萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

設定閑話:side story 物語原点―Twin World

2016-10-04 23:55:27 | 解説:背景設定
PARADOX その未来、



設定閑話:side story 物語原点―Twin World

2011年9月3日から連載を始めた「side stoy」ですけど、
ドウイウ設定+ドウイウワケで書きだしたのか?っていうのをナントナク書きます、5年1ヵ月記念で、笑

そろそろ小説を書いてみようかな?

っていうのが最初の動機、
で、ちょうどそのころナントナク観ていたドラマの補完小説を気軽に書きだしました。
なんで「補完」なのかっていうと、ドラマの会話や設定は矛盾が多い→説明が必要だな?が多かったから、笑
で、そのドラマ「陽はまた昇る」を選んだ理由は湯原周太が魅力的だったから・演じられた役者さんの魅力だったな思います。

ソンナワケで描きだしたんですけど、
ドラマと同時に書いていたところ、コメントとかでドラマ終了後も続き書いてほしいって言われて。
で、書くならちゃんとやろうかなーってコトで・ドラマ設定それまでの話アレコレちゃんと読んで、
ドラマだけじゃ不明点が多かったので、リアルの現場資料や現場の方たちの手記を読んだら凄かった。

青梅署警察医の先生の話、青梅署山岳救助隊副隊長さんの本、
それまで医学も山も資料とか全く読んだこと無かったけど、山岳医療と山ヤの世界を描きたいなって想えたから今みたいのを書きだして。
そうやって吉村医師が生まれて、雅人と雅樹っていう兄弟が生まれて、光一や明広、田中や後藤副隊長っていう山の男たちが生まれました。
山のリアルは凄まじい世界だな、と思いながらも惹きこまれて「Aesculapius」の世界が生まれていました。

で・ドラマ設定はリアル現場の資料を読むほど矛盾が多すぎて、
だったらもうリアルに近づけるための設定も作ってしまえばイイかー、
と、リアル資料をベースに90%オリジナルで描き始めたのが「side story」です。



どこがそのドラマで矛盾だったのか・っていっぱいあるんですけど。

なにより湯原父の設定が矛盾だらけだった、
活動服=交番勤務時の服装で射殺されちゃってたから交番勤務員みたいに描かれてるけどさ、
射撃系の優秀者なら交番勤務は有得ない、全国の道府県警察・警視庁とも警備部機動隊員として銃器対策チームとかに所属してる。
その実像は公表されないけどホントは各道府県警でもSAT所属って事なんだよね、ドコもSATは警備部所属だから。
そういう矛盾をリアル事例と繋ぎ合わせた結果、湯原父=湯原馨の死の状況設定が出来上がったワケ。

警察学校で軽々しくSATの名前を口にしたのもホントはあっちゃいけないだろうと。
自分もSATは何か知らなかったから資料アレコレ読んだけど、完全秘密主義の世界で実像なんか結局のトコ隊員以外は解らない。
そこには人権保護と尊厳の無視が同時並立しているなあって思い、で、創設の頃の手記を読んだらアレコレ問題が多かったワケ。
そこから馨の運命が生まれて、湯原家と「あの男」観碕征治に繋がれる50年の畸形連鎖って闇が生まれました。

多分ドラマ原作者のひとは最終回に宮田が卒配された「御岳町駐在所」は割と適当に設定したっぽいな思っています。
あの雰囲気と地名だと奥多摩方面しかない=山岳救助隊に卒配、ってなっちゃうんだけど宮田の経歴でそれは普通ありえない。
藤岡や光一、第七機動隊山岳レンジャーの浦部たちみたいに元から山経歴があって記録とか持ってると卒配されるけど、未経験者はまず無い。
だから次期山岳会長候補で山の天才キャラクターが必要になった、そのザイルパートナーを探していて適性に合えば選ばれる可能性があるから。

その天才キャラどうしよっかな?ってなり、
オリジナルで生まれた「Aesculapius」の光一がおもしろいなー思い、
でも雅樹が生きているなら光一は警察官になんかならない、だったらパラドックスとして描こうかな?
なんて考えて・ソンナワケで「Aesculapius」スピンオフ×「陽はまた昇る」二次な「side story」が生まれた5年と1ヵ月1日後の今日、笑



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設定風景:物語の森―Imperial Garden

2015-11-12 20:45:02 | 解説:背景設定
Metropolitan Forest



設定風景:物語の森―Imperial Garden

撮影地は全て新宿御苑です。



新宿御苑はエリアが分かれています。
新宿門から入って右手、母と子の森エリアは首都の山岳地域・奥多摩と似た空気があります。



水鏡しずかな沼地は奥多摩湖ふかい谷間の澱みを想いださせます、本家のほうが水もっと澄んでいますけどね、笑



ここは都心にありながら大樹古木を多く見られます。
上は公孫樹イチョウ、11月だと例年は色づき薄いんですけど今年は早いかもしれません。



楓も多く植えられています、見ごろにあたると綺麗です。



大らかな梢あおぐ紅葉×青空、秋の山が都心ど真ん中にあります。



新宿御苑は桜の品種が豊富なことで知られていますが、当たり年は桜もあざやかな紅葉を見せます。
桜園地は芝生公園の奥・千駄ヶ谷門あたりなんですけど、秋に咲く十月桜もあるので探して見てください。
で、咲いてる写真も貼りたいとこですが御苑で撮ったものがありません、ので↓他所の花を参考までに、笑



十月桜はコンナ感じで染井吉野とは特徴カナリ違います。
まばらな花付+多弁の小さな花+細い枝、地味だけれど清楚たおやかな花木です。



新宿御苑は連載中の小説でも舞台に使わせてもらっています。
読んでる方にはお馴染の「あのベンチ」はモデル実存です、笑



芝生のイギリス式庭園に出ると大樹のはざま、摩天楼が見えます。
都心の公園なんだなーと実感させられますが、広大な苑池の空はなかなか広やかです。

公園の様子35ブログトーナメント


撮影2011年11月@新宿御苑


新宿門は新宿駅南口から甲州街道沿い徒歩10分、または東京メトロ丸の内線・新宿御苑前駅出口1より徒歩5分。
園内にレストラン&カフェあり、弁当持参でベンチのんびりもおススメです。茶室もあるので抹茶ゆったりもできます。
かなり広くて歩きまわるので歩きやすい靴がいいです、温室や絶滅危惧種保存エリアなど植物好きには見どころも多くあります。


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設定閑話:警察医― from, Aesculapius 杜嶺の医神

2014-12-03 21:35:09 | 解説:背景設定
司法と医学の境界



設定閑話:警察医― from, Aesculapius 杜嶺の医神

警察医は普通あまり知られていない職名だと思います。
警察医=警察の捜査に協力する警察署嘱託医のことで、非常勤の地方公務員として位置づけられます。
警察医業務は主に2つです。

1.異状死体の検案と判断および死体検案書の作成※検案は解剖不可
2.警察署留置場にて被留置人の健康診断

警察医は普段は開業医として臨床しており非常勤なため、警察署に常駐していません。
連載中の小説では警察署内に警察医診察室を設定していますが、実際は非常勤であるため診察室の設置は原則ないそうです。
とはいえ執務スペース+更衣ロッカーや書類保管場所はあるだろなってコトで物語中では「警察医診察室」と呼称を付けてみました。
で、実際の業務場所として上記1+2を行う部屋は当然あります。

1の検案はいわゆる霊安室、警察署によっては検案室の名称で設置されています。
設備は医師による検案と警察官による検視をしやすいことが主眼で、かつ宗教色は一切排除されるため殺風景です。
検案室では、検案担当の警察医または監察医+検視担当の警察官、また警視庁職員互助組合指定を受ける葬儀社も立会うことがあります。
また検案は東京23区内だと監察医務院の監察医が警察署に出張してきます、

2の被留置人の健診では専用の部屋が留置場内にあるそうです、そこで被留置人は看守に付き添われ上半身裸で健診を受けます。
看守とは警察署の留置場で被留置者を監視しながら生活サポートを行い、また取調など留置場の出入りや護送も行う警察官です。
留置場の勤務は二人組でベテランと若手を組ませますが若手警察官は刑事志望者が配属されます。
被留置者を24時間看続けることで犯罪に関わる者の心理を実地経験から学ぶためです。



警察医の選抜は警察署の管轄地域で内科または外科を専門とする医師から選ばれるそうです。
が、実際は医師の専門分野は複数にわたることも多く内科医として開業していても病理学専攻の医師であったりします。
モデルにしている青梅署警察医の方は開業医として内科と小児科を診られていますが専攻は病理学、この専門知識が検案にも役立つそうです。

