萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

未来点景 soliloquy めぐる秋に、―another,side story

2016-09-30 00:10:10 | soliloquy 陽はまた昇る
For all sweet sounds and harmonies あまい香も聲も、
周太某日@第85話+X日後



未来点景 soliloquy めぐる秋に、―another,side story

ちいさな日常ちいさな喧嘩、その始まりは君。
だって遅れてきたくせに、いきなりその質問?

『おまたせ周太、そのメール誰?』

こんな質問ほら、あれだ、プライベートの侵害?
つい睨んだテーブル越し、白皙の笑顔きれいに言った。

「遅れてごめんな周太、これでも走ってきたんだけど許してくれる?」

ずるい、その笑顔。

―ついゆるしたくなっちゃう、ね…きれいで、

切長い瞳ふちどる睫こまやかな陰翳、あの翳り哀しそうで。
白皙なめらかな輪郭シャープに削ぐ、そのライン凛々しくて見惚れてしまう。
特にほら、顎から首すじ凛々しいライン、シャツの襟元あざやかな鎖骨のくぼみ、まるで彫刻のよう惹きこまれる。

もう言いなり全部ゆるしてしまいたい?そんなカフェの窓辺、マグカップに白皙の指ふれた。

「これココア?ひとくち飲ませてよ、周太?」

長く細い指がマグカップからむ。
そんな仕草ひとつ綺麗で、つい惹きこまれかけて首ふった。

「だめ、英二は英二で頼んで?」
「俺は俺でオーダーしたよ、でも今すぐ飲みたいんだ、」

言い返してくれる低い綺麗な声。
見つめ返す瞳も綺麗で、つい見惚れてマグカップ盗られた。

「あ、」

声が出て、でも手が出遅れる。
そのまま白皙の手はマグカップかたむけ、凛々しい唇そっと口つけた。

ほら?首すじもう熱い。

―だめこんなのいしきしちゃだめ、でも、

意識してしまう見てしまう、あの唇。
こんなこと馬鹿みたいだ?そう解かっているのに逆上せて熱い。
こうなると解かっているから止めたい唇、けれど勝手に飲んでしまった笑顔ほころんだ。

「ほっとするな、あまいのも良いね周太?」

きれいな低い声が笑ってくれる。
こんな声ほんとうに大好きで、つい頷いた。

「ん…あまいのもいいよ?」
「そうだな、周太なんか甘いもの頼んだ?オレンジケーキとか美味そうだよ、」

笑ってメニュー広げてくれる。
指さす白皙あいかわらず綺麗で、でもどこか逞しくなった。

―きっと山だね…毎日の訓練でザイル繰って、

出逢ったころ、長い指は節くれ一つなかった。

―苦労知らずの手って思ったな、おぼっちゃまのクセにって…はらがたって、

なめらかな白皙の手、細く長い美しい指。
傷ひとつない手に育ちから全て見えるようで、けれど今はもう違う手。
いくども豆潰し、火傷も負い、薄れてはいるけれど無数の傷痕が刻まれた手。

―こんなだから憎めないんだよね、こんな…遅刻されても、ね?

どうして今も遅れたのだろう?
なんて話してくれるまで訊かない、でもそれでいい。
そんなふう想えるほど時間いくつも重ねた相手は綺麗な笑顔で言った。

「それで周太、さっきのメール誰?」

やっぱり訊くんだね?ああもう台無し。

「かんけいないでしょ?」

ほら言い返してしまう、だから訊かれたくないのに?
こんな面倒リンクの始まりに綺麗な低い声が笑った。

「関係あるよ周太、周太の予定が解からないと俺も困るだろ?」
「こまるって、なにが困るの?」

また言いかえす、マグカップ取り返し抱えこむ。
口つけかけて、ふっと馥郁かすかな甘さに首かしげた。

「…英二、香水を変えたの?」

いつもと違う甘い香、これは君の匂いと違う。
けれど知っている甘い香に大好きな声が笑いかけた。

「変えてないよ?たぶん花じゃないかな、」
「…花?」

尋ねて見た先、白皙の笑顔が窓を見る。
切長い瞳の視線そっと追いかけて、懐かしいオレンジ色に微笑んだ。

「ん…きんもくせい咲いたんだね、」

あまい芳香やわらかに咲く、この香は秋を呼ぶ。
あまい風さわやかに頬ふれて、すこし開いていた窓に笑ってくれた。

「そうだ、キンモクセイだったな?匂いは憶えてたんだけどさ、」
「記憶に残る香だよね、金木犀…いいにおい、」

微笑んだ唇そっとあまくなる。
風かすめる甘さにマグカップ口つけて、ひとくち甘くて息呑んだ。

―あ、かんせつきす?

