萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

雑談寓話:或るフィクション×ノンフィクション@御曹司譚78

2014-04-30 02:00:10 | 雑談寓話
こんばんわ、眠いです、笑
近場の里山に行ったら山藤は咲き始めですが山躑躅けっこう咲いていました、
この雑談もバナー押して下さる方いらっしゃるならってカンジで続き載せてます、楽しんでもらえてたら嬉しいんですけど



雑談寓話:或るフィクション×ノンフィクション@御曹司譚78

正月休み、高校の先生のとこに行ったんだけど、
前にも登場の友達=仮名小林と+もうひとりも一緒することになって、
また小林の運転する車に乗り合わせて地元某所へ呑みに行って、最初の一杯目から先生に訊かれた、

「例の件ってドウなってるんだ?」

単刀直入だよね?笑

こういうストレートな訊かれかたはイッソ気持ち良い、
変な詮索する位なら訊いてやれ、ってカンジの先生の笑顔に答えた、

「ドウもなっていません、友達やってます、笑」
「そうか、で、おまえと恋愛してくれそうな相手は出来たか?」

隙なく訊いてくれる、一杯目のっけから。
ちょっとした不意打ち論法かな?そんなこと思いながら正直に答えた、

「暫定の恋人ならいますよ?笑」

暫定ってしか言えない、やっぱり本気になれそうにないから。
それは正月休みにも思ってしまっていた、その本音に先生は笑った、

「恋愛とも言えなさそうだな、暫定なんて言ってるようじゃ、」
「はい、」

素直に頷きながらジントニック飲んで、
グラスの斜向かいから人の好い茶髪が訊いてきた、

「暫定でも恋人ってさ、いつから?」
「クリスマス直前だよ、笑」

それが良かったのか悪かったのか?
なんてコト考えながら笑ったら正直モンな声が凹んだ、笑

「いいなあ、暫定でも恋人とクリスマスとかってナンダよ、凹」

こいつホント単純お人好しだよな?笑
そんな感想と笑いながら言ってやった、

「オマエも暫定恋人いたろ?年上のヒト、笑」

少なくとも自分よりは恋人って呼んでもいいんじゃない?
そう思ったまんま言ったら友達はまた凹んだ、

「うえ、ソレ言うなってばホント困ったんだからさあ、凹」
「ふうん、困ってたんだ?大変だったねえ、笑」
「知ってるクセに訊くなよう、凹」

なんてカンジの応酬してたら隣も笑いだした、

「へえ、小林も恋人いたんだ?暫定らしいけど、笑」

あれに「暫定」はホント抉るだろな?
そう思ったまんま斜向かいの笑顔は凹んだ、

「いいえーソンナ恋人なんてろまんちっくなモンじゃありませんですよ、すんませんねえ凹」
「あははっ、ほんと大変だったぽいな?やっと色っぽい話かと思ったのに残念だな、」
「ごきたいにそえずもうしわけないですねえ、マジ俺もざんねんですよエエええ、」
「おまえソウイウ卑屈っぽいトコが残念なんじゃねえ?笑」
「うえ、いま俺ライフポイント零になった、凹」

なんてカンジの応酬また面白くて笑って、
そしたら先生が訊いてくれた、

「友達やってるってサッキ言ってたけどな、相手のヤツ大丈夫なのか?」

大丈夫、とはホントは言えない。
そう解かるから答え考えようとしたら隣から訊かれた、

「なあ、その友達やってる相手ってなに?」

なんて答えよっかな?
この回答にもまた考え始めたら斜向かい、ライフポイント零のヤツが言った、

「こいつなーゲイ寄りのバイな人に告白されたんだよ、ドヤ笑」

また勝手に言いやがったこいつ?笑
ドライバーだから酒飲んでいないクセにハイテンション、そんなトーンに笑った隣から言われた。

「おい、バイってバイセクシャルってことか?おまえー…モテるなあ、」

なんだか気の抜けたようなトーンが可笑しかった、
なんて言ってイイか解らない今どうしよう?そういう反応する友達に笑った、

「羨ましいだろ?笑」

笑ってジントニック呑んでツマミに箸つけて、
ソウイウいつも通りに友達ほっとした貌で笑った、

「そうだなー、モテない小林よりは何万倍も羨ましいかも?笑」

またディスられるんだ小林?笑
そんな感想が可笑しくて笑ったら先生も笑って、そして小林は凹んだ、

「ええエエどうせボクは誰にも羨ましがられませんよーホント男でも女でもモテてみたいですう、凹笑」

そういうトコがモテないんだろ?
っていうツッコミ思って笑ったら隣が先制した、笑

「だからソウイウ卑屈っぽいトコがモテないんだって、笑」

あ、言っちゃうんだな?笑 って思ったら卑屈クンが言い返した、

「ええエエそうでしょうとも、だから正反対のこいつはモテるんですよねボクと違っていつもエラそうなヤツですから」
「あははっ、でも小林がエラそうにしたらムカつかれるかも?笑」
「うえ、俺じゃあドウスリャいいんだよお、凹」
「小林には小林の良さもあるだろ?でも卑屈は止めろ、笑」
「うーじゃあ先生ボクの良さがドコにあるんだか教えて下さいよお、凹」
「ある意味で素直なトコ?笑」

なんて会話に笑いながら飲んで、
そういう空気は高校の時のまま変わってないのが嬉しかった。
卒業して数年経って、それでも変わらず話聴いてくれる先生に嬉しかったし友達に楽しい。

こういう呑気なカンジいいな?

こういうの社会人になってから知りあう相手とは作り難い関係かもしれない。
特に「先生」って存在は学生時代まで限定で、職場の上司と全く違う。
なんの利害関係もある意味ない、それが気楽で呑気で懐かしかった。

そんなこと思いながら笑ってて、
そんな合間にポケットの携帯がメール受信の振動した、


感動ブログトーナメント

とりあえずココで一旦切りますけどまだ続きます、気が向いたら続篇また。
Aesculapius「Moueion30」加筆校正は10倍くらいします、楽しみにして下さる方すこし待ってくれますか?
この雑談or小説ほかナンカ面白かったらバナーorコメントなど反応よろしくお願いしたいです、ソレが理由でWEB公開してるので、笑

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山岳点景:白花の青

2014-04-29 23:00:00 | 写真:山岳点景
原野の空



山岳点景:白花の青

川の畔、一本の花木が咲いていました。
たぶん山梨の木です、でも撮影場所は長野県某所になります、笑




That on a wild secluded scene impress
Thoughts of more deep seclusion; and connect
The landscape with the quiet of the sky.

