萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

第76話 総設act.2-another,side story「陽はまた昇る」

2014-05-31 21:22:51 | 陽はまた昇るanother,side story
and singing passed 透過の待ち人



第76話 総設act.2-another,side story「陽はまた昇る」

外壁にいたスーツ姿、あの誰かは誰?

―あんなところ人がいるはず無いのに、どうして?

気づくと思案また廻ってしまう、それでもキーボード打って画面を見る。
そうして最後のチェック終えて画面の端、時刻に低く透る声かけられた。

「湯原、ちょっと来い、」
「はい、」

返事しながら振り向いた隣、生真面目な横顔が立ち上がる。
もう過ぎた終業時刻に窓は暗い、それでも仕事の貌した制服姿に周太も立ち上がった。

―ちょっと来いって…伊達さん、いつも行先を言うのに、

何処で何時から何時まで何をする。

そうした情報を伊達はいつも伝達して予定を組ます。
けれど今何も言ってくれないのは秘匿すべき事なのかもしれない。

―秘密にするなら、今…勝山さんのことか、僕の喘息のこと…だね、

事務室で言えない秘密は何だろう?
その答え二つに鼓動は軋みだす、どちらも楽しい話だと想えない。
自殺未遂事件の事情聴取か病気除隊か、この想定と廊下を歩き更衣室に着いた。

「まず着替えろ、財布とか机に置き忘れていないな?」

訊きながらロッカーの扉もう開けてゆく。
そんな横顔に解らないまま鍵を取出し頷いた。

「はい、大丈夫です、」
「ならいい、行先から直帰だ、」

やっと告げてくれた予定に見た更衣室は他の誰もいない。
その静謐に絞められながら周太は制服のボタン外し始めた。

―直帰って今日は戻らないんだ、今から行くところから、

今日ここには戻らない、
そんな予定に鼓動が聞えだす、戻らないのは今日だけだろうか?

『入隊テストから2ヶ月半で俺が見ている限り、狙撃手の性格適性が無い。だから気になっていたんだ、適性が無いやつが入隊許可されたら普通じゃない、』

1ヶ月前あの事件当夜に言われた、あの言葉に今これからが解らない。
あれから1ヵ月間も伊達は気になって見ていたろう、その結論を今日これから告げられる?

―適性が無いのに喘息のことまで解ったら…普通なら除隊だよね、でも、

『適性が無いやつが入隊許可されたら普通じゃない。落ちるのが普通だ、でも湯原は入隊した…適性が無いやつは死ぬ、』

普通じゃない、適性が無いなら死ぬ。

そう告げられた現実の記憶が傷みだす、あのとき洗面所で見た姿は誰だったろう?
あの夕刻に自殺未遂した警察官、喉から口から血を噴きだし斃れた青年、あれは誰なのか。

『性格と能力の両方で適性が無ければ死ぬ、訓練か現場で事故死するか自殺する、だから銃声を聞いたとき湯原だと思った、』

湯原、そう父もここで呼ばれていたのに?

「…っ、ぅ、」

想い、呼吸ひっぱたいて気管支を迫り上げる。
その予兆にネクタイ締めかけた手を止めてワイシャツの胸押えて、肩そっと大きな手が触れた。

「大丈夫だ湯原、ゆっくり呼吸しろ?」

低く透る声に言われて吐息ゆっくり胸うごかす。
俯いたまま呼吸みっつに喉から違和感は消えて、ほっと安堵に微笑んだ。

「…ありがとうございます、もう大丈夫です、」
「よかったな、そんなに緊張するな?」

微笑んで言ってくれる言葉に視線あげた先、シャープな瞳ふわり和んでくれる。
その眼差しが穏やかに深く温かで、だからこそ哀しいままネクタイきちんと締めた。

―こんなに優しい貌、でも…まだ解らないって思わないといけなくて、

こんなに優しい目をしてくれる男、でも今はまだ解らない。
看病尽くしてくれた貌は優しかった、今も気遣いは温かい、けれど真相まだ判別出来ない。
この男が自分に優しくしてくれる、その目的は「あの男」と繋がらす意図だろうか、それとも何も知らない?

―こんなふうに人を疑わないといけないなんて…ごめんなさい、

ごめんなさい、

そう告げたい相手は今この傍にいる、そして二人遠くに見つめてしまう。
こんなに疑り深い自分を父はどんな想い見つめている?それから今日この庁舎に来た人は今、嫌うだろうか。

英二、あなたは今の僕をどんな貌で見る?

―去年の春と同じなんだ、こんな疑り深い僕は…英二に出逢う前と、

切長い瞳ほころんだ綺麗な笑顔、あのひとに出逢う前へ戻ってしまった?

そんな想い哀しくなる、あの笑顔が居てくれた時間が遠くなってしまう。
あの笑顔が壊してくれた鎧が今また覆ってゆく、そんな想念に軽く頭振って微笑んだ。

「伊達さん、お待たせしました、」

ぱたん、

声かけながらロッカーの扉閉じて鍵かける。
その向こう同じに施錠音は鳴ってスーツ姿が振り向いた。

「行こう、」

短い返事、けれど物堅い貌そっと笑ってくれる。
この笑顔にまた信じたい想いと廊下に出、エレベーター乗りこんで伊達は階数ボタン押した。

「え…、」

押された階数ボタンに声こぼれて隣見てしまう。
この階で本当に良いのだろうか?解らないまま沈毅な横顔へ尋ねた。

「あの、行先って1階なんですか?」

1階に降りた行く先はどこだろう?
その思案に首傾げた隣、小さく笑った。

「ああ、」

また短い返答だけ、それでも笑ってくれた。
こんなふう伊達が笑うなら悪い行先じゃない?そんな思案ごとエレベータの扉開いた向こう、停まった。

「…ぇ、」

英二、

そう呼びたい白皙の笑顔ほら、通り過ぎてゆく。
端整なスーツ姿が笑っている、その隣も向こうも懐かしい笑顔が並ぶ。

―まだ居たんだ英二、ここに…光一も、みんな、

日焼おおらかな笑顔、ロマンスグレー穏やかな微笑、武骨だけど優しい横顔。
その隣は雪白まばゆい笑顔の悪戯っ子が懐かしい、それから大好きな笑顔の隣に鼓動ひとつ撃った。

