愉しむ漢詩

漢詩をあるテーマ、例えば、”お酒”で切って読んでいく。又は作るのに挑戦する。”愉しむ漢詩”を目指します。

閑話休題 433 『源氏物語』の歌  (四十帖 御法)

2024-10-11 09:28:06 | 漢詩を読む

[四十帖 御法(みのり) 要旨]  (光源氏 51歳)

紫の上は、四年前の重病以来、病身になって、出家を望み源氏に相談するが、源氏自身出家の希望があり、源氏が同意しない。三月には、以前から自身の願果たしのため書かせてあった千部法華経の供養を私邸の二条院で主催します。

夏になると暑気のためか、紫の上の病状は一層悪化して、衰弱がひどかった。病苦の薄らいだ時などに、遊びにきた三の宮(のちの匂宮)を相手に話すことがあり、「私は、陛下よりも中宮よりもお祖母様が好き」というのを聞き、微笑みながら、目からは涙がをこぼすのであった。「大人になったら此処に住んで、庭の紅梅と桜の咲く折々には思い出して、仏に花を手向けてほしい」と、三の宮に語りかける。西の対に宮の部屋を設けて、宮を迎えていた。

秋が来て、涼しくなり、紫の上の病状も軽快するようで、風の強い夕方、紫の上は起きて脇息に寄りかかっている。目に止めた源氏が「宮がおいでになる時だけ、気分が晴れやかになるのですね」と言う。わずかな小康でも喜んでくれる源氏の気持ちが、夫人にとっては心苦しく、自分の命が尽きた時、どれほど悲しまれることか と、思うと物哀れになって詠んだ:

 

おくとみる ほどぞはかなき ともすれば

  風に乱るる 萩の上露       (紫の上)

 

源氏も、また中宮も歌を返し、涙を隠す余裕もない風であった。夫人は、「もうあちらにおいでなさいね、私は気分がわるくなったから」と、几帳を引き寄せて横になった。中宮は手を捉えてみていたが、あの歌の露が消えゆくように終焉の迫って来たことが明らかになった。

源氏は夕霧を几帳の側に呼び寄せ、長く希望していた出家を遂げさせようと指示するが、夕霧は、死後の落飾は却って遺族の悲しみを増すばかりであろうとして、僧に念仏させることを命じた。夫人の法事も、源氏に代わって夕霧がすべて差配した。  

 

本帖の歌と漢詩 

ooooooooo    

おくとみる ほどぞはかなき ともすれば

  風に乱るる萩の上露      (紫の上)

(大意) 起きていると見えるのも、少しの間のこと、ややもすれば     風に吹き乱れる萩に降りた露の あっけなく風に乱れ散ってしまうようなものです。

 

xxxxxxxxxxx   

<漢詩> 

 轉眼歓   轉眼(イッシュン)の歓び   [上平声十四寒韻] 

看見如起座, 起きて座っているように看見(ミエ)るが、 

常常轉眼歓。 常常(シバシバ) 轉眼(ツカノマ)の歓び。 

像露留萩葉, 萩の葉に留(オ)りた露が, 

隨風即散完。 風に隨(シタガッ)て 即に散って完う像(ヨウ)に。 

 [註] ○常常:しばしば、よく; ○轉眼:瞬く間に。

<現代語訳> 

  束の間の喜び 

起き上がり座っているように見えますが、いつもの束の間の喜びです。

萩の葉に降りた露が、風に直ちに飛び散ってしまうようなものです。

<簡体字およびピンイン>  

  转眼欢   Zhuǎnyǎn huān

看见如起坐, Kàn jiàn rú qǐ zuò,  

常常转眼欢。 cháng cháng zhuǎnyǎn huān

像露留萩叶, Xiàng lù liú qiū yè,  

随风即散完。 suí fēng jí sàn wán.  

 

ooooooooo   

 

源氏は、涙をこらえきれずに、答えて詠う:

 

ややもせば 消えを争ふ 露の世に 

  おくれ先だつ 程経ずもがな   (光源氏)  

(大意) どうかすると、 先を争って消える露のように、儚い人の世に        せめて後れたり先立ったりせずに 一緒に消えたいものだ。

 

 

【井中蛙の雑録】

『蒙求』と『蒙求和歌』-8(完)  『蒙求和歌』-④ 

『蒙求和歌』の中の源氏物語とも関連のある一例を、要約して見てみます。

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[蒙求原文]

151 西施捧心(セイシホウシン)(夏の部 夕顔) 

 荘子。西施病、捧心而頻眉。其里醜人、見而美之、捧心而頻眉。

(以下略)……。 [註]〇捧心:両手で胸を抱える。病むさま。

[説話文]

 中国・春秋時代、越の美女 西施が病で、胸に手を当てて、顔をしかめている姿が哀れで美しかった。それを見た醜女が自分も美しく見えるか とまねをして物笑いに逢った。(筆者要約) 

[和歌] 

 夕顔の たそかれ時の ながめにも たぐいにすべき 花ぞのこらぬ

  <解説> 

 夕顔が物思いにふけっているかのような黄昏時の美しさに匹敵する花は残っていないのだ。

  <話と歌題との関連>

 夕顔→美女→西施捧心 ・「夕顔」は源氏物語・夕顔の巻に登場する美しい女性をイメージさせる言葉として、和歌によく詠まれる。そこで絶世の美女に関する本話と結びつけたのであろう。

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  [章剣:『蒙求和歌』校注、2012、(渓水社) に拠る]

 


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