野生のまま秘められた風光に心刻まれて
深まりゆく孤高を見つめ、そして想う
天空の沈黙はるかな視界を。

William Wordsworth「Lines Compose a Few Miles above Tintern Abbey」引用抜粋&自訳




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雑談寓話:或るフィクション×ノンフィクション@御曹司譚77

2014-04-29 01:35:04 | 雑談寓話
こんばんわ、連休3日め夜ですけど、
遠出して山ちょっと歩いてきたので遅くなっています、で、眠いです、笑
針葉樹では落葉松が自分は一番好きなんですけど、その芽が出ていたので写真貼ってみます。
この雑談もバナー押して下さる方いらっしゃるならってカンジで続き載せてます、楽しんでもらえてたら嬉しいんですけど



雑談寓話:或るフィクション×ノンフィクション@御曹司譚77

大晦日の除夜の鐘が鳴って、正月に明けた。
お節料理+お雑煮の家族団欒な朝して家族で新年のお参りして、
で、そのあと暫定恋人との待ち合わせだったから自分だけ電車に乗ったらメールが着てた。

From:御曹司クン
本文:明けましておめでとうございます(顔文字笑顔)
    去年ほんと色々ありがとう、今年もよろしくって言って良い?

メール送ってる時点で「今年もよろしく」言ってるよね?笑
とか想いながら簡単な返信した、

本文:おまえ次第だよ?
    明けましておめでとう、笑

そんなメール送った車内は破魔矢とか持ってる人も多くて、
新年の明るい雑踏に電車は笑顔たち賑やかで幸せそうだった、

こういう平和な風景って良いな、笑

なんて思いながら文庫本を開いて、
待ち合わせの駅に着いて降りて暫定恋人の初詣につきあった。
予定通りに初詣だけで解散したんだけどホント何喋ったとか憶えていない、でも予想外の面白かった事は憶えている、

くれたカステラ焼きが意外と美味しかった、
神社に富士塚があって始めて見たから面白かった、

っていう2件くらいで、笑
それくらい相手のコト興味を持っていない自分だった。
だからいつ別れてもホント不思議は無くて、それでも正月はとりあえず関係解消せず解散してさ、
次の日は田舎に行って甥っ子と遊んで、祖母と話して、従兄ほか親族たちとお節料理×酒な合間に従妹が言った。

「トモくん、秋に別れた言ってたけどその後は?笑」

やっぱりソコは訊かれるんだよね?笑
この回答ちょっと難しいな想ってたら提案してくれた、

「ちょっと日向ぼっこしない?笑」

日向ぼっこ+αがある、それが解かるから素直に頷いて、
で、日向ぼっこ@庭の椅子にて彼女は煙草一服と笑った、

「はービール飲むと吸いたくなっちゃうんだよね、笑」

なんて悦に入りながらも風下に座ってくれている。
コッチが煙草NGなの解ってる気遣いはいつも通りで、そんな空気のまま訊いてきた。

「で、その後なんかあったんでしょ?笑」
「まあね、笑」

笑って話せる限度のトコまで話してさ、で、大きな目なおさら大きくして聴いてくれて、
とりあえず話し終ったとこで煙草も終わって、その時間にため息ほっと吐いて笑ってくれた。

「なんか仕方ないなって想うけどね、バイとかゲイって初めて身近に聴いたからナンテ言ってイイか解んない、笑」

まあ無理ないよね?笑
そんな仕方ないに訊いてみた、

「びっくりはした?笑」
「びっくりするよね、それは。でもトモくんが好かれちゃった理由は解かるよ?」

ちゃんと吸殻ケースに仕舞いながら言ってくれる。
その顔は化粧してるけど昔のまんまの笑顔で笑った、

「トモくんて何でもハッキリ言いすぎるけど嘘吐かないし、口悪いしけど無闇な否定はしないし結局は受けとめてくれるでしょ?そういうの安心するのかも、」

褒められてるのか貶されてるのか解らないよね?笑
とか想いながら可笑しくて笑った、

「ソレって体験談的な発想?笑」
「自覚あるでしょ、無いとは言わせないよー笑」

笑ってくれるトーンは気安くて楽だった、
そして話の焦点が御曹司クン>暫定恋人になってることに訊いてみた、

「いま付合ってる人よりも御曹司クンの件ばっかりになってるけど、それってネタとしての新鮮さ?」
「それもあるけど重要度じゃないの?」

さらっと返してくれる言葉に我ながらちょっと困るなって想った、笑
で、言われた、

「ゲイとかバイって私の周りにいないからよく解らないんだけど、正直なトコ親戚になるのはちょと抵抗あるよ?やっぱ普通に結婚してほしいし、」

言われること当り前だって想う、
つきあってるダケと親族になることは別問題、他人と身内じゃ全く違う。
そういうの解かるから自分も御曹司クンの生き方は大変だなって想ってた、だからこそ言ってみた、

「大丈夫、自分は恋愛では見てないから、笑」

恋愛感情が無いなら問題も無い、
そう笑ったら従妹は図星を訊いてきた、

「それって、忘れられないから?」

従妹も当然あのひとを知っている、だから訊いてくれる。
そんなこと解かってるけど質問返しした、

「憶えてるんだ?小さい頃しか会ってないのに、笑」
「うん、なんとなくだけど顔とか覚えてるよ、可愛い顔してたよね?近所の家の子で、」
「あのころは近所だったよね、笑」