ああどうしよう、同じマグカップ口つけてしまった。
気恥ずかしくて、もう熱い首すじ掌そっと隠しこんだ。

―だからだめっていったのにえいじったらもう、

心裡つい文句ながれる。
でも声にできない気恥ずかしさに綺麗な低い声が言った。

「周太の予定がわからないと俺、困るよ?予定を考えないといけないだろ、飲みいくなら誰とどこなのか教えて周太?」

また話が戻るんだ?
飽きず廻らされる会話にタメ息こぼれた。

「予定って…別にいいでしょ?英二いつも帰り遅いんだから、」
「俺のが遅いかもしれないけどさ、でも夜の予定は大事だろ周太?」

すぐ言い返して見つめてくれる、この眼ざしに揺らぎそう。
だって睫こまやかな陰翳が綺麗だ、つい惹きこまれそうで首ふった。

「…しつこいえいじ、」
「しつこいよ俺は?周太にそれだけ夢中だから、」

さらり言い返してくれる、その言葉に熱また逆上せだす。
こんなに赤くなるなんて恥ずかしい、唇そっと噛んだまま言われた。

「周太は酒弱いだろ?俺が迎えにいかないといけないし、飯も俺一人になるしさ、夜のこともあるから教えてよ周太?」

たしかに自分はアルコールに弱い。
たしかに迎えに来てもらうかもしれない?納得して、けれど止まった。

「…よるのこと?」

それ、何のことだろう?
立ち止まった思考に綺麗な声が笑いかけた。

「飲みすぎた夜はセックスよくないだろ?だから前の晩にしとかないといけないからさ、いつどこで誰と飲むのか教えてよ周太?」

ああもうなんてこと言うんだろうこんな場所で?

「……もうしらない、」

かたん、

椅子が鳴って立ちあがる、だって顔こんなに熱い、きっともう真赤だ。
こんなの恥ずかしくて、読みかけの本と鞄つかんで見おろして告げた。

「おかいけいしといてえいじ、じゃあね?」
「え、待ってよ周太?」

がたん、椅子もうひとつ鳴る。
立ちあがった長身はシャツさわやかで、その困り顔も綺麗で見惚れたくなる。
こんな顔いつも毎日ずっと見ていたい、そんな想い見つめながらもカフェの片隅、そっぽ向いた。

「さきにかえってるから、」

先に帰っている。

そう言える日常なんて、ありふれている。
だけど自分には大切で、愛しくて、得難かった今に扉を開いた。

同じ帰り道へ、君と。


(to be continue)

周太と英二もたまにはノンビリで、笑
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未来点景 soliloquy めぐる秋―another,side story

2016-09-29 22:00:20 | soliloquy 陽はまた昇る
The day is come when I again repose 安らぎの再来を、
周太某日@第85話+X日後



未来点景 soliloquy めぐる秋―another,side story

いつかと願っていたのは、ごくふつうの日。

「…まだかな?」

ひとりごとページ零れて窓を見る、空が青い。
見あげる梢は金色ゆらす、もう黄葉の季が訪れる。
昨日までは夏の陽ざしも今は澄んで、きっと風さわやかに涼しい。
だって街ゆく誰もが長い袖、シャツ一枚の短い季に週末がさざめいている。

ほら、ふつうの風景。

―でも新宿はまだ暑いのかな…川崎も、

なつかしい地名なつかしい気候、でも今は遠い。
遠くなってしまった懐かしい場所、それでもう良いと解かっている。
それでも鼓動ふかく欠片まだ疼くのは、帰りたい願いがあるのだろうか?

―どうしているのかな、みんな…深堀と柏木さん元気かな、瀬尾も…伊達さんも、

めぐりだす名前に懐かしい、そして最後の一人。
あの人にまた会えるのだろうか、もう生きる世界が違ってしまった人。
それでも繋がり全て忘れるなんて出来なくて、その証拠がスマートフォン揺らした。

「あ…、」

受信の画面そっと開いて、ほら懐かしい名前。

From:箭野孝俊
件名:春からよろしく
本文:湯原の後輩になるよ、学部は違うけどよろしくな。

「よかった…、」

うれしくて微笑んでしまう、この人と毎日また会える。
こんな日常が続いたらいい、もう数年前とは違う今に指先なぞった。

To :箭野孝俊
本文:合格おめでとうございます、同門になること本当に嬉しいです。
   お祝いに飲みいきませんか?ご都合また教えてください。

「ん…、」

指先そっと送信ボタンなぞる。
送られたデータ確認して、かたん、目の前の椅子が鳴った。

「周太、それ誰と飲みいくって?」

低い綺麗な声、でも不機嫌。
そんなトーンに顔上げた先、切長い瞳が見つめていた。

「おまたせ周太、そのメール誰?」

あ、面倒なことになりそう?
そんな待ち人の声につい言い返した。

「…質問の前に英二、遅刻したのに言うことそれだけ?」

ほら言い返した、これも今の日常。
こんな日常が幸せで、だから今、ささやかな幸せの喧嘩しよう?


