ざっくばらん(パニックびとのつぶやき)

詩・将棋・病気・芸能・スポーツ・社会・短編小説などいろいろ気まぐれに。2009年「僕とパニック障害の20年戦争出版」

ナイフ

2021-02-20 18:34:29 | 
僕が慣れないナイフを使ったからか
アイツとは事切れてしまった

こいつは面白い
この切れ味で社会との関係も断ち切ってしまおうか?
無駄なものが多すぎて難解に絡まった糸たちを救済してやろうか?

僕は一瞬、空を見上げ
精一杯高い場所から、ナイフを地面に突き刺した
鈍い音と共に舞い上がる血しぶき
白いスニーカーが真っ赤に染まった

僕はなんだか寒気がして
その場でスニーカーを脱ぎ捨て
裸足のまま全力で走り去った
ナイフは力強く握り締めたままで
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鳴かないフミキリ

2021-02-20 17:41:29 | 

遠く取り残された夜更け
鳴かないフミキリが涙していた
フミキリが鳴けなくなったらおしまいさ

「もう少しで大事故だったじゃねぇか」
被害者になりかかった人々に詰め寄られ
弁解の余地がないフミキリ
これまでどれだけ鳴いてきたかなんて
誰も思い出しちゃくれない

昔はこんなんじゃなかった
微かなレールの響きも感じ取り
大きな声で鳴きまくっていたっけ

やがてフミキリは老いた
列車が近づいても鳴かなかったり
近づいてもいないのに鳴いてしまったり
昔からフミキリを知る老列車は
その場に差し掛かると
止まるような足取りで
そして心配そうに振り返るのだ

しかし、その日はやってきた
接近を感じ取れなかった
若い列車は怒り狂った声を上げ
フミキリの上に立ち止まった
怪我人がいなかったことに安堵しながらも、うつむくフミキリ

遠く取り残された夜更け
フミキリは静かに目を伏せた
脳裏に浮かぶのは若き日の老列車
フミキリからかすれた声が微かに漏れた

春の日差しが眩しくレールを包む朝
老列車がいつものように速度を落として通過する
勢いよく鳴いている生まれたてのフミキリ
老列車はスピードを上げ、もう振り返ろうとはしなかった

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地球の労働

2021-02-20 16:10:09 | 
目覚まし時計が鳴る前に
「死にたい」という心の音で僕は起こされる
多分、本当はまだ生きたいのだろう
だからそれを実際に口にしたことはなく
誰にも知られていない

世間は老後30年の2000万円不足で右往左往し
南スーダンでは明日の食糧の保証もない

生きたい、死にたい、治りたい、産みたい
欲しい、勝ちたい、守りたい、食べたい
愛したい、愛されたい

人々の願いを積み上げれば宇宙に届く
100年かけて地球はそれらを星に運び
また新たな願いと向き合うことになる
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散って、沈んで、咲いて

2021-02-20 16:02:06 | 
散る若葉
生温い風に吹かれて落ちてゆく
水たまりに身を浮かべて気持ちよさそうにしている
「君はまだ落ちてはいけなかった」
隣で眠る枯葉が嘆いた

沈む朝日
これからエネルギーを発しなければならない役割を
どうして君は放棄する
どうして空に背を向ける
声をからし叫んでいた逆サイドの地平線
力尽きる夕日が「こんなこともあるさ」と呟いた

咲く紫陽花
季節が来れば花開き、過ぎれば枯れる
それは眼差しの静かな幸福感
君たちはほんとに雨がよく似合うね
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地球よ、回れ

2021-02-20 14:38:34 | 
あなたは間違っていない
私も間違っていない
そういう事にしておいてほしい
あなたの怒った顔は少し可愛かった

ということで地球よ、回っておくれ
喜びの星よ、哀しみの星よ
穏やかに、健やかに

約束どおり、地球は回ってくれた
その繰り返しによりあなたはいない、私もいない

それでも地球よ、回っておくれ
美しい星よ、祈りの星よ
穏やかに、健やかに
いつまでも、いつまでも
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多葉子

2021-02-20 14:29:24 | 
私は多葉子と申します
あなたも会社や家庭で煙たがられているのですね
私も同じです

嫌われ者同士、よろしかったら口づけでもしましょうか?
私はあなたにいっときの至福を差し上げるつもりです
だからあなたは私に命のひとかけら、与えてください
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旅立つ君へ

2021-02-20 11:01:33 | 
どこへ行くにしても
僕は止めろとは言わない
君自身が下した決断なのだから

もしその海を渡るなら、言葉に魔法をかければいい
もしその山に登るなら、気高さを心肺で踏みしめればいい
もしその宇宙へ行くのなら、僕は遠視になって君を見守る
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散り急ぐ花よ

2021-02-20 10:55:40 | 
天国に憧れた花びらが散ってゆく
春の陽が強まればなおさら
並木道に転がる美しい抜け殻

その生き方に人々は喝采し
急ぐなと声をかけ
俯き、静かに抜け殻を思いやる

瞬きするたび花は散り
瞬きするたび季節は巡り
瞬きするたび時代は過ぎてゆく

天国の花よ、安らかに
いずれ皆そこへ行く
瞬きを何度か繰り返したのちに

 

 

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遠い日

2021-02-20 09:35:36 | 
遠い日
都会のビル群の隙間
見上げた空の彼方
 
遠い日
寝転んだ4畳半の天井
目を凝らした夢のかけら
 
遠い日
机に置かれた白い肘
淡く燃えた恋心
 
じゃあね
かなたとかけらと淡さ
散らばっていくのを見た夕暮れ
 
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小さく泣いて、旅をする

2021-02-20 09:25:26 | 

朝、目覚めるたびに、新しく生まれる感覚がある
だから僕は小さく泣く
今日を生きる苦しみを凝縮させるように
 
歴史の光が眩しく感じても
振り返らない方がいい
ただ、その背中に温もりを感じて
前だけ見ていればいい
車やスマホにぶつからぬように

石ころに躓かないように
つま先を確認しながら

気分を変えたければ、首を後ろに倒し、宇宙を見るのもいい
左右の視界に入る景色が、秋から冬へと流れてゆく
 
今日一日が終わってゆく
苦しみの旅路の果てに何が待っているのか
それがぼやけているから、今も生きているのだろう

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