよ。

 英語の表現とか歌とかは好き。

 今年の令和で大人気のフリーレンのエンディング曲のシッポのとこ『Im whispering our lullaby for to you come back home……』とこなんかメチャクチャ好きで、ここを聴きたいために、何度も最初からリフレイン。この下りは曲の頭から聞かないと良さが分からない。お祖母ちゃんは「メグリは『葬送のリフレイン』だねえ」なんて冷やかす。

 この歌詞を文法的に解剖して黒板に書かれて「ここ、テストに出すから!」なんてチョークで黒板叩かれたりしたら、二度と英文なんて見たくなくなる。

「あら、いいわね、その曲」

 え?

「なんだか、気まぐれな妖精が思い出を刺激するだけ刺激して空に飛んでいくみたい」

「アハハ、気まぐれに口ずさんでるだけでぇ(''◇'')ゞ」

 ヤバイ、これは50年先の未来の曲だよ。

「うう、それにしても停まると暑いぃ(-_-;)」

 信号待ちで停車すると、エアコンの付いていないホンダZはメチャクチャ暑い。でも、直美さんの追及が止んでラッキー。

 信じられないけど、この時代、タクシーかよほどの高級車でなければエアコンは付いていない。

 車には三角窓っていうのが付いていて、それを斜めに開くとけっこうな風が入って来るんだけど、それは信号待ちで停まったりするとぜんぜん機能しなくなる。

 須之内写真館の営業車であるホンダZには、その三角窓すら付いてないんだけどね。

「そのクーラーボックス開けてみ」

「ハイ……お、三ツ矢サイダー!」

「仕事終わってからと思ったんだけどね、帰りの分はまた仕入れるよ」

「ゴチでーす!」

 ダッシュボードの線抜きでプシュっと蓋を開ける。

 シュポン シュポン

 最初は使いにくかったけど、こういうアナログにも慣れた。

 
 グビグビグビ!


 直美さんと揃ってサイダーの一気飲み……わたしは無理なんで三回くらいに分けて飲む。

 ゲップ!! プハーー!

 派手なゲップをしたら、信号が青になって発進!


「ああ……」「五組だぁ……」


 日ごろは4組しか出されていない『本日の挙式』は枠いっぱいに5組入ってる。

「「よし!」」

 主従で気合いを入れて関係者出入り口から突撃。

 中は、写真屋のわたしたち以上に汗を流して頑張ってる職員さんたち!

 この日の結婚式が5組とも無事に済んだのは須世理姫の御神楽さんのお蔭なんだけどね。

 それはまた今度ね。

 では、明日のグラマーと古文の一夜漬けやりまーす(^_^;)

 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹        
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
 
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)086・えと、一番近い知り合い!

2024-07-11 07:39:48 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
086・えと、一番近い知り合い! 





 パーーン!

 ヒ( >Д<)!

 久々に銃声かと身を縮めたのは自分がアメリカ人やからやろう。
 
 日本人やったら銃声なんてドラマやアニメの中でしか聞いたことが無い。

 せやから銃声というのは、ズキューン! ズバーン! などとエキセントリックな音がするもんやと思ってる。

 本物の銃声は乾いた音がする。そう、たった今のんみたいに。

 撃たれたことは無いけど、銃声はシカゴでも数回耳にした。ギャングの発砲やったりお巡りさんやったりするんやけど、今のみたいに「パーーン!」なんよ。

 で……今のは銃声では無くって、自分の自転車がパンクする音やった(-_-;)!

