萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

週末雑談:でも忙しく充実に、

2017-07-29 22:45:06 | 雑談
朝早くから帰ってきて、帰ってきてもいろいろやって、
そんなこんなでPCやっとノンビリなのに、
デスクで舟漕いじゃってたお疲れ睡魔、笑

ってわけでトリアエズ悪戯坊主、笑
何気ない日常 10ブログトーナメント

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第85話 暮春 act.30-side story「陽はまた昇る」

2017-07-28 23:30:22 | 陽はまた昇るside story
How shall my mind’s white truth by them be try’d?
英二24歳3月下旬


第85話 暮春 act.30-side story「陽はまた昇る」

ファントムを選ばない歌姫、その結末は?

“Le Fantome de l'Opera”

あの小説あの言葉、自分を今に惹きこんだページ。
オペラ座に棲む男は“Fantome”と畏れられ、けれど歌姫は天使と呼んだ。
そうしてファントムは彼女に恋をして、でも美しい貴族の青年を選んだ歌姫。

不可思議な恋物語つづる小説、それは君との記憶で、それなのになぜ?

「なんで周太…あの女が『オペラ座の怪人』の話するんだ?」

問いかける声が白い、雪の梢にとける。
三月に鎖される白銀の森、黒目がちの瞳が笑った。

「今、フランス語の勉強に読んでるんだって…あのね英二、この春から美代さんね、大学に入るんだよ?」

無邪気に笑う、君の瞳。
冷気はずむ紅潮の頬、白銀の零度にきれいだ。
薔薇色やわらかに君が息づく、その唇がきれいで苦しい。

「合格発表、ニュースに映ってたよ…周太?」

呼びかけて笑いかけて、だけど今きっと変だ。
いつもみたいに笑えない、そんな自覚に薔薇色が火照る。

「…えいじみたんだ、ね…はずかしいでしょぼく、」

困ったな?

そんなふう黒目がちの瞳が笑う。
はにかんだ眼どこも変わらない、でも、前より幸せに見えてしまう。
そうして鼓動ゆっくり咬まれる、こんな感情なんて言うのだろう?

「いや、周太はかわいかったよ、」

素直な感想が唇を笑う、けれど心が硬くなる。
だって刺された、あの女に。

『美代さんが怒ったのはね、ファントムを選ばない歌姫なんだ、』

どうして、なんであの小説に譬えるんだ?
あれは特別、自分には、そうして君にも特別な一冊。
あのベンチなぞるページは幸福と危険と、君とだけの世界だった。

それなのに何故あの女が?

「…かわいいとかそういうのいまはいいから、」

君の声すこし拗ねる、すこし怒ったみたいな黒目がちの瞳。
こんな貌ずっと好きだった、逢いたかった、でも心臓が凍る。

「かわいいよ、周太は今も、」

微笑んで痛い、だって予兆が絞める。
あの小説をあの女が譬えた、それが。

“Le Fantome de l'Opera”

あの女がなぜ、あの小説になぞらえる?
過熱してゆく疑問もだえて、唇こぼれた。

「…あの女に話したのか周太?ページがない『オペラ座の怪人』のこと、」

もし君が肯いたら?

―周太のいちばん深い秘密だ、それも話しているならもう、

鼓動が攣る、心臓じくり灼かれてゆく。
疼く予想に穿たれてゆく、もし肯かれたら自分はどうなるだろう?

耐えられるだろうか、それとも同じだろうか?あの夜と。

―だめだ、あの夜と同じになったら今の俺は、

あの夜あのとき、自分の手が犯した罪。
あれから一年も経っていない、ほら、掌の記憶ぶり返す。
ゆすぶられる記憶の夜の果て、黒目がちの瞳が微笑んだ。

「あの本は美代さん何も知らないよ…知らなくていいんだ、一生ずっと、」

雪ふる森、銀色やわらかな大気に声が白い。
白い靄しずかに君をかすめて、呼吸そっと笑った。

「そっか、」
「ん…英二こそ光一には話したでしょ?」

問いかけてくれる眼ざし穏やかに優しい。
もう決めている、そんな想い瞳の底から明るい。
こんなふうに君こそ強い、本当はずっと、最初から。

「やっぱり周太、俺の本性よく見てるよな、」

笑いかけて痛い、誤魔化せなくて。
もうすこし君が愚かだったらいい、そうしたら幸せだった?

