(その5からのつづきです。でも未読の方はよかったらその1から読んでください。)
目覚めると私はぺたんと地面に座り込んでいて、男が私の顔を覗き込んでいた。
心臓が止まるかと思うほど驚いた私は、ウワアアアアアァと悲鳴を上げて、そして気づいた。
どこも痛くない。身体中のどこも怪我などしていないし、血も流れてなんかいない。もちろん右手も折れてなどなかった。
え・・・?あれ?どうして?
私の疑問を察したのか、男は私を見てニコッと笑うとこう言った。
「こう見えても幽霊ですから」
男はその一言で全てが説明できると考えているようだった。実際私もそれ以上何かを問う気にはなれなかった。それで説明がつく話だとも思えないのだけれど、結局のところ受け入れる他ないのだろう。
「あなたにも」
男は一旦そこで言葉を切り、穏やかに私の顔を見つめた。そこには先ほど感じられたような狂気はもううかがえない。
「暴漢に襲われた時に助けて欲しいと思っている誰かが、ちゃんといるんですね」
男の言葉に頬がかぁっと熱くなるのを感じて、私は思わず顔を伏せた。
「不思議でならないのは」
男がそこで再び間を置いた。私はそっと顔を上げる。
「暴漢に襲われたときに助けて欲しいと思ってる人に、どうして飛び降りる前には助けを求めないんでしょう?」
私は首を振った。
「違います・・・。スガノさんとは別に親しくも何ともないんです。ただの知り合いでしかありません」
男は不思議そうな顔をして、私の方をじっと見ていたが、やがて口を開いた。
「でもあなたは、もしそのスガノさんって方があなたに救いを求めてきたとしたら、全力で何かをしてあげるんじゃないですか?違いますか?」
どうなのだろう。そんな仮定は無意味だと思ったが、けれど私は小さく頷いた。
「それは・・・、そうだと思います」
男は私の答えに満足したように微笑んだ。
「だったらスガノさんもあなたが救いを求めてきたら、それに応じなければおかしいですよ。フェアじゃない」
フェアじゃない、という男の言葉は無茶苦茶だと思った。
男が無茶苦茶なことを言うのは、今日これでいったい何度目のことだろう?
私とスガノさんとの間柄はせいぜいお互い名前を知っているという程度で、親しく話したことはなかった。まして何かを相談することなんて考えられない。
だから男の言ってることは間違いなく無茶苦茶だった。
まともに相手にする類いのものではない。
それなのに・・・、それなのになぜこうも心に沁みてくるのだろう。
私の目から知らず涙がポロポロとこぼれてきた。
それは私が久しぶりに流した涙だった。
つづく。
目覚めると私はぺたんと地面に座り込んでいて、男が私の顔を覗き込んでいた。
心臓が止まるかと思うほど驚いた私は、ウワアアアアアァと悲鳴を上げて、そして気づいた。
どこも痛くない。身体中のどこも怪我などしていないし、血も流れてなんかいない。もちろん右手も折れてなどなかった。
え・・・?あれ?どうして?
私の疑問を察したのか、男は私を見てニコッと笑うとこう言った。
「こう見えても幽霊ですから」
男はその一言で全てが説明できると考えているようだった。実際私もそれ以上何かを問う気にはなれなかった。それで説明がつく話だとも思えないのだけれど、結局のところ受け入れる他ないのだろう。
「あなたにも」
男は一旦そこで言葉を切り、穏やかに私の顔を見つめた。そこには先ほど感じられたような狂気はもううかがえない。
「暴漢に襲われた時に助けて欲しいと思っている誰かが、ちゃんといるんですね」
男の言葉に頬がかぁっと熱くなるのを感じて、私は思わず顔を伏せた。
「不思議でならないのは」
男がそこで再び間を置いた。私はそっと顔を上げる。
「暴漢に襲われたときに助けて欲しいと思ってる人に、どうして飛び降りる前には助けを求めないんでしょう?」
私は首を振った。
「違います・・・。スガノさんとは別に親しくも何ともないんです。ただの知り合いでしかありません」
男は不思議そうな顔をして、私の方をじっと見ていたが、やがて口を開いた。
「でもあなたは、もしそのスガノさんって方があなたに救いを求めてきたとしたら、全力で何かをしてあげるんじゃないですか?違いますか?」
どうなのだろう。そんな仮定は無意味だと思ったが、けれど私は小さく頷いた。
「それは・・・、そうだと思います」
男は私の答えに満足したように微笑んだ。
「だったらスガノさんもあなたが救いを求めてきたら、それに応じなければおかしいですよ。フェアじゃない」
フェアじゃない、という男の言葉は無茶苦茶だと思った。
男が無茶苦茶なことを言うのは、今日これでいったい何度目のことだろう?
私とスガノさんとの間柄はせいぜいお互い名前を知っているという程度で、親しく話したことはなかった。まして何かを相談することなんて考えられない。
だから男の言ってることは間違いなく無茶苦茶だった。
まともに相手にする類いのものではない。
それなのに・・・、それなのになぜこうも心に沁みてくるのだろう。
私の目から知らず涙がポロポロとこぼれてきた。
それは私が久しぶりに流した涙だった。
つづく。