図書館に予約(リクエスト)してから数ケ月が経ち、やっと順番が回ってきて 先日 借りてきた 畠山健二著 「本所おけら長屋(十三)」(PHP文庫)を 読み終えた。
お江戸本所亀沢町にある貧乏長屋「おけら長屋」の住人、万造、松吉の「万松コンビ」を筆頭に 左官の八五郎、お里夫婦、粋な後家女お染、浪人の島田鉄斎、大家の徳兵衛、等々、個性豊かな面々が 貧しいくせにお節介で人情厚く、次々巻き起こる問題、事件、騒動を笑いと涙で体当たりし、まるく収めていく「本所おけら長屋シリーズ」の第13弾目の作品だ。まるで江戸落語を聞いているようなテンポ良い会話、小気味良い文体、随所で笑いが堪えられなくなったり、思わず泣かされてしまう、人の優しさが心に沁みる時代小説、一気に読める作品だと思う。
(参照)→ PHP研究所(PHP文庫)「本所おけら長屋シリーズ」
畠山健二著 「本所おけら長屋(十三)」
本書には 「その壱・とりもち」、「その弐・よみうり」、「その参・おいらく」、「その四・ゆうぐれ」の 連作短編4篇が収録されている。
「その壱・とりもち」
緑町のだるま長屋の住人栄太郎は 万造(27歳)と同い年で、一時山崎町の長屋で共に暮らしたことが有ったが お互い相性が悪く、なにかにつけてぶつかりあう間柄、「犬猿の仲」「万栄の仲」。町中や酒屋で出くわせば 必ず揉め事を起こしていた。栄太郎が とりもち屋(結婚相手引き合わせ業)お圭の所に通い始め、1人目、2人目、3人目・・・、万造が放っておくはずがなく、ちょっかい、ひやかし、お節介。
「わははは・・・、栄太郎の野郎、さんざっぱら女にゃ不自由ねえとほざいてやがるくせに。てめいの女房もさがせねえで とりもち屋にすがりやがったのか。わははは・・・ああ 腹が痛え(いてえ)」
4人目のお夕には 朝太という子が有ったのだが・・・、
「祝いの酒でい」、万造は 栄太郎の隣に腰を下ろした。
「その弐・よみうり」
昼下がり、おけら長屋のお里の家では お里、お咲、お奈津が 二ツ目長屋の春助が書いた「読売」(巷で話題の出来事を木版で刷ったもの)を囲んで 盛り上がっている。春助は、他人の秘密を探り出したスキャンダルネタを「読売」にしていたが その「読売」が原因で、離縁されたり、身投げまでする人間が出ていた。大川(隅田川)に身投げしたのは紙問屋大西屋のお牧、お牧の亭主啓太郎は・・・、一方で 遠島罪から帰ったお牧の弟伊予吉の動きを警戒する南町奉行所同心伊勢平九郎から頼まれた島田鉄斎、万造、松吉が、お節介を開始。
伊予吉は 味噌汁を飲みながら 涙を流した。
「おけら長屋の万造と松吉が 吉原の琴音屋にも出入り禁止に。これで万造と松吉が出入禁止となったのは 扇屋、白根屋に続き三軒目。過日、万松の二人は・・」、万造と松吉は 同時に「読売」を拳で叩く。鉄斎は笑いを堪えながら鼻の頭を掻いた。
「その参・おいらく」
おけら長屋の大家徳兵衛の家に寄り集まった 相模屋の隠居与兵衛、薬種問屋木田屋の宗右衛門、おいらく3人は 物忘れの話等で盛り上がっている内、意気投合し 「私たちは同志です。共に吉原に討ち入ろうではないか」等ということになり、手を握り合い、固めの盃を交わし、約束通り 徳兵衛の知り合いの口利きで 根津の白波楼へ繰り出す。
「ど、どうされました、与兵衛さん」、与兵衛は顔を歪める。「こ、腰をやってしまいまして、め、名誉の負傷というやつです。うっ、うっ・・」、徳兵衛と宗右衛門は笑いを堪える。
「その四・ゆうぐれ」
松吉(27歳)の生い立ち、素性を知っているのは大家の徳兵衛だけで、それまで誰も知らなかったが この篇で明らかになる。下総国印旛の吉高村の実兄良作、実父喜代治が相次いで亡くなり、義姉お律と二人の姉お七、お滝の問題が?、松吉が村へ帰る話が持ち上がり、おけら長屋は さあ大変・・、万造が智恵をしぼり、お染、聖庵堂の女医者のお満も1枚噛んで、松吉を好いている松井町の酒場「三祐」のお栄も芝居?に加わり・・、てんやわんやの末・・、鉄斎が呟く、「またしても 私の出番はないってことか・・」・・、松吉は、お栄に、
「心配(しんぺい)ねいよ。ほら、見てみな」、お栄が西の空を見ると、暗くなった空に 小さな星が二つ瞬いていた。
「世間の人たちはね。万松の二人が騒動を起こして 引っ掻き回して それに八五郎さんが乗っかって、大家さんが怒って、お染さんや島田の旦那が丸く収めるなんて思ってるけど、それは逆。万松がいなければ 八五郎さんは乗っかることが出来ない。大家さんも怒ることが出来ない。お染さんや島田の旦那も収めることが出来ないんだよ。その万松の片割れがいなくなったら おけら長屋じゃなくなっちゃうんだよ」・・(本文より)
(つづく)