「英二…教えて、ほんとうのこと全部、」

白銀の零度やわらかな声、この静かな穏やかさが好きだ。
最初からずっと好きだった、今も見つめられて鼓動が震える。
けれど終わるかもしれない果て、もう決まってしまった瞳に見つめられ答えた。

「相談するのに少しな、でも全部じゃない、」

あのアンザイレンパートナーを巻きこんでしまった、権限が欲しくて。
それがなくては探れなかった現実に君が訊く。

「…光一の閲覧権限を使うためだね、警察のデータファイルは盗めたの?」

ほら?たどりつくんだ、君は。
だから言いたくなかった、でも沈黙は今もう許されない。

『英二はひとりぎめ独善的で自分勝手、自惚れるぶんだけ大事なこと教えてくれない、僕なんかじゃ信頼もくれないね?』

たった今、君が言ったこと。
あの想い疎かにできない、嫌われることが怖い。
こんなになってしまっても怖くて、ただ冷たい息そっと笑った。

「周太もデータファイル見たんだな、伊達さんはSATの実権も情報もあるだろ?」

あの男なら多分、なんでもできる。
そんな男も味方につけてしまった、それが君だ。
そんな君を自分がいちばん解っていなかった?見つめる雪の底、黒目がちの瞳ゆっくり微笑んだ。

「有能で真直ぐなひとだよ…英二にも操れないひと、でしょ?」

会ったことあるでしょう?

そんな視線が自分に微笑む。
また君はこうしてたどりつく、防げない。

「怖い男だよな、あいつ、」

笑いかけて君が見つめる、黒目がちの瞳が自分を映す。
どんなふう君に映るのだろう?この自分は、あの男は。

『鷲田克憲の後継者に男の愛人はじゃまだろ?』

図星ただ突き刺して声、低く響く。
耳朶まだ残る声、弱点まっすぐ突いてくる。

『おまえが岩田を説得するのは難しい、だから湯原は撃たれた、』

耳底ふかく敲く疼き、もう消えないかもしれない。
それだけ悔しかった、今も痛覚に撃たれ穿たれて、それでも笑った。

「あいつのことは今いいよ、それより周太?あのお、小島さんがなんで歌姫に怒るのか教えてよ?」

あの男は怖い、でも君の全て奪うわけじゃない。
でも、あの女は奪える。

『美代さんが怒ったのはね、ファントムを選ばない歌姫なんだ、』

そんなふうに言う女、だから揺すられる。
そんなこを言った意味、心、ほんとうは今もう気づいてる解っている。
そんな女だと知っていて知らなかった、その傲慢に穏やかな瞳が微笑んだ。

「ファントムは一生懸命に生きるひとだって、美代さんは言うんだ、」

雪ふる黒髪、クセっ毛やわらかに白銀が舞う。
穏やかな声しずかな森、大樹を見あげ訊いた。

「あの怪人はようするにストーカーだろ、それが一生懸命なのか?」
「ん、それもそうだけど、それだけじゃない…」

穏やかな声すこし笑う、見なくても解る。
もたれる古木あおぐ銀色視界、声が微笑んだ。

「ファントムは醜いから売られた子どもだったでしょう?でも勉強して成功して、才能のために酷いめにも遭って…それでも生きたひとだよ、」

醜悪に生まれて才能に生きた男。
そのとおりだろう、そして似ている。

“きれいな人形”

ほら、嫌な言葉が起こされる、似ているせいだ。
だからこそ大切になった一冊、あのベンチ、その声が続ける。

「でも歌姫の初恋のひとはハンサムでしょう?貴族に生まれて、みんなに愛されて良い人で苦労なんかしらない…ファントムと真逆なラウル子爵、」

その男も自分と似ている、すこしだけ。
けれど唯ひとつ違う、その一点ひび割れて深すぎる溝。

もし“みんなに愛されて”いたら“人形”じゃなかったろうか?

