萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

黄葉、深夜便

2013-11-30 00:25:24 | お知らせ他


こんばんわ、ホント寒くなっちゃったなって夜です。
そのためか今年の黄葉は去年より綺麗かなと。

第3回 昔書いたブログも読んで欲しいブログトーナメント

さっきAesculapius「Manaslu23」加筆終りました、もう1回読み直して校正します。
第71話「杜翳7」冒頭だけUPしたんですけど、けっこう長くなるかもしれません。

ちょっと今から出掛けて帰ってきたら書きます、笑


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第71話 杜翳act.7―another,side story「陽はまた昇る」

2013-11-29 22:10:41 | 陽はまた昇るanother,side story
In simple childhood something of the base 原点、時の初め



第71話 杜翳act.7―another,side story「陽はまた昇る」

久しぶりの屋根裏部屋は、温かい。

実家に帰って来た夜に佇んで、けれど翌朝から寝込んでしまった。
そのまま佇めなかった空間を素足のまま踏んでゆく、その一歩ごと分厚い床が頼もしい。
この部屋には父と祖父の想いが残っている、それが今なら気づけるまま周太は揺椅子の住人を抱き上げた。

「ね、小十郎…小十郎はオックスフォードから来たんでしょ、お父さんが友達に頼んで…僕のために、」

僕、そう久しぶりに自分を呼んで肩の力が解ける。
今も目上の人の前では「僕」とも言う、けれど独り呼ぶことは敢えて避けていた。

「小十郎、僕ね…僕、って言うと弱いみたいに想ってたんだ、」

ぽつり、本音ようやく声になる。
もう14年ずっと着こんだ鎧をまた一つ外す、この想いごとテディベア抱きしめる。
ふわり頬ふれる優しい毛並に懐かしい時間が温かい、あの幸福に微笑んで周太は揺椅子に坐った。

「小十郎は知ってるよね、お父さんのことで僕が意地張ってたこと…だから僕、俺って自分を呼ぶ方が強いみたいで変えたんだ、
お父さんのこと色んな人に色んなこと言われるのが嫌で、そういうの突っぱねるしか解らなくて…ただ強く成りたかったんだ、ずっと、」

強くなりたい、

父のことを誰に何も言われないほど強い自分になりたい。
そんな想いに呼び方まで変えて生き方を変えた、あの頃の記憶が抱きしめる温もりに映りだす。

「ね、小十郎?ほんとうの強さって何だと想う、僕ずっと考えてるんだ…お父さんが亡くなって泣いた分だけ考えてるの、だから教えて、」

教えて、そう問いかける事すら自分はずっと出来なかった。
父の想い籠められたテディベアごと全て忘れる、それしか自分には出来なかった。
それでも癒せなかいままの哀しみごと抱きしめる温もりを見つめて、その優しい瞳に周太は微笑んだ。

「小十郎を僕のためにオックスフォードから送ってくれたのは、お父さんの友達だよね?その人が何か言ってたなら教えて、お父さんのこと。
お父さんもお母さんを亡くしたでしょう?きっと泣いてたと想う、オックスフォードで…それをお父さんはどうやって超えたのか知りたいんだ、僕、」

知りたい、父が涙を超えた方法を知りたい。

それが自分の本音だったと今ようやく認められる。
今この時だからこそ認められたのかもしれない、その素直な想い笑いかけた。

「僕ね、お父さんが抱えこんだ秘密を一緒に分けてほしくて警察官になったよ?でも、本当に一番知りたかったのは涙を止める方法なんだ、」

涙を止める方法を知りたいなんて女々しいだろう。
じき24歳になる男がこれでは恥ずかしい、それでも等身大の本音に周太は微笑んだ。

「覚悟した分だけ素直になれてるのかな、僕…えいじがいるから」

あのひとがいるから、そう想えることは温かい。
こんな温もりも忘れかけていた、そんな時間たちが宝物に映ろう。

「…英二と光一のこと本当に僕…哀しかったんだね、小十郎…」

小さく笑いかけた真中でつぶらな瞳が見つめてくれる。
この宝物が生まれた場所へ自分も行ってみたい、いつか行けるだろうか?
そこで父の想いと出逢えるかもしれない、そんな想いに梯子が鳴り綺麗な声が微笑んだ。

「周太、」

綺麗な低い声が呼んで、見あげた向こう笑顔に光ふる。
天窓から陽光きらめいてダークブラウンの髪が黄金透かす、その切長い瞳が幸せに笑った。

「こっちにいたんだな、ベッドにいないから驚いたよ?」
「ん…こじゅうろうにあいたかったんだ」

応えながら気恥ずかしくて首すじから熱くなる。
この笑顔とすこし前に過ごした時間が気恥ずかしい、だから今も困ってしまう。

―どんなかおでおばあさまにあえばいいのかな?こういうのはじめてだものぼく

心ひとり途惑って抱きしめる毛並に顔埋めてしまう。
こんな癖は子供の頃から変わらない、けれど今この問題は初めてだから困る。
いま20分ほど前に全身ごと愛された、そんな時間の直後に他の誰かと会うなんて初めて。
それ以上に今この自分を愛撫した相手の祖母と今すぐ顔合わせるなんて、恥ずかしすぎて困る。

―あんなことしたあとすぐおあいするなんて…どうしよう、

陽だまりの席に浴衣姿で座りこんだまま20分前が紅潮に変わる。
あんなことの後は父の気配すら気恥ずかしいから書斎にも入ったことが無い、それなのに今から食事を共にする。
こんなに恥ずかしい想いをするなんて知らなかった、こんな自分の無知すら羞んだ前に端整な笑顔が屈みこんだ。

「周太、昼飯だから下へ行こうな?」

優しい笑顔ほころばせシャツの腕が抱えてくれる。
抱き上げられながらテディベアだけ椅子に残して、ふと恋人の衿に周太は首傾げた。

「…あの、シャツってブルーだった?」
「うん?ああ、」

微笑んで切長い瞳が見つめてくれる。
その眼差しが悪戯っ子になって綺麗な低い声が教えてくれた。

「タオルと盥を片づけに行ったついでにシャワー浴びて来たんだ、でも周太の匂いは残ってるだろ?」

そんないいまわしほんとにやめて?

