萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

secret talk35 虚実 ―dead of night

2017-11-30 23:53:00 | dead of night 陽はまた昇る
孤独の団欒、
英二side story追伸@第5話 道刻


secret talk35 虚実 ―dead of night

食卓は香る、でも、味がしない。

「スクランブルエッグはバター多めよ。英二、好きでしょう?」

微笑んでくる顔は美しい、でも、形だけ。
その瞳どこか虚しくて、ガラスみたいな眼に英二は微笑んだ。

「ありがとう母さん、おいしいよ?」

きれいに笑いかけてガラスの眼に映される。
澄んできれいで、でも温もり薄い眼ざしは優雅に眉ひそめた。

「いつも美味しくないもの食べてるのでしょう?警察学校の食事なんて、」

整えられたテーブルに美貌が佇む、ポット携える手は真白に輝く。
白皙たおやかな笑顔が支配する食卓、父がため息吐いた。

「美貴子、もう批判はよさないか?英二が選んだ道だ、」

低く深い声は穏やかで、けれど「溜め」が澱む。
この声が出るともう「だめ」だ?そんな習慣に母が冷えた。

「選んでなんかいません、あなた何もおわかりじゃないのね?」
「おまえこそ解ってないよ、」

穏やかな声、でも、そっけない。

―父さんも冷たくなるよな、母さんだと、

心裡ひとり呟いて、顔だけ笑ってフォーク動かす。
美しい皿に美しい料理、でも味がしない食事に姉が立った。

「ごちそうさまです、会議だから行くわね、」

ブラウス姿すらり立つ、華奢なタイトスカートは休日じゃない。
もう皿を下げる娘の姿にガラスの瞳が瞬いた。

「あら、日曜なのに?」
「本社は土曜日よ、人によっては忙しいわ、」

華やかに微笑んで、ブラウス姿しなやかに踵かえす。
ダークブラウン艶やかな髪の後姿に、父も立ちあがった。

「ごちそうさま、」

かたん、

椅子がひかれて長身が立ちあがる。
その長い脚くるむ端正なスラックスに尋ねた。

「父さんも仕事?」
「うん、急ぎの案件があるんだ、」

答えながら切長い瞳かすかに細めて、長い指がダークブラウン豊かな髪かきあげる。
いつもの仕草にすこし微笑んで、皿の最後のひとかけ口に呑みこんだ。

「ごちそうさま、」

微笑んでフォークおいて立ちあがる。
かたん、椅子から去りながら母へ綺麗に笑った。

「今日は図書館で勉強したいんだ、そのまま警察学校に戻るよ、」

こう言えば満足するのだろう?
いつもながらの言葉と笑顔に、ガラスの眼が美しく笑った。

「勉強熱心ね?英二なら検察庁でもトップになれるわ、司法試験も抜群だもの。鷲田の父は警察のトップもいいと仰るけど、たしかに制服姿の英二も綺麗ね、」

その名前、まるで呪縛だ?

―俺はそんなんじゃないけど?

心また反論する、声に出さないだけだ。
こんな習慣ただ綺麗に笑いかけて、父の後から階段を上った。

―湯原の家はこんなじゃないんだろうな、きっと、

いつも素っ気ない君の貌、でも素顔は温かな穏やかな空気。
そんな君の家庭はこんな食卓じゃない、だって言っていた。

『母に夕食の支度したいから…ごめん宮田、』

夕食の支度したくなる、そんな食卓はきっと優しい。
二人きり母子家庭と言っていた、それでもきっと、この四人家族の食卓より温かい。


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紅葉点景:錦秋、紅一点

2017-11-30 22:47:00 | 写真:山岳点景
黄金に朱織る錦、紅の刺繍。


今年は紅葉狩の暇なかったけれど、写真に秋の記憶を遊べます、笑
撮影地:御岳山@東京都青梅市2012.11

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secret talk34 謝罪 ―dead of night

2017-11-29 11:06:15 | dead of night 陽はまた昇る
ただ追いかけて、
英二side story追伸@第5話 道刻


secret talk34 謝罪 ―dead of night

緑の夢を見た。

「正夢だといいな?」

声にして願ってしまう、そこへ立ちたくて。
緑あざやかな稜線の道、青空はるか登ってゆく木洩陽。
こんな夢を見たのは時計のせいかもしれない?左腕に英二は笑った。

「なあ、俺の最初のクライマーウォッチ?卒配から活躍したいだろ、」

言葉に出して鼓動ふくらむ。
左腕しめる紺青色のベルト誇らしい、文字盤デジタル表示が時を刻む。
初めて腕にした登山用腕時計はすこし重たくて、この重みに卒業配置から叶えたい。

