「スターハウス」といっても有名人が住む家とかじゃなく、建築分野でそう呼ばれる、珍しい建物が秋田にもあるのを見つけたものの、今、解体中という話。
9月下旬に秋田市土崎の狭い道を通っていたら、さらに狭い道沿いにある建物が、解体工事の準備中なのに気が付いた。
他の家越しに見る限り、がんじょうそうなアパート風の外観だが、道路と比べて建物の向きが不自然。道に対して斜めに建っているような、建物が途中で曲がっているような??
以前からかすかに存在は知っていたが、気に留めないでいてしまった。
地図で見ると…
地理院地図より。輪郭線の太い建物(中高層建物)がそれ
集合住宅でよくある直方体の箱型でなく、上から見ると各辺の長さが等しい「Y」形の建物なのだった!
テレビやネットで見たのを思い出した。
「団地」を鑑賞したり調査したりする趣味の分野の情報。
参考:「公団ウォーカー」http://codan.boy.jp/danchi/NTT_apartment/index.html http://codan.boy.jp/danchi/star_house/index2.htm
大都市圏で戦後建てられた公団住宅の団地では、集合住宅の建物が横長の箱型ばかりでは景観が単調になるとして、その中にアクセントとして違う形の建物を「ポイントハウス」として数棟建てる(そこも住居として供用)ことがあったという。
ポイントハウスの具体例としては、L字型、T字型、横幅が短いボックス型、そしてY字型などがあった。Y字型のは「スターハウス」と呼ばれ、小型の中層が多いが10階建て以上など高層のものもある。公団以外に各地の公営住宅や社宅でも採用例がある。
公団住宅のスターハウスは、入居者に親しまれ人気もあったらしいが、建設費用が高く、日当たり確保の点からスペースが多く必要になる欠点があったそうで、1964年築が最後だったようだ。近年は解体されるものが多い一方、保存されるものもある。
スターハウスは正式な呼称だそうだが、入居者にはあまり知られず「星型」と呼ばれることが多いという。でも「Y」から星(☆)を連想するのは、ちょっと遠いような気がする。スターハウスという言葉を知っている人が、「星」に呼び替えたのが最初なのかも。
秋田には公団住宅はないし、公営住宅(※)でもそんな形の建物は知らない。
※ざっと調べた限り、秋田市内の県営住宅、秋田市営住宅には、ポイントハウスらしき建物は見当たらなかった。団地全体が凹凸とか屋根付きとか木造とかそういう変わった作りのものはあるけれど。
漠然と秋田にないと思っていたスターハウスが、実在したとは!
しかもここは周りは戸建て民家で団地でないので、「ぽつんと一軒家」ならぬぽつんとスターハウス。
現地へ。スターハウスの南側の公道には、Googleストリートビュー撮影車が入っていない。車両通行止めではないし、もっと狭くても入っている道が多いのに。
Googleマップによれば、北側にも狭い道があるように描かれているが、地理院地図など他の地図では存在しない。現地を確認すると、物理的には通れなくはなさそうだけど、それが許されるのは近所の子どもまででしょうといった雰囲気。スターハウスの北側はブロック塀がある模様。
ということで、南側からのみの撮影。道路寄りの小屋などが解体済みのようで、現役当時よりはよく見えているのかもしれない。
これがスターハウスだ! 南西側から
鉄筋コンクリート造であろう4階建て。
多くの小型スターハウスがそうであるように、各辺の1フロアを1世帯で占めているので、4階×3辺で12世帯。このように小型のスターハウスでは、階数×3=世帯数で、全世帯が角部屋になる。
少し移動して、
南東側。右奥にはツタが茂っている
南東側から見ると、スターハウスの形状がよく分かる。
それに、すべての辺でベランダがこちらを向いているのに気付く。
スターハウス各辺の部屋の間取りは同一ではなく、このように日当たりを考慮するのが一般的だったようだ。住居なら当然。
玄関が見当たらないので、裏の北側にありそうだけど、見られない。
ここで役立つのがGoogleマップの3Dモード。
北西方向から
玄関は北側からでも直接見えない。しかし、外階段があり、建物の芯の部分が吹き抜け状になっていて、全戸の玄関が面しているようだ。これもスターハウスの標準。
さて、こんなところにこんな建物を建てたのは誰か? 解体工事の表示では、
「清水町社宅撤去工事」
清水町とはここの旧町名。すでに会社の所有ではなくなったためか、どこの社宅かは分からない。
実はGoogleマップやマピオンでこのスターハウスを表示させると「日本電信電話」の文字が添えられる(ゼンリンでは表示されない)。
NTTの社宅だった。歴史からすれば、民営化前・電電公社時代に建てられたはず。
【16日補足】NTTといえばすぐに連想される電話会社としては、今は「東日本電信電話(NTT東日本)」。地図表記の「日本~」は今は持株会社の名前。その辺はともかく、場所柄、実質的にNTT東日本の社員が住んでいたと思われる。そう言えば、お世話になっているgooブロクの運営会社はNTTレゾナント。gooの社員もNTT社宅に住むことができたりするのかな?