訊かれて答えて、そしたら従妹は首傾げこんだ。
あれこれ考え廻らせている、そんな貌のまま言ってくれた、

「忘れられないの仕方ないよね、ほんと仲良しで一緒が普通ってカンジだったもんね?でも、やっぱり普通にレンアイして幸せしてほしいよ?」

普通に恋愛ってなんだろう?
ソンナこと想ったけど、特に訊かなかった、


とりあえずココで一旦切りますけどまだ続きます、気が向いたら続篇また。
Aesculapius「Moueion29」まだ加筆校正中です、第75話「懐古4」も左同、楽しみにして下さる方すこし待ってくれますか?
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深夜に取り急ぎ、



追記:Aesculapius「Moueion29」4.29PM12時半ごろ校了しました、

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第75話 懐古act.4-another,side story「陽はまた昇る」

2014-04-28 23:00:00 | 陽はまた昇るanother,side story
Nor all that is at enmity with joy, 怨みも喜びも



第75話 懐古act.4-another,side story「陽はまた昇る」

事情聴取なんて初めてされた。

警察学校の模擬ではされている、けれど現実に当事者となった。
その途惑いがスーツの肩から重たい、今この感覚どこか非現実に遠い。
今この座りこんだシートの車窓も遠くて通勤路だと見えないほどに遠ざかる。

それでも今日、あの場所であの瞬間に見つめた全てはただ現実だった。

-あのひとは拳銃で、

拳銃で彼自身を撃った、彼は。

銃声を自分は聞いた、そして白い制服姿は赤く斃れた。
それでも彼は生きている、その想い解らなくても生きていることがただ嬉しい。
あのまま死んだら何ひとつ救われない、けれど生きていたなら可能性がある、そんな願いに呼び掛けられた。

「湯原、降りるぞ、」

低く透る声に振り向いた隣、その向こう扉が開く。
薄暗い車内スーツの腕そっと掴まれてアスファルトへ降り、街燈に照らされる。
もう黒い空は夜、摩天楼の燈あざやかな時刻に急かされるよう周太は財布を出し尋ねた。

「あの、伊達さんタクシー代は」
「そんなことより食欲はあるか?」

遮って尋ねてくれる言葉に気遣いが温かい。
街燈に見つめてくれる眼差しも心配が篤くて周太は微笑んだ。

「あまり無いです、でも何かお腹に入れるようにします。お気遣いありがとうございます、あの、タクシー代を?」

たぶん今夜は食べられない、それでも喘息の薬を飲むために食事は要る。
そんな事情を隠しこんだまま今の料金を尋ねて、けれど鋭利な瞳は微笑んだ。

「タクシーは俺が楽をしたかっただけだ、街中を負ぶって歩くのカッコ悪いだろ?」

負ぶって、って誰を?

「あの…おぶってあるくって?」

誰が誰を負ぶって歩くと言うのだろう?
こんな台詞に途惑って見つめた真中で伊達は笑った。

「決ってるだろ?ほら、」

笑って伊達は鞄を押しつけてくる。
受けとれと言う意味だろう、そんな解釈に自分の鞄と二つ抱えるとスーツの背中に載せられた。

「え、」

声こぼれて視界ぐんと持上る。
ふわり、鞄2つごと背負われて精悍な瞳ふりむいた。

「今夜は付添う、湯原の部屋でいいか?」
「え…?」

提案に声呑みこんで止まってしまう。
いま何を言われたのだろう、いま自分は誰に背負われている?
そんな2つ途惑って鞄抱きしめたスーツの背に沈着な声が笑った。

「ちゃんと腕を前に回せ、ひっくり返るぞ?鞄は俺と湯原の間に挟め、」
「あ、」

言われたまま鞄2つ胸に抱えて腕を肩から前に組む。
その姿勢を確かめて伊達は歩きだし、そっと笑った。

「俺の弟も喘息を持ってるんだ、疲れが溜まると発作を起こす。そんな時は歩くだけでも負担らしい、」

弟も、

この「も」は誰と同じという意味か、そんなこと訊かなくても解かる。
あのとき伊達の前で自分は咳きこんだ、あの咳に晒してしまった秘密に問いかけた。

「伊達さん、あの…いつから気づいて?」
「さっきだ、」

街燈の光あわい道、前向いたまま答えられて少し安堵できる。
今までは隠し通せていた、それなら周囲にはばれていないだろう。
けれど今もう伊達には知られてしまった、この第一証人へと周太は微笑んだ。

「僕は…除隊ですか?」

この想定は医務室で目覚めた時から繰り返す。
だから少しだけ出来た覚悟に右手そっと腕時計ふれた。

―もう終わるかもしれない、そうしたら英二も止めてくれるかな…お父さんのこと、

いま英二は父の真相を追っている、それも自分より速く。
いま自分が掴んでいる以上に英二は知って、それは危険を冒している証しでもある。
だからもう止めてほしい、そんな願いには除隊も喜べるまま微笑んだ背中、沈着な声は言った。

「普通ならそうだ、でも解らん、」

普通なら、

そんな言葉に鼓動そっと絞められる。
こんな言葉を自分に言った、それは普通じゃないと思われている。
それなら伊達は何を知って何を考え、この2ヶ月近く自分と居るのだろう?

「伊達さん、それは、僕は普通じゃないってことですか?」

訊いてしまって迂闊だとすぐ気づく。
こんなストレートな訊き方は本音を言って貰えない、それなのに伊達は頷いた。

「俺はそう思う、」

正直に応えてくれる?