そう言い返したいのに声が詰まって出てこない。
ただ逆上せだす意識に深呼吸ひとつ何とか声を押し出した。

「あの…おばあさまにほんとのことはなした?」
「大丈夫、」

ひとこと微笑んで梯子ゆっくり降りてくれる。
抱えてくれるまま寝室に着いて、端整な唇そっと重なり微笑んだ。

「周太の心配するようなことは何も無い、おいしく飯食ってくれたら大丈夫だから、」
「…ん、はい、」

素直に頷いて、そのまま唇ふれてみる。
いまキスの残像は温かい、この温もりすら暫く消えていた。

―アイガーの後から僕、ずっと…キスも信じられなくなってたんだ、ね、

七月の終わりの一夜、あのときを境に自分は心ひとつ眠らせた。

唯ひとり唯ひとつ想いたい、けれど想えなくなった現実に鎖された幸福がある。
あのとき自分こそ英二を光一に任せたくて望んで、それでも本音は裂かれて泣いた。
あのとき零せなかった涙ゆるやかに瞳を温めて、唯一滴そっと俯いた頬すべり落ちた。

―僕は自分勝手だね…こんなに哀しむくせに喜ぶくせに、あんなこと…ごめんね光一、

自分は身勝手、だから幼馴染を傷つけた。
あの透明な眼差しの真実を自分は何も気づけていない、だから頷いてしまったのだろう。
あのとき光一が告げた願いは光一自身すら欺くまま傷つけて、それを自分は止められなかった。
あれから幾度も考えてしまう後悔と自責ごと幸福な今に佇んでいる、その罪悪感ごと周太は微笑んだ。

「ね、英二…今日は特別があるよ?」
「どんな特別?」

綺麗な笑顔が尋ねてくれる、その眼差しは幸せに温かい。
この笑顔をもっと温めてあげたい、そんな願いに周太は笑いかけた。

「ん…英二をだいすきって伝えるための、とくべつだよ?」

大好きな人、その時間の初まりこそ自分の特別。
その特別な日を本人は忘れているだろう、だからこそ自分が憶えていたかった。
誰より大切で世界を共に暮らしたい、そう願える相手に抱かれたままダイニングに入り、その向こう綺麗な箱が嬉しい。

―おばあさま支度して下さったんだね、よかった…喜んでくれるかな?

そっと想いながら見つめてしまう箱、あの中身を自分は知っている。
それは少し子供っぽいかもしれない、けれど子供らしいからこそ贈って笑わせたい。







【引用詩文:William Wordsworth「The Prelude Books XI[Spots of Time] 」】

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Short Scene Talk 居酒屋某夜7―Side Story act.9

2013-11-29 08:00:44 | short scene talk SS
未来夜景@居酒屋、帰路



Short Scene Talk 居酒屋某夜7―Side Story act.9

「今日は楽しかったわ、誘ってくれてありがとう、笑」
「また倉田先輩も一緒して下さいね、リンの循環のことまた相談させて下さい、」
「土壌はウチとも共通項だものね、研究室に資料とかあるかも、」
「あ…それなら明日おじゃましても良いですか?」
「いいわよ、笑」
「倉田さん、このアパートで良いですか?(笑顔)(俺の入れない話になってるし周太明日の約束までしてるし、泣 でも着いた、喜)」
「はい、ここです。宮田さんも今日はありがとうございました、送ってまでいただいてすみません、笑」
「こちらこそありがとう、また、(笑顔)」
「…(英二またって言ったけどまた参加するつもりなの?またなんか変なこと言われてややこしいと困るのに、困)」
「倉田先輩、お疲れさまでした、笑 へえ、小嶌さん家と先輩ん家って近かったんだ、」
「うん、だから私もここで降りちゃおうかと思って、笑 手塚くんもココから近いよね?その方が宮田くんも楽だし、笑」
「なんか逆に気を遣わせたかな、ごめんね?(笑顔)(美代さん早く二人きりになれるよう気を遣ってくれてるりがとう、喜)」
「ううん、こっちこそ色々気を遣わせてごめんね?でも久しぶりに一緒出来て楽しかったよ、光ちゃんによろしくね、笑」
「うん、光一にも伝えとく、またね(笑顔)」
「宮田さん、倉田先輩まで送ってくれてありがとうございました、よかったらまた一緒して下さいね、笑」
「ありがとう、(笑顔)(出来ればオマエとは一緒したくないなって思うのは俺の勝手な嫉妬だろうけどごめんな?)」
「賢弥、美代さんのことちゃんと送ってね?」
「おう、もちろんだよ、笑 また明日な、周太、」
「二人も帰り気をつけてね、笑 湯原くん、助手席に移ってあげないと?」
「あ…ん、(なんかふたりのまえでってはずかしいな、照)」
「助手席は周太の指定席なんだ?ごめんな、俺が座っちゃって、笑」
「ううん、していせきとかちがうからいいの(指定席って独り占めワガママみたい恥ずかしい席うつるのあとにしよう、照)」
「二人とも気をつけて帰ってな(笑顔)(いいのってどういう意味このまま後ろ座って帰るのか周太、賢弥またお前が余計なこと言うからだ、泣怒)」




2013.11.27掲載の続き、帰り道その1です、笑

Aesculapius「Manaslu23」まだ加筆途中です、昨夜は寝落ちしました。
第71話「渡翳8」と Lost article「天津風19」は終わっています。
今日は「Manaslu23」の加筆校正が終ったら第71話の周太サイドかなって考えています。

朝に取り急ぎ、



あと、ランキングのポイントたまには押してくれると嬉しいです。
にほんブログ村と3ヶ所ありますけどドレも変なトコには飛ばないんで安心してくださいね、笑

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五彩一葉

2013-11-28 13:00:35 | お知らせ他


こんにちは、ちょっと雲が出て来たけど青空です。

写真は近場の森にて、紅くなり初めた楓のワンシーン。
昨日掲載した文学閑話の写真と同じ時に撮影しています。
薄紅から橡色、萌黄、浅葱、緑、葉の変化が見える一枝、秋色五彩ってトコですかね、笑

第4回 1年以上前に書いたブログブログトーナメント

いま不定期連載『天津風19』を加筆しました、読み直し校正ちょっとします。
Aesculapius『Manaslu23』冒頭だけUPしてあります、4倍くらいの予定です。
昨日UPした第71話「渡翳8」あと一度読み直して校正したら校了になります。

で、これら↑終わったら短編or第71話の周太サイドを夜にってトコです。

昼休憩に取り急ぎ、

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第71話 渡翳act.8-side story「陽はまた昇る」

2013-11-27 21:00:00 | 陽はまた昇るside story
When in the blessd time of early love 初恋の祝福



