スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

スピノザ『エチカ』を読む&属性と様態の区別

2014-12-18 19:18:06 | 哲学
 僕にライプニッツの疑問を最初に教えてくれた『スピノザ『エチカ』を読む』。この本の書評も未掲載でしたので,短評しておきます。
                         
 スピノザの哲学というのは,総じてドイツとフランスで詳しく研究されました。訳者あとがきによれば本書の著者であるカーリーは,イリノイ大学教授で,英米系を代表するスピノザ研究者だとあります。カーリーは1937年生まれ。英語の原書が出版されたのは1988年。日本語訳版は1993年の発行です。
 中身はカーリーによるスピノザ読解と考えて差し支えないでしょう。ただし,スピノザの哲学の全体が網羅されているかといえば必ずしもそうではなく,おそらくカーリー自身が関心を抱いている部分に集中しています。
 全体はみっつの章に分けられています。第一章が神についてで,ここではデカルトの形而上学とスピノザのそれとの比較に多くが費やされています。ライプニッツの疑問も,この章で触れられていました。
 第二章は人間について。ここでは平行論と精神の永遠性というふたつの事柄が中心になっています。これは以前に書いたことでもありますが,基本的にカーリーは,一般的な常識にそぐうような方向でスピノザの哲学を解釈する傾きがあるように僕には思えるのですが,それが最も顕著に出ていると僕が感じるのがこの章です。
 第三章は人間の幸福について。この章の中心になっていることをスピノザの哲学でいうなら,コナトゥスすなわち自己保存の力です。ただしこの章は,哲学的考察というよりも,政治学的考察と心理学的考察というべきふたつの考察が中心になっているといえます。それはおそらく,カーリーの関心がその部分にあるからでしょう。この章の末尾近辺で,カーリーはデカルトの幸福論とスピノザの幸福論というべきものを比較し,スピノザの幸福論にやや悲観的と思えるかもしれない結論を下していますが,僕はその部分に関してはカーリーの見解を支持します。
 この本は古書店で入手したもの。現在も入手可能であるかどうかは分かりません。

 ある実体およびその属性と,その属性の様態とは,同一のものではありません。これはそれ自体で明白です。ですからそれらは区別されなければなりません。あるいは区別することが可能であると考えなければなりません。そしてこの区別に関しては,通常は実在的区別とされます。
 通常はというのは、僕はスピノザがこの区別を実在的区別であるといっているかどうか知らないからです。しかしスピノザの哲学の研究者の間では,これを実在的区別に区分するのが共通認識になっています。おそらくその根拠は第一部定理一にあるといえるでしょう。実体が本性の上で様態に「先立つ」のであれば,実在的区別は様態的区別に先立つ筈です。したがって実体が何かほかのものと区別されるなら,区別されるものが何であれ,それは実在的区別とみなされるべきだということになるからです。
 ただし僕自身は,この区別を様態的区別と解釈したとしても,ひどい間違いを犯していることにはならないように思っています。というのも,もしも実在的区別と様態的区別の相違を,共通点という観点から判断した場合には,ある属性とその属性の様態は,当然ながら共通点を有しているのですから,区分としては様態的区別の方に近いからです。そして区別それ自体の区分でいえば,区別されるものの本性に依拠するよりは,区別自体の本性ないしは本性的側面から区分する方が,妥当であるように思うからです。
 もしもこの区別を実在的区別とするなら,それは共通点を有するものの間での実在的区別であるという意味において,例外的な存在になります。一方,様態的区別というのは,本来的にいうならやはり同一の属性に属する様態間の区別でしょうから,この区別を様態的区別と解するならば,様態間ではない様態的区別であるという意味において,やはり例外的な存在であるということを,僕も認めます。
 ただ,どちらの例外と考えるべきかに関しては,僕はこれ以上は追及しません。このようなことで論争をするのは不毛なことであるとしか思えないからです。冒頭に記したように,実在的区別と解するのが共通認識になっていますから,僕もそれに従います。

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