(to be continue)

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深夜雑談:秋香る、

2016-09-27 23:58:06 | 雑談
今日、出先であまい香が懐かしくて。
なんだろな?って見たら銀木犀が咲いていました。

ぎんもくせいは香るんだよね、

と一緒にいた友人が教えてくれて、
なるほどなーと見惚れたけれど・カメラなかったので↓前の写真を。


金木犀きんもくせいはよく見るけれど、銀木犀はめずらしい。
その初花を見られた今日はなかなか幸運なんだろな?

なんて話を友人として、
それからゴハン一緒して、あれこれ喋って、
おもしろかった本の話、仕事の話、高校時代の話なんかもして、笑

あ~ホントおまえアイカワラズだよねー笑

なんて言われながらのゴハンは寛げた。
ひさしぶりに会った友人、それでも一言で時間すぐ重ねられる。
高校時代と変わらない空気、笑い、まぜっかえし+アドバイス+本音の話。

っていう友人は、連載小説の登場人物モデルになっている。
それを本人に言ったら、

あー…そういう志だったよなあ、

と、作中人物に懐かしんで・ちょっと笑った。
そんな貌にあらためて自覚する、ホント文章=経験だ?

この友人に出逢ったから、小説のキャラクターも生まれてくれた。
そういう出逢いは他にもたくさんある、リアル人間はもちろん・場所・本に記録、それから学問。
どれも足で歩いて出逢えたものばかり・本で知ったコトもそのリアル現場×人をたどって逢いにゆく。

たとえば『万葉集』を読むのも経験=歩いて出逢ったリアル世界が杖。
はるか昔に詠まれた歌だけど、その詠まれた世界が積み上げられて今この瞬間がある。
ようするに・時間は超えても歌の場所は今も存在する、建造物や植生が絶えて変わっていたとしても名残はある。
その名残にたどれる現実が歌の基であり素だから、それを五感で見なければ歌にこめられた感情を受けとれっこない。

なんていうこと考えた今日は、銀木犀と金木犀に秋が咲いた日。
常緑樹の花ひらいた今日・変わらない友人といたことはナンダカ面白いなあと、笑


何気ない日常 9ブログトーナメント
撮影地:銀木犀と金木犀@神奈川県某所

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花木点景:曼珠沙華の里

2016-09-27 23:37:18 | 写真:花木点景
秋に咲く、



花木点景:曼珠沙華の里

日曜、彼岸花ヒガンバナの里を歩いてきました。
稔れる棚田の黄金に映える赤と白、曇り空にも花あざやかです。



彼岸花の別名は曼珠沙華マンジュシャゲ、サンスクリット語の音写で「天上の花」という意味です。
その伝わる花は白、そのままに薄紅ふくんだ白花は繊細なラインも天上世界にふさわしく想えます。


撮影地:寺坂棚田@埼玉県秩父郡横瀬町

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第85話 暮春 act.13-side story「陽はまた昇る」

2016-09-26 22:05:03 | 陽はまた昇るside story
I think it mercy, if Thou wilt forget. 忘却に慈悲を、
英二24歳3月下旬



第85話 暮春 act.13-side story「陽はまた昇る」

月が見える、窓はるかに高い月。

「う…ん?」

ゆるやかな視界は月の窓、ほの白いカーテン、それから薄暗い天井。
窓の月は澄む。懐かしい夜の空間、背中ふれるベッドの硬さも似ている、でも違う。
知っているけれど同じではない馴染まない、それでも懐かしい窓に起きあがり英二は呻いた。

「つっ…、」

痛い、鈍痛が脳を貫く。
鈍いくせ刺すような痛み、これは何だろう?
不慣れに痛む額に掌あてて、かたん、扉が鳴り光射しこんだ。

「あ?起きたな宮田、だいじょうぶかよ?」

朗らかな声が笑って、天井ぱっと白くなる。
明るんだ部屋に瞳細めた先、Tシャツの腕がペットボトル差しだした。

「ほらスポーツドリンク、まず飲めよ?あんだけ酒やったら脱水になんぞ?」

笑顔のペットボトル受けとって、ふれる冷たさに掌から醒める。
言われるまま蓋を外し口つけて、こくり喉すべった柑橘の香ほっと息ついた。

「…うまい、ありがとな藤岡、」

沁みる、喉にも脳まで沁みこむ。
涼やかな感覚に微笑んだ傍ら、同期は床に腰おろし笑った。

「ホント美味いって顔してんなあ、喉カラっカラだったろ?」
「脳まで沁みる感じするよ、」

礼と微笑んで吐息かすかにアルコール香る。
まだ酒が抜けきらない、そんな感覚に髪かきあげ尋ねた。

「ここ青梅署の寮?」
「そうだよ、俺の部屋、」

からり笑ってくれる大きな目は明るい。
あいかわらずの同期は胡坐くみなおし、ふと首傾げた。

「って、もしかして憶えてないとか宮田?」

ほんとに?