 カクンカクンと、タイヤのリムが直接アスファルトの路面を噛む衝撃で分かった。


「アチャー(;'∀')」


 こういう時にも日本語が出てくるのは、骨の髄から日本に馴染んだ証拠。

 それも大阪弁。

 せやけど、黙ってりゃブロンドの白人少女、自分で言うのもなんやけど可愛い。

 ちょっと古いアニメやけどサエカノに出てくる澤村・スペンサー・エリリに似てる。

 特に今朝は、中学の時のジャージにTシャツ。これって、エリリの定番やったりする。

 こんな街中、困った顔して佇んでたら高い確率で声を掛けられる。十中八九オトコから。

 思えば気合いが入りすぎてたんや。

 美晴に頼まれて家庭料理のあれこれをレクチャーしに行った。面白そうなんで演劇部の一同も付いて来て、めっちゃ盛り上がった。

 美晴は見かけに反して、ぜんぜん料理はでけへん。出来へんくせに居候のミッキーに「飯ならまかせとけ!」なんて請け負ってしまいよった。お婆ちゃんとお母さんが居ない一週間だけやねんけど、ボロが出えへんようにせんとあかん。

 で、日本に来てから書き溜めたレシピノートを持ってって腕を振るったわけ。

 一週間はともかく四日くらいはいけそうな品揃えになった。

 せやけど、家に帰ってから気ぃ付いたんよ。

 あの品揃えのコンセプトは『まずは胃袋から、男を虜にするレシピ百選』やった。

 美晴がミッキーのハートを射止めようとか思ってるんやったらピッタリやったわよ。

 せやけどね、美晴は基本的にミッキーが疎ましい……とまではいかへんでも、好意を寄せられるのは堪忍なんよね。

 わたしの料理を三日も食べたら、男なら――彼女はオレに気がある!――ぜったい誤解する。

 演劇部の天敵である生徒会副会長の美晴やけど、それとこれとは別!

 そんなこんなを悩んでいたんで、秋晴れの今朝――ヨーシ、今日は自転車でカットブぞ!――てんで、自転車に気合いと空気を……入れ過ぎた。

 ホームステイ先の渡辺さんちに電話したらええねんけど、きっとパパさんが車で迎えに来てくれる。けど、それって申し訳ない。

 人間、一つ失敗すると連想ゲームみたいに過去の失敗の記憶が蘇ってくる。

 で、直近の悪夢である『美晴んちでお料理に励みすぎ』を思い出してしもたわけよ。

 あ、ヤバイ、学生風の二人がこっち見てる。

『日本語わっかりませーん!』を装ってもええねんけど、近頃のスマホには翻訳機能が付いてたりする。

「えと、一番近い知り合い!」

 スマホに呼びかけると一件ヒット。

 なんと、100メートルも行けば、たった今思い出してた美晴の家やおまへんか!

 大学生風がこっちに歩いてきよるんで、迷わずに電話するミリー・オーエンやった!



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
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鳴かぬなら 信長転生記 192『転生の準備が整ったわよ』

2024-07-10 11:45:43 | ノベル2
ら 信長転生記
192『転生の準備が整ったわよ』信長 




 カシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャ カシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャ カシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャ……!?

「はあ……また一杯になったぁ(;'∀')」

 ため息をつくと、ポケットからケースを取り出して二度目のSDカードを交換する孫権。

「ううん、三回目よ」

 ぶっきらぼうに腕組みし、ジト目で孫権の撮影に付き添う市。

「時間ならまだ大丈夫だからな」

 足元の打ち水は乾き始めているが、背後の茶室に人の気配はない。

 利休の配慮と信玄・謙信の阿吽の呼吸だ。

 呉王就任祝いの答礼に、新米国王の仲謀孫権みずからが学院に足を運んできているのだ。

「いやあ、扶桑見物をする絶好の機会ですから(^_^;)」

 単なる外交辞令かと思ったが、学院に着くや否や、一時間足らず、すでに三回もカードを入れ替えている。

「デジカメは取り過ぎちゃっていけませんねえ……いやあ、それにしても扶桑は魅力的すぎます!」

「皇帝になったら、そのデジカメも撮れなくなるんじゃないの?」

「いやなこと言わないでくださいよ、シイ……いや市さん(^_^;)」

「皇帝なんだから、もうちょっと貫録付けなきゃね」

「アハハ、そんなのもは戴冠式の時だけでいいんですよ。それまでは……それからでも、ボクはチュ-ボウです。呉王でもありません……ああ、御山を借景にした茶室もいいですねえ、ちょっと垣根の外からも撮ってきま~す」