「あ、」

声こぼれて見つめる真中、あの横顔は知っている。

『奥多摩の山には山桜がたくさん咲くよ、』

ほら、遠い声が横顔から聞えてしまう。
あの春あの木の下で哀しそうだった、あの山ヤの警察官が今、英二の隣に居る。

「…まきた、さん?」

そっと小さな声に呼んで、けれどもう行ってしまう。
懐かしい誰もが奥多摩の記憶と歩く、そこに並んだ壮年の横顔に14年前の春は近い。

『お父さんとは違うクラスだけど同じ学校でトップ争いをしていたんだ、おじさんがずっと2位だったけどね。だから悔しいはずなのに好きなんだ、』

遠ざかる半白の髪が14年前のまま黒く変若へ記憶を揺する。
あの後姿、広やかな背中は山桜に泣いてくれた父の友人だ。

「ぁ…ま、」

待ってください、

そう言いかけて呑みこんだ声に遠ざかってゆく。
ただ見つめる視界を広い背中たちは行ってしまう、本当は引留めたい。
話しかけて再会を笑いたい、あの六人皆と話したい、そして訊きたい14年前を掴みたい。

けれど今ここで誰と声交わすことも許されない、こんな現実に立止ったままの背中そっと敲かれた。

「よく堪えたな、」

低い声そっと微笑んだ言葉に、解かっているのだと伝わらす。
いま自分が抱え込んだ想いを知っている、そんな相手に微笑んだ。

「すみません、違反するところでした、」

今、どこの部署でどの庁舎に誰と勤務しているのか?

そんなことすら守秘義務の元に話せない、その秘匿が同僚の安全を保つ。
そう解っているから公務にある場では話しかけられない、この孤独の先輩は小さく笑った。

「違反ってことが寂しいな?」

寂しい、

こんな言葉をこの人が言うなんて、2ヶ月前なら不思議だった。
けれど今は納得してしまうのは一緒に過ごした時間の所為だろうか?
そんな思案ごとダークスーツと制服を徹り抜けて外に出た夜空、頬ふれた風が冷たい。

「…ん、」

もう冬、そして雪も降るのだろう?
その季節ごと近づく不安は去年のまま心軋んで、白い吐息に祈りだす。

―雪山にも無事でいてくれますように、いつも…英二、

もうじき初雪が降る、

この街にも奥多摩にも雪は降るだろう、そして山は冷厳の眠りにつく。
けれど時に目覚めて雪崩が吼える、凍てつく大気に死すらある、そこに駆ける俤を護りたい。
そう願い続けて一年の時が過ぎてゆく、そんな想い見上げた街燈の向こう聳える陰翳にまた首傾げた。

―あんなに高い壁に人がいたなんて…僕の見間違いかな、でも、

街路樹の向こう見あげる壁は高い。
これだけの高度をザイルすら無く人間が壁にいる、そんなこと考えられない?
けれど自分の視力は悪くないと知っている、その思案に白い吐息を透かせ伊達が微笑んだ。

「湯原、中野に行くぞ、」



(to be continued)

【引用詩文:William B Yeats「The Rose of Battle」】

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山岳点景:一滴の集音

2014-05-31 21:00:00 | 写真:山岳点景
雪の水音



山岳点景:一滴の集音

陣馬の滝@静岡県、写真で見て行きたかった所です。
沢に渡された石を渡るか水に入るかして滝近くに行くんですけど、ヒールある靴は危ないと思います。
入口も解り難い山間の滝はバーベキューやキャンプもNG、観光地化されていない静かな水場なので詳細データは載せません、笑



富士山と天子山系からの伏流水だという水辺は初夏の今日も涼やか。
手を浸からせると冷たくて多分10分もしたら感覚麻痺するかもなって思いました。



滝壺の水深は浅くて浸かっても膝まで無いかなと。
防水シッカリな登山靴なら徒渉も濡れずに滝の裏やサイドにも入れます。

滝❶ブログトーナメント



写真あんまり良くは撮れていないけど暑気払いに載せてみました、笑

で、下は今日の富士山なんですけど、
吉田口サイド四合目付近から見上げた山頂です、雲が雪面に映っています。



鏡面化した山肌に刻々と形を変えてゆく雲に風速が見えて、まだ冬の世界なんだなと。
四合目でも陽は眩しいのに風は冷たくて、Tシャツにフリース着て袖捲りしたらちょうど良かったです。




なんてカンジに遊んで来たので加筆校正ほか今からします、
取り急ぎ、






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雑談寓話:或るフィクション×ノンフィクション@御曹司譚108

2014-05-31 00:14:09 | 雑談寓話
こんばんわ、眠いです、笑
でもバナー押して下さる方いらしゃるので続きUPします、楽しんでもらえてたら嬉しいんですけど。



雑談寓話:或るフィクション×ノンフィクション@御曹司譚108

7月連休最終日、横浜に向かう電車でメールがきた

From:御曹司クン
本文:徹夜明けデートって元気だなーなんか悔しいから俺も夜出かけるもんね、そっちも楽しんできて(顔文字笑顔)

悔しいんだ?笑

こんなこと言ってくるの可笑しかった、
こういう御曹司クンだって職場の皆が知ったらどうなんだろう?
そんなギャップが可笑しいまんま横浜駅に着いて、待ち合わせの花屋に行った。

で、久しぶりの友達は綺麗になってた、

「久しぶりハル、先輩となんかあった?笑」

多分そういうコトだろう?
そんな推定にハルは明るい泣き笑いした、

「なんもかんもあらへんわぁ、ちょっと聴いてエな、」

こんな素の喋りな時は混乱気味、笑
両親が河内×京都だからハルの言葉はどっちも交ざる、
で、ソレが出てるなら混乱=やっぱりなんかあったんだろう?それでも明るい笑顔で言った、