警察医の多くは日本警察医会に所属しています、研修会やディスカッションの場もあるそうです。
各都道府県ごとの警察医会もありますが、東京では23区内は監察医務院の管轄でそれ以外の地域に警察医がいます。
多摩地域の監察医務業務は多摩警察医会が行っていましたが、検案件数の増加に伴い検案態勢の維持が難しくなりました。
そのため当時の東京都監察医務院の院長が提案した話合いより、2004年に現在の東京都多摩検案医会の前身が発足しています。
この話合いは東京都健康局、多摩地域の司法解剖を担当する東京慈恵会医科大学と杏林大学の法医学教室、警視庁鑑識課など参加しました。
ちなみに「検案医」とは検案を行う医師全般のことで警察医・監察医はもちろん臨床医なこともあります。
医者なら死亡確認+死因究明について資格があるので。

で、警察医による検案ですが。
通常、人が亡くなるときは病気などによる死因がほとんどだと言われています。
その多くは診療中である病院や在宅療養中において担当医により死亡診断書が作成されます。
こうした医師が死亡診断書を書けるのは診療後24時間以内に死亡した時+担当医として診療している病気が死因の時だけです。
これら以外は警察による行政検視と検案が必要です、例えば自宅療養中の高齢者が独りでいるとき亡くなった場合も変死と判断され検案が必要になります。
具体的には警察官が検視を行い、その後に警察医へ死体検案を依頼し死体検案書が作成されます。
この死体検案書は死亡診断書と同じもので死亡届を役所に出すとき一緒に提出します。



警察医と監察医務院の制度について書きましたが、警察医と監察医は違います。
簡単に言えば、警察医には解剖の権限がありませんが監察医は解剖を行います。

警察医が外表所見など限定的な診察で検案し死因に犯罪性があるかを判断します。
それで犯罪性あり=犯罪死となれば死因の究明に司法解剖となります、司法解剖は大学医学部の法医学研究室が主に担当します。
で、犯罪性はないが検案で死因不明な場合は行政解剖が行なわれます、この行政解剖を監察医が担当しています。

監察医は伝染病・中毒死・災害死が疑われる場合も検案+解剖を行ないます。
東京監察医務院では例外的に司法解剖を行なうこともあり、たとえば行政解剖から犯罪死と判断されると司法解剖に切替えるなどです。
監察医制度は公衆衛生の向上を目的として第二次大戦後、連合軍総司令部GHQの命令により1947年に創設されました。
現在は東京23区・名古屋・大阪・神戸・横浜の5都市で監察医制度がない地域は行政解剖も法医学者が行ないます。
小説の舞台である多摩地域は上述どおり、慈恵医科大と杏林大の法医学研究室が担当です。



連載中の小説では警察医が登場します、
本篇『Aesculapius杜嶺の医神』では主人公の吉村雅樹とその前任・葛城朔太郎、
二次『side story』では雅樹の父・吉村雅也が青梅署の警察医を務めていますが、モデルがいます。
多く参考にさせて頂いている『人の子よーある医師の自分史』の著者、吉野住雄さんは青梅警察署の嘱託警察医です。
この方は東京医科歯科大学で病理学を専攻されて後に青梅で開業しています、で、大学時代は山岳部です。

またAesculapius6「Dryad樹神の懐」から登場の加藤名誉教授を描く資料は加賀乙彦『死刑囚の記録』がメインになっています。
この加賀乙彦さんは本名・小木貞孝さん、東京大学医学部出身の精神科医で東京拘置所医務部技官を務めた後にフランス留学された方です。
パリ大学サンタンヌ病院などフランス各地の精神病院を勤め、東京大学附属病院精神科助手を経て1965年に東京医科歯科大学犯罪心理学研究室助教授。
この精神科医として務めれた経験から小説や手記を執筆されて後、作家に専念されています。

……

 人間は、死と不幸と無知とを癒すことができなかったので、幸福になるために、それらのことについて考えないことにした。(『パンセ』168)

死刑囚は死に向きあうことが刑罰であり気晴らしに身を投ずることも出来ない、そこで死刑囚はノイローゼになることで死を忘れるのである。
そこにある濃縮された時間のなかで陽気さと病的な気晴らし、多忙と多産と運動過剰の状態として躁状態になり動きの多い生活で満たす。
だから拘禁ノイローゼは爆発反応に至る、囚人は暴れまわり自傷行為にも及ぶが囚人自身には異常行動の記憶がない。

完全な忘却をすることにより死刑囚は死を忘れようとする。
そこでは高等な意識を麻痺させ無意識層で全て行う、これが拘禁ノイローゼの爆発反応である。
それは言い換えれば、人間であることを放棄し動物になることであり原始反応の一種といえる。

……

Aesculapius「Dryad3」より加藤教授著作の抜粋ですけど、これも『死刑囚の記録』を参考&引用した部分です。
パスカルの『パンセ』168からの引用も使われています。

こうした司法×医学に関わる医師の方は臨床医とは違う現実がまたあります。
ドラマや小説などでは監察医や法医学研究室が捜査官ぽいことをやりますが実際はやりません。
あくまで検案や司法解剖や診察から解かった事実を捜査&裁判資料として提出するのが領分、そこには医学的観点に立つプライドと責務があります。


って記事を140万PVになったし纏めてみました、笑

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設定閑話:水底の村

2014-06-14 22:55:20 | 解説:背景設定
ふるさと彼方に



設定閑話:水底の村

本編「Aesculapius」主人公・雅樹の恩師、坂上教授は山岳地域の出身です。
6月11日掲載「Favonius少年時譚15」でも坂上の故郷はダムに水没したと語られていますが、
そのモデルになっている村に今日ちょっと行ってきました、で、写真はその村があったダム湖の丹沢湖です。

上は貯水側、下は逆サイドで芝生とコンクリート護岸された土手になります。



1961年(昭和36)4月より基礎調査、
1969年(昭和44)より計画開始、神奈川県企業庁による補助多目的ダム事業
1974年(昭和49)5月着工、1978年7月完成、洪水調節と神奈川県全域への上水道供給、水力発電出力7,400kw

このダム建設により223世帯が水没しました。



ダム完成前、元住民から地名を残す要望がありました。
そのため神奈川県は予定ダム名「酒匂ダム」から湖底に沈んだ村名に因み「三保ダム」に変更しています。
旧村民は故郷を懐かしんでその後、生まれた子供たちに村名に因んで「保」を名前に入れることも多かったそうです。

小説中の坂上教授はダム着工時は成人していますが名前は「和保」です。
代々の故郷を愛する祖父が付けた名でソンナことからも坂上の郷土愛は篤いです。
そうした家族の期待と郷土愛から医者になった坂上教授ですがリアルにモデルがいます、笑
坂上とは世代が違いますが三保村から移転した家の出身で無医村問題から医学を志した人です。



旧三保村は山奥の集落です、道も細くて車では乗り入れ出来ない場所もあったのだとか。
なので郵便局員は自転車で山道を登ったり、それでも住む人には離れ難かったと住んでいた方は話してくれました。
その方は代替地へ移転していましたが、旧村民で丹沢湖周辺地に移り住み今も生活している方達もいます。



ダムには写真の通り小島があります、
どんな島なのかは未調査なんですけど作中「鎮守様の山」のモデルです。
この島にモミジがあるかは知らないのですが、三保ダムから丹沢湖周辺は楓や椛が多く観られます。

初夏の今は土手に撫子が咲いていました。



というわけで加筆校正ほか遅れていますが、第76話これから随時加筆していきます。
お待たせ合間に取り急ぎ、

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設定閑話:奥多摩の春

2013-05-04 21:59:07 | 解説:背景設定
氷雨、春から季移ろう



こんばんわ、GWいかがお過ごしですか?
自分は昨日も今日も遠出しています、で、写真は@三頭山。

夕方16時半ごろだったかな?昨日撮影した空です。
冷たい小糠雨ふる山は、水蒸気に陽光が反射して光の進路を浮ばせます。

昏い雲、鉛雲、光雲。
空の光映した色彩は雲にも変化を与えます。
そんな雲達から光ふる斜線は「天使の梯子」とも言うそうです。



標高1,000mを超えた地点は氷雨という体感温度。
時おり雨粒の大きくなる冷たい時雨に花も、雫こぼし煌めきます。

まだ桜が咲いてるんですよね、三頭山。
この写真は山桜の一種だと思いますが、八重咲きも豆桜の一種も咲いています。
まだ桜花ほころぶ季に三頭山は有ります、山頂は1,531mですがこの撮影ポイントは車道脇です。



いわゆる桜ではないけれど、バラ科らしき花も咲いていました。
雫ふくんだ花も葉も夕なずみ、あわい光に白く青く瑞々しい姿は可憐でした。
この時期に山でたまに見かける花です、が、名前をまだちゃんと調べていません。笑
下の写真のなんですが、もし名前をご存知の方いらしたら教えて下さい。



いま奥多摩は山藤の滝もあふれます。
薄紫の花房と萌黄の葉は町を渓谷を山を染めあげて、晩春の風が甘いです。

藤は香がかなり甘やかですが、友人は宇治平等院の藤棚で蜂に刺されたのだとか。
たしかに藤からんだ廃屋のなかスズメバチらしき巣を見ました。
危ないですね、笑

以前にも書きましたが、藤は樹木にからまり寄生することで生育する植物です。
そのため林業では忌避される植物で藤蔓は伐り払われてしまいます。
ですので、藤が繁茂する山林は手入れをされない場所です。
だけど個人的には藤は好きで、咲いてるとテンションがあがります。
林業の方に申し訳ないんですけど、花の滝は綺麗です。



The innocent brightness of a new-born Day  Is lovely yet;
The Clouds that gather round the setting sun
Do take a sober colouring from an eye That hath kept watch o’er man’s mortality;
Another race hath been,and other palms are won.
Thanks to the human heart by which we live. Thanks to its tenderness,its joys,and fears,
To me the meanest flower that blows can give Thoughts that do often lie too deep for tears.