『青梅署だと…山岳救助隊を兼務する駐在員だな…原則は経験者しか配属されない、』

昨日、新宿の街中で君が言ってくれた。
あの言葉どおり現実は甘くない、だからこそ誇らしかった。
厳しいからこそ叶えたいと願って、その本当の理由をいつか君に告げたい。

「叶ったら…言えるかな俺?」

言えたらいい、あの黒目がちの瞳まっすぐ見つめて。
今も鼓動ひそやかに息づく熱、この想いは伝えられない、でも言えることがある。

“男が男を片想い”

そんなこと告げても迷惑なだけ、それくらい解っている。
けれど夢を見る始まりをくれた真実を告げたい、どうしても。

「湯原がいなかったら俺、ダメになってたよ?」

クライマーウォッチに告げて願いたい、どうか山に配属されたらいい。
そこで自分だけの道に立つ、そこから君を援けられるなら幸せだと想える。
そんな願い文字盤ながめながら昨夜は眠って、だから実家でも寛げたのかもしれない。

―実家でも寛げるなんて変なんだろうな、普通はさ?

自分で自分にツッコみたくなる、もう気づいてしまった。
一見は「普通のサラリーマン家庭」だけど本当は違う、もう昔からずっと。
そんな全て逃げていたかった、でも今は認めるしかない。この時計を昨日一緒に見てくれた人は違っていたから。

『母に夕食の支度したいから…ごめん宮田、』

昨日、新宿の午後にそう言われた。
あんな言葉どこを探しても自分にはない、だから逢いたくなる?

「夕飯も一緒したかったな…」

願いまたベッドに座りこむ。
まだ部屋着のまま陽があわい、きっと5時半くらいだろう。
ブラインド零れる光ながめて、携帯電話つかみ立ちあがった。

シャッ、

潔い音にブラインド上がる、庭木が光る。
山じゃない現実ひろがる住宅街の朝、それでも朝陽は昇る。
ガラスひらいて晩夏の風やわらかい、淡い空の青に携帯電話ひらいて時刻に笑った。

「非常識だよな?」

電子文字5:30、予想通りの時刻に動けない。
初めての電話いきなりこんな時間、それも「無断」の番号だ?
あまりに非常識すぎるだろう、こんなことなら昨夜やっぱり電話したら良かった。

―姉ちゃんにあんな質問したから架け辛くなったよなあ、なにやってんだろ俺?

電話かけるのに緊張したことある?

そう問いかけたのは自分、初めてに途惑うから。
この緊張とためらいの原因ただ向きあいたかった、あの姉なら答えなにかくれると想った。
この家で唯ひとり肚底から信頼できる相手、そんな姉は解答さらり笑った。

『特に、片想いの相手に架けるときじゃない?』

あんなこと言われて「電話するから部屋を出て」とは言えない。

―言えない、なんて思うあたり俺もう出来あがってるってことだよな?

片想い、そのとおりだ。
そのとおりだから電話ひとつ架けられなかった。
でも、片想いだからこそ約束したくて、捉まえたくて携帯電話のボタン押した。

“電話帳”

表示に操作して名前を探す。
まだグループ分けされていない名前、そのデータに苦笑した。

「でも…怒られるか?」

電話帳の名前に番号にほろ苦い、これは「無断」だったから。

―また湯原が無防備だったから、つい、

心裡の言訳に警察学校の部屋がなつかしい。
附属寮の狭いそっけない自室、でもそこは傍にいたい空気がある。
その空気の真中ふれていたくて毎晩いつも隣室に座りこんで、そうして眠りこんだチャンスに「無断」した。

―俺といて寝ちゃうくらい信頼してくれてるんだからさ、赤外線受信くらい…って普通ダメだよな?

