小春日和に
soliloquy 春の席は―another,side story
桜が咲いた、秋の桜が。
「…きれい、」
庭の陽だまり見あげて微笑んで、薄紅色やわらかい。
ちいさな目立たぬ花、それでも秋の陽透かして惹かれる。
「ちいさいから…かな、」
つぶやいて唇そっと寒風なぞる。
風また冷たくなった、日ごと冬向かう陽に周太は微笑んだ。
「秋は…なつかしいね?」
秋は懐かしい、幸せと孤独が綯いまざる。
初めてふたり山の夜を見た、黄昏それから星ふる夜。
その翌朝は初雪で、黄金のブナきらめく森であなたは記憶の底から綺麗だ。
“名前を呼んでよ?”
ほら声あざやかだ、切長い瞳の眼ざし離れない。
あの瞳は初対面つめたくて嫌いで、それなのに秋の瞳はただ優しくて美しかった。
けれど翌年の秋はもう、あなたは泣いていた。
“俺を信じられないのか周太、”
信じられるわけない、だって嘘ついたくせに?
「…なんにも言ってくれないくせに、ずるい…えいじ、」
ほら唇勝手につむぎだす、これは本音だ。
本音だから貌見て言えない、言ったら傷つけそうで恐くて噤む。
ちがう、本当に怖いのは嫌われることだ。
―僕はずるい、嫌われるの怖くて本音を言わないんだ、
ずるい自分、だからこんなことになった。
それくらい解かっている、だって見あげる花は秋の桜だ。
ちいさな一輪の寒風の花、その色に春を見つめて支えようとしている、弱虫な自分を。
「…おとうさん、僕にもプライドがあるよ?こんな…泣虫だけど、でも知りたいんだ本当のこと、」
呼びかけて花が風ゆれる、父が肯くみたいだ。
この花を愛した俤を追いかけて、たくさんの表情を記憶から起こして、そして自分を叱ってほしい。
『周、泣けることも勇気なんだよ…だから胸はって泣きなさい、自分に正直ならそれでいいんだ、』
深い優しい声が笑いかける、こんなふう父は叱るときすら優しかった。
あの笑顔いまも大好きで、逢いたくて、だから自分は無謀でも選んで警察官になった。
父の足跡ただ追いかけたくて、父の真相すべて知りたくて、唯ただ目を逸らせなくて今も道を選ぶ。
さあ、もう新しい時間が始まる。
「お父さん、僕はね…お父さんとお祖父さんと同じ世界を見に行くよ、こんどは…もっと逃げられない世界だね?」
笑いかけ見つめる桜に春かさなる。
これは秋の桜、もうじき冬が来て雪が降る、その冷厳こえて春の桜は咲く。
そのころ自分は夢だった場所に居るのだろう、そのとき隣に居てほしいけれど、でもあなたはどこにいるだろう?
「…うそつきえいじ、」
声そっと呼びかけて、ほら鼓動が軋む。
傷んで疼いて熱くなる、それくらい逢いたがる本音が秋の初めの声を聴く。
『どんな結論でも、俺はきっと湯原を大切に想う事は止められない。隣に居られなくても、何があっても、きっともう変えられない、』
初めての秋の夜、あなたは自分にそう言った。
ビジネスホテルちいさな部屋、狭いベッドの上、あなたは泣いて微笑んだ。
あの言葉たち全て真実だと自分は信じて、あのとき持っていた全て投げだして選んでしまった。
「えいじ…僕がどんな想いだったかわかってないんでしょ…?」
声また零れる、頬なにか冷たくつたう。
視界やわらかに滲んで花ぼやける、薄紅あわく霞んでただ優しい。
『ただ、湯原には笑っていて欲しい。どんなに遠くに居ても、生きて、幸せでいてくれたら、それでいい、』
あなたの声が微笑んで泣く。
たしかめるような口調に今なら解かる、あのときあなたも恐がってくれていた。
あの言葉たち拒絶されたらと怯えて、別れの可能性に泣いて、それでも告げてくれた想いが今更にうれしい。
「ごめんね、僕わかってなくて…だから話してほしいのに、な、」
今更だけど嬉しい、恐がってくれたこと。
だから今どうしても逢いたい、聴きたい、あなたの本音どうか伝えてよ?