第71話 渡翳act.8-side story「陽はまた昇る」

浴室の扉を開きかけて、もう一つの扉が開く。
窓の光ゆるやかな廊下、真昼の光線は重厚な木材も清雅な壁紙も明るます。
あわい光に瞳細めて見つめた向こう、青いステンドグラスの扉からエプロン姿が呆れたよう微笑んだ。

「英二、お昼が冷めてしまうわよ?呼んでから何分経ったのかしら、」

いつもどおり透るアルトは困ったようでも愉しげでいる。
その視線が手許の盥とタオルも見ているあたり全て気付いているだろう。
変わらない「お見通し」この笑顔とこの家で向かいあう、それが不思議で温かいまま英二は微笑んだ。

「昼寝の寝汗を拭いてあげてたんですよ。お帰りなさい、お祖母さん、」
「ただいま英二、また言いつけを聴かなかったようね?」

深いアルトは微笑んで腕組み、涼やかな瞳が細まり笑う。
こんな眼差しの時に隠しても無駄、そう解かる経験から英二は綺麗に笑いかけた。

「俺に命令できるのは周太だけですよ?」
「それすら聴かない時があるようね、本当に困ったドン・ファンだわ、」

涼やかな切長い瞳を笑ませてエプロン姿が此方へ来てくれる。
そのまま浴室の扉を開くと慣れた手つきにタオルを出し、祖母は微笑んだ。

「英二、あなたも昼寝の寝汗をかいたようね?シャワーでさっぱりしなさい、着替えの一組くらいは置いてあるのでしょう?」

ほら、祖母は何でもお見通し。
こんな祖母だから、こんな自分でも道を踏み外しすぎず生きてこられた。
だからこそ尚更に想ってしまう母への壁がこみあげ、すぐ消して笑いかけた。

「はい、3組ほど周太の部屋のクロゼットにあります。あと着物が二組、」
「あら、そんな良いものまであるのね、英二もお点法を教わって?」

愉しげに微笑んで尋ねてくれる、その言葉に祖母とこの家の縁深さが温かい。
きっと祖母も昔、この家の幸福な時間に茶を楽しんだ。そこにある温もりに英二は微笑んだ。

「はい、周太と美幸さんに教わっています。春からですけど、」
「なら遠州流ね、」

さらり、祖母の答えた言葉に鼓動が止められる。
いま澱みなく家伝の流派が告げられた、その澱みなさに微笑んで問いかけた。

「お祖母さんは、この家によく来ていたんですよね、」
「ええ、斗貴子さんがいらした間だけですけど。それでも八年間だわ、」

八年間、

その時間に祖母はこの家の様々を見つめている。
その時間たちから自分は鍵を幾つ見つけられるのだろう?

―実況見分したいけど今日は難しいよな、でも方法は、

今日なら「現場」に「証人」が揃っている。

けれど聴かれたくない相手も立ち会ってしまう、それでも出来ないだろうか?
そんな思案廻らすまま祖母は微笑んで浴室の扉を出て行った。




久しぶりのダイニングは変わらない、けれど少し違う。
いつもと同じ席で箸を運んでいる、それなのに料理の味がいつもと違う。
それが昔馴染みの味であることが不思議だけど温かい、その温もりに黒目がちの瞳が微笑んだ。

「おばあさま、おじや本当に美味しいです…どうやって味付けするんですか?」
「お出汁をきちんと採るのよ、あとは隠し味ね。はいどうぞ、」

愉しげに祖母が笑いながら藍色の大鉢から取り分けてくれる。
朝早くから支度したらしい煮物は佳い味ふくむ、こんな周到も祖母は変わらない。
そんな「変わらない」から端緒を掴めるだろうか?そんな思案ごと箸運ぶ前で会話も運ぶ。

「隠し味…何を入れてあるんですか?」
「周太くん、当ててみて?2つあるから、」
「ん…すこし甘い感じですよね、白味噌と…酒粕ですか?」
「正解、馨くんも舌が鋭かったけど周太くんもね。英二、ごはんのお替りは?」

切長い瞳が愉しげに笑って尋ねてくれる。
その言葉に意識を惹かれて英二は質問ごと茶碗を差し出した。

「お願いします。お祖母さんは馨さんの料理、食べたことがあるんですか?」
「ええ、お点法のお席でね、」

さらり答えながら飯櫃からよそってくれる。
丁寧にしゃもじ扱いながらアルトの声は懐かしげに微笑んだ。

「馨くん、4つの誕生日から茶懐石を晉さんに教わり始めたのよ。そのために小さな包丁を誂えてね、酢の物から始めて少しずつ。
最初は身内だけの気軽なお席で出してくれたの、お庭の野菜と夏蜜柑を鯵とあわせた酢の物でね、馨くんらしい上品で優しい味だったわ、」

馨4歳、そのころ既に斗貴子は体調を崩している。
その原因は馨3歳の時に起きた、それからの手掛かりを祖母は見たろうか?
この会話から少しでも事情聴取したい、けれど言葉次第では周太も気がつくだろう。
なにかで気を逸らさせながら話を進めたい、思案そっと廻らせながら英二は綺麗に笑った。

「周太は?幾つのときに教わり始めたんだ、」
「ん…」

顔上げて、黒目がちの瞳ゆっくり考えこみだす。
記憶たぐらすまま箸も止まってしまう、そんな様子に祖母へ笑いかけた。

「身内以外の茶席でも馨さんの料理は出されたんですか?」
「そうね、ぁ、」

応えかけたアルトそっと飲みこんで、すこし沈黙する。
涼やかな瞳も思案を見つめて、すぐ落着いたトーンのまま応えてくれた。

「晉さんの研究仲間のお席には出ていたわ、馨くんがお点法することもあったの、私が水屋のお手伝いに入ったりしてね、
それ以外の方がこの家に来ることは少なかったわね、斗貴子さんも静養されていたし。学問のお仲間なら斗貴子さんも喜ぶから、」

学問の仲間なら。

そう教えてくれる言葉に晉の意図が見えてくる。
そして気づかされる過去に考えだす前、艶やかなチョコレートケーキが鎮座した。

「お?」

意外な一品に声こぼれた向こう、黒目がちの瞳が気恥ずかしげに笑ってくれる。
ダークブラウン深いシックな菓子の上、そっと優しい手がチョコレートのプレートを飾り微笑んだ。

「あの、遅くなったけど…英二、おたんじょうびおめでとう?」
「え、」

また意外で声こぼれて見つめて、記憶を手繰ってしまう。
そんな視界の真中にプレートは自分の名をアルファベットで綴る。
そういえば自分で忘れていた、こんな迂闊に祖母が笑ってくれた。

