評判どおりの良書、改めて「人として大切なこと」を深く深く考えさせられる内容です。
舞台は19世紀のアメリカ南部。主人公は、あるときから自分が奴隷であることに気付かされ、その悲惨な境遇に陥った少女です。
奴隷制は、人間が人間によって売買される制度でもありました。
本書の最終章は、主人公リンダ・ブレント(=著者)が「自由」になるところを描いているのですが、それは、こういう形でした。
(p285より引用) 次の郵便で、ブルース夫人から、次のような短い便りを受け取った。
「うれしいお知らせです。あなたの自由を保証するお金が、ダッジ氏に支払われました。明日うちに戻っていらっしゃい。・・・」
・・・傍にいた紳士がこう言うのが聞こえた。「これは本当のことですよ。私は売買契約書を見ましたから」
「売買契約書!」-この言葉は、思い切りわたしを打ちのめした。とうとうわたしは売られたのだ!人間が、自由なニューヨークで売られたのだ!・・・この紙切れが意図する価値は十分にわかっていたが、自由を愛する人間として、これを目にする気にはなれない。
奴隷が自由になるためには、自分で自分を買うか、心ある所有者にその所有権を放棄してもらうしかなかったのです。リンダの場合は、心優しいブルース夫人が、リンダを「買い取り」、そして自由にしたのでした。
本書は、主人公自身が記した“実話”だと言います。
ここでは詳細には紹介しませんが、リンダとその家族の境遇は筆舌に尽くし難いものでした。しかし、まだ彼女たちは、艱難辛苦の末、最終的には自由を手に入れることができました。リンダと同じような境遇の多くの人々は、同じ人間に所有され続けることでその一生を終えたのでした。
過去の一時代、一体全体どういう理屈で何であんなことが罷り通っていたのか・・・、人間の狂気が普遍的に実在していた時代が確実にあったのです。
本書を読んで最も私の印象に残ったくだりは、リンダの弟のウィリアムの言葉でした。
(p42より引用) 「鞭で打たれる痛みには耐えられる。でも人間を鞭で叩くという考えには耐えられない」
彼もやはり奴隷の身分です。この言葉が10歳にも満たないような子供から発せられたものだという事実が、余りにも衝撃的です。
そして、鞭で打つ人間と打たれる人間と、どちらが真の人間であるかもまた明らかです。
ある奴隷少女に起こった出来事 価格:¥ 1,836(税込) 発売日:2013-03-29 |
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