栄光と屈辱の箱根駅伝 ②復路 逆転の駒大 涙の創価大
3日午前8時、熱い一夜が明け復路のレースが始まった。
往路のタイム差に従って芦ノ湖駐車場入り口をスタート。
復路の5区間・109.9㌔を東京・大手町の読売新聞社前のゴールを目指す。
トップ争いは最大の関心の的だが、
シード権争いも熾烈なレース争いの中で繰り広げられる見どころである。
往路フィニッシュタイムからレースの争点を見てみよう。
➉拓大5時間35分1秒
これを追う⑪早大なんとしてもシード権を獲得したい、5時間35分12秒
拓大との差11秒。
早大のあとを追いかけるのは⑫青学大、5時間35分43分で早大との差31秒
⑬城西大、5時間35分44秒で青学大との差1秒。
波乱含みのシード権争いである。
一斉スタートはトップとの差が10分以上あるチームで、18位山梨学院大、
19位中大、20位専大、関東学生連合である。
新型コロナウイルス感染拡大防止のため、
沿道での観戦自粛を呼びかけられた箱根駅伝復路のスタートの旗が振られた。
追う駒大 逃げる創価大。
このまま創価大が逃げ切ることができれば、
初出場からたった6年で初優勝を勝ち取ることができる。
緊張と重圧、孤独なアスリートはただひたすらゴールを目指し
トップを維持しようと10区最終ランナー創価大・小野寺勇樹は懸命に走る。
追う駒大10区最終ランナーは石川拓慎だ。
9区終了時点でトップの創価大と駒大の差は3分19秒。
戦後、最終10区でこの差を逆転した例はない。
観戦者の多くが創価大の復路優勝を予想し、駒大の逆転は絶望的に見えた。
創価大の榎木監督は次のようにレースを振り返る。
「(10区の)10㌔ぐらいまでは、先着できると思っていた」
だが、駒大・大八木監督は希望を捨てなかった。
絶望的なトップとの差を走る石川に檄を飛ばした。
「いいぞ、おまえ! 本当にいいぞ! いいか、ここだ、ここからだ!」
15㌔過ぎぐらいだったろうか、創価大・最終ランナー小野寺のフォームが崩れた。
正確に一歩一歩大地をけっていたリズムが乱れた。
ピッチが数センチいや数ミリずれている。
わずかなピッチの乱れが小野寺の不調を物語っている。
それはそのまま心の乱れへと連鎖し、アスリート小野寺の体力を消耗していく。
肩がわずかに揺れ、口角が下がり、視点が左右に揺れる。
数メートル先を見つめる揺れる視点は、やがて本人の意思と無関係に少しずつ上向きになっていく。
駒大・大八木監督は勝機を逃さなかった。
運営管理車に乗った大八木監督の檄はその激しさを弛めず、活を入れ続けた。
レース後石川はこの時の気持ちをこう語っている。
「力になるのはもちろん、スイッチをオンにしてくれた」
石川は更にピッチを上げる。
20.9㌔付近、この日初めてトップを走る小野寺の背中を捉えることができた。
肩が揺らぎ、背中が波打っている。
「行ける!」
石川の柔らかくスナップのきく足首が躍動し、鍛えたふくらはぎの筋肉を駆けあがり、
太腿を伝い、骨盤へと熱いエネルギーに変換されて行く。
石川は一気に拓大・小野寺を抜き去った。
2008年を最後に総合優勝から遠ざかっていた駒大は残り2.1㌔で逆転し、
13年ぶり7度目の総合優勝を勝ち取った。記録は10時間56分4秒。
2年連続でアンカーを務めた石川拓慎(3年)に、
積み重ねた過酷な練習の日々がなつかしくよみがえってきた。
(日刊スポーツから転載)
総合成績 復路成績
① 駒 大 10時間56分4秒 ① 青学大 5時間25分33秒
② 創価大 〃 56分56秒 ② 駒 大 〃 35秒
③ 東洋大 11時間0分56秒 ③ 中央大 〃 28分39秒
④ 青学大 〃 1分16秒 ④ 早 大 〃 47秒
⑤ 創価大 〃 48秒
大会余話
10区の最大逆転とゴール直前逆転優勝はいずれも1920年の第一回大会。
東京高等師範学校(現筑波大)の茂木善作は明大の西岡吉平から11分30秒差で
鶴見中継所をスタートした。「箱根駅伝70年史」によると、茂木が猛追し
残り約1㌔の新橋で西岡に追いついた。ゴール手前約700㍍で茂木が抜け出し、
ゴール。箱根駅伝はいきなり劇的な逆転劇で、その歴史が始まった。
(スポーツ報知 2021.1.4記事から転載)
(おわり)
(2021.1.9記) (昨日の風 今日の風№115)