図書館から借りていた、葉室麟著 「秋霜(しゅうそう)」(祥伝社)を 読み終えた。本書は、著者創作の架空の小藩、九州豊後の「羽根藩(うねはん)」を題材にして描かれた長編時代小説「羽根藩シリーズ」の第4弾の作品である。先日、すでに、第1作「蜩ノ記」、第2作「潮鳴り」、第3作「春雷」を読んでいるが、さらに、第5弾「草笛物語」が有り、引き続き読んでみたいと思っているところだ。
読んでも読んでも、そのそばから忘れてしまう老脳。
読んだことの有る本を、うっかりまた借りてくるような失態を繰り返さないためにも、
その都度、備忘録として、ブログ・カテゴリー「読書記」に、書き留め置くことにしている。
▢目次
(一)~(三十)
▢主な登場人物
草薙小平太(くさなぎこへいた)
千々岩臥雲、玄鬼坊、
楓、おりう、善太、幸(こう)、勘太、助松、おみつ、弥々、
三浦兼清(羽根藩前藩主、長闇)、三浦兼光(羽藩藩主)
児島兵衛(羽根藩筆頭家老)、墨谷佐十郎、
播磨屋弥右衛門、
鶴見姜斎(つるみきょうさい)、
▢あらまし等
読み始めてすぐに気が付いたことだが、「羽根藩シリーズ」の、第1作「蜩ノ記」、第2作「潮鳴り」、第3作「春雷」は、舞台は、同じ羽根藩であっても、それぞれ、時代がずれていて、登場人物も異なっていたが、第4作の「秋霜」は、第3作「春雷」の続編の形になっている。
「春雷」の最後で、主人公の多聞隼人が本懐を遂げるが、「秋霜」は、その隼人の死後3年が経過した時期から始まっている。「春雷」を読んでいなくても、独立した作品として読むことも出来るが、当然、登場人物も重なっており、「春雷」を読んでから読んだ方が、よりストーリーの繋がり、味わい、奥行きが広がるように思われる。
隼人の本懐が元で、隠居させられた羽根藩前藩主三浦兼清(長闇)の恨みつらみ、羽根藩取り潰しを図る幕府の巡見使が羽根藩に入る前に、過去の事件の全てを葬りたい筆頭家老児島兵衛の陰謀。欅屋敷に残った、隼人の関係者、楓(かえで)、おりう、千々岩臥雲や善太、幸、勘太、助松等の子供達、隼人に心服した修験者玄鬼坊に襲いかかる危機・・・。
本書は、「どこまでも澄みきった秋空が広がっている」という一文、一見武士風だが帯刀無し、赤樫の木刀だけ腰に差した小柄な若者草薙小平太が、大坂からの船で豊後羽根藩の下ノ江の湊に降り立つシーンで始まっている。小平太は、大坂の白金屋太吉(おりうの夫)の紹介状を持参しており、欅屋敷に住み付くことになるのだが・・・。
実は、小平太は、ある使命を帯びており・・・。
欅屋敷の住人達と心が通い合い、過去の事件の真相を知り、小平太の意識の転換とその行動を描いた作品だと言えるのではないかと思う。
さらに、手段を選ばない非情な筆頭家老児島兵衛にも見事な信念と生き様が有ったのに対し、「春雷」で、隼人が失望した前藩主三浦兼清は、徹底的に愚弄な前藩主、羽根藩の厄介者、癌的存在として描かれている。
危機が迫った欅屋敷の住人、楓、おりう、善太、幸、勘太、助松、おみつ、弥々、それに、鶴見姜斎、玄鬼坊を、領外脱出させるために、千々岩臥雲は?、小平太は?
「楓様・・・・・」
小平太は、楓の目を見つめた。
「ともに生きて参りましょう。そうすれば、やがて心の内にも春がめぐって参りましょう。
草薙様ならば、わたしのもとから去っていた春を呼び戻してくださると信じております」
楓の言葉を聞いて、小平太は慟哭した。
自分は報われようとしている。
「山霞が、早春の風に吹き流されていく」
本書は、秋空の表現で始まって、早春の表現で、終っている。
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