旅にしあれば

人生の長い旅、お気に入りの歌でも口ずさみながら、
気ままに歩くとしましょうか…

非色

2022-01-17 17:39:00 | 図書館はどこですか



今回図書館でお借りしたのは、「非色(ひしょく) 有吉佐和子著」です。NHKニュース
(関西ローカル?)で紹介されていたのが読みたくなったきっかけで、この本は20年くらい
絶版だったのが、昨秋復刻されるや話題になっているという放送内容でした。ここ数年、
アメリカを中心にBLM(ブラック・ライブズ・マター)運動が活発化し、日本にもその熱気が
伝わったことが記憶に冷めない中、遡ること60年近くも前に、人種や肌の色の違いによる
差別問題をテーマに鋭く切り込んだ小説が存在していたことが判明、時を経て発掘された
ことに、ある種の驚きと共に人々の関心を寄せ、取りざたされているようなのです。


戦後の混乱期、東京~ニューヨークを舞台に、黒人兵と結婚しハーフの親となった日本人
女性を主人公としてドラマが展開し、差別や偏見、貧困などと立ち向かいながらたくましく
生き抜く姿が描かれます。テーマが重いだけに、目を背けたくなるような描写や場面が
多々あって、けっして楽しいばかりの筋書きではなく、読み手側も暗たんたる心持ちに
押しつぶされそうになりながら、それでもページをめくる手を止めさせず一気呵成に
読ませてしまうのは、暗さを吹き飛ばさんばかりに物語自体がおもしろいからで、
これは、有吉さんのストーリーテラーぶりとその圧倒的な筆力の賜物なのでしょう。

主人公は黒人社会で暮らすことで差別される側でありながら、当時アメリカで黒人よりも
さらに蔑まれていた存在を、知らず内に自分も差別していることに気づき(差別の連鎖)、
また差別は肌の色だけでなく、使うもの使われるものの差で生まれるのではないかと考えたり
(現代で言う格差社会)、人種のるつぼニューヨークで現実と向き合い、様々な辛苦を
乗り越える過程で彼女自身も成長し、やがてワシントンに植えられた桜がすでに変質し、
日本におけるそれとはまるで別物であることに気づいたことで、夫は黒人で黒人の血を引く
子を持つ自分もすでに黒人ではないかと悟り、これまで以上にアメリカ社会に溶け込む
決意を固めます。有吉さんの小説に登場する女性は有吉さん自身が乗り移ったかのように
総じてタフである一方、男性はダメンズとされることがたいていで、生活能力の乏しい
私などは穴があったら入りたいのです。

この小説が描かれた時代背景と比べると、現在は一見差別問題の多くが解決しているように
見えるだけで、実はそれは表層的に過ぎず、本質は何も変わっていないことは、先のBLM
運動などを例に挙げるまでもないことでしょう。格差は広がるばかりですしね。公害問題、
高齢化社会、そして差別問題等々、有吉さんが捉える視点は非常に鋭く、また、恒久的な
課題であることがよくわかります。


和歌山の郷土作家である有吉さん、同じく、漫画家の田村由美さんも和歌山市出身だと
最近知り、これまで以上に親しみを感じています。とても人気があるお方のようで、現在
「ミステリと言う勿れ(なかれ)」を原作とするドラマが放映中のようです。私が見ている
アニメ作品では「7SEEDS」ですかね。今のところ第二期までが放映され、第三期を
心待ちにしているところです。


話が予想以上に長引きましたので、以下は「歴史のダイヤグラム」の表題で、
次の記事へ引き継いで掲載します。  

コメント
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