そんな視線まっすぐ見あげてくれる。
気さくで明るい眼ざしに、ただ痛む頭さすり微笑んだ。

「なんとなくは憶えてる、原さんと一緒に歩いてきたよな?」

あの先輩とは先月も顔合わせている。
あの銀嶺まだ先月のことだ、けれど遠いような今に同期が笑った。

「うん、北岳の話で盛りあがってたよ?黒木さんがドウとかって宮田、すげー笑ってさ、」

その話題ちょっと危ないかも?言われた危惧に訊いてみた。

「黒木さんのこと俺、なんて言ってた?」
「国村が黒木さんのナントカに似てるとかドウとか言ってたよ、笑いまくるからよく解かんなかったけどさ?」

からり人の好い笑顔が教えてくれる。
この雰囲気なら「危ない」は避けられた?ちいさな安堵に訊かれた。

「おせっかいゴメン、湯原はどうしてる?」

ほら鼓動が止まる、名前だけで。

ほら痛い、でも原因は酒じゃない、肩や肋骨の怪我も違う。
呼吸つめられる想いの真中で大きな目がまっすぐ見つめた。

「長野のニュース見てたよ俺、湯原は無事なんだよな?」

問いかける声に気づかされる。
あのひとには「自分だけ」じゃない、忘れかけた繋がりに微笑んだ。

「駐在所で見てたのか?」
「救助隊はみんな見てたよ、朝の巡回から戻ったタイミングだったしさ、」

答えながらペットボトルの蓋ひらく。
まだ雪残る夜、それでもTシャツ姿の同期は口開いた。

「宮田が映ったから青梅署じゃ話題だよ。背負ってたの特殊部隊の隊服だしさ、なのにマスクしないで映されたろ?処分の心配してたんだ、」

話してくれる声は疑問を孕んで、それでも温かい。
変わらない篤実な同期に溜息ひとつ笑った。

「そっか、だから今夜は俺を酔い潰そうとしたんだ?」

これは計画的な状況だ?
はまりこんだ寮の一室、人の好い顔は頷いてくれた。

「本人から聴いたほうがいいって国村が言ってくれたんだ、後藤さんも承知してるよ。同期で同僚なのに又聞きは寂しすぎるだろってさ、」

全員同意の上だった。
そう告げてくれる同期に微笑んだ。

「ありがとな藤岡、いろいろごめん、」
「謝るんなら話せよ、何があったんだよ宮田?」

率直な声が尋ねてくれる。
それでも答えていいのか解らない、けれど問われた。

「湯原のマスクを外したのは宮田だろ?SATが顔を曝しちゃマズイの解かってるよな、湯原が報復ターゲットにされてもいいのかよ?」

大きな目まっすぐ訊いてくれる。
この問いかけ誤魔化したくはない、願いに口開いた。

「周太を救けたいんだ、SATで顔を曝したら警察を辞められるだろ?」

辞めさせたい、そして忘れてほしい。
想い見つめた真中で大きな目すこし笑ってくれた。

「ソレって宮田が決めることじゃないと思うけどさ、そこまで思い詰める理由あるんだろな、」

深夜に低めた声、それでも大らかなトーン明るい。
蛍光灯に照らされた部屋、月の窓辺そっと笑った。

「周太は忘れたほうがいいんだ、警察のこと全部、」

すべて忘れられるなら、それが幸せだ。
そんな現実を歩いた二年間に山の仲間が言った。

「あのさ宮田、おまえこそ忘れたいことあるんじゃないか?」

今、なんて言ってくれたのだろう?

「俺が?」
「うん、おまえが忘れたいんだろなって、」

繰りかえし言ってくれる、その言葉ゆっくり脳裡めぐる。
どういう意味だろう?ただ見つめるまま言われた。

「よくあるだろ?自分を相手に投影するってヤツでさ、自分が忘れたいことあるから他のヤツも同じって思うんじゃないか?」

こんなこと言われると思わなかったな?
意外な台詞の声につい訊いた。

「藤岡ってそういうことも言うんだな?」
「たまにだよ、普段ソンナ小難しいこと考えんし俺、」

からり笑って胡坐を組みなおす。
そんな仕草も気さくな笑顔は言った。

「あのさ、吐きだしたいけど近すぎる相手には言えないってあるだろ?」

近すぎて言えない、確かにそういう距離感はあるな?
その記憶からすこし微笑んだ。

「そうだな、それ光一が言ってた?」
「アレでも国村は心配してるんだよ、自分がいなくなった後の宮田のこと、」

朗らかなトーン教えてくれる。
深夜でも人の好い笑顔は言ってくれた。

「俺と宮田はめちゃくちゃ気が合うわけじゃないよ、でも卒配も一緒で同じ山岳救助隊だろ?お互いの人間関係ある程度は解かってるからさ、遠慮なく愚痴るにはちょうどいい相手かもしれないよな?」

