M男は 自身が付けていた 昭和30年代の日記帳のページを捲りながら 喪失していた記憶のかけらを炙り出し あの日あの頃に思いを馳せている。
昭和30年7月28日、木曜日、晴、
「ツベルクリン反応検査の結果 陰性、BCG接種を受けた」
やっぱり。
昭和30年7月29日、金曜日、晴、
「ツベルクリン反応検査 陽性の生徒が 町の保健所に行ったため 残った生徒は 幻燈を見た」、「リヤ王」「小公女」「ガリバー旅行記」「ロバを売りに行った親子」
机を廊下に出した教室に暗幕を張り 残った生徒全員が 床に座り込んで 見たような気がする。
昭和30年7月30日、土曜日、晴、
「学期末 大掃除」
「終業式」
「通知表をもらって帰った」
「十二指腸虫の虫下しを 飲んだ」
1学期の最終日。M男の通った O中学校では 当時 「田植え休み」や「稲刈り休み」等が有って その分 夏休みは 短く この年は 7月31日から8月25日 だったようだ。
昭和30年7月31日、日曜日、晴
「二階の勉強する場所を整理」
夏休み初日、宿題を早めに片付けようと思ったのか やる気十分。M男の家には もちろん 子供部屋等なく 座敷の隅に 自分専用のコーナーを確保したということのようだ。