きっと呆れられるだろう?
そんなこと解っていたけれど、それでも声に繋がりたかった。

「一緒に買いに行ってくれたし…最近ずっと飯も一緒だし、隣だし、」

言訳つらねて番号ただ見つめる。
こんなこと他の誰にもしたことない、それでも今は既遂だ。

―もう勝手したことは変わらないんだよな、だったら、

勝手に「無断」でした、それなら理由はある。
これこそ身勝手だろう?自嘲に笑ってメールボタン押した。

T o :湯原周太
subject:宮田です
本 文:アドレス勝手にごめん、理由を話させてほしい。新宿駅南口改札11:30、待ってる。

読み直して送信ボタンに指ためらう。
電子文字の時間6:08、もう君なら起きている時間。
けれど鼓動だけ聞こえだす、速まる響き指先まで浸しだす。

「俺…やっぱそうか、」

そうして初めて知らされる、最初のメールも指は硬い。

secret talk33 鼓動← →secret talk35 虚実

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黄葉点景:黄金やわらぐ

2017-11-29 07:57:03 | 写真:山岳点景
奥多摩の山ふところ参道、黄金やわらかな一本楓。


あちこち散策56ブログトーナメント
撮影地:御岳山@東京都青梅市2012.11

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休眠雑談:なんもならん→休養楽園

2017-11-28 08:45:22 | 雑談

昨日は一日あれこれ忙しく、
帰宅して夜やっとPC前に座って、
さーいろいろやるかな、思ったらPC調子イマイチで、笑

しかたないなーと再起動したら、

“更新プログラムを構成しています”

あー始まっちゃったよコレ駄目だな、
あー長いよサスガウワサのwindows10だよ、
ってか長すぎだよダカラ不評だよwindows10、

なんて待っていたら眠くて眠くて、
まだ10時前なのに座ったまま揺れて、
あーダメだコレPCほったらかして寝よう、

で、起きてPC見たらマダ終わってないんだけど。

かつ自分も風邪っぽい、
PCもアレで自分もあれで、
通常運転は悪戯坊主のみ、笑

どーした元気ないな?

と真っ白もふもふが覗きこんでくれる、カワイイ

俺はオヤツ食うぞ、

とカリカリ良い音させてくれる、
猫ドライフード=カリカリ
とは名は体を表すだ、笑

なんてモバイルブログしているうちPC生き返るか思ったけど、
あと19%かかるらしい。

プログラム更新のせいでブログ更新→小説upできません、
ナンのため更新なんだか本末転倒だよwindows10困るよ、

ナンテイウノひっくるめこれって→寝て風邪を早く治せってコトらしい?笑
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secret talk33 鼓動 ―dead of night

2017-11-27 22:50:08 | dead of night 陽はまた昇る
響く静寂に、
英二side story追伸@第5話 道刻


secret talk33 鼓動 ―dead of night

月が昇った、

帰宅の窓から銀色あざやぐ、思いだす。
だから電話をかけたい、ただそれだけなのに?

「なんで…俺?」

ため息まじり笑ってしまう、こんなこと初めてだ?
電話ひとつ架けるだけ、それなのに携帯電話の指ふるえる。

『ん、…そうだな、宮田は変わったな、』

真昼の声が響きだす、穏やかで静かな深い声。
あの声ただ聴きたくて見つめる液晶画面、扉ノックされた。

「英二?ちょっと入るわよ、」

ああ邪魔された、いいタイミング?

そんな感想タメ息こぼれて自覚する。
こんなにガッカリしたの初めてかもしれない?

「なに英二?すごい…貌してるわね?」

ほら姉の声が呆れる、より、驚いている?
知らないトーンに見つめて、見慣れた美貌に笑いかけた。

「姉ちゃんこそだろ?なにその貌?」
「あんたのせいでしょ、生意気言うとあげないわよ?」

色白なめらかな腕がトレイ差しだす。
載せられた皿とボトルに可笑しくて笑った。

―ほんとのこと知ったら何て言うんだろ、姉ちゃんはさ?

男が男を、

なんて「普通」じゃない、そう言われるのが今の現実。
この姉は否定するだろうか?思案に鼓動そっと笑った。

「あのさ、電話かけるのに緊張したことある?」

これくらいの質問なら許される?
そんな自室の窓からり、ベランダに姉が笑った。

「あるわよ、最初に架ける時とかね?」
「そっか、」

あいづちに指さき見てしまう。
携帯電話ふれる自分の指に酒あまく香って、言われた。

「特に、片想いの相手に架けるときじゃない?」

どくん、

鼓動ひっぱたかれる、痛い。
握り掴まれた心臓に姉を見た。

「英二?ほんとすごい貌してるわよ?」


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夕景:川辺にて

2017-11-26 23:00:11 | 写真:山岳点景
落陽、のち、紺青の夜。


撮影地:相模川@神奈川県

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secret talk32 予兆 ―dead of night

2017-11-25 23:26:00 | dead of night 陽はまた昇る
闇夜に燈る、
英二side story追伸@第5話 道刻


secret talk32 予兆 ―dead of night

夜風が匂う、もう月が昇る。

「見てるかな、ゆ…」

声こぼれて呑みこんで、唇かすかにオレンジが香る。
まだ残り香ふくんだままの本音に英二は笑った。

―湯原の匂いの記憶だ、これ?