そんな願いに花の樹下そっと指さき吐息ふく、明日は霜ふるかもしれない。
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周太某日
soliloquy 春の席は―another,side story
桜が咲いた、秋の桜が。
「…きれい、」
庭の陽だまり見あげて微笑んで、薄紅色やわらかい。
ちいさな目立たぬ花、それでも秋の陽透かして惹かれる。
「ちいさいから…かな、」
つぶやいて唇そっと寒風なぞる。
風また冷たくなった、日ごと冬向かう陽に周太は微笑んだ。
「秋は…なつかしいね?」
秋は懐かしい、幸せと孤独が綯いまざる。
初めてふたり山の夜を見た、黄昏それから星ふる夜。
その翌朝は初雪で、黄金のブナきらめく森であなたは記憶の底から綺麗だ。
“名前を呼んでよ?”
ほら声あざやかだ、切長い瞳の眼ざし離れない。
あの瞳は初対面つめたくて嫌いで、それなのに秋の瞳はただ優しくて美しかった。
けれど翌年の秋はもう、あなたは泣いていた。
“俺を信じられないのか周太、”
信じられるわけない、だって嘘ついたくせに?
「…なんにも言ってくれないくせに、ずるい…えいじ、」
ほら唇勝手につむぎだす、これは本音だ。
本音だから貌見て言えない、言ったら傷つけそうで恐くて噤む。
ちがう、本当に怖いのは嫌われることだ。
―僕はずるい、嫌われるの怖くて本音を言わないんだ、
ずるい自分、だからこんなことになった。
それくらい解かっている、だって見あげる花は秋の桜だ。
ちいさな一輪の寒風の花、その色に春を見つめて支えようとしている、弱虫な自分を。
「…おとうさん、僕にもプライドがあるよ?こんな…泣虫だけど、でも知りたいんだ本当のこと、」
呼びかけて花が風ゆれる、父が肯くみたいだ。
この花を愛した俤を追いかけて、たくさんの表情を記憶から起こして、そして自分を叱ってほしい。
『周、泣けることも勇気なんだよ…だから胸はって泣きなさい、自分に正直ならそれでいいんだ、』
深い優しい声が笑いかける、こんなふう父は叱るときすら優しかった。
あの笑顔いまも大好きで、逢いたくて、だから自分は無謀でも選んで警察官になった。
父の足跡ただ追いかけたくて、父の真相すべて知りたくて、唯ただ目を逸らせなくて今も道を選ぶ。
さあ、もう新しい時間が始まる。
「お父さん、僕はね…お父さんとお祖父さんと同じ世界を見に行くよ、こんどは…もっと逃げられない世界だね?」
笑いかけ見つめる桜に春かさなる。
これは秋の桜、もうじき冬が来て雪が降る、その冷厳こえて春の桜は咲く。
そのころ自分は夢だった場所に居るのだろう、そのとき隣に居てほしいけれど、でもあなたはどこにいるだろう?
「…うそつきえいじ、」
声そっと呼びかけて、ほら鼓動が軋む。
傷んで疼いて熱くなる、それくらい逢いたがる本音が秋の初めの声を聴く。
『どんな結論でも、俺はきっと湯原を大切に想う事は止められない。隣に居られなくても、何があっても、きっともう変えられない、』
初めての秋の夜、あなたは自分にそう言った。
ビジネスホテルちいさな部屋、狭いベッドの上、あなたは泣いて微笑んだ。
あの言葉たち全て真実だと自分は信じて、あのとき持っていた全て投げだして選んでしまった。
「えいじ…僕がどんな想いだったかわかってないんでしょ…?」
声また零れる、頬なにか冷たくつたう。
視界やわらかに滲んで花ぼやける、薄紅あわく霞んでただ優しい。
『ただ、湯原には笑っていて欲しい。どんなに遠くに居ても、生きて、幸せでいてくれたら、それでいい、』
あなたの声が微笑んで泣く。
たしかめるような口調に今なら解かる、あのときあなたも恐がってくれていた。
あの言葉たち拒絶されたらと怯えて、別れの可能性に泣いて、それでも告げてくれた想いが今更にうれしい。
「ごめんね、僕わかってなくて…だから話してほしいのに、な、」
今更だけど嬉しい、恐がってくれたこと。
だから今どうしても逢いたい、聴きたい、あなたの本音どうか伝えてよ?
そんな願いに花の樹下そっと指さき吐息ふく、明日は霜ふるかもしれない。
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