こんな質問に応えてくれた、その声は沈着なまま澄んでいる。
きっと偽りなどしない相手、そう想いたくなるまま問い重ねた。

「どうしてそう思うんですか?」
「適性だな、」

さらり即答された言葉に声から澱み無い。
もう確信している、そんなトーンは落着いて真直ぐで信じたい。

―あの人の関係者じゃないって思っていいのかな、だって…僕を本当に気遣ってくれてる、みたいで、

負ぶわれて歩く街燈の道、照らす灯りに伊達の髪が頬ふれる。
ふれる微かな匂いは深い、どこか森を想わすような渋味の香は遠く懐かしい。
この香より苦くて甘い気配を自分は知っている、その俤と今負われる背中の時間すこしだけ重なる。

初めて英二に背負われた、あの夏の記憶から今は遠くて、けれど忘れられないまま今に響く。

『必ず迎えに行くから、そこで待ってろ!』

あのとき言ってくれた言葉は今もあざやかに鼓動を響かす。
警察学校の山岳訓練で自分は滑落した、あの崖に遮られても英二は迎えに来てくれた。
それが英二の初めての登山で遭難救助だった、クライミング技術など皆無だった、それでも自分を救ってくれた。

『山の警察官っているのかな、』

そんな質問してくれた背中は温かくて父と似ていた、そしてあの背中は山の警察官になった。
卒業配置から青梅署山岳救助隊に配属されて人命救助に奥多摩を駈けた、そんな背中は逢うごと広やかに眩しかった。
そのまま警視庁山岳レスキューのエースとパートナー組んで幹部候補と認められている、その明るい大道だけを歩いてほしい。

だからお願い、自分と父のことに巻きこまれようとしないで?

―自由に山で笑っていてほしいんだ、英二、お父さんの復讐なんてしないで、もう止めて、

もう止めて?

そう言いたくて9月の終わりの再会にも願った。
けれど英二は約束に頷かず笑っていた、あの瞳は復讐を諦める心算など無い。
だから考え始めてしまった、英二はどちらを先に知り先に想って今を始めたのか知りたい。

自分との幸福な約束、父の死に対する復讐、英二はどちらを先に願ったのだろう?

―どちらが目的だとしても英二は止める気なんて無いんだ…止めてほしいのに、でも英二は、

止めても聴かない、そう解かってしまった。
だから毎日ずっと連絡しようと決めた、メールで電話で少しでも軛になれたらと願っている。
いつも連絡がくると知れば英二も少しは自重するはず、そんな期待に昨夜も聴いた予定を思い出す。

―今日は御岳に帰るって言ってたね、秀介と御岳の山に登って吉村先生の家に…あ、

無事を祈るまま今日の予定を辿って、ひとつ気が付かされる。
今夜は吉村医師の家に泊まると言っていた、それなら英二も知るのだろうか?

―英二も環くんと会うんだ、今日、

環のことを英二はどんなふうに見つめて何を想うだろう?
少年の真実を英二は告げられるだろうか、それとも表向きの事情だけ知るのだろうか?
その選択を吉村医師も雅人も今日ひとつ決めたろう、そこにある想いごと負ぶわれる背に呼ばれた。

「湯原、何階だ?」
「あ、」

訊かれて戻された意識にエレベーターが映りこむ。
いつのまにか単身寮のエントランスに居る、驚きながら言ってみた。

「あの、付添いなら大丈夫です、僕ひとりでも、」
「俺が気になる、何号室だ?」

即答と振り向いた瞳は澱みない。
もう決めている、そんな視線の強靭に周太は腕伸ばしエレベーターボタン押した。



(to be continued)

【引用詩文:William Wordsworth「Intimations of Immortality from Recollections of Early Childhood」】

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山岳点景:水瀬の花神

2014-04-28 22:25:00 | 写真:山岳点景
春告、雪解の花



山岳点景:水瀬の花神

水芭蕉の群落を見つけました、
前にも歩いた山なんですけど前と違う森に入って出逢った花の清流です。
尾瀬沼の水芭蕉は大きくてオバケミズバショウとも呼ばれますが、ここの花は15cmほどで掌サイズ。
白い掌が舞うような花は水の精と言われる通りな印象、春浅い森の茶色に純白と薄緑は澄んでいました。



この水芭蕉はツキノワグマが食べるんですけど、毒性があります。
葉や花の汁はシュウ酸カルシウム=かぶれ・水ぶくれ、根茎はアルカロイド=呼吸困難・心臓麻痺など。
それなのにツキノワグマが食べるのは冬眠中の体内に蓄積した老廃物などを排出するための下剤効果を遣うのだとか。
クマは体格も大きく人間とは内蔵構造も違う=毒物の効果や致死量が違うためにコンナことも出来るんですけど、人間がやればNGです。

そんな熊は「山オヤジ」とも呼ばれますが山神の乗り物としても描かれます、この山神は女神と考えられることも多いです。
たとえば富士山の神は木花昨夜姫・コノハナサクヤヒメという桜の花の女神かつ巫女神、彼女は天皇家の祖神の妻と言われています。
ちなみに山の神=水源の神であるため雪解け水と共に山から下りて田の神になるんですけど、お産の神としても祀られて多忙なカンジです、笑



水芭蕉の清流は雪解水、澄んだ水は山の朝に凛と涼やかでした。
花咲く森の上部、山は頂近づくほど雪渓あざやかに冬は残っています。
吹きおろす風は冷たくて、残雪期らしい空気感に春を告げる白い水精の花です。



Of five long winters! and again I hear
These waters, rolling from their mountain-springs
With a soft inland murmur.-Once again

五つの長き冬も。そして再び私は聴く 
この水たちは山の泉から集い廻り来る
陸深き処やわらかな囁きと共に、今再び

William Wordsworth「Lines Compose a Few Miles above Tintern Abbey」引用抜粋&自訳

第26回 1年以上前に書いたブログブログトーナメント



Aesculapius「Mouseion29」加筆校正これからします、倍くらいになる予定です。
それ終わったら第75話も加筆します、加筆ばかりですね、笑

取り急ぎ、




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雑談寓話:或るフィクション×ノンフィクション@御曹司譚76

2014-04-28 00:10:05 | 雑談寓話
こんばんわ、連休の2日め夜ですけど、
青梅から秩父に抜けるルート走ったら緑のグラデーションが綺麗でした。
で、この雑談もバナー押して下さる方いらっしゃるならってカンジで続き載せてます、楽しんでもらえてたら嬉しいんですけど



雑談寓話:或るフィクション×ノンフィクション@御曹司譚76

From:御曹司クン
本文:さっき追いかけて来てくれてありがとう、マジ嬉しかった。
    なんて言うと勘違いするなって笑うんだろうけど、でも俺は嬉しかったから
    冬休みなるべく電話とか邪魔しないようにするな、俺も友達とかと楽しむようにする(顔文字笑顔)