「…幸せなヤツだよな、そいつはさ、」

想い唇こぼれる、溝深くから。
だから自覚して同調して、自分は選んだ。

“Le Fantome de l'Opera”

あの小説なぞらえる存在、隠される「 Fantome 」いびつな存在。
この自分が生まれた国で潜む連鎖、その真中で君が見つめた。

「英二…英二は、歌姫はどちらと似てると思う?」

どちらと似ている?

考えたことがない、そんなこと。
問いかける銀色の樹影、穏やかな声が言った。

「歌姫は家が没落して、それでもがんばってプリマドンナを目指したんだ…苦労から夢を叶える逞しいひとだよ、」

やわらかな冷気に黒髪ゆれる、真白ふわりクセっ毛ふれる。
まだ雪は止まない。

「ね、英二…ふたりは一生懸命に生きるひとなんだ、ひとりはご飯の心配したこともないのに、」

こまやかな白銀やさしい、その言葉が自分を見つめる。
なぜこんな話するのだろう?解らないまま問われた。

「歌姫はご飯が食べられなくても舞台を選んだひとだよ、そういう歌姫に、ほんとうに寄り添えるのはどっちだと思う?」

(to be continued)
【引用詩文:John Donne「HOLY SONNETS:DIVINE MEDITATIONS」】


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花木点景:花へ

2017-07-28 20:42:32 | 写真:花木点景
来たるらし、短き夏


第37回 ☆花って綺麗ですよね♪☆ブログトーナメント
撮影地:野薊ノアザミと丸花蜂マルハナバチ、山の草原@山梨県

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山岳点景:夏、無名絶景

2017-07-27 20:05:00 | 写真:山岳点景
汗の直射日光を登って、


青抜ける空と嶺、


拓ける青空、足もとの花は黄金、


遠望、蒼天はるかな稜線。


撮影地:飯盛山とアルプス遠望@長野県南佐久郡南牧村7月中旬

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山岳点景:標高千七百、文月にて

2017-07-25 00:17:35 | 写真:山岳点景
標高1,700メートル、7月の高原は花のとき。


風ゆれる蜻蛉、赤紫やさしい野薊。
黄金ほがらかなのは金梅草キンバイソウ、


白い花×水色揚羽蝶、
四葉鵯ヨツバヒヨドリに浅葱斑アサギマダラ、夏山の花と蝶です。


森は植生さまざま、水楢やブナに白樺に、


足もと、白い小花は一薬草イチヤクソウ。


繁れる森、大樹も鎮まります。


草原は青空ひろやかな花畑、


豹紋斑ヒョウモンマダラ、夏草に映えるオレンジ色。


風露草フウロソウが咲くと山の夏。


なんでもいいよ4ブログトーナメント
撮影地:森と草原@山梨県某所

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第85話 暮春 act.29-side story「陽はまた昇る」

2017-07-23 10:02:36 | 陽はまた昇るside story
for, long, yet vehement grief hath been
英二24歳3月下旬


第85話 暮春 act.29-side story「陽はまた昇る」

幻じゃない、今、抱きしめられている。
誰に?

「えいじ…」

かくん、

声に膝くずされ崩おれる、真白な空が樹肌になる。
視界かたむいて雪、どさり、大樹のもと腰落ちた。

「やっぱりここにいた、英二っ…、」

呼んでくれる声がなつかしい、でも本当だろうか?
わからないまま見つめる視界、懐かしい声が呼んだ。

「英二、」

呼ばれる白銀の森、黒髪ゆるい波が目に映る。
やわらかな黒髪こぼれる香あまくて、おだやかに爽やかで懐かしい。
この香よく知っている、ただ懐かしくて、なつかしい黒目がちの瞳に瞬いた。