 お付きのガードが慌てて配置を変える。お付きの者は大変だろうが、見ている分には面白い。

 大魔神になった曹操は武漢で潰え、茶姫、大橋、孔明は阿修羅といっしょに消えてしまった。

 劉備も孫策も三国志の皇帝になることは拒んだ。

 曹操に並んで三国志の英雄である劉備と孫策、そのどちらが三国志皇帝となっても、万里の長城以南はまとまらないだろう。元来が危うい均衡の上に共存していたんだ。

 だからこその天下三分の計。

 天下三分の計は三傑が揃っていてこそ成り立つ。

 劉備と孫策の共同提案で暫定的に仲謀孫権が皇帝位に就くことになった。

 三国志でも扶桑でも、孫権は陽気なカメラ小僧としてしか認識されていない。孫権が皇帝である限り、三国志で戦争は起こらないだろう。いわば、三国志はモラトリアムの時代に入る。

 三国志の安定はとりもなおさず扶桑の平和。

 応援しないわけにはいかない。

「ねえ、リュドミラさんと武蔵さんの写真は、どれがいいと思いますか!?」

 垣根の外に出ると、SDカードを一枚目に戻して二人の踊り子の写真を見せる孫権。傍には備忘録と検品長が真面目な顔で立っている。

「いやぁ、あの二人にせっつかれてるんですよ。戴冠記念のパンフとイベントに使う写真、ぜんぶボクが選ぶことにしちゃいましたからねぇ(^_^;)」

 リュドミラと武蔵は豊盃パサージュの専属ダンサーになり、周末にパサージュのステージで踊る他に市内各地でモデルをしたりダンスの指導にもあたっている。

 パサージュそのものも書籍範老夫婦が「大橋さんがお戻りになるまで」ということで経営にあたってくれ指南街の陳麗と明花がサポートしてくれている。

「陳麗も明花も将来は指南街の土地を買い戻して学校を作るっていってます(^▽^)」

「あそこは、ショッピングモールができたんじゃないの?」

「そうなんですけどもね『指南街は歴史的な文教地区、商業施設がいつまでも続くわけがない』って強気なんですよ(^▽^)」

 こいつ、二人を後押しする気満々だ(^_^;)。

「いろいろありますけど、最後は武漢決戦ですねえ(^◇^)/」

 あの激闘の写真は、ゴジラの最新作を偲ばせる迫力だ。

 阿修羅の写真がよく撮れている。憤怒の中の寂しさ愛おしさが滲み出て、孫権が阿修羅を単なるモンスターやラスボスとして捉えていないことがよく分かる。

「孫権」

「はい?」

「阿修羅のこと、気づいていたのか?」

 阿修羅の言葉は直接俺と市の心に響いてきたもので、周囲に居た人間には聞こえていないはずだ。

「あ……たんに表情からです。曹操の大魔神が成敗された後だったんで、余計にそう見えたのかも……でも、怪物だけど……この表情は残しておきたいと思ったんです」

「……ありがとう、ありがとう孫権」

 振り向くと市の目が真っ赤だ。

「市さん……」

「あ、茶室の方、聞いてくるね!」

 たまらずに市が駆けた先には利休が立っていて、何やら市に話している。「うんうん」と子どものように頷く市。

「みんなあ、お天気がいいから御山で野点(のだて)にしないかって!」

「おお、それはいいなあ!」

 俺も大きな声で応えてやると、子どもの頃のように泣き笑いでウンウンと大きく頷く。

 パシャパシャ

「いいお顔です」

「そうだろ、この信長の妹だからな」

「いいえ、信長さんもです」

「……で、あるか」

 もう一度振り返ると、信玄と謙信が馬を足掻かせ、二人の軍配と采配がキラリと輝き野点の車列と馬の列が動き始めた。


 御山が近づくと風の中、久々にあっちゃん(熱田大神)の声。


――転生の準備が整ったわよ――

「なに?」

――御山に着いたら天照さんの指示に従って――

「まだ転生はせぬぞ」

――え(OωO; ) !?――

「決めたことだ」

――え、え?……じゃあ(;'∀')!?――

「是非もなし」

――え……あ……ああ、もう、このバカ信長ぁ!――

 声は御山の方に消えていく。

 御山に着くと天照がめちゃくちゃ怖い顔をして現れて、目が合うと思い切り「イーーーダ(`皿´) !」をされてしまうが、ついでに持ってきたシフォンケーキのカップはしっかり持っていかれてしまう。

