君に醸す、
secret talk88 安穏act.25 ―dead of night
窓あかり、月が照る。
開いた扉くるむ闇、かすかなオレンジ温かい。
壁映るランプあわい部屋、切りとられた銀色やわらかい。
―月明かり、ってやつだな?
閉じないカーテン縁どる夜の光、やわらかな輝度に惹きこまれる。
あの窓はるかに月は照るのだろう、そんな優しい窓際に笑いかけた。
「湯原?なに読んでんの、」
ランプやわらかな光、黒髪やわらかな艶かすかに動く。
その首すじ薄紅きれいで、ページ繰る手もと覗きこんだ。
―あ、匂いが違う?
デスクライト開かれたページ、石鹸の香が甘い。
寮の風呂あがりと違う甘い匂い優しくて、つい傾けた頬に椅子が鳴った。
かたん、
ひかれたデスクチェアふわり、風そっと頬ふれてページが消える。
甘い優しい香なびいて白シャツ翻す、洗い髪ふわり艶のこして立ち上がる。
閉じられた本すこし小さな手に抱いて数歩、月の窓そっと小柄な輪郭うかんだ。
―きれいだ、
銀色あわい横顔、月光やわらかに黒髪を梳く。
波うつ洗い髪いろどる耳、その紅色が鼓動ふれる。
―照れてるのかな湯原?
薄紅色が君を描く、そんな横顔に鼓動が打つ。
鼓動ひとつごと期待が育つ、君の母親が言ったこと本当みたいで。
『宮田くんのこと待っているわ、あの子…たぶん顔、赤いと思うけど?』
君の顔が赤い、それは待っていてくれたから?
そうだとしたら嬉しい、それになんだか可笑しい。
―初対面の時じゃ考えられないよな、あの湯原が照れてるとか?
春三月、警察学校の門。
あのとき自分が何を想っていたかなんて君は知らない。
もし君が知ったら怒るのだろうか、呆れるのだろうか、もう二度と会えなくなる?
―湯原がどう考えるかとかわかんないけど今、かわいいな?
かわいい、赤くなる君が。
かわいくて、ちょっと可笑しくて微笑んでしまう。
そんな想い月ふる窓辺、横顔かすかに唇うごいた。
「…ありがとう」
ぼそり、君の声かすかに横顔ふりむく。
月光なめらかに輪郭えがいて、おだやかな声そっと言った。
「…母、今日はたくさん笑ってたから…楽しかったとおもう、」
おだやかに消えそうな声、でも君の唇が告げてくれる。
そうしてまた黙りこんだ唇に微笑んだ。
「俺こそ楽しかったよ、ありがとうな?」
笑いかけて踏みだして、月あかり床を踏む。
同じ部屋おなじ空間、けれど遠い横顔に一歩が震えた。
―緊張してる俺?
ただ君の隣に立ちたい、それだけ。
それだけなのに爪先ふるえる、月光の輪郭に鼓動さざめく。
これが「緊張」だとしたら今、自分は初めての感覚を刻まれている。
―誰の隣でも緊張なんかしなかったのに、俺…そっか?
そっか?
そんな言葉ことん、肚に落ちる。
落ちて沁みて墜ちてゆく素足の肌、木の床ひそやかに隣ならんだ。
「お…月、」
声こぼれた唇、月光やわらかい。
仰いだ夜はるか銀色かかる、もたれこんだ窓枠の腕に木肌やわらかい。
素肌ふれる木目なめらかに温かで、磨きこまれた住人の端正に微笑んだ。
「湯原の家って居心地いいな、」
この自分の家と違って。
そう言いかけた唇を閉じて、けれど比較めぐりだす。
なぜこんなにも違うのだろう?同じ「母親」という名前なのに。
―うちの母親も掃除はするけど?
息子の部屋を掃除する、それは同じ。
同じなのになぜこんなに違うのだろう?想い、隣が呟いた。
「…そうかな」
「そうだよ、」
あいづち自分の唇が笑う。
こんなふう確信してしまって、そんな自虐と憧憬に微笑んだ。
「湯原の親父さんとお母さん、俺、好きだな、」
君の両親みたいな、自分の両親だったなら?
そんな願いごと溜まりだしている、君の隣から。
こんな願い叶えようもない、そんなこと知っている自虐に声が言った。
「…父と母も宮田のこと…好きだとおもう、」
くぐもりそうな小さな声、けれど穏やかに響く。
こんな優しい言葉どうして言ってくれるのだろう、君は?
「お、嬉しいこと言ってくれんじゃん?」
かろやかに返して笑って、でも鼓動ふかく疼いて熾きる。
燈されてしまう温もり静かで、それなのに消えてくれない。
『好きだと』
君の声が言ってくれた、その一言が熱ともす。
ふかく深く温度ゆるやかに沁みてゆく、明るんで響いて、そして悶える。
―父と母も、って、湯原はどうなんだよ?
君はどう想ってくれる自分のこと?