っていう健気メールが着た12月30日納会後の夜、

本文:休暇楽しんでイイ年を迎えてね、笑

ってカンジの返信をして翌31日から短い冬休みが始まった。
アリモン朝ごはんで冷蔵庫ホボ空にして、自宅ざっと掃除して、実家に帰って、
母のお節料理ちょっと手伝ってたら兄夫婦も帰省してきた、で、年越蕎麦@宴会が始まった、

天ぷら+とろろがウチの年越し蕎麦の定番で、
ソレに刺身や漬物なんかも並んで父ビール・兄焼酎の両方を相伴して、
その二人より飲める母はワインで、下戸の兄嫁サンも甘いカクテル系の呑みながら笑って言った、

「トモさん、最近は恋愛とかドウなの?」

やっぱその話になるんだよね?笑
こういう話は女の子って好きだからくると思ってた、
っていうより兄嫁って立場では気になって当然だろう?で、用意してた台詞を言ってみた、

「クリスマスからとりあえず付合ってる人はいるよ、結婚は考えてないけどね、笑」

こんな言い方したら反発買うんだろな?
そんな予想に母が笑ってツッコミ入れてくれた、

「あらーその人ってお母さんたち聴いてた人かしら?笑」
「ちょっとだけ話してたひとだよ、新卒の何度も告ってきた子。たぶんすぐ別れるんじゃないかな、笑」

笑って正直に言った向こう、兄嫁の視線ちょっと怖くなってた、笑
いわゆる優等生マジメなタイプ、だから怒ってるんだろなって思いながら嘘吐くツモリもなくて、

どうせ家族だから隠したってバレるしね?笑

なんて感想に笑って酒呑んでたら、
自分と正反対にクソ真面目+でもホントは面白い兄が訊いてきた、

「すぐ別れそうな相手と付合ってるのか?」
「うん、一度付合わないと納得してフラれてくれそうにないからさ、笑」

思ったまま笑ったら兄は考えこんだ。

この兄ぶっちゃけ顔はイイ、小さい頃から美少年って近所でも言われて、
自分の友達にも「お兄ちゃんカッコいいー照」って言われてた、が、クソ真面目すぎて交際ってヤツにならず、笑
だから奥サン以外にロクに付合ったことも無い、そんな優等生マジメ兄は自分と正反対で、だけど同じに強い酒呑みながら尋ねてくれた、

「ようするに、嫌われるために付合ってるってコトなのか?」
「好きになれたら幸せだけどね、笑」

正直なまま答えて笑って、兄がまた考えこんだ。
焼酎の蕎麦猪口を持ったままコッチ見て、ちょっと笑ってくれた、

「風呂の後ちょっとサシで呑むか?笑」
「うん、いいよ、笑」

さらっと答えながら酒呑んで、
そんな食卓に父がすこし笑って言った、

「幸せになってほしいね、君にも、その相手の人にもね?」

相手の人にも、

そんな言葉ちょっと響いた。

暫定恋人のこと幸せにしたいとかは想わない、でも幸せになって欲しいとは思える。
自分が幸せにしたい相手じゃない、けれど不幸でいてほしいとは想えない、
で、自分と一緒に幸せになる人じゃないとだけ解かるから笑った、

「だから早く別れようって思ってるよ?笑」

それだけ言って、それでも父は笑ってくれた。
母も笑って二人とも何も訊かないでくれた、ホントは聴きたいことあるはずなのに?

御曹司クンのコトどうなったのか?
あのひとの墓参に何を想ったのか?

ホントに二人が訊きたいことはこの2つ、
だけど自分が話したくなるまで待ってくれる、そういう静かな沈黙は優しくて、
そういう優しさの分だけ2人もホントは傷ついている、あのひとが亡くなったことで自分の時間が止まったことを両親は知っている。

だから多分ふたりは想っていたと思う、
誰かに自分が時間を動かしたらって願ってた、それが結婚の相手なら良いって祈ってた、
だからこそ御曹司クンのこと聴きたかったと思う、たとえば結婚って幸せとかは無い相手、それでも自分が久しぶりに構う相手だから。




とりあえずココで一旦切りますけどまだ続きます、気が向いたら続篇また。
Aesculapius「Moueion29」加筆校正中です、第75話「懐古3」は校了しました。
この雑談or小説ほかナンカ面白かったらバナーorコメントなど反応よろしくお願いしたいです、ソレが理由でWEB公開してるので、笑

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山岳点景:純白の春

2014-04-27 23:26:00 | 写真:山岳点景
白花の飛沫



山岳点景:純白の春

銀山吹、黄金色の山吹に対して真っ白に咲く花です。
実の黒色と葉の緑色が花色と映えて、森の陽だまりに滝のよう飛沫あふれます。



The cataracts blow their trumpets from the steep;
No more shall grief of mine the season wrong;
I here the Echoes through the mountains throng,
The Winds come to me from the fields of sleep,
And all the earth is gay;

峻厳な崖ふる滝 飛沫は歓びの旋律に響く
この歓びの季節はもう僕の哀しみ深く痛ませない
連なる山が廻らす木霊に歌が聴こえる、
微睡む野から風は僕のもとへ吹寄せて、
そして世界すべてが陽気に笑う、

William Wordsworth「Intimations of Immortality from Recollections of Early Childhood」抜粋&自訳




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雑談寓話:或るフィクション×ノンフィクション@御曹司譚75

2014-04-27 01:10:08 | 雑談寓話
こんばんわ、連休の初日夜ってイイです、笑
河原に行ったらキャンプだなって人達を見ました、イイ時期になったなあと。
で、この雑談もバナー押して下さる方いらっしゃるならってカンジで続き載せてます、楽しんでもらえてたら嬉しいんですけど



雑談寓話:或るフィクション×ノンフィクション@御曹司譚75

でも構ってほしいの本音だし、だから冬休みあんまり嬉しくねえし、

なんて同僚御曹司クンに言われた12月30日夜の納会だけど、
その後はフツーに楽しく盛り上がってお開きになって、フツーに帰宅した。
いつも通り風呂すませてパソコン開いてアレコレ調べて書いて、軽く呑んで、そしてメールが着た。

御曹司クンだろな?