「英二、今年は誕生日なんて忘れていたんでしょう?異動して、山で訓練して、消防士さんみたいな活躍までして忙しくって、」

言われる言葉に我ながら慌しい。
そして祖母とその隣の眼差しに少し困りながら笑いかけた。

「消防士って、ニュースご覧になったんですか?」
「見ましたよ、焼焦げの制服なんて着て?何があったか一目で解かるのに連絡一つ寄越さないで困った人、周太くんも心配したでしょう?」

訊かれて、すこし困ったよう黒目がちの瞳が微笑んでくれる。
遠慮がちな視線こちらを見て、その表情につい嬉しくなって聴いてしまった。

「周太も心配してくれてたんだ?」
「ん…あの、手は大丈夫なの?」

心配で、けれど訊けずにいた。そんな眼差しが見つめてくれる。
その想い2週間を超えて伝わらす、そしてまた解ける隔てに英二は笑いかけた。

「なんともないよ?少しだけ火傷したけど二日で治ったし。ほら、」

笑って左手を差出し隈なく見せてみる。
なんともない、そう見て取った笑顔の隣も可笑しそうに笑ってくれた。

「治ったのなら本当に良かったわ、これも忙しさに忘れて連絡するなんて気が回らなかったのでしょう?その日が誕生日な事も忘れて。
でも周太くんは憶えていてくれたのよ?今朝あなたが来てからメモで、英二の誕生日ケーキをお願いしますってリクエストしてくれたの、」

そういえば自分の誕生日は奥多摩山中で落雷と豪雨のさなかだった。
あのとき日付は解かっていても何の日かなど忘れ切っていた。

―誕生日忘れるくらい、この夏は速かったな?

初任総合の終わりと同時に夏は来た。
夏、この家で「遺品」を捜し「連鎖」を探り、北壁2つ踏破した。
大切な二人を裏切り後悔して、原と出会い、後藤の肺気腫と周太の喘息を知り、初めて異動した。
それから始まった新しい立場と時間のなか誕生日など忘れてる、そんな迂闊を想う先で優しい含羞が微笑んだ。

「あの…ほんとは自分でケーキ焼きたかったんだけど…でもそのけーきもおいしいから、ね?」

ほら、こんなふうに周太は自分よりも自分を愛してくれる。

本当は周太こそ苛酷な時間に立っていた、それでも忘れずにいてくれる。
こんな相手だから想い募ってしまう日が、忘れられない夜の日が今年も廻らす。
この日だけは自分も忘れるなど出来ない、そんな想い正直なまま英二は綺麗に笑った。

「ありがとう、お祝いしてくれるなら、誕生日プレゼントに我儘を言っていい?」
「ん…わがまま良いよ?」

穏やかな声で応えながら黒目がちの瞳が見つめてくれる。
なんだろう?そんな考えこむ眼差しは気恥ずかしげで無垢が澄みわたる。
すこし紅潮した頬から初々しい、そんな貌が愛しくて唯ひとり見つめたまま幸せいっぱい笑いかけた。

「このケーキ、俺の誕生祝だけじゃなくて初夜一周年のお祝いにもして?」

あの夜が、あと数日で同じ夜の日が訪れる。

その夜をふたり抱きあいたかった、けれど叶わない。
その日に周太は独りあの場所へ本当に行ってしまう、それが解かるから今日を抱きあいたかった。
だから真昼のベッドを望んだ、そのまま今も誕生日ケーキに願いたくて笑った向こう、大好きな瞳が睨んだ。

「…えいじおばあさまのまえでなんてこというのばかえいじ」
「あ?」

言われて視線を動かした先、涼やかな切長の瞳が笑い堪えている。
この存在を今つい忘れて発言してしまった、そんな迂闊にまた自分で困って、けれど祝福の時は今温かい。







【引用詩文:William Wordsworth「The Prelude Books XI[Spots of Time] 」】

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文学閑話:楓、紅葉、sycamore×古今東西

2013-11-27 20:10:19 | 文学閑話韻文系
言の葉、紅初めて 



文学閑話:楓、紅葉、sycamore×古今東西

The day is come when I again repose
Here, under this dark sycamore, and view

再び安らげる時が来た日
ここ、楓の木下闇に佇んで、そして見渡せば

William Wordsworth「Lines Compose a Few Miles above Tintern Abbey」の一節です。
詩に謳われる「sycamore」は=鈴懸の木・プラタナス、または楓の一種をさす単語になります。
秋の彩変わる情景を謳っているんですけど11月下旬、近場の森で楓の色変が始まりました。
黄葉の多い森なんですけどね、楓も何本かあって今は様々な色を見せています。




These plots of cottage-ground, these orchard-trufts,
Which at this season, with their unripe fruits,
Are clad in one green hue, and lose themselves
‘Mid groves and copses.

草葺小屋の地が描かすもの、果樹園に実れる房、
この季節にあって何れも、まだ熟さぬ木々の果実たちは、
緑ひとつの色調を纏い、そしてひと時に消えて移ろいゆく
木々と森の中深くから。

上と同じ「Lines Compose a Few Miles above Tintern Abbey」です。
色の変わってゆく季節を謳った英国詩ですが、今この時の森そのままだなと。
色づきだす季は昨日今日で全く色彩が変るんですよね、だから毎日通っても厭きない、笑




楓をもちて紅葉の長とす。是立花の賞翫極極の秘伝也。
一色物と定て外の木草をまぜずして、楓ばかりを以て一瓶を成就す。名付て真の一色と云ふ。

貞享5年1968年『立華時勢粧』にて富春軒仙渓が記した言葉です、
紅変する葉っぱではカエデが一番綺麗だ生け花の美的感覚にとっちゃ最高なんだよね、
他の花を添えずに一色だけ、楓だけで活けてもキッチリ立花として完成できる、だから本物の一色って云うんだよ。
って書いてあるんですけど、コレにあるよう華道で楓の紅葉は「真の一色」と尊重されています言われます。

前にも引用した時に書いたんですけど書籍タイトル『立華時勢粧』は「りっかまようすがた」と読みます。
立華=立花・花の生け方、時勢・まよう=時の経過ごと変化する・移ろう、粧=飾る姿、って感じの意味です。
なので「季節ごと飾ってみる花の生け方」という題名でいわゆる『華道テキストブック』ってタイトルになります。



