萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

富嶽の四月、冬山REAL三景

2020-11-30 22:12:00 | 写真:山岳点景
聳える白銀、最高峰の冬の時間
山岳点景:春富士2016.4


吼える豪風、雪煙はるか山頂の影
山岳点景:春富士2016.4


黄昏なびく、雪まどろむ春の富士
山岳点景:春富士2016.4


春4月、富士山は積雪期×豪風に荒れる白魔の時間・ウッカリ登って遭難死も頻発する別次元の世界です。
富士山もずっと行ってないなーと懐かしくなって今時期の3ショット、おうち登山ってカンジで、笑
こんなワンシーンに出会うと世界ってキレイだなーと、笑
【撮影地:山梨県2016.4】

低山でも高山でも・秋は日没が早いので14時迄には登山口に戻らないと、森の中はびっくりするほど暗くなり×気温急降下します。
道迷い・低体温症→遭難も増える秋です、山の紅葉は時間×装備シッカリで楽しめたらイイですね?

緊急事態宣言出てないとは言っても×県境越えての外出自粛で近場の里山散歩・のち午後はおうち時間なココントコ週末。
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秋の妖精、茸彩る

2020-11-30 13:47:10 | 写真:山岳点景
森の底、光やわらかな紅色の秋 
山岳点景:森のキノコ2016.9


森ではキノコをよく見ます、カワイイのもありソウデモナイのもあり。笑
こんなワンシーンに出会うと世界ってキレイだなーと、山にまた行きたくなります。
【撮影地:山梨県秩父山塊2016.9】

これはベニテングダケ紅天狗茸、毒性があるため食用ではありません。
雨後など状態によってはタマゴタケと見た目が似るため、誤食の中毒事故が絶えないのだとか。
※山の産物も所有権や国定公園の規定により無断採集はご法度・許可など調べてくださいね?

秋の山は降雪の世界×登山靴はもちろん・特に11月からはアイゼン・ゲイター・ストックの携帯が不可欠です。
写真の森は暗いカンジですがAM11時前の撮影・針葉樹林は光を通さないため暗くなるのが早いです。
どこの低山も高山も秋は14時迄には登山口に戻らないと、森の中はびっくりするほど暗くなり×気温急降下します。
道迷い・低体温症→遭難も増える秋です、山の紅葉は時間×装備シッカリで楽しめたらイイですね?

緊急事態宣言出てないとは言っても×県境越えての外出自粛で近場の里山散歩・のち午後はおうち時間なココントコ週末。
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第86話 建巳 act.23 another,side story「陽はまた昇る」

2020-11-29 22:55:29 | 陽はまた昇るanother,side story
Of moral evil and of good, 
kenshi―周太24歳4月


第86話 建巳 act.23 another,side story「陽はまた昇る」

呼吸が止まる。

「あいかわらず惚れ惚れする食いっぷりでねえ、ひさしぶりに嬉しかったですよ?」

ほら?雪の森もう見てしまう。
まばゆい白銀みたされる、あなたの場所だ。

「あの、えい…僕が最初に来たとき、一緒だったひとのことですか?」

声を押しだした唇、胡麻油やわらかな湯気くゆらせる。
温かな食卓の席、けれど記憶の雪が匂いたつ。

「ええ、あの凄まじくイケメンの兄さんですよう。チャーシュー麺と五目丼の大盛ぺろりの、」

店主の声ほがらかに温かい、その言葉に鼓動そっと軋みだす。
だって間違いない、あなたのことだ。

「今日、来たんですか?」
「ええ、昼前に来てくれてねえ。めずらしくスーツ姿だったからシッカリ覚えてるんだよ、」

気さくな笑顔ほころばせて、うれしかったと店主が笑う。
温かな笑顔、温かな湯気の席、それなのに雪の森が映りこむ。

『背負わせてよ周太、今だけでもさ?』

雪音さくり響く、かすかに渋い甘い風が匂う。
頬なぶる風さやかに澄んで冷たくて、けれど温かかった広い背中。

「そっか、周太の知りあいが今日ここに来たんだ?」
「ん…そうみたい、」

微笑んで応えて、温かな丼に箸つける。
今ここは新宿のテーブル、大好きな友だちと囲む食事。
湯気あたたかい馴染みの店、それなのに心はるか雪の森にさらわれる。

―英二が来たんだここに、この新宿に今日…どうして?