こんなこと言ってくれる相手、自分には今までいなかった。
きっと二年前の自分なら信じない、けれど二年を超えた今が言ってくれた。

「無理に話せとは言わないけどさ、でも宮田が吐きだして忘れたいんならボケッと聞き流してやるよ?電柱に喋るよりはマシだろ、」

こんなふう言ってくれるんだ、この男が?
こんな予想外に呼吸ひとつ、英二は素直に笑った。

「缶ビールでも買いに行くか、藤岡?」


(to be continued)

【引用詩文:John Donne「HOLY SONNETS:DIVINE MEDITATIONS」】

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とりいそぎ御礼、

2016-09-25 23:59:44 | 雑談
昨夜アレコレぶっちゃけ雑談UPしましたけど、
今日、バナー押してくれた方ひとり一人へ心から感謝です。

ただ同情で押してくれてるのではなく、ただ楽しみにしてくれているのなら嬉しいけれど。
本音のトコでどう想われているのか?誰も言わないから解からないけど・それでも一方通行にならなかったと唯ありがたいです。
毎日ずっと書き続けてなんにも反応がなく、それでもアクセス数だけは毎日千件超えて・コメントも何もなく勝手に転載盗作される。
そういう現状ちょっとメンドクサクなってきているので、反応ちゃんとしてもらえてすこし引留められます。

ソンナワケで小説の続きまたUPしようかな思います、日付またぐけど。笑

とりいそぎ押してくれた方へ御礼まで。

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山岳点景:驟雨の滝

2016-09-25 22:11:12 | 写真:山岳点景
雨後、山ふところ滝の風。



山岳点景:驟雨の滝

落差50メートル、不動滝に行ってきました。
埼玉県秩父市大滝、奥秩父と呼ばれるエリアにある瀑布です。


国道の駐車スペースに停めて、谷への道を下ると吊橋、


頑丈なカンジだけど、意外と揺れる吊橋はイイ点景です。


吊橋の下はココントコの雨で渦巻く渓流、落ちたらアウトでしょうね、笑


吊橋を渡ると、いわゆる山道になります。


露岩も多い山道を登るとすぐ、湧きでる雫の絶え間ない小滝。


ささやきの滝と標識にあるとおり、滴る雫かすかな音は山肌やわらかです。
こういう湧水は個人的好みです、が、流れでる水×岩盤で足場あまりよくないので要注意。


狭い山の道、あちこち茸が顔出していました。


根っこの影、燈すような黄色。
ヒナノヒガサかな?


滝と渓流からの湿度が豊か+落葉の腐葉土があるためか、茸が多いです。


露岩の道、今朝までの雨に滑りやすい道を30分、
越田山不動尊の祠を越えると滝は姿を見せます。


上段25+中段15+下段10メートル=計50メートルの三段瀑布、
雨続きが明けた今日は、落ちる水流は風を巻いて細かな飛沫ちりばめます。


第156回 昔書いたブログも読んで欲しいブログトーナメント
撮影地:不動滝@埼玉県秩父

この滝は「気軽に行けます」書いているブログも多いですが、実際は軽登山の装備が必要です。
特に・雨後は水量豊富で迫力×美しいけど足場が悪いです、人間は5メートル落下しても死ぬって自覚と歩いてください。

○登山靴必須、足場は滑りやすく・スリップから滑落事故も起こりやすいルートです。
○落差50メートルの水流は風圧+飛沫を起こすため、足もと滑りやすい+風にバランスを崩さない注意が必要です。
○トイレは吊橋を渡って20分後くらい←滝の手前・尾根のお堂「越田山不動尊」の傍にあります、が、水洗にアラズ+虫も多いので使うなら要注意。
○水場はお堂の傍に「和名倉山の湧水 大除の水」があります、冷たくて気持ちいいです※水槽には直接手を浸さない、衛生保全きちんとで。

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深夜雑談:雨の土曜×α

2016-09-25 00:35:13 | 雑談
土曜日、でもアレコレ忙しかった今日の神奈川は雨。
朝は曇で涼しめで、ノンビリモーニング誘われていったりして、
さて・そろそろ出ないとなって支度した昼下がり、がーっと雨が降ってきた。

あーズボン濡れちゃうじゃん困るなあ、

なんて思うあたりオフィシャル外出もーどだなー自覚して、
プライベートなら濡れても気にしない雨も嫌いじゃない、もし山だったら天候悪化はマズイ×気にするけれど。
なんてカンジに出かけて・やること終えての帰りは雨が止みかけていて、晩御飯に誘われて、好きな洋食屋さんに行き、

そんなこんなで帰宅したのは21時前、それでも悪戯坊主はお出迎えしてくれた。



出かけた分だけかまえよ?