「あんなあ、ほんまようワカランねん、あかんたれやね私、」

あかんたれ=駄目なヤツってカンジの意味らしく、
で、そんな自主認定しちゃった笑顔にとりあえず提案した、

「まず美味しいもん食べよっか、元町に予約したから行こ?笑」
「当日でよく予約とれたなぁ、ありがとおな?」

まだ素の言葉なまま笑ってくれる、
それだけ今は気を抜きたい?そんな半年ぶりの再会をハルは笑った。

「ほんま久しぶりやねえ、近いのにメールやら葉書やらばっかりで、」
「クリスマス前のとき以来だね?笑」

なんて何気なく言ったらハルが唸った、

「うぅ、くーりーすーまーすぅぅー、」

どうしちゃったんだろ?笑
こんなふう唸るなんて何かあったに決まってる、
そんな通りしかめた顔につい笑った、

「クリスマスに先輩となんかあったんだ?笑」

ソレ以外ちょっと考えられないな?笑
なんて推測に電車内、ハルは白状した。

「あんなあ、イヴ当日にヌキウチごはん誘われて断ったんよ、」

ハルらしい、笑

って聴いた瞬間から可笑しかった、
こんな不器用の理由いくつか考えながら訊いてみた、

「なんで断ったの?せっかくのクリスマスイヴなのに、笑」
「まずそっから聴いてほしいねん、」

話すこと沢山ありすぎる、
そんな目をした色白の顔が淡々話し出した、

「あんときも泊まり込みの撮影明けでな、ダンボール雑魚寝ってわかっとったからオーバーオール着てたんよ、それで夜6時頃あがれたからな、
カメラの中古屋に寄って前から欲しかったん見つけてん、あのレンズええわー見てたら門田さん来てなあ、イイトコで会ったな飯いこう言われたん、」

なんて言った顔は、この世の終わりだってカンジで、
その顔が可笑しくてつい笑った、

「好きなひとに誘われて何そんな絶望顔してんの?笑」
「うぅートモには解らへんっ、」

また唸って白い頬膨らませながら黒い綺麗な髪かきあげて、
悄気ながら怒り半分に教えてくれた、

「泊まり込み明けのオーバーオールやで?化粧も髪もヨレヨレやんか、そんなんでクリスマスイヴとか無いわっ、凹」

女の子の事情ってやつだよね?
こういう発想なんだか可愛くて笑って訊いた、

「それでゴハンどう断ったの?笑」
「そら決まってるやん、」

当たり前だって顔した化粧はあっさり綺麗で、
服も綺麗なブラウスにパンツ着たカッコ可愛い今日のハルは凹みながら笑った、

「すみませんー言うてダッシュで逃げたわ、凹×笑」

ダッシュで逃げるって、笑

何もそこまでしなくっても大丈夫だろうに?
っていうか逃げるとか可笑しくって笑った、笑

「敵前逃亡って、笑」
「そら逃げるわっ、メイクも服もヨレヨレなんよ、ミットモナイやんか見てほしないっ、凹」

ほんとに困ったんだから?
そんな貌に笑いながら電車を降りて、歩きながら言ってみた、

「だったら30分後に待ち合わせって言えばよかったじゃん、服買って着替えてメイク直して再登場ってされたらカッコいいよ?笑」

社会人だったらソレくらい簡単だろうに?笑
っていう提案に大きな目ひとつ瞬いてため息吐いた、

「はーー…そんなんちぃとも思いつかんかったわ、ほんまに私あかんたれやんなあ、凹笑」

確かにちょっと「あかんたれ」かも?笑
なんて思ったけどストレートに言うのも悪くて、だけど可笑しくって笑いながら言った、

「そういうとこハルの可愛いトコだって想うけどさ、その次の日って先輩とドウだったわけ?笑」
「謝りに行ったらな、ダッシュで逃げなくても良いのにって笑われたわ、はあ、凹笑」

溜息まじり凹んで笑ってる、その言葉にやっぱりな思った、
こんな反応してくれるなら脈ないワケが無い、そう思ったまんま言ってみた、

「先輩、相当ハルのこと気に入ってると思うけど?いいかげん告白してみたら良いのに、笑」
「なんでそう思うん?」

訊きながら大きな目こっち見てくれる。
その質問顔に思ったまま言ってみた、

「綺麗なカッコしてないのにイヴの夕飯を誘うなんてさ、本人自体をよっぽど気に入って無かったら誘わないよね?あとは孤独過ぎる寂しがり屋だろ、笑」

化粧、服、髪型、そんな付加価値で女の子を評価するトコってある。
ソレ全部とっぱらった姿の相手をイヴの晩ゴハン誘うなんて、好きor暇過ぎ寂し過ぎのドッチかだろう?
そんな率直な感想にハルは首傾げながら笑った、

「どっちもかもしれんなあ、門田さん、」

どっちも、

そう言ったハルの貌はいつも通り明るくて、けど寂しそうだった、
こんな貌するなんて何かある、その憂いが陰影になってハルは綺麗になったのかもしれない?

だからハルも本気なんだな?

そんなこと思いながら店に着いて、
予約しといた明るいテーブルに向きあい笑った。

「遅くなったけどハルの誕生日祝しよ?だからオゴらせて、笑」



とりあえずココで一旦切りますけどまだ続きます、気が向いたら続篇また。
Favonius「少年時譚12」光一@大学構内、読み直し校正またします。
第76話「総設2」草稿UPしました、加筆校正VERまた載せます。

深夜に取り急ぎ、




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雑談寓話:或るフィクション×ノンフィクション@御曹司譚107

2014-05-30 00:11:01 | 雑談寓話
晴れのち曇り雨、また晴れ、っていう転変な天気でした。
さっき録りだめておいたMOZUの6話と7話だけ観たんですけど新谷な彼が凄かったです。
役者と映像アングルがカッコよくて好きですけど率直な感想、アレは21時からじゃなく22時以降のドラマだろと、笑
で、バナー押して下さる方いらしゃるので続きまた書きます、楽しんでもらえてたら嬉しいんですけど。



雑談寓話:或るフィクション×ノンフィクション@御曹司譚107

同僚御曹司クンと夜明かしした朝帰り、
帰宅の電車に乗ったら大学の友達からメールが入っていた。

From:ハル
本文:朝早くからごめん!3日連続泊りこみ明けだよー(顔文字泣顔)
   ゴハンと愚痴つきあってもらえる?帰って支度するから昼過ぎなんだけど、
   久しぶりの誘いなのに急でごめんね、でも話したいよーよろしくお願いします。

ほんと久しぶりのお誘いだった、笑
受信時刻は5時ごろ=初電だったんだろう、そんな忙しさはメールでたまに聴いてはいた。
そしてこんなふう誘ってくれるには何かワケがある、そういうの解かるし逢いたかったからすぐ返事した、

Re :13時に横浜or新宿どっちがいい?
   泊りなら支度するけどソッチとウチとどっちでも良いよ、

Re2:ありがとう、横浜のんびりしたい、ちゃんとしたゴハン食べたい
   泊めてもらうのそっちだと助かります、明日そっち方面に現地直行なんだよね。

Re3:いつもの花屋前で13時で。
   晩ゴハン作ってあげるよ、リクエスト考えておいて、

Re4:うれしーありがとう(顔文字笑顔)横浜13時、楽しみにしてるね。

なんてメール往還してるうち最寄駅に着いて、
商店街はまだ閉まってたけどコンビニでサイダーだけ買って帰って、
掃除して風呂はいって洗濯して、目覚ましセットしてベッド寝転んだらメールが着てた。

From:御曹司クン
本文:今朝はごめん、でも慌てないおまえにまた惚れた。
   惚れたのは俺の勝手だけど責任とってよと言いたくなる、もう逢いたいし。
   なんかとりとめない文章でゴメン、ちょっと混乱してるのは眠い所為だって笑って済ませて。

ほんと混乱してるよね、笑
こんな文章送ってくれちゃうアタリヤバいなって思いながら、
こういうの困るって思いながらも嫌なわけじゃない、で、本音ちょっとカワイイなんて想ってた、笑

なんて想うなんて眠くて混乱してる?