電電公社時代は「電電○○(所在地名等)アパート」、民営化後は「NTT○○社宅」と呼んでいるらしい。
それに従えば、電電清水町アパート→NTT清水町社宅だったのか。
電電公社には、社宅の専門部署があり、独自に統一感を持って電電アパートを整備しており、スターハウスも多く建てられたようだ。近年NTTでは社宅の廃止を進めており、やはりスターハウスは減っている。
清水町社宅の築年数は、特殊な外観だけに(素人だけど)見当つけづらい。屋上にひさしがせり出しているが、秋田市立学校の校舎では1960年代から1970年代半ば築にあった構造。
1961~1962年竣工の東京・花小金井にあるNTT社宅のスターハウスが、これとかなりそっくりな外観だから、同じ頃かも。そんなに古くも見そうにも見えないけど、古いみたい。【24日追記】1968年竣工とのコメントをいただいた。築51年。
秋田市内にもいくつかのNTT社宅があるのは知っていた(廃止されて空き家状態のものも)が、どれも箱型。
首都圏では社宅が何棟も連なる団地があるが、秋田では小さめの1~2棟が各所に分散設置されていた感じ。
その1つのここだけが、なぜスターハウスになったのかは、敷地の制約も要因の1つかもしれない。公団住宅でも、箱型を建てられない半端なスペースにポイントハウスを置く場合があった。
清水町のスターハウス社宅の居住性はどうだったのだろう。
共用の外廊下が少なく、秋田ではその分の除雪が少なく済んだかもしれないが、北向きだからむしろ吹き溜まりになるかな。
ベランダが南東向きの辺では、せっかく海風がほとんど入らなかったかもしれない。でも全体に北西風や西陽の影響はあまり受けなそうな向きで悪くなさそう。電電公社はそこまで考えて設計したのか。
スターハウスがひっそりと存在し、気づいた時には役目を終えて解体されようとしているとは、残念だけどギリギリ良かったのか。
実はこのスターハウス、新国道からもちらりと見えるのだった。
イオン土崎港店前の交差点。右折すればイオン
写真中央奥・信号柱の左側に、4階が見えている。
現在は建物内部の解体がメインのようで、今ならまだ、建物のシルエットはほぼ残っています。
秋田にほかにはスターハウスはあるのだろうか。
ネット上の情報では、大館市花岡にスターハウス4棟からなる「花岡サテライトハイツ」というのがあったものの、今は解体されてしまった。【16日追記】コメントで大館市内の国道7号線沿いにも存在するのを知った。大館市営住宅「片山住宅」のうちの1棟。
【16日追記】東京の赤羽台団地のスターハウスなどが、今年、登録有形文化財に指定されていた。室内を新築時に復元した部屋も作られ、先週末(台風で日程変更?)に内覧会が行われたとのこと。
また、上記本文ではスターハウスは「景観上のアクセントとして建てられたが、専有面積が多い欠点がある」と「余った土地の有効利用」という、ある種、相反する目的があったように書いてしまった。スターハウスを建てるべく建てたのか、やむなくスターハウスを建てたのか。その後、さらに調べたものの、本来の起源が、どちらなのかは分からなかった。
高度経済成長期に建てられた斬新な設計で、後に建てられなくなった建物という点で、円形校舎と通ずるものがある。
※この後、2019年12月下旬までには、更地になって柵で囲われた。
9月下旬に秋田市土崎の狭い道を通っていたら、さらに狭い道沿いにある建物が、解体工事の準備中なのに気が付いた。
他の家越しに見る限り、がんじょうそうなアパート風の外観だが、道路と比べて建物の向きが不自然。道に対して斜めに建っているような、建物が途中で曲がっているような??
以前からかすかに存在は知っていたが、気に留めないでいてしまった。
地図で見ると…
地理院地図より。輪郭線の太い建物(中高層建物)がそれ
集合住宅でよくある直方体の箱型でなく、上から見ると各辺の長さが等しい「Y」形の建物なのだった!