生まれた新たな陽の純粋な輝きは、いまも瑞々しい
沈みゆく陽をかこむ雲達に、謹厳な色彩を読みとる瞳は、人の死すべき運命を見つめた瞳
時の歩みを経、もうひとつの掌に勝ちとれた
生きるにおける人の想いへの感謝 やさしき温もり、歓び、そして恐怖への感謝
慎ましやかに綻ぶ花すらも、私には涙より深く心響かせる

William Wordsworth「Intimations of Immortality from Recollections of Early Childhood」XI

作中も何度か使っていますが、山や森でこの詩の光景に出合います。
暁にも黄昏にも雲は太陽と輝いて、ふる陽射しの煌めきに花も木も水もまばゆいです。






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設定閑話:湖冬の富士

2013-02-10 10:30:22 | 解説:背景設定
零下のリアル



写真は山梨県郡内地方の山中湖です。

作中にも冬富士や凍結する山中湖の描写が出てきます。
いずれも東京近郊のリゾートといったイメージですが、その冬は甘くありません。
山中湖の厳寒期は夜間、零下20度も珍しくない為に湖水も凍りつき、村内も一度積もった雪が長く残ります。
当然のよう富士山の気温は推して測るべし、太陽光を反射する鏡面状態の雪はコンクリートのよう固くアイゼンも利き難いとか。
その山頂は冬期の北西風が荒れやすく湧きだす雲が消えて現れ、悪天候を起こしやすいため天気図の読取りが必須です。
この風は「空気の塊」と言われる猛威をふるい、八千メートル峰のプロフェッショナルすら滑落し落命しています。

掲載写真は昨日の風景ですが、湖面2/3ほどが凍結していました。
写真下部、薄い氷の部分があるのが解かるでしょうか?こんなふう氷の厚さは均一ではありません。
水は温度によって体積が変化し、膨張と縮小を繰り返すために氷は割れ、また凍ってを繰り返しています。
その上から降雪が覆うため、外見上は平面なめらかな湖上の氷も内部は凍結状態に差がある亀裂の状態です。
そこに体重の負荷が点になって掛かると亀裂から氷が分解し、割れてしまう危険性があります。

なので氷に乗らないよう立看板もあるのですが、観光客に方は乗ってしまうんですよね。
昨日も夕刻17時すぎ、零下2度くらいかな?っていう時に乗っている人を発見してしまい。
学生カップルらしき男の方が湖上に出ていたんですけどね、コッチは写真撮りながら気になります。
もし嵌っても水深1mは無いだろう辺りにいましたけど、急に氷水に漬かれば心臓発作で即死もあるんですよね。
女の子が止めてるんですけど、カップルでいる時はイキがっちゃうタイプだったようで男はナカナカ止めませんでした。
アノ手の男って言うほど意地張って止めないんですよね、コッチが撮影中に帰って行ったから良かったけど。

もし氷の湖に墜ちれば、即死は無くても低体温症を起こす可能性は十分あります。
で、駐在所も消防署も遠いってコトを考えるべきです。便利な都心と違って救助を呼んでも即応できません。
つい先日も、ネット書込みで「アイゼンとピッケルを持った人を奥多摩で見た」ことを笑いネタにするのを見かけましたが。
こういう書込みが無意味なプライドを喚起して、湖氷に乗るような男を生んで結果、事故を起こすんだろうなって思います。
そういう都会ルールに馴れきった方が山や川で事故を起こして、地元の関係ない人まで巻き込んでしまうのが最近の遭難です。

今冬の富士は吉田口で吉田署山岳救助隊がチェックされていますが、テレビには装備ヤバい方が映っていてビックリです。
夏富士のイメージも手伝って「自分は大丈夫」って思っちゃうんでしょうか、そういうの助長するブログ記事も見かけますし。
確かに冬期でも天候に恵まれたら平気って可能性はあります、けれど山は最悪の状況も考えて登る「自助」が当然のルールです。
天候に甘えることも立派な他力本願、低レベルな危機意識が山岳レスキューや小屋主の方達を生命の危険に晒します。
リアルな現場として、遭難事故は小さな油断と自己過信、そして予想外の不運から発生します。



冬の雪、山も湖も銀いろ輝いて本当に美しいです。
低温の季節は凍結も積雪も危険を呼びます、それでも自分は冬って好きです。
でもね、他人に迷惑をかけないコトが自然の世界に行ける資格、って自覚が大事だろうって思います。
先ず自分の身体能力をきちんと把握する、その範疇を遵守することは自分だけではなく周囲への責任で義務です。

いま2月、暦は春でも日本は厳寒期を迎えます。
小説の舞台である奥多摩も氷雪のシーズン、都心近郊でも山は山の冬。
もし出掛ける方ありましたら、きちんと安全を守って冬シーズンを楽しんで下さい。
それは春も夏も秋も同じです、こんな風景に小説のキャラクターたちは生き、物語は紡がれています。








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設定閑話:警視庁山岳救助隊

2013-01-30 11:30:00 | 解説:背景設定
首都、その負と生 



設定閑話:警視庁山岳救助隊

警視庁は首都警察ですが、その管轄に奥多摩があるため警視庁山岳救助隊が配備されています。
構成は警備部所属の第七機動隊山岳レンジャーと、奥多摩を管轄する青梅署・五日市署・高尾署の常駐救助隊です。
このうち奥多摩町と青梅市を管轄し、都下最も遭難が多発する山岳地帯を抱えているのが青梅警察署になります。
この青梅署管轄の御岳駐在所に宮田と国村は所属し、警視庁青梅署山岳救助隊員の任務に就きました。

奥多摩で遭難事故が発生すると3署は各担当管轄内に出動し、そのサポートに第七機動隊山岳レンジャーが入ります。
そのために奥多摩山系の現場訓練もあり、警視庁山岳救助隊全体で合同訓練を行う時は第七機動隊も参加しています。
また警視庁管轄外にも要請により出動し、宮田の同期・藤岡のエピソードにある通り災害救助隊として現地派遣もされます。
第七機動隊は2つの小隊から構成され、一個小隊につき小隊長以下16名となります。小隊長の階級は駐在所長と同じ警部補です。
通常は第七機動隊舎などで懸垂下降や高架などのレンジャー訓練を行い、山岳救助に必要な専門技術を術科・座学とも研鑽しています。

警察庁2011年6月10日発表「平成22年中における山岳遭難の概況」によると、
2010年の全国の山岳遭難は、発生件数、遭難者数ともに1961(昭和36)年以降、過去最高を記録しました。
過去10年間の山岳遭難発生状況は増加傾向、2001年と比較すると発生件数59.2%、遭難者数63%増となってます。
死者、行方不明者は前年に比べ減少したものの、安易な登山計画による道迷い等が多発しているのが現状です。

全国の山岳遭難発生件数と遭難者数
2008年 1,631件( 前年対比+147件)1,933人(前年対比+125人)うち死者・行方不明者281人(前年対比+22人)
2009年 1,676件( 前年対比+45件)2,085人( 前年対比+152人)うち死者・行方不明者317人(前年対比+36人)
2010年 1,942件( 前年対比+266件)2,396人( 前年対比+311人)うち死者・行方不明者294人(前年対比-23人)

下記、遭難事故の多い都道府県の2010年データです。
長野県 213件
北海道 123件
東京都 122件

日本の天井であるアルプス山系を長野県は擁しています、北海道は高緯度による低温が特徴的です。
そのため遭難多発を誰もが納得しやすい、けれど3番目の東京は北海道と1件差なことは意外かと思います。
東京の奥多摩山系は作中でもあるよう最高標高は雲取山2,017mと低山なために初心者コースのイメージが強いです。
そのため遭難要因の最多は「道迷い」と「体力減少による疲労」など登山計画の初歩的ミスが誘引となっています。