「…周太?」

幻覚かもしれない、幸せな幻。
けれど瞬いても消えない。

「僕だよ、英二…英二?」

黒目がちの瞳が呼ぶ、自分の名前。
こんなふう呼んでほしかった、ずっと。

「うん…幻でも嬉しいな、」

ここに来られるはずがない君。
この雪深い森を君はたどれない、けれど幻は微笑んだ。

「幻じゃないよ、僕だよ英二?ほんとに僕なんだ、」

白銀が舞う、そのかけら黒髪ふる。
ふれて雪そっと雫になって、黒髪ゆるく光つたう。

「僕だよ英二、ほら?」

登山グローブの手に温もりふれる。
グローブ2つ透かす体温に瞬いた。

「周太…?」

確かな体温、ほんとうに?

「そうだよ英二、僕だよ…、」

白銀のあわい瞳が笑う、黒目がちの瞳たしかに君だ。
けれど信じられない声こぼれた。

「どうして周太…どうやって来たんだ?」

君が来られるわけがない、

「道なんて無いんだここは、どうやって周太が来られるんだよ?積雪これだけあるし、」

ルートファインディングも雪山の技術もない、それでは辿りつけない場所。
けれど眼の前の瞳は微笑んだ。

「雪の足跡たどってきたんだ…雪があるから来られたよ?」

おだやかな声、かすかに息はずむ。
その頬も紅潮やわらかで尋ねた。

「でも登山口までどうやって来た?雪のワインディングロードなんて周太、運転ムリだろ?」

自分でも今日の天候は慎重になる。
そんな雪空に黒目がちの瞳が言った。

「光一と美代さんが送ってくれたんだ…もし3時間して帰らなかったら救助に来てくれるって、光一がね?」

もしそれが事実なら、無茶すぎるだろう?

―こんな雪山に一人で放りこむとか光一、なに考えてんだよ?

降雪時の山は危険が多い、たとえば道迷い。
降雪による視界不良、ルート消滅、さまざまな要因に居場所を見失う遭難事故。
それに雪庇の踏みぬき、雪崩、低山でも高山でもそんなリスク何も変わらない。

それなのに、なんてことするんだあのアンザイレンパートナーは?

「それ、ほんとなら俺ちょっと光一に怒りたいけど?」

本音つい零れる、あの男がこんなことするなんて?
はかりかねる意図に唇を噛んで言われた。

「そうじゃないよ英二、僕と美代さんが光一に無理を言ったんだ…光一は危ないって怒ったよ?」

あのザイルパートナーなら怒る、そうだろう。
でも、なぜ?

「なぜあのお…小嶌さんが?」

あの女がなぜ、君をここへ?

「小嶌さんは周太を好きなんだろ、なのになんで俺のとこに行かせるんだよ?光一が止めるくらい危ないのに、」

彼女が君をここへ、自分のもとへ君を?

「祖母に言われたんだ俺、小島さんは自分の感情も超えて周太を愛してるって。それに周太がほしいもの与えられるのは小嶌さんだろ…俺じゃない、」

海、祖母に言われた現実。

『男性として学者としての自信をプレゼントできるわ、親になる喜びも。女性で同じ道を歩くひとだからできることね、』

あの言葉に反論なんて何もない、ずっと解っていたから。
誰でもない自分がいちばん考えていた、知っている、だから、

「俺は学者じゃないし周太と子ども作れないだろ、もう俺は何もあげられない、もう無理だろ?」

無理だ、それが現実だ。

―痛いな、俺…わかってたことだけど、さ、

ずっと解っていた、こんなこと。
だってもう違ってゆく、その道に口開いた。

「それに俺も、これからは…」

言いかけて詰まる、怖くて。
自分の現実を言ったら君はなんて想うだろう?