熱い麺すすって温まる、それなのに雪の面影たどりだす。
たった2日前あざやかな、この五感すべて奪う。

『このウェアまだ着てくれるんだ、周太…俺と色違いなのに、』

あなたが買ってくれた登山ウェアを着ていた、喜んでくれた笑顔。
白皙なめらかな輪郭、凛と端整あざやかな眉、きれいな綺麗なあの切長い瞳。

「周太、これも食べてみなよ?うまいから、」

ほがらかなバリトン笑って、小皿ひとつ置いてくれる。
ほら目の前、眼鏡の瞳は闊達あかるくて、ほっと息ひとつ微笑んだ。

「ありがとう、賢弥、」
「おう。水、足しとくよ?」

日焼あざやかな頬にっこり、明るい笑顔ほころばす。
水差しとる指は武骨に節くれ頼もしい、その空気どこまでも記憶の貌と逆にいる。

―くったくない笑顔って賢弥のことなんだろうな…英二の笑顔はきれいだけど、でも、

ほら鼓動たどりだす、白皙の貌に軋まれる。
きれいな綺麗なあなたの笑顔、あなたの瞳、あの眼ざしに、僕はふたたび逢えるのだろうか?

『あの兄さんとは最近一緒じゃないんだねえ、ついさっき来てくれたんだよ?』

今日、あなたはここにいて、今ここに自分がいる。
同じ場所、同じような時間、けれど時間すこしに隔てられ逢えない。

僕は、あなたに逢いたい?

「周太?しゅーうた、」
「え、」

呼ばれて顔を上げて、眼鏡の瞳が困ったよう笑う。
困ったなあ?そんな眼ざしも闊達な友だちは、やわらかな湯気に笑った。

「あのな周太、食うときは食いなよ?」

どういう意味だろう?
見つめる真ん中、闊達な瞳が笑ってくれた。

「ただウマいなあって食うと俺はスッキリするんだ、なーんも考えないでさ?周太もやってみなよ、」

話しながら唐揚げひとつ、また皿に乗せてくれる。
葱の芳香さわやかに香ばしい、唇くすぐる湯気に微笑んだ。

「ありがとう賢弥…気を遣わせてるよね、僕、」

受けとりながら申し訳ない、こんなふう気を遣わせて。
申し訳なくて、けれど温かな一皿に友だちは微笑んだ。

「そーやって謝るなよ?疲れるだろ、」
「え…」

言われて見つめて、闊達な眼が笑ってくれる。
ことん、丼ひとつテーブルに置いてバリトンが笑った。

「モチツモタレツでいいじゃん、長いツキアイするならイチイチ気にしてらんないよ?ありがとうだけで充分だろ、」

笑って、丼かかえて箸また動きだす。
健啖すこやかな音と湯気、やわらかな明るい空気に微笑んだ。

「ん…ありがとう、賢弥、」
「うん、」

うなずいて笑って、眼鏡ごし闊達ほころぶ。
自分より三才下、そのくせ達観あざやかな明るさに笑いかけた。

「賢弥、また聴いてくれる?もうすこし落ちついたら、」

この友人には知ってほしい、理解されて、そして理解したい。
こんな願いごとの先、闊達な瞳が笑ってくれた。

「いつでもいいよ、周太のタイミングでな?」
「ん、ありがとう、」

感謝すなおに声になる、鼓動やわらかな温もり響く。
ゆるやかに力ほどかれてゆく、この食卓は温かい。

それでも、眼ざしひとつ離れなくて。

※校正中
(to be continued)
第86話 建巳act.22← →第86話 建巳act.24
斗貴子の手紙
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倒木の秋、茸彩る

2020-11-29 13:40:00 | 写真:山岳点景
朱色ひとひら、倒木にも彩る秋 
山岳点景:森のキノコ2017.11


森ではキノコをよく見ます、カワイイのもありソウデモナイのもあり。笑
こんなワンシーンに出会うと世界ってキレイだなーと、山にまた行きたくなります。
【撮影地:栃木県日光白根山2017.11.3】

これは多分チチタケ乳茸、乳白色の汁が出る茸で良い出汁がとれるそうです
※山の産物も所有権や国定公園の規定により無断採集はご法度・許可など調べてくださいね?

