コンセプトワークで大事な点は、「対象の『意味づけ』」です。
適切な「意味づけ」は思考の連鎖を呼び起こします。逆に「意味づけ」が不明確だと、同床異夢、思考の狭窄化や迷走をもたらします。
本書で成功例としてあげられたSONYの「フェリカ」は、正に「的確な意味づけ」により「本質的な価値」が明確化された好例でしょう。
(p223より引用) このとき注目すべきは、フェリカのメモリ内にある共通領域が参加者次第であらゆる用途に活用できる意味合いを突き詰め、「フェリカは究極的にはリアル、サイバーを問わず、デジタル社会での決済の手段であり、権利行使の手段である」という普遍的な価値を導き出したことである。・・・つまり、自分たちの商品の本質的な価値をつかんだことで、あらゆるステークホルダーとアライアンスを組んだ水平展開の可能性を見いだしたのである。
現在のネット社会は、「対等者の自由な連携」が基本です。
そういった環境下においては、最終完成品として世に出すよりも、適用可能性のある「素材」をパートナーに提供しその活用を広く促す方が、ネット社会の潜在能力や潜在マーケットをより大きく活かすことができるようです。
(p224より引用) 今の時代、アセンブリした商品そのもので正面突破するより、キーコンポーネントで勝負する世界へ移行している。・・・
強烈な思いを持って取り組むことは大事だが、・・・バランス感覚を持った人間が黒子的に当事者たちをリンクさせ、知を総動員してイノベーションを実現する。こうしたバランス感覚型のイノベーター人材がミドル層にどれだけ多く自律分散的に存在しているか。それが、間接戦略の時代を勝ち抜く企業の条件といえるだろう。
ここでのポイントは、「Hubとして動く当事者」です。新種の「黒子のイノベーター」です。
この「黒子」に必要な資質は、絶妙な「バランス感覚」だと言います。
(p270より引用) 主観と客観、暗黙知と形式知、直観と分析、一方に偏ることなく、常に往還している。イノベーターに求められるのはこのバランス感覚にほかならない。
もうひとつ、黒子のイノベーター(=リーダー)が振付けるメンバ間の「コンセプトの共有」も極めて重要です。
このために、リーダーはいろいろな工夫をします。
サントリー「伊右衛門」の開発にあたっては、メンバ全員で「茶どころ京都」を旅行し、狙ったお茶のイメージを固めました。また、マツダ「ロードスター」の開発にあたっては、メンバ全員で車を連ね「ツーリング」にくり出し、走りの楽しさの共体験を積みました。
最後、話をSONYに戻します。
かつてのSONYは、その卓抜したオリジナリティを武器に「SONYならではのプロダクト」を市場に提供し続けていました。
本書で取り上げられたフェリカは、それら(過去の)SONYらしさとは全く趣を異にした「新たな創造的プロダクト?」です。
(p219より引用) 井深大は「創造」という言葉を最も好んだが、ソニーといえども、 「独創」だけではなかなか成功に結びつかず、「共創」を進めながら、黒子的リーダーシップによりそれぞれの知をつなげていく時代に入った、ということか。先進企業の隠れたヒットは、21世紀型事業戦略のあり方を示して目を離せない。
イノベーションの作法―リーダーに学ぶ革新の人間学 価格:¥ 1,995(税込) 発売日:2007-01 |