読書案内 「すずかけ通り三丁目」(1)
あんまんきみこ作 戦争と平和のものがたり 第2巻収録 ポプラ社 2015.3 第一刷
戦後70年。
戦時に生きて辛い体験をした人たちが、高齢になり、或いは鬼籍に入り、
「生の声」を聴く機会がだんだん少なくなり、戦争が風化しようとしている。
本書は七つのものがたりが収録されている児童文学集。
今回は、表題作を選んだ。
とても辛く悲しいことに遭遇した時、人は言葉を失う。
嗚咽か、号泣か。言葉にはならない悲嘆の悲しみは、頬を伝う涙となって止まることを知らない。
認めたくない現実があり、しかし、起きてしまったことは元に戻すことが出来ない。
当事者にとって時は止まったままだが、時間は容赦なく流れていき、肉体は歳を重ねていく。
戦争の悲劇は、戦場だけではない。
同時代に生きた人々すべてに襲い掛かる不幸である。
たとえ戦争が終わっても、不幸な出来事は当事者を苦しめる。
昭和20年の春には日本の制空権は完全に米軍に奪われ、無差別爆撃は逃げ惑う国民の上に容赦なく降り注ぎました。
焼夷弾M69は、日本の木と紙でできた木造家屋を燃やすために研究開発された爆弾でしたから、
小型軽量(直径8㎝、全長50㎝、重量2.4㎏)で、先端を下にして垂直に落下するように造られ、
B29から無数に落とされ、屋根を突き破り、道路や逃げ惑う人々の群れを直撃し、辺りを火の海にしました。
東京大空襲(昭和20年5月10日)では10万人の死者と100万人の罹災者を出したと言われています。
「すずかけ通り三丁目」
昭和20年の春(終戦の日まで半年足らず)、
B29の巨大爆撃機が日本の領土を頻繁に訪れ、
空襲の範囲はこの物語の舞台にもなっている地方都市も例外ではありませんでした。
(2015.5.19記) (つづく)