図書館から借りていた、藤沢周平著、「春秋山伏記」、(角川文庫)を 読み終えた。藤沢周平氏の著作と言えば、下級武士の生活を描いた武家物、江戸の町を舞台にした市井物が多いが、本書は、藤沢周平氏の故郷の社会風俗をモチーフに描いた、異色の長編時代小説になっている。
徹頭徹尾、荘内弁で描かれており、江戸時代後期の荘内(現在の山形県)の村の人々の暮らし、情景が映像になって浮かんでくる。長編ではあるが、惹き込まれてしまい、一気に読破出来た。
▢目次
「験試し」(一)~(八)、
「狐の足あと」(一)~(七)、
「火の家」(一)~(八)、
「安蔵の嫁」(一)~(十一)、
「人攫い」(一)~(十三)、
あとがき・藤沢周平
解説・縄田一男
▢主な登場人物
大鷲坊(たいしゅうぼう・山伏・鷲蔵・野平村薬師神社別当)、
月心防(山伏)、
浄岳坊(大針村の山伏)、斎月坊(大島村の山伏)、
おとし、たみえ(おとしの娘)、兼吉(おとしの弟)、もも(おとしの母)
三左ェ門、おきく(三左ェ門の娘)、弥作(喜兵衛の息子)
弥兵衛(肝煎り)、多三郎(添役)、利助(長人)、宗助(多三郎の息子)
広太、さきえ(広太の女房)、
藤助、助次、
権蔵、おます(権蔵の女房)、
源吉(政右ェ門の孫)、馬之助、おせん(馬之助の娘)、政之助(おせんの兄)
おすえ(寡婦)、
安蔵、太九郎(安蔵の父)、きえ(安蔵の母)、友助、おてつ(友助の娘)、
定吉、
甚内夫婦(箕作り)
▢あとがき・藤沢周平・(一部転記)
荘内平野に霰が降りしきるころ、高足駄を履いた山伏が、村の家々を一軒ずつ回ってきたことを覚えている。(中略)、
子供の眼で見た山伏は、どことなく近よりがたい、畏怖を感じさせる存在だった。(中略)、
こういう子供のころの記憶と、病気をなおし、卦を立て、寺子屋を開き、つまり村のインテリとして定住した里山山伏に対する興味が、この小説の母体となっている。(中略)、
そういうわけで、この小説は山伏が主人公のようでありながら、じつは江戸後期の村びとの誰かれが主人公である物語になっている。またこの小説で、私はほとんど恣意的なまでに、方言(荘内弁)にこだわって書いている。お読みくださる読者には閉口されるに違いないが、私には、方言は急速に衰弱に向かっているという考えがあるので、あまりいい加減な言葉も書きたくなかったのである。(後略)、
「村サも、ええおなんこいるども、来てくれるひとはいなぐでのう」
「だだは田もとサ行っていねども、なに用事だな」