そう訊いてみたい、けれど訊けないまま月が光る。
残暑の夜やわらかな風の粒子、それから君の部屋きらめく香。
※加筆校正中
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英二23歳side story追伸@第6話 木洩日
secret talk88 安穏act.25 ―dead of night
窓あかり、月が照る。
開いた扉くるむ闇、かすかなオレンジ温かい。
壁映るランプあわい部屋、切りとられた銀色やわらかい。
―月明かり、ってやつだな?
閉じないカーテン縁どる夜の光、やわらかな輝度に惹きこまれる。
あの窓はるかに月は照るのだろう、そんな優しい窓際に笑いかけた。
「湯原?なに読んでんの、」
ランプやわらかな光、黒髪やわらかな艶かすかに動く。
その首すじ薄紅きれいで、ページ繰る手もと覗きこんだ。
―あ、匂いが違う?
デスクライト開かれたページ、石鹸の香が甘い。
寮の風呂あがりと違う甘い匂い優しくて、つい傾けた頬に椅子が鳴った。
かたん、
ひかれたデスクチェアふわり、風そっと頬ふれてページが消える。
甘い優しい香なびいて白シャツ翻す、洗い髪ふわり艶のこして立ち上がる。
閉じられた本すこし小さな手に抱いて数歩、月の窓そっと小柄な輪郭うかんだ。
―きれいだ、
銀色あわい横顔、月光やわらかに黒髪を梳く。
波うつ洗い髪いろどる耳、その紅色が鼓動ふれる。
―照れてるのかな湯原?
薄紅色が君を描く、そんな横顔に鼓動が打つ。
鼓動ひとつごと期待が育つ、君の母親が言ったこと本当みたいで。
『宮田くんのこと待っているわ、あの子…たぶん顔、赤いと思うけど?』
君の顔が赤い、それは待っていてくれたから?
そうだとしたら嬉しい、それになんだか可笑しい。
―初対面の時じゃ考えられないよな、あの湯原が照れてるとか?
春三月、警察学校の門。
あのとき自分が何を想っていたかなんて君は知らない。
もし君が知ったら怒るのだろうか、呆れるのだろうか、もう二度と会えなくなる?
―湯原がどう考えるかとかわかんないけど今、かわいいな?
かわいい、赤くなる君が。
かわいくて、ちょっと可笑しくて微笑んでしまう。
そんな想い月ふる窓辺、横顔かすかに唇うごいた。
「…ありがとう」
ぼそり、君の声かすかに横顔ふりむく。
月光なめらかに輪郭えがいて、おだやかな声そっと言った。
「…母、今日はたくさん笑ってたから…楽しかったとおもう、」
おだやかに消えそうな声、でも君の唇が告げてくれる。
そうしてまた黙りこんだ唇に微笑んだ。
「俺こそ楽しかったよ、ありがとうな?」
笑いかけて踏みだして、月あかり床を踏む。
同じ部屋おなじ空間、けれど遠い横顔に一歩が震えた。
―緊張してる俺?
ただ君の隣に立ちたい、それだけ。
それだけなのに爪先ふるえる、月光の輪郭に鼓動さざめく。
これが「緊張」だとしたら今、自分は初めての感覚を刻まれている。
―誰の隣でも緊張なんかしなかったのに、俺…そっか?
そっか?
そんな言葉ことん、肚に落ちる。
落ちて沁みて墜ちてゆく素足の肌、木の床ひそやかに隣ならんだ。
「お…月、」
声こぼれた唇、月光やわらかい。
仰いだ夜はるか銀色かかる、もたれこんだ窓枠の腕に木肌やわらかい。
素肌ふれる木目なめらかに温かで、磨きこまれた住人の端正に微笑んだ。
「湯原の家って居心地いいな、」
この自分の家と違って。
そう言いかけた唇を閉じて、けれど比較めぐりだす。
なぜこんなにも違うのだろう?同じ「母親」という名前なのに。
―うちの母親も掃除はするけど?
息子の部屋を掃除する、それは同じ。
同じなのになぜこんなに違うのだろう?想い、隣が呟いた。
「…そうかな」
「そうだよ、」
あいづち自分の唇が笑う。
こんなふう確信してしまって、そんな自虐と憧憬に微笑んだ。
「湯原の親父さんとお母さん、俺、好きだな、」
君の両親みたいな、自分の両親だったなら?
そんな願いごと溜まりだしている、君の隣から。
こんな願い叶えようもない、そんなこと知っている自虐に声が言った。
「…父と母も宮田のこと…好きだとおもう、」
くぐもりそうな小さな声、けれど穏やかに響く。
こんな優しい言葉どうして言ってくれるのだろう、君は?
「お、嬉しいこと言ってくれんじゃん?」
かろやかに返して笑って、でも鼓動ふかく疼いて熾きる。
燈されてしまう温もり静かで、それなのに消えてくれない。
『好きだと』
君の声が言ってくれた、その一言が熱ともす。
ふかく深く温度ゆるやかに沁みてゆく、明るんで響いて、そして悶える。
―父と母も、って、湯原はどうなんだよ?
君はどう想ってくれる自分のこと?
そう訊いてみたい、けれど訊けないまま月が光る。
残暑の夜やわらかな風の粒子、それから君の部屋きらめく香。
※加筆校正中
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