ざっくばらん(パニックびとのつぶやき)

詩・将棋・病気・芸能・スポーツ・社会・短編小説などいろいろ気まぐれに。2009年「僕とパニック障害の20年戦争出版」

きらびやかな絶叫

2021-02-08 21:43:20 | 
軽やかな足音がピタリと止まった
きらびやかな絶叫が冬の夜の澄んだ空に響く
誰かの青春がぷつんと途切れた
 
ささやかに積み重ねてきた日々は
一瞬の悪魔に勝ることはない
しばらくして、壊れた足音と凶器の足音が交差して聞こえた


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現在地

2021-02-08 18:10:42 | 
幸せに生きても
不幸せに生きても
すべては過ぎ去っていく虚しさ

今日という日は不思議だ
振り返って眺めると最も老いていて
前を見据えると最も若い

昔、砕け散った夢も随分ぼやけてきたけれど
動物や植物の後先考えぬ逞しさは永遠に手に入らない

地図の上で片隅に置かれた僕は
自分を中心にして頬杖ついている
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季節の橋

2021-02-08 15:58:26 | 
定年を迎えようとしているマフラーが
明日からの老後に不安を抱えている

無数に響くカレンダーがビリビリと破かれる音
過ぎゆく季節を放り投げ
人々は春を手元に呼び寄せる

三寒四温のバス停で、制服姿のはしゃぐ君
僕はポケットに手を突っ込み
奥底に埋まっている記憶をせわしなく探る
取り出したくしゃくしゃの色あせた写真には
あの日の夢や香りがぼやけて浮かんでいた
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棋士の音色

2021-02-08 13:50:48 | 
対局室は深夜
空気は張りつめていた

羽生の手は震え、佐藤康光は激しく咳込んでいた
谷川はわずかに頬を膨らませ、光速への準備を整えている
渡辺明が激しく踏み込み、山崎は深いため息を漏らした
佐藤天彦は絶望したかのように首をうなだれ
永瀬の目の奥は時間がたつにつれ、輝きを増していく
豊島の表情から優劣は読み取れない

糸谷や菅井はすでに対局室から消えている
藤井聡太がいよいよ敵陣に駒を放り込んだ
広瀬の唾を飲み込む音が響いた
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怪物

2021-02-08 12:10:39 | 
おまえと出会って30年近くになる
俺が崩れ落ちたあの日から
すでに死ぬまで別れられない予感があった

普通の生活はできないと漠然と覚悟した
まともに仕事はできないだろう
結婚もできないだろう
瞬時に老人になりたかった

そして想像した道を具体的に歩いてきた
おまえは俺から様々なものを奪っていった
おまえの友人の鬱まで俺の中に住まわせて
おまえにことごとく痛めつけられながら
俺は絶望を教えられ、平凡の美しさを理解した

誰も知らぬ街で暮らしてみたい
それでもおまえの黒々とした巨大な影だけはついてくるに違いない
そしておまえは飽きずに奪い続けるのだ

おまえは俺に対して主導権を握っているつもりだろう
しかし、俺の生きる残り時間は確実に減った
俺が死ねばおまえも死ぬ
俺も追い詰められたが、おまえも追い詰められたのだ
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幻想

2021-02-08 10:35:54 | 
気が付けば今日も多差路に置き去りにされている
僕は立ち上がり、横断歩道を渡ろうとする
突然、膨大な壁が立ち、激突する
それに何度もぶち当たり、跳ね返される
毎日、この繰り返し

周囲の人たちは器用に壁をすり抜ける
母親に手を引かれた幼子も笑い声さえ添えて
今日も長い一日になりそうだ
そのくせ人生は短い

僕は移動し、別の横断歩道を渡ろうとする
今度は鏡に激突する
ガラスに少しヒビが入り、僕の額から血が流れる
鏡からは血が滴り落ちているのだが
足元のアスファルトに汚れはない
人々は巨大ガラスさえも器用にすり抜ける

雲間から陽がこぼれた
人生に希望はないのだろう
それでも光がないと生きられない厄介な生き物
だから天からその幻想を落とすのだ

僕の脇にはサザンカが咲いていた
わざわざこの季節を選んで
何の希望も持たずに
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