新宿駅で別れて、何時間もう経ったろう?
ただ話していただけ、その唇から香った幻が甘い。

『宮田…もしかして、本当に奥多摩地域への配属を考えている?』

幻の香に言葉まで映る、一言一句ふくんで匂う。
あの唇いつも零れるオレンジの香、見あげてくれる黒目がちの瞳。
忘れられない声まで響きだす、ただ並んで街を歩いただけなのに?

―あいたいな、今、

想い仰いだ街路樹、梢のむこう光が燈る。
街灯じゃない高い光、その影に新宿の幻を追いかける。

『青梅署だと…山岳救助隊を兼務する駐在員だな…原則は経験者しか配属されない、』

穏やかな声は深い、どこか口調ぎこちない声。
それでも日ごと一瞬ごと話しだす、口数すこしずつ増えて、それから。

「…笑うとかわいいんだよなあ、」

また声になった?

こんなに零れだすほど考えて、そういえば何度もう見るだろう?
新宿駅で別れてから何度、いくど声を言葉をたどって記憶の眼ざし探して。

―重症ってやつかな俺、でも、

何度もいくども考えて、たぶん「重症」でも解らない。
こんなこと初めてだから知らない解らない、ため息ひとつ苦く甘く薫った。

―なんの匂いだ、これ?

かすかに甘い、ほろ苦い渋い匂い。
渋いくせ嫌いじゃない、かすかに懐かしい、深い安堵の感覚。
どこから匂うのだろう?なんとなく視線めぐらせ歩いて、懐かしい門に立った。

「ひさしぶりだ?」

夕闇に微笑んだ先、古びた表札が懐かしい。
レンガと常緑めぐらす塀あわく薄暮にうかぶ、その門は南京錠に鎖される。
もう誰もいない屋敷、けれど遺されたキーケース出して、かちり開錠した。

かたん、

金属音まだ軽い、手入れがされている。
主はもう消えた家、それでも遺される空気に微笑んだ。

「ただいま、お祖父さん、」

呼びかけて庭木立が光る、夜あわい空気に月が兆す。
この庭で月見した祖父はもういない、過ぎ去ってしまった幸福に歩きだした。

“英二、君の人生だろう?”

声が響きだす、遠い懐かしい声。
あの声だけが自分を見てくれた、自分ありのままに。

「だから訊きたいよ、お祖父さん?」

夕闇やわらかな庭、かすかな甘さ深く渋い。
おだやかな静かな香ながれこむ、ただ慕わしさ唇ひらく。

「お祖父さん、男が男をって…それでも俺の人生だって笑ってくれる?」

清廉潔白、実直な端正な瞳に訊きたい。
まっすぐ自分を見てくれた、その声に教えてほしい。

「きっとさ、母さんとか半狂乱になると思うんだ。それで絶縁になれば好都合かもしれない、でも、」

あの母に受入れられるわけがない、それは「常識」なのだろう。
でも、

「でも父さんは解ってくれる気がするんだ、お祖父さんの息子だからかな?」

ことん、ことん、レザーソール庭石を歩く。
自分だけの足音が響く庭、馥郁やわらかに高雅に薫る。
なにか花が咲くのだろうか?ながめる夕闇の香に唇また甘い。

『宮田は変わったな。…この間の救急法の講義でも、真剣だった』

オレンジが香る、声が響く。
あの声と今ここを歩けたら、それは幸せだろうか?


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夕景:叢雲かける

2017-11-25 22:22:00 | 写真:山岳点景
紺碧に駈ける、黄金ねむる。


朝日夕日空94ブログトーナメント
撮影地:相模川@神奈川県

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山岳点景:尾花に晴富士

2017-11-25 12:59:00 | 写真:山岳点景
秋晴れ蒼天、青い富士に金波ススキ。


第6回 ☆なんでも風景写真☆ブログトーナメント
撮影地:明神山@山梨県山中湖村2017.9

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