以前、荒井千暁氏の本は「こんな上司が部下を追いつめる」を読みました。
そちらは、産業医の立場で、最近の企業で増加しつつあるメンタル疾患の現状と対応策を明らかにした著作でした。
今回の本で、荒井氏は、「『成果主義』がメンタルヘルス疾患の原因のひとつである」という自身の仮説を、いろいろな職場の実態をおさえつつ検証していきます。
事例は、勤務医であるだけにリアリティがあります。
荒井氏は、「個人ベースの成果主義」に大きな疑念を抱いています。
ただ、成果ベースの評価を全否定しているわけではありません。
(p166より引用) チーム単位での職場環境がしっかりしていれば、仮に裁量労働制が敷かれたとしても能力はたぶん発揮されます。・・・
上司や同僚たちによるチームワークは最大の「基軸」です。成果主義をリンクさせたいのであれば、成功した場合の評価や報酬は参画した全員に対してほぼ均等にするのが本筋でしょうし、相応でしょう。そうなると恐らく、能動的意思に基づく行為の積み重ねが生じてくるはずです。チームの総和として大きな花がいくつ開いてもおかしくないでしょう。
荒井氏によると、「成果主義」の導入は、日本企業の職場実態や日本人のメンタリティ等を踏まえた場合、実際の運用に耐えられない、むしろ大きな弊害を生じさせていると考えています。
(p167より引用) ありていにいえば自分だけ、あるいは自職場だけの目標なり役割に終始するという自己完結型・自己満足型の陥穽に陥っている-それが成果主義の実像ではないでしょうか。
そのほか、メンタルヘルス疾患の実態に関して気になったのが「ハインリッヒの法則」についての記述です。
(p115より引用) 1件の重大災害(死亡や重症)が発生した場合、その背景には29件の軽症事故とともに、300件のヒヤリ・ハットがある。
もしメンタルヘルス疾患で休職している方を「重大災害」に位置づけると、私のいる職場では、ほぼ全員に「軽症事故」が発生していることになってしまいます。
「成果主義」や「能力主義」が強烈に導入されているわけでもないので、本当に悩ましく思っています。ともかく、なんとかしなくてはなりません。
(p91より引用) 無事復帰を果たして安定状態に移行した人は、婉曲であっても、やがて自らのことを語ってくれるようになります。部下たちがいずれ上司として役職を与えられたとき、記憶の奥深くに刻みこまれた復帰者の経験談は、何ものにも代えがたい財産になっていることでしょう。
しかし、こういう先人は絶対に増やしてはならないのです。
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職場はなぜ壊れるのか―産業医が見た人間関係の病理 価格:¥ 735(税込) 発売日:2007-02 |