安し惹きの 山下光る 毛美知葉の ちりのまがひは 今日に聞ある香も 阿倍継麻呂
あしひきの やましたひかる もみちばの ちりのまがひは けふにもあるかも

安らぐよう私の脚を惹きとめる、あの山の許に輝く紅葉、
色づいた葉が散り乱れて塵のよう軽く煌めくのは今日と聞いたけど、その通りかもしれない。
君の肌も戀に紅染めて僕を惹きとめて、僕の心を乱して塵のよう軽く僕の心を翻されたのは、今日この香。

前にも載せた歌ですが『万葉集』第十五巻に掲載される、遣新羅使が対馬に泊まった時の歌だそうです。
新羅は現在の朝鮮半島北部にあった国で「遣新羅使」は新羅国へ国交に向かう外交官になります。
歌詞にある「毛美知葉」は「黄葉」色変した葉のこと全般で植物種別も黄色のみではありません。

歌中の「ちり」は「散り」と「塵」、「まがひ」は「乱い」と「紛い」の掛詞。
で「惹きの 山下光る 毛美知葉」は素直に訳すとR18指定になります、なのでココには書きません、笑
もし知りたいなって方がいらしたらメールメッセージでリクエスト下さい、個別にて回答させて頂きます。
その辺を懸けて相聞歌=恋歌に訳してあるんですけど、ホントは単なる情景描写の歌かもしれません、笑



週刊連載のSavant「至上の点1」加筆校正まで終わっています、馨と紀之@講義室です。
会話短篇「Short Scene Talk 居酒屋某夜6」も校了しています、英二と周太の擦違いです、笑

第71話「渡翳8」前半UPしてあります、このあと後半を加筆していきます。
それ終わったら不定期連載or『Aesculapius』どちらか掲載の予定です。

取り急ぎ、





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Short Scene Talk 居酒屋某夜6―Side Story act.8

2013-11-27 01:17:23 | short scene talk SS
未来夜景@居酒屋、行違



Short Scene Talk 居酒屋某夜6―Side Story act.8

「宮田さん、モテたいのは一人だけってことは付合ってる人いるんでしょ、どんな人ですか?」
「どんな人だと思います?(笑顔)(あなたの隣に座ってますよ、ほんと今すぐ俺の隣に座らせて独り占めしたいんだけどね、泣)」
「すごく可愛いひとかなって気がするけど、笑」
「(なんかおれのはなしになってる?)きりすてかんばつもいいとおもうけどたんきでできるし…(どうしよう英二まさか暴露とかしないよね心のじゅんびこまるのに、照困)」
「養分持ち出しも無いもんな?って宮田さんの付合ってる人って俺も訊いてみたいな、」
「そう?(笑顔)(賢弥がこっち向いた、なら周太も話に入ってくれるかな、期待)」
「こんな美形と付合う相手ってどんなかなって思いますよ?笑 小嶌さんと周太は知ってんだろ?」
「うん、知ってるけど私は黙秘するね、笑」
「小嶌さんは黙秘か、笑 だったら周太はヒントくれよ?」
「え…(そんなおれにきかれてもこまっちゃうなんてこたえよう?照困)」
「周太、ヒント出して良いよ?(笑顔)(ストレートに答え言ってくれたら嬉しいな照れて可愛い周太いますぐ攫ってXXXしたいXXとか以下略+恍惚)」
「ほら周太、宮田さんの許可も出たんだし教えろよ?」
「ん…(どうしようこんなのこまるのに英二どんな顔して…ってなに笑ってるのわざと俺を困らせて楽しんでるの?英二のばか)しらない、」
「え?(しらないって周太どういう意味?ってあれなんか怒ってるの周太?」
「あはは、周太なんか照れちゃってるんだろ?そんなに宮田さんの恋人って美人なんだ、笑」
「…ごそうぞうにまかせます、おれえいじのれんあいじじょうとかきょうみないし(ほらまた賢弥にわらわれちゃったでしょ英二のばかしらない、怒)」
「周太、そんな冷たい言い方しないでよ?(笑顔)(どうしよう本当に周太なんか怒ってる?賢弥またお前が余計なこと言うからだ、怒泣)」




『Savant』Vol.3「Supreme 至上の点 act.1」加筆Verを貼りました、読み直し校正ちょっとします。

第71話「杜翳6」加筆校正終りました、R18なので18歳未満の方は冒頭とラストだけ閲覧可です、笑
Aesculapius「Manaslu22」も加筆校正まで終わっています、奏子の両親と雅樹たちの対話です。

取り急ぎ、


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Short Scene Talk 居酒屋某夜5―Side Story act.7

2013-11-26 06:54:06 | short scene talk SS
未来夜景@居酒屋、会話



Short Scene Talk 居酒屋某夜5―Side Story act.7

「ほんと宮田さんってイケメンですね、こんなカッコいいのに気さくだし。モテるでしょ?」
「俺がモテたい相手は一人だけですよ、倉田さんこそモテそうですね(笑顔)(俺のモテたいは周太限定、周太ちゃんと解かってくれてるよな、あれ?)」
「それはね賢弥、たぶん檜の葉っぱが問題だと思うよ?…ヒノキは土壌被覆効果が低いでしょ、」
「やっぱ枝打ちが足りないよな?林内照度が低くなってるとは思ってたんだけどさ、」
「下草が無いと土壌が浸食されちゃうし養分も流出するから痩せちゃうわ、枝打ちはしないと、ね?」
「小嶌さんも同意見か、でも人手不足なんだよなあ、土だけじゃなくて若者も流出しちゃってるからさ、俺も今はまだ帰れないし、」
「ん…じゃあ間伐して落葉広葉樹を混ぜて植えたら?ヒノキの葉っぱ以外のリターを林床に入れられるし、林内照度も上がるよ?」
「(俺が混ざれない会話になってる周太、泣 でも諦めないもんね)周太、何の話してるの?(笑顔)」
「ん、ヒノキ人工林の流出水量を防ぐ方法についてだよ…賢弥の実家の山で今困ってるから相談中なの、ちょっと英二は倉田先輩と話してて?」
「うん、いい方法が見つかると良いな(笑顔)(山の問題は俺も困るけど周太でも俺が女とサシ会話して気にならないのか俺より賢弥かよ、泣)」
「森林チーム、ちょっと白熱中ね?宮田さん、とりあえず飲みますか?笑」
「そうですね、ノンアルコールでも酔えるなら(笑顔)(ほんと今ちょっと飲みたい気分なんだけど、泣)」
「ふふっ、そういう言い回しとかモテる男だなって感じですね、笑」
「そうだと嬉しいんですけど(笑顔)(ほんと周太にはモテたいのに振り向いてくれない放置されてる俺、泣、」




2013.11.24の続き、英二@東大農学部飲み会です。

Aesculapius「Manaslu21」加筆ほぼ終わり、もう一回読み直して校正します。
さっき第71話「杜翳6」草稿UPしました、また加筆しますがややR18ご注意です、笑
で、加筆校正したら週刊連載+順延中の不定期連載を今日は載せたいと思ってます。

朝に取り急ぎ、


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第71話 杜翳act.6―another,side story「陽はまた昇る」

2013-11-26 00:10:39 | 陽はまた昇るanother,side story
From these remembrances 記憶の今 
※念のためR18(露骨な表現はありません)



第71話 杜翳act.6―another,side story「陽はまた昇る」

絶対の約束ならキスだけじゃないよな?