テレビやネットで見たのを思い出した。
「団地」を鑑賞したり調査したりする趣味の分野の情報。
参考:「公団ウォーカー」http://codan.boy.jp/danchi/NTT_apartment/index.html http://codan.boy.jp/danchi/star_house/index2.htm
大都市圏で戦後建てられた公団住宅の団地では、集合住宅の建物が横長の箱型ばかりでは景観が単調になるとして、その中にアクセントとして違う形の建物を「ポイントハウス」として数棟建てる(そこも住居として供用)ことがあったという。
ポイントハウスの具体例としては、L字型、T字型、横幅が短いボックス型、そしてY字型などがあった。Y字型のは「スターハウス」と呼ばれ、小型の中層が多いが10階建て以上など高層のものもある。公団以外に各地の公営住宅や社宅でも採用例がある。
公団住宅のスターハウスは、入居者に親しまれ人気もあったらしいが、建設費用が高く、日当たり確保の点からスペースが多く必要になる欠点があったそうで、1964年築が最後だったようだ。近年は解体されるものが多い一方、保存されるものもある。
スターハウスは正式な呼称だそうだが、入居者にはあまり知られず「星型」と呼ばれることが多いという。でも「Y」から星(☆)を連想するのは、ちょっと遠いような気がする。スターハウスという言葉を知っている人が、「星」に呼び替えたのが最初なのかも。
秋田には公団住宅はないし、公営住宅(※)でもそんな形の建物は知らない。
※ざっと調べた限り、秋田市内の県営住宅、秋田市営住宅には、ポイントハウスらしき建物は見当たらなかった。団地全体が凹凸とか屋根付きとか木造とかそういう変わった作りのものはあるけれど。
漠然と秋田にないと思っていたスターハウスが、実在したとは!
しかもここは周りは戸建て民家で団地でないので、「ぽつんと一軒家」ならぬぽつんとスターハウス。
現地へ。スターハウスの南側の公道には、Googleストリートビュー撮影車が入っていない。車両通行止めではないし、もっと狭くても入っている道が多いのに。
Googleマップによれば、北側にも狭い道があるように描かれているが、地理院地図など他の地図では存在しない。現地を確認すると、物理的には通れなくはなさそうだけど、それが許されるのは近所の子どもまででしょうといった雰囲気。スターハウスの北側はブロック塀がある模様。
ということで、南側からのみの撮影。道路寄りの小屋などが解体済みのようで、現役当時よりはよく見えているのかもしれない。
これがスターハウスだ! 南西側から
鉄筋コンクリート造であろう4階建て。
多くの小型スターハウスがそうであるように、各辺の1フロアを1世帯で占めているので、4階×3辺で12世帯。このように小型のスターハウスでは、階数×3=世帯数で、全世帯が角部屋になる。
少し移動して、
南東側。右奥にはツタが茂っている
南東側から見ると、スターハウスの形状がよく分かる。
それに、すべての辺でベランダがこちらを向いているのに気付く。
スターハウス各辺の部屋の間取りは同一ではなく、このように日当たりを考慮するのが一般的だったようだ。住居なら当然。
玄関が見当たらないので、裏の北側にありそうだけど、見られない。
ここで役立つのがGoogleマップの3Dモード。
北西方向から
玄関は北側からでも直接見えない。しかし、外階段があり、建物の芯の部分が吹き抜け状になっていて、全戸の玄関が面しているようだ。これもスターハウスの標準。
さて、こんなところにこんな建物を建てたのは誰か? 解体工事の表示では、
「清水町社宅撤去工事」
清水町とはここの旧町名。すでに会社の所有ではなくなったためか、どこの社宅かは分からない。
実はGoogleマップやマピオンでこのスターハウスを表示させると「日本電信電話」の文字が添えられる(ゼンリンでは表示されない)。
NTTの社宅だった。歴史からすれば、民営化前・電電公社時代に建てられたはず。
【16日補足】NTTといえばすぐに連想される電話会社としては、今は「東日本電信電話(NTT東日本)」。地図表記の「日本~」は今は持株会社の名前。その辺はともかく、場所柄、実質的にNTT東日本の社員が住んでいたと思われる。そう言えば、お世話になっているgooブロクの運営会社はNTTレゾナント。gooの社員もNTT社宅に住むことができたりするのかな?