っていう緑の瞳きらきら見つめてくれる、
ちいさな頭こつんこ顔にぶつけてくれる、撫でてと耳くっつけてくる、で、

あーかわいいもうだめだー

ってわけで抱っこしてから靴を脱ぎ、
片足立ちにながらも抱っこする肩、悪戯坊主は嬉しそうに乗っかっている。
もふもふ毛並やわらかな感覚は優しくて、すきだーすきだーすりすり仕草に幸せになり、

ゴハンをあげ、ねこじゃらし遊びをし、煮干し×2回あげ、

なんてカンジに悪戯坊主お相手する合間、
そんなこんなで風呂を済ませてPC前に座り、書類ちょっと手直しして、
さて、小説の続き書こうかーって思うのに、眠たくって頭いまいち働かない。

それにバナーもコメントも誰も押してくれちゃいない、

もう需要ないのかもしれないなーブログ載せるの止めようか?
なんて思ったりもする、とはいえ続きを見たいのは自分自身でもある、
から、どこかで続きは続けるだろうけど、もうここで載せる必要はないかな?なんてこともやっぱり思う、

読んでやってるだけで満足しろよばーか、

とか思いながらココを読みに来る人のほうが多いのかもしれない、
その証拠みたいにイドノナカノカワズテンサイブリッコから上から目線コメントきたりする、
転載禁止も無断使用も当然のように無視して使ってくれるのも、ソレダケの程度だと言いたいからなんだろう。
もちろん、カン違いコメントには弩S対応します+無断転載盗作もソレナリ対応イキナリ法的処分もありえます、アシカラズ。

正直、純文学なんて自分は絶対に描かないなー思ってた、
それでも今日までナンダカンダ書いてきたのは、やっと書く時間を作れるようになったから。
書くことは好きで、好きだからこそ書きだすと時間を忘れるから・そういう時間許される自分が来るまで自分を待っていて、
ようやく書くだけの時間をとれるようになった・というか暇すこしあればパソコンに向かい書いている、笑

どうせ書くなら、自分がいちばん興味ないジャンルが鍛えられるだろな?
っていう考えから純文学で書いてみよう思い立って、そーゆーカテゴリー登録して、
だけど実際のとこ・他のエントリーブログで純文学ちゃんと書いてる人間なんて5人もいない、

日記でも読書感想文でも、純文学を踏襲して描くことはできる。
だけどエントリーされているブログはソレができていない、たぶん純文学とはなんですかー訊かれても答えられないだろう?
言い方悪いけどエセしかいない・が・エセでもランキングバナー押されりゃ上位きーぷ、そのバナーポイントは仲間意識の賜物でも。
過激な言葉、おげれつえろ言葉、どっかのにんきさくひん真似っこ文章、そんなのが人気イマドキランキング。

純文学も日本語も「文学」は今もう消えたんだろうか?

なんて疑問いつも思う、だからこそ続けてみよう思って毎日なんかしら書いてきた。
ずっと論文やビジネス文書ばかり書いてきたけれど、ホントに書きたいもの始めてみたくなったから。
それで読んだ人が少しでも元気になったらソレでいいし、どっかの誰かの笑顔になれたら嬉しいだけ。

だからこそ、コメントも感想もなくなればココに載せる理由ひとつ消える。
ランキングバナー押す人もいない、その手間もめんどくさいほどの価値しかないと思われているんだろう?
勝手に転載盗作・出遭いたくない無能犯罪の温床にされるばかりで「おもしろいです」の一言も聴けないなら無料閲覧とか無意味だろ?

そんなこと何度も想いながらも止めないでいるのは、書きたいから。
そうして気づいたら6回目の9月2日が過ぎていた、もう5年を書き続けて今日がある。

最初の文章と今と、読み比べるとカナリ差が。笑
書き直したいなーなんてことも想う、いちどソレもいいのかもしれない?
それとも思いきって全てを真っ白に戻してしまおうか、物語の続き楽しみにする誰もここにいないなら?

