ざっくばらん(パニックびとのつぶやき)

詩・将棋・病気・芸能・スポーツ・社会・短編小説などいろいろ気まぐれに。2009年「僕とパニック障害の20年戦争出版」

卒業

2021-02-14 21:59:46 | 
鈍い照明の薄暗い体育館に、春になりたての新しい光が差し込む
紅白の幕と、幾重にも並べられた椅子が、特別な日を物語る
僕らは「大地を愛せよ」などと口ずさむ
本当の意味など分からないままに

惜別と解放が交差する日
だから皆の顔には、涙と笑顔が織り交ざっている
健やかなる時、病める時、喜びの時、悲しみの時
明日から僕らは、別々の場所でそれらを積み重ねていく
頂上たる死に向かって
最後の卒業に向かって

ハーモニーのようなざわめき
包むように降る、白くて柔らかな光
未来を信じる権利があった場所

もはやそこへ戻っても
色あせた校舎のみが残り
未来がくっきりと消されている
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青春ちゃん

2021-02-14 18:29:15 | 
冷たい向かい風に、俯きながら僕は歩き続けている
いまこんなに苦しいのは
とびきり綺麗な空を見るため

苦しければ苦しいほど
いつか来るであろう春の日に、寝転がって見上げる空は
陽光を浮かべながら僕を優しく包むだろう

アスファルトの上を落ち葉が滑る
僕は力ない目で、その行く末を追う
いつしか足は鉛のように重くなり、枯葉ほどの頼りなさで立ち止まった

しばらく目を閉じていると、早々に日は暮れ
さらに冷たくなった風とともに、青春ちゃんの笑い声が颯爽と通り過ぎた
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正義のA

2021-02-14 17:12:49 | 
正義のAは数年前に絆ブームを楽しんでいた
「被災地の人たちの力になりたい」と主張した

その一方で正義のAは「コンビニとか、どこにでも置いてある募金箱、本当に被災地に届ける気があるのかねえ。企業ってのは何でも自分の懐に入れちまうから」と嘆く。

「それにさあ、こっちも生活に余裕がある訳じゃないし。金持ちなら募金して力になりたいけど」とも語った。

絆ごっこに飽きた正義のAは、世界の紛争に目を向けた
「シリアとかさあ、ヨーロッパへ逃れようとする難民がいるよね。どうしてもっと寛容に受け入れられないものかね」と力説するのだ
「日本だって、もっと難民を積極的に受け入れるべきだよ」と力をこめる。

その矢先、正義のAはアジア系の外国人とすれ違う
「最近、外人多いよなあ。何でこんなに増えたんだろう。大体、声が大きいんだよ、奴ら。郷に入れば郷に従えっていう言葉があるだろ」と正義のAはご立腹。

正義のAは少子高齢化にも関心を持つ
「子供の住みやすい環境を作ってあげないと、若い人がかわいそうだし、日本の将来もない」と言い切るのだ。
 
その矢先、近所に保育所が建設されるという噂が広がった。
正義のAは「ここは駄目だ。土地の価値も下がってしまうし、ガキはうるさいだろ。こっちはただ静かに暮らしたいだけなんだ」
正義のAは真っ向から保育所建設に反対した。


正義のAは日本各地に住むという
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先生

2021-02-14 14:33:03 | 

冬になると、布団から出られなくなります
ただ寒いからという理由だけではありません
枕が僕の後頭部を掴んで離さないのです
先生、どうしたらいいのでしょうか?
一応、抗鬱薬は増やしてみたのですが

先生は僕を知らない
僕が先生を一方的に知っているだけ
その先生もおととしの暮れ、亡くなった
天国か地獄かの行き先も告げずに

「好きなだけ寝てろ」と先生は言った
突き放されたのか、優しいのかよく分からない
「いや、そういう訳にはいかないんです、先生」
僕は渾身の力で、後頭部を枕から引き剝がし、朦朧と立ち上がった

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正体

2021-02-14 12:16:59 | 

さらに太陽は届かなくなった
だから心は凍るしかない

ラジオから流れるリスナーの幸福なメール
僕はそれに頬を緩めている
自分のお人よし加減に嫌気が差す

この行き止まりの看板は何だ
この孤独は何だ
お前は誰だ

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淋しさも哀しさもいらない

2021-02-14 10:11:19 | 
真夏さえなければ、秋はこんなにも淋しくはない
真昼さえなければ、夕陽はこんなにも哀しくはない

何もなければいいんだ、輝くものすべて
それならば淋しさも哀しさもない
いっそ何もかもなくなってしまえ

もう嫌になった
もう駄目になった
その思いのみが時を経るごとに色濃くなる

それでも僕は諦め悪く、何か探している
それは見つかりようもないのだけれど
すがりつくように、まとわりつくように探している
探していないと、終わるような気がするんだ

次第に秋はやせ衰えていく
次第に夕陽は落っこちやすくなっていく
彼らは美しいけれど
淋しいから嫌いだ
哀しいから嫌いだ
思い出の中にとどまっていてくれ
現実に姿を晒さないでくれ
痛々しいから
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