―言えば嫌われるかもしれない、そのほうが諦めつくけど、

嫌われて疎まれて、そうして離れるならそれでいい。
そんなこと解っているのに凍える唇、そっと微笑んだ。

「どっちにしてもさ周太、ほんとは小嶌さん無理してるよ?好きな人を他の相手に送りだすの楽しいわけない、帰ってあげな?」

帰る、君は。

帰る場所あるのは君、自分は違う。
だから座りこむ白銀の森、ブナの大樹に笑った。

「俺はもうすこし耐寒訓練してくからさ、周太は先に帰れよ?」

先に帰ってほしい、どうかこのまま。
想い見つめる白銀の底、黒目がちの瞳が言った。

「英二、美代さんが僕をここに来させたんだよ…どういうことか解るよね?」

そんなことあるだろうか?

考えひとつ首をふる、信じられない。
ほんとうは信じたくないだけだ、負けを認めるみたいで。
もし本当だとしたら悔しいだろうか?途惑うような想い、懐かしい声そっと笑った。

「あのね…僕、美代さんに怒られたよ?」

あの女が怒った?

―なんで怒るんだ、あの女が?

いつも笑っている、そんな印象しかない女。
それが怒ることも意外で、それを今なぜ君は言うのだろう?
これから何を聴かされる?解らないまま穏やかな声が言った。

「英二は憶えてる?オペラ座の怪人…Le Fantome de l'Opera のこと、」

“Le Fantome de l'Opera”

邦題『オペラ座の怪人』フランス語に綴られる物語。
この題名どうして忘れられるだろう?

「憶えてるよ周太、あのベンチで読んでくれたよな、」

笑いかけて唇に雪ふれる。
やわらかな零度いまは優しい、だって熱い。

「ん…憶えててくれたんだね、英二も、」

黒目がちの瞳が微笑む、その吐息かすかな白い熱。
白銀の古木に向きあう温もり、これは現実だろうか?

「忘れるわけないだろ、」

笑い返して鼓動、ことん、かすかに速い。
この瞳に見つめられている、それだけで。

―周太だ、周太が眼の前で俺を見てる、

逢いたかった、どうしても。
けれど逢えなかった、どうしようもなく怖くて。
こんなふう恐怖させるなんて他にいない、その鼓動にすら考える。

なぜだ、あの女がなぜ君を?

『美代さんが僕をここに来させたんだよ…僕、美代さんに怒られたよ?』

どうして君を来させたのだろう?
なぜあの女が君を怒ったろうか?

―あの女どういうつもりだ、祖母まで誑しこんで…別れを言いに来させたのか周太を?

なぜだ、あの女はなぜ君を俺に逢わせる?
思惑めぐる疑問に懐かしい物語が響く。

「オペラ座の怪人…歌姫と初恋の人がふたたび恋するお話だったよね、でも歌姫にはふしぎな存在がいるんだ、」

おだやかな声が香る、あまい爽やかな知っている香。
この香に眠った時間ふわり蘇る、その記憶なぞる声。

「歌姫に歌を教えてくれるけど、姿を見せない声…歌姫は天使って呼ぶけれど、ほんとうは醜い顔を仮面で隠した天才の男、」

あのベンチでも語ってくれた、こんなふうに。
あのとき想った鼓動まだ燻る、疼いて声こぼれた。

「俺みたいだな、」

かつて君も呼んでくれた、そんなふうに。
そして素顔も自覚がある。

「周太も俺のこと天使だって前は言ってくれたけどさ、もう本性バレてるし?」

疼き声になる、こぼれて言葉くゆる白い熱。
そうして凍える靄に純粋な瞳うなずいた。

「そうだね英二…英二はファントムみたいって、僕も想う、」

ファントムみたい、って。

“Fantome”

その意味は「怪人」だけじゃない。
その言葉ふくんだ現実を君が言う。

「現れたり消えたり、いつのまにか僕をたすけて…幻みたいな幸せもくれて、ふしぎで、怖くて…いくつも仮面があるみたいに不思議なひと、」

おだやかな声しずかに微笑む、その言葉が優しい。
やさしいから疼いて笑った。

「それにファントムは人殺しも厭わない、自惚れが強いまま怖いもの知らずだ、」

言った言葉まっすぐ自分に返る、だって自分だ。
そして呼びかけられた言葉、君の50年の連鎖に。

“Fantome”