 見上げた空は子どもの頃、干し柿齧りながら見上げた尾張の空のように澄んでいたぞ。

 
           鳴かぬなら 信長転生記 完

 

 
☆彡 主な登場人物
  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生 配下に上杉四天王(直江兼続・柿崎景家・宇佐美定満・甘粕景持 )
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
  • 天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚  部下に思金神(オモイカネノカミ) 一言主 
  



 

 




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REオフステージ(惣堀高校演劇部)085・まずは胃袋から!?

2024-07-10 06:28:29 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
085・まずは胃袋から!? 





 ミリーに言われて二つだけ確認してある。

 イスラム教徒でないこととベジタリアンでないこと。


 イスラムにもベジタリアンにも偏見は無いけど、わたしは牛豚の肉なしでは三日も居られない。二人の生活で別々のメニューなんてやってらんないしね。

「両方ともOKだよ」

 そう答えると、ニンマリ笑って薄い方のノートを仕舞い、分厚い方のノートをペラペラとめくるミリー。

 垣間見えるノートには写真とともにレシピが英語まじりの日本語で書いてある。

「料理屋さんでも始める気?」

「ハハ、まさか。渡辺さんちのレパはすごいからね、パパさんは魚屋さんだし、お婆ちゃんの実家はお料理屋さんで、ママさんはレストランやってたし、みんな教える気満々。習わなきゃ損でしょ……はい、これだけの食材買っておいて」

 メモを見ただけでは想像できなかったけど、その量はミッキーを荷物持ちにして正解だった。「やっぱり、ミハルといっしょに帰るよ」というミッキーの気持ちもスケベー根性からだけではなかった。


「いやー、壮観ねー!」


 我が家のキッチンテーブルの上に並べられた食材とその他もろもろは多彩だ。

 野菜やお肉から始まり乾麺に各種調味料も色々、カレールーとか豆板醤があるのでカレーとマーボー豆腐は確定なんだろうけど、ケチャップに塩昆布、チョコレートは意味不明。

「さ、それじゃ分業するからテキパキやってね!」

 ミリーが指示すると演劇部の三人は手際よく下準備にかかる。

 一つ一つは「お湯を沸かして」とか「皮をむいて」とか「みじん切りにして」とか「均等に混ぜて」とかの単純作業。

 その組み合わせも絶妙で、一つの作業が終わると別の作業を指示して、無駄な時間待ちが出来ないようにしている。
 合間にはわたしへの解説と「じゃ、やってみて」と実際の調理もやらせてくれる。

「家庭用のコンロは火力ないから、炒め物はフライパンでいいわよ。手間だけどイモは面取りしといて、そこは余熱を利用して、そうそう、揚げ物は一度にやろうとしないで、野菜は最後に……」

 取りかかった時はミッキーが帰ってくるまでに仕上がるか不安だったけど、三十分もするとあらかた終わってしまった。

 コンロの上にはカレーと肉じゃがとロールキャベツが沸々と煮えていて、テーブルにはチキンライスと唐揚げとハンバーグと玉子焼きが湯気を上げている。

「唐揚げ、ちょっと早くなかった?」

 唐揚げの衣がなんだか白っぽい。

「ミッキーが帰ってきたら、もう一度揚げるの。唐揚げは二度揚げするのがセオリーよ、でもって熱々を食べさせられるってメリットもあるしね、なにより甲斐々々しくクッキングしてますって感じがするじゃない」