なんて自問しながらメール眺めてるうち眠くなって、
だけど返信しないと悶々されるだろ思って、それも面白そうだ考えたり、笑
それでもトリアエズな返信だけはしようとして半分寝落ちしながらも送った、

To:御曹司クン
Re:今から寝る、起きたらデートだから音信不通よろしく

こんな返信ちょっと残酷なのかもしれない、
だけど嘘吐くとか誤魔化すのは嫌だった、ホントのとこで向きあっていたい想ってた。
そんなふう想うアタリ御曹司クンの言っていたことは自分の本音だったかもしれない?

『大切にしたい相手とは関係壊すの嫌だから付き合わないって、だから俺もって期待して』

期待させている通りなんだろうか?

でも自分はバイセクシャルと付合うって本音NGでいる、それは付合う理由が無いから。
もし本気で付合うんなら、ほんとに大切に出来そうで付合うんなら結婚を考える相手としか出来ない。
ただ恋愛とか、ただ好きだとか、そういう理由で付合うとか自分には考えられない、っていうか恋愛がもう無理だから。

だから御曹司クンの恋愛感情に応えるとか無理、

そんなこと考えながら送信ボタン押したのも解らないほど知らないうち眠りこんだ。


とりあえずココで一旦切りますけどまだ続きます、気が向いたら続篇また。

深夜に取り急ぎ、



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文学閑話:ある小説譚×織布の戀

2014-05-29 23:40:00 | 文学閑話散文系
時の交錯



文学閑話:ある小説譚×織布の戀

あんまり恋愛テーマの小説って読んでいないんですけど、
高橋治が書いたものは好みなのが多いです、これも友達に勧められた一冊から入ったんですが。
たまに書評で不倫文学とか書かれちゃってる高橋治ですけど、アアイウ評価は浅い読み方してるな思います。

『風の盆恋歌』

文庫本だと厚み1cmくらい、でも分厚い物語です。
純愛小説を一つ挙げろって言われたらコレが自分にとって最高だよって言います、笑
なぜかって言うと本人たちの想いはもちろん、周囲の人々が感情の体温を持って描かれてるからです。

越中八尾の町並から自然の美、精霊踊り「風の盆」に繋がれる人の心、それから現実を生きた時間の鎖と自由。
そういうカンジのもんが描かれているんですけど、内面から情景の描写までリアルで綺麗です。
ホンモノの純文学でありながら物語文学でもある、そんな佳品です。

酔芙蓉

時の経過ごと色が変わる花です、
この花が舞台になる家の庭に植えられています、物語の象徴的です。
こういう花の描写から全てが細やか、だけど男性作者らしい潔さが綺麗です。

で、もし読まれるのなら一人の時がおススメです。
個人差はありますが号泣しちゃう率が割と高めなので、笑

忘れられない本 (3) ブログトーナメント

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雑談寓話:或るフィクション×ノンフィクション@御曹司譚106

2014-05-29 01:04:02 | 雑談寓話
いまナントナク見た画像で大笑いしました、
じいちゃんが山で犬を拾ってきたと言い張るってヤツでしたけど、笑
で、バナー押して下さる方いらしゃるので続きまた書きます、楽しんでもらえてたら嬉しいんですけど



雑談寓話:或るフィクション×ノンフィクション@御曹司譚106

7月連休最終日、朝から御曹司クンとファミレスのモーニング食べて、
いつも通りな会話=試験勉強やら本やらアレコレ笑って、横浜駅まで同じ電車だったから一緒に降りて、
で、別れ際のコンコースで御曹司クンが言った、

「あのさー…またこういうのって一緒してくれんの?」

未遂の件で心配してるんだろな?
って顔に笑ってやった、

「勝手されるの嫌だから考えとくね、笑」
「っ、…」

言いかけて呑みこんだ、その台詞もう解かる気がした。
前なら言ってた言葉を今もう言えない、そんな途惑いのまんま御曹司クンは口開いた。

「ごめん、おまえは違うってあんだけ言ってたのに俺、さー…理性あんとき跳んでた、寝顔うれしくって、」

こんなこと言われるのってどうなんだ?笑

ここまでストレートに言ってくれた相手は前に居たっけか、
そんなこと考えながら笑った、

「おまえマゾの癖にオオカミクンだよね、坊ちゃんクンにも好き勝手してたみたいだしさ、ねえ?」
「っ…今日は何も言い返せねえ俺、拗×凹」

なんて凹んだ御曹司クンの貌は相変わらずカワイイ=オオカミな空気は希薄で、
そんな貌に思ったまんま言ってやった、

「ホント人って見た目によらないね、ヤられ側のMなクセにチャレジャーなんてさ、ねえ?笑」

ほんとチャレンジャーだなって思う、笑
で、言われた相手は顔上げてヤヤ大きい声出した、

「俺だってホント決意してやったんだってば、寝顔にフラってきたのホントだけどでもイイカゲンな気持ちじゃねえしっ、」

休日早朝の駅って空いてて助かるよね?笑

なんて感想に笑っちゃったコンコースは人も少なくて、だから余計に声が響いた、
おかげで道行く人には振り返られたけど絶対数は少ない、そんな状況に笑いながら言った、

「こっちもイイカゲンな気持ちで断ってるわけじゃないよ?笑」

イイカゲンにしたい相手だったら他に方法がある。
放置してもいい利用することだって出来る、でもしたくない、要するに離れたいと思っていなかった。
今日みたいなメンドウなことになるくらい予想していなかった訳じゃない、それでも一緒に夜明かしなんかしちゃった相手は凹んだ。

