死 顔
最後のお別れ ①
棺の中の死者は、多かれ少なかれ病み衰えていて、 |
「死」をもって、その人の一生が終わるわけではない。
死後の世界を信じているわけではないが、
人は死んでもその人のゆかりの人々の心の内で生きている。
余談ではあるが、心臓が止まっても、聴覚は最後まで機能しているらしい。
「死」を迎えた瞬間から、一個の物体となるわけではない。
心臓が止まると、全ての臓器がその機能を停止していく。
血流も止まる。
臨終を宣告されてもしばらく体は温かい。
この時、聴覚だけは生きているらしい。
すすり泣く声、死者に向かって語りかける声。
死者を取りまく声を、死者は横たえた体で、聞いている。
理解はするが、答えることはできない。
答えることはできないけれど、「こころ」は生きている。
語りかける。
思いをこめて頬を撫でる。
物言わぬ人のなみだがほほをつたってひとすじ流れる。
寝たきりで、延命措置で行かされている人でも、聴覚だけは生きているから、
感謝の言葉の代わりに、涙を一筋流す。
たった一つの意思伝達の方法だ。
死後、どのくらいの時間聴覚が機能しているのかは解らない。
徐々に声が遠ざかり、闇が深くなり、音が閉ざされる。
魂の離脱するときだ。
徐々に体が冷えてくる。
彼岸への旅立ちの時が訪れる。
…………………
(つづく)
(2018.12.18記) (つれづれに……心もよう№84)
(メモ№1351)
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