読書案内「希望の地図」3.11から始まる物語
重松 清著 幻冬舎 2012.3.11第一刷
初出は日刊ゲンダイ2011.9.13~2012.2.10まで連載。単行本は丁度1年後の3.11に発行されている。
東日本大震災の半年後ライターの田村章は、
不登校になってしまった友人の中学生・光司を連れて被災地を巡る旅に出る。
『宮古、陸前高田、釜石、大船戸、仙台、石巻、気仙沼、南三陸、いわき、南相馬、飯館……。
震災半年後の破壊された風景を目にし、絶望せずに前を向く人』との出会いが淡々と記述されていく。
悲しみや、不幸や、絶望のタネを拾う旅ではなく、希望のタネを丹念に拾って歩く。
それぞれの被災地で、明るく逞しく生きようとする人たちに会うための旅だ。
足跡を振り返れば、確かに「希望の地図」を作る少年との被災地めぐりなのだ。
津波にさらわれすべてを失う。
土地も家も最愛の肉親さえ奪われ、なす術もなく立ち尽くす。
文字通り「茫然自失」。
行方不明となった最愛の人を探して、瓦礫の山をさまよい、海岸の淵にたたずむ。
だが人間は強い。
「絶望」の淵に立たされても、生きている限りやがて「希望」が生まれ、人間は立ち直っていく。
中学生の少年には重いテーマだが、「生きる」とはどういうことか、
被災地を巡りながら、ライターの田村は優しく問いかけ、少年は徐々に心を開いていく。
田村が少年に語りかける言葉には、
説教臭さなど微塵もないし、少年の見たまま感じたままの無垢の言葉を引き出していく。
「希望」の先には未来がある。だから人間は強くなれる。
「希望」がなければ未来もないし、死んだように生きていく「孤独」こそ「絶望」であり、大きな不幸だ。
ヘミングウエイの「老人と海」のサンチャゴ老人のように、
どんな苦境に立たされようと、「生きる」希望を捨てなければ、闘う気力は生まれてくる。
(2015.5.10記) (つづく)
(写真は最近幻冬舎から発行された文庫本)