▢主な登場人物
間小四郎(はざまこしろう、吉田小四郎→間小四郎→間余楽斎)
吉田太郎太夫(小四郎の父)、辰(小四郎の母)、みつ(小四郎の妹)
間篤(はざまあつし・小四郎の義父)、貞(篤の妻、小四郎の義父)、
もよ(井上武左衛門の娘→小四郎の妻)、
藤田伝助(秋月藩剣術指南、小四郎の師)、千紗(伝助の娘)
伊藤惣兵衛(伊藤惣兵衛→伊藤吉左衛門)、手塚安太夫、末松左内、坂本汀、手塚龍助
坂田第蔵、とせ(第蔵の妻)
海賀藤蔵、緒方春朔(おがたしゅんさく、藩医)
原古処(はらこしょ)、猷(みち・古処の娘)、
宮崎織部、渡辺帯刀、熊平(帯刀の中間)、七與(帯刀の妾)、吉田久右衛門
秋月藩藩主、初代黒田長興(ながおき)、八代長舒(ながのぶ)、九代長韶(ながつぐ)、
十代長元(ながもと)、
村上大膳(福岡藩中老)、姫野三弥(伏影)、姫野弾正(伏影)、
香江良介(福岡藩の医師)、
吉次(長崎の石工)、いと、久助、
沢木七郎太夫(秋月御用請持)、井出勘七(秋月御用請持)
大阪の商人・秋月藩の銀主、油屋可兵衛、葛野五左衛門、奥野善兵衛
杉山文左衛門(福岡藩御納戸頭)
▢あらすじ等
物語は、藩政の黒幕として君臨する間余楽斎(間小四郎、59歳)が、上意により捕らえられ、島流しの刑を言い渡されるという場面から始まり、専横を極めた家老宮崎織部の糾弾、排斥(島流し)を画策した政変「織部崩れ」を主導した清廉潔白なはずの小四郎が、何故、その織部と同じような存在になってしまったのか?、そもそも、織部も小四郎も本当に専横を極めた逆臣だったのか?を問う形で、それに至る小四郎の半生が描かれている。
物語の終盤、政変「織部崩れ」から18年後、島流しから赦免され戻ってきた織部に、小四郎が面会に行く場面が有り、織部が小四郎に語りかけた言葉が心に残る。
「ひとは美しい風景を見ると心が落ち着く。なぜなのかわかるか」
「山は山であることに迷わぬ。雲は雲であることを疑わぬ。ひとだけが、おのれであることを迷い、疑う。それゆえ、風景を見ると心が落ち着くのだ」
「間小四郎、おのれがおのれであることにためらうな、悪人と呼ばれたら、悪人であることを楽しめ。それが、お前の役目なのだ」
原古処の娘、猷(みち)が、江戸から訪ねてきた。
孤り(ひとり)幽谷(ゆうこく)の裏に生じ
豈(あに)世人の知るを願はんや
時に清風の至る有れば
芬芳(ふんぼう)自ら(おのずから)持し難し(じしがたし)
「間様はこの詩のような方だと思ってまいりました」と言う。
広瀬淡窓の「蘭」という詩だった。蘭は奥深い谷間に独り生え、世間に知られることを願わない。しかし、一たび、清々しい風が吹けば、その香を自ら隠そうとしても隠せない、という意味の詩だった。
宮崎織部、間小四郎(余楽斎)、この二人の武士の、自分の役目に徹し切った生き様を描いた作品になっている。
「秋月藩」、「秋月」、「古処山」、「秋月街道」、「日田街道」・・・、これまで、地名すら知らなかった類だが、随所の風景描写と現代地図を見比べながら、当時、常に、秋月藩を属国化して完全に吸収したいと考えている本藩、福岡藩と、独立自治を死守したいとする小藩、秋月藩の、確執、軋轢、闘争、内紛、暗躍に思いを馳せることが出来、小説の面白さを存分に味わえた気がする。
同じ「秋月藩」を題材にした、続編とも言える、葉室麟著「蒼天見ゆ」が有るという。この際、続けて読んでみたい気分になっているところだ。