「なあ…やっぱバイとかって信用ならねえ?浮気しやすそーとか…それとも変態ぽいとか、さー…」

やっぱりそう思っちゃうんだろな?って思った。
御曹司クンは男にも女にも恋をする、恋愛対象360度だから「浮気しやすそー」は事実だろう、笑
だけど問題はそこじゃない、そう何度も言ってるのに解かってくれない凹み顔に笑ってやった、

「おまえがバイじゃなくても自分は恋愛しないよ、理由は昨夜も言ったろ?ちゃんと理解して踏み越えんなよ、じゃ、笑」

とりあえず今日は解散しよう、って思って私鉄乗換の改札に向かって、
そしたら御曹司クンまで改札出たからちょっと驚いた、

「おまえJRだろ?なに改札出ちゃってんの、笑」
「そっちの改札まで送る、」

なんて言われて、本音なんだか切なかった。
まだ離れたくないって言葉とコッチ見てくる目が縋るみたい、そんな孤独が哀しかった。

ほんと家に帰りたくないんだな?

それは自分と一緒にいたいと言うよりも孤独に帰りたくない。
家に帰っても両親と何話すわけでもない、食卓が愉しいわけじゃない、そんな御曹司クンの生活が今も見える。
それなり立派な家で立派な両親たちで何不自由なく育ったはず、それでも孤独が不自由な相手だからこそ笑って言ってやった、

「改札の中にはついてこないでね?笑」

このまま家まで来られても困るしさ?
だってコッチは独り暮らし、一緒に来られたら何されるか解かんない、笑

って台詞は声に出さないまんま笑ったら御曹司クン拗ねた、笑

「っ、あ、疑ってるだろ?俺がついてきたら困るとか思ってるだろ、だからしないって言ってんのにもーー拗」
「前科つくっちゃったクセにエバるな、笑」
「でも未遂だもんねっ、拗」

とか言いながら駅のなか歩いて、で、訊いてやった、

「こっちが目を覚まさなかったら既遂にしてたんじゃないの?ホント信用ならないねえ、笑」

言いながら正直やっぱり困るなって想ってた、
キスくらい減るもんじゃ無いとは思う、でもやった結果が困る。

キスしたら次もって求めたくなるんだろな?

そういう定石みたいなの解かるから踏み越えないでほしかった、
踏み越えたら一緒にいられない、きっと感情の違いが大きくなり過ぎる、だから今のまま気楽でいたかった。
どんなに踏み越えられても自分は変わらない、そう解ってるから触れられたくない本音に御曹司クンは言ってくれた。

「だからごめん、もう絶対勝手なことしないから…また一緒する約束してよ、でないと帰れない俺…」

帰れない、そう言いながらコッチ見てくる貌は犬っぽかった。
捨てられそうな犬or買物待たされ外に繋がれる犬、そういう置き去りにしないでって貌。
そういう貌は哀しくさせられる、で、そういう貌してしまう御曹司クンが哀しかったけど笑ってやった、

「一緒にいたくなるオマエになったらね、笑」

一緒にいたいなら一緒にいたくさせてくれたらいい。
そう思ったまんま言ったら笑ってくれた、

「あとでメールするなっ、気をつけて帰れよーまたなっ、」

またな、って笑って改札前で離れて、
そんな笑顔に笑って改札抜けて電車に乗って、そしたらメール1通入ってた。

大学の友達からだった。


とりあえずココで一旦切りますけどまだ続きます、気が向いたら続篇また。
第76話「総設1」加筆校正もうちょっとします、たぶんこの後にでも。

深夜に取り急ぎ、



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第76話 総設act.1-another,side story「陽はまた昇る」

2014-05-28 23:30:00 | 陽はまた昇るanother,side story
A song into the air 虚実の稀人



第76話 総設act.1-another,side story「陽はまた昇る」

あの夜、どうして電話をくれなかったの?

『道迷いの救助があったんだ、』

理由は聴いている、けれど納得しない想いは我儘だろう。
そう解っている、それでも解らないまま1ヵ月過ごしてしまった今、もう窓は冬だ。

「…いるのかな、」

そっと想い声こぼれて廊下しんと静まらす。
誰もいない独りだけ、けれど今この建物には何人もの警察官たちが動いている。
その一人に探したい人はいるだろう、けれど逢える可能性なんて無い現実に周太は微笑んだ。

―いても逢えないもの、もう帰ったろうし、ね?

午前中に講習があるんだ、桜田門に行くよ?

そう昨夜の電話で教えてくれた、けれど訓練場から昼すぎ帰ってきたばかりでいる。
そんな予定も教えたなら顔見ることくらい出来るのだろう、だけど居場所を告げるなんて許されない。
その現実に扉開いて向こう制服姿の男たちがデスクに静まらす、ここは普通の事務室に見えて秘密の影へ隠される。

守秘義務

たった四文字の言葉が重すぎる。
この四文字を課される場所なんて世界あふれているだろう、それでも重い。
重たくて、そして遠ざかってしまう距離ごと想い裂かれていくようで、唯ひとりが届かない。

『後藤さん達とビバークしてたからプライベートの電話は架けにくかったんだ、でも架かってきたら絶対に出たよ?』

ほら、1ヵ月前の電話また思い出して鼓動を軋ます。

あのとき自分こそ電話を架けられる場合じゃ無かった、メールを見ることも難しかった。
そんな自分だった癖に待っていた本音が我儘を泣く、それを贅沢だと今の所在すら言えない四文字が哀しい。

―でも電話もらっても困ったんだ、事件も発作のことも…でも声聴きたかった、ね、

1ヵ月前あの日、事多すぎた。
あの日に電話をもらっても何一つ話せない、きっと嘘吐かなくてはいけなかった。
それでも声を聴きたかったのは不安な弱虫が泣きたがっている、そう認めて向きあうパソコンの隣から呼ばれた。

「湯原、いま転送したファイルよろしく、」
「はい、」

返事して振り向いた先、精悍な横顔は物堅い。
けれど垣間見せてくれる素顔を今は知っている、その貌に1ヵ月ずっと考えこむ。

どうして伊達は自分を構うのだろう?