「えと、それに、ちょっと多くない?」

 ざっと見渡しただけで七品もある。

「ほんまや、俺でもこんなには食わへんで」

 部長の啓介もため息だ。

「これは、最低でも三回分。カレーと肉じゃがとキャベツロールは明日以降ね。チキンライスは冷めてからラッピング、改めて玉子を焼いてオムライスにする。玉子の焼き方も明日以降に教える。ハンバーグは常温にしてから冷凍庫、ソースはそっちの小さな鍋、これは冷蔵庫、乾麺はうどんすきに使うからね」

「あ、デザートは冷蔵庫に、賞味期限は四日はいけますから」

 千歳がいつのまにかデザートの仕込みまでやっている。

「今度は、家に来てやってもらえないかなあ」

 須磨先輩は、次回の実習の予約をする。

「ん、なんだか家庭料理の定番オンパレードって感じね!」

 ミリーの行き届いたメニューに一安心して、なんだか嬉しくなってきた。

「これだけやっとけば、ミッキーも大満足でしょ」

 そう言ってミリーはノートを閉じた。

 え?

 閉じかけの中表紙の文字が目に飛び込んできた。

――まずは胃袋から! 男を虜にするレシピ百選!――


 えと……絶対したくないんですけど! ミッキーを虜になんかさ!



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)

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やくもあやかし物語2・057『額田王の頼み事』

2024-07-09 10:49:57 | カントリーロード
くもやかし物語 2
057『額田王の頼み事』 




「ねえ、あなたたち川の向こう側に行くんでしょ?」


 ただのきれいな人かと思っていたら、間近に見る額田王は少女のようにワクワクして目が輝いて、このままシャンプーとかのCMに使えそう。

「え、あ、はい?」

「だって、この丘を越えたら天の川。天の川を超えなければ次には進めない」

「あ、そうなんですか?」

「うん。わたしもそろそろ大津宮に戻る時間だし、わたしの代わりに届けてきてもらえないかしら」

「乙姫さんにですか?」

「うん」

「あ、でも七夕は二日前に……」

「そうね。でも、年に一度のデートでしょ、三日ぐらいは気持ちが残って川のこちら側を見てため息ついていらっしゃるわ」

「え、そうなんですか!?」

「そうよ、そういうものよ!」

 御息所が顔の上半分だけ出して主張する。

「あら、あなたは六条の……」

「しまった!」

「フフフ、あなたなら分かるでしょ、こじらせた恋は災いのもと……」

「ウウ……(-_-;)」

「それから耳長さん」

「え、わたしか?」

「はい、それだけお耳が長ければいろんなことが聞こえると思うの」

「え、あ、まあな」

「ちょっとお耳を拝借」

 額田王はわたしと変わらない背丈なので、ネルは膝に手を付けて耳を貸す。

「ヒソヒソ……」

「……う、うん、分かった」

「それでは。このクエストを達成すれば道が開けると思いますよ。川沿いには無粋な役人たちがいるかもしれませんが、逆らわなければ邪魔をされることもないと思います(^○^)」

「ありがとうございます」

「あ、それから、耳長さんは少しお耳をお隠しになった方がよろしいかしら」

「あ、うん」

 シュポン

 耳を引っ込めるネル。初めて会った時のイメージになって懐かしい(004『ルームメイトはネル』)

「では、お気をつけて(´∀`)」

 傾げた小首の横で小さく手を振って侍女のところに戻って丘の向こうに消えていく額田王。

「……なんか、素敵な人だな。アドバイスとかもしてくれたし」

「それはね、二人の恋人の将来にたちこめる暗雲もあるからよ。少しでも善根を積んで回避したい気持ちがあるからでしょ」

「え、そうなのか?」

「そうよぉ、壬申の乱の原因の一つは……イテ!」

「もう、不吉なことばっかり言うんじゃないわよ!」

「デコピンすることはないでしょ!」

 預かった花かごを持って花畑の丘を越えたよ……。

 
☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法) フローレンス(保健室)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの  ブラウニー(家事妖精) プロセス(プロセスティック=義手・義足の妖) 額田王
 
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