11月、山は降雪の世界×登山靴はもちろんアイゼン・ゲイター・ストックの携帯が不可欠です。
写真の森は暗いカンジですがAM11時前の撮影・針葉樹林は光を通さないため暗くなるのが早いです。
どこの低山も高山も秋は14時迄には登山口に戻らないと、森の中はびっくりするほど暗くなり×気温急降下します。
道迷い・低体温症→遭難も増える秋です、山の紅葉は時間×装備シッカリで楽しめたらイイですね?

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森の揺籃

2020-11-29 08:50:18 | 写真:山岳点景
山ふところ、木洩陽あやす森のゆりかご 
山岳点景:杉の幼木2017.11


杉は切株や倒木に実生の幼木が育ちます、カワイイです。
こんなワンシーンに出会うと世界ってキレイだなーと、笑
【撮影地:栃木県日光白根山2017.11.3】

11月初旬、山は雪の世界×登山靴はもちろんアイゼン・ゲイター・ストックが不可欠です。
写真の森は暗いカンジですがAM11時前の撮影・針葉樹林は光を通さないため暗くなるのが早いです。
どこの低山も高山も秋は14時迄には登山口に戻らないと、森の中はびっくりするほど暗くなり×気温急降下します。
道迷い・低体温症→遭難も増える秋です、山の紅葉は時間×装備シッカリで楽しめたらイイですね?

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富嶽光陰、冬山REAL三景

2020-11-28 23:59:36 | 写真:山岳点景
雪面の光吼える、白魔の時間
山岳点景:冬富士2015.1


夜の富士、銀色稜線に光る湖面
山岳点景:冬富士2015.12


夕染め緋色、アーベンロート刻む時間
山岳点景:冬富士2015.12


富士山もずっと行ってないなーと懐かしくなって今時期の3ショット、おうち登山ってカンジで、笑
こんなワンシーンに出会うと世界ってキレイだなーと、笑
【撮影地:山梨県2016.12】

低山でも高山でも・秋は日没が早いので14時迄には登山口に戻らないと、森の中はびっくりするほど暗くなり×気温急降下します。
道迷い・低体温症→遭難も増える秋です、山の紅葉は時間×装備シッカリで楽しめたらイイですね?

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紅葉簪、紅葉点景

2020-11-28 23:18:15 | 写真:山岳点景
透ける朱から緋色、夕陽きらめく紅葉簪 
山岳点景:紅葉2016.12


こんなワンシーンに出会うと世界ってキレイだなーと、笑
【撮影地:神奈川県2016.12】

どこの低山でも・秋は日没も早いので14時迄には登山口に戻らないと、森の中はびっくりするほど暗くなり×気温急降下します。
道迷い・低体温症→遭難も増える秋です、山の紅葉は時間×装備シッカリで楽しめたらイイですね?

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氷紅葉、冬富士の足もと

2020-11-28 23:01:11 | 写真:山岳点景
凍てつく紅葉、霜の朝
山岳点景:富士山麓2013.12


富士山もずっと行ってないなーと懐かしくなって今時期×足もとショット、おうち登山ってカンジで、笑
こんなワンシーンに出会うと世界ってキレイだなーと、笑
【撮影地:山梨県2013.12】

低山でも高山でも・秋は日没が早いので14時迄には登山口に戻らないと、森の中はびっくりするほど暗くなり×気温急降下します。
道迷い・低体温症→遭難も増える秋です、山の紅葉は時間×装備シッカリで楽しめたらイイですね?