その言葉に声に鼓動ひとつ響いて、囁きの吐息が唇ふれる。
ふれる吐息は深い森のよう馥郁ほろ苦く甘い、この香に声に息が止まる。

「未来の花嫁さんと絶対の約束をさせて、体ごと…約束は肌で感じ合いたい、」

告げてくれる声を綺麗に低く響かせながら白皙の貌が微笑む。
見つめてくれる端整な切長の瞳は熱い、そんな相手に声が詰まった。

「ぁ…、」

唇かすかな吐息こぼれて、その香ごと端整な唇が重ねられる。
ふれる温もり甘くキスに交わされて呼吸から奪う、もう融けだす狭間が名前を囁く。

「周太、愛してる…周太、」

呼ばれ告げられて聴覚から惹きこまれる。
呼んでくれる唇ごと想い重ならす、その通う吐息ごと抱きしめられてゆく。
ブランケットごと肩を抱かれて、長い指が衿元から浴衣は寛げられ素肌が晒される
求められる今に肌震えだす、その途惑いごとブランケット脱がされて声がこぼれた。

「…っぁ、」

小さくこぼれた喘ぎの唇がキス閉じこめられる、腰から兵児帯が解けてゆく。
頬ふれる髪から黄金きらめくまま帯は解かれ抜かれて、そっとキスの唇が微笑んだ。

「きれいだな、周太の肌は…困ってる顔も可愛い、俺こそ困るよ?」

困るだなんて、あなたが困らせているのに?

そんな想いごと抱きしめられ浴衣寛げられてゆく、その羞恥が紅潮に奔りだす。
もう赤くなってしまう首筋へ唇ふれかけ肌震えて、気恥ずかしさに周太は声を押し出した。

「…あの、おれずっとたべてないから…あまりしすぎないでね」

いつもの夜を想うと保たない、そんな心配が声になって恥ずかしくなる。
こんなこと言うなんて期待しているみたい?そう心が自答して羞むまま綺麗な低い声に訊かれた。

「周太、一昨日から祖母のアップルサイダーしか食ってないとか?」
「ん…おばあさまのりんごと水と薬だけなの、ココアもさっきのが久しぶりで…だからたいりょくないから」

素直に応えながら言訳が気恥ずかしい。
こんな言訳は求められている自信が無かったら言えないのに?

―光一と較べられるの怖くて自信無いって想ってたはずなのに…こんなこというなんておれじいしきかじょうっぽい、ね、

綺麗な幼馴染と自分を較べられてしまう、それが怖い。
だから2週間とすこし前、あの夜も自分を見られないよう灯りを消してと願った。
それなのに真昼の明るいベッドで「しすぎないでね」と言ってしまった自分が恥ずかしい。
気恥ずかしくて視線つい逸らして、けれど笑顔ほころばず端整な衿元でワイシャツのボタン外れた。

―あ…きれい英二、

心そっと溜息と見つめてしまう、そんな視界の真中で白皙まばゆく露わになる。
すぐボタン外れゆくままワイシャツゆるんで木洩陽が素肌を照らしだす。
その隆線なめらかなラインが瞳を惹く、そんな溜息また零れる。

―白くて綺麗な肌なのに筋肉も綺麗で…ほんと王子さまか騎士みたい、だね、

脱げてゆく衣服、その狭間から白皙の裸身が顕れる。
ワイシャツ落ちかける肩に木洩陽ゆれて高潔な気品あふれだす、その艶が鼓動を撃つ。
いま見ている肢体は同じ男で同じ年齢、それなのに自分と違い過ぎる美貌に羞まされる。

かたん、

床にベルトが鳴ってスラックスのウェスト外れて、逞しい腰が垣間見のぞく。
あの腰が夜に自分を支配している?そんな想いごと周太の浴衣を白皙の手が披いた。

―あ…

心が聲こぼして、けれど喉につまって音は無い。
竦んだまま見あげる笑顔は綺麗で、陽に透ける髪の黄金が幸福の記憶と響く。
あの秋ごと抱かれてしまう?そんな想いに声ごと奪われるまま半裸の美貌に頬寄せられて、純粋な誘惑が囁いた。

「きれいだ周太は…大好きだ、体ごと全部を愛させて…周太、」

体ごと全部、そんな言葉に自意識過剰が掴まれる。
そんな肌へ接吻けられて羞恥すら懐かしいまま震えだす。

「…ぁ、ん…」

震えごと零れだす声が甘くて恥ずかしい、こんな自分に自分が途惑わされる。
途惑うまま首すじの唇が熱い、熱くて融かされるキスゆるやかに肌を降りてゆく。
うなじから肩、鎖骨、胸元、熱の刻印ごと時間が戻されて一年前、秋の初めの夜に肌が熱い。

『周太、』

ほら、初めて呼ばれた名前が記憶で切ない、そして今ふれる唇に映りだす。

唯ひとり見つめられ触れられた初めての夜が今、接吻けに吐息と肌ふれる。
初めてだった、あのとき初めて肌交わす恋愛を教えられて全てが始まり今を抱かれてゆく。

―ほんとうは怖かった、裸にされることも触れられることも痛くて不安で…でも幸せだった、

素肌を見つめられ、ふれられ、体深く冒される。
それが大人の恋愛なのだと初めて知った、あの夜の傷みも温もりも懐かしい。
あの一夜で全てを刻まれてしまった恋愛の肌が今も応えてしまう、そんな本音ごと恋人の髪を掌が抱く。

あの幸せは今も自分に与えらえる?