この単語どんなふう使われてきたのか?
この言葉なにを目的にどこで使われるのか、何を指すのか、君は知ったろうか?
そんな全てごと自分自身だと想える、きっと君も想っている、そんな自覚に言われた。

「そうだね…英二はひとりぎめ独善的で自分勝手、自惚れるぶんだけ大事なこと教えてくれない、僕なんかじゃ信頼もくれないね?」

そうだ、こう言われて仕方ない。
言われるだけの自分に笑った。

「小嶌さんに怒られたって周太、こんな自惚れやとつきあうなって怒られた?」

怒られて当然だろう、あの女は「まっとう」だから。

―だから祖母も周太と結婚させたいんだよな、俺とは違う、

まっとうじゃない自分、そう自覚している。
だから解ってもいる現実に笑った。

「俺と周太は釣り合わないって俺にも解ってるよ、自分勝手で自惚れやの俺だろ?努力家で謙虚な周太とうまくいかないよな、」

別れを切りだされる、そんな予兆が怖い。

「祖母も俺を周太から遠ざけたがってる、周太の携帯も俺だけ着拒されてるよな?誰にも望まれないなんてさ、よほど釣り合わないんだろ、」

唇が自嘲つむぐ、予兆が怖くて。
それでも願いたかった本音に君が微笑んだ。

「あのね…美代さんが怒ったのはね、ファントムを選ばない歌姫なんだ、」

(to be continued)
【引用詩文:John Donne「HOLY SONNETS:DIVINE MEDITATIONS」】


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山岳点景:水色夏蝶―浅葱斑の森

2017-07-23 00:10:36 | 写真:山岳点景

浅葱斑アサギマダラ、この水色が舞う夏の森で。


撮影地:森と草原@山梨県某所

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山岳点景:夏花山景

2017-07-21 21:46:09 | 写真:山岳点景
青空に咲く夏、黄金と紅小花。


季節の彩り 69ブログトーナメント
撮影地:ニッコウキスゲとシモツケ、飯盛山@長野県南佐久郡南牧村

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山岳点景:緑、飛沫く―八岳の滝

2017-07-20 23:45:05 | 写真:山岳点景

偶然、見つけた滝。


落差10メートル、巨岩を滑る水の音。


滝への道、緑やわらかな梢の白花。
きれいでした、なんの花かちょっと解らないけど、笑


あちこち散策44ブログトーナメント
撮影地:八岳の滝@長野県南佐久郡小海町

道路→滝への道は短距離かつ起伏ほとんどないですが、
○沢から水があふれている
○虻など虫が多い(歩いていてもパンツに集るレベル)
○倒木など多いが整備されていない
○落石多発だろなって斜面至近→長時間滞在は勧められません。
などなど・諸事情から軽登山のカッコしていくと安心だと思います。

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山岳点景:無名絶景―飯盛山展望台

2017-07-19 21:28:37 | 写真:山岳点景
名もなき青峰、


山岳点景:無名絶景―飯盛山展望台

飯盛山から北へ、なだらかな稜線は牧場の鉄条網×ニッコウキスゲ、


ふりかえると飯盛山がまさにオニギリ山、
抹茶塩でもまぶしたカンジ、笑


なだらかな草原パノラマ、晴天さわやかです。
が・悪天候時は暴風雨ふきっさらし→低体温症どころか凍死の危険も。


青紫あざやかな野花菖蒲ノハナショウブ、散りかけも惹きます。


ゆるやかな稜線はるか、聳えるアルプスは残雪の季。


風景や街並み51ブログトーナメント
撮影地:飯盛山展望台@長野県南佐久郡南牧村

なだらかな地形に見えますが、この稜線に出るまで急登×ガレ場×樹林帯の泥地など息切れポイントも。
こうした高度ある360度パノラマ草原は悪天候時、風雨・雷撃ポイント+霧に巻かれるやすく危険です。
慎重な観天望気+登山靴×登山装備で安全に楽しんでくださいね。
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