職員・社員用の住宅のことを、国鉄→JR(少なくとも東日本秋田支社)では国鉄官舎→JR社宅、国立大学→国立大学法人(少なくとも秋田と弘前)では官舎→宿舎と称していた。
郵政省→郵便会社では、昔は郵政官舎とか郵政アパートと呼んでいた。民営化された今、地図では「郵政宿舎」となっているが、「政」ではないのでは?
今も官舎でいいはずの国土交通省では「宿舎」表示になっているところがある。【23日補足・秋田銀行では「家族寮」】
【2021年4月19日追記】「国家公務員宿舎法」という法律があって、官舎と呼んでいるところでも正確には宿舎なのだそう。国交省は通称でも法律に忠実なことになる。
郵政省→郵便会社では、昔は郵政官舎とか郵政アパートと呼んでいた。民営化された今、地図では「郵政宿舎」となっているが、「政」ではないのでは?
今も官舎でいいはずの国土交通省では「宿舎」表示になっているところがある。【23日補足・秋田銀行では「家族寮」】
【2021年4月19日追記】「国家公務員宿舎法」という法律があって、官舎と呼んでいるところでも正確には宿舎なのだそう。国交省は通称でも法律に忠実なことになる。
電電公社時代は「電電○○(所在地名等)アパート」、民営化後は「NTT○○社宅」と呼んでいるらしい。
それに従えば、電電清水町アパート→NTT清水町社宅だったのか。
電電公社には、社宅の専門部署があり、独自に統一感を持って電電アパートを整備しており、スターハウスも多く建てられたようだ。近年NTTでは社宅の廃止を進めており、やはりスターハウスは減っている。
清水町社宅の築年数は、特殊な外観だけに(素人だけど)見当つけづらい。屋上にひさしがせり出しているが、秋田市立学校の校舎では1960年代から1970年代半ば築にあった構造。
1961~1962年竣工の東京・花小金井にあるNTT社宅のスターハウスが、これとかなりそっくりな外観だから、同じ頃かも。そんなに古くも見そうにも見えないけど、古いみたい。【24日追記】1968年竣工とのコメントをいただいた。築51年。
秋田市内にもいくつかのNTT社宅があるのは知っていた(廃止されて空き家状態のものも)が、どれも箱型。
首都圏では社宅が何棟も連なる団地があるが、秋田では小さめの1~2棟が各所に分散設置されていた感じ。
その1つのここだけが、なぜスターハウスになったのかは、敷地の制約も要因の1つかもしれない。公団住宅でも、箱型を建てられない半端なスペースにポイントハウスを置く場合があった。
清水町のスターハウス社宅の居住性はどうだったのだろう。
共用の外廊下が少なく、秋田ではその分の除雪が少なく済んだかもしれないが、北向きだからむしろ吹き溜まりになるかな。
ベランダが南東向きの辺では、せっかく海風がほとんど入らなかったかもしれない。でも全体に北西風や西陽の影響はあまり受けなそうな向きで悪くなさそう。電電公社はそこまで考えて設計したのか。
スターハウスがひっそりと存在し、気づいた時には役目を終えて解体されようとしているとは、残念だけどギリギリ良かったのか。
実はこのスターハウス、新国道からもちらりと見えるのだった。
イオン土崎港店前の交差点。右折すればイオン
写真中央奥・信号柱の左側に、4階が見えている。
現在は建物内部の解体がメインのようで、今ならまだ、建物のシルエットはほぼ残っています。
秋田にほかにはスターハウスはあるのだろうか。
ネット上の情報では、大館市花岡にスターハウス4棟からなる「花岡サテライトハイツ」というのがあったものの、今は解体されてしまった。【16日追記】コメントで大館市内の国道7号線沿いにも存在するのを知った。大館市営住宅「片山住宅」のうちの1棟。
【16日追記】東京の赤羽台団地のスターハウスなどが、今年、登録有形文化財に指定されていた。室内を新築時に復元した部屋も作られ、先週末(台風で日程変更?)に内覧会が行われたとのこと。
また、上記本文ではスターハウスは「景観上のアクセントとして建てられたが、専有面積が多い欠点がある」と「余った土地の有効利用」という、ある種、相反する目的があったように書いてしまった。スターハウスを建てるべく建てたのか、やむなくスターハウスを建てたのか。その後、さらに調べたものの、本来の起源が、どちらなのかは分からなかった。
高度経済成長期に建てられた斬新な設計で、後に建てられなくなった建物という点で、円形校舎と通ずるものがある。
※この後、2019年12月下旬までには、更地になって柵で囲われた。