もう秘密も嘘も見つめあう今、それでも約束だけは真実だと肌から刻まれる。
こんな約束は叶わないかもしれない、それでも恋人の熱は初めての夜と同じ傷に接吻ける。
この今も与えられる熱ごとふれる恋人の頬すこし微笑んで、その長い指が下着のウェストふれ声が出た。

「…ぁ、あのえいじ」

途惑うまま声こぼれて、けれど恋人の手は動いて肌に風ふれる。
ふわり木洩陽の熱に照らされた肌へ視線ふれる、もう腕だけしか浴衣に隠せない。
明るい真昼のベッドに繕えないまま恋人の瞳に曝される、その眼差しが熱に微笑んだ。

「きれいだ…また綺麗になったね、周太は…俺の花嫁さん、」

綺麗な低い声に微笑んでワイシャツの腕が自分の脚を抱えこむ。
窓照らされるまま無毛の肌に光が映ろう、こんな子供じみた自分の脚が恥ずかしい。
そんな羞恥ごと開かれてしまう脚のはざま、あわい繁みふれる視線に紅潮が肌を駈けだす。

―見られてる、俺も知らないところなのに…英二だけが見て、知って、

自分でも見えない肌を知っている唯ひとり。
こんな現実が肌深くから熱を呼んで染めあげる、もう全身が赤くなる。
あまやかな羞恥のまま微熱に冒される視界から端整な瞳が笑いかけた。

「周太、俺ずっと寂しかったよ…メールもなくて哀しくて俺、ほんと傷ついて…だから周太の全部で受けとめて、癒して?」

しゅっ、

かすかな衣擦れが響いて、白皙の脚が光に顕れる。
艶めく肌に惹きこまれるまま長い指が自分の体なぞらす、その温もりに震えてしまう。
見あげる肢体は大きく艶やかに瑞々しい、その美貌に気後れさせられる笑顔が周太の腰へ接吻けた。

「ん…ぁ」

自分の唇を零れた声、甘ったるくて恥ずかしくなる。
こんな声に自分の本音かすめて竦んでしまう、もう抵抗の力なんて無い。
肌ふれられる熱に惹きこまれ募らされる、そんな想いごと委ねるまま肌の深奥が接吻けられた。

「ぁっ、」

いま何をされたの?
いまキスふれた肌がどこなのか、それが意識を引き戻す。
このまま今ふれることは駄目、その困惑ごと周太は恋人の頭を押した。

「えいじまって!」

まさか支度も無く触れられると想わなかったのに?
この意外に驚くまま恥ずかしくて逃げたくて腰も逃げかける。
けれどワイシャツの腕に抱きこまれるまま密やかな肌は唇の熱に放されない。

「だめえいじっ、なにもじゅんびしてないのにだめっ…ぁあ」

男同士で体深くから愛されるなら、準備の無いまま出来ない。
それなのに今は何もしていなくて、けれど求めてくれる微笑の声が囁いた。

「…だめじゃない周太、ここも周太は綺麗だから大丈夫…俺にまかせて、」
「っ、だってえいじしたく…っあぁ…っぁ、ぁ」

止めようとする声、けれど喘ぎこぼれて融けて委ねてしまう。
逃げかけた腰もワイシャツの腕に抱かれるまま解けて、もう肌が赦しだす。
ふれる唇に隠れた蕾ほころんでゆく、肌ふかい襞へ熱挿しこまれて声が吐息になる。

「ぁ…えいじ…ぁあ…ん…」

あまくなる吐息ごと肌が披かれる、もう深くから唯ひとり熱を求めだす。
それでも恥ずかしくて逃げたい、そう想いながら逃げられない接吻けの蕾へ指長く挿しこまれる。
ゆるやかな熱と感覚に解かれてしまうまま吐息だけ零れて、深く熱灯された腰も脚も絡まれ愛しい声が告げた。

「愛してる周太…俺を受けとめて、」

ほら、もう自分は望みどおり侵される。
こんな自分が淫らに想えて恥ずかしい、けれど全身が拒めない。
ただ見あげて、視線から囚われる熱が深奥の蕾へ接吻けた瞬間かすかな音が鳴った。

かちり、

この音は知っている。
幼い日から聴き慣れた音は玄関が開く音、家族が帰って来た合図。
そんな音に一瞬で羞恥ごと意識クリアに戻って周太は遠慮がちに微笑んだ。

「あのえいじいま…げんかんひらいたみたい、」
「え?」

告げた真中、切長い瞳がぽかんと見つめてくれる。
不思議そうに見つめて首傾げこむ、そんな仕草が可愛くて周太は微笑んだ。

「あの…玄関があいたの、おばあさまかえってきたみたい?」

告げながら浴衣を掻き合わせ肌を隠して、同じに階下の気配も靴を脱ぐ。
この3日間で聴き慣れた音は想った通り、やっぱり顕子が帰ってきた。
そんな予想に端整な貌は泣きそうになって周太を抱きしめた。

「は…、」

頬ふれる吐息は熱いまま、泣きそうな落胆が耳元へ接吻ける。
こんなにも落込んでしまう相手だから信じたくなってしまう。
そんな想いごと抱きしめ微笑んだ向う、朗らかな声が呼んだ。

「英二、周太くん、お昼にしましょう、降りていらっしゃいな。ちゃんと英二はエスコートしてきなさいよ、節度あるマナーでね?」

ほら、聡い優しい声は陽気なまま笑ってくれる。
あの声に応えて久しぶりの食事を摂ってみたい、きっと今なら美味しく感じられる。
だって今こんなに求めて泣きそうな人が傍にいる、それが嬉しくて周太は大好きな人にねだった。

「ね、英二、一緒にごはん食べたいな、起きて?」
「うん…俺も周太と飯食いたいけど、」

綺麗な低い声が微笑んで頬そっと離れ、見つめてくれる。
露わなままの肩に窓の木洩陽きらめく、その輝きにダークブラウンの髪は黄金を透ける。
白皙の微笑に金色の翳まばゆい、ただ美しくて見惚れてしまうまま強く抱きしめられ一息、灼熱に挿された。

「あっ」
「周太、…っ」

呼ばれて、その吐息ごと唇重ねられ声が奪われる。
密やかな蕾は灼熱に披かれ甘く深まらす、脈打つ鼓動が自分を穿つ。
もう深奥で愛しい体温が息づき揺らぐ、ただ灼かれだす想いごとキスの唇が微笑んだ。