かつ・明日は曇り時々晴れ予報+朝早い予定なので・今夜もうここまで、笑
絶句ダイナマイト!!! 13ブログトーナメント

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花木点景:白秋

2016-09-23 23:34:15 | 写真:花木点景
White of Autumn



花木点景:白秋

白曼珠沙華、天上の花と呼ばれる白い花。


撮影地:公園@神奈川県

季節を感じるお花さん42ブログトーナメント

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第85話 春鎮 act.1-another,side story「陽はまた昇る」

2016-09-22 23:30:13 | 陽はまた昇るanother,side story
九月が終わる、この春に。
harushizume―周太24歳3下旬



第85話 春鎮 act.1-another,side story「陽はまた昇る」

あなたは憶えている?9月の終わりのこと。

「…季節が終わる、ね、」

桜ふる、あの日は青葉だった。

あの日と違う春の木洩陽、花びら揺れる色うつろう、きらめく樹影に葉がひらく。
春やわらかな都会の緑陰、ひとりのベンチがページ繰る。

『あらすじの続き、教えてよ、』

君の声が笑う、低く透る声。
あの声があの夜を連れてきた、その記憶にページめくる。

『Le Fantome de l'Opera』

邦題、オペラ座の怪人。

このタイトルが示した過去それから今。
このタイトル通り君がいた、その最初の言葉は、

「どうする?…もし自分の為に、巨大なカラクリ箱を作って閉じ込めて…跪いて、」

夏が終わる陽、あなたの声、あなたの眼。
低い綺麗な声がつむいだ、切れ長い瞳が自分を映した、そして訊いた。

『愛してるっていわれたらさ、』

あの言葉、あなたの本音だった。

あの日あなたの本当の想い、聲、そうして夜が来た。
あの日ふたり攫いこんだ夜、あの夜は月が赤くて、そして長い短い夜。
あの夜に自分は全てを懸けてしまった、だから今も離れられないベンチと一冊。

“湯原だったら、どうする?”

ほら繰りかえす君の聲、

“どうする?もし自分の為に、巨大なカラクリ箱を作って閉じ込めて、跪いて愛してるっていわれたらさ、”

あの言葉どおり君は泣いた、その場所はここから近い。
ビジネスホテルちいさな一室、ちいさな窓から月が見えた。

そうして広くないベッドの上、君が泣いていた。

「…泣き虫。怖い夢でも見たのかよ、」

唇がなぞる夜の言葉、あのベッドに笑いかけた自分。
ちいさなベッド向きあった夜、あの泣顔はきれいで、そして言った。

『お前が、好きだ、』

あなたは憶えている?

「英二…憶えてる?」

唇が呼ぶ、記憶が見つめる。

『お前の隣が好きだ。一緒に居る、穏やかな空気が大好きなんだ、』

あなたは憶えているかな、あの夜の聲。
九月が終る夜の君、君がいたベッド、君の泣顔その瞳。
あのとき自分は閉じこめられていた、だから今なら答えが言える。

“どうする?もし自分の為に、巨大なカラクリ箱を作って閉じ込めて、跪いて愛してるっていわれたらさ、”

あの問いかけ今ここでして?

「…あいたい、よ?」

ほら本音こぼれてしまう、唇そっと声おちる。
もう瞳からも零れる本音、頬つたう熱に周太は微笑んだ。

「英二…僕はここにいるよ?」

はたり、

熱こぼれて涙が落ちる。
雫こぼれてページに浮ぶ、ちいさな水玉きらり光る。
こんなふう泣いた過去がある、そのままに陽だまり優しいベンチ。

あの日と変わらない「いつもの」ベンチ、だから奇跡すこしだけ期待したい。

「あえるかな英二…携帯なんて無くても、」

逢えるだろうか、あなたに。

“もし自分の為に、巨大なカラクリ箱を作って閉じ込めて、跪いて愛してるっていわれたら”

からくり箱は今も生きている?

それなら逢えるのだろう、そんなこと今も信じている。
だからこの本このベンチで開いてしまった、そんな本音とニットパーカーのポケット探った。

『今はね、すまーとふぉん、なんですってよ?周太くん、』

そう言って渡してくれた笑顔は優しかった。
低いアルト優しい声、優しい切長の瞳、渡してくれた手も白く優しかった。

「でも…英二の番号は消しちゃったんですね、おばあさま…、」

ため息の掌、見つめる画面は真新しい。
ライトブルーきれいな電話は薄くて軽い、そのままにデータひとつ軽くなった。

そう、前の携帯電話よりずっと軽くなった、いちばん大事な番号が消えたから。

―もう僕からは連絡できない、きっと英二も、

きっと大叔母は番号を教えていない「家族」以外は。
連絡を取りたければ自分から架けるしかない、でも消えた番号はどうしたらいい?

「…ちゃんと番号、憶えておけばよかった…ね、」

着信ランプが光る、あなたの色で。
着信音が奏でる旋律はあなたの曲、そして画面にあなたの名前。
そんな日常ただ幸せだった、けれど新しい電話は君を告げてくれない。

僕の携帯電話、どこにいったの?