メディカルチェックを行って宮田は遠征訓練に向かいましたが、自己の体力レベルを把握することは登山において「自助」です。
最近の山岳事故においては自分の体力を過信した結果、山中で体調不良に陥って遭難するケースが多く見られます。
こうした事例で特に問題となっているのが登山ツアー、コースに対する適切な参加レベルを把握していないことが原因です。
ツアー主催側による体力チェックも無い上にコース計画も精度に欠け、参加者自身が体力を過信している為に事故は起きます。
ようするにツアー主催社も参加者も「自助」を的確に行っていない、その結果、現地の山岳レスキューに過大な負担が掛かります。

それが特に多い現場が、警視庁山岳救助隊が管轄する奥多摩山系を始め、メジャーで手軽な山となっています。
白馬山系や富士山なども2012年は多かったようですね、特に富士山は夏と冬で様相が一変することを知らない方が多いです。
一昨年だったかな?には身延山の参拝客が帰路は登山道を散歩して道迷いに陥り、駐車場から近い地点で疲労凍死しました。
季節は秋だったと思います、都会の秋よりも山中は日没もずっと早く15時には暗くなり始め、気温も零下になる可能性がある時期です。
こうした季節による天候や時間の変化にたいする感覚が鈍麻していた為に、目測を誤ってしまった結果の事故でした。
そうした山への無知識が意識を甘くし、装備不足となって凍傷や低体温症を惹き起て遭難死するケースもあります。

山ならどこにも共通することですが、夏と冬では体感温度から気圧、風速、積雪や凍結による歩行難度は別物です。
低山だから凍結は無い、そう考えるなら滑落死の覚悟が必要なほど山の北斜面と南斜面は温度差がびっくりにあります。
南面は温かく凍結は皆無でも、北面は積雪とアイスバーンに覆われてアイゼン無しには不可能なことは珍しくありません。
奥多摩山系でも冬期はアイゼンが必要とされ、宮田が所属する御岳駐在管轄の御岳山も凍結箇所が数多く存在します。
けれどアイゼンを持たないハイカーも多く、冬期以外もスニーカー等で入山して滑落事故を起こすケースが奥多摩には多いです。

アイゼンどころか、水も行動食も持たずに入山するハイカーも奥多摩には見られます。
この小説を書く時に奥多摩の山をWEB検索で調べることもあるのですが、ブログ記事も参考にさせて頂いています。
そのなかに上述のような方がおられて、いわゆる「シャリバテ」スタミナ切れを起こしかけたエピソードも読みました。
なぜ不備をしたのか?その理由はコンビニエンスストアが途中にあると思ったので、準備していなかったのだそうです。
こういう方は奥多摩初心者には多いのかもしれません、便利な都心から近く東京都内であるならと考えるんでしょうね。

奥多摩は、青梅市街地にはコンビニもファミレスなど飲食店も多くありますが、他の地域では個人店舗が大半です。
宮田たちが勤務する御岳町、青梅線御嶽駅から御岳山までの間にコンビニやスーパーを見たことが自分はありません。
ケーブルカーの滝本駅と御岳山駅の売店は、まんじゅうや団子ならありますが弁当のようなものは特に無いようです。
ここを過ぎてしまうと自販機も無く、御嶽神社の社前町にある茶店が開いている時間は食事出来ますが弁当はありません。
御岳山の奥に連なる大岳山は、山頂の山小屋がありますが営業が不定期と聴きます。コレをアテにして失敗する方もあるとか。
水や行動食をはじめ懐中電灯・雨具、これら山の常備品すら持たない登山者による遭難事故が奥多摩は多いです。

何年か前の実話ですが、母娘での登山客で娘さんが滑落死した遭難事故が奥多摩でありました。
そのとき彼女が履いていたのはスニーカー、しかもお母さんのリュックサックを前に掛け、自分のは背負ってました。
足許の不備に前後の荷物の荷重といった、バランスを崩す条件が揃ってしまった結果の転倒から滑落死へと繋がってしまいました。
一見は低山で楽に登れそうな奥多摩山系ですが、急登やアップダウン、鉄階段に岩場などもあるため膝を傷めるケースが多いです。
この事例でも高齢の母親が足を傷めた為に荷物を引受け、その結果として事故は起きてしまいました。

奥多摩は都下という便利な立地から、こうした安易な登山計画による遭難事故が多い地域です。
北アルプスなど高難度になれば登山者もそれなりのレベルと装備を持って臨みます、けれど奥多摩は初級コースのイメージが強いです。
ですが実際に登ってみると体力が問われるポイントも数多く、住民しか解らない仕事道も交錯するため迷いやすいコースも存在します。
そのために登山図も方位磁石も持たないハイカーが道迷いに陥ると、疲労凍死や害獣駆除の流れ弾に当たる可能性があります。
今は携帯電話があるため救助要請も容易ですが、消防や警察の救助ヘリをタクシー代わりに利用しようとする人もいるそうです。
本来なら不要の救助要請で出動させた為に、本当に必要な救助にヘリが使えなかったら?そうした問題が今、問われています。

こうした「自助」を怠った遭難の件数増加は山ブームが誘発した問題点です。
それに対して出典著者の金副隊長を始め、山のプロ達から多数の提起がされて対応が考えられています。
このことは警視庁管轄に限らない登山全体の問題で「安易=他人を危険に巻き込む」という可能性への無視が原因です。
作中でも国村が時おり救助現場で怒鳴っているように、遭難事故は何らかのミスが誘発するケースが大多数となります。
このミスを犯さない努力、もしミスにより遭難しても自己責任で解決する、それが登山と言う危険に踏みこむ当然のルールです。
それを知らずに登山の楽しさだけを追ってしまう時、遭難事故は起きて救助者をも危険に巻き込んでいきます。

遭難者を救助または遺体の回収をするために、救助者は生命の危険を冒すハイリスクを負います。
それは山のルール「自助」が不可能になった時に「相互扶助」に則って生命と尊厳を護ろうとする精神の顕われです。
このハイリスクを警察官や消防官の山岳レスキューは「任務」として負い、公務の意識に心身を呈して危険地帯へ立ちます。
そのことを遭難者やその家族たちの中には「公務員だから当然だ」と言って感謝の言葉を言わない人もあるそうです。
確かに公務員は納税者のために奉仕する義務がありますが、けれど生命の危険を冒すことは「人間」の尊厳に関わっています。
生命を懸ける義務を「負ってもらっている」ことへ感謝する、それが同じ生命を持つ人間として当然の義務ではないでしょうか?

こうした「感謝する義務と責任」を知らない安易な意識が、最近の遭難事故多発の根源です。
その最たる現場が首都東京、警視庁山岳救助隊が立っている「山」奥多摩管轄の現実となっています。
いま本編では七機山岳救助レンジャーに異動した国村が、現場所轄と本庁の温度差に向合い始めました。
ちょっと七機に関する資料が少ないのでリアル現場が見え難いため、手持ち資料の限りで推論から描いています。
なので詳しい方からすると相違点も多いかなと思います、もし博識の方いらしたら是非教えて戴きたいです。

世の中 2ブログトーナメント
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特別編補記:冬三夜、 願い廻らす物語

2012-12-30 23:23:25 | 解説:背景設定
三つの空、その願いに天使は  



特別編補記:冬三夜、 願い廻らす物語

クリスマス特別編「冬三夜―Christmas Carol」が今、完筆しました。
introductionを含めて全12話、英二・周太・光一が小学校1年生に見つめたクリスマス・イヴの物語です。
物語の主軸として二つのクリスマス・キャロルをモチーフに、3つの物語がリンクするよう描いてみました。

ひとつめのクリスマス・キャロルは英国の文豪チャールズ・ディケンズが書いた小説『Christmas Carol』です。
読まれた方も多いと思いますが、強欲ジジイのスクルージーが1人の亡霊と3人の精霊に出会う四夜の物語になります。
最初の夜、友人の亡霊がスクルージーに「忠告」を与えに現れる、その台詞がintroductionにある引用文です。
二夜めには「過去」のクリスマスに再会させられ、幼い幸福を思い出した老人は失った物の価値に気付きます。
三夜めには「現在」のクリスマスを幻影として見せられて、自分を見つめ直し自身の罪を知りました。
そして最終夜、老人は「未来」のクリスマスに自分がどうなっているのか?その予言に震えます。

過去・現在・未来といった3つの時間にあるクリスマスと出会う。
この時間軸を超えて出会うクリスマスというモチーフを「冬三夜」の各話でも使ってみました。

第一章「Angel's tale」 自分と似た山ヤの医学生「未来」と出会い孤独を癒され今の幸福に気づく。
第二章「Graine du bonheur」 父親と同じ願いを持った男性「現在」と援けあい共に今の幸福を笑いあう。
第三章「Bonheur de l'ange」 尊敬する医学生と共に出産を見つめ「過去」の自分と母の姿を見つめ、今ある感謝を想う。
そして全話に登場する唯一の人物は、自身の過去から未来の全てに出会いながら3人の少年たちと幸福な瞬間を笑いあいます。