「…周太は温かいな…優しくて温かい、こんな俺にまで…愛してる」

愛してる、そんな言葉ごと唇また結わえられて沈黙の熱に鎖される。
深められるキスに舌ごと声は囚われて喘ぎすら零れない、その熱が体深く熾きて響きだす。
いま抱きしめてくれる体温が深奥を穿ち貫く、ただ納めて重ねた腰は動かないままで、けれど体内に熱は高くなる。

―こんな…おばあさまがいるのにこんなこと…みだらってこういうのなんだ…きっと

問いかけたい想いごと奪われた声、けれど恋人のキスは気付いている。
唇も秘めた肌も恋人は接吻ふれて灼熱を徹す、熱くて、動かない瞬間のまま熱が冒してしまう。
そんな全てに肌は深奥から応えたがる、けれど階下の気配に恥ずかしくて途惑うまま今どうしたら良いか解らない。

「…ぁ、」
「だめだよ周太…静かにして」

喘ぎそっと窘められて静謐のベッドに籠められる。
ゆるやかな木洩陽ふるシーツの波間にふたり、浴衣ひとつ隔てながら灼熱の肌一点と唇に繋がれる。
ただ熱くて、融けたいと願うだけ顕子の気配に途惑うまま羞恥すら猥らに想えて、けれど深奥の肌がふるえた。

―あっ…

鼓動に叫んで、貫く灼熱に染めあげられる。
深くに、肌に、熱迸って甘い奈落へ惹きこまれるまま力が消えてしまう。
いつもの夜とは違う、そんな沈黙の抱擁に融かされ解かれるまま瞳から熱こぼれた。

「…しゅうた、同時にいけたね…うれしいよ、」

綺麗な低い声が微笑んで瞳に優しい唇ふれる。
そっと拭われる温もりに鼓動また疼く、その痛みに周太は唇を披いた。

「…えいじのばか」

本当に馬鹿、こんなことするなんて?
こんなこと嬉しい分だけ恥ずかしい、その羞恥が声から責めた。

「おばあさまいるのにこんな…こんなの…どんなかおでしたにいけばいいの、ばかえいじちかんばか…ばか」
「ほんと馬鹿だな、俺って、」

嬉しそうに笑って端整な唇キスふれる。
ふれるだけ、それでも嬉しい分だけ羞恥に拗ねたい真中で幸せな笑顔ほころんだ。

「ごめんね、周太?でも周太が好きすぎて馬鹿になるんだ、離れてた分だけ歯止め利かない馬鹿になってる、」

笑って抱きしめて、その唇が腰回りの肌ふれて雫を拭いだす。
ゆっくり舐めとられる肌から羞恥が声つまって、そっと離れた長身がベッドから起きあがる。
乱れたワイシャツは波の跡あざやかで、窓の光きらめかすまま長い脚をスラックスに覆うと英二は微笑んだ。

「お湯とタオル持ってくるな、昼寝の寝汗拭いて着替えさせるって祖母には言うから大丈夫、だから怒らないで待ってて、周太、」

笑いかけてくれる切長い瞳は幸せなまま優しい。
優しくて、長い指の手もブランケット優しく掛けてくれる。
こんな笑顔も仕草も嬉しくて拗ねきれない、ただ今の瞬間が幸せで、幸せな分だけ信じたい。

「周太、」

ほら、名前を呼んで幸せが微笑んで、その唇がキスをくれる。
ふれた温もりは深い森の馥郁が愛おしい、そして想い募らせ恋また深くなる。
こんなふう想ってしまう笑顔は唯ひとり、この幸せをくれる人は扉を開いて綺麗に笑った。

「すぐ戻る、待っててくれな、」

綺麗な笑顔を魅せて、静かに扉を閉めてくれる。
遠ざかってゆく足音も軽やかに端整で、そんなことにも幸せは今も篤くまばゆい。
いま一年前の秋の幸福がこんなふうに贈られる、だから一年後の秋に今この幸福を信じてしまい。

今この忘れたくない幸福に未来を願いたい、そんな祈りに今の温もりごと周太はブランケットそっと抱きしめた。







(to be continued)

【引用詩文:William Wordsworth「The Prelude Books XI[Spots of Time] 」】

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Short Scene Talk 居酒屋某夜4―Side Story act.6

2013-11-24 21:43:16 | short scene talk SS
未来夜景@居酒屋、思惑



Short Scene Talk 居酒屋某夜4―Side Story act.6

「恋人ナントカより今はオーダーよ、笑 何頼もう、」
「周太は何食いたい?(笑顔)(美代さん話ちゃんと逸らしてくれてんだな、ありがとう、喜)」
「ん…海老真薯とか(英二が好きだよね、照)…英二は?」
「俺もそれ食いたいなって思ってたよ、周太と一緒で嬉しいよ?(笑顔)」
「ん…(だって好きそうなの選んで言っちゃったもの、照)美代さんは?」
「私もそれ食べたいな、手塚くん、ここ食べ物も良いメニューね?」
「やっぱ小嶌さん好みが多いんだ?なら周太も好きなの多いだろ、」
「周太、好みの多い?(笑顔)(なんだよ賢弥また俺と周太の会話に横入りすんなよ、怒)」
「ん、好き…だよ?(だって英二の好きそうなお惣菜けっこう多いんだもの、照)」
「小嶌さんと湯原くんって好みが一緒なのね、気の合うカップルって良いわよね?」
「っ、(何言ってんのこのひとムカつく美人だけど却下っていうか賢弥おまえが余計なこと言うからだ)」
「違いますよ、倉田先輩、私と湯原くんはカップルじゃないです、ね、宮田くん?」
「うん、でも一番仲良い友達だよね、ふたりは(笑顔)(ありがとう美代さんホント感謝、)」
「違ったんだ?森林講座でも公認だって噂なのに、間違えてごめんね?」
「いえ…なんかよくおれたちまちがわれるんでだいじょうぶです、(ほんと間違われるね俺と美代さんて?)」
「俺も最初は想ったもんな?でも小嶌さんと周太ってお似合いだと思うけどさ、宮田さんどう思います?」
「どうかな、(笑顔)(うるせえんだよ賢弥また煽ってんじゃねえよ、っていうかお願い周太ちょっとは否定して、泣)」




今から書きかけ「Manaslu21」倍くらい加筆します、
それ終わったら短篇か不定期連載+Aesculapiusか第71話の続きかなと。

昨夜ちょっと一本グランプリ見ちゃった+今日も出掛けたんで遅筆になってます。
ちなみに自分としてはピース又吉とバカリズムが笑った回数多かったんですけど、笑
あらためて又吉さんは頭良いなって思いました、御禿之大神とか、笑

取り急ぎ、




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