ざっくばらん(パニックびとのつぶやき)

詩・将棋・病気・芸能・スポーツ・社会・短編小説などいろいろ気まぐれに。2009年「僕とパニック障害の20年戦争出版」

この街の夕暮れ

2021-02-03 21:41:25 | 
穏やかな一日だった

子供たちが別れの言葉を交わしている
「じゃあね、またあした」と
彼らには数え切れない明日がある
だから残酷に今日という日を切れるのだろう

家路を急ぐサラリーマンやOL
自販機でぎこちなく煙草を買い、それを咥えて重力に屈したように歩きだす老人

酒と煙草の色したうらぶれた街
西のかなたのオレンジの照明が無理にでも輝かそうとする

しかし懸命に照らせば照らすほど
街並みは淋しげに写るのだ
この街の登場人物の苦悩や孤独までもがくっきりと

それでも懲りずにまた明日も照明は変わらぬアングルで同じ場所に光を当てにくる
いつの日か来るかもしれない奇跡を求めて

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

カンノの足跡

2021-02-03 21:41:25 | 
イグアナの娘が母に訴える。
「恋がしたい」と
君の手がささやいていた。「愛をください」と
催眠にかけられたような演技人形の日々もあったかもしれない
いいひとからヒールまでまるで奇跡を見ているようだ
落下する夕方を守ってあげたい
花束を抱える愛しい君へ
幸福の王子は現れましたか?
あいのうたは流れていますか?

少女から大人へ
女優階段を駆け上がるカンノの足跡は
美しく可憐だった
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

コロナの春(2020年)

2021-02-03 21:41:25 | 
今年は春が来ないかもしれない
日に日に暖かくなるに違いない
桜も咲くに違いない
しかし、そこに喜びがなければ春じゃない

コロナは帝国を築こうとしている
類い稀なる感染力と正体不明を武器にして
人々の顔はこわばり、蟻のように物資を抱え込む

そしてコロナに覆いつくされた春でも
僕は目を覚ますなり
怠く不快なベッドで生きるのが嫌になり
そして数時間後、玄関のドアを開けて閉め
ギリギリの社会人になるのだ
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

会話の達人

2021-02-03 21:41:25 | 
決して口数は多くない
少しばかりの付き合いで
あなたは幸だ不幸だなどと言わず
自慢話もせず
優しい言葉も滅多にかけない

相手が問いかけてきたら、大概はそれを肯定し
少しだけ膨らまして返してやる
穏やかな顔を向けながら
さすれば少なくとも人の心は炎上しない

「今日はいい天気ですね」
「そうですね。雲一つない青空で」
幾千の会話の達人たちが、一日の始まりに祈りを込める
今日も円滑に物事が進みますようにと
穏やかに深まっていく秋の力を借りて
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

赤い傘

2021-02-03 18:17:10 | 
春の終わりの太陽は西の空まで持たない
夏を思わせる強い光は、やがて分厚い雲に覆われる
梅雨が近づくと思い浮かぶ景色
 
雨に濡れて白い街
路面を優しく叩く均一の音
僕の視線のぼやけた白の中に赤が入る
少しずつそれは大きくなり傘だとわかる
赤い傘に守られた長い黒髪は少し濡れていた
「おはよう」と声をかける彼女の笑顔は眩しく
太陽とはまた違う痛烈な光を称えていた
直視するのは難しく、僕は少し目を細めた
 
あの頃の夢は見なくなった
赤い傘はもう視線に帰らない
 
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

演じて、やがて幕は降りる

2021-02-03 16:15:46 | 
誰しもが演じているんだ
生きている限り、演じると決まっている
それは心臓が動いているのと同じこと
呼吸するのと同じこと

生まれた時に泣いて始まり
死をもって完結する
役柄はひとつだけ
自分ひとりだけ
「こんな役、つまらないから変えてくれ」とどれだけ切実に訴えても
「代役はいない」と運命に険しく突き返される

嬉しければ、嬉しさを演じ
悲しければ、悲しみを演じ
楽しければ、楽しさを演じ
苦しければ、苦しみを演じ
情熱、僥倖、滑稽、悲哀、苦悩、虚無
それらを幾度となく、繰り返し演じ切り
やがて訪れる死のみが、役から開放してくれる


舞台の幕が下りた時、温かな拍手は聴こえるのだろうか?
「よく難しい役をこなしたね」と褒めてくれる人はいるのだろうか?
涙を流してくれる人はいるのだろうか?
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

重たい海岸

2021-02-03 15:33:26 | 
砂の矢印は向こう側
僕は疑いもせず従った
埋もれて引き返すのは無理なようで
そのまま眩しい海を横目に進むだけ
周りには夏を満喫する音があちこちで聞かれ
背伸びして見渡せば水着姿で青色の栄華

重く柔らかい砂浜に足を取られ
それを引っこ抜いて前へ進むしかない
しだいに波も荒くなって
しぶきの音を立て僕はそれを被る
足はすっかり重くなった
太陽も届かなくなってきた
騒めきがかすかに聞こえるだけ

このまま海に飲まれようか
それとも砂に埋もれ白骨となり
昔の日本人として未来の学者の研究対象となろうか
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ショウガイ

2021-02-03 14:39:24 | 

ほら、そこから手を離して   

何にも頼らないで

2本の足で立って

やれば出来るよ!

 

スタートラインに立って

ドキドキしても立って 

いつの日かは巣だって  

見知らぬ景色で

 

先頭にも立って 

山頂にも立って

崖っぷちにも立って

誰かに似てたってオレはオレだよ

 

十字路にも立って

壁際にも立って

風にまかせて立って  

そしていつの日か空へ旅立って 

ジンセイは終わるよ

 

ほら、転んでも立って

泥だらけでも立って

苦しくても立って 

気力を振り絞って

そして、いつの間に月日がたって

ショウガイは終わるよ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

朝の時は羽のようで

2021-02-03 13:36:56 | 
目が覚めた時に睫毛が濡れているのは
風が吹けば涙が伝うほどの目の弱さか
今日一日が生まれてしまった悲しみか
そんなことさえ分からなくなった

若い頃に戻りたいと思うことも寂しいが
若い頃に戻りたくないのもまた寂しく

朝の時は羽のようで
あまりにふわりと1時間が過ぎ
僕は少しだけ弱まった雨の中
微かに和らいだ心の重りを引きずって
見慣れた景色を歩いている
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

雨傘

2021-02-03 11:18:20 | 

肩を落とした僕の背をめがけて
力をつけてきた初夏の陽が差す
誰かのためのまばゆい夏がもうすぐやってくる

地べたにうずくまったまま、薄く目を開けてみる
この光が作り出す色濃い影のような具体的な諦めと
淡すぎる望みがまだ息をしている先細りの道が映る

もう一度だけ立ち上がって歩いてみようか
いつか置き忘れた傘一本程のものは見つかるかもしれない
誰かの優しさによって保存されていたような雨傘が

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする