孤独の団欒、
secret talk35 虚実 ―dead of night
食卓は香る、でも、味がしない。
「スクランブルエッグはバター多めよ。英二、好きでしょう?」
微笑んでくる顔は美しい、でも、形だけ。
その瞳どこか虚しくて、ガラスみたいな眼に英二は微笑んだ。
「ありがとう母さん、おいしいよ?」
きれいに笑いかけてガラスの眼に映される。
澄んできれいで、でも温もり薄い眼ざしは優雅に眉ひそめた。
「いつも美味しくないもの食べてるのでしょう?警察学校の食事なんて、」
整えられたテーブルに美貌が佇む、ポット携える手は真白に輝く。
白皙たおやかな笑顔が支配する食卓、父がため息吐いた。
「美貴子、もう批判はよさないか?英二が選んだ道だ、」
低く深い声は穏やかで、けれど「溜め」が澱む。
この声が出るともう「だめ」だ?そんな習慣に母が冷えた。
「選んでなんかいません、あなた何もおわかりじゃないのね?」
「おまえこそ解ってないよ、」
穏やかな声、でも、そっけない。
―父さんも冷たくなるよな、母さんだと、
心裡ひとり呟いて、顔だけ笑ってフォーク動かす。
美しい皿に美しい料理、でも味がしない食事に姉が立った。
「ごちそうさまです、会議だから行くわね、」
ブラウス姿すらり立つ、華奢なタイトスカートは休日じゃない。
もう皿を下げる娘の姿にガラスの瞳が瞬いた。
「あら、日曜なのに?」
「本社は土曜日よ、人によっては忙しいわ、」
華やかに微笑んで、ブラウス姿しなやかに踵かえす。
ダークブラウン艶やかな髪の後姿に、父も立ちあがった。
「ごちそうさま、」
かたん、
椅子がひかれて長身が立ちあがる。
その長い脚くるむ端正なスラックスに尋ねた。
「父さんも仕事?」
「うん、急ぎの案件があるんだ、」
答えながら切長い瞳かすかに細めて、長い指がダークブラウン豊かな髪かきあげる。
いつもの仕草にすこし微笑んで、皿の最後のひとかけ口に呑みこんだ。
「ごちそうさま、」
微笑んでフォークおいて立ちあがる。
かたん、椅子から去りながら母へ綺麗に笑った。
「今日は図書館で勉強したいんだ、そのまま警察学校に戻るよ、」
こう言えば満足するのだろう?
いつもながらの言葉と笑顔に、ガラスの眼が美しく笑った。
「勉強熱心ね?英二なら検察庁でもトップになれるわ、司法試験も抜群だもの。鷲田の父は警察のトップもいいと仰るけど、たしかに制服姿の英二も綺麗ね、」
その名前、まるで呪縛だ?
―俺はそんなんじゃないけど?
心また反論する、声に出さないだけだ。
こんな習慣ただ綺麗に笑いかけて、父の後から階段を上った。
―湯原の家はこんなじゃないんだろうな、きっと、
いつも素っ気ない君の貌、でも素顔は温かな穏やかな空気。
そんな君の家庭はこんな食卓じゃない、だって言っていた。
『母に夕食の支度したいから…ごめん宮田、』
夕食の支度したくなる、そんな食卓はきっと優しい。
二人きり母子家庭と言っていた、それでもきっと、この四人家族の食卓より温かい。
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英二side story追伸@第5話 道刻
secret talk35 虚実 ―dead of night
食卓は香る、でも、味がしない。
「スクランブルエッグはバター多めよ。英二、好きでしょう?」
微笑んでくる顔は美しい、でも、形だけ。
その瞳どこか虚しくて、ガラスみたいな眼に英二は微笑んだ。
「ありがとう母さん、おいしいよ?」
きれいに笑いかけてガラスの眼に映される。
澄んできれいで、でも温もり薄い眼ざしは優雅に眉ひそめた。
「いつも美味しくないもの食べてるのでしょう?警察学校の食事なんて、」
整えられたテーブルに美貌が佇む、ポット携える手は真白に輝く。
白皙たおやかな笑顔が支配する食卓、父がため息吐いた。
「美貴子、もう批判はよさないか?英二が選んだ道だ、」
低く深い声は穏やかで、けれど「溜め」が澱む。
この声が出るともう「だめ」だ?そんな習慣に母が冷えた。
「選んでなんかいません、あなた何もおわかりじゃないのね?」
「おまえこそ解ってないよ、」
穏やかな声、でも、そっけない。
―父さんも冷たくなるよな、母さんだと、
心裡ひとり呟いて、顔だけ笑ってフォーク動かす。
美しい皿に美しい料理、でも味がしない食事に姉が立った。
「ごちそうさまです、会議だから行くわね、」
ブラウス姿すらり立つ、華奢なタイトスカートは休日じゃない。
もう皿を下げる娘の姿にガラスの瞳が瞬いた。
「あら、日曜なのに?」
「本社は土曜日よ、人によっては忙しいわ、」
華やかに微笑んで、ブラウス姿しなやかに踵かえす。
ダークブラウン艶やかな髪の後姿に、父も立ちあがった。
「ごちそうさま、」
かたん、
椅子がひかれて長身が立ちあがる。
その長い脚くるむ端正なスラックスに尋ねた。
「父さんも仕事?」
「うん、急ぎの案件があるんだ、」
答えながら切長い瞳かすかに細めて、長い指がダークブラウン豊かな髪かきあげる。
いつもの仕草にすこし微笑んで、皿の最後のひとかけ口に呑みこんだ。
「ごちそうさま、」
微笑んでフォークおいて立ちあがる。
かたん、椅子から去りながら母へ綺麗に笑った。
「今日は図書館で勉強したいんだ、そのまま警察学校に戻るよ、」
こう言えば満足するのだろう?
いつもながらの言葉と笑顔に、ガラスの眼が美しく笑った。
「勉強熱心ね?英二なら検察庁でもトップになれるわ、司法試験も抜群だもの。鷲田の父は警察のトップもいいと仰るけど、たしかに制服姿の英二も綺麗ね、」
その名前、まるで呪縛だ?
―俺はそんなんじゃないけど?
心また反論する、声に出さないだけだ。
こんな習慣ただ綺麗に笑いかけて、父の後から階段を上った。
―湯原の家はこんなじゃないんだろうな、きっと、
いつも素っ気ない君の貌、でも素顔は温かな穏やかな空気。
そんな君の家庭はこんな食卓じゃない、だって言っていた。
『母に夕食の支度したいから…ごめん宮田、』
夕食の支度したくなる、そんな食卓はきっと優しい。
二人きり母子家庭と言っていた、それでもきっと、この四人家族の食卓より温かい。
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