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第86話 建巳 act.22 another,side story「陽はまた昇る」

2020-11-27 21:40:00 | 陽はまた昇るanother,side story
Of moral evil and of good, 
kenshi―周太24歳4月


第86話 建巳 act.22 another,side story「陽はまた昇る」

言われて、あらためて気づかされる。
決断と、これから先と、ひとりじゃないこと。

「後期の合格発表の日に小嶌さん、頬を腫らして来たろ?あれから青木先生、責任を感じてるみたいでさ。先生らしいだろ?」

チタンフレームの眼鏡ごし、闊達な瞳が困ったよう笑ってくれる。
温かな香くゆらす店の席、その言葉も温かで周太は微笑んだ。

「すごく先生らしいね…田嶋先生と青木先生のお話のこと、賢弥は聴いてるんだよね?」
「ちょーど居合わせたんだよ、小嶌さんの合格祝いで飲んだろ?あの時だよ、」

話すテーブル肘ついて、顎さき左の手で撫でる。
記憶たぐるような眼すこし笑って、友だちは口ひらいた。

「周太が電話で席を外したろ?あのとき小嶌さんもちょっと外してさ、その隙に先生たち話し合ったんだよ。明るく学ばせたいよってさ?」

話してくれる事実に、深く静かに温まる。
こんなふうに援けられて救われて、そんな今に息そっと吐いた。

「ん…ほんとうに、明るく勉強してってほしいね、」
「だよな、」

闊達な瞳からり笑って、水のコップそっと指弾く。
かすかな、けれど澄んだ音に友だちは笑った。

「俺はさ、小嶌さんなら大丈夫だと思うんだよな。さっきのメールもワクワク感あふれてたしさ、」

彼女なら大丈夫、そう告げて笑ってくれる。
こんなふう言ってもらえる人だからだ?ふれる想い微笑んだ。

「そうだね、いつも明るく見てる美代さんだからね?」

あの瞳は、いつもそうだ。
実直で明るい明るい眼、まっすぐ見つめて誤魔化さない。
だから進学も諦めなかった、そうして叶えたひとに友だちが笑った。

「ほんとそれ。いい意味で楽天的でさ、明るく後先ちゃんと考えててカッコいいんだよなあ。女の子には珍しいタイプかも?」

バリトン朗らかに笑ってくれる。
その言葉ひとつ一つ肯けて、けれどラストに尋ねた。

「そうなんだけど…あの、めずらしいタイプなの?」

めずらしい、と言われても自分には比較対象が無い。
解らなくて尋ねたテーブル、胡麻油の香ごし言われた。

「女のヒトって群れたがるトコあるだろ?浮かないように同調大事ってカンジでさ、自分の意見は持たないで流行に乗るようなさ?」

芳ばしい甘い辛い香に、明朗な声くゆらせる。
言われる言葉ただ瞬いて、不慣れなまま友だちが笑った。

「なんか周太、びっくりしてる?」
「うん…あの、」

素直に肯いて、あらためて自分に困ってしまう。
自分こそ考えたこと無かったな?そのまま口ひらいた。

「あのね、僕、あまり友だちいなかったから…女のひとが普通どうとか知らなくて、」

ずっと孤独だった、少し前までは。
ずっと警察官になることだけ考えて、そのためだけに生きてしまった。
けれど変わったのは、あのひとに逢えたから。

―英二がいたから僕は知ったんだ、誰かを知ること嬉しいって…大切にしたいって想えたんだ、

知りたいなんて思っていなかった、少し前の自分は。
けれど今もう知って、そうして囲むテーブルに親しい瞳が笑ってくれた。

「俺もそんな知ってるわけじゃないよ、ってかさ?ひとりの人間が知ってることなんて、この世界と時間の何パーセントなんだろな?」

明朗な声に鼓動そっと敲かれる。
ほら、同じだ?