ふたつめのクリスマス・キャロルは古くから欧米で歌うクリスマスソングのことです。
その中から『Les Anges dans nos Campagnes』、邦訳では『野原の天使』また『荒野の天使』をイメージに登場させました。
この歌には全話登場する医学生雅樹の生き方と願い、そして未来を予知させる意味を穏喩させています。

第一章「Angel's tale」天使の物語

小学校1年生の英二が見つめるクリスマス・イヴは、孤独から始ります。
その原因は「母」の不在、これは人間の根源的ともいえる孤独で、精神的重傷になりやすいです。
この孤独が英二の思慮深い哲学的性質を育んでいきますが、それと同時に冷酷な程の人間不信になる温床でもあります。
冒頭で英二は同級生の女の子から恋の告白を受けますが、その告白が深い心の傷を抉ることになってしまいました。
それは彼女の告白内容が、いつも実母から言われている事と全く同じ内容であり「英二」と向きあわない為です。

いつも実母から褒められるのは勉強と運動と、容姿のこと。
どれも外的評価がしやすい点ですが、そこには英二という「人間性」への受容はありません。
けれど英二が重要視するのは能力や容貌よりも、心理的要素である性格や雰囲気・思考など内面的素養です。
そこを一番に実母から認められない現実に深い孤独を抱いています、この孤独感は他による補填も難しい。
英二には祖母、姉、家庭教師で乳母でもある菫といった佳き理解者が周囲に居ます。
それでも孤独は根源的に深すぎて、完全に治癒されることはありません。

子供の心に向きあわない母親、そう英二自身も解かっています。
それでも幼い7歳の少年は当然のよう母を慕い、期待して、けれど裏切られてまた傷つきました。
いつも褒めてくれる勉強と運動を評価する「通信簿」これがあれば母も喜んで自分を構ってくれるはず。
そう期待して終業式の後、寄り道せずに真直ぐ自宅へと英二は帰りました。けれど、母はもう出掛けて不在でした。

 自分が帰ってくるなら、最初に通信簿を見てくれると思った。
 自分の成績を喜んでくれて、昼ご飯を一緒に食べてから母は出かけると思っていた。
 けれど母はもう出掛けていない。そんな予想は今朝の雰囲気から察してはいた、けれど本当は期待していたのに?
 せめて今日だけは、母の作った食事を置いてほしかったのに?
 たぶん出掛けるなら料理しないだろう、そう予想はしていた。それでも「今日」は特別だと思ったのに?
 だって今日はクリスマス・イヴで世界中の家庭では皆、親たちは子供を楽しませようとしている筈なのに?

終業式で通信簿がある、しかもクリスマス・イヴ。
そんな特別な日であることに母も「特別」な対応をしてくれる。
その期待に母親の愛情を確かめたくて、英二は祖母の家に行く前に自宅へと帰りました。
けれど裏切られてしまった現実に、涙も流さず「もういい」と微笑んでメモをゴミ箱へ捨ててしまいます。
この瞬間、子供らしい母への期待はまた1つ捨てられて、英二の「母」ひいては女性に対する不信感がまた育つ。
こうした繰り返しが後に、美しい青年に育った英二の女性と母性に対する冷酷な態度と、相反する痛切な希求へと繋がります。

そんな孤独感を抱いて英二は、新宿の書店へと足を向けます。
その書店はたまの休日、父親が連れて行ってくれる大好きで大切な場所です。
英二は父親を愛しています、多忙で少ない時間を父が一生懸命「子供」に懸ける事を知っているからです。
けれど、こうした父・啓輔の態度が英二たちの母親を冷たい女性に仕立ててしまった、夫婦の哀しい現実があります。
そんな母の苦しみに英二が気づくのは、周太とその母である美幸に出逢ってからのことです。

最初、英二は孤独感のなか電車に乗り新宿駅に着きます。
けれど雑踏を歩くうち「ひとりも良いな?」と愉快な気持が起きだしました。
周りを歩く人や街の様子を観察し、自由に独り好きなよう歩き回ることを楽しむ。
こんなふう孤独感も楽しむ哲学的思考は、巡回や自主訓練で山を単独行する時間を好む基盤です。
このクリスマス・イヴの単独行という冒険で着いた書店、英二は美しい山ヤの医学生「未来」と出会いました。

片手に『First Aid  Emergency care 』救命救急医療の専門誌を持った「山に登ってるよ」と笑う青年。
これは後年の英二が山ヤの警察官として、応急処置を主担当し警察医の助手も務めていく姿の予言です。
予言「未来」を示す綺麗な笑顔の青年は、雪空色のコート姿で子供の英二にも対等に話し「通信欄」を認めてくれました。
この対等性と、求めていた心理面への讃美が英二の心を温め、自分自身の「今」ある幸福に気づく余裕が生まれます。
そして帰った成城の街で祖母と姉に迎えられ、聡明な家庭教師に「今日」の感謝を導かれて幸福なクリスマスイヴを過ごしました。

冒険で「未来」に出会い今の幸福に気付いた英二、そんな精神的成長への褒美に最高のクリスマスプレゼントが夜に贈られます。
このプレゼントが贈られるきっかけ「種」を蒔いてくれたのは、第二章「Graine du bonheur」の主人公である周太でした。

第二章「Graine du bonheur」幸福の種

母親と一緒にクリスマスの街を歩く、そんな幸福なシーンに物語は開きます。
周太と母の美幸、ふたりは寄り添って笑いあい、銀座の文房具店へと入りました。
そこで万年筆のインクを買い求めた後、クリスマスプレゼントを見つける宝探しを始めます。
そして周太は父への贈り物を探す「今」に、父親の馨と似ている男性に出会い声を掛けました。

涼やかな切長い目、知的で穏やかな雰囲気、同じような年格好。
そんな父との共通点を見つめた男性は、父と同じよう万年筆のインクを求めていました。
その男性は父と同じよう多忙で、子供と話す時間が無くて困っているのだと打ち明けてくれます。
この願いごとは父の馨と同じです、そう気づいた周太は応えてあげられると喜んで自分たち父子の「約束」を話しました。

 お手紙をノートに書くの。そうするとね、お返事を書いて僕の机に置いてくれます、おとうさんから書いてくれる時もあるの。
 そうしたら僕がお返事して、書斎の机に置くの。そうやってノートでお手紙をしたら会えなくても話せるし、後で何度も読めていいでしょ?

この湯原父子の「約束」習慣は、周太の祖父である晉が息子の馨と交わしていた約束の応用です。
9/28にUPした「P.S親愛によせて―from Oxford August.1966」7歳の馨が書いたエアメールにその習慣が記されています。
これを周太から教えられた男性は、その智恵に喜んでノートを子供達のクリスマスプレゼントに買うことに決めました。
そして周太に父親へのプレゼントは何が一番かを教えて、周太の心を温かく幸せにしてくれました。
そんな男性に尚更のこと馨の俤を見つめて、周太は父にいつも伝えたい言葉を幾つか男性に贈ります。

 お父さんとお話しできるの、いちばん良いクリスマスプレゼントになるって思います
 おとうさんが帰ってきてくれるなら、僕は何時でも嬉しいです。起きて会えなくても帰ってきたら、お父さんの空気はあるでしょ?

この言葉たちは多忙な父親である男性にとって、最高のプレゼントでした。
このプレゼントの返答に、馨とよく似た男性は幸せな笑顔で応えます。

 君のお父さんへのプレゼントだけど、いちばんは君の笑顔だって私は思うよ?
 私も同じだよ?息子たちが眠っている顔を見るだけでも嬉しいんだ、だから家に帰りたいよ?君のお父さんもきっとね

男性から贈られた「父」の願いと本音に、周太は心から喜びます。
この二人の掛け合う言葉は、クリスマスイヴの「現在」を過ごす親子たちに進行形です。
そして周太と馨にとっては、後年に訪れてしまう哀しい別離とその後「未来」を象徴する言葉でもあります。
このクリスマスイヴは小学1年生7歳のシーンです、その3年後に訪れる同じ日に馨は生きて家に帰ることが出来ません。
それでも馨の願いは変らず、周太の願いも変わらないまま大人になって繊細で強い男性へと成長します。

この周太と出逢った男性が誰なのか?きっと第一章と本篇も読まれた方はすぐ気がついたと思います。
彼は自分で万年筆のインクを買いに来ました、これは仕事の合間に来た買物で本当は妻に頼みたい所です。
それに対して馨のインクは妻の美幸が息子と買いに来てくれています、この対比が宮田家と湯原家の差です。
湯原母子が銀座に買物に来た目的は馨のインクとクリスマスプレゼント、あくまでも父親で夫である馨のためでした。
そんなふうに父かつ夫を心から愛し大切にする母子の姿に、宮田父子が後年に惹かれていく伏線ともなるシーンです。