っていう予想と携帯電話とって、
メール開封しようとしたらジャスト着信で通話が繋がった、

「こんばんわー今日もお疲れさまです、コール0で出てくれたね?笑顔」

お休みコールby暫定恋人だった、笑
メール読むツモリがちょうど架かったらしい、そんな偶然のまま答えた、

「こんばんわ、ちょうどメール読もうとしたトコだったから、笑」
「こんな時間にメールって誰?」

なんて質問速攻で来て、
いちいち訊かれるのメンドクサイ想いながら質問返しでいってみた、

「誰だと思う?笑」

なんて答えてくるかな?
とかって半分面白がりながら立ち上がってキッチン行ったら解答NO.1が来た、

「家族とか?」
「ハズレ、笑」

笑って答えながらグラスにトマトジュース注いで、
デスクに戻ったら解答NO.2が来た、

「じゃあ友達?」
「まあそんなトコ、笑」

ちょっと曖昧な返事して自分で可笑しかった、
だって今日の御曹司クンの台詞は友達にしては濃すぎる、笑

『でも構ってほしいの本音だし、だから冬休みあんまり嬉しくねえし』

あんな台詞は恋人@学生時代に言われるカンジだよね?笑

長期休暇でソレゾレ地元に帰る学生同士な恋人なら良くある台詞、
そういう風景は学生時代に周りで見ていた、その懐かしい時間を考えてたら言われた、

「ねーこんな時間でも友達ってメールするもの?」
「するヤツもいるね、笑」

さらっと答えてトマトジュース呑んで、
そのあとは恒例の「今日のランチが~以下略」な話が始まって、
また適当に相槌を打ちながらパソコンの画面に考えこみながらキーボード打って、で、訊かれた、

「ねーお正月ってナニしてるの?」
「友達と呑んでるか親戚と呑んでるよ、笑」

こんな答えさっきもしたな?
なんだか既視感だな思いながら可笑しくて笑ったら、訊かれた、

「ねー初詣とか行きたいな?こっちの地元の神社の一緒してよ、出店とか色々愉しいよ、元旦どうかな?笑顔」

いわゆる正月デートの定番だよね?笑

こういう定番が好きなタイプの人だっだから予想はしてた、
やっぱりそのお誘いはするんだな?ソンナカンジでとりあえず承諾したら喜んでくれた、

「やったー楽しみにしてるね?笑顔」
「じゃ良かった、でも昼ゴハンとか一緒しないから、笑」

正月だから当然だろ?
って思って言ったら当然のようツッコまれた、

「えーーなんで?せっかくデートなのにランチとかしないの?」
「しない、正月だからダメ、笑」
「えーなんで?」

なんて調子で訊かれて、で、あらためて育ち+感覚が違うって思った、
こういう違いは仕方ない、でも理解しあえなかったらNGだなって思いながら言ってみた、

「正月は金を使わないって風習があるんだよね、だから賽銭とか必要な分は財布から前の日に出しとけってウチは言われるよ、だから外食はしない、笑」

これ↑ホントにウチでは伝統なんだよね、笑
母の生家の地域はホント厳守なんだけど、ようするに家族団欒@家って時間を楽しめってコトらしく。
そういうの自分も嫌いじゃないから今回も厳守なツモリで言って、で、渋々って空気が電話の向うで頷いた、

「じゃあランチは諦める、でも初詣は行こ?すぐ解散でも良いから、ね?」

という訳で元旦早々にデート予約を入れられて、
それを正直ちょっとメンドクサイって思いながらも終了方向に笑いかけた、

「そろそろ切るね、やらなきゃいけないことあるから、笑」

仕事じゃない、でも自分的には必要事項。
そんなアリノママ言ったらまた言われた、

「じゃあ電話越しのキスして?おやすみって、笑顔」
「無理、おやすみ、笑」

ってカンジに勝手に強制終了した、笑
この応酬が定番になりかけている、まだ1週間程度だけど。
それでも既に自分の中では「無理」は順調に増加中で、そんな本音に笑ってメール開封した、

From:御曹司クン
本文:さっき追いかけて来てくれてありがとう、マジ嬉しかった。
    なんて言うと勘違いするなって笑うんだろうけど、でも俺は嬉しかったから
    冬休みなるべく電話とか邪魔しないようにするな、俺も友達とかと楽しむようにする(顔文字笑顔)

なんか健気だよね、笑



とりあえずココで一旦切りますけどまだ続きます、気が向いたら続篇また。
Aesculapius「Moueion28」校了しています、第75話「懐古3」いま加筆校正中です、笑
この雑談or小説ほかナンカ面白かったらバナーorコメントなど反応よろしくお願いしたいです、ソレが理由でWEB公開してるので、笑

深夜に取り急ぎ、



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第75話 懐古act.3―another,side story「陽はまた昇る」

2014-04-26 23:15:00 | 陽はまた昇るanother,side story
Thanks to its tenderness, its joys, and fears 感情の層



第75話 懐古act.3―another,side story「陽はまた昇る」

白い、この視野は何だろう?

解らなくて瞳ゆっくり瞬かす、そして理解する。
いま見あげているのは天井だ、そう認識した全身やわらかに温かい。
その温もりに首すこし動かして白いシーツとブランケットが映る、それから着衣が青い。

「…え、」

いま11月の制服は白と紺、だから青い服の筈がない。
それが不思議で瞳また瞬いた着衣は3月の記憶、英二の看病で見た。

これは、病院で着せられる服だ?

