スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

エヴゲーニイのムイシュキン観&調律師

2013-12-14 19:10:03 | 歌・小説
 僕は以前はエヴゲーニイのムイシュキン観は,誤謬に満ちているというように考えていました。このゆえに僕はエヴゲーニイという存在を軽んじていたのです。ただ,エヴゲーニイがムイシュキン公爵を正しく理解できていなかったという点については,エヴゲーニイを重くみるようになった今でも変わりはありません。その誤謬がどこにあると僕が理解しているのかを,簡単に説明しておきます。
                         
 エヴゲーニイはムイシュキンの子どもの二面性を,厳しく糾弾します。ムイシュキンにそういった二面性があるということは,確かに的確な批判であると思います。しかし一方で,エヴゲーニイはムイシュキンの愛に関しては,正確には把握できていなかったと思えるのです。
 エヴゲーニイの理解では,ムイシュキンはナスターシャを愛してはいませんでした。ムイシュキンがナスターシャに寄せている思いは,愛ではなく同情とか憐憫なのであるというのが,エヴゲーニイの理解でした。ではムイシュキンが本当はだれを愛していたのかといえば,それはアグラーヤの方だというのが,エヴゲーニイのムイシュキン観の根幹を形成していると僕は理解します。
 これが僕のいう致命的な誤謬なのです。しかし僕がいいたいのは,ムイシュキンが愛していたのはナスターシャの方であったということではありません。むしろムイシュキンは,確かにエヴゲーニイのいうように,アグラーヤのことを愛していたのですが,それと同じように,ナスターシャのことも愛していたのです。そしてその愛は,同情とか憐憫といったことばで表現されるようなものではなかったのだと僕は思うのです。
 このときのやり取りで,ムイシュキンはエヴゲーニイに問い詰められ,自分はふたりを愛しているのだと告白します。その告白にエヴゲーニイはとても驚いています。つまり同時にふたりの,あるいは複数の女を愛せる男が存在し得るということは,エヴゲーニイには思いもよらなかったことだったのです。
 少なくともほとんどラストに近いこの問答まで,エヴゲーニイはこの観点からムイシュキンに接していたということになります。エヴゲーニイはこうした視点をもっているという前提で『白痴』を読むと,確かにそこには致命的な欠陥があるということが,理解できるのではないかと思います。

 翌日,12月2日の月曜日は,午後1時半からピアノの調律がありました。調律は概ね1年に1度で,昨年のように11月の終りとか,今年のように12月の初めといった時期。2010年のこの時期は母が磯子中央病院に入院中でしたので,僕が応対していますが,それ以外はすべて母が応接しています。
 僕の家のピアノは,その名はだれもが知っているであろう大手楽器メーカーのもので,購入したときに調律師も紹介してもらいました。ピアノは,素人には不可能なとても専門的な調整が必要な楽器ですし,ちょっとした買い物というのとはまったく違っていますから,販売する場合には,このように調律師も紹介するというのが,いわばアフターサービスという意味においても一般的なのかもしれません。25年くらい前に買ったものですから,その間ずっと年に1度は調律をしていたということになりますが,調律師の方は変わることなく現在まで担当しています。さすがにこれだけ長期間にわたっていますから,応対している母は当然ですが,僕も顔馴染みにはなっています。僕はこの日は保土ヶ谷区の星川に出掛けていまして帰宅したのは午後3時半過ぎ。ただその時点では調律は終了していまして,調律後にはおやつも出しますが,それも食べ終えて,調律師の方はもう家にはいませんでした。
 僕はこのときまで知らずにいたのですが,実は妹の最初のピアノの先生というのは,この調律師に紹介してもらったのだそうです。ピアノの先生は現在が三人目で,最初の先生の後はその先生が辞めるときに紹介してくれた先生に続いていますので,最初の流れからいえば,この調律師の紹介というのが連綿と受け継がれて今に至っているいるということになります。
 なぜこの日になってそれを知ったかといいますと,この日に調律師から母にあった話を,僕も母から聞かされたからでした。それは驚くような内容で,妹の最初の先生が,今年の6月に亡くなっていたというものでした。さすがに詳しいことまでは明かされなかったようですが,死因は癌であったそうで,先生はそのことを自分では知っていたのですが,ほかの人には教えることなく亡くなってしまったのだそうです。
コメント
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