銀座で馨の買物を済ませた母子は、新宿までケーキとクリスマスオーナメントを買いに行きます。
様々な事にお決まりの店がある湯原家です、けれど周太は通りがかった可愛い雑貨屋で気に入りのオーナメントを見つけました。
雪の結晶を象ったクリスタル製の小さなオーナメントセット、これを美幸はリビングのツリー用と息子用に2つ買い求めます。
そして馨が贈った小さなゴールドクレストに周太1人で飾り付けるよう、楽しく提案してくれました。
これは美幸が息子へ贈る深い母親の愛情から出た、自立した大人になる「未来」への祈りです。

美幸は息子の周太に、父親のクリスマスプレゼントを1人で選ばせました。
オーナメントを買う店も自分で決めさせてツリーの飾りつけも自分だけでするよう仕向けます。
いずれも「1人でも出来る」ことを息子に増やし、自立していく独立心を贈ろうと考えての提案です。
この湯原夫婦には親戚がありません、そして息子は一人っ子で頼るべき兄弟も無く、いずれ独りになる可能性があります。
そうした息子の将来へと誠実に向き合い、母として出来る限りの援けは何かを美幸は考えて息子を育てて来ました。
そんな美幸流教育が甘えん坊の息子を、家事も万能で教養も深く聡明な、穏やかで芯が強い男性へと成長させます。

こうした教育方針の一環としてプレゼントした雪を象ったオーナメントを、周太は出会った医学生に贈ります。
新宿駅で人に突き飛ばされてしまった周太は、けれど生来の運動神経に助けられて左掌の怪我だけで済みました。
この手当てをしてくれた医学生を好きだと想い、お礼をしたくて大切なクリスマスプレゼントのお裾分けをしました。
周太の怪我に雪だるま模様の絆創膏を貼ってくれた、そういう細やかな優しさを持つ医学生に報いたかった訳です。
この想いに医学生も応えてくれて、喜んで救急セットの入った鞄に付けると本当に綺麗な笑顔を見せてくれました。
その医学生を美幸と周太は「天使みたいだね?」と楽しく話しながら馨が好きなケーキを買いに行きます。

この第二章は主人公と母親の性格のままに幸せいっぱいで温かく、他2話に比べて穏やかな光景が続きます。
けれど他2話に比べて登場人物がとても少ないです、それは湯原母子には近しい間柄が少ない現実のためです。
そうした人間関係は、湯原家に絡まる「拳銃」の現実から家族を護り他人を遠ざけるために馨が選択したことでした。
そんな馨が息子から自分と似ている男性の話を聴きます、その男性が誰なのか?馨はすぐ気がつきました。
そして「僕の『今』のクリスマスの精霊に会ったのかな?」と微笑んで、相手の幸せを祈っています。

この日、馨は警備部としての任務で奥多摩に出張し、要人警護の指揮に当たっています。
第三章で光一と雅樹が気がつく様に、要人がクリスマス登山に奥多摩を訪れた警護の任務でした。
元来が山ヤであり警視庁随一の狙撃技術を持った馨には適任です、そしてこの任務のパートナーは後藤でした。
本篇にあるよう後藤は最高の山岳レスキューであり、拳銃射撃の名手であるため奥多摩をVIPが来訪するとガイド兼警護を務めます。
そのため「奥多摩交番の手伝いに来てくれた」馨を心配し、クリスマスプレゼントになる奥多摩土産を手配しました。
そうして美幸には四つ葉のクローバーの栞が贈られて、馨のクリスマスプレゼントとお揃いになります。

このとき周太に贈られた特大ドングリは「蒔いたらデッカイ木になるしさ、」と贈り主の祈りが籠められています。
そんな祈りは周太の樹医を志す夢「未来」への予言と、周太の人間性が大きく成長していく予祝です。

第三章「Bonheur de l'ange」天使の幸福

雪の通学路、光一と美代の帰宅から物語は始まります。
仲良く歩きながらクリスマスイヴの楽しい予定を話し、ほっぺにキスして別れる。
そんなシーンですが光一も美代もあっさりとして、光一の雅樹に対する感情の方が深いです。

本篇では4番目の主人公とも言える美代は、この冒頭シーンしか登場しません。
けれど第二章で美幸が受けとるクリスマスプレゼントの作り手かつ贈り主は、この美代です。
四つ葉のクローバーの押葉をプラスチック板に綴じ、赤いリボンをつけた栞は美代らしい純朴な端正があります。
これとよく似たデザインの栞を、金属製ではありますが周太は銀座の宝探しで見つけて父親の馨に贈っています。
こんなふう美代と周太は好みも似ていて、同じよう植物好きな幼少期を過ごしている情景は、後年のふたりへの伏線です。

帰宅した光一を待っていたのは、後藤の依頼と雅樹の遅刻という2つの報せでした。
がっかりしながらも雅樹の祖父母を思い遣り、後藤の依頼に応える行動を光一は選びます。
こういう責任感は旧家のひとりっこ長男らしい細やかで大きな優しさです。
そして成長した光一が備えていく強靭なリーダーシップへ繋がります。

予定より2時間ほど遅れて、雅樹は奥多摩の吉村家に帰ってきます。
ここから名前のある登場人物として「雅樹」は、等身大の青年として描写スタートです。
愛する郷里に帰りつき、可愛がっている山ヤの少年を抱きあげ、大好きな祖父に昼食をねだります。
炬燵に入って少年の通信簿に笑い、祖母の温かい食事を摂ったあと皆でクリスマスケーキを食べました。

本当は第一章にあるよう雅樹は既に英二と昼食を摂っています、それでも祖母の心づくしを無駄にしません。
また第三章の最終話で光一に訊かれて答えたよう雅樹は英二の孤食を哀しんだ為、第一章で英二に嘘を吐きました。
元々は雅樹は祖父母と光一と、昼食の約束があったわけです。けれど英二の孤独に自身の幼少期を想い、一緒に昼食を摂りました。
このとき雅樹は、光一が祖父母と昼食を共にして楽しませると信じています。だからこそ英二との食事を選ぶことが出来ました。

ケーキを食べ終えた光一と雅樹は後藤の依頼に応え、奥多摩交番へと雪道を向かいます。
その車中、光一は雅樹のショルダーバッグに付けられた、繊細にきらめく雪の結晶に気付きます。
初めて見る美しいガラス細工に見惚れながら由来を雅樹に訊き、贈り主の「ドリアード」へ嫉妬と憧憬を抱きました。
このとき雅樹が語る台詞は「周太」の不思議な一面を示し、光一の抱いた感情は後年の周太と英二との関係に繋がります。
そんな会話を交わしながら奥多摩交番に着き、そこで雅樹と光一は妊婦からの救助依頼を受けることになりました。

狭隘路を通り急斜の坂道を登った、山奥の一軒家。
そこが第三章3話めの舞台になります、こうした立地は実際に奥多摩では見られる所です。
自分も奥多摩に行った時、うっかり車で入ってしまった道が驚く急斜面や細道で難渋した経験があります。
そういう道も雅樹と光一が入って行けるのは、奥多摩の地形に慣れ、山ヤとして雪山登攀も苦にならない為です。
暗くなる時間帯、絶え間ない降雪、そんな悪条件のなか無事に2人は目的の家に辿り着きます。

待っていたのは泣きじゃくる5歳位の女の子と、既に破水してしまった若い母親でした。
いま来た道を搬送する事は不可能、そんな状況下に雅樹は速やかな判断でこのまま分娩する決心をします。
まだ医学部4回生の雅樹は医師免許の取得前です、けれど救命救急士の資格を持ち、父の伝手で現場立会いも数多くしてきました。
それに雅樹は15歳の春、雲取山頂での分娩に立会い父の助手をつとめ、誕生した光一を産湯を浸からせる経験をしています。
そうした経験と自身の碩学を信じて雅樹は、二人の子供に手伝ってもらいながら分娩を行い、無事に男の子をとりあげます。

この決意を雅樹が即断出来たのは、初めて医師を志した小学校6年生の時から山間医療の現実と向き合ってきたからです。
そんな雅樹の覚悟は常備する医療セットと白衣に現れています、それに光一は気づいて雅樹への敬愛を深め雅樹の姿を心に刻みました。
この経験が光一を後年、山岳レスキューとして警視庁に任官する意志に繋がって行きます。それだけ雅樹に対する敬慕が深い光一です。
こんなふうに雅樹は光一へと、山ヤとしてだけではなく人間として医療従事者として、深い影響と強い意志の力を与えています。

雅樹が真摯で冷静な対応を行っていく間、光一は出来る精一杯で雅樹を援けます。
自分とさして年の違わない女の子を励ましながら、シーツやタオルなどを準備して部屋も片付けました。
若い母親の娘にクリスマスを楽しませたい願いに応え、オムライスを作ってケチャップで絵も描いて出します。
このとき妊婦にも食事を作りますが、体調を気遣って彼女にだけは洋風雑炊を用意する細やかな優しさを示しました。
そんな光一の小学生ながら大人びた気遣いが出来る様子に、雅樹はより信頼と将来への嘱望を想い誇らしく嬉しく見つめています。

