ざっくばらん(パニックびとのつぶやき)

詩・将棋・病気・芸能・スポーツ・社会・短編小説などいろいろ気まぐれに。2009年「僕とパニック障害の20年戦争出版」

華奢な背中

2021-02-06 22:10:02 | 
秋の深まった午後の公園
木枯らしは愛しい人の髪を揺らしていた
別れる覚悟は決めていた
病気のことを包み隠さず話そう
病名すら分からないけれど

実際には僕は彼女に「体調が悪い」と繰り返すだけで詳しくは話さず
それどころか、さほど苦しくはないという雰囲気さえ漂わせようとした
ただし、「別れよう」とだけはきっぱり言った
ありのままに話す勇気などなかった
そして彼女を傷つけることを選んだ
彼女の華奢な背中を呆然と見送り
僕はしばらくその場に立ち尽くしていた
涙を流せばいいというものでもない

少しして、街を彷徨い始めた
当てもなく歩いていると、やがて街は暗く沈んだ
またひとつ、僕は終わった
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答えは4月の空に

2021-02-06 17:52:47 | 
何十年も生きているというのに
未だに僕は人生の目的が掴めない
何十年も生きているというのに
未だに僕は明日が不安になる
何十年も生きているというのに
未だに僕はどのように振舞えばいいのか迷っている
 
未だに僕は?
どういうことだ
これでは、よちよち歩きの遠い日と変わらないではないか
体だけが大きくなって
プライドだけが高くなって

いまさら恥ずかしくて聞けない、数々の疑問の答えは、4月の空にあるという
僕は慌てて、空を見上げる
残念ながら霞んでいて、目を凝らしても答えは見つからない
それでも春の空の眩しさは、新しい輝きは
地上に行き交う希望に似ていた

不安と期待が入り混じる季節は、たどたどしく流れていく
まるで小さな子供の足取りのように
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渾身

2021-02-06 14:22:33 | 
肩が痛い
肘も痛い
背中も痛いし、ひざも痛い
あちこち痛い
体が全体に、いや体だけでなく心も痛い

思い切り腕を振れば、体が壊れるかもしれない
いや、僕自身が壊れるかもしれない
壊れたら、チームのお荷物

若くもないから、球団も待ってくれない
引退してもコーチになれそうもない
解説者も無理だろう
社会のお荷物
困ったことに、その素質だけはあるようなのだ
白球の代わりに、人生でも投げるか

塁上にランナーがいるにもかかわらず
僕は大きく振りかぶった
すべての憤りと祈りを、渾身の力でキャッチャーミットへ伝えるのだ
自分史上最高のボールを投げるために
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寛容

2021-02-06 11:57:16 | 
今まで、どれだけの人間に裏切られてきただろう
甘い言葉を口にする人もいた
薄皮のような優しさを振りまく人もいた
それらはすべて、憎悪を膨張させるために存在する

僕は裏切った人間に何もしなかった
殺しもしなかった
それどころか、幸福になる権利さえ与えた
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心が暮れていく

2021-02-06 10:19:49 | 
人波に押し出されるようにして、夕暮れの街をさまよう
この掌に何も収めることのできない悲しさ
現実を忘れたくて僕は少し目を伏せた

遠い日々が浮かんでくる
何にも考えないことが許されていた時代なのに
あどけない頭脳は、疲れ知らずにくるくると回り転げていた
輝ける未来を想像せずにはいられなかった

少年は年を取り、考えることを拒絶した
そして、ただただ流されていく
その果てには、色なしの未来が待っていた

生きていることの意味
何なんだろうね
胸の奥底の白骨化した希望を、引っ張り出して抱きしめたい
すっかり暮れた街は僕の心の色によく似ていた
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