数年前までは 時間的余裕も、精神的余裕も無い自営業を続けていたこともあって、まるで読書の習慣等無かった類だったが、ブログをやり始めた後のこと、相互読者登録している数多の方々の読書に纏わるブログ記事等から刺激を受け、まずは肩の凝らない「時代小説」等を中心に ボチボチ読むようになってきている。
もちろん これまで自分で買い求めた書籍等、蔵書は数少なく、断捨離を進めている後期高齢者とて、これから買い求める気もさらさら無し、近くの図書館から借りてきて読むことにしており、それが次第に生活習慣になりつつある気がしている。
その利用している図書館は、新型コロナウイルス感染拡大防止対策のため 2月末から利用休止状態が続いており、ここでさらに 4月中旬まで利用休止期間を延長する旨の知らせが有った。
借りてくる本は たいがい、妻と回し読みしている関係で 夫婦共手持無沙汰になっており、仕方無し、処分し切れずに未だに書棚に残っている古い文庫本等を 引っ張り出して読んでいるところだ。
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いつか読もう読もうと思って処分せずに有った、夏目漱石著 「それから」(角川文庫)を やっと、やっと読み終えた。
「それから」は 1909年(明治42年)6月27日から10月14日に朝日新聞に連載された長編小説。その前年1908年に連載された「三四郎」、その翌年1910年に連載された「門」と共に 夏目漱石の前期三部作のひとつと呼ばれている。
先の年末年始に「三四郎」を やっとやっと読み、疲れてしまったものだが、だいぶ日にちが経ち、やおら気合を入れ直して 「それから」、
短編時代小説の類であれば、一気に読み通せるものが多いが やはり夏目漱石の長編小説・・手強い。
夏目漱石著 「それから」
主な登場人物
長井代助(ながいだいすけ)
主人公、東京帝国大学卒、30歳独身、仕事もせず、父親の用意した家と金で 読書や演奏会に行く等気ままな生活を送っている。
平岡常次郎(ひらおかつねじろう)
代助とは中学時代からの友人。銀行に就職、京阪の支店に転勤していたが、職を失い借金を抱え東京に戻ってくるところから物語が始まる。
平岡三千代(ひらおかみちよ)
ヒロイン。平岡常次郎の妻。学生時代、代助は三千代が好きで、三千代も代助が好きだったが、三年前、代助の仲介で代助の友人平岡常次郎と結婚。菅沼の妹、色白、ほっそり。
門野(かどの)
長井代助の家の書生。
菅沼(すがぬま)
平岡三千代の兄(故人)。代助の大学時代の学友。平岡常次郎とも親しい付き合いがあった。
長井得(ながいとく)
代助の父親、明治維新の戦闘参加経験有り、実業界の成功者。
長井誠吾(ながいせいご)
代助の兄。学校卒業後、父親得の会社に入社し重要な位置に就く。
長井梅子(ながいうめこ)
長井誠吾の妻、代助の兄嫁。独身である代助を心配し世話を焼く。西洋音楽好き。
佐川の娘
代助の縁談の相手。父親得の恩人高木の縁者。
あらすじ
(一)書生の門野から 長井代助は2通の手紙を受け取る。1通は 京阪から東京に戻ってきたという平岡常次郎のハガキ、1通は父親得から会いに来いという封書だった。
(二)代助の家に平岡常次郎がやってきた。代助と平岡は中学時代からの友人だったが 平岡は銀行に就職し、京阪地方に転勤になってから疎遠になっていた。平岡は失業し借金を抱えて帰京、子供を亡くしており、妻の三千代も体調が良くないという。
(三)代助の実家には、父親得と兄誠吾梅子夫婦が住んでいた。代助は苦手の父親から「いつも遊んでいないで何かをやってみろ」と言われ、兄嫁梅子からは 縁談の話を聞かされる。見合いの相手は 佐川という資産家の娘だった。
(四)代助の家に 三千代が足を引き摺りながらやってきた。翌日、平岡と三千代は 書生の門野が探した新居へ引っ越し予定となっているのだが・・。代助は 三千代から500円を貸して欲しいと頼まれ、今の平岡の境遇を不憫に思うのだった。