―僕なんで病院にいるの?どうして、

途惑いに身を起こそうとして胸ぐっと迫り上げる。
喉ふるえる感覚こみあげて咳こんで、その向こう扉がらり開いた。

「湯原、大丈夫か?」

呼んでくれる低い声に記憶が戻される。
なぜ今ここに自分が居るのか?思い出すまま咳も鎮って周太は微笑んだ。

「大丈夫です。伊達さん、ご迷惑をすみません、」
「いや、構わない、」

答えながらベッドサイドに来てくれる。
その手に携えたスーツ一式を示しながら先輩は告げた。

「湯原の制服は今クリーニングに出されている、明日の午後には戻ってくるはずだ。今日は落着いたら帰宅して良いと言われているが、調子はどうだ?」

なぜクリーニングに制服が出されているのか?
その理由が現実なのだと改めて解かって、そして鼓動が揺すぶられる。

―血塗れだからクリーニングされてる、僕の制服は…あれは現実なんだ、ね、

銃声、それから赤。

嗅覚を刺す硝煙の匂い、斃れる制服姿、あふれる赤。
金属と似た香は白いタイルを零れた、そして膝まづいた自分の制服が染まる。
呼びかけて蒼白の横顔まだ息していた、その首あふれる赤色を自分は止めたくて必死で、それから、

『お願い死なないでお父さんっ』

斃れた青年の横顔に父を見た。

あのひとは父じゃない、そう解っているのに9歳の自分が叫んだ。
あのとき指先ふれた血液は父の血じゃない、そして鼓動まだ生きて温かかった。
あれから時間はどれほど経ったのだろう?それを知りたくて見た左手首に声が叫んだ。

「…っ、僕の時計っ、」

時計が無い、あのクライマーウォッチが無い。

「ぁ、僕の時計は?…えい」

言いかけて呑みこんだ名前に視界が霞みだす。
あの時計を贈ってくれたひと、あの笑顔が籠めた時間が腕から消えた。
あのひとの夢を時刻んだ腕時計、あれを失くしてしまったら自分はどうしたら良いのだろう?

「大丈夫だ湯原、時計ならここだ、」

呼んでくれた声から掌さし出される。
繊細だけれど逞しい、そんな掌から腕時計ひとつ受けとり握りしめた。

「よかった…あの、どうして、」

どうして腕時計が外されていたのだろう?
そう訊きかけて、けれど直ぐ理由に気が付いて周太は掌を開いた。

「あ、」

クライマーウォッチのベルトが変色している。
もう一年近く見慣れてきた紺青色が微かに薄い、その理由を低い声が教えてくれた。

「血が染みこんでいた、それで染みぬきされている、」
「…はい、」

頷きながら見つめる文字盤は無事に時を刻みゆく。
大切な時間は刻々と動く、その安堵に微笑んだ視界に赤い痣ひとつ映りこむ。
いつもなら袖に見えない、けれど青い半袖は隠せない赤色に時計の俤を見てしまう。

英二、今どこで何をしているの?

「湯原、もう咳は治まったようだな、着替えられそうか?」

呼ばれた言葉に戻されて相手を見る。
その意味に状況すべて思いだし問いかけた。

「あの、ここはどこの病院なんですか?僕、どうやってここに来たんですか?」

執務室の近くの洗面所に自分はいた。
喘息発作の予兆をうがいで治めようとして洗面所の扉を開いて、そして銃声を聞いた。
そのまま斃れこんだ制服姿の青年を手当てした、救急隊員に引き継いで、それから発作が起きた。

このあとの記憶が無い、その欠落にベッドサイドの静かな微笑は口を開いた。

「ここは庁舎の医務室だ、トイレで湯原は咳きこんで呼吸困難になったんだ、それで俺が運び込んだ、」

ああ、きっとばれてしまった。

呼吸困難を起こすほど咳きこむなんて異常、気管支系の疾患だと医者なら解かるだろう。
きっと喘息だと診断された、これで知られてしまった、もう「不適格」だと烙印押されて除隊になる。

―まだお父さんのこと何も見つけられていない、それなのに、

まだ「警察の狙撃手」である父のパズルピースは掴んでいない、けれどもう終わる?
警察官である父は幾つか見つけているだろう、学者の父はこれから幾つも見つかるだろう。
だけど父が死んだ一番の原因かもしれない「警察の狙撃手である父」の実像は何も探し出せていない。

何もまだ見つけられない父を拾えていない、それなのに今ここで除隊になったら自分の14年間は何だったのだろう?

「伊達さん、僕の咳のこと他は誰が知っていますか?」

問いかけて見つめた真中で精悍な瞳が自分を映す。
自分が咳きこんだとき伊達しか洗面所には居なかった、だから口止めも出来るかもしれない?
どうか今もう少し時間がほしい、そんな希望の向こう鋭利な瞳は真直ぐ見つめてくれるまま答えた。

「俺と診てくれた先生は知っている、先生から上に報告はあるだろうが、」

やはり報告はされる、それが当然だろう。
そう確認して背骨から崩れそうになる、けれど、これも道なのかもしれない?

『僕は1年後には辞めます、樹医になりたいんです、』

そんなふうに家族と約束したのは9月の終わり、ここに来る直前だった。
あの約束の期限が思った以上に早くなる、ただそれだけの事かもしれない、けれど悔しくないなんて思えない。

「…っ、」

嗚咽こらえて飲み下す、その涙ごと瞳瞑って閉じこめる。
ここで今を泣いてしまったら不甲斐無い、そんな想いごと掌ふたつ組み合わす。
たなごころに時計ひとつ握りしめて、刻まれる時の鼓動を見つめるまま扉ノック響き、がらり開いた。

「失礼、湯原君はこちらですか?」

呼ばれて瞳ゆっくり開いて、医務室にスーツ姿ふたつ入ってくる。
その空気どこか堅い、なにか重要な任務を抱えながら笑顔に隠しこんでいる。
そんな顔ふたつ視界の端に見ながら掌そっと解きクライマーウォッチを見つめた。

今日ここで終わるかもしれない?

