本棚や押入れ、天袋等には 数十年間、詰まったままになっている本の類が結構有るもので、いずれは整理処分しなくては と 思っていながら なかなか進みません。時々は その気になり 取り掛かっては見るものの 過去に 1度も読んだ記憶がなかったり 読んだ記憶が有っても 改めてまた読んでみたくなってしまう本が続出、手が止まってしまいます。
結局 そんな本が また 机の横に山積みになってしまい、
「どうするの?・・・」と 自分に問うている始末。
読みたいと思った本を 図書館から借りてきて読むのが一番ですが、先ずは 家に有る本を 改めて読むのもいいんじゃないか等と 自分に言い聞かせている今日この頃です。
記憶曖昧ですが 10数年前に 井上靖著 「氷壁」を読みましたが それをきっかけにして 井上靖作品を 立て続けに 読んだことが有りました。
その中で 特に 井上靖氏の自伝的長編小説 3部作 「しろばんば」、「夏草冬濤」、「北の海」は 時代、舞台は異なるものの 北陸の山村で育った人間にとっては 随所に描かれている 田舎の素朴な風景、そこに暮らす人々の情景、幼少時代から少年時代、青春に目覚めていく日々の心情等が 懐かしく 共鳴したものです。
「しろばんば」は 主人公 伊上洪作 (作者 井上靖氏本人がモデル)が 静岡県伊豆湯ヶ島の祖父母の家に預けられ 曽祖父の妾だった ぬい婆さんに養育され、多感な幼少年期を過しますが 小学校卒業までが 描かれています。
「夏草冬濤」は 浜松中学(旧制中学)に進んだ後、軍医だった父親が 浜松連隊から台北師団に転任したことから 2年生の初めに 沼津中学(旧制中学)に転校、三島の叔母 間門むめの家に預けられ、沼津まで 5kmを徒歩通学することになりますが、同級生や 1学年上級の不良がかった文学グループとの 自由奔放な日々の暮らしが描かれています。成績は下がっていきますが 一方で 関わる女性達とのかすかな性の目覚めも 随所に描かれています。
「北の海」は 沼津中学(旧制中学)卒業後 沼津での浪人生活の1年近く、、高専柔道に明け暮れする主人公の生き生きした姿が描かれています。

「しろばんば」、「夏草冬濤」(上)、「夏草冬濤」(下)、「冬の海」
確か 古本屋で 買ってきたような気がする文庫本が 未だに残っていました。
今回は 井上靖氏の自伝的長編小説 3部作の 第2作目 「夏草冬濤」(上)(下) (新潮文庫)を 改めて 読み切りました。
洪作は 夏季休暇に入り 静浦海岸(沼津御用邸の付近)の中学の水泳場(学校毎に区切られた浜辺)に出掛けますが、海の泳ぎに自信が無く、飛込台まで泳げないところ 強引に飛込台に連れてゆかれ、後に交流することになる上級生と 関わることになります。
2学期最初の日、三島から沼津まで 一緒に徒歩通学していた同級生 増田、小林と 途中で鞄を隠して登校したところ、下校時、鞄が無くなっていることが分り、すったもんだが起こります。
沼津には 母方の親戚 かみきの家があり 挨拶に行きますが、そこで 美人だと評判の娘蘭子と出会い 少年達の間で たちまち話題になってしまいます。時代は異なっても 思春期の頃には、良く有ることで その情景が浮かんできます。
友達とつるんで 狩野川河口や千本浜、沼津の街中を たむろ、どこかのんびりした おくての自然児、洪作の日々の暮らしが描かれています。
湯ヶ島から 祖父がやってきて 洪作の成績が下がったことが 三島の叔母宅から通学していることが原因とする 実母七重の思惑も有り 沼津の寺に下宿させる話になっていきます。
一方で 洪作は 三島から一緒に徒歩通学していた同級生 増田、小林とは 確執有り絶交、1学年上級の金枝、藤尾、木部等の不良がかった文学グループとの交流を 深めていきます。
洪作は 正月、久し振りに故郷湯ヶ島に帰省しますが 地元の人の迎え入れの様子、子供達を引き連れて山川で遊びますが、郷愁と複雑な心情、餅つき、凧揚げ、どんどん焼き、山滑り、鳥の巣取り・・・・、
若かりし頃 北陸の山村に帰省する度に感じた 懐かしい情景、複雑な心情、おおいに共鳴してしまいます。
下宿することになった寺には 快活、姉御肌の娘郁子がおり 洪作達は こき使わされますが 「美しきものもて 頬を打たれたような感じがする・・・」と 好感を持つに至ります。
洪作は 金枝、木部、藤尾、餅田のグループと 歌を作ると称して 伊豆の西海岸へ1泊の旅行に出掛けますが 2日目、土肥に到着した船の甲板で 木部から差し出されたノートには、
「長く長く、汽笛は鳴りて、いざ 土肥と、まなこ上げし空に 白き雲有り」
洪作は 綿をちぎったような白い雲が浮かんでいる空を仰ぎ見て、なるほど、うまいことを書くものだと思い 心が爽やかで 大きく膨らんで来るのを感じます。
昭和25年に 芥川賞受賞、昭和51年には 文化勲章を受章している 作家 井上靖氏は 「私が小説を書くようになったのは 沼津の町のお陰であり その頃一緒に遊び惚けていた何人かの友人のお陰である」と 述懐されていたようです。
日本百景、日本の白砂青松100選になっている 千本浜公園には 沼津市の名誉市民にもなっている 井上靖氏の文学碑が有るようです。