図書館から借りていた、藤沢周平著、「静かな木」(新潮社)を読み終えた。本書には、あっと言う間に読み終わるような非常に短い作品、「岡安家の犬」「静かな木」「偉丈夫」の3篇が収録されている。平成10年に出版されたもので、平成9年1月に亡くなっている著者の遺作になるのだそうだ。いずれも、藤沢周平作品に度々登場する、江戸時代の東北の架空の小藩「海坂藩」が舞台の作品。
〇「岡安家の犬」
海坂藩の近習組を務めている岡安家、十兵衛門は隠居の身、息子は他界し、当主は 孫の甚之丞、甚之丞の母、妹の八寿、奈美の家族5暮らし。家族全員 犬が大きで アカという犬を飼っていた。ある時、甚之丞が 妹八寿の嫁入りが決まっていた親友の野地金之助、関口兵蔵と犬鍋を食べたが それが アカの肉だったことで 友情決裂、あわや果し合いに成る寸前に。
強情な金之助、見栄っ張りの金之助は 親に置手紙をして姿を消したが 苦労してアカと似た犬を探し出して 岡安家に現れ 甚之丞も許し 八寿も喜びの涙を流す。
〇「静かな木」(表題作)、
5年前に隠居した布施孫左衛門は 福泉寺の境内に立つ欅の大木を見て過している。嫡男の布施権十郎は勘定方に出仕しており、二男の邦之助は間瀬家に婿入りしている。
その間瀬邦之助が 果し合いをすると聞き 孫左衛門が一計を案じる。事件の裏には 藩内に派閥争いが絡んでいたのだ。
〇「偉丈夫」
「海坂藩」初代藩主政慶は 二男の仲次郎光成を愛し、死没する際 藩から一万石を削って 仲次郎に与え 幕府の許しを得て 支藩とした。政慶公が死没してから70年程経って 漆の木をめぐって 本藩と支藩の境界争いが生じたが 支範「海上藩」に属していた片桐権兵衛は 本藩との掛け合い役に抜擢された。権兵衛は 六尺近い巨体の持ち主だが蚤の心臓で無口、本藩の掛け合い役 加治右馬之助は熟練、能弁。一方的に打ち負かされ 漆の山は 二分に線引きすることを承知させられそうになったが、それまで黙っていた権兵衛が 最後に 突然びっくりするような大声を発し 「それは出来申さん」、「初代藩主の遺志を曲げるとなれば 弓矢をとって一戦も辞さぬ覚悟・・・」、一転 立場が逆転、線引き問題は無かったことになる。
ユーモラスな結末だが 現代社会においても 似たような話が有るような気がする。
藤沢周平著 「漆の実のみのる国」を読んだ記憶が まだ残っているが 関連作品と言える。