萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

水無月から文を

2019-07-02 23:08:00 | 創作短編
あめふる。だから君に、
創作短編小説:水無月×文月


水無月から文を

はたっ、はたたたっ、

葉を敲く音、やわらかな森の聲。
ひそやかに静かに鼓動ノックする、そうして響く雨の声。

「…あめ、か、」

唇こぼれる言葉、窓こぼれて雨がふる。
ほら?ガラスゆるやかに曇りだす、白く染めあげて消していく。
ほら、景色なんてもう見えない、それでも空の白だけ見あげられる。

「…白い、な、」

空が白い、ガラスも染めて。

真白あざやか窓そめてゆく、空からガラスが白くなる。
白く白く染められて、その一色に指そっとのせた。

つっ、

ガラスが鳴る、なぞる指かすかな音。
白すべらせ指が描きだす、その軌跡あわく外が流れだす。

つぅっ、つつっ、

指なぞる白が消える、緑に黒に、茶色に軌跡えがきだす。
えがきゆく景色に文字がうかぶ、真白そうして言葉が君を呼ぶ。

「読めるか…そこからでも?」

言葉こぼれて君を見る、窓ガラス浮かんだ文字たちに。
真白あざやかなガラス、空つながる白、その先から君は読む?

「返事…聞こえたらいいのに、な?」

ほら、真白の文字に雨がふる。
やわらかな音ふる森の聲、ガラス敲いて文字ぬらす。
濡れてきらめくガラスの言葉、白く曇らせて消えて、それでも僕の聲は枯れない。

はたっ、はたたっ、

雨、あめ、天の聲。
ガラス真白にそめて、言葉が聲が声になる。
真白うかぶ文字その空は白、そこに君がいるのなら。


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コメント (2)
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