この一句:
漢楚の興亡 両(フタ)つながら丘土(キュウド)
「(興亡を繰り広げた)漢楚の両雄ともに、今は墳墓の土となっている」。風に揺れるヒナゲシの花を鑑賞する作者・曾鞏は、一篇の詩に、荒くれ武人の中の一輪・虞姫を、また大地を駆ける乱世の英雄たちの活躍を描ききっています。
川の流れは今も昔も変わらず、滔滔と流れており、自然の営みは無窮である。数多の群雄の中から、二人、さらに一人へと“勢力”は収斂していったが、結局はともに墳墓の土となった と。
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虞美人草 曾鞏 (3)
………(1~14句 本稿末尾参照)……
15 哀怨徘徊愁不語, 哀怨(アイエン) 徘徊(ハイカイ) 愁(ウレ)へど 語らず,
16 恰如初聴楚歌時。 恰(アタカ)も 初めて楚歌(ソカ)を聴きし時の如し。
17 滔滔逝水流今古, 滔滔(トウトウ)たる逝水(セイスイ) 今古(キンコ)に流れ,
18 漢楚興亡両丘土。 漢楚の興亡 両(フタ)つながら丘土(キュウド)。
19 当年遺事久成空, 当年(トウネン)の遺事(イジ) 久しく 空(クウ)と成り,
20 慷慨樽前為誰舞。 樽前(ソンゼン)に 慷慨(コウガイ)して誰(タ)が為にか舞はん。
註]
哀怨:悲しみ怨む
徘徊:さまよう
滔滔:水がとどまることなく流れるさま
逝水:流れゆく水
今古:今と昔
丘土:墳丘
遺事:後世に残した事柄
慷慨:憤り嘆く、心を昂らせる
<現代語訳>
………
15 悲しみ怨んで、さ迷っているかのようであるが、その憂いを語ることはなく、
16 あたかも初めて(項羽の寵愛を受け)楚歌を聴いた時のようである。
17 川の水は滔滔と、今も昔も流れゆき、
18(興亡を繰り広げた)漢楚の両雄ともに、今は墳墓の土となっている。
19当時の出来事は、長い時間が過ぎるうちに、空しいものとなった、
20(風に揺れるヒナゲシは、)酒樽を前に心を昂らせて、誰のために舞っているのであろうか。
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故郷に立ち寄った劉邦は、体調はよくない状態であったが、好きな宴会は十数日続いたようである。宴(エン)酣(タケナワ)の中で、「……(故郷の)沛は、これから租税や賦役を一切免除しよう……」と、置き土産を残して、故郷を去っていった。
長安に帰った劉邦は、病床に伏していた。曾ての武勇の者どもをすべて除けて、乱の再発の芽は摘んだ。万事安寧に向かうかに見えたが、かねて燻(クスブ)っていた太子擁立の難題が表面化してきた。
正妻呂后の長子・盈(エイ)と、現在寵愛を受けている戚夫人の子・如意(ニョイ)との間の葛藤で、ともにそれぞれを取り巻く勢力を巻き込んだ争いである。劉邦は後者の擁立に傾いていた。
しかし張良の策に助けられて、盈が天子として擁立された。後の第二代恵帝である。如意は趙王に封じられた。劉邦は、BC195年四月没した。黥布の討伐戦で流れ矢を受けた六ケ月ほど後である。
以下参考のため再掲
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虞美人草 曾鞏
1 鴻門玉斗紛如雪, 鴻門(コウモン)の玉斗(ギョクト) 紛(フン)として雪の如し,
2 十万降兵夜流血。 十万の降兵(コウヘイ) 夜 血を流す。
3 咸陽宮殿三月紅, 咸陽(カンヨウ)の宮殿 三月(サンゲツ)紅(クレナイ)に,
4 覇業已隨煙燼滅。 覇業(ハギョウ)已(スデ)に煙燼(エンジン)に随いて滅ぶ。
5 剛強必死仁義王, 剛強(ゴウキョウ)なるは必ず死して 仁義なるは王たり,
6 陰陵失道非天亡。 陰陵(インリョウ)に道を失うは 天の亡(ホロボス)すには非ず。