―でも訊けない、こんなにお世話になってるのに…おばあさまに関係する人にも、

大叔母を信じている、そして今はもう愛がある。
だって自分と母を必死で救ってくれた、そして今も庇護してくれている。

『十四年前こうするべきだったわ!あなたを引っ叩けてたら喪わないですんだのに、あなたも私も大事なものをっ!』

叫んだ大叔母の聲、雪の駐車場ひるがえった白い手。
あのとき大叔母の瞳は泣いていた、あの横顔どうしても裏切れない。

『もう後悔したくなくて今も無理やり助けに来ました、でも周太くんの気に障ったならごめんなさい、でも、ありがとう、』

運転席から響いた低い美しい声。
あの雪道を手ずから運転してくれた、その真心ずっと温かい。
あの真心に報いたくて、けれど今日このベンチに座りこんでしまった。

「ごめんなさい…、」

呟いて画面ゆるやかに霞む。
もう睫にじんで熱くなる、こぼれて頬そっと熱い。
こんなふう泣いてしまう自分は弱くて、それでも微笑んで指先そっと動かした。

―みんなの番号は残ってる、ね?

電話帳フォルダー開く、名前たち確かめる。
警察学校の同期も残っている、警察関係者ごと消されたわけじゃない。

―ほんとに英二の分だけ消してあるんだ、ね、

なぜ大叔母はここまでするのだろう?

『今あなたは人生を新しく始める時ね、英二と離れて考えるべきこと沢山あるでしょう?恋愛も何もかも、』

美しい低い声は温かだった。
あの声に言葉に偽りはない、そして自分も納得している。
だから電話番号ひとつ消されたことも理解していて、それでも願いは迸る。

逢いたい、あなたに。

―でもどうやって…光一もきっと教えてくれない、英理さんも、

母と大叔母に面識ある相手は、たぶん大叔母と同じ考えだろう。
そうでなければ電話をとりあげても意味がない、誰もが同意の上で引き離されている。

―美代さんなら教えてくれるだろうけど…いちばん訊けない、ね、

あの友達なら教えてくれる、でも、

『まっすぐ即答したのよ美代ちゃん、自分で驚いてるみたいだったけど迷わない眼をしてた。どういう気持ちの言葉か、わかるでしょう?』

いちばんの友達、でも今はそれだけじゃない。
その気持ちを踏みにじれば自分で自分が赦せなくなる、だから訊けない。

―きっと美代さんは教えてくれる、僕のことが…たいせつだから、

あの女の子はいつもそうだ、真直ぐで。
そういう女の子だから自分も揺れる、だって大切だ。

『ばかっ、なんでこんな…っ、やくそくぜんぶ放りだしてひどい、こんなのゆるさないばかっ、』

あんなふうに泣いて叱ってくれた、あの女の子だけだ。

『ゆはらくん、…よかった、』

笑ってくれた瞳は明るくて、きれいだった。
そして泣いてくれた一滴の、きれいな綺麗な涙。

「…訊けないよ、」

あの眼ざしに声に自分でもわかる、あの女の子の想い。
そして自分にも気づきかけている、あの女の子への想いは何なのか?

だから今日このベンチで座りこんでいる、どうしたらいいのだろう?

「逢いたい…英二、」

想い声になる、今すぐ逢いたい。

あなたに逢えたら解かるだろうか、それとも諦められるだろうか。
今は何も解らなくて、でもどうしたら連絡先をつかめるだろう?

―事情まったく知らないひとじゃだめ、英二が信頼しているけど僕と接点が少ないひと…これ以上は巻きこみたくない、

誰でも良いわけじゃない「解かる」人じゃないと意味がない。
でも誰ならあてはまる?ただ逢いたい願い見つめる電話帳の羅列、瞳が止まった。

「あ…、」

この名前なら、教えてもらえる?

“藤岡瑞穂”

警察学校の同期、だけど同じ班じゃなかった。
卒業配置もまったく違う、適性も自分と違う、けれど共通している。

―そうだ藤岡…お母さんも知らない、英理さんも、

藤岡は母と面識まったくない、おそらく英理も知らないだろう。
けれど英二とは同じ卒業配置先で同僚、そして事情ある程度は知っている。

―関根も瀬尾も藤岡とはそんなに親しくないよね、青梅署の自主トレ一緒したくらいで、

だから多分まだ知らない、英二と自分が今どうなっているのか。
何も知らないなら教えてくれる、その可能性にメール一通すばやく打った。

「ん…、」

送信、それから送信完了メッセージ。
そして左手の腕時計を見て、ぱたん、本を閉じベンチを立った。

行かなくちゃいけない、今日こそ約束を。


(to be continued)



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