スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

漱石と宗教&配置の意図

2012-09-09 18:26:39 | 歌・小説
 『漱石の道程』を参照しつつ夏目漱石とキリスト教との関係を考えていく前提として,もっと一般的に,漱石と宗教との関わりについての僕の見解を示しておきます。
 漱石の小説の中で最も宗教的な要素が含まれているものは,おそらく『門』でしょう。主人公の宗助が鎌倉の寺へ参禅するからです。ただ,僕の読解では,このプロットは『門』という題名を成立させるためだけに,とってつけたようなものと思えなくもありません。少なくとも何か宗教的な意味では,宗助は何も得ることがなかったといっていいのではないかと思います。
                         
 得ることがなかったということは,『門』という小説自体の中では意味があることでしょうが,このプロットがこういう結末で終ったのは,そもそも漱石が,一般的な意味において既存の宗教に対して高い信頼をもっていなかったからだろうと思います。したがって,既成宗教に対する帰依という観点からいうならば,漱石は無神論者であったと僕は考えています。
 ただし,これは,スピノザを無神論と規定するのと似たような規定です。つまりスピノザは第一部定義六で神Deumを定義し,かつ第一部定理一一では神の実在を主張しているにもかかわらず無神論といえるわけですが,漱石のケースにもこれと似ている要素があります。
 晩年の漱石は則天去私ということばを好みましたが,この天というのが,スピノザにとっての神に該当します。もちろんスピノザの神と漱石の天は異なった概念ですが,少なくとも漱石が,則らなければならない,あるいは則らざるを得ない,天の規則というものがあると考えていたことは間違いありません。漱石はそれを自然ということばで表現することも多いのですが,この自然と人為との対峙というのは,漱石のいくつかの小説の主題を構成する要素になっています。
 したがって,僕は漱石が,宗教との関連においては無神論者であったと規定しますが,だからといって人間が万能な存在であり,自らの意志voluntasによってどんなことでもなすことが可能であると考えていたわけではないと考えています。むしろ漱石は,自身のいう天とか自然といったものが人為を凌駕すると考えていたのではないでしょうか。

 実は『エチカ』における定理Propositioの配置のされ方というのは,それ自体で意味があるものだと僕も考えています。それこそ第二部定理九系が,第二部定理七の系Corollariumではなく,第二部定理九の系として配置されていることの中には,実際にはこの系が平行論的証明によって証明されるものではなく,僕にとっては迂回であるとしか思えないような因果論的証明によって証明されるべき系であるという意図をスピノザが有していたことの証であると僕は理解しているからです。ただ,この問題については後に詳しく考察することにします。
 僕が基本的に考える定理の配置の意図というのは,上野修がいっているようなある種の思考実験とは異なります。それはむしろ,スピノザがそうあるべきだと考えているような,思考の方法と大いに関係するのではないかと思えるのです。
 第一部公理四は,結果の認識が原因の認識に依存しなければならないことを示しています。したがって,先行する原因によって後発する結果を認識するというのが,思考のあるべき姿ということになります。つまりこれは演繹法です。そしてこの演繹法というのが,定理の配置に対して直接的に関係してくるように僕には思えるのです。というのは,演繹法を方法論として採用する以上は,少なくとも『エチカ』の内部において,ある定理というのは,それに先行する定理に対しては,結果であるということは可能であっても,原因であるということは不可能であるということを要請してくるように思えるからです。一般的にいえば,『エチカ』の中に定理Aと定理Bがあって,定理Aが先に証明されているならば,定理Aが定理Bの原因であることはあっても結果であることはないし,逆に定理Bは,定理Aの結果ではあり得ても定理Aの原因ではあり得ないということになります。よってこの仮定における定理Aと定理Bとの関係は,定理Aが定理Bを結果として導出するような原因であるか,そうでなければこれらふたつの定理の間には何の関係もないかのどちらかでなければならないということになります。
 僕は第二部定理一二仮定の話ではなく,実在的な意味が担保されていると考えているわけですが,その根拠に第二部定理一三を持ち出すことの妥当性は,当然ながら問われなければならないといえるでしょう。
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