それが自分の道だとしたら悔しいだろう、だって14年間ずっと父を追いかけ生きてきた。
ただ父を知りたくて、その想いひとつに全てを懸けて警視庁に入り警察官になりSAT隊員にまでなった。
そんな14年間すら「操られていた」その可能性に今は気づいて、それでも父を知りたいのは自分の意志だ。

『お父さんが喜ぶと思いますよ、同じ道を君が歩いたら、』

この言葉は観碕征治が言った、祖父の知人だったかもしれない男が言った。
この言葉に自分の14年間は支配されたのかもしれない、それでも、父の遺志を探したい想いだけは自分の真実だ。

―だから僕は残ってみせる、今ここで辞めたくない、だけど、

今はまだ辞められない、それでも今スーツ姿ふたり目の前に立っている。
この男たちは自分に何を告げに来たのだろう?何を訊きに何の目的で来たのだろう?
そんな思案を見つめるままクライマーウォッチ左手首に当て、かちり嵌めると周太は微笑んだ。

「湯原です、こんな恰好ですみません、」
「いや、こちらこそ休んでいる所を失礼するよ、」

笑いかけスーツ姿がベッドサイドに立つ。
見下ろされる、その位置関係にも真直ぐ見あげた傍から低い声が透った。

「湯原は少し過労気味です、手短にお願い出来ますか?」

いま庇ってくれた?
そんな発言に振り向いた真中で伊達は続けた。

「先程の聴取ならまず私から先に話させて頂きます、第2発見者は私ですから。その前に勝山さんの容体を聴かせて下さい、」

スーツ姿二人は事情聴取に来た、

そう現状を理解して肩の力そっと解かれる。
この男たちが来た目的は何なのか?それを伊達は知らせてくれた。

―僕を庇ってくれてるんだ、体調も気遣ってくれながら、新入りの僕が疑われないようにしてくれてる、

この男たちの目的は「事情聴取」まだ喘息のことは問題になっていない。
この体にある懸案事項は助かるだろう、けれど疑惑も掛けられている現状が見えてくる。
洗面所の真中で拳銃に撃ちぬかれた男が倒れていた、その傍に血塗れの男がいたら疑惑も仕方ない。

狙撃または幇助、

どちらかの嫌疑が自分に掛けられている?
そんな空気を見つめるままスーツ姿たち頷きあい、ベテランらしき方が口を開いた。

「では現状から説明します、勝山君は現在まだ意識は戻ってはいません、でも命は取り留めたそうです。応急処置が速かったお蔭だと医師から伝言です、」

彼は助かった、

そう告げられて鼓動ことり緩められる。
自分は彼を援けられた、それなら自分が今ここに居ることも正しい?
だって命ひとつでも繋ぎとめることが出来たのなら、喪った命ひとつに少し償えるかもしれない。

―もう僕の前では誰も死なせい、お父さんを援けられなかった分だけ少しでも援けられたら、僕は、

9歳の春のまま自分は無力だ、それでも命ひとつ繋ぎとめられた。
あのとき彼が何を想って拳銃の引き金ひいたのか解らない、自分は彼に恨まれるかもしれない。
それでも誰かが生きた彼を必ず待っている、そう信じているからこそ今この命ひとつ嬉しくて、ただ嬉しい。



(to be continued)

【引用詩文:William Wordsworth「Intimations of Immortality from Recollections of Early Childhood」】

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山岳点景:季の花森

2014-04-26 23:00:00 | 写真:山岳点景
Secret Garden



山岳点景:季の花森

森の底、花は今を咲きます。
薄緑やわらかい芽生え時、黄金の光に見えるのは山吹草です。



山吹草は4月初めから5月まで、約1ヵ月ほど咲きます。
その季の初め共に咲くのは二輪草、スプリング・エフェメラルのひとつです。



それからスプリング・エフェメラル「春の妖精」で代表的な花、片栗。
薄紫色やさしい花が2週間ほどの短い季を咲きます、この開花まで初年の発芽から十年近い年月が必要です。
それを盗掘すれば花と森の十年間を壊すことになります、ソンナ身勝手が赦されるほど人間はエラクありません、笑
それから花を見ても近寄らないで下さい、一見は解り難くても傍に生える小さな芽を踏んで殺してしまったら勿体無いです。



片栗の花が消えた頃、
森の妖精と呼ばれる海老根蘭が森の陽だまりを花開きます。



この花は環境省レッドリストに載ってしまった絶滅の瀬戸際を生きる種族です。
土質や日照など環境変化の対応力が低くバクテリアなど病害にも弱いため、人間に踏みこまれると枯死します。
遠くから眺めて生きられる花です、もし見かけても至近距離に寄るなんて無粋はNG、望遠レンズで撮影して下さいね?笑



海老根蘭が咲き始めて、初夏の気配になると宝鐸草・ホウチャクソウが咲きます。
緑と白だけのシンプルな花です、が、高雅な香がきれいで惹かれます。



春から初夏の花は地上に現われる時間が短くて、その僅かな時間の光合成で栄養を貯めます。
そうして来春また同じ場所から芽吹き花を咲いて命を繋いでゆく、
本当に一瞬の値千金に生きている命です。



森の草花の芽は落葉に埋もれて解り難くて、だから保護柵などがある場合は踏みこみは絶対にNG、
もし踏んでしまえば今年の光合成アウトで栄養欠乏→来年から花は見られなくなるってコトです。
たとえ柵が無くても森を歩く時は足もとの芽吹きに要注意、花は離れて見ることで来年また出逢えます。
だから自分の常連森=撮影場所は教えません、笑

でも、もし見つけたら踏みこまず大切に見てもらえたら嬉しいです、
来年もその先も花が咲くように、絶滅危惧種なんて呼ばれることなく花が誰かサンを楽しませること出来るように、笑

みんなに知ってもらいたい場所ブログトーナメント



Five years have past; five summers, with the length
Of five long winters! and again I hear
These waters, rolling from their mountain-springs
With a soft inland murmur.-Once again

五年の季が過ぎ去った。五つの夏、その長さに連れられて
五つの長き冬をも。そして再び私は聴く 
この水たちは山の泉たちから集って廻って来たる
やわらかな陸深い囁きと共に、今 再びに

William Wordsworth「Lines Compose a Few Miles above Tintern Abbey」抜粋&自訳



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