そして訪れた出産の瞬間、光一は気配に目を覚まし雅樹の隣に座ります。
そこで見た光景は、誕生したばかりの赤ん坊を産湯に浸からせる透明に優しい笑顔でした。
このとき光一は「過去」自分の出生と同じ時間を見つめています、不思議な感覚に心響かせていく瞬間です。
この同じ瞬間に雅樹も「過去」自分が山岳医療に希望を見出した、光一の出生に見つめた喜びを反芻していました。

こうして無事に母子3人を護りきった雅樹と光一の許へ、夜半ようやく救急隊と医師が到着します。
積雪と降雪の悪天候と、奥多摩に訪問した要人の安全確保。この2つの条件が阻んでいた救急が漸く動きました。
そして母子を無事に引き継いだ雅樹と光一は吉村家へ帰り、雅樹は風呂に光一を入れて着替えさせ、いつも通りお伽話もしてくれます。
そうして穏やかな眠りについて、雅樹と光一のクリスマスイヴは温かな布団のなか安らぎました。

迎えた朝、光一は雅樹の疲労を配慮して起こすことをしません。
大好きな雅樹には元気で笑っていてほしい、それに自分も独占めに眠っていたい。
そんな願いに優しい朝寝の時間を過ごし、ふたり幸福感を抱きあいながら笑いあいます。
そして雅樹は光一に、クリスマスイヴに出逢った「過去」の自分を語り、K2峰のカラビナに「未来」を託し贈りました。
この贈り物に喜びながらも光一は漠然とした不安を感じ、雅樹に「約束」をねだり全てと引き換えても雅樹の無事を願います。
けれどこの「約束」には、本篇を読んでいる方にだけ感じる感情があるかもしれませんね?


この「冬三夜―Christmas Carol」には唯一、雅樹だけが全編に登場します。
本篇でも雅樹は過去形で幾度も登場し、本篇主人公である英二を守護する存在です。
雅樹と英二、この二人を廻る関係を明らかにする物語としても「冬三夜」は書いてみました。
第一章で英二の祖母である顕子は「大人になった英二のよう」と雅樹を語っています。
その言葉のとおり雅樹はもう1人の英二、いわゆる英二の「another sky」です。

そんな英二を雅樹は他人事と思えません、だからこそ英二に2つの嘘を吐きました。
ひとつめの嘘は、祖父母と光一と昼食の約束があるのに「独りで食事するのは寂しいから一緒して?」と言ったこと。
これは英二が独りで食事をする状況に気付き、それを同情したと恩着せがましく思われる事を避けるために吐いた嘘です。
ふたつめの嘘は、両親と住む自宅は新宿駅から徒歩圏内にあるのに、英二の最寄駅である成城に自宅があると言ったことです。
これも小学1年生の英二が混雑する電車に独り乗ることを心配して、一緒に帰る申し出を遠慮なく受けて貰う為の嘘でした。
こういう優しい嘘を吐ける男が、雅樹が「天使」と想われる所以の1つでもあります。

雅樹の時間軸で各三章を解説すると、

1.英二と新宿で過ごし、成城の駅まで送る(第一章)
2.成城から民鉄で新宿駅に戻り、そこで周太の応急処置をする(第二章)
3.新宿でクリスマスケーキを買い、歩いて新宿の自宅に戻ると四駆で奥多摩に向かう(第二と三の幕間)
4.奥多摩に到着して祖父母の家で寛ぎ、光一と奥多摩交番に向かう(第三章)
5.奥多摩山中の一軒家で分娩処置を行い、終って祖父母の家に帰る(第三章)
6.翌朝、光一にクリスマスプレゼントを贈り話をする(第三章)

こんな感じで進んでいます。
ちなみに後日譚ですが、クリスマスイヴのバーベキューはクリスマス当夜にも行いました。
そこでは美代や美代の姉が雅樹と話すたびに嫉妬して、あれこれ邪魔する子供っぽい光一です。

本篇を読まれると、光一のみならず登場する山ヤたちの「雅樹」への想いが幾度も語られます。
誰もが素晴らしいレスキューで山ヤで、佳い男だったと語る「雅樹」とはどんな人間だったのか?
そんな疑問への答えがこの「冬三夜」で描かれる、天使のように無垢で真摯な山ヤの医学生です。

こういう雅樹だからこそ光一は生涯忘れることなく「約束」を信じ想い続け、最高の山ヤであろうと自分を信じ生きています。
雅樹の父親である吉村医師も兄の吉村雅人も、雅樹を惜しみ哀しんで、その遺志を継いで山岳医療に生きる道を選びました。
また後藤副隊長も雅樹を深く愛し惜しむ一人です、だから尚更に英二へと喪った夢と意志を見出し、助力を惜しみません。



主人公3人の小学校1年生だった「過去」から24歳の「現在」に繋がる物語。
そして今後の「未来」を予言する伏線を描いた物語でもあるのが第X話「冬三夜―Christmas Carol」です。
各話ごと3人の性格や能力、立場や生立ち等それぞれに個性を表しながら全員が「雅樹」と向きあっていく。
そして3人それぞれがクリスマスの贈り物で繋がっている、そこには美代も加わって4人がリンクします。

英二は雅樹と歌絵本『Christmas Carol』を選んで光一と美代に贈り、自身も雅樹から同じ絵本と絆創膏セットを贈られます。
周太は、英二に「ノート」父親と話す時間を贈り、雅樹には雪の結晶を贈ります。そして光一からドングリを贈られました。
光一は周太にドングリを、雅樹にオムライスを贈りました。そして雅樹から英二と選んだ絵本とK2峰のカラビナを贈られます。
美代は周太の母・美幸に四つ葉のクローバーの栞を贈り、雅樹から英二と光一とお揃いの絵本を贈られました。

英二と光一と美代は同じ絵本を雅樹から贈られています、この絵本は周太が元から持っている絵本と同じものです。
周太は英二には「父親との対話」を、雅樹に「水の結晶」と「樹霊」を贈り、光一からドングリ「巨樹の種」を贈られています。
光一は雅樹からK2峰のカラビナ「最高峰に立つ夢」を贈られました、そして英二は雅樹に「未来の自分」への憧憬を見つめています。
この贈り物たちには5人の関係性と進んでいく道が穏喩となっているのですが、何か解かるでしょうか?

この物語を読まれて、なにか少しでも温かいものや明るいもの、感じて頂けたら嬉しいです。






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設定閑話:御岳、山に里

2012-11-25 21:34:01 | 解説:背景設定
現実と虚構の狭間



設定閑話:御岳、山に里

東京都青梅市御岳、「side story」主人公・宮田の勤務地です。

エリアはJR青梅線御嶽駅を基点に、大塚山・御岳山・日の出山・鍋割山界隈。
多摩川流域の渓谷を挟んで走る青梅街道と吉野街道、この吉野側に御岳は広がります。
地形は渓谷から山へ上がっていく狭隘地で、斜面を段々に切り開いている為に水田は少ないです。
なので、ドラマ最終話での御岳駐在所は水田に立地していましたが、実際は近辺に田園はありません。
そして現実の御岳は隣家との間隔は狭いです、作中の国村家と小嶌家に見られるご近所の立地とは異なります。
その点はぶっちゃけますと、自分の田舎で見られる風景をモデルにした部分です。

小説ではドラマ設定にも準拠して、敢えて御岳駐在所の風景は田園と森林にしました。
そのために御岳の風景描写はリアルに加味して、近隣の柚木町と関東の山里をモデルに描いています。
実際に行ってみると御岳を始め奥多摩では、豪農らしい立派な田舎屋敷が現在も居宅として見られます。
地域差もありますが一般的に、農作業場にする広い庭と養蚕場所になる屋根裏が旧家にある特徴です。
田舎では現在も「家格」村落社会の席次があり、それは家と墓所の構えと立地にも現れます。
こうした辺り、国村家の描写に反映している点です。



また国村と美代は御岳の剣道会に所属していますが、御岳剣道会は実在します。
武蔵御嶽神社に会員募集のポスターもあり、沢井の体育館で週3回の稽古があるそうです。
この剣道会に宮田も国村&美代の強引な?勧誘で第45話「藤翠」から所属しています。
そのうち宮田が稽古に参加する風景も、近々登場する予定です。



御岳山は武蔵御嶽神社の神域になり、門前町と登山道が混在するのが特徴です。
この登山道全般を御岳駐在所属の山岳救助隊員として、作中でも宮田は巡回しています。
あの巡回ルートに出てくる風景は実在の登山道を描いており、実際に歩くと途中かなりキツイ場所も多いです。
足場が悪い所も少なくありません、もし行ってみようと思われるなら、登山靴は確りしたものを選んでくださいね。