7 英雄本學萬人敵, 英雄 本 学ぶ 万人が敵と,
8 何用屑屑悲紅粧。 何ぞ用いん 屑屑(セツセツ)として紅粧を悲しむ。
(以上詳細は 閑話休題94参照)
9 三軍散盡旌旗倒, 三軍散じ尽して 旌旗(セイキ)倒れ,
10 玉帳佳人坐中老。 玉帳(ギョクチョウ)の佳人(カジン) 坐中に老ゆ。
11 香魂夜逐劍光飛, 香魂(コウコン) 夜 劍光を逐(オ)って飛び,
12 靑血化爲原上草。 靑血(セイケツ)化して 原上(ゲンジョウ)の草と為(ナ)る。
13 芳心寂莫寄寒枝, 芳心(ホウシン) 寂莫(セキバク)として寒枝(カンシ)に寄り,
14 舊曲聞來似斂眉。 旧曲聞き来りて 眉を斂(オサ)むるに似たり。
(以上詳細は 閑話休題96参照)
<現代語訳>
1 鴻門の会において(范増)は、剣をもって玉斗を打ち砕き、かけらが雪のように散り、
2 降伏した(秦の)兵十万は夜に殺傷され生き埋めにされた。
3 咸陽の宮殿は火を放たれて三か月も火の海となり、
4 (項羽の成した)覇業はすでに煙燼となり消滅してしまった。
5 武力の強さだけに頼る者は必ず滅び、仁と義があって初めて王たり得る、
6 (項羽が垓下を脱出して逃げた際に)陰陵で道に迷ったのは、天が滅ぼすところではない。
7 英雄(項羽)は、本来万人を敵とする戦法を学んできた、
8 何でこせこせと紅化粧した美人のことで悲しむことがあろうか。
9 (項羽の)軍勢は散り散りとなり、軍旗も倒れてしまい、
10 とばりの中の虞美人は居ながらにして老けてしまった。
11 亡くなった彼女の魂は、あの夜、剣の光を追うように飛び去り、
12 流れ出た鮮血は、野原で姿を変えてヒナゲシとなった。
13 (花の揺れる様子は,)けなげな虞美人の魂がひっそりと茎にすがっていて、
14 垓下で古い歌を聴いて眉根を寄せた(虞美人の)あの姿容に見える。
漢楚の興亡 両(フタ)つながら丘土(キュウド)
「(興亡を繰り広げた)漢楚の両雄ともに、今は墳墓の土となっている」。風に揺れるヒナゲシの花を鑑賞する作者・曾鞏は、一篇の詩に、荒くれ武人の中の一輪・虞姫を、また大地を駆ける乱世の英雄たちの活躍を描ききっています。
川の流れは今も昔も変わらず、滔滔と流れており、自然の営みは無窮である。数多の群雄の中から、二人、さらに一人へと“勢力”は収斂していったが、結局はともに墳墓の土となった と。
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虞美人草 曾鞏 (3)
………(1~14句 本稿末尾参照)……
15 哀怨徘徊愁不語, 哀怨(アイエン) 徘徊(ハイカイ) 愁(ウレ)へど 語らず,
16 恰如初聴楚歌時。 恰(アタカ)も 初めて楚歌(ソカ)を聴きし時の如し。
17 滔滔逝水流今古, 滔滔(トウトウ)たる逝水(セイスイ) 今古(キンコ)に流れ,
18 漢楚興亡両丘土。 漢楚の興亡 両(フタ)つながら丘土(キュウド)。
19 当年遺事久成空, 当年(トウネン)の遺事(イジ) 久しく 空(クウ)と成り,
20 慷慨樽前為誰舞。 樽前(ソンゼン)に 慷慨(コウガイ)して誰(タ)が為にか舞はん。
註]
哀怨:悲しみ怨む
徘徊:さまよう
滔滔:水がとどまることなく流れるさま
逝水:流れゆく水
今古:今と昔
丘土:墳丘
遺事:後世に残した事柄
慷慨:憤り嘆く、心を昂らせる
<現代語訳>
………
15 悲しみ怨んで、さ迷っているかのようであるが、その憂いを語ることはなく、
16 あたかも初めて(項羽の寵愛を受け)楚歌を聴いた時のようである。
17 川の水は滔滔と、今も昔も流れゆき、
18(興亡を繰り広げた)漢楚の両雄ともに、今は墳墓の土となっている。
19当時の出来事は、長い時間が過ぎるうちに、空しいものとなった、
