藤井聡太七段の111手目を見て
ベテラン棋士はしばらくして投了した
天才棋士の老獪な指しまわしにベテランは悔しさをにじませた
藤井の駒台に無造作に散らかる駒たちが彼が少年であることを物語るだけ
恒例のインタビューが始まり、藤井はいつもの様にはにかんで、小さく答える
質問がベテランに移った
半日以上盤上で火花を散らした疲労を浮かべながらベテランは言った
「3回りほど違うのかな。年甲斐もなく、今日は先手を持ちたいと思ってたんですがね」
振り駒はベテランの気持ちも知らず、藤井の先手を選んだ
「いや、完敗ですよ。長渕剛ですよ」
得意のギャグにも、敗れた勝負師の寂しさは染みついていた
そしてこうも続けた
「最近は成績もさっぱりでしたけど、藤井七段が現れて、また将棋が楽しくなった」
天才棋士の出現への闘志と感謝を素直に口にした
最後にもう一度「いや、完敗ですね、長渕さんですね」と独り言のように話した
その意味が解っているのかいないのか、藤井はベテランの言葉を穏やかに聞いていた
盤上を挟んだ二人の姿は引き止めたい思いを振り切って、手の届かない場所へ離れていく父と息子のようだった
ーーーーーーーーーーーーーーーー
藤井聡太王位棋聖が高校を自主退学しました。この時期にという声もあるでしょうが、秋から話し合いを進めていたようで、藤井君はずいぶん前に決断していますね。
まあ、学校教育というのは、大多数の普通の子を社会で通用する大人に育てる場所なので、天才との相性が悪いのは明確です。
それにしても久しぶりに藤井君らしさを見た思いです。芯の強さ、無類の負けず嫌い。勝負師として必要不可欠なものを彼は持っています。
立派な決断でした。天才には学歴は必要ありません。