(五)平岡と三千代は新居に引っ越した。代助は 三千代に用立てするため 兄誠吾に金を貸してくれと頼むが断られる。
(六)代助は 友人平岡の家に行き、酒を酌み交わす。
(七)代助は 兄嫁梅子に金を借りに行くが断られる。梅子から 縁談を受けない代助に「誰か好きな人がいるのか」と問われ、代助の頭には 友人平岡の妻、三千代の名が浮かぶのだった。
(八)兄嫁梅子から 二百円の小切手入りの手紙が届いた。代助は 早速 三千代に届け、後日平岡が礼を言いにやってきたが 平岡がすっかり変わってしまっていることで 自分が身を引いて 平岡と三千代の結婚を取り持ったことへの激しい後悔が代助を苛むのだった。
(九)代助は 父親得に呼ばれ、これからどうする気だ、なぜ結婚しないのか・・きつく問い詰められる。
(十)代助の家に 息切れし、体調の悪い三千代がやってきて 二百円は 借金返済でなく生活費に使ったことを詫びる。
(十一)代助は 兄嫁梅子に呼び出され一緒に芝居に行くが そこには縁談の相手佐川の娘がいた。代助は 兄や兄嫁にだまされたと感じ 実家と疎遠になることを予感する。
(十二)代助は 平岡の留守に三千代に会いに行ったが、三千代の指に代助が贈った指輪が無かった。売ったのだ。代助は 三千代に持ち合わせの金を渡す。一方で佐川の娘との顔合わせが行われた。
(十三)代助は 三千代に会いに行ったが、夫婦仲がうまくいっていないことを悟るのだった。
(十四)代助は 佐川の娘との縁談を断る決心をし、兄嫁梅子には 好きな女がいることを伝える。代助は三千代を家に呼び、自分の想いを打ち明ける。三千代は どうしてあの時自分を捨てたのかと泣く。「しょうがない。覚悟をきめましょう」、三千代が帰っていった後 「代助は 腹の中で「万事終わる」と宣告する。」
(十五)三千代に全てを告白した代助は、すっきりした心持ちになった。実家に行き、父親得と会う。父親得は、これまでの苦労を語り、会社のため資産家佐川の娘と結婚してくれと代助に懇願するが、代助は断り、父親から、もうお前の面倒はみないと言い放たれた。
(十六)実家からの援助が無くなってしまうことにおびえる代助。三千代に 自分と一緒になれば苦労することになることを告げるが、三千代は覚悟を決めている。代助は、平岡に会い、三千代を譲ってくれと頼む。平岡は承知するが 絶交を告げる。迫力有る会話に圧倒される。「二人は魔につかれたような顔をして互いを見た。」
(十七)代助は 平岡の家のあたりをうろうろ、三千代に会えず悶々とした日を送っている。代助の家に兄誠吾がやってきて 平岡からの父親得宛の手紙を見せ、「・・・本当なのかい」と問う。「本当です」。父親得から一生涯の絶縁が伝えられ、自分ももう会わないと告げる。勘当されたのだ。
「門野さん、僕はちょっと職業をさがして来る」・・・代助は 鳥打帽子をかぶって、日盛りの表へ飛び出すのだった。
「代助は自分の頭が焼けつきるまで電車に乗って行こうと決心した」
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定職にも就かず 毎月1回、実家にもらいに行く金で裕福な生活をしていた長井代助が 友人である平岡常次郎の妻三千代と共に生きる決意をするまでの物語である。学生時代、お互いに想い合っていながら 仕事をしない自分より 銀行勤めの平岡の方が 三千代を幸せに出来るだろうと考え 身を引き 平岡と三千代の結婚を取り持った代助だったが 最終的には人の妻を奪うことになるという、かなり激しい内容である。しかし 重病の三千代と勘当された代助が所帯を持てるのかどうか?の結末は 描かれていない。
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