標高は1,000mに満たず道標も整備されていますが、ちょっと気を抜いたら滑落してしまうポイントもあります。
特に長尾平から七代の滝を経由し天狗岩までの道は、岩場・木の根道・狭い急斜面・鉄梯子などバリエーション豊富なルートです。
沢を渡る木橋や滝周辺も滑りやすく、子連れの方なら長尾平から綾広の滝へ直接行くルートをお勧めします。

自分が好きなポイントは長尾平からの展望です。
ここを朝、霧がイイ感じの時に訪れると深山特有の情景に出会います。
嶺を覆う樹木から生まれた水蒸気たちは霧になり、山霧は稜線を辿りながら雲に変わり、天へ昇っていく。
そんな水墨画の情景が一望できる場所です、でも昼食ポイントでもあるので正午頃は賑やかです。



この山には「天空の里」と呼ばれる門前町があり、診療所と御岳駐在の駐屯場所もあります。
作中にも時おり登場する民宿や宿坊がある風景はリアルと同じで、急斜の道沿いに軒を連ねます。
立派な門構えの建物も多く、けれど道の斜度はキツイ部分もあるので雪の日は滑りやすいでしょうね。



舗装道路でもこういう状態なので、御嶽社脇の登山道から先はアイゼン無しでの歩行は本当に危険です。
ツキノワグマの生息地でもあり、今秋は週一くらい山道にも登場しています。ので、熊鈴は携行したほうが無難です。
ケーブルカーの滝本駅と山上の駅に併設の土産物店にも熊鈴は売っています、それくらい熊遭遇率が高いってことでしょうね。



産業については「設定閑話:奥多摩の懐」で書いたように、柚子・梅・蕎麦・黍・山葵に林業などです。
御岳の氏神、武蔵御嶽神社に行く途中には名産の柚子と蕎麦に因んだ商品が特に多く見られます。
柚子唐辛子や黍餅大福が土産物に並び、ちょっと変わり種なら一本丸ごとの干芋が珍しいです。
御嶽神社参道の茶店も看板メニューは蕎麦がメインで、中には胡桃蕎麦を出す店もあります。
でも自分がちょっと面白いと思ったのは、立ち食い蕎麦屋です。

御嶽神社に登るケーブルカー滝本駅に併設して、その立食い蕎麦屋はあります。
地元出身のご主人が1人で天ぷらを揚げ、蕎麦を出してくれるのですがコダワリが楽しい。
この店の名物は「舞茸天ぷら」200円で、蕎麦のサイドメニューとしてのみ注文が可能です。
目の前で揚げてくれて、わさび塩を「かけすぎって位にどっさりかけて」と言われます。
その通りにしてみると旨いです、で、他のメニューは「かけ」か「ざる」だったかな?
この蕎麦の薬味のバリエーションが面白くて、いちど寄ってみる価値は充分です。
入れ放題の薬味には名産の柚子もあり、香の高さに驚かされます。

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設定閑話:奥多摩の懐

2012-11-10 22:11:44 | 解説:背景設定
ふるさとの山、



設定閑話:奥多摩の懐

連載中の「side story」達のメイン舞台は奥多摩です。
この奥多摩についての描写と設定は実在モデルが90%以上です。

まず、奥多摩の四季。
春の山桜と藤の花、夏の青葉と雷雨、錦秋の紅葉たち、冬は雪の冷厳と美。
めぐる季節たちの描写は現実に沿って描いています、紅葉スポットや積雪量も実際のデータ出典です。

そして、青梅市御岳町について。
ここが宮田と国村が勤務する町ですが、ここは武蔵御嶽神社を氏神とする土地でもあります。
この神社への奉納剣道大会が第45話「藤翠」に出てきますが、これも実際に開催されています。
作中にある出場規定もリアルと同じで、関東の剣道会が多く出場する盛んな大会です。
御岳の剣道会も本当にあり、この奉納大会にも出場しています。



御岳駐在所は「設定閑話:リアルとの相違」で書いたよう実在との相違ありです。
鉄筋コンクリート2階建ての所を、ドラマ最終話にあった木造建築として描いています。
その周辺もリアルは青梅線土手を前に背後は御岳渓谷ですが、ドラマ準拠で前は田園の後ろは森です。
ただし御岳駅に近く青梅街道沿いと謂う所は同じにしてあります、ここは通勤や出動の利便に関わる点なので。

また、美代はJA西東京に勤務していますが、奥多摩や御岳の産物について彼女は話しています。
作中の既出は、蕎麦・梅・柚子・川海苔・黍、日本酒。これらは実際に奥多摩の名産物です。
兼業農家である国村は蕎麦と梅がメイン、美代の家は柚子が主。この設定も現場から考えました。



卒配編の第19~21話、国村が御岳町内の柿を青年団で収穫し干し柿にするエピソード。
まだ熟しきる前に青年団がメインになって有志を募り、柿の木の所有者に代わり収穫をします。
それを干柿に作り、町の方達や柿もぎの参加者達へと配ったり、土産物などにするという取組です。
これは実際に取り組んでいることで、奥多摩に生息するツキノワグマ保護活動の一環でもあります。

熊の大好物は甘味、果物でも特に甘い熟柿は奥多摩の熊たちにとってご馳走。
けれど柿は人里の庭や畑に植えられています、これを熊が食べるために通えば人間と遭遇してしまう。
元々、熊は臆病で慎重な性格です。この性格のために人間との遭遇に驚いてパニックを起こしてしまう。
このパニックの結果、熊が人を襲う結果になります。こうした人間と熊の不幸な遭遇を回避するため、柿もぎは実施されます。
もしも熊が柿の味を憶えてしまった場合。その熊は狙撃され死ぬことになります、一度味を覚えた熊は何度も柿をとりに里へ通うからです。
そうした現実のために地元猟友会は柿を知った熊を射殺せねばならず、クマ撃ちの術が必要とされています。
このことを第35話「閃光」湯原の回想シーンで国村は語っています。

 ここ奥多摩ではクマと人間は共存しなくてはいけない。
 この山懐でテリトリーを作り住み分けをしているよ、で、どちらも安心して生活しなくっちゃいけない。
 その為には互いのテリトリーを守る必要がある。だから俺たち人間はね、クマに会ったら見つからないようにするよ。
 けれど『柿』を覚えたクマはね、何度もテリトリー違反をして里に現れる。だから、このペナルティは狙撃しかないんだ。

 人とクマが突然に出遭ったら、お互いに傷つけあう瞬間になる…驚いたクマは攻撃しやすいんだ、
 だから俺たちは猟銃を持って武装する、祖先からの土地と家族を守る為に。
 だから里へ降りるクマは俺たちクマ撃ちと『遭遇』する。その瞬間はね、クマにとって即死の瞬間にしないといけない。
 たった一度の狙撃ミスでも半矢になれば、クマは命懸けで反撃に出てくる。それは猟師にとって『死』だ。
 罪なきクマに殺人を犯させることになる、その場を逃げてもクマだって助からない。
 だからね、クマにとって柿は、禁断の果実ともいえる。

 だから青年団で毎年ちょっと早めに柿もぎしてね、干柿にするんだ。クマが食べないように。
 それでも味を知っているクマは里に来る、そして人に危害を与えてしまう。そうなるから味を知ったクマは逃がしてやれない。
 もし『遭遇』したら殺すしかない、出来るだけ苦しみ少ないように。だから猟師にはね、俺たちには『半矢』は絶対に許されない。
 標的は現れた瞬間に正中を狙撃する、これが鉄則で山の掟だよ。
 瞬間の狙撃による即死。それがね、クマの尊厳を守る。そして俺たちの生命と家族を守る。

こうした山で生きる峻厳さは、ツキノワグマの他にも鹿による山林破壊の現状にも見られます。
第57話「共鳴」湯原と美代のフィールドワーク@丹沢山で触れましたが、猟師の減少から増えすぎた鹿が山林を食い荒らす現状です。
そして鹿の山林への害は食害のみならず、鹿の蹄にある穴で異動する山蛭がブナハバチの食餌になることが多大な問題となります。
ヤマビル増加にともない捕食するブナハバチの成虫が増加繁殖し、その幼虫が大発生してブナを食べつくし丹沢のブナ林を枯死させる。
そういう推論をされている研究データがあり、これは奥多摩にとっても同じ危険をはらんで水源林保持の問題に繋がります。
そのため鹿猟も奥多摩では定期的に行われており、このことを第56話「潮流1」有害動物駆除のエピソードに描きました。
作中にある流れ弾に中った登山者の事故は、日本の山間部で実際に起きてしまった遭難事例です。

また読まれていて、山ヤさんが多く住む印象を受けると思いますが、これも奥多摩の現状です。
世界最強のクライマーと言われた方が実際、今も奥多摩に在住されて御岳渓谷等でトレーニングされています。
この方もトレーニング日課のジョニングをされているとき、道端で遭遇した熊に襲われた事がありました。
いま秋で、クマたちは冬眠前の補食期間です。山に行かれる時は熊鈴など対策をして下さいね。








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