[四帖 夕顔-1 要旨] (光源氏17歳秋~冬)
かつて前春宮の未亡人・六条御息所(ミヤスンドコロ)の許へよく通っていた。今、重病を患っている乳母の見舞いに、五条の乳母の息子・惟光(コレミツ)の家の近くに来ている。乳母の家の隣家では青々とした夕顔が勢いよくかかっていて、美しい白い花を咲かせている。
従者が一枝折ってくるよう指示され、門に入り花を折った。すると愛らしい童女が出て来て「これへ載せておあげなさいまし、手で提げては不格好な花ですもの」と言って、薫物で燻らした白い扇を渡した。その扇には上品な字で次の歌が書かれてあった:
心あてに それかとぞ見る 白露の
光添えたる 夕顔の花 (夕顔)
意外だった源氏は、風流遊戯をしかけてきた女性に好感を覚え、惟光に隣家の事を問うが、惟光もよくは知らなかった。
本帖の歌と漢詩
ooooooooo
心あてに それかとぞ見る 白露の
光添えたる 夕顔の花
(大意) 当て推量で、あのお方かと推察しています。白露に光をそえている夕顔の花のようで、夕顔の花と同様に美貌なお方。
xxxxxxxxxx
<漢詩>
瓠子 瓠子 [下平声一先韻]
揣摩真彼位, 真に彼(カ)の位(オカタ)と揣摩(スイサツ)す,
名声宛神仙。 名声 宛(サナガ)ら神仙。
茲贈携露瓠, 茲(ココ)に露を携(オ)びし瓠(ユウガオ)を贈る,
麗質共娟娟。 麗質(レイシツ) 共に娟娟(ケンケン)たり。
[註] ○瓠子:ユウガオの花; 〇揣摩:推察する; ○宛:さながら; 〇麗質:美貌; ○娟娟:清らかで美しいさま。
<現代語訳>
夕顔の花
真に彼(カ)のお方と推察致します、その名声が さながら仙人の如くのお方。ここに光り輝く露を置いた夕顔の花を贈ります、この夕顔の花に勝るとも劣ることのない美しいお方へ。
<簡体字およびピンイン>
瓠子 Hùzi
揣摩真彼位, Chuǎimó zhēn bǐ wèi,
名声宛神仙。 míngshēng wǎn shénxiān.
兹赠携露瓠, Zī zèng xié lù hù,
丽质共娟娟。 lìzhì gòng juān juān.
ooooooooo
源氏は、自分を光源氏と見て詠んだ歌を寄越されたのに、何か言わねばならぬ として、懐紙に、別人のような字体で次の歌を書き、随身に持たせてやった。
寄りてこそ それかとも見め 黄昏に ほのぼの見つる 花の夕顔
(光源氏)
(大意) 近寄って、推察どおりのその人か確かめてみたらどうです。黄昏にほのぼのと花の夕顔を見て、その花が誰なのかを。
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