『俺の弟も喘息を持ってるんだ、疲れが溜まると発作を起こす。そんな時は歩くだけでも負担らしい、』

事件の夜、そう伊達は言って一晩ずっと看病してくれた。
弟と同じ病を負っているから心配になる、そんな理由で部屋に来て泊りこんだ。

―伊達さんにごはん作ってもらうなんて…それも泊りこみで、ね、

ワンルームの部屋、布団も無いまま床に転がって寝てくれた。
スーツのスラックス履いたままワイシャツ姿で寝転んだ、そんな姿は隣の横顔から解らない。
武骨だけれど細やかな優しい貌、あの貌は今の沈着な横顔には見えなくて、けれどあの夜に言われた言葉はここに座る今リアルになる。

『あの場所は適性が無いやつは死ぬ、性格と能力の両方で適性が無ければ死ぬ、訓練か現場で事故死するか自殺する、』

そう言われた場所に自分は今も座って業務に就く。
あれから1ヵ月に見つめた自席の風景に伊達の言葉は現実だと、もう解る。

―だって勝山さんを一度も見ていない、入院中なのかもしれないけど…どこにも、

今とよく似た時間の1ヵ月前、拳銃自殺未遂が起きた。
そして自分も当事者として事情聴取をされた、あの調査はもう終わったのだろうか?
それとも今この時間すら自分も監視されている?そんな推測に隣の意図が解らなくなってしまう。

あの夜、どうして伊達は自分に付き添ってくれたのだろう?

『隊内で起きた事は全てが守秘義務にある、それだけだ、』

それなら守秘義務をどうやって保持する?

そんな問いかけに答えられなくなる、その方法論に考えてしまう。
あの自殺未遂事件に自分は当事者となった、そして負った守秘義務に監視されても仕方ない?

―あのとき英二から電話が無くてよかったのかもしれない、ね、

もし電話が来たら出ることは許されたのだろうか?

そう仮定するたび今が見えない、誰を信じて何を見ていいのか解らない。
あの夜に嬉しかった食卓すら解からなくなる、こんな自分だから言われるのだろう。

『だから銃声を聞いた時、湯原だと思った、』

適性が無いやつは死ぬ、性格と能力の両方で適性が無ければ死ぬ、訓練か現場で事故死するか、自殺する。

そう言われた通りに自分は適性が無い、だから今こうして考えこむ。
こんな考えに囚われていることすら隣は知って見ているだろうか、だから言われた?

―だから僕を見張ってくれたのかな、守秘義務のこともだけど自殺するかもって…でも伊達さんの手首、

ワイシャツの袖捲った左手首、あの赤い一閃は何だろう?

すぐ腕時計はめて隠されてしまった、今も制服の袖ごと隠れて見えない。
けれどあのとき確かに見た、あれは何かで切った傷痕じゃないだろうか?

―でも伊達さんがまさか、ね…訓練の時とか怪我することあるし、

冷静沈毅、怜悧、頭脳も肢体も無駄なく機能的。
そう言われる男と今よぎった推測はそぐわない、きっと思い過ごしだろう?
そんな思案にもキーボートの手は動き目は画面をチェックする、そうして終えた作業に印刷ボタン押した。
提出はデータ返送と一緒にプリントアウトも渡す、その印字された書類を取りに立ったプリンターの傍ら窓の空がまぶしい。

―陽が斜めだから眩しいね、傾くの早くなって…冬だと冬芽がいいよね、

太陽の高度と輝度に季節を見ながら好きなこと微笑んでしまう。
いま広葉樹は冬枯れている、けれど芽吹く支度は始まっているだろう。
葉も無いまま寒風に幹を晒した冬の木々、それでも樹皮の深くに生命は息づく。

―講義のとき図書館も行きたいな、冬芽のこと調べてみたい…青木先生と田嶋先生のお手伝いあるし、美代さんも追い込みだけど、

次の週末は大学へ行けるだろう、その時を楽しみに考えてしまう。
今この特殊な空間に立っていても学問の時間が心近い、それが幸せで眼下はるかな街路樹を見て、その視線が止まった。

「…ぁ、」

街路樹より近くこの眼下、あの壁面に見えるのは、なに?

―人がいる、でもどうして?

どうして壁に人がいるのだろう?

高差30m、少なくともそれくらい道路から離れている。
そんな高度の壁を人が降りてゆく、ザイルも何も見えない、けれど人間ひとり降りてゆく。
黒っぽい服装は腰あたり裾ひるがえす、きっとスーツを着ているのだろう、でも、こんなこと視覚が嘘を吐いている?

―ありえないよね、こんなところ人が、スーツ着てる人がなんで?

なぜスーツ姿の人間が高層建築の壁面を降りられる?

どう見ても窓拭きの清掃員じゃない、あれはスーツを着ている。
その顔は遠くて見えなくて、それでも確かに見える姿に立止った肩を軽く叩かれた。

「湯原、どうした?具合でも悪いのか、」

呼ばれた声に引戻され振り返って、沈毅な瞳が見つめてくれる。
その眼差しは気遣わしい、そんな相手にも確かめたくて尋ねた。

「あの、伊達さんはそこに見えるのなんだと思いますか?」
「うん?」

すこし首傾げながら顔を向けてくれる。
いつも通り物堅い横顔は外を見、すぐ答えてくれた。

「銀杏と桜だろうな、」

どういうことだろう?

「え、」
「あの街路樹と植込みだろう?銀杏と桜だったはずだ、」

淡々と答えてくれる顔は生真面目なまま、けれど瞳は笑ってくれる。
そんな反応に肩透かし驚かされた前、低く透らす声は小さく笑った。

「湯原は本当に木が好きなんだな、でも時間内は業務に集中しろよ?」

注意してくれながら瞳は愉しげでいる。
ただ可笑しい、そんな貌は誤魔化しの欠片も無くて周太は頭下げた。

「あの、仕事以外の話してすみません、」
「大丈夫だ、いい気分転換になった。書類もらってくぞ、」

生真面目なまま笑って書類を受けとってくれる。
その端正な制服姿の背を見送って窓すぐ見下ろした視界、途惑い吐息こぼれた。

壁にいたスーツ姿、あの誰かはもう居ない。



(to be continued)

【引用詩文:William B Yeats「The Rose of Battle」】

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文学閑話:ある小説譚×恋愛咀嚼

2014-05-28 23:00:00 | 文学閑話散文系
ベッドランプの読書



文学閑話:ある小説譚×恋愛咀嚼

雑談寓話に登場した『チューイングガム』って文庫本、
あれは山田詠美さんが書いた自伝っぽい小説なんですけど、題名が主題になってる感じです。

「毛布のような相手」

との出逢いと日常を綴った恋愛が描かれて、
そのなかでチューイングガムが二人の関係を象徴するモンとして出てきます。
静かなトーンのジャズ旋律みたいな空気感の物語で、たぶん自分が初めて読んだ恋愛小説です、笑