「そうだね、知らないから楽しくて、だから学問があるのだものね?」

知らない、だから楽しい。
それは人に対しても同じだ、そうして今こんな自分でいる。
あらためて笑いかけたテーブル越し、友だちの笑顔ほころんだ。

「ほんとそれだよな、あ?かなり腹へってきた俺、」
「ん、僕も、」

一緒に肯いて笑って、スーツの底に空腹が温かい。
もうじき来るかな?見やった先、お盆かかえた主人が笑ってくれた。

「ほい、おまちどうさん。いっぱい食べてくれよ、」

あたたかな湯気、芳ばしい香あふれて愉しい。
この温もりも最初は、あなただった。

『外泊日、飯おごるよ?』

そんなふう誘ってくれて、ここに座った。
あれから一年半が過ぎて、あなたがいないテーブルは変わらず香る。

「唐揚げは新しいソースかけてみたんだよ、試食お願いできるかい?」
「やった、うまそうですね、」

芳ばしい湯気やわらかに声ふたつ、空気ほっと温かい。
けれど今は聞こえない声どうして、僕の耳はたどるのだろう?

『こっちもうまいよ、周太?』

低い、きれいな声。
明るくて楽しげで、けれど一昨日は違っていた。
奥多摩の雪の森、座りこんだ深紅の登山ジャケット、あなたの声どうして?

―どうして英二…僕は、

どうして?なぜ?
そんな言葉ゆるやかに締め上げる、どうしていいか解らない。
おととい雪の森で聴いた声、見つめた瞳、あなたは何を願うのだろう?

「おっ、うまい。周太も食ってみなよ、」

湯気あたたかなテーブル、友だちが笑って皿よせてくれる。
あの時間と同じ絵柄の皿、同じ空気、けれど違う相手に微笑んだ。

「ありがとう、いただくね?」
「俺はすごい好き、ネギとショウガが効いてていいよ、」

明るい瞳が眼鏡ごし笑う、闊達なトーン清々しい。
裏表どこにもない笑顔、ただ温かで、目の前の皿に箸はこんだ。

「ん、おいしい、」
「だよな?オヤジさーん、すごい旨いです!」

明朗なバリトン笑って、カウンターの奥でも笑顔ほころぶ。
胡麻油くゆらす豊かな食卓、そのままに訊かれた。

「なあ周太?小嶌さんと何かあった?」
「え?」

訊かれて上げた視線、友だちの眼が見つめ返す。
明朗まっすぐで、逸らせないまま言われた。

「引っ越しの手伝いに周太が行かないって意外でさ?丹沢のフィールドワークでも同じ部屋だったのに、なんでだろう思ったんだよ、」

丹沢の山小屋、美代と二人部屋だった。
あの時と変わってゆく今に声そっと押しだした。

「…ちゃんと考えたんだ、僕も、美代さんも、」

あの日、長野の現場に向かう改札口。
あのとき彼女は気づいて、そして僕も自覚した。
大切なことは変わらない、それでも窯変してゆく想い微笑んだ。

「前の僕はね、明日なんて無いって思ってたんだ。でも今は明日も未来のことも考えてて…きちんと美代さんのことも考えたいい、」

明日なんて無かった、警察官の自分には。
そんな自分が本当に、あなたのことを考えていたろうか?

「ずるかったんだ、僕。そのぶんも、これからは大切に考えたいんだ、」

声にして肚底そっと落ちてゆく。
こんな自分でも大切にできるなら?想いに丼ひとつ、店主が微笑んだ。

「五目そば、おまちどうさん。大盛のサービスだよ?」

醤油あまやかな胡麻油、温かにくゆらせる。
この香あのときも温かだった、見つめるまま微笑んだ。

「ありがとうございます、いつもすみません、」
「いいんだよ、俺が好きでやってるんだからねえ、」

破顔ほがらかに言ってくれる、その眼ざし素朴に温かい。
この人に「真実」を告げられたら?願うテーブル、店主が言った。

「あの兄さんとは最近一緒じゃないんだねえ、ついさっき来てくれたんだよ?」

ほら、心臓がつかまれる。

(to be continued)

第86話 建巳act.21← →第86話 建巳act.23
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枯山水の朝

2020-11-27 19:04:24 | 写真:建築点景
朝ふりつもる、枯山水やわらかな時間 
建築点景:秩父神社2013.12


日本庭園はシンとした空気が好きです、苔×石の枯山水も楽しいなあと。
こんなワンシーンに出会うと世界ってキレイだなーと、笑
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