20(風に揺れるヒナゲシは、)酒樽を前に心を昂らせて、誰のために舞っているのであろうか。
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故郷に立ち寄った劉邦は、体調はよくない状態であったが、好きな宴会は十数日続いたようである。宴(エン)酣(タケナワ)の中で、「……(故郷の)沛は、これから租税や賦役を一切免除しよう……」と、置き土産を残して、故郷を去っていった。
長安に帰った劉邦は、病床に伏していた。曾ての武勇の者どもをすべて除けて、乱の再発の芽は摘んだ。万事安寧に向かうかに見えたが、かねて燻(クスブ)っていた太子擁立の難題が表面化してきた。
正妻呂后の長子・盈(エイ)と、現在寵愛を受けている戚夫人の子・如意(ニョイ)との間の葛藤で、ともにそれぞれを取り巻く勢力を巻き込んだ争いである。劉邦は後者の擁立に傾いていた。
しかし張良の策に助けられて、盈が天子として擁立された。後の第二代恵帝である。如意は趙王に封じられた。劉邦は、BC195年四月没した。黥布の討伐戦で流れ矢を受けた六ケ月ほど後である。
以下参考のため再掲
xxxxxxxxxxxx
虞美人草 曾鞏
1 鴻門玉斗紛如雪, 鴻門(コウモン)の玉斗(ギョクト) 紛(フン)として雪の如し,
2 十万降兵夜流血。 十万の降兵(コウヘイ) 夜 血を流す。
3 咸陽宮殿三月紅, 咸陽(カンヨウ)の宮殿 三月(サンゲツ)紅(クレナイ)に,
4 覇業已隨煙燼滅。 覇業(ハギョウ)已(スデ)に煙燼(エンジン)に随いて滅ぶ。
5 剛強必死仁義王, 剛強(ゴウキョウ)なるは必ず死して 仁義なるは王たり,
6 陰陵失道非天亡。 陰陵(インリョウ)に道を失うは 天の亡(ホロボス)すには非ず。
7 英雄本學萬人敵, 英雄 本 学ぶ 万人が敵と,
8 何用屑屑悲紅粧。 何ぞ用いん 屑屑(セツセツ)として紅粧を悲しむ。
(以上詳細は 閑話休題94参照)
9 三軍散盡旌旗倒, 三軍散じ尽して 旌旗(セイキ)倒れ,
10 玉帳佳人坐中老。 玉帳(ギョクチョウ)の佳人(カジン) 坐中に老ゆ。
11 香魂夜逐劍光飛, 香魂(コウコン) 夜 劍光を逐(オ)って飛び,
12 靑血化爲原上草。 靑血(セイケツ)化して 原上(ゲンジョウ)の草と為(ナ)る。
13 芳心寂莫寄寒枝, 芳心(ホウシン) 寂莫(セキバク)として寒枝(カンシ)に寄り,
14 舊曲聞來似斂眉。 旧曲聞き来りて 眉を斂(オサ)むるに似たり。
(以上詳細は 閑話休題96参照)
<現代語訳>
1 鴻門の会において(范増)は、剣をもって玉斗を打ち砕き、かけらが雪のように散り、
2 降伏した(秦の)兵十万は夜に殺傷され生き埋めにされた。
3 咸陽の宮殿は火を放たれて三か月も火の海となり、
4 (項羽の成した)覇業はすでに煙燼となり消滅してしまった。
5 武力の強さだけに頼る者は必ず滅び、仁と義があって初めて王たり得る、
6 (項羽が垓下を脱出して逃げた際に)陰陵で道に迷ったのは、天が滅ぼすところではない。
7 英雄(項羽)は、本来万人を敵とする戦法を学んできた、
8 何でこせこせと紅化粧した美人のことで悲しむことがあろうか。
9 (項羽の)軍勢は散り散りとなり、軍旗も倒れてしまい、
10 とばりの中の虞美人は居ながらにして老けてしまった。
11 亡くなった彼女の魂は、あの夜、剣の光を追うように飛び去り、
12 流れ出た鮮血は、野原で姿を変えてヒナゲシとなった。
13 (花の揺れる様子は,)けなげな虞美人の魂がひっそりと茎にすがっていて、
14 垓下で古い歌を聴いて眉根を寄せた(虞美人の)あの姿容に見える。
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