で、そういう初心者には割と良いかもしれないって思います。
自分は高校の恩師から卒業式にもらいましたけど、なるほどなあと。

靴下が落っこちている、寝息が聴こえる、
火事騒ぎにダッシュで帰って来てくれる、体温が優しいと思える、
始まりはナントナクで行きずりだった、けれど日常に幸福を見つけっこ出来る相手。

そんな二人の物語なんですけど、いわゆる運命的出逢いとか理想の王子サマとは程遠い、笑
少年少女マンガやラノベが描く純愛とは正反対です、だけど日常生活から恋していくリアルの純情があります。
この作者サンらしいXXX表現もあるんで中学生以下にはおススメし難いんですけど、日常の時間を積める幸せを優しいトーンで描く純愛ってカンジです。

なんとなくだらっと書きましたけど、笑


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雑談寓話:或るフィクション×ノンフィクション@御曹司譚105

2014-05-28 02:15:04 | 雑談寓話
あんまり眠かったんで仮眠して起きてAesculapiusの加筆してたらコンナ時間です、笑
バナー押して下さる方いるので続きまた書きます、読んで楽しんでもらえたら嬉しいです、



雑談寓話:或るフィクション×ノンフィクション@御曹司譚105

本音、キスされると思った。

7月の夜明のベンチは涼しかった、
だけど頬ふれそうな体温が温くて肩にも腕にも体温ふれている。
そんな温もりの気配に目覚めた視界、至近距離の見慣れた顔に笑ってやった。

「なにやってんの、おまえ?笑」

なんて訊くまでもないのかな?
そんなこと考えながら腕組んだまま笑ったら、御曹司クンの顔は離れた。

「勝手にごめん…でも未遂だから、」

未遂、

そう言われた通り唇には何の感触も残っていない。
で、正直ほっとしながら笑った、

「で、未遂なコトなんでしようとした?笑」
「期待したから、さー…ごめん勘違いして、」

ぼそっと答えて隣で俯いてしまう。
もう夜明近くて明るんでくる、そんなベンチに御曹司クンは言った。

「さっき言ったじゃん、大切にしたい相手とは関係壊すの嫌だから付き合わないって…だから俺もって、期待して…勘違いって解ってるごめん、」

ごめん、

そう謝りながら俯いた横顔は泣きそうだった。
まだ薄蒼い木立の匂いは涼やかで、寝不足だけど冴えてく感覚に笑ってやった、

「勝手したらマジで絞めるよ?相手が誰でもね、笑」
「解かってる、ごめん、」

また謝ってくれながらペットボトル握りしめている。
凹んでる、そんな横顔で、けれど振り向いて言ってきた、

「でもおまえだってズルい、寝顔あんな可愛いクセに無防備に寝るとか反則だってば、拗」

何こいつ言ってんだろ?笑

こういうの開き直りって言うんだろう、
そんな感想から可笑しくって笑いながら言ってやった、

「寝顔は天使だって母に言われてたよ、高校の時もね?笑」

ほんとに言われてたんだよね笑っちゃうけど。
笑っちゃうから笑わせたくて言ってみた、で、御曹司クン笑ってくれた。

「ほらーー俺だけじゃねーじゃん、ってか寝顔はってトコがおまえらしー笑、」

やっぱり「は」がツボるんだ?
そうやって笑ってくれたのが素直に嬉しかった、だからそのまんま会話した、

「ふうん?なにが言いたいのかハッキリ言ってくんない?笑」
「だからー起きてる時は天使じゃねえってことだろ?」
「で、ソレがなに?笑」
「ほらあ、そーゆー訊き方も笑い方も意地悪S悪魔だってば、笑」

なんて会話しているうちにベンチの公園の向こう、海から暁がやってきた。
あわい金色から朱い光に空の紺青色が明けてゆく、そんな時間に時計を見て言った、

「一時間したらファミレス行こっか、着く頃モーニング始まるだろうから、笑」



とりあえずココで一旦切りますけどまだ続きます、気が向いたら続篇また。
Aesculapius「Saturnus5」加筆ほぼ終わりました、読み直し校正またします。
それ終わったら不定期連載Favonius「少年時譚11」と第76話を掲載予定です、たぶん。

深夜に取り急ぎ、



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雑談寓話:或るフィクション×ノンフィクション@御曹司譚104

2014-05-27 01:10:05 | 雑談寓話
晴れのち曇りで風雨って変な天気の日でした、
低気圧の所為か眠い&第76話の読み直し校正も途中ですけど、笑
それでもバナー押して下さる方いるので続きまた書きます、読んで楽しんでもらえたら嬉しいです、



雑談寓話:或るフィクション×ノンフィクション@御曹司譚104

深夜2時過ぎ7月の公園、連休中日から最終日に懸るって頃、
同僚御曹司クンと座りこんでペットボトルに口つけるベンチは涼しかった。
当り前だけど人はいない、ただ街燈ほの明るい空間は草木の匂い涼やかで気持ち良かった、

夏の夜ってカンジするな?

なんて考えながら座ってる向う眼下、街並から海とその先が朧に見えて、
時おり道路走るエンジン音が遠く聴こえて波の音すら聞こえそうで、御曹司クンが笑った。

「ほんと静かだなーイヴの時とまた違うカンジだ、時間の違いかな?」
「だね、草の匂いするし、笑」

前は冬だった、でも今は夏。
どっちも夜だけど時刻が違う、今どちらか言うと朝に近い。
そんな相違に座りこんだベンチでペットボトル片手にやや遠慮がちが訊いた、

「あの、さー…ここって他の誰かさんとも来たことあるんだろ?」

それやっぱ気になるんだ?笑
気になって当然なのかもしれない、そう思ったから正直に答えた、

「昨日まで付合ってたヒトとは来てないよ?笑」

あのひとを連れて来ようって思ったことは無かった、
だけど他のひとなら一緒に座ったことがある、そんな事実に御曹司クンツッコンだ、

「他の誰かさんとはあるんだろ?田中さんとか、」

ずいぶん気にして来るよね?笑
そんなムキになったカンジは面白くて笑って答えた、

「あったらナニ?笑」
「あーやっぱそうなんだっ、拗×笑」
「ナンでそんな拗ねてんの?ベンチ座ったくらいで、笑」

ベンチに座るくらい誰でもするだろう?
それなのに拗ねてるのが不思議で、その拗ね顔が視線あっち向けながら言った、

「だってさーココっておまえのお気に入りなんだろ?そーゆーとこ他の誰かとって妬ける、拗笑」

ほんと困ったなって想った、
こんなこと言われてもナンもしてあげられない、だったら離れた方が良いのかもしれない?
だけど今日だって誘ってしまったのは正直もう居心地がイイって想ってる、から、気づかないフリしてSった、

「独占禁止だから?笑」
「その言い方やめろってば、独禁法ぽくて仕事思い出すじゃん、」
「思い出すの当り前だろが、お互い職場仲間ってヤツなんだからさ?笑」
「っ、だーからーおまえのこと職場仲間とかってダケじゃねーもん、拗笑」

ナンテ感じにまた遣り取りして、
笑っても深夜の無人は広い空間に静かで、なんだか気楽な空気に会話し始めた、

「なー別れたバッカでもおまえって変わらないなー?寂しくねえの?」
「まったく寂しくないってコトは無いと思うよ、でも変わるほど深い相手じゃないから、笑」
「それってさー休日に逢うとかメールするとか、そういうのも少なかったってこと?」
「今までの中では一番少なかったね、いろんな意味で薄い、笑」

ほんと少なかった、そして薄かった、
そんな素直な感想と笑ったら御曹司クン、ため息まじりに言った、

「そっかー…俺ちょっと悔しいかも、」
「なんで悔しい?笑」

って何げなく訊き返して、
そしたら御曹司クンちょっと寂しく笑った、

「だってさー…そんな薄い相手でも付合ってたんだろ、それって俺よりソッチをとったってことじゃん、」

そういう解釈も出来るよね、確かに?
でも自分はちょっと違う、だから正直に言った、

「どうでもイイ相手だから付合ったんだよ?笑」

ヒドイこと言ってるなって自分で解かってる、でも本音だから仕方ない、
そんな正直発言に御曹司クンの目が大きくなった、

「…どうでもイイってなにそれ?最初からどうでもイイってこと?」
「だよ、」

笑って肯定しながらペットボトル口つけて、
すこし温くなった炭酸を呑みこんだら言われた、

「なあ、ホントに好きじゃない相手と付合うってなにやってんだよ?そういうの…あのひとに失礼じゃん、幼馴染の、」

ちょっと怒ってる、そんな貌だった。
その怒ってる理由が嬉しいなって素直に想えて、だから笑った、

「あのひとの為に怒ってくれるんだ?ありがとね、笑」
「っ、…ーそうだけど俺の為でもあるから、」

自分の為にも怒ってる、そう正直に言ってくれる。
こういう偽善しないのって好きだから、こっちも正直なトコに自白した、

「前も言ったけど、あのひとを忘れるって無いんだよね。だから大切にしたい相手とは付き合わないんだよ、応えられなくって関係壊すの嫌だから、」

忘れるって、どうしたら出来るのか解らない。
だって時間経つほど記憶が愛しくなってしまう、記憶だけでも幸せは現実だったと今もあったかい。
それに記憶だけじゃない物も贈られたまま今だって持っている、そういう全部が当り前になってるまんま言った、

「もう話したけどさ、あのひとが居るのって当り前になっちゃってるんだよね。生まれたの自分のが3ヶ月くらい早いけど、あかんぼの頃から一緒でさ、
むこうの兄さんとウチの兄も同じ齢で幼稚園の同級生だったから、送り迎いする母親に抱っこされて一緒に行っててさ?ほぼ毎日会ってたんだよね、
そのまんま自分らも幼稚園生になって一緒に通って、同じ小学校に行って習字とか一緒に通ってさ?ずっと一緒に育ったから一緒が当り前なんだ、今でも、」

あのひとが居る、それが当り前だった。
それは今も終わっていない、死んで離れてしまっても記憶ごと感情は離れない。
だから他に本気になることも出来ない、そういう本音に御曹司クンは困ったみたいに笑ってくれた。

「おまえのソウイウとこ、ほんと好きだなー…意地悪なクセにほんとは優しくってさ、そういうとこ惚れる、」

そんなことまた言っちゃうんだ?
こういうのどうしたら良いんだろとか考えながら、半分眠くなってきたまま笑った、

「惚れられたって意地悪は変わらないよ?笑」
「それくらい俺だって解かってるもんね、おまえがSじゃなくなったら気持ち悪いし、」

なんて笑ってくれて、
だから遠慮なくSってやった、

「おまえはマゾだよね、ヤられる方だしさ?笑」
「っ、だーかーらっ、そういうこと言うなって言ってんだろ馬鹿っ、拗」
「行っちゃうモンは仕方ないよね、意地悪でSだから?笑」
「あーもーーっ、たまには平和に喋らせろってば、拗笑」

ってカンジの言葉キャッチボールに笑って、
そっから本の話になった、

「この間さ、友達に恋愛小説ってやつ勧められて読んだんだけど、あんま共感しなかったっていうか面白くなくてさー」
「そのジャンルをおまえが読んでるのが面白いよね、笑」
「おまえが読んでたって面白いもんねっ、歴史とか経済のとか硬い系の多いクセに、拗」
「恋愛モンも読んだことあるよ?少ないけど、笑」
「うわ意外、どんなやつ?」

って訊かれて、あらすじ話しはじめて、
そしたら眠くなってきて、で、素直に言ってやった、

「眠い、ちょっと落ちる、笑」
「俺も眠いからいいよー…おやすみ、」

ってことで公園のベンチ、座ったまま並んで寝落ちした、笑

昼間は体調イマイチで寝てたから目は割と冴えていた、
でもやっぱり体調イマイチなだけあって眠くて、ベンチ座ったままでも眠れた。
夏の夜だから寒くは無い、夜風は気持ち良くて微睡むくらいならちょうど良かった。
それでも夜明近くなると涼しくなる、で、眠り浅くなったとき気配が頬ふれかけて目が開いた、

本音、キスされると思った、



とりあえずココで一旦切りますけどまだ続きます、気が向いたら続篇また。
第76話「霜雪6」もう一回読み直したら校了です、加筆カナリしてあります。
Aesculapius「Saturnus5」冒頭UPしました、大幅加筆&貼り直しする予定です。

深夜に取り急ぎ、



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